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【事件名】「幻想水滸伝シリーズ」楽曲事件(2)
【年月日】令和5年4月20日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10115号 著作権侵害損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第3201号)
 (口頭弁論終結日 令和5年3月9日)

判決
控訴人 ワイズマンプロジェクト合同会社(以下「控訴人会社」という。)
控訴人 Y(以下「控訴人Y」という。)
被控訴人 株式会社コナミデジタルエンタテインメント
同訴訟代理人弁護士 城山康文
同 舩越輝
同 鷲見彩奈
同 一圓健太


主文
1 本件控訴を棄却する
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で定義するもののほかは、原判決に従うものとする。また、原判決の引用部分の「別紙」を全て「原判決別紙」に改め、「被告会社」を「控訴人会社」に、「被告Y」を「控訴人Y」にそれぞれ読み替える。
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1)本件は、被控訴人が、控訴人らに対し、原判決別紙被告ら物件目録記載2の各楽曲(以下、まとめて「本件楽曲」という。)及び本件楽曲を収録した同目録記載1のアルバム(以下「本件アルバム」ということがある。)に係る控訴人らの次のアの各侵害行為により、被控訴人が著作権を有する原判決別紙著作物目録記載の各楽曲のうち赤字で記載された楽曲(原告楽曲)に係る著作権が侵害されたと主張して、次のイの各請求をする事案である。
ア 侵害行為
(ア)控訴人らが原告楽曲に依拠してオーケストラ演奏のための本件楽曲の譜面を作成し、もって原告楽曲の編曲をした行為(本件編曲行為)は、被控訴人の原告楽曲に係る著作権(翻案権。著作権法(以下、単に「法」ということがある。)27条)を侵害したものである。
(イ)控訴人らが本件楽曲をオーケストラ等により演奏させてこれを録音し、もって録音・複製をした行為(本件録音・複製行為)は、被控訴人の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(複製権。法28条、21条)を侵害したものである。
(ウ)控訴人らが本件楽曲及び本件楽曲を収録したコンパクト・ディスク(本件CD)を音楽配信サイト等において販売し、もって本件楽曲及びその複製物の譲渡・配信をした行為(本件譲渡・配信行為)は、被控訴人の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)。法28条、26条の2第1項、23条1項)を侵害したものである。
(エ)控訴人らが本件CDの販売等に当たり、国外で制作された本件CDを輸入した行為(本件輸入行為)は、被控訴人の著作権を侵害したものである(法113条1項1号)。
イ 請求
(ア)法112条1項に基づき、本件アルバム及び本件楽曲の複製、送信可能化及び公衆送信の差止め並びに本件CDの複製、輸入及び譲渡の差止めを求めるとともに、同条2項に基づき、本件楽曲の音源を収録した媒体及び本件CDの廃棄を求める請求
(イ)不法行為(民法709条、719条1項前段)又は会社法597条に基づき、損害賠償合計429万1680円及びうち379万1680円(法114条2項又は3項の損害金)に対する不法行為の後である令和2年4月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5%の割合による、うち50万円(弁護士費用相当損害金)に対する訴状送達の日の翌日である令和3年2月24日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による各遅延損害金の連帯支払を求める請求
(2)原審は、前記(1)ア(ア)〜(エ)の本件編曲行為による翻案権の侵害、本件録音・複製行為による複製権の侵害、本件譲渡・配信行為による譲渡権及び公衆送信権(送信可能化権を含む。)の侵害並びに本件輸入行為による法113条1項1号に基づく著作権の侵害をいずれも認め、同イ(ア)の被控訴人の差止め及び廃棄の各請求をいずれも認容するとともに、同イ(イ)の損害賠償請求について、法114条2項の損害を61万6403円と、同条3項の損害を150万円と認め、より高額である後者の150万円及び弁護士費用相当額15万円の合計165万円並びにうち150万円に対する令和2年4月1日から年5%の割合による、うち15万円に対する令和3年2月24日から年3%の割合による各遅延損害金の連帯支払を控訴人らに請求する限度で認容し、その余の損害賠償請求を棄却した。
