判例全文 line
line
【事件名】You Tube“逮捕動画”の引用事件(2)
【年月日】令和5年3月30日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10118号、令和5年(ネ)第10018号 損害賠償請求・同反訴請求控訴事件、同附帯控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第28420号(本訴)、同34162号(反訴))
 (口頭弁論終結日 令和5年2月28日)

判決
控訴人兼附帯被控訴人(第1審本訴被告・第1審反訴原告) X(以下「一審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
被控訴人兼附帯控訴人(第1審本訴原告・第1審反訴被告) Y(以下「一審原告」という。)


主文
1 本件控訴及び本件附帯控訴に基づき、原判決主文1、2項を次のとおり変更する。
(1)一審被告は、一審原告に対し、40万円及びこれに対する令和3年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)一審原告のその余の請求及び一審被告の反訴請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じて、これを30分し、その1を一審原告の負担とし、その余を一審被告の負担とする。
3 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1)原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
(2)本訴請求における一審被告敗訴部分につき、一審原告の請求を棄却する。
(3)一審原告は、一審被告に対し、438万7900円及びこれに対する令和2年10月3日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 附帯控訴の趣旨
(1)原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。
(2)一審被告は、一審原告に対し、原判決認容額に加え、さらに30万円及びこれに対する令和3年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称は原判決に従う。)
1(1)一審被告は、平成30年8月3日、インターネット上の動画投稿サイトYouTubeにおいて開設した「【A】」の名のチャンネル(被告チャンネル)で、一審原告が警察官に逮捕された状況を撮影した「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」と題する動画(本件逮捕動画)を投稿した。
 本件本訴は、一審原告が、一審被告に対し、一審被告が本件逮捕動画を被告チャンネルに投稿したことが一審原告の社会的評価を低下させるものであり、また、一審原告の肖像権及びプライバシー権を侵害するものであって、これにより一審原告は精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、60万円及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日(令和3年8月17日となる。)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2)一審原告は、YouTubeにおいて開設した「【A】SNS被害」という名のチャンネル(原告チャンネル)で、令和2年9月12日に@「人気YouTuber【A】氏によるプライバーシー(ママ)の侵害職権乱用による不当逮捕の瞬間白バイ隊員による一般人暴行」と題する動画(原告動画1)を、同月22日にA「【B】【A】さんコラボ動画について【B】優しすぎる。パチンコ実況パチンコ攻略」と題する動画(原告動画2)を、同年10月3日にB「殴り書きの答弁書【A】さん裁判の内容初公開衝撃の言い訳」と題する動画(原告動画3)をそれぞれ投稿した。
