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【事件名】調理器具の写真無断流用事件K(2)
【年月日】令和5年4月26日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10086号 損害賠償金請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第31909号)
 (口頭弁論終結日 令和5年2月20日)

判決
控訴人 エス・アンド・ケー株式会社
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 辻居弘平
同 加藤尚敬
同 石原知
同 山田耕平


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、8万3332円及びこれに対する令和3年4月19日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
 本件は、控訴人が、被控訴人がその運営するインターネット上のオンラインストアの別紙1記載のウェブページ(以下「本件ウェブページ1」という。)及び別紙2記載のウェブページ(以下「本件ウェブページ2」という。)において、控訴人の著作物である原判決別紙画像目録1記載@ないしFの各画像(以下「本件画像1」という。)及び同目録2記載の各画像に含まれる画像(以下「本件画像2」という。)を掲載した行為が、控訴人の著作権(複製権)の侵害行為に当たる旨主張して、被控訴人に対し、著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として13万3332円及びこれに対する不法行為の後である令和3年4月19日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、被控訴人に対し、上記損害賠償として5万円及びこれに対する同日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を命じる限度で控訴人の請求を認容し、その余の請求を棄却した。
 控訴人は、原判決中、控訴人敗訴部分を不服として控訴を提起し、当審において、公衆送信権(送信可能化権)侵害の主張を請求原因に追加した。
1 前提事実
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決2頁14行目、22行目、23行目、24行目、末行から3頁1行目にかけての各「本件画像」をいずれも「本件画像1及び2」と改める。
(2)原判決2頁16行目の「別紙画像目録2」から21行目末尾までを「本件ウェブページ1及び2を掲載した(甲2)。」と改め、同行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「 本件ウェブページ1は、別紙1記載のとおり、「SCANPAN(スキャンパン)HaptlQ−フライパン26cm(蓋ナシ/スポンジ付)」、「通常販売価格(税込)50,978円」の商品に係るものであり、左側に、上段に8つ、下段に1つの合計9つの小さな画像が上下2段にわたり表示されており(別紙1記載の赤枠部分参照)、上段の8つの画像のうち、左から1つ目及び2つ目は、本件画像2であり、左から3つ目ないし8つ目及び下段の画像は、本件画像1である。上記9つの画像の一つをクリックすると、上段より上の位置にその拡大画像が表示される。
 また、本件ウェブページ2は、「スキャンパンHaptlQ−フライパン28cm(蓋ナシ/スポンジ付)」、「通常販売価格(税込)54,569円」の商品に係るものであり、左側に、上段に8つ、下段に1つの合計9つの小さな画像が上下2段にわたり表示されており(別紙2記載の赤枠部分参照)、上段の8つの画像のうち、左から1つ目及び2つ目は、本件画像2であり、左から3つ目ないし8つ目及び下段の画像は、本件画像1である。上記9つの画像の一つをクリックすると、上段より上の位置にその拡大画像が表示される。」
(3)原判決2頁24行目から25行目にかけての「(甲11)」を「(甲11、弁論の全趣旨)」と改める。
2 争点
 原判決3頁3行目の「本件画像」を「本件画像1及び2」と改めるほか、原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。
3 当事者の主張
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決3頁7行目、17行目、19行目、20行目、同行目から21行目にかけて、23行目、24行目、末行、4頁6行目、8行目、12行目、15行目、19行目、24行目、5頁3行目、11行目、12行目、14行目、20行目、6頁2行目、5行目及び10行目の各「本件画像」を「本件画像1及び2」と改める。
(2)原判決3頁12行目の「という。」の次に「甲13、14。」を、同頁21行目の「複製権」の次に「、公衆送信権」を加える。
(3)原判決5頁4行目の「金額は、」の次に「本件ウェブページ1及び2について」を加え、同頁8行目冒頭から11行目の「利用した。」までを次のとおり改める。
 「 そして、本件画像1及び2は、被告ストアのウェブサイトにおいて、個別の商品の利用イメージや優位性を説明するための販促用商材としてあえて商品ごとにページを分けて別個独立に使用されている。仮に本件画像1と本件画像2が一体としてみられる利用態様であるとしても、被告ストアにおいては、本件画像1及び2は、商品ごと、ページごとに独立して使用されていたのであり、全ページが一体をなすものではなく、その使用は当該ページ数に相当する回数分行われていたものである。