(3)原判決を不服として、控訴人らが控訴を提起した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり改め、3のとおり控訴人らの当審における追加主張及び補充主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2ないし4に記載するとおりであるから、これを引用する(以下、次のとおり改めた後の原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2(前提事実)を単に「前提事実」といい、同2中の項目を「前提事実(1)」などとして表す。)。
(1)原判決4頁12行目〜13行目の「3日に」の次に「同州の法律に基づいて」を加え、同頁19行目の「日本事務所の」を「日本事務所作成名義の書面において」に改める。
(2)原判決6頁10行目の「「原告著作物」欄の上段に」を「番号6の楽曲については「原告著作物」欄の上段に、同19及び23の楽曲については同欄のそれぞれ中段及び下段に」に改め、同頁11行目の「参考にして」の次に「本件楽曲の」を加え、同頁11行目〜12行目の「その中段及び下段に」を「同欄のその余に」に改める。
(3)原判決7頁7行目の「本件楽曲」を「本件楽曲の一部」に、同行目の「演奏風景等として」を「演奏風景とともに」に、同頁13行目の「なっており」から「これが」までを「なっており(この点、サポーター等は、サポート金額の入力時に20ドル(約2200円)を足すことで、追加CD(2枚まで)の購入が可能であるともされていた。)、平成31年4月頃、それらの提供が」に、同頁19行目の「音楽配信サービス」を「本件音楽配信サイト」に、同頁21行目の「表示されている」を「表示されており、また、製作はCLASSICAL社によると表示されている」に、同頁26行目の「などとも」を「、「PlannedbyVGMClassicsLLC」、「ProducedbyCLASSICALNOVALTDinIL」などと」にそれぞれ改め、同8頁5行目の「27」の次に「、38」を加える。
(4)原判決8頁11行目の「しており」の次に「、使用予定の楽曲は日本の著作権法69条及びアメリカの著作権法115条の定める条件のいずれか、又は双方を満たしている旨を述べ」を加え、同頁22行目の「原告書面1がいずれも」を「原告書面1の記載内容については」に改め、同頁26行目の「事務所の」の次に「「CS担当」と称する」を加え、同9頁6行目の「担当として」を「「代理連絡先」である「担当」として」に、同頁8行目の「行う旨の」を「行うもので、期限までに回答が得られなかった場合又は許諾が拒否された場合には、イスラエルの商慣習と著作権者の許諾を必要としないイスラエル著作権法32条の定める制度に従い、被控訴人宛ての公的手段での使用料の支払をもって許諾に代える旨を記載した」に、同頁10行目の「CLASSICAL社に対し」を「CLASSICAL社の控訴人Yに対し、その肩書住所地に宛てて」に、同頁21行目の「本件CD」から「事務局」までを「本件音楽配信サイトの一つであるBOOTHの事務局」に、同頁22行目の「本件楽曲」を「本件アルバム」にそれぞれ改める。
(5)原判決10頁18行目の「本件CD記載」を「本件CDのクレジットに記載」に、同11頁9行目の「氏名」を「名前」に、同19頁12行目の「高額な」を「より高額な」にそれぞれ改める。
3 当審における控訴人らの追加主張及び補充主張
(1)争点1〜5について
ア 著作権者について
 原告楽曲の著作者は「A」であり、被控訴人は著作権者ではない。
イ 本件CDとそのデジタルレコードの製作等がイスラエルにおいて適法にされたこと
(ア)本件CDとそのデジタルレコードは、CLASSICAL社が、イスラエルにおいて、イスラエル著作権法32条の適用により適法に製作、複製し、頒布したものである。
(イ)CLASSICAL社は、名目的な法人ではない(乙1、2、4、9、134〜136)。控訴人らは、CLASSICAL社との契約(乙4)に基づいて、後に本件CD及びそのデジタルレコードとなる、いわゆる「原盤」になる素材の検討に関与したにすぎず、本件CD等の複製、頒布等には関わっていない。
