判例全文 line
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【事件名】“Yahoo!地図”事件
【年月日】令和5年4月14日
 東京地裁 令和3年(ワ)第17636号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年12月16日)

判決
原告 甲
同訴訟代理人弁護士 ア地康文
被告 ヤフー株式会社
同訴訟代理人弁護士 大野誠二
同 木村広行
同 井深大


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、1億1000万円並びにうち1億円に対する令和3年7月27日から支払済みまで年3%の割合による金員及びうち1000万円に対する平成25年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、Zホールディングス株式会社(以下「Zホールディングス」という。)及び株式会社アルプス社(以下「アルプス社」という。)を承継した被告に対し、Zホールディングス及び被告による被告地図目録記載1の地図(以下「Yahoo!地図」という。)の作成及びインターネット上での地図閲覧サービスにおける提供によって、原告が平成8年頃に作成した沖縄県糸満市周辺の地図(以下「原告地図1」という。)並びに原告地図1に基づき作成して特許出願(特願平8−271986号)の願書に添付した【図2】、【図3】及び【図5】の各図面(以下、「原告地図2(図2)」、「原告地図2(図3)」及び「原告地図2(図5)」といい、これらを総称して「原告地図2」という。また、原告地図1及び原告地図2を併せて「原告各地図」という。)に係る原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害され、アルプス社による別紙被告地図目録記載2の各地図(以下、これらを総称して「プロアトラスSV」という。)の作成及び販売並びにZホールディングス及び被告による上記サービスにおけるプロアトラスSVの提供によって、原告各地図に係る原告の著作権(複製権、翻案権、譲渡権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害されたと主張して、Yahoo!地図の作成及び提供について、不法行為又は不当利得に基づき、損害金合計92億7000万円又は不当利得金合計92億4000万円のうち1億円及びこれに対する訴状送達日の翌日である令和3年7月27日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求め、プロアトラスSVの作成、販売及び提供について、不法行為に基づき、損害金合計1億0300万円のうち1000万円及びこれに対する不法行為後の日である平成25年10月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、文芸批評の著述業を営み、地図の作成方法や表現方法等を研究開発する個人発明家である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、検索連動型広告やディスプレイ広告等の広告関連サービス等を業とする会社である。
 Zホールディングス(当時の商号は「ヤフー株式会社」)は、平成20年、アルプス社を吸収合併した。そして、令和元年10月1日、被告は、Zホールディングスから地図事業を吸収分割により承継して、商号を「紀尾井町分割準備株式会社」から現商号に変更し(以下、承継及び商号変更の前後を問わず「被告」という。)、Zホールディングスは、商号を「ヤフー株式会社」から現商号に変更した。
(2)原告各地図
ア 原告は、平成8年頃、原告地図1を作成した(甲1、2の1)。
イ 原告ほか2名は、平成8年10月15日、原告の作成した原告地図2を含む図面を添付して、発明の名称を「住宅地図及びその作成方法」とする特許(以下「本件特許」という。)の出願(特願平8−271986号)をし、原告は、他の2名から特許を受ける権利を譲り受けて、平成18年4月28日、上記出願に係る特許権(特許第3799107号。以下「本件特許権」という。)の設定登録を受けた(甲2、3、8、9、乙13)。
(3)プロアトラスSV
ア アルプス社は、別紙被告地図目録記載2(1)の地図を作成し、平成17年、これを販売した。また、アルプス社は、同目録記載2(2)の地図を作成し、平成19年、これを販売した。
イ 株式会社クレオは、平成19年に別紙被告地図目録記載2(3)の地図を、平成20年に同目録記載2(4)の地図を、平成21年に同目録記載2(5)の地図を、平成22年に同目録記載2(6)の地図を、それぞれ販売した。
 また、株式会社筆まめは、平成23年、同目録記載2(7)の地図を販売した。
(4)Yahoo!地図
 被告は、平成22年以降、Yahoo!地図を公衆によって直接受信されることを目的として送信を行った。
3 争点
(1)原告地図1について
ア 原告地図1に関する著作権侵害の成否(争点1−1)
イ 原告地図1に関する著作者人格権侵害の成否(争点1−2)
(2)原告地図2について
ア 原告地図2に関する著作権侵害の成否(争点2−1)
イ 原告地図2に関する著作者人格権侵害の成否(争点2−2)
(3)被告及びアルプス社の故意又は過失の有無(争点3)
(4)損害額(争点4)
(5)不当利得額(争点5)
(6)消滅時効(争点6)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1−1(原告地図1に関する著作権侵害の成否)について
(原告の主張)
(1)プロアトラスSVが原告地図1を複製又は翻案したものであること
ア 原告地図1とプロアトラスSVが類似することについて
(ア)まず、著作権を主張する者の作成したものと被疑侵害者の作成したものの双方に共通している部分(同一性のある部分)を取り出し、そこが創作的な表現か否かを判断するという手法により、原告地図1とプロアトラスSVとの類似性、すなわちプロアトラスSVから原告地図1の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるか否かについて検討する。
a 共通部分の抽出
(a)原告地図1とプロアトラスSVの具体的な記載内容を対比すると、以下の共通部分が認められる。
@住宅地図において、
A検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに(当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は住宅及び建物のポリゴンのほぼ中央に紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく必ずしもポリゴンの内部に収まらずにアラビア数字で記載されている。)、
B検索の目安となる公共施設や著名ビル等については、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を記載し(名称は、公共施設や著名ビル等のポリゴンの外側に、横書きで記載される。)、
C縮尺を適宜圧縮して、広い鳥瞰性を備え、
D区画に応じて背景の色を変更し、配色は、全体的に淡い黄色を基調としつつ、ポリゴンに灰色等の色を用い、ポリゴンとその背景を異なる色とする。
(b)また、原告地図1とプロアトラスSVを対比すると、素材の取捨選択の観点からEの共通部分が、素材の配置及び表現方法の観点からFの共通部分が、それぞれ認められる。
E素材として、「道路・河川」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」、「一般住宅及び建物の個別建物形」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」及び「建物番地」を記載することを選択し、住宅地図の一般的な素材である、一般住宅及び建物に関する「居住人氏名」や「建物名称」、「地類界」(宅地の境等)、「等高線」その他地理に関する素材を記載しないことを選択している。
F「道路・河川」は、盛土(土堤)やコンクリート被覆等を記載せず、シンプルに、道路の形状をその両外延を示す線で表現するとともに、河川をその両外延を示す線で表現し、かつ、内部を水色で着色している。
 「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」及び「一般住宅及び建物の個別建物形」は、建物のポリゴンの集約を行うことなく、個別の建物の形を影なしの建物のポリゴンで表示している。
 「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」は、原則として、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、必ずしも建物のポリゴンの内部に収まらずに、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく記載している。
 「建物番地」は、原則として、建物のポリゴンのほぼ中央に、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく、必ずしも建物のポリゴンの内側に収まらずに、アラビア数字で記載している。
 「区画境界」は、一点鎖線又は破線で境界を表示しつつ、異なる色で異なる区画を着色している。
 「縮尺」は、原告地図1が約1/3000であり、プロアトラスSVが約1/2600である。
b 共通部分が創作的表現であること
(a)前記a(a)Aについて、各々の事実は地図上に記載しないこともできるし、記載するとしても一般住宅及び建物を表現する方法はいくつもあり、仮に番地を表示するとしても、建物のポリゴンの表示の有無及びその方法(背景と別の色にするかどうか、影を付けるかどうか)、番地をポリゴン内に記載するか否か、ポリゴン内での番地の記載場所(中央か、ポリゴンの四隅か)、番地の記載の方向(常に一定方向か、ポリゴンの長辺又は短辺方向に合わせるか)など、千差万別の表現方法があるから、同Aが具体的な表現であることは明らかである。そして、各表現において必要とされる創作性は、高い独創性や学術性、芸術性は問題とならず、何らかの個性が表れていれば足りるところ、原告地図1の作成当時、同Aの共通部分と同じ表現を有する地図は一つも存在しなかったから、ありふれたものであったということはできない。
(b)前記a(a)Bについて、ある検索の目安となる公共施設や著名なビル等にどのような名称が付けられ、どこに所在し、どのような形をしているかという事実を表すため、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を記載し、併せてポリゴンを記載したものであるから、表現であることは明らかである。そして、原告地図1の作成当時、公共施設や著名ビル等の名称は土地筆界内又はポリゴンの内部に収まるように記載されることが多く、名称が「・」に続けて記載されることがあったとしても、「・」の上下左右に混在して記載され、その方向も縦書きと横書きが併存していることが一般的であったから、同Bの表現がありふれたものであったということはできない。
(c)前記a(a)AないしCについて、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除いた住宅及び建物については名称の記載を省略し、ポリゴン及び番地のみを記載することにより、建物スペースを大きく取る必要がなく、文字の視認可能性を残しつつ、全ての居住人名や建物名称が記載された地図に比べて縮尺を相当程度圧縮することができる。また、一部の建物のみに建物名称等を記載する場合には、建物記載スペースをはみ出して記載することも、建物の記載スペースに印を付け、そこから線を引いて建物名称等を記載することも可能である。さらに、一般住宅及び建物について、ポリゴンの中に番地のみを、その中央付近に大きく表示することで、縮尺を圧縮したとしても、目視により目的とする番地の建物を容易に探し出すことができる。このように、同AないしCは、これらが相まって、広い鳥瞰性と検索性を備えることが可能となり、その結果、個人住宅の居住人名を省略することにより個人のプライバシーにも配慮した住宅地図とすることができるものであるから、創作性が認められることは明白である。
(d)前記a(b)Eについて、原告地図1の作成当時、住宅地図の様式では、「居住人氏名」を記載することが常識であったが、原告はこのような常識にとらわれず、同Eのとおりの素材を選択したものであり、これらの素材は、目的の建物及び住宅を探し出すのに十分であるのみならず、限られた紙面に記載する情報を絞り込むことによって、より広い地域を表示することができ、鳥瞰性が増すことになったものであり、このような素材の選択は極めて独創的なものであった。
(e)前記a(b)Fについて、原告地図1の作成当時、一般的に流通していた住宅地図は、「建物番地」は「居住人氏名」の補助情報のような取扱いを受けており、「居住人氏名」は建物のポリゴン内に大きく記載され、「建物番地」はその隅に小さく表示されるのみであったところ、原告は、このような「建物番地」を一般住宅に関する主たる情報としてそれのみを記載し、さらに、当時珍しい記載方法であった、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで、かつ、必ずしもポリゴンの枠内に収まらずに記載したものであり、当時のいくつもの常識を破るものであって、極めて独創的なものであった。また、「公共施設や著名ビル等の名称」を記載する場合、当該公共施設及び著名ビル等の土地筆界内又はポリゴンの内部に収まるように記載されることが一般的であったところ、原告が工夫を凝らし、原則として「・」の右側に続けて、その名称を横書きで記載したものであるから、当時の常識に反する極めて創作性の高いものであった。
(f)以上のとおり、原告地図1とプロアトラスSVの共通部分は、個別の要素として見たとしても、これらの要素を総体として見たとしても、創作的表現を含むものであることは明らかであるから、原告地図1とプロアトラスSVは、創作的表現において共通すると認められる。
c 被告の主張に対する反論
(a)これに対して、被告は、@原告地図1のポリゴンが全て黄色であるのに対し、プロアトラスSVのポリゴンは建物に応じて異なる配色とされている点で、両者は相違すると主張する。しかし、これらは些細な配色の違いであり、地図を見る者が注意を向けない表現であって、原告地図1の表現上の本質的特徴を感得させなくなるような効果はない。
(b)被告は、A原告地図1とプロアトラスSVで、同一の建物であっても、具体的に同じ名称を記載されているものはない点で相違すると主張する。しかし、地図を見る者にとって重要なのは、検索の目安や著名ビル等の名称がどのように表示されているかであって、建物の具体的な選択や名称が異なるという点は、注意を向けない表現又は創作性の低い部分での相違にすぎない。むしろ、名称が記載される公共施設や著名ビル等は、類似の空間頻度でむらなく配列され、その数もほぼ同じであるから、その具体的な選択にかかわらず、全体で観察した場合に、表現として非常に似通った印象を与えている。
(c)被告は、B原告地図1の建物の名称は、背景とのコントラストが弱く、目立たない印象を与えるが、プロアトラスSVの建物の名称は、背景とのコントラストが強く、小さな字でも目立つ印象を与える点で、両者は相違すると主張する。しかし、「・」の右側に続けて、建物の名称がポリゴンの枠内に収まらず横書きで記載されるという特徴的な表現が類似しており、その色やフォントが多少異なったとしても、地図を見る者が注意を向けない表現又は創作性の低い部分での相違にすぎない。
(d)被告は、C原告地図1の番地はポリゴンからはみ出ることが多い印象が強いが、プロアトラスSVの番地は、ポリゴンの内部に収まり、まとまった印象を与える点で、両者は相違すると主張する。しかし、番地の記載がポリゴンの中央付近を起点としているか、番地の記載の中央がポリゴンの中央付近となるようにしているかの数mmの差にすぎず、位置情報の正確性の限界から、原告地図1及びプロアトラスSVとも多少の誤差があるところであり、全体として地図を見る者に異なる印象を与えるものではないか、地図を見る者が注意を向けない表現又は創作性の低い部分での相違にすぎない。
(e)被告は、D原告地図1の番地は、背景のポリゴンとのコントラストが強く、非常に目立つ印象を与えるが、プロアトラスSVの番地は、ポリゴンとのコントラストが弱く、あまり目立たない印象を与える点で、両者は相違すると主張する。しかし、些細な配色の違いであり、地図を見る者が注意を向けない表現であって、原告地図1の表現上の本質的特徴を感得させなくなるような効果はない。
(f)被告は、E原告地図1の「・」は、そのほとんどがポリゴンの外に記載され、どの建物の名称が記載されているのか判然としないが、プロアトラスSVの「・」又は施設の種類を示すマークは、ほぼ全てポリゴンの内部に記載されており、どの建物の名称が記載されているかが明確である点で、両者は相違すると主張する。しかし、地図を見る者が重視するのは、検索の目安となる公共施設について、「・」の右側に続けて、その名称がポリゴンの枠内に収まらずに横書きで記載されるという特徴的な表現である。また、位置情報の正確性の限界から多少のずれはあるものの、「・」が検索の目安となる公共施設や著名ビル等の位置を示すものであることは明らかであり、付近に競合する名称の記載はなく、どの建物を指しているかは明白であるから、地図を見る者に対して異なる印象を与えるものではない。
(g)被告は、F原告地図1の配色は、全体的に薄く、ポリゴンは比較的目立つものの、道路が目立たない印象を与えるが、プロアトラスSVの配色は、色合いが比較的濃く、道路、土地、小学校の敷地等5の区別が分かりやすい印象を与える点で、両者は相違すると主張する。しかし、些細な配色の違いであり、地図を見る者が注意を向けない表現であって、原告地図1の表現上の本質的特徴を感得させなくなるような効果はない。
(h)被告は、そのほかに、G原告地図1では地図を区画するための黄色系の直線が記載されているが、プロアトラスSVではそのような記載がされていない点、H原告地図1では交差点名が全く記載されていないが、プロアトラスSVでは記載されている点、I原告地図1の縮尺は約1/3000であるが、プロアトラスSVの縮尺は約1/2600である点で、両者は相違すると主張する。しかし、いずれも、地図を見る者が全く気にもしないほどの些細な表現上の相違であり、地図を見る者が注意を向けない表現又は創作性の低い部分での相違にすぎないから、表現上の本質的特徴の感得に影響を与えるようなものではない。
(i)被告は、原告地図1とプロアトラスSVは前記(a)ないし(h)の@ないしIにおいて相違することから、プロアトラスSVから原告地図1の表現上の本質的特徴を直接感得することができないと主張するが、以上のとおり、被告が指摘する点は、いずれも表現上の創作性のない部分又は細部の具体的な表現の相違であって、地図を見る者による原告地図1とプロアトラスSVとの表現上の本質的特徴の感得に影響を与えるようなものではない。したがって、被告の上記主張は理由がない。
(イ)次に、著作権を主張する者が作成したもののみに着目して創作性を判断し、その上で、被疑侵害者の作成したものを観察して、著作権の創作的な表現と認められる部分が再製されているか否かを判断するという手法により、原告地図1とプロアトラスSVとの類似性について検討する。