 本件反訴は、一審被告が、一審原告に対し、@原告動画1は本件逮捕動画にモザイク処理と音声の加工を施して動画を挿入したものであり、原告動画1をYouTubeに投稿する行為は本件逮捕動画に係る一審被告の著作権及び公衆送信権を侵害するものであり、こうしたモザイク処理等の変更は一審被告の同一性保持権侵害に当たり、また、原告動画1の投稿に際して一審被告が本件逮捕動画の著作者であることを明示していないため、一審被告の氏名表示権を侵害するものである、A原告動画2は、一審被告が他の者と一緒に撮影した動画(被告動画1)を切り抜いて投稿したものであるところ、被告動画1には原判決別紙本件イラスト目録記載のイラスト(本件イラスト)が掲載されているから、こうした原告動画2をYouTubeに投稿する行為は本件イラストに係る一審被告の複製権又は公衆送信権を侵害するものであり、また、原告動画2において一審被告が本件イラストの著作者であることが明示されておらず、一審被告の氏名表示権を侵害するものである、B(ア)原告動画3は、一審被告が募金する際の状況等を撮影、編集した動画(被告動画2)を切り抜いて無断で転載したものであり、こうした原告動画3をYouTubeに投稿する行為は被告動画2に係る一審被告の複製権及び公衆送信権を侵害するものであり、また、被告動画2の一部を切り抜いて変更を加える行為は一審被告の同一性保持権を侵害するものであるし、原告動画3の掲載に際して一審被告が被告動画2の著作者であることを明示しておらず、一審被告の氏名表示権を侵害するものである、原告動画3には一審被告が別訴で提出した答弁書が掲載されているが、郵便番号が公開され、一部は伏字になっているとはいえ一審被告の傷病名を読み取ることができるものであるから、一審被告のプライバシー権を侵害するものであり、こうした一審原告による@ないしBの動画の投稿行為によって、一審被告にライセンス料相当額の損害及び著作者人格権侵害による慰謝料相当額等の損害が生じたと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、合計438万7900円及びこれに対する最後の不法行為の日である令和2年10月3日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原判決は、本訴請求については、@本件逮捕動画は一審原告の社会的評価を低下させるものであり、専ら公益を図る目的に出たものとはいえないから違法性は阻却されるものではなく、また、本件逮捕動画は一審原告の肖像権を侵害するものであり、一審被告による名誉棄損及び肖像権が侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料としては30万円をもって相当であるから、一審原告の請求は、30万円及びこれに対する令和3年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があると判断した。
 他方、反訴請求については、@原告動画1の投稿は、本件逮捕動画に係る一審被告の複製権及び公衆送信権を侵害するものであるが、原告動画1において本件逮捕動画を引用することは公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであって、引用の抗弁が成立するものであり、また、同一性保持権侵害又は氏名表示権を侵害するものではない、A原告動画2の投稿は、本件イラストに係る一審被告の複製権及び公衆送信権を侵害するものであるが、原告動画2において本件イラストを引用することは公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであって、引用の抗弁が成立するものであり、また、本件イラストに係る氏名表示権を侵害するものではない、B(ア)原告動画3の投稿は、被告動画2に係る一審被告の複製権及び公衆送信権を侵害するものであるが、原告動画3において被告動画2の各場面の画像を引用することは、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであって、引用の抗弁が成立するものであり、また、被告動画2の同一性保持権侵害及び氏名表示権を侵害するものではない、(イ)原告動画3において別訴の答弁書を掲載し投稿した目的は、別訴における一審被告の言い分を明らかにする目的であり、郵便番号という情報が公開されているとしても、社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であるとまではいえず、また、掲載されている答弁書の一部伏字部分から一審被告の傷病名は明らかにされたとはいえないから、原告動画3は一審被告のプライバシー権を侵害するものではない旨判断して、一審被告の反訴請求をいずれも棄却した。
 これに対し、一審被告は、一審被告の敗訴部分を不服として控訴し、一審原告は、一審原告敗訴部分を不服として附帯控訴をした。
3 「前提事実」、「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は、原判決5頁18行目の「撮影したとして」を「撮影したものであるとして」と改め、後記4のとおり、当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3並びに第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 当審における当事者の補充主張
