判例全文 line
line
【事件名】NTTコムへの発信者情報開示請求事件N
【年月日】令和5年5月12日
 東京地裁 令和3年(ワ)第27394号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和5年2月14日)

判決
原告 株式会社WILL
同訴訟代理人弁護士 戸田泉
同 角地山宗行
被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 松田真


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対し、氏名不詳者ら(以下「本件各氏名不詳者」という。)が、P2P方式のファイル共有プロトコルであるBitTorrentを利用したネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載1及び2の各動画(以下「原告各動画」という。)を複製して作成したファイル(以下「本件各動画ファイル」という。)を、不特定多数の利用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態とすることにより、原告各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであり、本件各氏名不詳者に対して損害賠償請求をするために、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、映画及びビデオの映像制作、編集業務、販売等を目的とし、「S1」や「MOODYZ」等の名称でアダルトDVD等の制作を行っている株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、電気通信事業等を目的とし、アクセスプロバイダとして、一般利用者に向けて広くインターネット接続サービスを提供している株式会社である。
(2)原告各動画の著作権の帰属
 原告は、原告各動画に係る著作権を有する(甲1、13ないし16)。
(3)ビットトレントネットワークによるファイル共有の仕組み(甲3、6、弁論の全趣旨)
ア ビットトレントネットワークとは、いわゆるP2P方式でファイルを共有するネットワークである。
イ ビットトレントネットワークを介して特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、「トラッカーサイト」と呼ばれるウェブサイト等に自己の端末を接続し、上記の特定のファイルの所在等の情報が記載されたトレントファイルをダウンロードする。そして、ユーザーは、ビットト5レントネットワークを利用するためのソフトウェアであるトレントクライアントに、上記のトレントファイルを読み込ませて、上記の特定のファイルの提供者を管理する「トラッカー」と呼ばれるサーバーに自己の端末を接続し、トラッカーから、上記の特定のファイルの提供者のIPアドレスの記載されたリストを受信する。ユーザーの端末は、このリストに記載されたIPアドレスで特定される、上記の特定のファイルが保存された1台又は複数台の端末に接続し、それぞれから上記の特定のファイルの細分化されたデータをダウンロードし、自己の端末において上記の特定のファイルを完成させる(以下、ビットトレントネットワークに参加している端末を「ピア」という。)。
ウ ビットトレントネットワークを介して特定のファイルをダウンロードしたピアは、「シーダー」(ファイルのダウンロードが全て完了したピア)又は「リーチャー」(ファイルのダウンロードが完了する前のピア)と呼ばれるが、シーダーであってもリーチャーであっても、他のピアから要求があれば、当該ピアに対し、上記の特定のファイルの一部を送信することになる。
(4)原告による調査(甲4ないし7、19、弁論の全趣旨)
 原告が調査を委託した株式会社LEAF(以下「本件調査会社」という。)は、ビットトレントネットワークを監視するソフトウェア(以下「本件監視ソフトウェア」という。)を使用して、原告各動画が違法にアップロード又はダウンロードされていないか調査を行った。
 本件調査会社の担当者は、本件監視ソフトウェアにより、まず、ビットトレントネットワーク上に存在する、原告各動画と同一であることが疑われるファイルのハッシュ値(ファイルデータを、ハッシュ関数を使用して計算することにより得られる数値)を自動的に検索してリスト化し、当該ハッシュ値に誤りがないか確認した上、原告各動画と実質的に同一の内容を表示する5本件各動画ファイルのハッシュ値を監視対象とすることを決定した。
 そして、本件監視ソフトウェアが、トラッカーに対し、本件各動画ファイルの提供者のリストを要求し、トラッカーから、同提供者のIPアドレス、ポート番号、タイムスタンプ、ファイル保持率等が記載されたリストが返信され、本件監視ソフトウェアのデータベースに記録された。別紙動画目録1及び2記載の各IPアドレス及び各ポート番号は、上記リストに記載されていたものである。
 その後、本件調査会社の担当者は、本件監視ソフトウェアにより、上記リストに掲載されていたIPアドレスで特定されるピアとの間で通信を行い、当該ピアが現在稼働しているか否かや、当該ピアの本件各動画ファイルに係るピース保有状況を確認した(この確認行為は、「ハンドシェイク」と呼ばれる。)。別紙動画目録1及び2記載の各発信時刻は、このハンドシェイクが行われた時刻である。
(5)本件各発信者情報の保有
 被告は、本件各発信者情報を保有している(弁論の全趣旨)。
3 争点
(1)原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(2)本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか(争点2)
(3)原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(原告の主張)