(ウ)VGM社には実態があり(甲3、4。民訴法228条2項及び5項参照)、外国会社として日本法人と同一に扱われる(会社法2条1項2号、民法35条2項)。控訴人らは、VGM社の株主や代表者などでもない。
ウ ベルヌ条約の定め
(ア)本件CD及びそのデジタルレコードは、ベルヌ条約13条に沿うイスラエル著作権法32条の下で適法に製作等されたもので、日本の著作権法の効力は及ばない。
(イ)国外で製作・複製された本件CD等の数を輸入された数とみなすことは、ベルヌ条約にも著作権法の属地主義等にも反している。また、本件CD及びそのデジタルレコードの全てが日本で複製・頒布されたとみなして損害を算定することは不合理である。
エ 翻案権について
(ア)原告楽曲については、既にオーケストラでの演奏・録音がされていた(甲17〜20、23、24の1・2、乙104)から、オーケストラの演奏が想定され、また可能であることは、原告楽曲の本質である。したがって、オーケストラ演奏そのものは被控訴人の意に反したものではなく、また、「音」から譜面に書き起こす際に多少の変更が起こってしまうことはやむを得ない(法20条2項4号)ものであるから、翻案に当たらない。
 したがって、翻案権の侵害はなく、単なる複製である。
(イ)ある作品に接した者が原曲と同じであると感じて実質的同一性を認める場合には、「原曲の表現上の本質的な特徴を直接体得することのできる別の著作物」であるとはいえず、その作品の制作は著作権法上の編曲には当たらないところ、前記(ア)の点のほか、本件CD及びデジタルレコードに接した者の感想(甲27、乙39)からすると、それらの者は「別の著作物」であると感じておらず、本件楽曲は「原曲」であってその制作は編曲ではない。
オ 検討が国外で行われたこと等
(ア)ピアノの演奏は浜松市で行われたが、録音(物への固定)は、ExpanDrive(乙52の1・3)を使用して国外サーバーに対して行われており、国内で録音が行われたものではない(乙138)。また、譜面の検討も、国外で行われた(乙139、140)。
(イ)オーケストラでの録音は、ハンガリーで行われたもので、日本の著作権法の域外である。
(ウ)デジタル世界における音楽のミックス、マスタリング等は、基本的に一つの記録体(ハードディスク、クラウド・ストレージ等)の中で素材の入替えを行うもので、システム・ミックス(乙4)もそのように行われたから(乙145、146)、有形的な再製(法2条1項15号)である複製は行われていない(乙144)。
カ 争点4及び5について
(ア)控訴人らは、本件譲渡・配信行為も本件輸入行為も行っていない。
(イ)ハンガリーでのオーケストラ録音を含む本件CDは、イスラエルにおいて適法に製作された物であり、その演奏は原告楽曲の複製であって、仮にそれが日本で作られたとしても、商用レコードに法定ライセンス制度(法69条)を利用したなら作成が認められたものであって、侵害となるべき行為に当たらず、また、法30条の3により、仮にピアノやオーケストラの演奏が日本で録音されていたとしても、また、録音のための楽譜の作製が日本で行われていたとしても、適法な利用となる。この点、法30条の3は、実際に裁定を受けたかを問わない。
(2)争点6について
ア VGM社名義の3万2000ドルの送金は、本件楽曲の制作に直結する最初の分割払に係るものであって、オーケストラによる74分の楽曲録音に係る費用としては一般的なものといえる経費である(乙24、43の1・2、乙45、46、141)。
イVGM社は独立の主体であり、控訴人らが本件CDとそのデジタルレコードに関して報酬を受け取ったこともないこと(乙84〜89、120、121)からして、VGM社の利益を算入することは相当でなく、仮に、合算をするのであれば、VGM社が支払っている製作に関わる経費は控除されるべきである。
ウ 本件CDは、実際に、イスラエルにおいて17NISで販売されていた(乙135、136)。
 そして、本件CD及びそのデジタルレコードは、イスラエルで法定ライセンスに従って適法に製作されたもので、それを国内で製作されたものとして司法判断の対象にするのは、条約及び裁判所の管轄権に反する、また、法113条1項1号の「みなし侵害」の適用は厳格であり、国外への頒布目的は含まれず、さらに、「物」に限られておりダウンロード等は含まれない。
 その上で、みなし侵害の対象となる頒布目的の輸入物は、本件CD100枚のみ(乙50の3枚目)であり、それを前提とすると、使用料相当額は2万0493円(税込)となる(乙80)。販売価格を17NIS(565円)とすると、1万5433円(税込)となる(乙148)。