a 地図の著作物性を判断するに当たっては、各種素材の取捨選択の内容とその配置・表現方法を総合的に観察し、創作性を有するか否かを検討すべきである。
 原告地図1は、あまたある選択肢の中から、原告がその個性、学識、経験等に基づいて、素材の取捨選択及びその配置・表現方法に工夫を凝らして創作したものであり、著作物(著作権法2条1項1号)であることは明らかである。
b そして、原告地図1は、以下の表現上の本質的特徴を有する(主位的主張)。
 「住宅地図において、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成する。」
c 仮に、原告地図1に前記bの表現上の本質的特徴が認められないとしても、原告地図1は少なくとも以下の表現上の本質的特徴を有する(予備的主張)。
 「住宅地図において、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに(当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は住宅及び建物のポリゴンのほぼ中央に紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく必ずしもポリゴンの内部に収まらずにアラビア数字で記載されている。)、検索の目安となる公共施設や著名ビル等については、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を記載し(名称は、公共施設や著名ビル等のポリゴンの外側に、横書きで記載される。)、縮尺を適宜圧縮して、広い鳥瞰性を備え、区画に応じて背景の色を変更し、配色は、全体的に淡い黄色を基調としつつ、ポリゴンに灰色等の色を用い、ポリゴンとその背景を異なる色とする。」
d 原告地図1とプロアトラスSVを対比すると、前記(ア)aのとおりの共通部分が認められるところ、前記b及びcの原告地図1の表現上の本質的特徴は、いずれもこの共通部分の中に含まれている。
e 前記(ア)cのとおり、被告は、原告地図1とプロアトラスSVが相違すると主張するが、いずれもプロアトラスSVから原告地図1の表現上の本質的特徴を感得することの妨げになるものではない。
f したがって、原告地図1は著作物であると認められ、プロアトラスSVにおいて、原告地図1の創作的な表現が再製され、原告地図1の表現上の本質的特徴を直接感得することができると認められる。
(ウ)以上によれば、前記(ア)、(イ)のいずれの検討方法によったとしても、原告地図1とプロアトラスSVは類似するというべきである。
イ プロアトラスSVが原告地図1に依拠して作成されたことについて
(ア)原告地図1とプロアトラスSVは、前記アのとおり、一見して明らかに類似している。
 そして、原告地図1は、従来の住宅地図には見られなかった、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備える」という特徴的な表現を有しており、原告地図1を基に出願された本件特許は、特許庁において新規性及び進歩性が認められ、その出願がされた平成8年当時、唯一無二で、かつ、容易に想到することができないものであった。
 さらに、プロアトラスSVが販売されるようになった平成17年当時においても、原告地図1の特徴を有する住宅地図が一般に流通していたという事情はない。また、アルプス社がプロアトラスSVを販売する前に作成販売していた住宅地図であるプロアトラスW3では、プロアトラスSVにおける表現と根本的に異なる表現が採用されていた。
 このように、プロアトラスSVは、原告地図1に極めて類似している上、原告地図1と偶然に表現が一致したとは考えられず、原告地図1に依拠しなければ作成できないものであった。
(イ)原告は、平成11年2月16日、住友電工システムズ株式会社(以下「住友電工システムズ」という。)の乙との間で、発明の名称を「地図データ作成方法及びその装置」とする特許(特願平4−48706号。以下「関連特許」という。)で作成した地図データによる地図情報システムを、住友電工システムズにおいて全国に普及させることを計画し、協議を行った。そして、原告は、同年4月7日、乙に対し、関連特許の応用成果として、原告各地図が記載された本件特許の公開特許公報を提供した。
 一方、住友電工システムズの親会社である住友電気工業株式会社及びインクリメント・ピー株式会社(以下「インクリメント・ピー」という。)は、同月6日、インクリメント・ピーが作成した2500分の1の全国市街地図を提供し、市街カーナビ開発に必要なデジタル地図データベースの運用管理を共通化することを発表した。そして、プロアトラスSVは、上記2500分の1の全国市街地図のデータを基に作成されたものである。
 これらの事情によれば、原告が住友電工システムズに提供した原告各地図が、共同事業を行っていたインクリメント・ピーの関与の下、アルプス社に渡ったか、インクリメント・ピーが関与していたプロアトラスSVの開発に住友電工システムズが直接参画し、原告各地図がアルプス社に渡った可能性が高いといえ、プロアトラスSVが原告各地図に依拠して作成されたことが裏付けられる。
(ウ)原告地図2を含む図面を添付してされた本件特許の出願は、平成10年5月15日に公開され、これ以降、公衆がアクセスすることができる状態にあった。原告は、遅くとも平成13年から平成17年にかけて、関連特許に関し、地図業界において注目されており、その原告が出願した地図に関する特許である本件特許についても、地図業界の企業であれば、当然に認識したはずである。
 実際、関連特許については、53件ものファイル記録事項の交付請求及び閲覧(縦覧)請求がされ、本件特許についても、少なくとも平成14年11月18日及び平成17年4月22日の2件のファイル記録事項記載書類の交付請求がされた。プロアトラスSVの販売開始時期を考えると、前者の交付請求は、アルプス社が行った可能性が高い。
 さらに、プロアトラスSVには、「5千市街図」や「5千都心図」が収録されているところ、「5千都心図」の実際の縮尺は1700分の1程度である。このように、実際の縮尺は1700分の1程度であるにもかかわらず「5千都心図」と表記されている理由は、本件特許の明細書の段落【0030】で、縮尺5000分の1の住宅地図について言及しているからである。
 したがって、アルプス社が、遅くとも平成17年頃までに、本件特許の出願を知り、原告地図2にアクセスしたことは明らかである。
(エ)以上のとおり、プロアトラスSVは、原告地図1に依拠して作成されたものである。
ウ 小括
 したがって、プロアトラスSVは、原告地図1を複製又は翻案したものと認められる。
 そうすると、プロアトラスSVをアルプス社が作成及び販売し、Zホールディングス及び被告がインターネット上での地図閲覧サービスを提供したことにより、原告地図1に係る原告の複製権、翻案権、譲渡権及び公衆送信権が侵害されたものと認められる。
(2)Yahoo!地図が原告地図1を複製又は翻案したものであること
ア 原告地図1とYahoo!地図が類似することについて
(ア)まず、前記(1)ア(ア)の手法により、原告地図1とYahoo!地図との類似性について検討する。
a 共通部分の抽出
(a)原告地図1とYahoo!地図の具体的な記載内容を対比すると、以下の共通部分が認められる。
@住宅地図において、
A検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに(当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は住宅及び建物のポリゴンのほぼ中央に紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく必ずしもポリゴンの内部に収まらずにアラビア数字で記載されている。)、
B検索の目安となる公共施設や著名ビル等については、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を記載し(名称は、公共施設や著名ビル等のポリゴンの外側に、横書きで記載される。)、
C縮尺を適宜圧縮して、広い鳥瞰性を備え、
D配色は、ポリゴンとその背景を異なる色とする。
(b)また、原告地図1とYahoo!地図を対比すると、素材の取捨選択の観点からEの共通部分が、素材の配置及び表現方法の観点からFの共通部分がそれぞれ認められる。
E素材として、「道路・河川」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」、「一般住宅及び建物の個別建物形」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」及び「建物番地」を記載することを選択し、住宅地図の一般的な素材である、一般住宅及び建物に関する「居住人氏名」や「建物名称」、「地類界」(宅地の境等)、「等高線」その他地理に関する素材を素材として記載しないことを選択している。
F「道路・河川」は、盛土(土堤)やコンクリート被覆等を記載せず、シンプルに、道路の形状をその両外延を示す線で表現するとともに、河川をその両外延を示す線で表現し、かつ、内部を水色で着色している。
 「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」及び「一般住宅及び建物の個別建物形」は、建物のポリゴンの集約を行うことなく、個別の建物の形を影なしの建物のポリゴンで表示している。
 「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」は、原則として、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、必ずしも建物のポリゴンの内部に収まらずに、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく記載している。
 「建物番地」は、原則として、建物のポリゴンのほぼ中央に、紙面・画面の水平方向と同一方向の横書きで折り返すことなく、必ずしも建物のポリゴンの内側に収まらずに、アラビア数字で記載している。
 「縮尺」は、原告地図1が約1/3000であり、Yahoo!地図が約1/2631である。
b 共通部分が創作的表現であること
 前記a(a)@ないしD並びに(b)E及びFの共通部分は、個別の要素として見たとしても、これらの要素を総体として見たとしても、創作的表現を含むものであることは明らかであるから、原告地図1とYahoo!地図は、創作的表現において共通すると認められる。
c 被告の主張に対する反論
(a)これに対して、被告は、@原告地図1のポリゴンが全て黄色であるのに対し、Yahoo!地図のポリゴンは淡いグレーで背景とのコントラストが弱い点で、両者は相違すると主張する。しかし、些細な配色の違いであり、地図を見る者が注意を向けない表現であって、原告地図1の表現上の本質的特徴を感得させなくなるような効果はない。
(b)被告は、A原告地図1とYahoo!地図で、記載されている建物の名称がほとんど異なる点で相違すると主張する。しかし、地図を見る者にとって重要なのは、検索の目安や著名ビル等の名称がどのように表示されているかであって、名称が異なるという点は、注意を向けない表現又は創作性の低い部分での相違にすぎない。
(c)被告は、B原告地図1の建物の名称は、やや大きく赤字で記載されており、背景とのコントラストが弱いため、目立たない印象を与えるが、Yahoo!地図の建物の名称は、ゴシック体に近いフォントでかなり小さく、建物の種類に応じて色分けをし、目立つ記載と目立たない記載を併用している点で、両者は相違すると主張する。
 しかし、「・」の右側に続けて、建物の名称がポリゴンの枠内に収まらずに横書きで記載されるという特徴的な表現が類似しており、その色やフォントが多少異なったとしても、地図を見る者が注意を向けない表現又は創作性の低い部分での相違にすぎない。
(d)被告は、C原告地図1の番地はポリゴンから右側にはみ出ることが多い印象が強いが、Yahoo!地図の番地は、基本的にポリゴンの内部に収まり、まとまった印象を与える点で、両者は相違すると主張する。しかし、番地の記載がポリゴンの中央付近を起点としているか、番地の記載の中央がポリゴンの中央付近となるようにしているかの数mmの差にすぎず、位置情報の正確性の限界から、原告地図1及びYahoo!地図とも多少の誤差があるところであり、全体として地図を見る者に異なる印象を与えるものではないか、地図を見る者が注意を向けない表現又は創作性の低い部分での相違にすぎない。
(e)被告は、D原告地図1の番地は、背景のポリゴンとのコントラストが強く、非常に目立つ印象を与えるが、Yahoo!地図の番地は、ポリゴンとのコントラストが弱く、あまり目立たない印象を与える点で、両者は相違すると主張する。しかし、些細な配色の違いであり、地図を見る者が注意を向けない表現であって、原告地図1の表現上の本質的特徴を感得させなくなるような効果はない。
(f)被告は、E原告地図1の「・」は、そのほとんどがポリゴンの外に記載され、どの建物の名称が記載されているか判然としないが、Yahoo!地図の「・」又は施設の種類を示す青いマークは、全てポリゴンの内部に記載されており、どの建物の名称が記載されているか明確である点で、両者は相違すると主張する。しかし、地図を見る者が重視するのは、検索の目安となる公共施設について、「・」の右側に続けて、その名称がポリゴンの枠内に収まらずに横書きで記載されるという特徴的な表現である。また、位置情報の正確性の限界から多少のずれはあるものの、「・」が検索の目安となる公共施設や著名ビル等の位置を示すものであることは明らかであり、付近に競合する名称の記載はなく、どの建物を指しているかは明白であるから、地図を見る者に対して異なる印象を与えるものではない。
(g)被告は、F原告地図1の配色は、全体的に薄く、ポリゴンは比較的目立つものの、道路が目立たない印象を与えるが、Yahoo!地図の配色は、色合いが比較的濃く、道路、土地、小学校の敷地等の区別が分かりやすい印象を与える点で、両者は相違すると主張する。しかし、些細な配色の違いであり、地図を見る者が注意を向けない表現であって、原告地図1の表現上の本質的特徴を感得させなくなるような効果はない。
(h)被告は、そのほかに、G原告地図1では地図を区画するための黄色系の直線が記載されているが、Yahoo!地図ではそのような記載がない点、H原告地図1では交差点名等の情報が全く記載されていないが、Yahoo!地図では道路の路線番号、信号機やバス停に係る記号、交差点名等が記載され、多様な情報が表現されている点、I原告地図1の縮尺は約1/3000であるが、Yahoo!地図の縮尺は1/2272である点で、両者は相違すると主張する。しかし、いずれも、地図を見る者が全く気にもしないほどの些細な表現上の相違であり、地図を見る者が注意を向けない表現又は創作性の低い部分での相違にすぎないから、表現上の本質的特徴の感得に影響を与えるようなものではない。
(i)被告は、原告地図1とYahoo!地図は前記(a)ないし(h)の@ないしIにおいて相違することから、Yahoo!地図から原告地図1の表現上の本質的特徴を直接感得することができないと主張するが、以上のとおり、被告が指摘する点は、いずれも表現上の創作性のない部分又は細部の具体的な表現の相違であって、地図を見る者による原告地図1とYahoo!地図との表現上の本質的特徴の感得に影響を与えるようなものではない。したがって、被告の上記主張は理由がない。
(イ)次に、前記(1)ア(イ)の手法により、原告地図1とYahoo!地図との類似性について検討する。
a 前記(1)ア(イ)aのとおり、原告地図1は、あまたある選択肢の中から、原告がその個性、学識、経験等に基づいて、素材の取捨選択及びその配置・表現方法に工夫を凝らして創作したものであり、著作物(著作権法2条1項1号)であることは明らかである。
b そして、原告地図1は、前記(1)ア(イ)bのとおり、以下の表現上の本質的特徴を有する(主位的主張)。
 「住宅地図において、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成する。」
c 仮に、原告地図1に前記bの表現上の本質的特徴が認められないとしても、原告地図1は、前記(1)ア(イ)cのとおり、少なくとも以下の表現上の本質的特徴を有する(予備的主張)。
 「住宅地図において、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに(当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は住宅及び建物のポリゴンのほぼ中央に紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく必ずしもポリゴンの内部に収まらずにアラビア数字で記載されている。)、検索の目安となる公共施設や著名ビル等については、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を記載し(名称は、公共施設や著名ビル等のポリゴンの外側に、横書きで記載される。)、縮尺を適宜圧縮して、広い鳥瞰性を備え、配色は、ポリゴンとその背景を異なる色とする。」
d 原告地図1とYahoo!地図を対比すると、前記(ア)aのとおりの共通部分が認められるところ、前記b及びcの原告地図1の表現上の本質的特徴は、いずれもこの共通部分の中に含まれている。
e 前記(ア)cのとおり、被告は、原告地図1とYahoo!地図が相違すると主張するが、いずれもYahoo!地図から原告地図1の表現上の本質的特徴を感得することの妨げになるものではない。
f したがって、原告地図1は著作物であると認められ、Yahoo!地図において、原告地図1の創作的な表現が再製され、原告地図1の表現上の本質的特徴を直接感得することができると認められる。
(ウ)以上によれば、前記(ア)、(イ)のいずれの検討方法によったとしても、原告地図1とYahoo!地図は類似するというべきである。
イ Yahoo!地図が原告地図1に依拠して作成されたことについて
 プロアトラスSVが原告地図1に依拠して作成されたことは、前記(1)イのとおりであり、プロアトラスSVに基づいて作成されたYahoo!地図も原告地図1に依拠して作成されたものである。
ウ 小括
 したがって、Yahoo!地図は、原告地図1を複製又は翻案したものと認められる。
 そうすると、Zホールディングス及び被告がYahoo!地図を作成し、インターネット上での地図閲覧サービスを提供したことにより、原告地図1に係る原告の公衆送信権が侵害されたものと認められる。
(被告の主張)
(1)プロアトラスSVが原告地図1を複製又は翻案したものではないこと
ア 原告地図1とプロアトラスSVが類似しないことについて
(ア)共通部分の抽出
 沖縄県糸満市潮平及び阿波根周辺の地図について、原告地図1とプロアトラスSVを比較すると、以下の共通部分が認められる。
@潮平小学校付近の地図において、
A住宅及び建物のポリゴンを記載し、一般住宅の居住人氏名を記載しないものの一部の建物の名称を記載し、建物の番地を記載することがあり、
B前記ポリゴンは影が記載されず、前記番地は住宅又は建物のポリゴン付近に紙面又は画面の水平方向にアラビア数字で横書きで記載し、
C建物の名称はポリゴン付近から「・」の右側に続けて横書きで記載することがあるようにし、
Dポリゴンには、その背景と異なる色が用いられている。
(イ)共通部分が創作的表現ではないこと