(1)一審被告の主張
ア 本訴請求について
(ア)社会的評価の低下について
 本件逮捕動画は、「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」というタイトルが付されており、不当逮捕の瞬間を捉えた動画であることが明らかな形で投稿されている。動画のタイトルは、当該動画を視聴するか、当該動画がどのような内容であるかを判断する際に最初に参照される部分であるから、一般の閲覧者の通常の注意と視聴の仕方を基準とすれば、本件逮捕動画は、不当逮捕を暴く動画として視聴するのであり、逮捕される人物を被害者として視聴するといえる。また、本件逮捕動画には、警察官が一審原告に対して罵声を浴びせる瞬間や警察官が一審原告を投げ飛ばしている瞬間が映し出され、一審原告は、これに驚き、「逮捕はおかしい」と弁解しており、一般の閲覧者が本件逮捕動画を「現行犯逮捕の状況等を撮影したものである」と理解することは考えられない。
 したがって、本件逮捕動画によって一審原告の社会的評価が低下することは考えられず、原判決の判断は誤りである。
(イ)公益目的性について
 主たる動機において公益を図る目的があれば公益性が認められるところ、本件逮捕動画は、そのタイトルからも明らかなとおり、警察官による不当逮捕の瞬間を暴くことを主たる目的としており、一審被告によるテロップは、警察官による横暴を風刺するものであって、一審原告を嘲笑するものではない。
 したがって、本件逮捕動画によって一審原告の社会的評価が低下するとしても、違法性は阻却されるものであり、原判決の判断は誤りである。
(ウ)肖像権の侵害について
 本件逮捕動画は、不当逮捕を暴く動画であるところ、こうした不当逮捕の瞬間を公表したとしても、被害者である一審原告の人格的評価を棄損するものではないし、白昼路上での一審原告の姿態を撮影したものであって特段秘匿すべき活動内容を含むものではない。また、不当逮捕を暴くことは、警察という国家権力の横暴を抑止するために必要な行為であり、公益性、必要性がある。
 したがって、不当逮捕を暴く本件逮捕動画を公表する利益に比して一審原告の肖像権を保護すべき必要性は劣後するものであって、本件逮捕動画の内容が社会通念上受忍すべき限度を超えて一審原告を侮辱するものであるとはいえず、一審原告の肖像権を侵害するものではない。
(エ)慰謝料額について
 仮に、一審原告の権利侵害が認められるとしても、本件逮捕動画は、一審原告の氏名や住所等と紐づくような形で公表されたものではなく、実際に本件逮捕動画に映っている人物が一審原告であると気づくものは限られるから、本件逮捕動画がYouTubeに投稿されて再生されたという公表の態様等の事情を考慮したとしても、慰謝料はせいぜい数万円程度であるにすぎない。
イ 反訴請求について
(ア)原告動画1の投稿による著作権侵害について
a 原告動画1のうち本件動画2は、5分51秒の動画となっているところ、2分46秒まで一審原告の言い分が流れた後、3分5秒間は本件逮捕動画が流れており、原告動画1のうち本件動画3は、6分30秒の動画であるが、冒頭から2分39秒まで一審被告の著作物が映し出され、その後は4分37秒まで「ご視聴いただきありがとうございます。」という文章が流れた後最後まで何も映し出されない動画となっているから、原告動画1を動画たらしめているのは、本件逮捕動画の部分であって、量的、質的に考慮すれば、原告動画1のほとんど全ては一審被告の著作物で構成されているといえる。また、原告動画1の公表目的からすれば、現行犯逮捕された瞬間の数秒のみを引用すれば、現行犯逮捕された一審原告の容ぼう等がさらされていることが明らかとなるから、本件逮捕動画を2分ないし3分もの間引用する必要性はなく、引用の目的に照らして、原告動画1が引用する本件逮捕動画の範囲は明らかに過剰である。
 このように、量的、質的な考慮、引用の目的に鑑みれば、原告動画1は、正当な範囲を逸脱して本件逮捕動画を引用している。
b 原告動画1のタイトルは、「人気YouTuber【A】氏によるプライバーシー(ママ)の侵害職権乱用による不当逮捕の瞬間白バイ隊員による一般人暴行」というタイトルになっており、動画のどの部分が一審被告によるプライバシー権侵害なのか不明瞭であり、また、動画の内容も、一審被告によるプライバシー権侵害を訴えるテロップに続けて、「長文申し訳ございません。動画を開始させて戴きます。」とのテロップを流した後、一審被告の著作物が映し出されており、本件逮捕動画が一審被告の著作物であることが一見して明らかではない態様で使用されている。