 また、仮に、デジタルレコードについて、国内においては配信不可であることを根拠として使用料を算定すると、デジタルレコード配信に係る証拠(乙2、69)を踏まえ、かつ、「7.7%」又は「7.7円」のいずれか多い方という使用料の基準(乙149)を踏まえると、1万5447円、3万0919円又は4万3852円のいずれかと算定されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為はいずれも被控訴人の著作権を侵害するもので、控訴人らはその責任を負い、被控訴人に対して165万円及びこれに対する遅延損害金を連帯支払すべき義務を負うと判断する。その理由は、2のとおり改め、3のとおり控訴人らの当審における追加主張及び補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(以下、単に「原判決の第3」という。)の1〜7に記載するとおりであるから、これを引用する。
2 原判決の訂正
(1)原判決23頁12行目の「、争いのない事実」を「に加え」に改める。
(2)原判決24頁6行目末尾の次に改行して次のとおり加える。
「 本件クラウドファンディングは、www.(以下省略)上で行われたところ、平成30年7月20日までに開始されたキャンペーンについては、「米国アマゾン社のサービスシステムの影響で」「近日中にキャンセル」されるが「新しくキャンペーンを始め」ることとされ、一旦キャンセルがされた上で、間もなく、本件クラウドファンディングに参加して「限定オーケストラCDを手に入れ」る期限を平成30年9月20日とするものとして、新たなキャンペーンが行われた(甲34、36、44)。同キャンペーンのVGM社の説明ページには、寄附を募るための説明の一環としての「FAQ(よくある質問)」として、「Q.このレコードはライセンスを受けていますか?」(英語版では「<Areyourrecordslicensed?>」)という質問が記載され、「A.はい、このプロジェクトのレコードはライセンスを受けて制作されることになります。」(英語版では「Inaword,yes,theupcomingrecordswillbelicensed.」)などと記載されていた(甲34。なお、上記キャンセルされた当初のキャンペーンの説明にも同旨の記載があった(甲36)。)。そして、VGM社のウェブサイトにおいては、平成30年9月20日、本件クラウドファンディングに成功したこと、平成31年1月に日本でピアノによる、同年3月にブダペストで管弦楽団による録音が音楽監督である控訴人Yのもとで行われ、寄附者への「報酬」の発送は同年4月を予定していることが告知された(甲35)。」
(3)原判決24頁22行目の「説明した」の次に「(乙57)」を加え、同頁23行目の「VGM社に対し」を「VGM社の日本事務所の「日本国内全権代理」の控訴人Y及び「ライセンス&CS担当」の「B」に宛てて」に改め、同頁25行目の「回答した」の次に「(甲66)」を加え、同25頁4行目冒頭から6行目末尾までを削除する。
(4)原判決25頁7行目〜8行目の「設立された」の次に「(乙9)」を加える。
(5)原判決25頁25行目の「担当として」を「「代理連絡先」である「担当」として」に改め、同26頁6行目の「記載されている」の次に「(甲40)」を加え、同頁8行目の「強制許諾での」を「強制許諾により本件アルバムの」に改める。
(6)原判決26頁20行目の「2000枚」の次に「(本件CDは23トラックで構成されているため、単曲のデジタルシングルの23枚(曲)分でデジタルアルバム1枚と換算する。)」を、同頁21行目の「17NIS」の次に「+VAT(付加価値税)」をそれぞれ加え、同27頁2行目の「支払」を「支払い」に、同頁3行目の「支払」を「支払等」にそれぞれ改める。
(7)原判決27頁7行目の「被告Yは」から8行目の「提出した」までを「裁判所に提出された債務者VGM社名義の2件の書類の上包みには、米国内のVGM社の住所が記載される一方で、返送先として控訴人Yの肩書住所地が記載されたり、「川越西」の消印がされるなどしていた」に改める。