a 前記(ア)@は、単なる地図の対象地域を意味するのみであって、表現それ自体に該当しない。
b 前記(ア)Aは、単なる記載方針にすぎず、極めて抽象的なアイデアである。このことは、本件特許の請求項1において、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載する」というように、発明というアイデアが特定されていることからも裏付けられる。また、仮にこれが表現であるとしても、ありふれたものというほかなく、表現上の創作性は認められない。
c 前記(ア)Bは、具体的な表現をいうものではなく、記載方針を示す抽象的なアイデアにすぎないことは明らかである。また、仮にこれが表現であるとしても、ポリゴンに影が記載されていない地図や、番地が住宅及び建物のポリゴン付近に記載されている地図は多数存在するから、ありふれたものというほかなく、表現上の創作性は認められない。
d 前記(ア)Cは、具体的な表現をいうものではなく、記載方針を示す抽象的なアイデアにすぎないことは明らかである。また、仮にこれが表現であるとしても、何かを記載するときに「・」の右側に横書きで記載することは極めてありふれた表現であって、表現上の創作性は認められない。
e 前記(ア)Dは、具体的な表現をいうものではなく、記載方針を示す抽象的なアイデアにすぎない。また、仮にこれが表現であるとしても、ポリゴンの色を背景の色と異なるものとすることはありふれているから、表現上の創作性は認められない。
f さらに、前記(ア)@ないしDの特徴を組み合わせた点の創作性を検討するとしても、各共通部分が表現そのものでないか、創作性のない表現であれば、全体として複製又は翻案としての類似性が否定されるのは明らかである。また、同@ないしBを備える地図は多数存在し、これに、建物の名称をポリゴン付近から「・」の右側に続けて横書きし、ポリゴンにその背景と異なる色を用いたとしても、単なる記載方針というアイデアの付加にすぎないし、このような地図でありふれた記載方針を採用することに表現上の創作性を見いだすことはできない。
g 以上のとおり、原告地図1とプロアトラスSVは、アイデアであって表現それ自体でない部分か、表現上の創作性がない部分において共通するにすぎない。
(ウ)表現上の本質的特徴を直接感得することができないこと
 仮に、原告地図1とプロアトラスSVの共通部分に表現上の創作性が認められたとしても、共通部分以外の部分において、原告地図1とプロアトラスSVでは、以下のとおり、何を目立つように記載するか、何を印象の薄いように記載するか、どのような建物に名称を記載するか、建物の名称を記載するに当たり、どのような記載とするか、どのような配色を用いるか、どのような情報を具体的に採用するかといった点で、全く異なっている。したがって、プロアトラスSVから原告地図1の表現上の本質的特徴を直接感得することはできない。
@原告地図1は、ポリゴンが全て黄色であるのに対し、プロアトラスSVでは、ポリゴンが、潮平小学校や病院など公共性の高い建物は濃いブラウン、商業施設等はオレンジ、一般的な建物等は薄いブラウンなどとして、建物に応じて異なる配色としている点
A記載されている建物の名称は、同一の建物を指していると思われるものであっても、具体的に同じ名称を記載しているものは何一つ存在しない点
B原告地図1では、建物の名称は、やや大きく赤字で記載されているものの、背景とのコントラストが弱いため、目立たない印象を与えるものであるのに対して、プロアトラスSVでは、これとは異なるゴシック体に近いフォントで、原告地図1との比較でやや小さいものの、黒色の太字で記載されており、背景とのコントラストが強いため、小さな字でも目立つ印象を与えるものになっている点
C原告地図1では、番地をポリゴンの中央付近を起点として記載している結果、番地がポリゴンから右側にはみ出る例が多い印象が強いのに対して、プロアトラスSVでは、例外的に番地をポリゴンの外側に記載することがあるものの、基本的に番地をその中央がポリゴンの中央付近となるよう記載するため、ポリゴンの内部に収まりまとまった印象を与えるとともに、建物の名称が記載されたポリゴン等については番地の記載を省略している点
D原告地図1では、建物の番地が建物のポリゴンの黄色を背景に黒字で記載されているため、コントラストが非常に強く、番地が非常に目立つ印象を与えているのに対して、プロアトラスSVの番地は、建物のポリゴンの色とコントラストが弱く、番地はあまり目立たない印象を与える点
E原告地図1では、「・」はポリゴンの外に記載されるのがほとんどであり、その右側に建物の名称を記載しているため、建物名称が地図上のいずれの建物を指しているものか直ちには判然としない印象を与えるのに対して、プロアトラスSVでは、「・」又は施設の種類を示す黒いマークは、潮平小学校以外は全てポリゴンの内部に記載され、その右側に建物の名称を記載することで、一見していずれの建物を指しているか明確な印象を与えるものである点
F原告地図1とプロアトラスSVとは、道路、土地、小学校の敷地、緑地等の色が全く異なる配色となっており、原告地図1の配色は全体的に薄く、建物のポリゴンは比較的目立つものの、道路が目立たない印象を与えるが、プロアトラスSVは、原告地図1よりも比較的色合いが濃く、道路、土地、小学校の敷地、緑地等の区別が分かりやすい印象を与える点
G原告地図1は、地図を区画するための黄色系の直線が表現されているのに対して、プロアトラスSVでは、そのような表現が一切存在しない点
H原告地図1では、交差点名が全く記載されていないのに対して、プロアトラスSVは「潮平」の交差点名を青色で表現して、目立つ印象を与える点
I原告地図1の縮尺は約1/3000であり、プロアトラスSVの縮尺は約1/2600である点
(エ)原告の主張に対する反論
 原告は、著作権を主張する者が作成したもののみに着目して創作性を判断し、その上で、被疑侵害者の作成したものを観察して、著作権の創作的な表現と認められる部分が再製されているか否かを判断する手法により、原告地図1とプロアトラスSVとの類似性について検討すべきであるとし、プロアトラスSVから原告地図1の表現上の本質的特徴を感得することができると主張する。
 しかし、地図の表現上の本質的特徴の判断においては、地図の特徴の一部だけを取り出したり、地図の具体的表現の特徴を抽象化したりすることなく、地図に表現された全ての要素を総合して判断すべきものであるところ、原告が主位的に原告地図1の表現上の本質的特徴であると主張する事項(前記(原告の主張)(1)ア(イ)b)は、地図の要素の一部を抽出し、しかも著しく抽象化している上、「検索の目安となる」、「著名ビル」、「縮尺を圧縮」、「広い鳥瞰性」といった曖昧な評価を伴うものである点で、誤りである。そして、原告地図1が作成された当時、上記事項の全部又は一部を備える地図はありふれたものとして存在していたし、このような事項は、地図の記載方針の一部を述べるものにすぎず、アイデアの範疇に属するものであることが一見して明白である。したがって、上記事項が原告地図1の表現上の本質的特徴であるとは認められない。
 また、原告が予備的に原告地図1の表現上の本質的特徴であると主張する事項(前記(原告の主張)(1)ア(イ)c)についても、プロアトラスSVに含まれるものは前記(ア)の限度にとどまるし、原告地図1とプロアトラスSVでは、共通部分以外の部分において、前記(ウ)のほかに、「J原告地図1では、建物の種類を示すような記号は記載されていないのに対して、プロアトラスSVでは、潮平小学校、玉城自動車整備、病院等について、その名称の前に「・」ではなく、円の内部に「文」を記載した記号、工場を示す記号、病院を示す記号等が記載されている点」、「K原告地図1では、建物の名称を記載してもその建物の番地を記載しているのに対して、プロアトラスSVでは、建物の名称を記載した建物の番地は記載されていない点」でも相違するものであり、プロアトラスSVは、原告地図1と全く異なる印象等を与えるものとなっている。したがって、プロアトラスSVから原告地図1の表現上の本質的特徴を感得することはおよそ不可能である。
イ プロアトラスSVが原告地図1に依拠して作成されたものではないことについて
(ア)原告地図1とプロアトラスSVは、前記アのとおり、全く類似していない。
(イ)原告の主張は、住友電工システムズの乙に原告各地図を手渡したところ、住友電工システムズから、インクリメント・ピーが何らかの関与をして、何らかの形でアルプス社に渡った可能性が高いという漠然とした憶測を述べるものにすぎず、何らの客観的証拠もない。
(ウ)原告に知名度はなく、アルプス社は関連特許及び本件特許に係るファイル記録事項記載書類の交付請求をしたことはない。また、縮尺5000分の1の地図はありふれており、5000という数字が共通するからといって、依拠性を推認できるものではない。
(エ)したがって、プロアトラスSVは、原告地図1に依拠して作成されたものとは認められない。
ウ 小括
 以上によれば、プロアトラスSVが、原告地図1を複製したものであるとも、翻案したものであるとも認められず、原告地図1に係る原告の複製権、翻案権、譲渡権及び公衆送信権が侵害されたとはいえない。
(2)Yahoo!地図が原告地図1を複製又は翻案したものではないこと
ア 原告地図1とYahoo!地図が類似しないことについて
(ア)共通部分の抽出
 沖縄県糸満市潮平及び阿波根周辺の地図について、原告地図1とYahoo!地図を比較すると、以下の共通部分が認められる。
@潮平小学校付近の地図において、
A住宅及び建物のポリゴンを記載し、一般住宅の居住人氏名を記載しないものの一部の建物の名称を記載し、建物の番地を記載することがあり、
B前記ポリゴンは影が記載されず、前記番地は住宅又は建物のポリゴン付近に記載し、
C建物の名称はポリゴン付近から「・」に続けて横書きで記載することがあるようにし、
Dポリゴンには、その背景と異なる色が用いられている。
(イ)共通部分が創作的表現ではないこと
 前記(1)ア(イ)のとおり、前記(ア)@ないしDは、いずれもアイデアであって表現それ自体でない部分か、表現上の創作性がない部分にすぎない。
 同@ないしDの特徴を組み合わせた点の創作性を検討するとしても、前記(1)ア(イ)fのとおり、前記(ア)@ないしBを備える地図は多数存在した上、これに、建物の名称をポリゴン付近から「・」の右側に続けて横書きし、ポリゴンにその背景と異なる色を用いることは、単なる記載方針というアイデアの付加にすぎず、表現上の創作性を見いだすことはできない。
 したがって、原告地図1とYahoo!地図は、アイデアであって表現それ自体でない部分か、表現上の創作性がない部分において共通するにすぎない。
(ウ)表現上の本質的特徴を直接感得することができないこと
 仮に、原告地図1とYahoo!地図の共通部分に表現上の創作性が認められたとしても、共通部分以外の部分において、原告地図1とYahoo!地図では、以下のとおり、何を目立つように記載するか、何を印象の薄いように記載するか、どのような建物に名称を記載するか、建物の名称を記載するに当たり、どのような記載とするか、どのような配色を用いるか、どのような情報を具体的に採用するかといった点で、全く異なっている。したがって、Yahoo!地図から原告地図1の表現上の本質的特徴を直接感得することはできない。
@原告地図1は、ポリゴンが全て黄色で非常に目立つように記載されているのに対して、Yahoo!地図では、ポリゴンが、淡いグレーであり背景とのコントラストが弱く控えめな印象であり、あまり目立たないように記載されている点
A記載されている建物の名称は、ほとんど異なる点
B原告地図1では、建物の名称は、やや大きく赤字で記載されており、背景とのコントラストが弱いため、目立たない印象を与えるものであるのに対して、Yahoo!地図では、これとは異なるゴシック体に近いフォントで、原告地図1との比較でかなり小さく、小学校や病院等は背景とコントラストが強く目立つ青い太字で記載され、飲食店(「ゆるり庵さくら」)は背景とコントラストが強く目立つ茶色の太字で記載され、薬局(「ドラッグイレブン」)は背景とコントラストが強く目立つピンク色の太字で記載され、その他は背景とコントラストがやや弱く目立たないグレーで記載されており、建物の種類に応じて異なる色とするとともに、色分けをすることで目立つ記載と目立たない記載を併用する利便性に配慮した記載となっている点
C原告地図1では、番地をポリゴンの中央付近を起点として記載している結果、番地がポリゴンから右側にはみ出る例が多い印象が強いのに対して、Yahoo!地図では、番地をその中央がポリゴンの中央付近となるよう記載するため、基本的にポリゴンの内部に収まりまとまった印象を与える点
D原告地図1では、建物の番地が建物のポリゴンの黄色を背景に黒字で記載されているため、コントラストが非常に強く、番地が非常に目立つ印象を与えているのに対して、Yahoo!地図の番地は、建物のポリゴンの色とコントラストが弱く、番地はあまり目立たない印象を与える点
E原告地図1では、「・」はポリゴンの外に記載されるのがほとんどであり、その右側に建物の名称を記載しているため、建物名称が地図上のいずれの建物を指しているものか直ちには判然としない印象を与えるのに対して、Yahoo!地図では、「・」のみならず、施設の種類を示す青いマークが用いられ、これらは必ずポリゴンの内部に記載され、その右側だけでなく、左側に建物の名称を記載することもあるが、「・」及び青いマークがポリゴンの内部に記載されているため、一見していずれの建物を指しているか明確な印象を与えるものである点
F原告地図1とYahoo!地図とは、道路、土地、小学校の敷地、緑地等の色が全く異なる配色となっており、原告地図1の配色は全体的に薄く、建物のポリゴンは比較的目立つものの、道路が目立たない印象を与えるが、Yahoo!地図は、原告地図1よりも比較的色合いが濃く、道路、土地、小学校の敷地等の区別が分かりやすい印象を与える点
G原告地図1は、地図を区画するための黄色系の直線が表現されているのに対して、Yahoo!地図では、そのような表現が一切存在しない点
H原告地図1では、交差点名等の情報が全く記載されていないのに対して、Yahoo!地図は道路の路線番号、信号機やバス停に係る記号を表現し、「潮平」の交差点名も表現しており、目立つ印象を与えるとともに、多様な情報が表現されている点
I原告地図1の縮尺は約1/3000であり、Yahoo!地図の縮尺は1/2272である点
(エ)原告の主張に対する反論
 原告は、前記(原告の主張)(1)ア(イ)の手法により、原告地図1とYahoo!地図との類似性について検討すべきであるとし、Yahoo!地図から原告地図1の表現上の本質的特徴を感得することができると主張する。
 しかし、前記(1)ア(エ)のとおり、原告が主位的又は予備的に原告地図1の表現上の本質的特徴であると主張する事項(前記(原告の主張)(1)ア(イ)b及びc)は、いずれも、原告地図1の表現上の本質的特徴とは認められない。また、原告地図1とYahoo!地図では、共通部分以外の部分において、前記(ウ)の各点で相違し、Yahoo!地図は、原告地図1と全く異なる印象等を与えるものであるから、Yahoo!地図から原告地図1の表現上の本質的特徴を感得することはできない。
イ Yahoo!地図が原告地図1に依拠して作成されたものではないことについて
 プロアトラスSVが原告地図1に依拠して作成されたものではないことは、前記(1)イのとおりであり、Yahoo!地図も同様である。
ウ 小括
 したがって、Yahoo!地図が原告地図1を複製したとも、翻案したとも認められず、原告地図1に係る原告の公衆送信権が侵害されたとはいえない。
2 争点1−2(原告地図1に関する著作者人格権侵害の成否)について
(原告の主張)
(1)プロアトラスSVの作成、販売及び提供
 アルプス社は、原告の意に反して、原告地図1を改変してプロアトラスSVを作成したものであるから、原告地図1に係る原告の同一性保持権を侵害したものと認められる。
 また、アルプス社は、原告の氏名を表示することなく、原告地図1を複製又は翻案したプロアトラスSVを販売し、Zホールディングス及び被告は、原告の氏名を表示することなく、プロアトラスSVをインターネット上での地図閲覧サービスにおいて提供したものであるから、原告地図1に係る原告の氏名表示権を侵害したものと認められる。
(2)Yahoo!地図の作成及び提供
 Zホールディングス及び被告は、原告の意に反して、原告地図1を改変してYahoo!地図を作成したものであるから、原告地図1に係る原告の同一性保持権を侵害したものと認められる。
 また、Zホールディングス及び被告は、原告の氏名を表示することなく、原告地図1を複製又は翻案したYahoo!地図をインターネット上での地図閲覧サービスにおいて提供したものであるから、原告地図1に係る原告の氏名表示権を侵害したものと認められる。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
3 争点2−1(原告地図2に関する著作権侵害の成否)について
(原告の主張)
(1)プロアトラスSVが原告地図2を複製又は翻案したものであること
ア 原告地図2とプロアトラスSVが類似することについて
(ア)まず、前記1(原告の主張)(1)ア(ア)の手法により、原告地図2とプロアトラスSVとの類似性について検討する。
a 共通部分の抽出
(a)原告地図2とプロアトラスSVの具体的な記載内容を対比すると、以下の共通部分が認められる。
@住宅地図において、
A検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに(当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は住宅及び建物のポリゴンのほぼ中央に紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく必ずしもポリゴンの内部に収まらずにアラビア数字で記載されている。)、
B検索の目安となる公共施設や著名ビル等については、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を記載し(名称は、公共施設や著名ビル等のポリゴンの外側に、横書きで記載される。)、
C縮尺を適宜圧縮して、広い鳥瞰性を備える。
(b)また、原告地図2とプロアトラスSVを対比すると、素材の取捨選択観点からDの共通部分が、素材の配置及び表現方法の観点からEの共通部分がそれぞれ認められる。
D素材として、「道路・河川」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」、「一般住宅及び建物の個別建物形」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」及び「建物番地」を選択して記載し、住宅地図の一般的な素材である、一般住宅及び建物に関する「居住人氏名」や「建物名称」、「地類界」(宅地の境等)、「等高線」その他地理に関する素材を素材として捨てることを選択している。
E「道路・河川」は、盛土(土堤)やコンクリート被覆等を記載せず、シンプルに、道路の形状をその両外延を示す線で表現するとともに、河川をその両外延を示す線で表現している。
 「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」及び「一般住宅及び建物の個別建物形」は、建物のポリゴンの集約を行うことなく、個別の建物の形を影なしの建物のポリゴンで表示している。