 この点、「朝日新聞フォトアーカイブ」や「イメージナビ」における画像等の利用条件(甲28、29)によれば、著作物を複数媒体に使用すると使用回数ごとに使用料がかかるとされており、その他の著作物の利用条件(甲22ないし27)も同様であるから、本件ウェブページ1及び2のように異なるウェブページ(異なる媒体)に使用した場合も同様に使用料を考えるべきである。
 また、本件画像1及び2は、控訴人が自ら取り扱う商品の販売促進のために制作されたものであり、そもそも第三者に使用許諾をすることは想定されておらず、使用許諾に関する料金体系など存在し得ない。このような場合、一般的に写真素材の使用許諾がされるときの使用料の相場を参考にして損害額を算定すべきである。そして、そのような使用料の相場の根拠となるのは写真のライセンス等を目的とするサービスの料金体系しかない。そうすると、本件画像1及び2がレンタルや販売を目的としていないとしても、新聞社や写真素材等の利用料金表(甲5ないし7)を参考にせざるを得ないはずであり、レンタルや販売を目的としていないからといって上記各料金表を参酌しないのは、損害額算定の方法として妥当でない。」
(4)原判決5頁14行目の「被告の本件画像に係る原告の著作権(複製権)侵害行為」を「被控訴人が本件ウェブページ1及び2に本件画像1及び2を掲載した行為による控訴人の著作権(複製権、公衆送信権)侵害」と改める。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件画像1及び2に係る控訴人の著作権の有無等)について
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の1記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決6頁13行目、17行目、24行目、6頁末行から7頁1行目にかけて、7頁1行目及び3行目の各「本件画像」をいずれも「本件画像1及び2」と改める。
(2)原判決7頁5行目から11行目末尾までを次のとおり改める。
 「(3)被控訴人が令和3年3月4日頃までに被告ストアのウェブサイトに本件ウェブページ1及び2を掲載したこと、本件ウェブページ1及び2には、別紙1及び2記載のとおり、本件画像1及び2が掲載されていることは、前記前提事実のとおりである。
 そうすると、被控訴人による本件ウェブページ1及び2に本件画像1及び2を掲載した行為は、控訴人の著作物である本件画像1及び2を複製し、本件ウェブページ1及び2に係るサーバにアップロードしたものとして、本件画像1及び2に係る控訴人の著作権(複製権、公衆送信権)の侵害に該当するものと認められる。
 これに反する被控訴人の主張は採用することができない。」
2 争点2(被控訴人の故意又は過失の有無)について
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の2記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決7頁15行目、23行目、24行目、25行目、8頁1行目、3行目及び4行目の各「本件画像」をいずれも「本件画像1及び2」と改める。
(2)原判決8頁6行目から7行目までを次のとおり改める。
 「 したがって、被控訴人による本件ウェブページ1及び2に本件画像1及び2を掲載した行為により、本件画像1及び2に係る控訴人の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害したことについて、被控訴人には、少なくとも過失があると認められる。」
3 争点3(控訴人の損害額)について
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の3記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決8頁13行目から9頁24行目までを次のとおり改める。
 「(1)被控訴人が令和3年3月4日頃までに被告ストアのウェブサイトに本件ウェブページ1及び2を掲載したこと、本件ウェブページ1及び2には、別紙1及び2記載のとおり、本件画像1及び2が掲載されていること、その後、被控訴人は、遅くとも同年5月19日までに、被告ストアに掲載していた本件画像1及び2を削除したことは、前記前提事実のとおりである。そうすると、本件ウェブページ1及び2における本件画像1及び2の利用期間は2か月程度であったものと認められる。
 次に、前記前提事実と証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、本件ウェブページ1は、「SCANPAN(スキャンパン)HaptlQ−フライパン26cm(蓋ナシ/スポンジ付)」の商品の購入ページ、本件ウェブページ2は、「スキャンパンHaptlQ−フライパン28cm(蓋ナシ/スポンジ付)」の商品の購入ページであり、両商品は、同一ブランドのサイズ違いの同種の商品であること、本件ウェブページ1及び2には、商品の紹介画像として、それぞれ、別紙1及び2記載のとおり、上下2段にわたり、本件画像1及び2(合計9つの画像)が掲載されているところ、本件画像1は同一の画像であり、本件画像2(上段の左から一つ目及び二つ目の2画像)はそれぞれの商品に対応する画像であることが認められる。