(8)原判決27頁13行目の「本件クラウドファンディングにより」を「本件クラウドファンディングについて積極的に情報発信をして」に、同頁19行目の「同年12月」から22行目〜23行目の「称して」までを「本件クラウドファンディングの締切り間際の同年9月10日に原告書面1によりこれが拒否されると、特段担当者の交代等が告げられることなくVGM社の「ライセンス&CS担当」の「B」名義で同月14日付けのVGM社書面2が被控訴人に対して送付され、その後、本件クラウドファンディングが成功して翌月には予定された録音の開始を控えた同年12月10日に、被控訴人からVGM社の日本事務所の日本国内全権代理の控訴人Y及び「ライセンス&CS担当」の「B」に宛てて原告書面2が送付されると、同月19日付けの「B」名義のVGM社書面3をもって、同年11月には本件楽曲の制作等に関する事業を「イスラエル法人」に移譲したことなどが被控訴人に伝えられた(前記(1)イ及びウ)。その後、平成31年1月10日に至ってイスラエルでCLASSICAL社が設立され、また、VGM社のウェブサイトで告知されていた予定のとおりに同月及び同年3月に本件楽曲の録音等が控訴人Yを音楽監督として実施された後、同月27日付けで、控訴人Yは、CLASSICAL社の「代理連絡先」である「担当」として」に、同頁25行目の「被告会社の名義で」を「控訴人Yが代表社員を務める控訴人会社は」に、同頁26行目の「カ」を「イ、エ〜カ」に、同28頁3行目〜4行目の「担当者と称して」を「担当者等といった立場で、又はこれを称して」に、同頁10行目の「本件楽曲の」から11行目の「役割」までを「その上で、同年5月、CLASSICAL社、VGM社及びILDistribution社の間で、VGM社が資金を調達し、CLASSICAL社が製作した本件CD等をCLASSICAL社がILDistribution社に販売し、ILDistribution社において本件クラウドファンディングの寄附者への本件CDの送付等を行うことが合意され、さらに、同年6月、本件音楽配信サイトにおいて、それら3社の名称が適宜表示されて本件楽曲の販売等がされるとともに、CLASSICAL社から担当者を記載しないで一方的に使用料の支払等を申し出る旨の書面が被控訴人に送付されたところである(前記(1)キ)。このような本件楽曲の制作から本件CD等の販売に至るまでの一連の過程やそこにおける控訴人Yの役割に加え、そこに現れた4社(VGM社、CLASSICAL社、控訴人会社及びILDistribution社)のうち少なくとも3社(VGM社、CLASSICAL社及び控訴人会社)につき、控訴人Yが、代表者、日本国内全権代理、代理連絡先などとして実質的に関与していた一方で、控訴人Y以外には、「B」という者(なお、その実在を裏付ける他の証拠はない。)を除き、上記一連の過程に上記4社の関係者として関与した自然人の存在を証拠上認めるに足りないこと」にそれぞれ改める。
(9)原判決28頁13行目の「少なくとも被告会社」を「控訴人会社の代表者として」に、同頁14行目〜15行目の「相互に意を通じ、各社の法人格を使い分けつつ」を「相互に意を通じて協力し合い、又は被控訴人の許諾の意思の有無にかかわらず原告楽曲を利用するという目的を達成するために、少なくともVGM社及びCLASSICAL社の法人格を濫用して、ILDistribution社と相互に意を通じて協力し合い」に、同頁18行目の「少なくとも」から20行目の「あること」までを「控訴人会社との共同に加え、VGM社、CLASSICAL社及びILDistribution社と共同して、又はVGM社及びCLASSICAL社の法人格を濫用した上でILDistribution社と共同して行ったものであり、それらの行為を控訴人Y及び控訴人会社の行為に含めて評価するのが相当であること」にそれぞれ改める。
(10)原判決29頁12行目の「少なくとも」から13行目の「見られる」までを「控訴人ら自身の行為に含めて評価するのが相当である」に、同頁18行目の「配信の不可欠の前提となる行為」を「配信が著作権を侵害するものとして差し止められること等を避けようとする行為」に、同30頁1行目の「少なくとも」から2行目の「見るのが」までを「控訴人ら自身の行為に含めて評価するのが」にそれぞれ改める。
