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【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件K(2)
【年月日】令和5年4月25日
 知財高裁 令和3年(ネ)第10103号 発信者情報開示請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第12091号)
 (口頭弁論終結日 令和5年3月7日)

判決
控訴人 株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 横山経通
同 馬場嵩士
被控訴人 亡Y訴訟承継人亡Y相続財産
同特別代理人弁護士 兼川真紀


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
第2 事案の概要(略称は、別途定めるほかは原判決による。)
1(1)本件は、亡【Y】(以下「【Y】」という。)において、氏名不詳者(本件投稿者)がツイッターに投稿した原判決別紙投稿記事目録記載1ないし7の各投稿(本件各投稿)に添付した画像は【Y】がツイッターに投稿した原判決別紙原告投稿記事目録記載1及び2の記事(原告投稿記事1及び2)を表示させた画面のスクリーンショットであるから、本件各投稿によって同人の著作物である文章又は写真に係る著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことは明らかであり、本件投稿者に損害賠償請求権を行使するに当たり、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある旨主張して、電気通信役務提供者である控訴人に対し、プロバイダ責任制限法(ただし、令和3年法律第27号による改正前のもの)4条1項に基づいて、本件各投稿後である令和3年2月8日に本件アカウントにログインした際のログイン情報に関する契約者情報である本件発信者情報の開示を求めた事案である。
 原判決は、本件各投稿のうち、少なくとも原判決別紙投稿記事目録記載7(本件投稿7)は【Y】の著作権(公衆送信権)を侵害することは明らかであるから、本件発信者情報はプロバイダ責任制限法4条1項に規定する「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得るものであり、【Y】には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある旨判断して、同人の請求を認容したところ、控訴人がこれを不服として控訴をした。
(2)【Y】は、令和3年11月27日頃、死亡した。相続放棄により、最終的に【Y】には相続人が存在しないこととなったため、【Y】の訴訟上の地位は、同人の相続財産が承継した。
(3)なお、令和3年法律第27号により特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律は改正され(以下、改正後のものを「改正法」という。)、令和4年10月1日施行された。
2「前提事実」及び「争点」は、以下のとおり原判決を補正し、後記3のとおり、当審における控訴人の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決の第2の3中の各【原告の主張】における「原告」を除き、「原告」とあるのは全て「【Y】」と読み替える。)。
(原判決の補正)
(1)2頁26行目の「表示させた記事」の次に「(原判決別紙本件投稿記事7参照)」を、原判決の末尾に頁を改め、本判決「別紙本件投稿記事7」をそれぞれ加える。
(2)3頁10行目の末尾に行を改めて次のとおり加える、
 「 【Y】が本件ログインに係る発信者情報の開示を求めるに至った経緯は次のとおりである。すなわち、【Y】は、本件各投稿の「侵害情報日時の直前のログイン情報」として、ツイッター社から開示を受けた複数のIPアドレスとログイン情報が送信された日時(日本標準時間)を基に、接続先IPアドレス候補を複数特定した上で、これらの通信に係る発信者情報の開示を求めて本件訴えを提起した。その後、控訴人は、開示を求められた各「侵害情報日時の直前のログイン情報」に係る通信記録の調査を行い、その結果、本件ログインに係る通信については該当通信記録は1件のみであるが、それ以外については該当通信記録は複数件あるいは0件である旨主張した(被告準備書面)。そこで、【Y】は、本件各投稿の侵害情報日時に近接したログイン情報として、本件ログインに係るIPアドレス(●●●●●●●●●●)等を特定した(令和3年9月6日付け訂正申立書)。」
(3)3頁15行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「(6)【Y】は、令和3年11月27日頃死亡した。同人の相続人は父【A】(以下「父【A】」という。)及び母【B】(以下「母【B】」という。)であったが母【B】は、相続放棄を申述して受理され、他方、父【A】は、相続開始時は事理弁識能力を欠く常況にあったところ、令和4年6月17日、相続の承認又は放棄をすることなく死亡し、母【B】及び父【A】の子らは、再転相続人としての地位に基づいて、【Y】の相続について相続放棄を申述して受理され、【Y】には相続人が存在しないこととなった。このため、【Y】の訴訟上の地位は同人の相続財産が承継した。」
(4)5頁9行目冒頭から10行目の「検討している。」までを「【Y】は死亡したが、被控訴人(亡【Y】相続財産)は、今後明らかになった発信者に対して、損害賠償請求権を行使する可能性がある。」と改める。
3 控訴人の当審における補充主張
(1)本件発信者情報は「侵害関連通信」に該当しないこと