 そして、上記認定事実のとおり、本件ウェブページ1及び2は、同一ブランドのサイズ違いの同種の商品の購入ページであって、商品の紹介画像として掲載された本件画像1及び2は、少なくとも9画像中の7画像が同一の画像であることに照らすと、本件ウェブページ1及び2は、相互に密接に関連し、全体として一体のものとして評価できる。
 そうすると、本件ウェブページ1及び2に掲載された本件画像1及び2も、全体として一体のものとして利用されたものと認めるのが相当である。
 以上の本件ウェブページ1及び2における本件画像1及び2の利用態様、利用期間その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると、控訴人の著作権法114条3項に基づく損害額(利用料相当額の損害額)は、5万円と認めるのが相当である。
(2)これに対し、控訴人は、@「朝日新聞フォトアーカイブ」や「イメージナビ」における画像等の利用条件(甲28、29)によれば、著作物を複数媒体に使用すると使用回数ごとに使用料がかかるとされており、その他の著作物の利用条件(甲22ないし27)も同様であるから、本件ウェブページ1及び2のように異なるウェブページ(異なる媒体)に使用した場合も同様に使用料を考えるべきである、A本件画像1及び2は、控訴人が自ら取り扱う商品の販売促進のために制作されたものであり、そもそも第三者に使用許諾をすることは想定されておらず、使用許諾に関する料金体系など存在し得ない以上、一般的に写真素材の使用許諾がされるときの使用料の相場を参考にして損害額を算定すべきであり、また、本件画像1及び2がレンタルや販売を目的としていないとしても、新聞社や写真素材等の利用料金表(甲5ないし7)を参考にせざるを得ないはずであって、レンタルや販売を目的としていないからといって上記各料金表を参酌しないのは、損害額算定の方法として妥当でない旨主張する。
 そこで検討するに、@については、「朝日新聞フォトアーカイブ・法人のお客様向け利用規約」(甲28)には、「第9条(本画像等の利用条件)1.本画像等の利用は、1媒体につき1用途1回限りの非独占的利用に限ります。」、「4.ウェブサイトでの掲載の場合、掲載許諾期間は最長3年間です。延長希望の場合は、改めてお申し込みください。別途使用料がかかります。」との記載があること、イメージナビの「ご利用ガイド」(甲29)には、「画像素材について料金設定ご使用になる用途、期間などによって料金設定が決まります。
 複数媒体にご使用される際は、1使用毎に料金が発生します。」との記載があることが認められる。他方で、甲28及び29には、ウェブページごとに利用料を定める旨の利用条件の記載はなく、甲22ないし27も、これと同様である。
 次に、Aについては、毎日新聞社PhotoBank料金表(甲5)には、「Fインターネット上での利用(エディトリアル利用)*電子書籍は除く*動画内利用は除く16500円8250円」、「Gインターネット上での利用(コマーシャル利用)*動画内利用は除く44000円22000円」との記載があること、朝日新聞社フォトアーカイブ料金表(甲6)には、「使用媒体WEB〜6カ月22000円(20000円)〜1年33000円(30000円)〜3年55000円(50000円)」との記載があること、株式会社アフロ料金表(甲7)には、「広告(静止画コンテンツ)ウェブ広告・ホームページ〜1年¥22000〜3年¥28600〜5年¥33000*同一サイトに限り、使用箇所は問いません*出版・報道写真をご利用の際はお問い合わせください」との記載があることが認められる。他方で、甲5ないし7のいずれについても、使用許諾される写真のサイズ、媒体の数、掲載場所等の利用条件の詳細が不明であることに照らすと、これらの料金表等記載の金額を控訴人の損害額算定の根拠とすることは相当でない。
 したがって、控訴人の上記主張は、採用することはできない。」
(2)原判決9頁25行目の「他方」を「このほか」と、同頁末行の「本件画像」を「本件画像1及び2」と改める。
(3)原判決10頁3行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「(3)以上によれば、控訴人は、被控訴人に対し、本件画像1及び2に係る著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として5万円及びこれに対する不法行為の後である令和3年4月19日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めることができる。」
第4 結論
 以上によれば、控訴人の請求は、被控訴人に対し、5万円及びこれに対する令和3年4月19日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余は理由がないから、これを棄却すべきものである。
 したがって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 遠山敦士
 裁判官 小川卓逸は、転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 大鷹一郎


(別紙1)●省略●
(別紙2)●省略●
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