 「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」は、原則として、その場所を示す「・」の右側に続けて、必ずしも建物のポリゴンの内部に収まらずに、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく記載している。
 「建物番地」は、原則として、建物のポリゴンのほぼ中央に、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく、必ずしも建物のポリゴンの内側に収まらずに、アラビア数字で記載している。
 「縮尺」は、原告地図2(図2)が約1/3800、原告地図2(図3)が約1/2500であり、プロアトラスSVが約1/2600である。
b 前記1(原告の主張)(1)ア(ア)bのとおり、上記各共通部分及びこれらの組合せは、従来地図とは全く異なる独創性の極めて高いものであり、原告地図2の中で重要な役割を担い、かつ、その表現を特徴付けている。
 したがって、原告地図2とプロアトラスSVの共通部分は、個別の要素として見たとしても、これらの要素を総体として見たとしても、創作的表現を含むものであることは明らかであるから、原告地図2とプロアトラスSVは、創作的表現において共通すると認められる。
(イ)次に、前記1(原告の主張)(1)ア(イ)の手法により、原告地図2とプロアトラスSVとの類似性について検討する。
a 原告地図2は、あまたある選択肢の中から、原告がその個性、学識、経験等に基づいて、素材の取捨選択及びその配置・表現方法に工夫を凝らして創作したものであり、著作物(著作権法2条1項1号)であると認められる。
b そして、原告地図2は、以下の表現上の本質的特徴を有する(主位的主張)。
 「住宅地図において、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成する。」
c 仮に、原告地図2に前記bの表現上の本質的特徴が認められないとしても、原告地図2は少なくとも以下の表現上の本質的特徴を有する(予備的主張)。
 「住宅地図において、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに(当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は住宅及び建物のポリゴンのほぼ中央に紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく必ずしもポリゴンの内部に収まらずにアラビア数字で記載されている。)、検索の目安となる公共施設や著名ビル等については、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を記載し(名称は、公共施設や著名ビル等のポリゴンの外側に、横書きで記載される。)、縮尺を適宜圧縮して、広い鳥瞰性を備える。」
d 原告地図2とプロアトラスSVを対比すると、前記(ア)aのとおりの共通部分が認められるところ、前記b及びcのとおりの原告地図2の表現上の本質的特徴は、いずれもこの共通部分の中に含まれている。
e したがって、原告地図2は著作物であると認められ、プロアトラスSVにおいて、原告地図2の創作的な表現が再製され、原告地図2の表現上の本質的特徴を直接感得することができると認められる。
(ウ)以上によれば、前記(ア)、(イ)のいずれの検討方法によったとしても、原告地図2とプロアトラスSVは類似するというべきである。
イ プロアトラスSVが原告地図2に依拠して作成されたことについて
 前記1(原告の主張)(1)イと同様の理由により、プロアトラスSVは原告地図2に依拠して作成されたものと認められる。
ウ 小括
 したがって、プロアトラスSVは、原告地図2を複製又は翻案したものと認められる。
 そうすると、プロアトラスSVをアルプス社が作成及び販売し、Zホールディングス及び被告がインターネット上での地図閲覧サービスを提供したことにより、原告地図2に係る原告の複製権、翻案権、譲渡権及び公衆送信権が侵害されたものと認められる。
(2)Yahoo!地図が原告地図2を複製又は翻案したものであること
ア 原告地図2とYahoo!地図が類似することについて
(ア)まず、前記1(原告の主張)ア(ア)の手法により、原告地図2とYahoo!地図との類似性について検討する。
a 共通部分の抽出
(a)原告地図2とYahoo!地図の具体的な記載内容を対比すると、以下の共通部分が認められる。
@住宅地図において、
A検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに(当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は住宅及び建物のポリゴンのほぼ中央に紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく必ずしもポリゴンの内部に収まらずにアラビア数字で記載されている。)、
B検索の目安となる公共施設や著名ビル等については、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を記載し(名称は、公共施設や著名ビル等のポリゴンの外側に、横書きで記載される。)、
C縮尺を適宜圧縮して、広い鳥瞰性を備える。
(b)また、原告地図2とYahoo!地図を対比すると、素材の取捨選択の観点からDの共通部分が、素材の配置及び表現方法の観点からEの共通部分がそれぞれ認められる。
D素材として、「道路・河川」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」、「一般住宅及び建物の個別建物形」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」及び「建物番地」を記載することを選択し、住宅地図の一般的な素材である、一般住宅及び建物に関する「居住人氏名」や「建物名称」、「地類界」(宅地の境等)、「等高線」その他地理に関する素材を素材として記載しないことを選択している。
E「道路・河川」は、盛土(土堤)やコンクリート被覆等を記載せず、シンプルに、道路の形状をその両外延を示す線で表現するとともに、河川をその両外延を示す線で表現している。
 「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」及び「一般住宅及び建物の個別建物形」は、建物のポリゴンの集約を行うことなく、個別の建物の形を影なしの建物のポリゴンで表示している。
 「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」は、原則として、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、必ずしも建物のポリゴンの内部に収まらずに、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく記載している。
 「建物番地」は、原則として、建物のポリゴンのほぼ中央に、紙面・画面の水平方向と同一方向の横書きで折り返すことなく、必ずしも建物のポリゴンの内側に収まらずに、アラビア数字で記載している。
 「縮尺」は、原告地図2(図2)が約1/3800、原告地図2(図3)が約1/2500であり、Yahoo!地図が約1/3000である。
b 前記1(原告の主張)(1)ア(ア)bのとおり、上記共通部分及びこれらの組合せは、従来地図とは全く異なる独創性の極めて高いものであり、原告地図2の中で重要な役割を担い、かつ、その表現を特徴付けている。
 したがって、原告地図2とYahoo!地図の共通部分は、個別の要素として見たとしても、これらの要素を総体として見たとしても、創作的表現を含むものであることは明らかであるから、原告地図2とYahoo!地図は、創作的表現において共通すると認められる。
(イ)次に、前記1(原告の主張)(1)ア(イ)の手法により、原告地図2とYahoo!地図との類似性について検討する。
a 前記(1)ア(イ)aのとおり、原告地図2は、あまたある選択肢の中から、原告がその個性、学識、経験等に基づいて、素材の取捨選択及びその配置・表現方法に工夫を凝らして創作したものであり、著作物(著作権法2条1項1号)であることは明らかである。
b そして、原告地図2は、前記(1)ア(イ)bのとおり、以下の表現上の本質的特徴を有する(主位的主張)。
 「住宅地図において、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに、縮尺を圧縮して広い鳥瞰性を備えた地図を構成する。」
c 仮に、原告地図2に前記bの表現上の本質的特徴が認められないとしても、原告地図2は、前記(1)ア(イ)cのとおり、少なくとも以下の表現上の本質的特徴を有する(予備的主張)。
 「住宅地図において、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については、居住人氏名や建物名称の記載を省略し住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載するとともに(当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は住宅及び建物のポリゴンのほぼ中央に紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく必ずしもポリゴンの内部に収まらずにアラビア数字で記載されている。)、検索の目安となる公共施設や著名ビル等については、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を記載し(名称は、公共施設や著名ビル等のポリゴンの外側に、横書きで記載される。)、縮尺を適宜圧縮して、広い鳥瞰性を備える。」
d 原告地図2とYahoo!地図を対比すると、前記(ア)aのとおりの共通部分が認められるところ、前記b及びcの原告地図2の表現上の本質的特徴は、いずれもこの共通部分の中に含まれている。
e したがって、原告地図2は著作物であると認められ、Yahoo!地図において、原告地図2の創作的な表現が再製され、原告地図2の表現上の本質的特徴を直接感得することができると認められる。
(ウ)以上によれば、前記(ア)、(イ)のいずれの検討方法によったとしても、原告地図2とYahoo!地図は類似するというべきである。
イ Yahoo!地図が原告地図2に依拠して作成されたことについて
 プロアトラスSVが原告地図2に依拠して作成されたことは、前記(1)イのとおりであり、プロアトラスSVに基づいて作成されたYahoo!地図も原告各地図に依拠して作成されたものである。
ウ 小括
 したがって、Yahoo!地図は、原告地図2を複製又は翻案したものと認められる。
 そうすると、Zホールディングス及び被告がYahoo!地図を作成し、インターネット上での地図閲覧サービスを提供したことにより、原告地図2に係る原告の公衆送信権が侵害されたものと認められる。
(被告の主張)
(1)プロアトラスSVが原告地図2を複製又は翻案したものではないこと
ア 原告地図2とプロアトラスSVが類似しないことについて
(ア)共通部分の抽出
 原告地図2とプロアトラスSVを比較すると、以下の共通部分が認められる(なお、原告地図2は沖縄県糸満市米須周辺の地図と考えられるが、プロアトラスSVには同市米須周辺の地図が収録されていないため、同市潮平、阿波根、照屋及び兼城周辺の地図と比較する。)。
@地図において、
A住宅及び建物の影のないポリゴンを記載し、
B道路をその両側を示す線で記載する。
(イ)共通部分が創作的表現ではないこと
 上記各共通部分は、個別に検討しても、一まとまりとして検討しても、基本的な記載方針たるアイデアにすぎないし、仮にこれらが表現であるとしても、ありふれたものにすぎず、何らの創作性も見いだすことはできない。
(ウ)表現上の本質的特徴を直接感得することができないこと
 仮に、原告地図2とプロアトラスSVの共通部分に表現上の創作性が認められたとしても、共通部分以外の部分において、原告地図2とプロアトラスSVでは、以下のとおり、何を目立つように記載するか、何を印象の薄いように記載するか、どのような建物に名称を記載するか、建物の名称を記載するに当たり、どのような記載とするか、どのような配色を用いるか、どのような情報を具体的に採用するかといった点で、全く異なっている。したがって、プロアトラスSVから原告地図2の表現上の本質的特徴を直接感得することはできない。
@原告地図2は、ポリゴンが白地に黒で記載されているものの、表現がやや整っていないためか、見難いとの印象が強いのに対し、プロアトラスSVでは、ポリゴンが、公共性の高い建物は濃いブラウン、商業施設等はオレンジ、一般的な建物等は薄いブラウンなどとして、建物に応じて異なる配色としており、整っているため、見難いとの印象はない点
A原告地図2では、建物の名称は全く見受けられないのに対して、プロアトラスSVでは、一部の建物の名称が記載されている点
B原告地図2では、建物の名称は全く見受けられないのに対して、プロアトラスSVでは、ゴシック体に近いフォントで、太字で黒で記載されており、背景とのコントラストが強いため、小さな字でも目立つ印象を与えるものになっている点
C原告地図2では、建物の番地が記載されているとは見受けられないのに対して、プロアトラスSVでは、例外的に番地をポリゴンの外側に記載することがあるものの、基本的に番地をその中央がポリゴンの中央付近となるよう記載するため、ポリゴンの内部に収まりまとまった印象を与えるとともに、建物の名称が記載されたポリゴン等については番地の記載を省略している点
D原告地図2では、建物の番地が記載されているとは見受けられないのに対して、プロアトラスSVの番地は、建物のポリゴンの色とコントラストが弱く、あまり目立たない印象ではあるものの、記載はされている点
E原告地図2では、建物の番地や「・」が記載されているとは見受けられないのに対して、プロアトラスSVでは、「・」又は施設の種類を示す黒いマークは、基本的にポリゴンの内部に記載され、その右側に建物の名称を記載することで、一見していずれの建物を指しているか明確な印象を与えるものである点
F原告地図2は白黒であるのに対して、プロアトラスSVは、比較的濃い色合いで、道路、土地、水路等の色が全く異なる配色となっており、道路、土地、水路等の区別が分かりやすい印象を与える点
G原告地図2は、地図を区画するための黒の直線が表現されているのに対して、プロアトラスSVでは、そのような表現が一切存在しない点
H原告地図2では、交差点名等の情報が全く記載されていないのに対して、プロアトラスSVは、所定の交差点名を青色で表現して、目立つ印象を与える点
I原告地図2は、沖縄県糸満市米須周辺の地図と考えられるものの、判然としないのに対して、プロアトラスSVは、沖縄県糸満市米須周辺の地図ではない点
J原告地図2では、建物の種類を示すような記号は記載されていないのに対して、プロアトラスSVでは、建物の種類に応じて、その名称の前に「・」ではなく、円の内部に「文」を記載した記号、工場を示す記号、病院を示す記号、黒丸に白抜きのCなどの記号が記載されている点で相違し、記号により建物の種類(学校、工場、病院など)を想起させ、地図を見る者に非常にわかりやすい印象を与えるものとなっている点
K原告地図2では、建物の名称や番地を記載せず、読解不能の模様が記載されて煩雑な印象を与えるのに対して、プロアトラスSVでは、建物の名称を記載した建物の番地は記載されていないため、原告地図2よりもすっきりとした印象を与えるものとなっている点L原告地図2は、駐車場(駐車場を示す記号)、建物番地、一部の建物名称、建物の種類(学校、幼稚園、病院、工場、郵便局等を示す記号)、交差点名等を素材として選択していないが、プロアトラスSVでは、これらを素材として選択している点
(エ)原告の主張に対する反論
 原告は、前記1(原告の主張)(1)ア(イ)の手法により、原告地図2とプロアトラスSVとの類似性について検討すべきであるとし、プロアトラスSVから原告地図2の表現上の本質的特徴を感得することができると主張する。
 しかし、前記1(被告の主張)(1)ア(エ)のとおり、原告が主位的又は予備的に原告地図2の表現上の本質的特徴であると主張する事項(前記(原告の主張)ア(イ)b及びc)は、いずれも、原告地図2の表現上の本質的特徴とは認められない。また、原告地図2とプロアトラスSVでは、共通部分以外の部分において、前記(ウ)の各点で相違し、プロアトラスSVは、原告地図2と全く異なる印象等を与えるものであるから、プロアトラスSVから原告地図2の表現上の本質的特徴を感得することはできない。
イ プロアトラスSVが原告地図2に依拠して作成されたものではないことについて
 前記1(被告の主張)(1)イと同様の理由により、プロアトラスSVは、原告地図2に依拠して作成されたものではない。
ウ 小括
 したがって、プロアトラスSVが、原告地図2を複製したものであるとも、翻案したものであるとも認められず、原告地図2に係る原告の複製権、翻案権、譲渡権及び公衆送信権が侵害されたとはいえない。
(2)Yahoo!地図が原告地図2を複製又は翻案したものではないこと
ア 原告地図2とYahoo!地図が類似しないことについて
(ア)共通部分の抽出
 沖縄県糸満市米須周辺の地図について、原告地図2とYahoo!地図を比較すると、以下の共通部分が認められる。
@地図において、
A住宅及び建物の影のないポリゴンを記載し、
B道路をその両側を示す線で記載する。
(イ)共通部分が創作的表現ではないこと
 上記各共通部分は、個別に検討しても、一まとまりとして検討しても、基本的な記載方針たるアイデアにすぎないし、仮にこれらが表現であるとしても、ありふれたものにすぎず、何らの創作性も見いだすことはできない。
(ウ)表現上の本質的特徴を直接感得することができないこと
 仮に、原告地図2とYahoo!地図の共通部分に表現上の創作性が認められたとしても、共通部分以外の部分において、原告地図2とYahoo!地図では、以下のとおり、何を目立つように記載するか、何を印象の薄いように記載するか、どのような建物に名称を記載するか、建物の名称を記載するに当たり、どのような記載とするか、どのような配色を用いるか、どのような情報を具体的に採用するかといった点で、全く異なっている。したがって、Yahoo!地図から原告地図2の表現上の本質的特徴を直接感得することはできない。
@原告地図2は、ポリゴンが白地に黒で記載されているものの、表現がやや整っていないためか見難いとの印象が強いのに対し、Yahoo!地図では、ポリゴンが、淡いグレーであり背景とのコントラストが弱く控えめな印象であり、あまり目立たないように記載されているものの、整っているため見難いとの印象はない点
A原告地図2では、建物の名称は全く見受けられないのに対して、Yahoo!地図では、一部の建物の名称が記載されている点
B原告地図2では、建物の名称は全く見受けられないのに対して、Yahoo!地図では、ゴシック体に近いフォントで、原告地図2との比較でかなり小さく、郵便局や病院等は背景とコントラストが強く目立つ青い太字で記載され、その他は背景とコントラストがやや弱く目立たないグレーで記載されており、建物の種類に応じて異なる色とするとともに、色分けをすることで目立つ記載と目立たない記載を併用する利便性に配慮した記載となっている点
C原告地図2では、建物の番地が記載されているとは見受けられないのに対して、Yahoo!地図では、番地をその中央がポリゴンの中央付近となるよう記載するため、基本的にポリゴンの内部に収まりまとまった印象を与える点