 したがって、こうした態様からすれば、原告動画1は、背景に「当動画はYouTuber【A】さんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理をした動画です」との表示があったとしても、当該動画の全てが一審被告の著作物であるか否かが明らかではなく、一審原告の著作物と渾然一体となっているし、また、本件逮捕動画を過剰に引用していることから、一審原告の著作物が主であり一審被告の著作物が従であるという関係にはなく、明瞭区別性、主従関係を欠いている。
c 以上によれば、原告動画1は、「引用」の要件を欠くものであり、これと異なる原判決は、「引用」の法的評価を誤ったものである。
(イ)原告動画1の著作者人格権侵害について
 一審原告の権利が侵害されることを回避するという目的の達成のために一審被告の著作物を利用する必要性はなく、仮に利用する必要があるとしてもそのまま本件逮捕動画を使用すれば足り、敢えて映像や音声に加工を加える必要はないから、原告動画1は、他に改変の方法がなく、また、改変を最小にしているとはいえない。したがって、原告動画1は、同一性保持権侵害に当たるものというべきである。
 また、前記(ア)bのとおり、原告動画1のうちどこまでが一審被告の著作物であるか判然としない態様で「【A】」と表示されるのみでは著作物と著作者との結びつきを権利として保護する著作権法19条1項が求める著作者表示としては不十分であるから、原告動画1は、氏名表示権を侵害するものである。
(ウ)原告動画2の著作権侵害について
 原告動画2は、被告動画1において一審被告が顔出しをしていないことを表現しているが、一審原告が一審被告から本件逮捕動画の投稿によって被害を受けたことを明らかにするという目的に照らせば、一審被告が他の投稿動画において顔出しをしているか否かは、一審原告の権利侵害の成否や被害の拡大防止と全く関係のない事実であり、原告動画2の公表は、一審原告の当初の目的から乖離している。また、元々の動画に記載された「パチンコ会の暴君」という文字に「SNS界の暴君」といったテロップと効果音を付け足すなど、一審被告を挑発し、面白おかしく動画を編集していることや、その構成部分のほとんどが一審被告の著作物であるといっても過言ではない内容であることからすると、原告動画2は、引用の目的上正当な範囲内で一審被告の著作物を引用しているとは評価することができず、原告動画2は、「引用」の要件を欠くものであり、これと異なる原判決は「引用」の法的評価を誤ったものである。
(エ)原告動画2の著作者人格権侵害について
 原告動画2において被告動画1を引用する目的が正当なものではないことは前記(ウ)のとおりであり、仮に、引用する目的が正当なものであるとしても、本件イラストが映り込んだ動画を使用する必要性はなく、一審被告の氏名表示を省略することは許容されるべきではない。
 本件イラストは、登録者数が55万人を超えるYouTuberのシンボルともいえるイラストであり、顔出しをしていない一審被告にとっては自身の顔といってよいほどの一審被告と結び付きが深いものであるため、わずかな時間であってもこれを無断で利用されることによって、一審被告には肖像権の無断使用と比肩しうるほどの不利益を被ったといえる。
 したがって、原告動画2は、一審被告の氏名表示権を侵害するものであり、これと異なる原判決は、その法的評価を誤ったものである。
(オ)原告動画3の著作権侵害について
 一審原告が一審被告から本件逮捕動画の投稿によって被害を受けたことを明らかにするという目的に照らせば、一審被告が本件逮捕動画をめぐる裁判において1円も払わないと反論しているのに、現金を10万円も募金していることを表現する必要はなく、一審原告の当初の目的から乖離している。また、仮にその必要性があるとしても、被告動画の一場面の写真を使用する必要はなく、単に文字で説明すれば十分であるから、被告動画2の一場面の写真を使用することは正当な範囲を逸脱するものであるし、原告動画3の構成要素は、質的、量的に考慮して、一審被告の著作物がほとんどである(ママ)
 したがって、原告動画3は、引用の目的上正当な範囲内で一審被告の著作物を引用しているとは評価することができず、原告動画3は、「引用」の要件を欠くものであり、これと異なる原判決は「引用」の法的評価を誤ったものである。
(カ)原告動画3の著作者人格権侵害について
a 原告動画3において被告動画2の一場面の画像を表示する必要性がないことは、前記のとおりであり、仮に、被告動画2の一場面を画像として表示する必要性があるとしても、ありのままの画像を使用すればよく、テロップを付け加える必要性はない。
 したがって、原告動画3は、引用の目的上正当な範囲を逸脱して被告動画2に改変を加えるものであるから、原告動画3は同一性保持権を侵害するものである。