(11)原判決33頁22行目の「「検討の過程における利用」」から23行目の「当たらない」までを「そもそも日本の著作権法及び司法権の管轄にない」に、同頁25行目の「少なくとも」から26行目の「行ったもの」までを「控訴人ら自身の行為に含めて評価するのが相当なもの」に、同行目の「制作」を「製作」に、同34頁3行目の「本件楽曲の」から同頁5行目末尾までを「ハンガリーでのオーケストラ演奏及びその録音は日本の司法権の管轄にないとの控訴人らの主張が、国際裁判管轄についていうものであるとすると、そもそも本件訴えでは応訴管轄が認められるとともに、控訴人Yは国内に住所があり、控訴人会社はその主たる事務所又は営業所が国内にある上、後記3(1)イのとおり、控訴人らによる本件編曲行為、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為は控訴人らによって実行された相互に関連した一連の行為であって国内において本件譲渡・配信行為の結果が発生しているものであるところ、本件訴えは、これらの行為につき、不法行為に基づく損害賠償請求をするともに、違法行為により権利利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあることを理由とする差止及び廃棄請求であることからして、我が国の裁判所に裁判権が認められる(民訴法3条の2第1項、2項、3条の3第8号)。さらに、ハンガリーでのオーケストラ演奏及びその録音は我が国の著作権法の管轄にないとの控訴人らの主張が、準拠法についていうものであるとすると、上記のとおり、控訴人らによる本件編曲行為、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為は控訴人らによって実行された相互に関連した一連の行為であって国内において本件譲渡・配信行為の結果が発生しているものであって、我が国よりも明らかに密接な関係がある他の地があるともいえないことに照らすと、我が国の著作権法が適用されるものである(法の適用に関する通則法17条、20条)。」にそれぞれ改める。
(12)原判決34頁9行目の「共同して」の次に「、又は控訴人YにおいてVGM社及びCLASSICAL社の法人格を濫用して控訴人会社とともに」を加える。
(13)原判決35頁6行目の「356万円」の次に「(1万円未満切捨て)」を、同頁9行目の「20万0601円」の次に「(1円未満切捨て)」をそれぞれ加え、同頁15行目〜16行目の「前提として調達されたものであり」を「専らの目的として調達されたものとみられ(なお、控訴人Yは、令和2年6月20日のYouTube配信でも、VGM社の活動一般に関し、CDの売上げに係る利益で制作費を回収することは困難であるため、専ら制作費に充てるためにクラウドファンディングを利用している旨を述べていた(甲58)。)、本件クラウドファンディングの説明においては、本件CDの作成に係るプロジェクトが実現するための目標金額が1万5000ドル(約165万円)であり、同時に2万7500ドル(約303万円)と4万ドル(約440万円)という目標も設定し、より多くの寄附が得られた場合には収録時間を増やすことで対応する旨等が示されていたところ(甲34)、前記356万円は上記目標の範囲内にあったもので、また」に、同頁17行目の「売上額」を「法114条2項の「利益」を算定する基礎」にそれぞれ改める。
(14)原判決36頁9行目の「明確でない」の次に「(この点、控訴人らは、上記3万2000ドルの送金がいずれも本件CDの製作に係る支出であると主張するが、当該送金にはそもそも「DESCRIPTION」欄に「Suikoden」と記載されているものと「Suikoden2」と記載されているものが混在しているところであって、本件CDの表題に照らしても、本件CDの製作との関連は不明であるといわざるを得ない。)」を加える。
(15)原判決37頁21行目の「この」を「その算定額の」に、同頁23行目の「CLASSICAL社文書1」を「CLASSICAL社書面1(甲40)」に、同38頁10行目の「著作権者」を「製作者」にそれぞれ改める。
3 当審における控訴人らの追加主張及び補充主張に対する判断
(1)争点1〜5に関する追加主張及び補充主張について
ア 著作権者について
 控訴人らは、被控訴人は原告楽曲の著作権者ではないと主張するが、控訴人らは、原審において、原告楽曲の著作権が被控訴人に属することを認めていたところである(原審における控訴人らの答弁書5頁、被告準備書面(1)の2頁等)。そして、原告楽曲は、当時、KCET社に勤務していた従業員であるA(現在はA’)がKCET社内の上司からの指示に従い、職務として制作したものであって、前提事実(2)のとおり、コナミ社とKCET社との間の開発委託契約に基づき、その著作権がコナミ社に帰属することになることから、KCET社の名義で公表の予定がなかったものであるが、公表するとすればKCET社が著作者として公表されるべきであったといえるもので(甲76〜78)、上記契約やその後の会社の合併や分割に基づき、原告楽曲について被控訴人が著作権者と認められることは、前提事実(2)のとおりである。以上に反する控訴人らの主張は、採用することができない。
