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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件J(2)
【年月日】令和5年4月26日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10080号 発信者情報開示請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第4081号)
 (口頭弁論終結日 令和5年2月6日)

判決
控訴人 Twitter,Inc.
同訴訟代理人弁護士 中島徹
同 平津慎副
同 犬飼貴之
同訴訟復代理人弁護士 小原丈佳
被控訴人 創価学会
同訴訟代理人弁護士 堀田正明
同 長谷川伸城
同 甲斐伸明
同 大原良明


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要(略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
1 事案の要旨
 本件は、原判決別紙著作物目録記載1の写真(以下「本件写真」という。)及び同目録記載2の新聞(以下「本件新聞」という。)の著作者である被控訴人が、「ツイッター」(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトにおいてされた原判決別紙投稿記事目録記載1及び2の各投稿(以下「本件各投稿」といい、同目録の番号に応じて、それぞれを「本件投稿1」などという。)により、被控訴人の本件写真及び本件新聞に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたと主張して、ツイッターを運営する控訴人に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、上記権利の侵害に係る発信者情報として別紙1発信者情報目録記載1及び2の各情報の開示を求める事案である。
 原審は、令和4年5月31日、被控訴人の請求を認容する判決をしたため、控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。
 なお、原審においては、令和3年法律第27号による改正前の同法が適用されていたため、被控訴人は同改正前の同法4条1項に基づいて上記請求をしていたが、本件控訴提起後の令和4年10月1日、同改正法が施行された。
2 前提事実
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決2頁5行目から12行目までを次のとおり改める。
 「 被控訴人の職員は、平成19年9月6日、被控訴人の業務として、本件写真を撮影した。本件写真は、被控訴人のA名誉会長(以下「A名誉会長」という。)の上半身を撮影したものである。
 本件写真は、撮影方向、被写体の構図、シャッタースピード、絞りの選択等により、同職員の思想又は感情を創作的に表現した写真の著作物である(甲9)。
 本件写真は、平成30年5月3日付けの聖教新聞に掲載され、被控訴人名義で公表された(甲6)。
 また、本件写真が撮影された当時の被控訴人の就業規則(平成18年11月1日施行。甲10)には、「職員が職務上の行為として著作した著作物の著作権は、法人に帰属する。」との規定(75条1項)があった。
 よって、本件写真は、被控訴人の職務著作(著作権法15条1項)に該当し、その著作者は被控訴人であり、その著作権は被控訴人に帰属する。」
(2)原判決2頁14行目から25行目までを次のとおり改める。
 「 被控訴人は、令和2年7月6日、本件新聞(甲5)の4面に、別紙2のとおり、「座談会(27)皆が前進!皆が人材!」、「「青年の月」7月を新たな決意で」、「わが地域の「立正安国」を!」などの見出しを付して、被控訴人のB現会長(以下「B会長」という。)らが参加した座談会の内容等を記載した記事(以下「本件座談会記事」という。)を掲載した。
 本件新聞は、被控訴人の職員が、被控訴人の業務として、被控訴人の機関紙という聖教新聞の性格や被控訴人の編集方針に従い、多数の記事や写真等の素材の中から読者に提供すべき素材を取捨選択し、各素材の配置、レイアウト、分量、段組、見出しの位置や大きさ等を工夫して紙面に配列して作成したものであり、編集著作物(著作権法12条1項)に該当する(甲9)。
 また、本件新聞が発行された当時の被控訴人の就業規則(令和2年4月1日施行。甲13)には、「職員が職務上の行為として著作した著作物の著作権は、法人に帰属する。」との規定(75条1項)があった。
 よって、本件新聞は、被控訴人の職務著作(著作権法15条1項)に該当し、その著作者は被控訴人であり、その著作権は被控訴人に帰属する。」
(3)原判決3頁4行目の「別紙」から5行目末尾までを「ツイッターに本件投稿1をした。」と改める。
(4)原判決3頁13行目の「別紙」から15行目末尾までを「ツイッターに本件投稿2をした。」と、同頁25行目から末行にかけての「4条1項の「開示関係役務提供者」」を「5条1項の「特定電気通信役務提供者」」と改める。
(5)原判決4頁3行目から7行目までを削り、同頁8行目の「(7)」を「(6)」と改める。
3 争点
(1)本件投稿1について
 本件投稿1は本件写真を適法に引用したものか(争点1)
(2)本件投稿2について
ア 本件新聞について
(ア)本件投稿2は本件新聞の創作性ある表現部分を利用したものか(争点2−1)
(イ)本件投稿2は本件新聞を適法に引用したものか(争点2−2)
イ 本件座談会記事について
(ア)本件座談会記事は被控訴人を著作者とする編集著作物に当たるか(争点3−1)
(イ)本件投稿2は本件座談会記事を適法に引用したものか(争点3−2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件投稿1は本件写真を適法に引用したものか)について
 原判決5頁10行目の「そのため、」の次に「出所表示に欠けるとしても、」を加えるほか、原判決の「事実及び理由」の第3の1記載のとおりであるから、これを引用する。