 ビットトレントネットワークにおいては、ピアが、全てのピアのファイルの取得状況を管理するトラッカーにアクセスし、トラッカーから他のピアの情報を取得すると同時に、自己の情報も他のピアに公開し、他のピアとの間で、ファイルのピースを相互にダウンロード及びアップロードする。
 本件各氏名不詳者は、遅くとも別紙動画目録1及び2記載の各発信時刻までに、このようなビットトレントネットワークに接続して本件各動画ファイルの全部又は一部を自己のピアにダウンロードし、これと同時に、ビットトレントネットワークを介して、ダウンロードした本件各動画ファイルの全部又は一部を、他のピアからの求めに応じて自動的に送信し得る状態にし、もって、原告各動画を送信可能化したものである。
 本件各動画ファイルは、その一部のみであっても、再生し、その内容を了知することができるから、公衆送信権を侵害する行為に該当するし、本件各氏名不詳者は、ビットトレントネットワークの性質上、他のピアのダウンロード及びアップロードと相まって、原告各動画に係る公衆送信権が侵害されることを認識しつつ、ダウンロード及びアップロードを行ったといえるから、共同不法行為が成立する。
 そして、この点に関する違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情はない。
 したがって、本件各氏名不詳者が原告各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことは明らかである。
(被告の主張)
 本件調査会社が本件監視ソフトウェアを使用して行った調査の結果からは、本件各氏名不詳者がビットトレントネットワークを介して本件各動画ファイルをアップロードしたかは明らかでない。
 また、本件各氏名不詳者がビットトレントネットワークを介して本件各動画ファイルをアップロードしていたとしても、本件各動画ファイルが原告各動画に基づいて作成され、原告各動画と同一内容を表示するものかは、明らかでない。
 さらに、本件調査会社の担当者が作成した陳述書(甲6)によれば、同陳述書添付の別紙に記載された「dw_cap」は、本件監視ソフトウェアからのリクエストに基づき、トラッカーからリストを受信した時点におけるファイル保持率を意味するとのことであるが、この「dw_cap」が「100」(%)ではないファイル、すなわち不完全なファイルしか保有していない場合は、これをアップロードすることができる状態にあったとしても、原告各動画を送信可能化したと評価することはできない。
 したがって、本件各氏名不詳者が原告各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるとはいえない。
(2)争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
(原告の主張)
ア 「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」であり、「不特定」か否かの判断は、これを送信するために当該情報を最初に記録又は入力した発信者を基準として判断すべきであり、また、「通信」とは、一般的に、情報を発信しようとした発信者からこれを最終的に受け取った受信者までの情報の流れ全体をいうと解される。
 ビットトレントネットワークにおいては、そのユーザーであれば、誰でも情報を取得することができる状態にあり、ユーザーのピアがトラッカーにアクセスし、トラッカーから他のピアの情報を取得すると同時に、自己の情報も他のピアに公開することとなるから、他のピアとファイルのピースを相互にダウンロード及びアップロードする流れ全体が「特定電気通信」に該当することとなる。
イ 本件調査会社による調査において、本件監視ソフトウェアが、トラッカーに接続し、本件各動画ファイルの提供者のリストを要求したところ、トラッカーから提供者のIPアドレス等が記載されたリストが返信された。当該リストに記載されていたIPアドレス及びポート番号が、別紙動画目録1及び2記載のIPアドレス及びポート番号である。
 そして、本件各氏名不詳者は、被告から別紙動画目録1及び2記載の各IPアドレスの割当てを受け、遅くとも別紙動画目録1及び2記載の各発信時刻までに、ビットトレントネットワークを介した「特定電気通信による情報の流通」(プロバイダ責任制限法5条1項柱書)によって、原告各動画に係る原告の公衆送信権を侵害したものであるから、本件各発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」(同項柱書)に該当するということになる。
ウ 本件監視ソフトウェアを使用した調査においては、トラッカーからIPアドレス等が記載されたリストが返信された後、その返信とほぼ同時に、本件監視ソフトウェアは、当該リストに載っていた各ピアに接続して、各ピアが応答すること等を確認するハンドシェイクを行っているところ、別紙動画目録1及び2記載の各発信時刻は、このハンドシェイクが行われた時刻を指し、同時刻において本件各動画ファイルの送受信は行われていない。
 しかし、ハンドシェイクが行われたということは、本件各氏名不詳者が、ビットトレントネットワークを介し、本件監視ソフトウェアの要求に応じて自動的に本件各動画ファイルをアップロードすることができる状態にしていたことを示すものであり、このハンドシェイクによって原告各動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたと評価できるものである。仮にそうでないとしても、本件各氏名不詳者は、遅くとも別紙動画目録1及び2記載の各発信時刻までに、ビットトレントネットワークを介して、原告各動画を送信可能化していたものである。