D原告地図2では、建物の番地が記載されているとは見受けられないのに対して、Yahoo!地図の番地は、建物のポリゴンの色とコントラストが弱く、番地はあまり目立たない印象ではあるものの、記載されている点
E原告地図2では、建物の番地や「・」が記載されているとは見受けられないのに対して、Yahoo!地図では、「・」のみならず、施設の種類を示す青いマークが用いられ、これらは必ずポリゴンの内部に記載され、その右側だけでなく、左側に建物の名称を記載することもあるが、「・」及び青いマークがポリゴンの内部に記載されているため、一見していずれの建物を指しているか明確な印象を与えるように記載されている点
F原告地図2は白黒であるのに対して、Yahoo!地図は、道路、土地、水路等の色が全く異なる配色となっており、道路、土地、水路等の区別が分かりやすい印象を与える点
G原告地図2は、地図を区画するための黒の直線が表現されているのに対して、Yahoo!地図では、そのような表現が一切存在しない点
H原告地図2では、交差点名等の情報が全く記載されていないのに対して、Yahoo!地図は、道路の路線番号、信号機やバス停に係る記号を表現し、交差点名も表現しており、目立つ印象を与えるとともに、多様な情報が表現されている点
I原告地図2は、沖縄県糸満市米須周辺の地図と考えられるものの、判然としないのに対して、Yahoo!地図は、同市米須周辺の地図である点
J原告地図2は、建物番地、一部の建物名称、建物の種類(病院、郵便局等を示す記号)、交差点名、道路の番号、バス停、信号、チェーン店(記号で示されているもの)等を素材として選択していないが、Yahoo!地図では、これらを素材として選択している点
(エ)原告の主張に対する反論
 原告は、前記1(原告の主張)(1)ア(イ)の手法により、原告地図2とYahoo!地図との類似性について検討すべきであるとし、Yahoo!地図から原告地図2の表現上の本質的特徴を感得することができると主張する。
 しかし、前記1(被告の主張)(1)ア(エ)のとおり、原告が主位的又は予備的に原告地図2の表現上の本質的特徴であると主張する事項(前記(原告の主張)(1)ア(イ)b及びc)は、いずれも、原告地図2の表現上の本質的特徴とは認められない。また、原告地図2とYahoo!地図では、共通部分以外の部分において、前記(ウ)の各点で相違し、Yahoo!地図は、原告地図2と全く異なる印象等を与えるものであるから、Yahoo!地図から原告地図2の表現上の本質的特徴を感得することはできない。
イ Yahoo!地図が原告地図2に依拠して作成されたものではないことについて
 プロアトラスSVが原告地図2に依拠して作成されたものではないことは、前記(1)イのとおりであり、Yahoo!地図も同様である。
ウ 小括
 したがって、Yahoo!地図が原告地図2を複製したとも、翻案したとも認められず、原告地図2に係る原告の公衆送信権が侵害されたとはいえない。
4 争点2−2(原告地図2に関する著作者人格権侵害の成否)について
(原告の主張)
(1)プロアトラスSVの作成、販売及び提供
 アルプス社は、原告の意に反して、原告地図2を改変してプロアトラスSVを作成したものであるから、原告地図2に係る原告の同一性保持権を侵害したものと認められる。
 また、アルプス社は、原告の氏名を表示することなく、原告地図2を複製又は翻案したプロアトラスSVを販売し、Zホールディングス及び被告は、原告の氏名を表示することなく、プロアトラスSVをインターネット上での地図閲覧サービスにおいて提供したものであるから、原告地図2に係る原告の氏名表示権を侵害したものと認められる。
(2)Yahoo!地図の作成及び提供
 Zホールディングス及び被告は、原告の意に反して、原告地図2を改変してYahoo!地図を作成したものであるから、原告地図2に係る原告の同一性保持権を侵害したものと認められる。
 また、Zホールディングス及び被告は、原告の氏名を表示することなく、原告地図2を複製又は翻案したYahoo!地図をインターネット上での地図閲覧サービスにおいて提供したものであるから、原告地図2に係る原告の氏名表示権を侵害したものと認められる。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
5 争点3(被告及びアルプス社の故意又は過失の有無)について
(原告の主張)
 アルプス社は、原告各地図に依拠してプロアトラスSVを作成したものであるから、アルプス社において、原告各地図に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害したことにつき、故意又は少なくとも過失があったことは明らかである。
 また、被告は、平成20年にアルプス社を吸収合併して、アルプス社の地位を包括的に承継し、同様に、原告各地図に依拠してYahoo!地図を作成したものであるから、被告において、原告各地図に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害したことにつき、故意又は過失が認められる。仮にそうとはいえないとしても、被告は、業務上頻?に著作物を扱っており、作成されたものが他者の著作権を侵害していないことについて十分に注意すべき義務を負っていたところ、特段の注意を払うことなく、プロアトラスSVを作成して販売し、Yahoo!地図を公衆送信したものであるから、少なくとも過失が認められる。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
6 争点4(損害額)について
 (原告の主張)
(1)Yahoo!地図について
ア 被告は、検索連動型広告やディスプレイ広告等の広告関連サービスを事業としており、Yahoo!地図に広告を掲載するなどしてこれを広告媒体として利用し、広告料の収入を得ているといえる。そして、被告の令和2年度における検索連動型広告やディスプレイ広告等による広告収入は3538億円であり、このうちYahoo!地図に係る売上高は1年当たり88億円を下らないというべきであり、Yahoo!地図の公衆送信は遅くとも平成23年1月1日から令和3年6月30日までの10年6月に及ぶから、この間のYahoo!地図に係る総売上高は924億円を下らない。
 また、原告が原告各地図に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額は、上記売上高の10%相当額を下らない。
 したがって、原告は、被告がYahoo!地図を公衆送信したことにより、少なくとも92億4000万円の損害(著作権法114条3項)を被った。
イ 被告がYahoo!地図を公衆送信したことにより、原告各地図に係る原告の同一性保持権及び氏名表示権が侵害され、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料相当額は、それぞれ1000万円を下らない。
ウ 前記ア及びイの請求をするのに要する弁護士費用相当額は、1000万円を下らない。
(2)プロアトラスSVについて
ア アルプス社及び被告は、プロアトラスSVの製作及び販売を行っていたところ、プロアトラスSVの総売上高は10億円を下らないと推測される。
 そして、原告が原告各地図に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額は、上記売上高の10%相当額を下らない。
 したがって、原告は、アルプス社及び被告がプロアトラスSVを販売等したことにより、少なくとも1億円の損害(著作権法114条3項)を被った。
イ アルプス社及び被告がプロアトラスSVを販売等したことにより、原告各地図に係る原告の同一性保持権及び氏名表示権が侵害され、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料相当額は、それぞれ100万円を下らない。
ウ 前記ア及びイの請求をするのに要する弁護士費用相当額は、100万円を下らない。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
7 争点5(不当利得額)について
(原告の主張)
 前記6(原告の主張)(1)アのとおり、原告は、被告がYahoo!地図を公衆送信したことにより、少なくとも92億4000万円の損失を被り、被告は同額を不当に利得したといえる。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
8 争点6(消滅時効)について
(被告の主張)
(1)不法行為に基づく損害賠償請求について
 原告は、平成22年2月10日時点において、Yahoo!地図の詳細を把握していた。また、原告が代表者を務める生活地図株式会社は、本件特許権に係る専用実施権の設定を受け、平成29年10月11日、被告に対し、Yahoo!地図が本件特許権を侵害すると主張して損害賠償請求訴訟を提起しており、この事実は、原告がYahoo!地図の詳細を把握していたことを裏付けるといえる。
 したがって、平成30年7月5日以前に生じた損害については、本件訴訟の提起日(令和3年7月6日)までに、原告が損害及び加害者を知ってから3年が経過しているから、原告の被告に対する損害賠償請求権について、消滅時効を援用する。
(2)不当利得返還請求権について
 平成23年10月28日以前に生じた損害については、訴えの変更の申立てをした日(令和3年10月29日)までに10年が経過しているから、原告の被告に対する不当利得返還請求権について、消滅時効を援用する。
(原告の主張)
 否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1−1(原告地図1に関する著作権侵害の成否)について
(1)複製及び翻案の判断方法
ア 著作物の複製(著作権法2条1項15号)とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう。また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製又は翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
 そうすると、プロアトラスSV及びYahoo!地図が原告地図1を複製又は翻案したものに当たるというためには、原告地図1とプロアトラスSV及びYahoo!地図が、創作的表現において同一性を有することが必要であるものと解される。したがって、原告地図1とプロアトラスSV及びYahoo!地図との間で、アイデアなど表現それ自体でない部分でのみ同一性が認められる場合には、プロアトラスSV及びYahoo!地図は原告地図1を複製又は翻案したものに当たらない。また、原告地図1とプロアトラスSV及びYahoo!地図との間に、表現において同一性が認められる場合であっても、同一性を有する表現がありふれたものであるなど、その表現に創作性が認められない場合も、プロアトラスSV及びYahoo!地図は原告地図1を複製又は翻案したものに当たらないと解すべきである。
 ところで、複製又は翻案の成否を判断するに当たっては、著作権を主張する者が作成したものに着目して創作性を判断し、その上で、被疑侵害者が作成したものを観察して、著作権の創作的表現と認められる部分が再製されているか否かを判断するとしても、原告地図1における創作的表現がプロアトラスSV及びYahoo!地図に再製されていると認められるか否かを検討する必要があるから、原告地図1とプロアトラスSV及びYahoo!地図の共通部分が創作的表現であるか否かを検討した場合と結論を異にするものではないというべきである。
イ この点、地図は、地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号によって客観的に表現するものであるから、個性的表現の余地が少なく、文学、音楽、造形美術上の著作物等に比して、著作権法上の保護を受ける範囲が狭いのが通例である。しかし、地図において記載すべき情報の取捨選択及び表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表れ得るということができる。そこで、地図の著作物性は、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して判断すべきものであり、前記アの創作的表現の同一性についても、このような観点から検討すべきである。
(2)プロアトラスSVが原告地図1を複製又は翻案したものであるか
ア 証拠(甲1、4、63)及び弁論の全趣旨によれば、原告地図1は、沖縄県糸満市周辺の地図であること、原告地図1及びプロアトラスSVにおける同市潮平及び阿波根周辺の各記載は、別紙原告地図1・A及びプロアトラスSV・Aのとおりであること、同市照屋周辺の各記載は、別紙原告地図1・B及びプロアトラスSV・Bのとおりであること、同市兼城周辺の各記載は、別紙原告地図1・C及びプロアトラスSV・Cのとおりであることが認められる。
 そこで、別紙原告地図1・AないしC及びプロアトラスSV・AないしCを対比し、原告が主張する原告地図1とプロアトラスSVの共通部分(前記第3の1(原告の主張)(1)ア(ア)a(a)@ないしD並びに(b)E及びF。以下、この第4の1(2)アの検討においては、当該(原告の主張)で付した頭書の番号に従って、「共通部分@」などという。)が創作的表現と認められるかについて検討する。
(ア)共通部分@について
a 原告は、原告地図1とプロアトラスSVには住宅地図であるという共通部分@が存在すると主張するところ、別紙原告地図1・AないしC及びプロアトラスSV・AないしCを対比すると、建物や住宅、道路、河川等が記載されている点で一致するとは認められるものの、これらの具体的な記載が一致しているとは認められない。
b 前記aの一致点について検討すると、地図に建物や住宅、道路、河川等を記載すること自体はアイデアにすぎず、共通部分@は、表現それ自体でない部分で同一性を有するにすぎないというべきである。
 したがって、共通部分@について、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(イ)共通部分Aについて
a 原告は、原告地図1とプロアトラスSVが、いずれも、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物について、居住人氏名や建物名称の記載を省略し、住宅及び建物のポリゴン並びに番地のみを記載し、当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は当該ポリゴンのほぼ中央に、紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで、折り返すことなく、必ずしも当該ポリゴンの内部に収まらずに、アラビア数字で記載されている点を、共通部分Aとして主張する。
 しかし、別紙原告地図1・AないしC及びプロアトラスSV・AないしCを対比すると、原告地図1とプロアトラスSVで、同じ建物について名称が記載されているものもあれば、一方の地図では名称が記載されているが、他方の地図では記載されていないものもあり、公共施設やビル等のうち検索の目安となるものや著名なものが異なるとい える。また、原告地図1とプロアトラスSVで、住宅及び建物のポリゴンの具体的な記載が全て一致するとは認められない。さらに、原告地図1では、ほぼ全てのポリゴンにつき番地が記載されているのに対し、プロアトラスSVでは、番地が記載されていないポリゴンが相当数ある。
 したがって、原告地図1とプロアトラスSVは、一部の住宅及び建物のポリゴンの具体的な記載の点、一部の建物について建物名称が記載され、住宅の居住人氏名やその他の建物の建物名称の記載は省略されている点、住宅及び建物がポリゴンで表現されており、当該ポリゴンには影が記載されていない点、一部の住宅及び建物の番地が、当該ポリゴンのほぼ中央に、紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで、折り返すことなく、必ずしも当該ポリゴンの内部に収まらずに、アラビア数字で記載されている点でのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aのとおり、原告地図1とプロアトラスSVで、一部の住宅及び建物のポリゴンの具体的な記載が一致したとしても、それは、同じ住宅又は建物を真上から見たときの外枠を記載したことによるものであるから、住宅及び建物の形状という事実において同一性が認められるにすぎない。また、原告地図1では、ポリゴンが淡い黄色であるのに対し、プロアトラスSVでは、ポリゴンは薄い灰色、濃い灰色又はオレンジ色であること、原告地図1では、番地は、黒色で、各数字が鉛直方向に記載されているのに対し、プロアトラスSVでは、番地は、薄茶色で、各数字が斜体で記載されていることを考慮すると、その他の一致点は、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性が認められるにすぎないといわざるを得ない。
 さらに、共通部分Aが表現において同一性を有するものであるとしても、証拠(乙6、7、11、14、15、25、32ないし38)によれば、原告地図1の作成当時、建物及び住宅の真上から見た形状を影なしのポリゴンで記載した地図は複数存在したと認められる。そうすると、このような記載方法については、ありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、建物及び住宅の形状をこのようなポリゴンで記載するとしても、ポリゴンは建物及び住宅の形状に従って記載するものであるため、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 その上、証拠(乙7、14、15、25、32ないし38)によれば、原告地図1の作成当時、建物及び住宅の番地が、建物及び住宅のポリゴンの中央付近に、アラビア数字で折り返すことなく横書きされた記載を含む地図は複数存在したと認められる。そうすると、このような記載方法についても、ありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、建物及び住宅の番地をこのように記載するとしても、番地はあらかじめ指定されているものであるため、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 したがって、共通部分Aは、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、共通部分Aにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
c これに対して、原告は、乙第6及び32ないし34号証の各地図は一般住宅の居住人名が記載された箇所があること、乙第7、14、15及び36ないし38号証の各地図は極めて特殊な状況の下で、一部地域についてのみ作成されたものであること、乙第10号証の地図はそもそもポリゴンの記載がないこと、乙第18号証の地図はポリゴンを記載し、一般住宅の居住人名を記載せず、一部の建物の名称を記載するという特徴を有しないこと、乙第24及び25号証の各地図は主に自動車での移動等のために広域の道路情報や地理情報を得ることを目的としたものであり、そもそも居住人名や番地を記載する必要はないことからすると、原告地図1の記載がありふれていたことの証拠とならないと主張する。