ア 改正法の下では、ログイン時の通信に係る発信者情報は、一般の発信者情報には該当しないことが明確にされ(改正法5条1項)、侵害情報の送信以外の通信に係る発信者情報は、当該通信が「侵害関連通信」に該当する場合に限定されるところ(改正法5条2項柱書)、ログイン時の通信(令和4年総務省令第39号による改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(以下「改正規則」という。)5条2号)のうち「侵害関連通信」に該当するのは、侵害情報の送信と「相当の関連性を有するもの」である(改正法5条3項、改正規則5条柱書)。
 そして、発信者の表現の自由、プライバシー及び通信の秘密への制約を必要最小限度にとどめる必要性があるという発信者情報開示請求に係る制度の趣旨を踏まえると、「相当の関連性を有するもの」という要件は、侵害関連通信に該当する通信に関し、発信者を特定するために必要最小限度の範囲に限定するための要件であるから、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信のみが原則として「侵害関連通信」に該当し、それ以外の通信に「相当の関連性」が認められるのは例外的な場合であって、例えば、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信が経由プロバイダのみを経由して接続した通信ではないことにより、発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の契約者情報を保有する経由プロバイダを特定することができない場合が挙げられている。
イ これを前提として本件についてみると、【Y】は、開示を求める情報として、訴状では本件各投稿と最も近接したログインの情報の開示を求めていたが、いずれも契約者を特定できなかったため、令和3年9月6日付け訂正申立書で本件各投稿の投稿日時(令和3年1月17日午後7時58分から同月30日午前零時58分)から約9日ないし約22日後の本件ログイン時(令和3年2月28日午前5時56分56秒)に係るログイン情報を対象として変更したものであり、本件ログインが、権利侵害が主張されている投稿と最も時間的に近接してされたログインではないことは明らかであるから、本件ログインは「相当の関連性を有するもの」には当たらない。
(2)権利侵害が明白であるとはいえないこと
ア 原告投稿記事1及び2は著作物性が認められない可能性があること
 ツイッターは140文字という限られた文字数内で行うことができるサービスであり、そのような短文の投稿において用いることが可能な表現等は、おのずと限られるところ、原告投稿記事1は、こうした限られた文字数の中で作成され、返信先の相手方へ返答し、大阪府の新型コロナウィルスへの対応に淡々とコメントをするものであるから、その表現や構成等において【Y】の個性が表現されているとはいい難いものである。
 次に、原告投稿記事2は、同じくツイッターを利用して作成されたものであり、その長さは90文字に満たないものであるし、その具体的内容を見ても、【Y】の記録した体重の報告という事実の提示を中心とするものであり、その内容及び表現はありふれたものである。また、原告投稿記事2を構成する写真についても、【Y】の容姿を真横から撮影したものであって、アングルやポーズといった構図等はごくありふれたものであるから、創作性が認められるとは限らない。
 したがって、原告投稿記事1及び2は、いずれも著作物性が認められない可能性がある。
イ 引用(著作権法32条1項)に該当する可能性があること
 本件投稿7は、原告投稿記事2を示しつつ、その内容に対してコメントを行う投稿であり、原告投稿記事2はあくまでコメントの対象である従たる部分であるにすぎない。また、本件投稿7と原告投稿記事2は、画面の右側と左側に明瞭に区別されて表示されている。
 また、本件投稿7は、原告投稿記事2に批判的なコメントをするものであり、著作権法32条1項に規定する「引用」に当たる可能性がある。この点、原判決は、本件投稿7は原告投稿記事1と関係なく原告投稿記事2の内容を揶揄したものであるにすぎないとの理由のみで「引用」には当たらない旨判断したが、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内であれば、引用として認められるのであって、揶揄したものであるにすぎないとの理由のみで「引用」に当たらない旨の原判決の判断は誤りである。
 なお、本件投稿1ないし6も同様に「引用」に該当する可能性がある。
ウ 小括
 以上によれば、本件投稿1ないし7は、いずれも権利侵害が明白であるとはいえない可能性がある。
(3)被控訴人には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がないこと
 【Y】は、令和3年11月27日頃死亡し、かつ、相続人全員が相続を放棄したため、相続人が不在である。発信者情報開示請求権は、発信者を明らかにして損害賠償請求権を行使するために認められるものであるところ、現実に損害賠償請求権を行使する者が存在しないから、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も被控訴人の請求は理由があるものと判断する。
 その理由は、以下のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の第3の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、5頁21行目の「原告」を除き、「原告」とあるのは全て「【Y】」と読み替える。)。なお、原判決は、本件請求につきプロバイダ責任制限法が適用されることを前提に判断しているのに対し、本判決は、その後の改正法の施行により、後記2アのとおり改正法が遡及適用されることを前提にするものであるが、上記引用部分は、このように改正法の遡及適用を前提にした場合にも等しく当てはまるものである。
(原判決の補正)