 したがって、いずれにしても、原告各動画に係る原告の公衆送信権が侵害されているから、別紙動画目録1及び2記載の各発信時刻において、本件各氏名不詳者が、他のユーザーとの間で、直接、本件各動画ファイルのダウンロード又はアップロードを行っていなかったとしても、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された」ことを否定する理由とはならず、本件各発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。
(被告の主張)
 プロバイダ責任制限法5条1項柱書は、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された」と規定するところ、仮に、原告が主張するとおり、別紙動画目録1及び2記載の各発信時刻までに、本件各動画ファイルがアップロード可能な状態にあったとしても、これをもって「情報の流通」と評価することはできず、「特定電気通信による情報の流通」によって原告各動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたということはできない。
 したがって、本件各発信者情報は、上記の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない。
(3)争点3(原告が本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
(原告の主張)
 原告は、本件各氏名不詳者に対し、損害賠償を請求する予定であるが、そのためには、本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。
 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 不知ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)前記前提事実(2)ないし(4)によれば、ビットトレントネットワーク上に存在する本件各動画ファイルは、原告が著作権を有する原告各動画と実質的に同一の内容を表示するものであること、ビットトレントネットワークにおいては、トラッカーが特定のファイルの提供者を管理しており、ビットトレントネットワークを介して当該特定のファイルをダウンロードしたピアは、他のピアから要求があれば、当該特定のファイルを送信することになることが認められる。また、証拠(甲6)によれば、別紙動画目録1記載1の番号1、536、67、157、166、205、334、472、477、490、638及び717の各IPアドレス、同目録1記載2の各IPアドレス並びに同目録2記載の番号1及び7の各IPアドレスを割り当てられたピア(ただし、これらのピアがどの時点で被告からこれらのIPアドレスを割り当てられたのかは、証拠上明らかでない。)が、ビットトレントネットワークを介して、本件各動画ファイルの全部又は一部をダウンロードしたことが認められる。
 そうすると、上記各IPアドレスを割り当てられたピアによって、原告各動画に基づき作成された本件各動画ファイルの全部又は一部がダウンロードされたことで、著作権法2条1項9号の5イ所定の「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置…の公衆送信用記録媒体に情報を記録…すること」により原告各動画を「自動公衆送信し得るようにすること」、すなわち「送信可能化」の状態に至ったものと認められる。
 そして、違法性阻却事由が存在することをうかがわせる事情は見当たらないことからすると、上記各IPアドレスを割り当てられたピアのユーザーによって、原告各動画が「送信可能化」され、原告各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると認めるのが相当である。
(2)これに対して、被告は、ファイル保持率を示す「dw_cap」が「100」(%)でない者は、不完全なファイルしか保有していないから、これをアップロードすることができる状態にあったとしても、原告各動画を「送信可能化」したと評価することはできないと主張する。
 しかし、証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば、本件各動画ファイルについて、ファイル保持率が「100」(%)に満たないものであっても、一部でもダウンロードがされていれば、原告各動画の一部と実質的に同一の内容を表示することができることが認められ、やはり原告各動画に係る原告の公衆送信権を侵害したといえる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。
 もっとも、別紙動画目録1記載1の番号17、46、617、648、653、701及び723の各IPアドレス並びに同目録2記載の番号9のIPアドレスを割り当てられた者については、ファイル保持率は「0」(%)であり、本件各動画ファイルの一部でもダウンロードしたことを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。したがって、上記各IPアドレスを割り当てられた者は、原告各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したとは認められない。
(3)以上によれば、別紙動画目録1記載1の番号1、36、67、157、166、205、334、472、477、490、638及び717の各IPアドレス、同目録1記載2の各IPアドレス並びに同目録2記載の番号1及び7の各IPアドレスを割り当てられた者については、原告各動画に係る原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであるといえる。