 しかし、上記各地図は、いずれも、建物及び住宅の真上から見た形状を影なしのポリゴンで記載したり、建物及び住宅の番地が、建物及び住宅のポリゴンの中央付近に、アラビア数字で折り返すことなく横書きされたりする部分を含んでいると認められ、他方で、本件全証拠によっても、上記各地図が特殊な目的のために作成されたものであるといった、ありふれていることを否定するような事情を認めることはできない。そうすると、上記の記載方法はありふれていたものといわざるを得ない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(ウ)共通部分Bについて
a 原告は、原告地図1とプロアトラスSVが、いずれも、検索の目安となる公共施設や著名ビル等について、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を、公共施設や著名ビル等の建物を表すポリゴンの外側に、横書きする点を、共通部分Bとして主張する。
 しかし、前記(イ)aのとおり、原告地図1とプロアトラスSVでは、同じ建物について名称が記載されているものもあれば、一方の地図では名称が記載されているが、他方の地図では記載されていないものもあり、公共施設やビル等のうち検索の目安となるものや著名なものが異なるといえる。また、原告地図1では、名称は赤色で記載されているのに対し、プロアトラスSVでは、黒色で記載されており、また、同じ建物につき双方の地図に記載された名称であっても、例えば、「糸満オメガ」と「パチンコオメガ」、「糸満市浄水場」と「市浄水場」、「糸満市営浜川団地」と「市営浜川原団地」など、名称の表記方法が異なっている。
 したがって、原告地図1とプロアトラスSVは、一部の公共施設やビル等の名称が、同公共施設やビル等の場所を示す点(「・」)の右側で、かつ、同公共施設やビル等の建物を表すポリゴンの外側に、横書きされている点でのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aのとおり、原告地図1とプロアトラスSVは、一部の公共施設やビル等の名称が、その場所を示す「・」の右側で、そのポリゴンの外側に、横書きされている点でのみ一致することから、共通部分Bについて、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図中の建物の名称の記載方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎないというほかない。
 また、共通部分Bが表現において同一性を有するものであるとしても、証拠(乙21、22、24、25)によれば、原告地図1の作成当時、建物のポリゴン付近に、「・」及びその右側に横書きされた当該建物の名称の記載を含む地図は複数存在したと認められる。そうすると、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、建物の名称をこのように記載するとしても、それは、あらかじめ定まった建物の名称を記載するだけであるため、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 したがって、共通部分Bは、表現それ自体でないアイデアにおいて同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、共通部分Bにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
c これに対して、原告は、原告地図1の作成当時、「・」に続けて建物の名称が記載される地図があったとしても、「・」の上下左右に混在して記載され、縦書きと横書きが併存していることが一般的であったから、原告地図1の記載のように、全ての建物の名称を「・」の右側に折り返すことなく横書きすることは、ありふれたものではなかったと主張する。
 しかし、前記bのとおり、原告地図1の作成当時、「・」を記載し、その右側に建物の名称を横書きすること自体はありふれており、他方で、全ての建物の名称をこのように記載をすることは困難であるといった事情は見当たらないことからすると、全ての建物の名称を「・」の右側に折り返すことなく横書きすることについては、やはり、ありふれたものといわざるを得ない。
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。(エ)共通部分Cについて
a 原告は、原告地図1とプロアトラスSVが、いずれも、縮尺を適宜圧縮して広い鳥瞰性を備える点を、共通部分Cとして主張する。
 しかし、同じ大きさの地図にどの範囲の地域を記載することができるかは、いかなる倍率で縮小するかによることになる。そして、証拠(甲41)及び弁論の全趣旨によれば、原告地図1の縮尺は約1/3000であり、プロアトラスSVの縮尺は約1/2600であることが認められる。
 そうすると、両地図の縮尺は必ずしも同一であると評価できるものではないが、原告地図1とプロアトラスSVは、約1/2600ないし1/3000程度の縮尺がされている点でのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aの一致点については、縮尺が、実際の土地、建物等を地図上でどのような大きさで記載するかを表す尺度にすぎないことから、縮尺が約1/2600ないし1/3000であることは、具体的な表現とは認められない。そうすると、共通部分Cについて、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎないといわざるを得ない。
 したがって、共通部分Cは、表現それ自体でないアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから、共通部分Cにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(オ)共通部分Dについて
a 原告は、原告地図1とプロアトラスSVが、いずれも、区画に応じて背景の色を変え、全体的に淡い黄色を基調とし、ポリゴンに灰色等の色を用い、ポリゴンとその背景を異なる色とする点を、共通部分Dとして主張する。
 しかし、別紙原告地図1・AないしC及びプロアトラスSV・AないしCによれば、原告地図1では、ポリゴンは淡い黄色であるのに対し、プロアトラスSVでは、ポリゴンは薄い灰色、濃い灰色又はオレンジ色である。
 したがって、原告地図1とプロアトラスSVは、区画に応じて背景の色を変え、全体的に淡い黄色を基調とし、ポリゴンとその背景を異なる色とする点においてのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aの一致点は、区画に応じて背景の色を変えることやポリゴンとその背景を異なる色とすることにより、各区画やポリゴンがわかりやすくなるようにしたものである。そうすると、共通部分Dについては、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の配色の方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎないといわざるを得ない。
 また、共通部分Dが表現において同一性を有するものであるとしても、証拠(乙7、14、15、20ないし22、24、25)によれば、原告地図1の作成当時、地区や建物、住宅等の色を塗り分けた地図は複数存在したと認められる。そうすると、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、地区、建物及び住宅をこのように記載するとしても、それは、客観的に存在する地区、建物及び住宅を塗り分けただけであるため、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。さらに、全体的に淡い黄色を基調とすることは、珍しい色使いとは認められず、ありふれたものといえるから、やはり創作性は認められない。
 したがって、共通部分Dは、表現それ自体でないアイデアにおいて同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、共通部分Dにつき、創作的表現において同一性を有するものであると認めることはできない。
(カ)共通部分Eについて
 原告は、原告地図1とプロアトラスSVが、いずれも、素材の取捨選択の観点において、「道路・河川」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」、「一般住宅及び建物の個別建物形」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」及び「建物番地」を記載することを選択し、住宅地図の一般的な素材である、一般住宅及び建物に関する「居住人氏名」や「建物名称」、「地類界」(宅地の境等)、「等高線」その他地理に関する素材を記載しないことを選択した点を、共通部分Eとして主張する。
 しかし、別紙原告地図1・AないしC及びプロアトラスSV・AないしCによれば、プロアトラスSVでは、交差点名が記載されていること、ガソリンスタンドであれば「G」、飲食店であれば「R」、駐車場であれば「P」、学校であれば「○文」など、建物の種類を示すマークが記載されていること、緑地部分が緑色であること、公共性の高い建物は濃い灰色、商業施設等はオレンジ色、その他の建物及び住宅は薄い灰色に塗り分けられていること、道路が3色に塗り分けられていることといった特徴を有していると認められるのに対し、原告地図1においては、このような特徴を認めることはできない。
 そうすると、原告地図1とプロアトラスSVとが地図に記載する素材の取捨選択において共通するとは認められず、よって、共通部分Eにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(キ)共通部分Fについて
a 原告は、原告地図1とプロアトラスSVが、いずれも、素材の配置及び表現方法の観点において、(a)「道路・河川」は、盛土(土堤)やコンクリート被覆等を記載せず、シンプルに、道路の形状をその両外延を示す線で表現するとともに、河川をその両外延を示す線で表現し、かつ、内部を水色で着色する点、(b)「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」及び「一般住宅及び建物の個別建物形」は、建物のポリゴンの集約を行うことなく、個別の建物の形を影なしの建物のポリゴンで表示する点、(c)「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」は、原則として、その場所を示す「・」の右側に続けて、必ずしも建物のポリゴンの内部に収まらずに、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく記載する点、(d)「建物番地」は、原則として、建物のポリゴンのほぼ中央に、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく、必ずしも建物のポリゴンの内側に収まらずに、アラビア数字で記載する点、(e)「区画境界」は、一点鎖線又は破線で境界を表示しつつ、異なる色で異なる区画を着色する点、(f)「縮尺」は、原告地図1が約1/3000であり、プロアトラスSVが約1/2600である点を、共通部分Fとして主張する。
b 前記a(a)について、道路及び河川の具体的な記載が全て一致するとは認められない。したがって、原告地図1とプロアトラスSVは、一部の道路及び河川の具体的な記載の点、道路及び河川の盛土(土堤)やコンクリート被覆等が記載されず、道路の形状がその両外延を示す線で記載されている点、河川の内部が水色で着色されている点でのみ一致すると認められる。
 しかし、一部の道路及び河川の具体的な記載が一致したとしても、それは、同じ道路又は河川を真上から見たときの外延を記載したことによるものであるから、道路及び河川の形状という事実において同一性を有するにすぎない。また、原告地図1では、道路は他の土地部分と同じ色であるのに対し、プロアトラスSVでは、道路は、他の土地部分とは異なり、白色、薄いオレンジ色又は淡い黄色であることを考慮すると、その他の一致点は、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎない。
 さらに、前記a(a)が表現において同一性を有するものであるとしても、証拠(乙6、7、10、11、14、15、18ないし22、24、25、31ないし38)によれば、原告地図1の作成当時、道路及び河川の両外延を1本の実線で記載し、河川が淡い水色である地図は複数存在したことが認められる。そうすると、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、道路及び河川をこのように記載するとしても、それは、道路及び河川の形状に従って記載するものであるため、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 したがって、前記a(a)は、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、前記a(a)につき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
c 前記a(b)及び(d)については前記(イ)のとおり、前記a(c)については前記(ウ)のとおり、前記a(f)については前記(エ)のとおり、いずれも、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
d 前記a(e)について、各地区の境界の具体的な記載が全て一致するとは認められない。したがって、原告地図1とプロアトラスSVは、一部の地区の境界の具体的な記載の点、地区の境界が一点鎖線又は破線で記載されている点で一致すると認められる。
 しかし、一部の地区の境界の具体的な記載が一致したとしても、それは、同じ地区の境界を真上から見たときの形状を記載したことによるものであるから、地区の境界の位置という事実において同一性を有するにすぎない。また、地区の境界が一点鎖線又は破線で記載されている点は、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎない。
 また、前記a(e)が表現において同一性を有するものであるとしても、証拠(乙7、10、11、14、15、17ないし20、25、27、32、33、35ないし38)によれば、原告地図1の作成当時、地区の境界を1本の破線で記載する地図は複数存在したことが認められる。そうすると、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、地区の境界をこのように記載するとしても、地区の境界の形状に従って記載するものであるため、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、その点に創作性は認められない。
 したがって、前記a(e)は、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を意味するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、前記a(e)につき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
イ 以上によれば、別紙原告地図1・AないしC及びプロアトラスSV・AないしCを対比したとき、原告地図1とプロアトラスSVの共通部分は、創作的表現において同一性を有するとは認められない。
 また、別紙原告地図1・AないしCで表示される沖縄県糸満市潮平、阿波根、照屋及び兼城周辺以外の地域の原告地図1とこれに対応するプロアトラスSVを対比したとしても、前記アで検討した内容に照らせば、原告地図1とプロアトラスSVの共通部分が創作的表現において同一性を有するとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 さらに、前記アのとおり、同じ地域についての原告地図1とプロアトラスSVの各記載を比較するのではなく、地域を特定せず原告地図1とプロアトラスSVの各記載を比較したときに共通部分が認められたとしても、異なる地域の地図を比較するものである以上、具体的な記載が共通するとは認められず、せいぜい地図の記載方法が共通するにとどまるから、アイデアにおいて同一性を有するものにすぎず、共通部分が創作的表現において同一性を有するとは認められない。
 したがって、その余の点を判断するまでもなく、プロアトラスSVが原告地図1を複製又は翻案したとは認められない。
ウ よって、プロアトラスSVを、アルプス社が作成及び販売し、Zホールディングス及び被告がインターネット上での地図閲覧サービスにより提供したことによって、原告地図1に係る原告の複製権、翻案権、譲渡権及び公衆送信権が侵害されたとは認められない。
(3)Yahoo!地図が原告地図1を複製又は翻案したものであるか
ア 証拠(甲26、64)及び弁論の全趣旨によれば、Yahoo!地図における沖縄県糸満市潮平及び阿波根周辺の記載は、別紙Yahoo!地図・Aのとおりであること、同市照屋周辺の記載は、別紙Yahoo!地図・Bのとおりであること、同市兼城周辺の記載は、別紙Yahoo!地図・Cのとおりであることが認められる。
 そこで、別紙原告地図1・AないしC及びYahoo!地図・AないしCを対比し、原告が主張する原告地図1とYahoo!地図の共通部分(前記第3の1(原告の主張)(2)ア(ア)a(a)@ないしD並びに(b)E及びF。以下、この第4の1(3)アの検討においては、当該(原告の主張)で付した頭書の番号に従って、「共通部分@」などという。)が創作的表現と認められるか否かについて検討する。
(ア)共通部分@について
a 原告は、原告地図1とYahoo!地図には住宅地図であるという共通部分@が存在すると主張するところ、別紙原告地図1・AないしC及びYahoo!地図・AないしCを対比すると、建物や住宅、道路、河川等が記載されている点で一致するとは認められるものの、これらの具体的な記載が一致しているとは認められない。
b 前記aの一致点について検討すると、前記(2)ア(ア)bのとおり、地図に建物や住宅、道路、河川等を記載すること自体はアイデアにすぎず、共通部分@は、表現それ自体でない部分で同一性を有するにすぎないというべきである。
 したがって、共通部分@について、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(イ)共通部分Aについて
a 原告は、原告地図1とYahoo!地図が、いずれも、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物について、居住人氏名や建物名称の記載を省略し、住宅及び建物のポリゴン並びに番地のみを記載し、当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は当該ポリゴンのほぼ中央に、紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで、折り返すことなく、必ずしも当該ポリゴンの内部に収まらずに、アラビア数字で記載されている点を、共通部分Aとして主張する。