b 原告動画3は、被告動画2の一場面を画像として表示するに際して「【A】さんの回想シーン」との表示をしているが、このような表示だけでは何が回想シーンであるのか不明確であるし、一審被告の何の動画であるのかも判然としないから、氏名表示権を要求する表示として十分ではないし、また、一般の視聴者の普通の視聴の仕方を基準として著作者が一審被告であることは明らかであると判断することは、著作物の公衆への提供又は提供に際して氏名を表示することを定めた著作権法19条1項の文言を無視した独自の解釈であって、誤りである。
 また、原告動画3において被告動画2を利用する目的が正当なものではないことは前記のとおりであり、原告動画3は、被告の著作物で構成されたものであって利用の態様としておよそ不適当であって、一審被告の動画の一場面を画像とはいえ無断で利用されれば、YouTuberとして生計を立てている一審被告に経済的被害が生じることから、一審原告による被告動画2の一部の画像を無断で使用して原告動画2を投稿する行為には、著作権法19条3項の適用はない。
c 以上によれば、原告動画3は、著作者人格権を侵害するものであり、原判決の判断は誤りである。
(キ)原告動画3によるプライバシー権侵害について
a 郵便番号によって一定の範囲の住所地が明らかとなってしまえば、一審被告の動画撮影に使われるパチンコ店等、一審被告の活動領域が特定されることにより、一審被告が「【A】」であると特定されるおそれがある。一審被告は、登録者数55万人を超えるYouTuberであり、その居住地は一般人の居住地に比して関心が高い事項であるし、本名や住所地はもとより顔も公表していないから、「【A】」であると特定されるおそれのある情報の公開を欲しないことは当然である。したがって、郵便番号が他者に知られたくないと感じる程度が一定程度低いものといえる旨の原判決の判断は誤りである。
 また、一審原告において一審被告の答弁書を引用する必要性はなく、過剰な手段に当たるから、一審被告の郵便番号を公開することは、社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であって、原判決の判断は、その法的評価において誤りがある。
b 問題となる一部伏字部分は、「●うこ(又はご)●しっ●う●ょう」と雑な処理がされているため、文字の一部分は解読可能であり、こうしたマスキングでは「とうごうしっちょうしょう」という記載であることが判読可能であり、そこに連続して「のため記憶が定まりません」という記載がされていることからすれば、伏字部分は統合失調症を指すことはより一層明らかである。また、記憶が定まらないことは、私生活上の事実に属する事柄であり、一般に公開を欲しないものであるから、一審被告が記憶の定まらない状態にあったことを公表することは、一審被告のプライバシー権を侵害するものである。
 したがって、原判決の判断は、その法的評価を誤ったものであって、誤りである。
(2)一審原告の主張(附帯控訴について)
 @一審被告は、一審原告から本件逮捕動画の投稿を止めるよう懇願した後も約2週間以上掲載し続けたこと、A一審被告は、一審原告が投稿したYouTube動画コメント欄の削除依頼のコメントを意図的に削除して本件逮捕動画を公開したこと、B一審被告が本件逮捕動画の投稿を取り下げないことで多数のコピー動画が出回ったこと、C一審被告は、別訴において、統合失調症を装い、本件逮捕動画の公開に関して記憶を喪失しており、証拠を示してもらえなければ認めることができないなどの理解に苦しむ答弁書を提出したこと、D一審被告は、現在に至るまで、一審原告に対して謝罪の意思を示しておらず、反省の色もなければ、逆に、控訴に及んでいること等の事情を考慮すれば、一審原告が受けた精神的苦痛は多大なものであり、原判決が認定した損害額30万円は過小である。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、本訴請求については、本件逮捕動画は、一審原告の名誉を棄損するものであり、また、一審原告の肖像権及びプライバシー権を侵害するものであり、一審被告による本件逮捕動画の投稿によって一審原告の受けた精神的苦痛を慰藉するには40万円をもって相当と認め(なお、附帯請求の始期である訴状送達の日の翌日は、令和3年8月17日である。)、反訴請求については、いずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり、原判決を補正し、後記2のとおり、当審における一審被告の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の第4の1ないし12に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1)21頁26行目末尾に行を改めて、次のとおり加える。
 「 また、一審被告が一審原告の容ぼうや声に加工等の処理をする、あるいはその了承を得るなどの最低限の配慮すらせずに、本件逮捕動画を自らのYouTubeチャンネルに投稿していること自体からも、投稿の主たる目的が公益を図るものとはいえないことが裏付けられるというべきである。」