 これに対して、別紙動画目録1記載1の番号17、46、617、648、653、701及び723の各IPアドレス並びに同目録2記載の番号9のIPアドレスを割り当てられた者については、原告各動画に係る原告の公衆送信権を侵害したことが明らかであるといえないから、その余の点を判断するまでもなく、これらのIPアドレスに係る発信者情報の開示請求は理由がない。
2 争点2(本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
(1)前記1(1)のとおり、著作権法2条1項9号の5イ所定の行為により、原告各動画が送信可能化されて、原告各動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたのは、本件各動画ファイルが、ビットトレントネットワークを介して、ダウンロードされた時点であるというべきである。これに対し、前記前提事実(4)のとおり、ハンドシェイクとは、本件監視ソフトウェアが、トラッカーから送信されたリストに記載されたIPアドレスで特定されるピアに接続し、応答すること等を確認するものであるところ、本件各発信者情報は、このようなハンドシェイク時に、被告から別紙動画目録1及び2記載の各IPアドレスを割り当てられていた者に関する情報である。そうすると、原告各動画に係る原告の公衆送信権は、ハンドシェイクよりも前の時点において既に侵害されていたというべきであり、ハンドシェイクによって上記の権利侵害がもたらされたということはできない。
 また、著作権法2条1項9号の5がイ又はロ所定の行為により自動公衆送信し得るようにすることを「送信可能化」と定義している以上、「送信可能化」したといえるには、それらに該当する行為がされることが必要である。
 しかし、本件全証拠によっても、ハンドシェイクの通信が上記の各行為のいずれかに該当すると認めることはできない。
 したがって、ハンドシェイクの通信が、原告各動画を送信可能化し、原告各動画に係る原告の公衆送信権を侵害する通信であると認めることはできず、よって、ハンドシェイクの通信から把握される情報である本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するとは認められない。
(2)これに対して、原告は、ハンドシェイクが行われたということは、本件各氏名不詳者が、ビットトレントネットワークを介し、本件監視ソフトウェアの要求に応じて、本件各動画ファイルを自動的にアップロードすることができる状態にしていたことを示すものであるから、このハンドシェイクによって原告各動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたと評価でき、そうでないとしても、ハンドシェイクの時点までには原告各動画を「送信可能化」していたものであるから、ハンドシェイクの時点における情報である本件各発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると主張する。
 しかし、前記(1)のとおり、原告各動画が送信可能化され、原告各動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたのは、ビットトレントネットワークを介して、本件各動画ファイルがダウンロードされた時点であり、ハンドシェイクの時点でないことは明らかである以上、ハンドシェイクによって原告各動画に係る原告の公衆送信権が侵害されたと評価するのは無理がある。
 また、本件においては、プロバイダ責任制限法5条1項に基づく請求がされているところ、同項柱書が「当該権利の侵害に係る発信者情報」について、「発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるもの」である「特定発信者情報」と「特定発信者情報…以外の発信者情報」とに分けて規定し、前者に関しては、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(令和4年総務省令第39号)5条が「侵害関連通信」として、特定電気通信役務の利用に係る契約の申込み等(同条1号)、ログイン(同条2号)、ログアウト(同条3号)及び同契約の終了(同条4号)のための各手順に従って行った識別符号その他の符号の電気通信による送信のみを規定していることからすると、プロバイダ責任制限法及び上記施行規則は、権利侵害をもたらす通信から把握される情報(特定発信者情報以外の発信者情報)とそれ以外の通信から把握される情報(特定発信者情報)とを明確に区別した上、後者については、それに該当する情報を4つの類型の通信に係るものに限定していると解するのが相当である。そうすると、ハンドシェイクの時点までに原告各動画が「送信可能化」されていたとしても、ハンドシェイクの通信から把握される情報は、特定発信者情報以外の情報に該当しないのはもとより、上記4つの類型の通信に係る情報に該当しない以上、特定発信者情報にも該当しないというべきである。
 したがって、ハンドシェイクの通信から把握される情報は、プロバイダ責任制限法5条1項柱書所定の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるとはいえず、原告の上記主張は採用することができない。
第4 結論
 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 バヒスバラン薫
 裁判官 小川暁は、転補につき、署名押印することができない。
裁判長裁判官 國分隆文


(別紙)発信者情報目録
 別紙動画目録1及び2記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。
@氏名又は名称
A住所
B電子メールアドレス
 以上

(別紙著作物目録 省略)
(別紙動画目録1及び2 省略)
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/