 しかし、別紙原告地図1・AないしC及びYahoo!地図・AないしCを対比すると、原告地図1とYahoo!地図で、同じ建物について名称が記載されているものもあれば、一方の地図では名称が記載されているが、他方の地図では記載されていないものもあり、公共施設やビル等のうち検索の目安となるものや著名なものが異なるといえる。また、原告地図1とYahoo!地図で、住宅及び建物のポリゴンの具体的な記載が全て一致するとは認められない。さらに、原告地図1では、ほぼ全てのポリゴンにつき番地が記載されているのに対し、Yahoo!地図では、建物の名称が記載されたポリゴンについては番地が記載されておらず、そのほかにも番地が記載されていないポリゴンがある。
 したがって、原告地図1とYahoo!地図は、一部の住宅及び建物のポリゴンの具体的な記載の点、一部の建物について建物名称が記載され、住宅の居住人氏名やその他の建物名称の記載は省略されている点、住宅及び建物がポリゴンで表現されており、当該ポリゴンには影が記載されていない点、一部の住宅及び建物の番地が、当該ポリゴンのほぼ中央に、紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで、折り返すことなく、必ずしも当該ポリゴンの内部に収まらずに、アラビア数字で記載されている点でのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aのとおり、原告地図1とYahoo!地図で、一部の住宅及び建物のポリゴンの具体的な記載が一致したとしても、それは、同じ住宅又は建物を真上から見たときの外枠を記載したことによるものであるから、住宅及び建物の形状という事実において同一性が認められるにすぎない。また、原告地図1では、ポリゴンが淡い黄色であるのに対し、Yahoo!地図では、ポリゴンは薄い灰色であること、原告地図1では、番地は黒色で記載されているのに対し、Yahoo!地図では、番地は灰色で記載されていることを考慮すると、その他の一致点は、具体的な表現において同一性を有するとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性が認められるにすぎないといわざるを得ない。
 さらに、共通部分Aが表現において同一性を有するものであるとしても、前記(2)ア(イ)bのとおり、原告地図1の作成当時、建物及び住宅の真上から見た形状を影なしのポリゴンで記載した地図は複数存在し、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、建物及び住宅の形状をこのようなポリゴンで記載するとしても、ポリゴンは建物及び住宅の形状に従って記載するものであり、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 その上、前記(2)ア(イ)bのとおり、原告地図1の作成当時、建物及び住宅の番地が、建物及び住宅のポリゴンの中央付近に、アラビア数字で折り返すことなく横書きされた記載を含む地図は複数存在したと認められる。そうすると、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、建物及び住宅の番地をこのように記載するとしても、番地はあらかじめ指定されているものであり、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 したがって、共通部分Aは、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、共通部分Aにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(ウ)共通部分Bについて
a 原告は、原告地図1とYahoo!地図が、いずれも、検索の目安となる公共施設や著名ビル等について、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を、公共施設や著名ビル等の建物を表すポリゴンの外側に、横書きする点を、共通部分Bとして主張する。
 しかし、前記(イ)aのとおり、原告地図1とYahoo!地図では、同じ建物について名称が記載されているものもあれば、一方の地図では名称が記載されているが、他方の地図では記載されていないものもあり、公共施設やビル等のうち検索の目安となるものや著名なものが異なるといえる。また、原告地図1では、名称は赤色で記載されているのに対し、Yahoo!地図では、濃い灰色、水色又はピンク色で記載されている上、両者で、書体も異なっている。
 したがって、原告地図1とYahoo!地図は、一部の公共施設やビル等の名称が、同公共施設やビル等の場所を示す点(「・」)の右側で、かつ、同公共施設やビル等の建物を表すポリゴンの外側に、横書きされている点でのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aのとおり、原告地図1とYahoo!地図は、一部の公共施設やビル等の名称が、その場所を示す点(「・」)の右側で、そのポリゴンの外側に、横書きされている点でのみ一致することから、共通部分Bについて、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図中の建物の名称の記載方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎないというほかない。
 また、共通部分Bが表現において同一性を有するものであるとしても、前記(2)ア(ウ)bのとおり、原告地図1の作成当時、建物のポリゴン付近に、「・」及びその右側に横書きされた当該建物の名称の記載を含む地図は複数存在し、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、建物の名称をこのように記載するとしても、それは、あらかじめ定まった建物の名称を記載するものであり、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 したがって、共通部分Bは、表現それ自体でないアイデアにおいて同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、共通部分Bにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(エ)共通部分Cについて
a 原告は、原告地図1とYahoo!地図が、いずれも、縮尺を適宜圧縮して広い鳥瞰性を備える点を、共通部分Cとして主張する。
 しかし、同じ大きさの地図にどの範囲の地域を記載することができるかは、いかなる倍率で縮小するかによることになる。そして、前記(2)ア(エ)aのとおり、原告地図1の縮尺は約1/3000であり、証拠(甲64)によれば、Yahoo!地図の縮尺は約1/2631であることが認められる。
 そうすると、両地図の縮尺は必ずしも同一であると評価できるものではないが、原告地図1とYahoo!地図は、約1/2631ないし1/3000程度の縮尺がされている点でのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aの一致点については、前記1(2)ア(エ)bのとおり、縮尺が、実際の土地、建物等を地図上でどのような大きさで記載するかを表す尺度にすぎないことから、縮尺が約1/2631ないし1/3000であることは、具体的な表現とは認められない。そうすると、共通部分Cについて、具体的な表現における同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎないといわざるを得ない。
 したがって、共通部分Cは、表現それ自体でないアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから、共通部分Cにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(オ)共通部分Dについて
a 原告は、原告地図1とYahoo!地図が、いずれも、ポリゴンとその背景を異なる色とする点を、共通部分Dとして主張する。
 別紙原告地図1・AないしC及びYahoo!地図・AないしCによれば、原告地図1とYahoo!地図は、ポリゴンとその背景を異なる色とする点において一致すると認められる。
b 前記aの一致点は、区画に応じて背景の色を変えることやポリゴンとその背景を異なる色とすることにより、各区画やポリゴンがわかりやすくなるようにしたものである。そうすると、共通部分Dについては、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の配色の方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎないといわざるを得ない。
 また、共通部分Dが表現において同一性を有するものであるとしても、前記(2)ア(オ)のとおり、原告地図1の作成当時、地区や建物、住宅等の色を塗り分けた地図は複数存在し、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、地区をこのように記載するとしても、それは、客観的に存在する地区を塗り分けただけであり、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 したがって、共通部分Dは、表現それ自体でないアイデアにおいて同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、共通部分Dにつき、創作的表現において同一性を有するものであると認めることはできない。
(カ)共通部分Eについて
 原告は、原告地図1とYahoo!地図が、いずれも、素材の取捨選択の観点において、「道路・河川」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」、「一般住宅及び建物の個別建物形」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」及び「建物番地」を選択して記載し、住宅地図の一般的な素材である、一般住宅及び建物に関する「居住人氏名」や「建物名称」、「地類界」(宅地の境等)、「等高線」その他地理に関する素材を記載しないことを選択した点を、共通部分Eとして主張する。
 しかし、別紙原告地図1・AないしC及びYahoo!地図・AないしCによれば、Yahoo!地図では、交差点名、道路の種類及び番号、信号機及びバス停が記載されていること、ガソリンスタンド、コンビニエンスストア及びファーストフードショップのチェーン店について、名称を記載せず、各チェーン店の標章が記載されていること、学校、病院、小売店及び郵便局について、名称の頭に建物の種類を示すマークが記載されていること、道路が2色に塗り分けられていることといった特徴を有していると認められるのに対し、原告地図1においては、このような特徴を認めることはできない。
 そうすると、原告地図1とYahoo!地図とが地図に記載する素材の取捨選択において共通するとは認められず、よって、共通部分Eにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(キ)共通部分Fについて
a 原告は、原告地図1とYahoo!地図が、いずれも、素材の配置及び表現方法の観点において、(a)「道路・河川」は、盛土(土堤)やコンクリート被覆等を記載せず、シンプルに、道路の形状をその両外延を示す線で表現するとともに、河川をその両外延を示す線で表現し、かつ、内部を水色で着色する点、(b)「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」及び「一般住宅及び建物の個別建物形」は、建物のポリゴンの集約を行うことなく、個別の建物の形を影なしの建物のポリゴンで表示する点、(c)「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」は、原則として、その場所を示す「・」の右側に続けて、必ずしも建物のポリゴンの内部に収まらずに、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく記載する点、(d)「建物番地」は、原則として、建物のポリゴンのほぼ中央に、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく、必ずしも建物のポリゴンの内側に収まらずに、アラビア数字で記載する点、(e)「縮尺」は、原告地図1が約1/3000であり、Yahoo!地図が約1/2631である点を、共通部分Fとして主張する。
b 前記a(a)について、道路及び河川の具体的な記載が全て一致するとは認められない。したがって、原告地図1とYahoo!地図は、一部の道路及び河川の具体的な記載の点、道路及び河川の盛土(土堤)やコンクリート被覆等が記載されず、道路の形状がその両外延を示す線で記載されている点、河川の内部が水色で着色されている点でのみ一致すると認められる。
 しかし、一部の道路及び河川の具体的な記載が一致したとしても、それは、同じ道路又は河川を真上から見たときの外延を記載したことによるものであるから、道路及び河川の形状という事実において同一性を有するにすぎない。また、原告地図1では、道路は他の土地部分と同じ色であるのに対し、Yahoo!地図では、道路は、他の土地部分とは異なり、白色又は薄いオレンジ色であることを考慮すると、その他の一致点は、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎない。
 さらに、前記a(a)が表現において同一性を有するものであるとしても、前記(2)ア(キ)bのとおり、原告地図1の作成当時、道路の両外延を1本の実線で記載し、河川が淡い水色である地図は複数存在し、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図1の表示範囲である沖縄県糸満市周辺の地図において、道路及び河川をこのように記載するとしても、それは、道路及び河川の形状に従って記載するものであり、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 したがって、前記a(a)は、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、前記a(a)につき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
c 前記a(b)及び(d)については前記(イ)のとおり、前記a(c)については前記(ウ)のとおり、前記a(e)については前記(エ)のとおり、いずれも、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
イ 以上によれば、別紙原告地図1・AないしC及びYahoo!地図・AないしCを対比したとき、原告地図1とYahoo!地図の共通部分は、創作的表現において同一性を有するとは認められない。
 また、別紙原告地図1・AないしCで表示される沖縄県糸満市潮平、阿波根、照屋及び兼城周辺以外の地域の原告地図1とこれに対応するYahoo!地図を対比したとしても、前記アで検討した内容に照らせば、原告地図1とYahoo!地図の共通部分が創作的表現において同一性を有するとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 さらに、前記アのとおり、同じ地域についての原告地図1とYahoo!地図の各記載を比較するのではなく、地域を特定せず原告地図1とYahoo!地図の各記載を比較したときに共通部分が認められたとしても、異なる地域の地図を比較するものである以上、具体的な記載が共通するとは認められず、せいぜい地図の記載方法が共通するにとどまるから、アイデアにおいて同一性を有するものにすぎず、共通部分が創作的表現において同一性を有するとは認められない。
 したがって、その余の点を判断するまでもなく、Yahoo!地図が原告地図1を複製又は翻案したとは認められない。
ウ よって、Zホールディングス及び被告がYahoo!地図をインターネット上での地図閲覧サービスにより提供したことによって、原告地図1に係る原告の公衆送信権が侵害されたとは認められない。
2 争点1−2(原告地図1に関する著作者人格権侵害の成否)について
(1)プロアトラスSVの作成、販売及び提供
 前記1(2)のとおり、原告地図1とプロアトラスSVの共通部分につき、創作的表現において同一性を有するものとは認められず、プロアトラスSVは、原告地図1の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものではない。
 したがって、プロアトラスSVの作成は、原告地図1とは別個の著作物を創作したものであって、原告地図1に係る原告の同一性保持権を侵害するものとは認められないし、原告の氏名を表示することなくプロアトラスSVを販売し、インターネット上での地図閲覧サービスにより提供したとしても、原告地図1に係る原告の氏名表示権を侵害するものとも認められない。
(2)Yahoo!地図の作成及び提供
 前記1(3)のとおり、原告地図1とYahoo!地図の共通部分につき、創作的表現において同一性を有するものとは認められず、Yahoo!地図は、原告地図1の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものではない。
 したがって、Yahoo!地図の作成は、原告地図1とは別個の著作物を創作したものであって、原告地図1に係る原告の同一性保持権を侵害するものとは認められないし、原告の氏名を表示することなくYahoo!地図をインターネット上での地図閲覧サービスにより提供したとしても、原告地図1に係る原告の氏名表示権を侵害するものとも認められない。
3 争点2−1(原告地図2に関する著作権侵害の成否)について
(1)プロアトラスSVが原告地図2を複製又は翻案したものであるか
ア 前記1(1)アのとおり、プロアトラスSVが原告地図2を複製又は翻案したものに当たるというためには、原告地図2とプロアトラスSVが創作的表現において同一性を有することが必要であり、原告地図2とプロアトラスSVとの間で、アイデアなど表現それ自体でない部分でのみ同一性が認められる場合や、表現において同一性が認められる場合であっても、同一性を有する表現がありふれたものであるなど、創作性が認められない場合は、プロアトラスSVは原告地図2を複製又は翻案したものであるとはいえないというべきである。
 そして、証拠(甲3、乙13)によれば、原告地図2(図3)は原告地図2(図2)の一部を拡大したものであり、原告地図2(図5)は原告地図2(図2)に3本の縦の線を引いたものであると認められるから、プロアトラスSVが原告地図2を複製又は翻案したものといえるかは、原告地図2(図2)とプロアトラスSVの各記載を対比し、共通部分が創作的表現において同一性を有するか否かを検討すれば足りる。
イ しかし、本件全証拠によっても、原告地図2(図2)で表示される地域に係るプロアトラスSVが存在するとは認められない。
 そうすると、地域を特定せず原告地図2(図2)とプロアトラスSVの各記載を比較するほかないが、この場合、前記1(2)イのとおり、異なる地域の地図を比較するものである以上、具体的な記載が共通するとは認められず、せいぜい地図の記載方法が共通するにとどまるから、アイデアにおいて同一性を有するものにすぎず、共通部分が創作的表現において同一性を有するとは認められない。