(2)23頁24行目冒頭から24頁8行目末尾までを次のとおり改める。
 「 また、本件逮捕動画は、一審原告が警察官によって白昼路上で逮捕され手錠を掛けられたなどという事実を摘示するものであり、また、氏名等は明らかにされてはいないものの、その容ぼうや音声に加工等の処理がされていないものであり、一審原告の容ぼう等を知る者には逮捕されている人物が一審原告と同定可能なものとなっているところ、一般に、警察官に逮捕された事実は、その者の名誉や信用に関わる事項であるから、そのような事実はみだりに第三者に公表されないことについて法的利益を有するものである。そして、こうした事実を公表することが不法行為を構成するか否かについては、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する利益を比較衡量し、前者が後者に優越する場合には不法行為を構成するものと解するべきである(最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁参照)。
 これを本件についてみると、本件逮捕動画は、「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」というタイトル名であるが、その内容から一審原告が警察官によって不当逮捕されたという事情は明らかではなく、むしろ、一審原告が警察官に逮捕されている状況(本件状況)を面白おかしく編集の上、不特定多数の者が閲覧可能なYouTubeに投稿されたものであることは前記のとおりである。そうすると、一審原告が警察官に逮捕されたという事実を公表されない利益がこれを公表する利益を優越するものとは到底認められないから、本件逮捕動画をYouTubeに投稿して公表する行為は、一審原告のプライバシー権を侵害するものであり、不法行為を構成するものというべきである。
(4)以上によれば、一審被告による本件逮捕動画の投稿は、一審原告の肖像権及びプライバシー権を侵害するものであって、不法行為を構成するというべきである。」
(3)24頁14行目の「上記認定」から18行目末尾までを、改行の上、次のとおり改める。
 「 そして、本件逮捕動画は、一審原告が警察官に逮捕されている状況(本件状況)を、一審原告の容ぼうをマスキング処理したり声を加工処理することなく、面白おかしく編集して、インターネット上のYouTubeという不特定多数の者が閲覧可能な動画サイトに投稿されたものであることは前示のとおりであり、また、一審被告は、一審原告による要請を受けても直ちに本件逮捕動画を削除することなく、一審被告自身が主張するところによっても、本件逮捕動画は少なくとも210万回再生されたものである。こうした本件逮捕動画の内容、公表の態様に加えて、一審被告がその後、謝罪や反省の意思を示すことなく、本件訴訟においても、逆に反訴を提起して一審原告に多額の金銭を請求するとともに、現時点においてもその責任を否定し続けていること等、その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、一審原告の名誉権、肖像権及びプライバシー権が侵害されたことによる精神的苦痛を慰藉するには40万円をもって相当と認める。
 なお、訴状が一審被告に送達された日は、令和3年8月16日であることは当裁判所に顕著な事実であるから、附帯請求については、本件逮捕動画が投稿された日(平成30年8月3日)の後であり遅滞に陥ったことが明らかである令和3年8月17日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を認めることとする。」
(4)29頁21行目の「名誉権及び肖像権」を「名誉権、肖像権及びプライバシー権」と改める。
(5)39頁13行目の「他人の動画」から14行目の「否定し難いものの、」までを削る。
2 当審における一審被告の補充主張について
(1)本訴請求について
ア 一審被告は、前記第2の4アのとおり、本件逮捕動画のタイトルや内容に照らせば、本件逮捕動画によって一審原告の社会的評価が低下することは考えられない旨主張する。