(1)6頁12行目冒頭から16行目末尾までを次のとおり改める。
 「 前記前提事実及び証拠(甲7)によれば、本件投稿1ないし6は、「【C】」のユーザー名を登録する本件投稿者が、【Y】が大阪府の新型コロナ感染症の対策に批判する内容をツイッター上に投稿した原告投稿記事1のスクリーンショットの画像を表示させた上で、本件アカウントを利用して、【Y】による原告投稿記事1を批判する一連のツイートであるところ、これに対して、本件投稿7は、本件投稿者が、ダイエットによる体重の変化等に関する文章と写真の構成からなる原告投稿記事2のスクリーンショットの画像を表示させた上で、「すまん(顔文字と絵文字)これを見てしまったからやわ〜(顔文字)、目が...目が〜(顔文字)」と投稿するものであると認められる(原判決別紙本件投稿記事7参照)。そうすると、本件投稿7は、原告投稿記事1に対する批評とは関係がなく、原告投稿記事2全体を引用しながら、同記事の写真に映し出されている【Y】の体型をただ嘲笑するものであると認められ、こうした原告投稿記事2の引用は、引用の目的において正当性を見いだせないし、また、質的、量的にみても、正当な範囲を超えるものである。」
(2)7頁18行目の「証拠」から19行目の「1つしかなく」までを次のとおり改める。
 「 前記第2の2(補正後のもの)のとおり、控訴人による調査の結果、本件ログインに係る通信については、控訴人に該当通信記録が1件あったというのであるから、控訴人のこの点に関する主張は当を得ないものというほかないし、本件ログインを行った者が否定しているとしても、前示したところに照らせば、同人が本件投稿7を行ったことについては、高度の蓋然性があるというべきであり」
(3)7頁24行目冒頭から8頁1行目の末尾までを次のとおり改める。
 「 前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば、【Y】は、令和3年11月27日頃に死亡し、同人の相続人は全て相続放棄を申述して受理され、【Y】には相続人が不在となり、被控訴人(亡【Y】相続財産)が本件訴訟を承継したところ、本件投稿者に係る発信者情報の開示を受けて、被控訴人の遺産を清算するために選任された相続財産管理人が、本件投稿者に対し、本件投稿7に係る著作権侵害(公衆送信権侵害)を理由とした損害賠償請求等を行うことは十分に想定され得るところである。
 したがって、被控訴人には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。」
2 当審における控訴人の補充主張について
(1)本件発信者情報が「侵害関連情報」に当たるかについて
ア 改正法は、令和4年政令第208号により、当審における口頭弁論終結時より前の令和4年10月1日に施行されているところ、同法には経過規定が置かれていないから、本件投稿7の投稿時、本件訴え提起時及び原審口頭弁論終結時は、いずれも改正法の施行日前であるが、本件については、改正法が適用される(両当事者もこの点については特に争わない。)。
 そこで、以下では、改正法の適用を前提とするが、控訴人は、前記第2の3のとおり、本件ログインは「侵害関連通信」(改正法5条3項、改正規則5条2号)に該当しない旨主張するので、この点につき検討を加える。
(ア)プロバイダ責任制限法4条が発信者情報の開示請求を規定している趣旨は、特定電気通信(プロバイダ責任制限法2条1号)による侵害の流通は、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、高度の伝播性があるがゆえに際限なく被害が拡大し、匿名で情報の発信が行われた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難となるという、他の情報の流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。そして、この趣旨は、「侵害関連通信」に係る発信者情報の開示請求をも可能とした改正法5条においても等しく当てはまるものである。
(イ)ところで、改正法5条3項は、「「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号・・・その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。」と規定し、同項の委任を受けた改正規則5条柱書は、「法5条3項の総務省令で定める識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識別符号その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定する侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」とした上で、同条2号で「あらかじめ定められた当該特定電気通信役務を利用し得る状態にするための手順に従って行った・・・識別符号その他の符号の電気通信による送信」と規定するので、特定のアカウントにログインした際の識別符号その他の符号の電気通信(ログイン情報)による送信は、同号が規定する送信に当たるというべきである。
 上記のとおり、改正法5条3項は、侵害関連通信について侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとし、また、改正規則5条柱書及び同条2号は、侵害関連情報は侵害情報と相当の関連性を有するログイン情報による送信に限定しているところ、その趣旨は、ログイン時に係る通信は、対象となる権利侵害行為の通信と異なるものであるため、対象となる権利侵害の通信に係る発信者以外の発信者のログイン情報が開示される可能性があり、また、開示を可能とする情報が際限なく拡大すれば、当該権利侵害に係る通信とは関係の薄い通信の秘密やプライバシーが侵害されるおそれが高まることから、当該権利侵害と一定の関連性を有するものに限定し、また、例えば、コンテンツプロバイダから大量のログイン時のIPアドレスの開示を受けて経由プロバイダに提供される場合には、経由プロバイダにおいて発信者を特定するために過度の負担がかかるおそれがあることから、開示の対象とするログイン時情報の開示請求は、発信者の特定に必要最小限度とすることにしたものと解される。