イ 本件CDとそのデジタルレコードの製作等がイスラエルにおいて適法にされたとの主張について
(ア)控訴人らは、CLASSICAL社が名目的な法人でないことや、VGM社にも実態があることなどを主張するが、訂正して引用した原判決の第3の1(2)で認定説示したとおり、控訴人らは、VGM社、CLASSICAL社及びILDistribution社と共同して、又は控訴人YにおいてVGM社及びCLASSICAL社の法人格を濫用して控訴人会社とともに、ILDistribution社と共同して、本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為を行ったものであり、それらの行為は、控訴人らの行為に含めて評価するのが相当であって、上記認定判断は、控訴人らの上記主張によって左右されるものではない。
(イ)控訴人らは、本件CDとそのデジタルレコードは、CLASSICAL社が、イスラエルにおいて、イスラエル著作権法32条の適用により適法に製作、複製し、頒布したものであると主張するが、CLASSICAL社の行為を控訴人らの行為に含めて評価するのが相当であることは、前記(ア)のとおりである。
 また、訂正して引用した原判決の第3の1(2)ア及びウで指摘した点からして、CLASSICAL社は、被控訴人の許諾の意思の有無にかかわらず原告楽曲を利用するという目的を達成するために本件楽曲の制作等に関与したものとみられ、また、そのために設立された名目的な法人であることをうかがわせる事情も存するところである。さらに、訂正して引用した原判決の第3の1(1)及び前提事実(4)の事実経過に照らすと、控訴人Y又は控訴人Yと共同したVGM社等においては、原告楽曲については使用料の支払をすれば法69条等により著作権侵害を問われないとの誤った理解を前提に被控訴人にその使用を申し入れる一方、他方で本件クラウドファンディングによる資金調達を進め、多額の寄附を得たところ、被控訴人から専門家の確認等を経たものであるとして同条の適用等がない旨の指摘を受けたものの、本件楽曲の制作を再検討などすることなく、被控訴人の対応を意に介することもなく、当初の予定どおり本件楽曲の制作に係る作業を進めるとともに、著作権法の保護が直接及ばない国で本件CDの製作等を行うことを企図し、その形式を整えた上で、国内でこれらの譲渡・配信行為の結果を発生させたものであることが推認され、この推認を覆す事情は見当たらない。そうすると、本件編曲行為、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為の一部がイスラエルで行われるなどし、オーケストラ演奏の録音がハンガリーで行われたものであったものの、本件編曲行為、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為については、控訴人らによって実行された相互に密接に関連した一連の行為である上に、少なくとも、そのうち、国内において本件編曲行為(譜面の作成作業)、本件録音・複製行為の一部(本件楽曲のピアノ演奏及びその録音)がされ、本件譲渡・配信行為の結果が国内において発生していることからしても、訂正して引用した原判決の第3の認定判断を左右するものではない。
 したがって、本件CDの制作等がイスラエルにおいて行われたものであるため被控訴人の著作権が及ばない旨をいう控訴人らの主張は、いずれも採用することができない。
ウ ベルヌ条約の定めについて
(ア)ベルヌ条約の定めについての控訴人らの主張のうち、本件CDの製作等がイスラエル著作権法の下で適法にされたことをいうところは、前記イ(イ)の点に照らし、訂正して引用した原判決の第3の認定判断を左右するものではない。
(イ)控訴人らは、国外で製作・複製された本件CD等の数を輸入された数とみなすことは、ベルヌ条約にも著作権法の属地主義等にも反するなどと主張するが、前記イ(イ)に照らし、製作・複製に関する行為の一部が国外で行われたとしても、本件CD等の製作・複製枚数を基に法114条3項の損害額を算定する認定判断には合理性が認められ、控訴人らの主張は採用することができない。
エ 翻案権について
(ア)控訴人らは、本件編曲行為が翻案に当たらず単なる複製であると主張するが、それが翻案に当たるというべきことは、訂正して引用した原判決の第3の2(1)のとおりである。原告楽曲について、既にオーケストラでの演奏・録音がされていたといった事情は、上記判断を左右するものではない(なお、控訴人Y自身、後に、YouTube配信において、単にゲーム音楽のメドレーを作るなどというものではなく、オーケストラの曲としてしっかり成立するものを作るのが基本方針であり、「幻想水滸伝U」についても、改めてゲームをプレイして新たに編曲をした旨述べていたところである(甲58の10〜11頁)。)。