2 争点2−1(本件投稿2は本件新聞の創作性ある表現部分を利用したものか)及び争点2−2(本件投稿2は本件新聞を適法に引用したものか)について原判決の「事実及び理由」の第3の3及び4記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点3−1(本件座談会記事は被控訴人を著作者とする編集著作物に当たるか)について
 次のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の5記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)当審における被控訴人の補充主張
ア 新聞の紙面中の特定の記事であっても、その素材の選択又は配列について思想又は感情が創作的に表現されている場合には、編集著作物として保護される。
イ 本件座談会記事は、被控訴人の職員が、会員の信心の深化や確立を図り、日蓮大聖人の仏法を基調に平和・文化・教育運動を推進するという被控訴人の日刊機関紙としての性格や編集方針を踏まえつつ、被控訴人の会員以外の読者がいることも念頭に置いて、記事に掲載する素材を検討し、別紙2のとおり、座談会出席者の発言内容、出席者の顔写真、九州南部の大雨被害の際に救援物資を輸送する会員らの姿の写真、記念上映会の会場となる会館を使用する際の注意事項リスト等の素材を選択した上で、全体の見やすさ等に配慮してそれらの配置を検討し、見出しを記事の最上段や右上部等に分散させるとともに、出席者の顔写真は記事の左上部に、会員らの上記写真や上記注意事項リスト等は本文の内容に応じて本文中に埋め込むように、それぞれ配置している。
 したがって、本件座談会記事は、その素材の選択又は配列について被控訴人の思想又は感情が創作的に表現されているものといえるから、本件座談会記事は編集著作物として保護されるものである。
(2)当審における控訴人の補充主張
 本件座談会記事の「レイアウト」及び「段組」は、左上に座談会参加者の顔写真を配置し、中央右寄りに長方形の写真を配置し、その左下に「会館使用の徹底事項」を配置しているが、このようなレイアウト及び段組は、日刊新聞において日常的に見られるありふれたものであって、創作性が認められない。「見出し」についても、その位置及び大きさについて創作性は認められず、また、「見出し」は単に事実を表現しているにすぎず、文字数も短すぎることから、言語の著作物であるとしても、創作性は認められない。
 そもそも、「レイアウト、段組、見出し等」に創作性が認められるという主張は、いわゆる「版面権」を保護すべきであるという主張に等しく、新聞の紙面の特定の記事のレイアウト、段組、見出し等の選択及び配列に創作性が認められることはない。
 したがって、本件座談会記事は、編集著作物に該当しない。
4 争点3−2(本件投稿2は本件座談会記事を適法に引用したものか)について
 原判決の「事実及び理由」の第3の6記載のとおりであるから、これを引用する。
第4 当裁判所の判断
1 本件投稿1について
 次のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第4の1記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決11頁6行目から21行目までを削る。
(2)原判決11頁22行目の「(3)」を「(2)」と、同頁23行目の「4条1項」を「5条1項」と改める。
2 本件投稿2について
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第4の2記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決12頁1行目冒頭に「ア」を加え、同頁13行目の「選択・配列」を「選択又は配列」と改める。
(2)原判決12頁18行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「イ また、控訴人は、@本件座談会記事の「レイアウト及び段組」は、日刊新聞において日常的に見られるありふれたものであって、創作性が認められず、「見出し」についても、その位置及び大きさについて創作性は認められず、言語の著作物であるとしても創作性は認められない、A「レイアウト、段組、見出し等」に創作性が認められるという主張は、いわゆる「版面権」を保護すべきであるという主張に等しく、新聞の紙面の特定の記事のレイアウト、段組、見出し等の選択及び配列に創作性が認められることはないなどとして、本件座談会記事は、編集著作物に該当しない旨主張する。
 しかしながら、前記アで説示したとおり、本件座談会記事が編集著作物に該当すると認められるのは、座談会の出席者の発言内容を記載した本文、見出し、座談会の出席者の顔写真、会員らの姿を写した写真、会館を使用する際の注意事項リスト等の素材の選択又は配列において被控訴人の思想又は感情が創作的に表現されているものと認められることによるものであり、「レイアウト、段組、見出し等」それ自体に創作性が認められることを理由とするものではない。
 したがって、控訴人の上記主張は、その主張自体、前記アの認定を左右するものではないから、採用することができない。」
(3)原判決14頁5行目の「4条1項」を「5条1項」と改める。
第5 結論
 以上によれば、被控訴人の請求は、理由があるから、これを認容した原判決は相当である。
 したがって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 遠山敦士
 裁判官小川卓逸は、転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 大鷹一郎


(別紙1)発信者情報目録
1 原判決別紙投稿記事目録記載1の記事を投稿した者の使用するアカウントに関する電話番号
2 原判決別紙投稿記事目録記載2の記事を投稿した者の使用するアカウントに関する電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号)

(別紙2)本件座談会記事●(省略)●
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