 したがって、原告地図2とプロアトラスSVの共通部分が創作的表現において同一性を有するものと認めることはできず、その余の点を判断するまでもなく、プロアトラスSVが原告地図2を複製又は翻案したものであるとは認められない。
ウ よって、プロアトラスSVをアルプス社が作成及び販売し、Zホールディングス及び被告がインターネット上での地図閲覧サービスを提供したことにより、原告地図2に係る原告の複製権、翻案権及び公衆送信権が侵害されたとは認められない。
(2)Yahoo!地図が原告地図2を複製又は翻案したものであるか
ア 前記1(1)アのとおり、Yahoo!地図が原告地図2を複製又は翻案したものに当たるというためには、原告地図2とYahoo!地図が創作的表現において同一性を有することが必要であり、原告地図2とYahoo!地図との間で、アイデアなど表現それ自体でない部分でのみ同一性が認められる場合や、表現において同一性が認められる場合であっても、同一性を有する表現がありふれたものであるなど、創作性が認められない場合は、Yahoo!地図は原告地図2を複製又は翻案したものであるとはいえないというべきである。
イ 証拠(甲3、26、64、65、乙13)及び弁論の全趣旨によれば、原告地図2は、沖縄県糸満市米須周辺の地図であること、原告地図2(図2)及び(図3)の各記載並びに原告地図2(図2)及び(図3)に対応するYahoo!地図の記載は、別紙原告地図2・D及びE並びにYahoo!地図・D及びEのとおりであることが認められる。
 そこで、別紙原告地図2・D及びE並びにYahoo!地図・D及びEを対比し、原告が主張する原告地図2とYahoo!地図の共通部分(前記第3の3(原告の主張)(2)ア(ア)a(a)@ないしC並びに(b)D及びE。以下、この第4の3(2)イの検討においては、当該(原告の主張)で付した頭書の番号に従って、「共通部分@」などという。)が創作的表現と認められるか否かについて検討する。
(ア)共通部分@について
a 原告は、原告地図2とYahoo!地図には住宅地図であるという共通部分@が存在すると主張するところ、別紙原告地図2・D及びE並びにYahoo!地図・D及びEを対比すると、建物や住宅、道路、河川等が記載されている点で一致するとは認められるものの、これらの具体的な記載が一致しているとは認められない。
b 前記aの一致点について検討すると、地図に建物や住宅、道路、河川等を記載すること自体はアイデアにすぎず、共通部分@は、表現それ自体でない部分で同一性を有するにすぎないというべきである。
 したがって、共通部分@について、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(イ)共通部分Aについて
a 原告は、原告地図2とYahoo!地図が、いずれも、検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物について、居住人氏名や建物名称の記載を省略し、住宅及び建物のポリゴン並びに番地のみを記載し、当該ポリゴンは影なしのポリゴンであり、番地は当該ポリゴンのほぼ中央に、紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで、折り返すことなく、必ずしも当該ポリゴンの内部に収まらずに、アラビア数字で記載されている点を、共通部分Aとして主張する。
 しかし、別紙原告地図2・D及びE並びにYahoo!地図・D及びEを対比すると、原告地図2では、建物の名称はほとんど記載されておらず、わずかに記載された名称も極めて不明瞭であるが、Yahoo!地図では、相当数の建物の名称が明確に記載されている。また、原告地図2とYahoo!地図で、住宅及び建物のポリゴンの具体的な記載が全て一致するとは認められない。
 したがって、原告地図2とYahoo!地図は、一部の住宅及び建物のポリゴンの具体的な記載の点、住宅の居住人氏名や建物の建物名称の記載が基本的に省略されている点、住宅及び建物がポリゴンで表現されており、当該ポリゴンには影が記載されていない点、住宅及び建物の番地が、当該ポリゴンのほぼ中央に、紙面又は画面の水平方向に沿って横書きで、折り返すことなく、必ずしも当該ポリゴンの内部に収まらずに、アラビア数字で記載されている点でのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aのとおり、原告地図2とYahoo!地図で、一部の住宅及び建物のポリゴンの具体的な記載が一致したとしても、それは、同じ住宅又は建物を真上から見たときの外枠を記載したことによるものであるから、住宅及び建物の形状という事実において同一性が認められるにすぎない。また、原告地図2では、ポリゴンが黒色であるのに対し、Yahoo!地図では、ポリゴンは薄い灰色であること、原告地図2では、番地は、黒色で記載されているのに対し、Yahoo!地図では、番地は、灰色で記載されていることを考慮すると、その他の一致点は、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性が認められるにすぎないといわざるを得ない。
 さらに、前記aの共通部分が表現において同一性を有するものであるとしても、前記1(2)ア(イ)bのとおり、原告地図1の作成当時(原告地図2は原告地図1と同じ頃に作成された(前記前提事実(2))。)、建物及び住宅の真上から見た形状を影なしのポリゴンで記載した地図は複数存在し、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図2の表示範囲である沖縄県糸満市米須周辺の地図において、建物及び住宅の形状をこのようなポリゴンで記載するとしても、ポリゴンは建物及び住宅の形状に従って記載するものであり、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 その上、前記1(2)ア(イ)bのとおり、原告地図1の作成当時(原告地図2は原告地図1と同じ頃に作成された。)、建物及び住宅の番地が、建物及び住宅のポリゴンの中央付近に、アラビア数字で折り返すことなく横書きされた記載を含む地図は複数存在し、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図2の表示範囲である沖縄県糸満市米須周辺の地図において、建物及び住宅の番地をこのように記載するとしても、番地はあらかじめ指定されているものであり、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 したがって、共通部分Aは、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を意味するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、創作的表現であるとは認められない。
(ウ)共通部分Bについて
a 原告は、原告地図2とYahoo!地図が、いずれも、検索の目安となる公共施設や著名ビル等について、その場所を示す点(「・」)の右側に続けて、その名称を、公共施設や著名ビル等の建物を表すポリゴンの外側に、横書きする点を、共通部分Bとして主張する。
 しかし、前記(イ)aのとおり、原告地図2では、建物の名称はほとんど記載されておらず、また、わずかに記載された名称も極めて不明瞭であるが、Yahoo!地図では、相当数の建物の名称が明確に記載されている。
 したがって、共通部分Bにおいて、原告地図2とYahoo!地図で一致する点は認められない。
b 仮に、原告地図2の上記の極めて不明瞭な記載をもって、原告地図2とYahoo!地図では、一部の建物の名称を、その場所を示す点(「・」)の右側で、そのポリゴンの外側に、横書きされている点で一致すると認めることができたとしても、原告地図2とYahoo!地図では、文字の色や書体が異なり、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図中の建物の名称の記載方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎないというほかない。
 さらに、共通部分Bが表現において同一性を有するものであるとしても、前記1(2)ア(ウ)bのとおり、原告地図1の作成当時(原告地図2は原告地図1と同じ頃に作成された。)、建物のポリゴン付近に、「・」及びその右側に横書きされた当該建物の名称の記載を含む地図は複数存在し、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図2の表示範囲である沖縄県糸満市米須周辺の地図において、建物の名称をこのように記載するとしても、あらかじめ定まった建物の名称を記載するものであり、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 したがって、共通部分Bは、仮に、原告地図2とYahoo!地図の一致点と認めることができたとしても、表現それ自体でないアイデアにおいて同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、共通部分Bにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(エ)共通部分Cについて
a 原告は、原告地図2とYahoo!地図が、いずれも、縮尺を適宜圧縮して広い鳥瞰性を備える点を、共通部分Cとして主張する。
 しかし、同じ大きさの地図にどの範囲の地域を記載することができるかは、いかなる倍率で縮小するかによることになる。そして、証拠(甲3、66)によれば、原告地図2(図2)及び(図5)の縮尺は約1/3800であり、原告地図2(図3)の縮尺は約1/2500であることが認められ、前記1(3)ア(エ)aのとおり、Yahoo!地図の縮尺は約1/2631である。
 そうすると、両地図の縮尺は必ずしも同一であると評価できるものではないが、原告地図2とYahoo!地図は、約1/2500ないし1/3800程度の縮尺がされている点でのみ一致すると認めるのが相当である。
b 前記aの一致点について、前記1(2)ア(エ)bのとおり、縮尺が、実際の土地、建物等を地図上でどのような大きさで記載するかを表す尺度にすぎないことから、縮尺が約1/2500ないし1/3800であることは、具体的な表現とは認められない。そうすると、共通部分Cについて、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎないといわざるを得ない。
 したがって、共通部分Cは、表現それ自体でないアイデアにおいて同一性を有するにすぎないから、共通部分Cにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(オ)共通部分Dについて
 原告は、原告地図2とYahoo!地図が、いずれも、素材の取捨選択の観点において、「道路・河川」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」、「一般住宅及び建物の個別建物形」、「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」及び「建物番地」を記載することを選択し、住宅地図の一般的な素材である、一般住宅及び建物に関する「居住人氏名」や「建物名称」、「地類界」(宅地の境等)、「等高線」その他地理に関する素材を記載しないことを選択した点を、共通部分Eとして主張する。
 しかし、別紙原告地図2・D及びE並びにYahoo!地図D及びEによれば、Yahoo!地図では、交差点名、道路の種類及び番号、信号機及びバス停が記載されていること、病院及び郵便局について、名称の頭に建物の種類を示すマークが記載されていること、道路が3色に塗り分けられていることといった特徴を有していると認められるのに対し、原告地図2においては、このような特徴を認めることはできない。
 そうすると、原告地図2とYahoo!地図とが地図に記載する素材の取捨選択において共通するとは認められず、よって、共通部分Dにつき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(カ)共通部分Eについて
a 原告は、原告地図2とYahoo!地図が、いずれも、素材の配置及び表現方法の観点において、(a)「道路・河川」は、盛土(土堤)やコンクリート被覆等を記載せず、シンプルに、道路の形状をその両外延を示す線で表現するとともに、河川をその両外延を示す線で表現する点、(b)「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の個別建物形」及び「一般住宅及び建物の個別建物形」は、建物のポリゴンの集約を行うことなく、個別の建物の形を影なしの建物のポリゴンで表示する点、(c)「検索の目安となる公共施設や著名ビル等の名称」は、原則として、その場所を示す「・」の右側に続けて、必ずしも建物のポリゴンの内部に収まらずに、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく記載する点、(d)「建物番地」は、原則として、建物のポリゴンのほぼ中央に、紙面・画面の水平方向に沿って横書きで折り返すことなく、必ずしも建物のポリゴンの内側に収まらずに、アラビア数字で記載する点、(e)「縮尺」は、原告地図2(図2)が約1/3800、原告地図2(図3)が約1/2500であり、Yahoo!地図が約1/3000である点を、共通部分Eとして主張する。
b 前記a(a)について、道路及び河川の具体的な記載が全て一致するとは認められない。したがって、原告地図2とYahoo!地図は、一部の道路及び河川の具体的な記載の点、道路及び河川の盛土(土堤)やコンクリート被覆等が記載されず、道路及び河川の形状がその両外延を示す線で記載されている点でのみ一致すると認められる。
 しかし、一部の道路及び河川の具体的な記載が一致したとしても、それは、同じ道路又は河川を真上から見たときの外延を記載したことによるものであるから、道路及び河川の形状という事実において同一性を有するにすぎない。また、原告地図2では、道路及び河川は他の土地部分と同じ色であるのに対し、Yahoo!地図では、道路は、他の土地部分とは異なり、白色、薄いオレンジ色又は濃いオレンジ色であり、河川は、水色であることを考慮すると、その他の一致点は、具体的な表現において同一性を有するものとは認められず、地図の記載方法というアイデアにおいて同一性を有するにすぎない。
 さらに、前記a(a)が表現において同一性を有するものであるとしても、前記1(2)ア(キ)bのとおり、原告地図1の作成当時(原告地図2は原告地図1と同じ頃に作成された。)、道路及び河川の両外延を1本の実線で記載する地図は複数存在し、このような記載方法はありふれていたといえる上、原告地図2の表示範囲である沖縄県糸満市米須周辺の地図において、道路及び河川をこのように記載するとしても、道路及び河川の形状に従って記載するものであり、表現の選択の幅は狭いといわざるを得ないから、創作性は認められないというべきである。
 したがって、前記a(a)は、表現それ自体でない事実又はアイデアにおいて同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、前記a(a)につき、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
c 前記a(b)及び(d)については前記(イ)のとおり、前記a(c)については前記(ウ)のとおり、前記a(e)については前記(エ)のとおり、いずれも、表現それ自体でない事実又はアイデアにおける同一性を有するにすぎないか、表現において同一性を有するとしても、その表現に創作性は認められないから、創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
ウ 以上によれば、別紙原告地図2・D及びE並びにYahoo!地図・D及びEを対比したとき、原告地図2とYahoo!地図の共通部分は、創作的表現において同一性を有するとは認められない。
 また、前記イのとおり、同じ地域についての原告地図2とYahoo!地図の各記載を比較するのではなく、地域を特定せず原告地図2とYahoo!地図の各記載を比較したときに共通部分が認められたとしても、異なる地域の地図を比較するものである以上、具体的な記載が共通するとは認められず、せいぜい地図の記載方法が共通するにとどまるから、アイデアにおいて同一性を有するものにすぎず、共通部分が創作的表現において同一性を有するとは認められない。
 したがって、その余の点を判断するまでもなく、Yahoo!地図が原告地図2を複製又は翻案したとは認められない。
エ よって、Zホールディングス及び被告がYahoo!地図をインターネット上での地図閲覧サービスにより提供したことによって、原告地図2に係る原告の公衆送信権が侵害されたとは認められない。
4 争点2−2(原告地図2に関する著作者人格権侵害の成否)について
(1)プロアトラスSVの作成、販売及び提供
 前記3(1)のとおり、原告地図2とプロアトラスSVの共通部分につき、創作的表現において同一性を有するものとは認められず、プロアトラスSVは、原告地図2の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものではない。
 したがって、プロアトラスSVの作成は、原告地図2とは別個の著作物を創作したものであって、原告地図2に係る原告の同一性保持権を侵害するものとは認められないし、原告の氏名を表示することなくプロアトラスSVを販売し、インターネット上での地図閲覧サービスにより提供したとしても、原告地図2に係る原告の氏名表示権を侵害するものとも認められない。
(2)Yahoo!地図の作成及び提供
 前記3(2)のとおり、原告地図2とYahoo!地図の共通部分につき、創作的表現において同一性を有するものとは認められず、Yahoo!地図は、原告地図2の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものではない。
 したがって、Yahoo!地図の作成は、原告地図2とは別個の著作物を創作したものであって、原告地図2に係る原告の同一性保持権を侵害するものとは認められないし、原告の氏名を表示することなくYahoo!地図をインターネット上での地図閲覧サービスにより提供したとしても、原告地図2に係る原告の氏名表示権を侵害するものとも認められない。
第5 結論
 よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 バヒスバラン薫
 裁判官 小川暁は、転補につき、署名押印することができない。
裁判長裁判官 國分隆文


(別紙)被告地図目録
1 「Yahoo!地図」との名称で「https://(以下省略)」のURLに保管される電子地図
2(1)「プロアトラスSV」との名称のPC向け地図ソフトウェア
(2)「プロアトラスSV2」との名称のPC向け地図ソフトウェア
(3)「プロアトラスSV3」との名称のPC向け地図ソフトウェア
(4)「プロアトラスSV4」との名称のPC向け地図ソフトウェア
(5)「プロアトラスSV5」との名称のPC向け地図ソフトウェア
(6)「プロアトラスSV6」との名称のPC向け地図ソフトウェア
(7)「プロアトラスSV7」との名称のPC向け地図ソフトウェア
 以上

(別紙)
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/