(イ)控訴人らは、本件楽曲に接した者が原曲と同じであると感じて実質的同一性を認める場合には、「原曲の表現上の本質的な特徴を直接体得することのできる別の著作物」であるとはいえないなどと主張するが、独自の見解であって採用することができない。
オ 検討が国外で行われたこと等
(ア)控訴人らは、ピアノの演奏の録音や譜面の検討に、国外のサーバーが用いられたもので、それゆえそれらは国外で行われた旨を主張するが、収録行為や譜面の作成のための機器の操作が国内で行われたと認められる(弁論の全趣旨)以上、単にそれらの記録に係るサーバーが国外にあったということをもって、本件編曲行為や本件録音・複製行為が国外で行われたということはできないというべきである。
(イ)控訴人らは、オーケストラの演奏の録音がハンガリーで行われたことを指摘するが、前記イ(イ)で説示した点に照らし、上記の点も訂正して引用した原判決の第3の認定判断を左右するものではない。
(ウ)控訴人らは、デジタル世界における音楽のミックス、マスタリング等は、有形的な再製(法2条1項15号)である複製ではないと主張するが、電子計算機における利用に係る記録についても複製は観念できるのであって(法47条の4、79条等参照)、控訴人らの上記主張は採用することができない。
カ 争点4及び5について
(ア)控訴人らは、本件譲渡・配信行為も本件輸入行為も行っていないと主張するが、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為を控訴人らの行為に含めて評価するのが相当であることは、訂正して引用した原判決の第3の1(2)で認定説示したとおりである。
(イ)控訴人らは、法69条や30条の3について主張するが、法69条が定める要件が満たされているとは認められず、また、法30条の3によって控訴人らの行為が適法となるものでないことは、訂正して引用した原判決の第3の2(2)で認定説示したとおりである。なお、前記イ(イ)及びエ(ア)などに照らすと、本件CDがイスラエルにおいて適法に製作された物であることや、原告楽曲の複製であることをいう控訴人らの主張をもって、訂正して引用した原判決の第3の認定判断が左右されるものではない。
(2)争点6に関する補充主張について
ア 控訴人らは、VGM社名義の3万2000ドルの送金が経費として差し引かれるべきことを主張するが、控訴人らが当審で追加した証拠(乙141)を考慮しても、訂正して引用した原判決の第3の7(1)イの認定判断が直ちに左右されるものとはいい難い。また、その点をおくとしても、当該経費の問題は、専ら法114条2項の損害の算定に係るものであって、同条3項の損害として150万円(及び弁護士費用相当額15万円)が認められるとの認定判断に何ら影響するものではない。
イ 控訴人らは、VGM社の利益を算入することは相当でなく、仮に、合算をするのであれば、VGM社が支払っている製作に関わる経費は控除されるべきであると主張するが、上記の主張は、訂正して引用した原判決の第3の7(1)の認定判断を左右するものではなく、また、同条3項の損害として150万円(及び弁護士費用相当額15万円)が認められるとの認定判断に何ら影響するものではない。
ウ 控訴人らは、本件CDが実際にイスラエルにおいて17NISで販売されていたこと、イスラエルで法定ライセンスに従って適法に製作等された本件CDを国内で製作されたものとして司法判断の対象にするのは条約及び裁判所の管轄権に反することなどを主張するが、前者の点は、CLASSICAL社からILDistribution社への譲渡についていうものにすぎないから、訂正して引用した原判決の第3の7(2)の認定判断を左右するものではなく(同ウ参照)、後者の点は、訂正して引用した原判決の第3の5(2)のとおりであって、採用することができない。
第4 結論
 よって、当裁判所の前記判断と同旨の原判決は相当であり、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 勝又来未子
 裁判官 中島朋宏は、転補のため、署名押印することができない。
裁判長裁判官 本多知成
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