 こうした趣旨及び前記で説示した発信者情報の開示請求の趣旨に鑑みれば、ログイン情報に係る送信と侵害情報に係る送信とが「相当の関連性」を有するか否かは、当該ログイン情報に係る送信と当該侵害情報に係る送信とが同一の発信者によるものである高度の蓋然性があることを前提として、開示請求を受けた特定電気通信役務提供者が保有する通信記録の保存状況を踏まえ、侵害情報に係る送信と保存されているログイン情報とが開示可能な範囲内でどの程度時間的近接したものであるかなどといった諸事情を総合勘案して判断されるべきであり、侵害情報に係る送信と時間的に一定の間隔があって近接していないというだけで関連性が否定されるものではないというべきである。
 これを前提として本件についてみると、本件各投稿は、「【C】」のユーザー名を登録する本件投稿者による一連の投稿であり、その投稿内容に照らして、複数人より管理されて使用されているものとは認め難いいことに加え、本件ログインと近接する令和3年2月2日及び同月7日にも、本件アカウントを利用して、【Y】がツイッターに投稿した別の記事を批判する投稿がされていること(甲12)からすれば、本件アカウントに本件ログインをした者は、本件投稿7をした者と同一の個人であると認めるのが相当であることは、引用に係る原判決の第3の2に記載のとおりである。
 また、引用に係る原判決の第2の2(補正後のもの)に記載のとおり、被控訴人が開示を求める本件ログインに係る本件発信者情報は、仮処分決定を受けてツイッター社から開示を受けたIPアドレスについて、発信元IPアドレス、接続先IPアドレス、ログイン日時等により控訴人が通信記録の調査を行った結果、本件ログインに係る通信については該当通信記録は1件のみであるが、それ以外については該当通信記録は複数件あるいは0件であることが判明したことに基づき特定されたものであり、本件投稿7から9日後のものであるが、本件投稿7と開示可能な範囲内で最も時間的に近接したものであるということができる。
 そうすると、本件ログインが、権利侵害が主張されている投稿と最も時間的に近接してされたログインではないから、「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たらない旨の控訴人の主張は採用することができない。
イ 以上によれば、本件ログインに係る電気通信による送信は侵害関連通信であると認めることができる。
 そして、控訴人は、侵害関連通信である本件ログインの用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者(関連電気通信役務提供者)に該当するといえるから、改正法5条2項各号の要件を満たすときは、被控訴人は、本件ログインに係る発信者情報を侵害関連情報として開示請求することができるというべきである。
(2)権利侵害の明白性について
 控訴人は、前記第2の3アのとおり、本件投稿7で引用されている原告投稿記事2の著作物性を争うが、原告投稿記事2は、【Y】が、ダイエットによる同人の体重の変化、それに関する友人との会話等についての文章と、デジタルカメラのセルフタイマー機能を用いて上半身の衣服を脱いだ自分の腰から上の部分を自身の右側から撮影したものから構成されるものであって、撮影対象や構図等について独自の工夫がされていることからすると、原告投稿記事2を構成する文章及び本件各写真は、【Y】の思想及び感情を創作的に表現した著作物に当たると認めるのが相当であることは、引用に係る原判決の第3の1に記載のとおりである。
 また、控訴人は、前記第2の3イのとおり、原告投稿記事2を引用する本件投稿7は著作権法32条1項に規定する「引用」に当たるものであるから、著作権(公衆送信権)侵害に当たらない旨主張するが、本件投稿7が適法な引用に当たらないことは、引用に係る原判決の第3の1(補正後のもの)に記載のとおりである。
 以上によれば、本件投稿7によって原告投稿記事2を構成する文章及び本件各写真についての著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかであるといえる。
(3)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること
 控訴人は、前記第2の3のとおり、【Y】は原審口頭弁論終結後に死亡し、同人の相続人全員が相続放棄したため、現実に損害賠償請求権を行使する者はいないから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がない旨主張するが、【Y】の相続人全員が相続放棄して相続人が不在となっても、本件投稿者に係る発信者情報の開示を受けて、被控訴人の遺産を清算するために選任された相続財産管理人が、本件投稿者に対し、本件投稿7に係る著作権侵害(公衆送信権)侵害を理由とした損害賠償請求等を行うことは十分に想定され得るところであることは、引用に係る原判決の第3の3(補正後のもの)に記載のとおりである。
 なお、本件については、【Y】の死亡後は被控訴人(亡【Y】相続財産)が本件訴訟を承継したのであって、本件訴訟は当然終了するものではない。
3 結論
 以上によれば、被控訴人の請求は理由があるから認容されるべきである。
 よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 中村恭
 裁判官 岡山忠広
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