 確かに、本件逮捕動画は、「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」とのタイトルが付されたものであり、動画の一般の閲覧者がYouTubeに投稿されている動画を選択する際には、こうしたタイトルを基準とするものと考えられるが、本件逮捕動画の内容をみると、@道路脇の草むらにおいて一審原告が仰向きの状態で警察官に制圧されている状況から動画が始まり、A警察官とこれに抵抗する一審原告との間で押し問答している状況、B一審原告が警察官により片手に手錠を掛けられ一審原告がこれに抗議している状況、C最終的に応援に駆け付けた警察官に取り囲まれている模様が撮影され、これらの一連の流れが終わった後、さらに、D@ないしCの場面が再生され、テロップに、警察官の発言として、「逮捕だYO!」、「変態だYO!」、「じゃねーんだYO」、一審原告の発言として「え?(変態?)」、「メイシワタシマシタカラ」と表示されるものであるから、こうした動画の内容からみても、警察官による逮捕が不当逮捕であるとか、誤認逮捕であるといった事情は明らかではなく、一般の閲覧者の通常の注意と視聴の仕方を基準とすれば、警察官による不当逮捕を暴く動画として視聴するとはいえず、むしろ、一審原告が警察官によって白昼路上で逮捕され手錠を掛けられたという事実を摘示するものであるといえる。
イ 一審被告は、前記第2の4(1)ア(イ)のとおり、本件逮捕動画は、そのタイトルのとおり、警察官による不当逮捕の瞬間を暴くことを主たる目的としているから、本件逮捕動画によって一審原告の社会的評価が低下するとしても、公益性がある旨主張するが、本件逮捕動画が、そのタイトルにもかかわらず、その内容や体裁を踏まえると、一審原告が警察官に現行犯逮捕されている状況(本件状況)を面白おかしく編集して嘲笑の対象とするものであることは、引用に係る原判決の第4の2(2)(補正後のもの)のとおりである。
 加えて、本件逮捕動画の撮影日は、平成28年3月9日であるところ(反訴状第4の1)、本件逮捕動画は、その約2年半後の平成30年8月3日に投稿されたものであり、しかも、一審被告がYouTubeに開設した被告チャンネルに本件逮捕動画が投稿されたという事実関係からしても、本件逮捕動画の投稿目的が主として警察官の不当逮捕を暴くというものにあったとの一審被告の主張は採用することができない。
ウ 一審被告は、前記第2の4(1)ア(ウ)のとおり、本件逮捕動画が不当逮捕を暴くという目的であることを前提として、本件逮捕動画は一審被告の肖像権を侵害するものではない旨主張するが、本件逮捕動画の投稿目的が警察官による不当逮捕を暴く目的であるとはいえないことは、前記イのとおりであって、一審被告の主張はその前提を欠くものである。
(2)反訴請求について
ア 原告動画1について
(ア)著作権侵害について
 一審被告は、前記第2の4(1)イ(ア)のとおり、@量的、質的な考慮、引用の目的に鑑みれば、原告動画1は、本件逮捕動画を正当な範囲を逸脱して引用しており、また、A原告動画1は、本件逮捕動画と明瞭区別性、主従関係を欠いているから、著作権法32条1項に規定する「引用」に当たらない旨主張する。
 しかし、原告動画1を投稿した目的は、一審被告がモザイクや音声の加工等を施すことなく、一審原告の容ぼう等をそのままさらす体裁で本件逮捕動画がYouTubeに投稿されたことにより被害を受けたことを明らかにするものであり、その目的のために、一審原告が受けた被害そのものである本件逮捕動画を動画として引用することが最も直接的かつ有効な手段であるといえることは、引用に係る原判決の第4の5(3)イ及びウのとおりであるから、質的、量的な面や引用の目的からして、正当な範囲を逸脱している旨の一審被告の主張は理由がない。
 また、上記Aについては、本件における一連の経緯及び上記投稿目的に照らせば、仮に、原告動画1に、本件逮捕動画との明瞭区別性、主従関係を欠く面があったとしても、そのことにより引用の相当性が否定されるものと理解すべきではないし、原告動画1は、冒頭において、本件逮捕動画を引用する目的についてテロップで紹介した後、「当動画はYouTuber【A】さんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です」と表示された状態で本件状況が映り、その後、今後の削除処理や過去の申立内容等を公開していきたいというテロップが表示されているから、原告動画1と本件逮捕動画を明確に区別することができるものであり、また、引用の目的に照らして過剰に引用するものともいえないから、そもそも、原告動画1は、本件逮捕動画と明瞭区別性、主従関係を欠くものとはいえない。したがって、一審被告の上記主張は、いずれにしても理由がない。
(イ)著作者人格権侵害について
 一審被告は、前記第2の4(1)イ(イ)のとおり、@原告動画1において一審被告の著作物を利用する必要性はなく、仮に利用する必要があるとしてもそのまま本件逮捕動画を使用すれば足り、あえて映像や音声に加工を加える必要性はなく、改変を最小にしているともいえないから、原告動画1は同一性保持権侵害に当たる、A原告動画1と本件逮捕動画が明瞭区別性を欠くことを前提として、原告動画1は氏名表示権侵害に当たる旨主張する。
 しかし、原告動画1における顔のモザイク処理や音声の加工は、一審原告の名誉権、肖像権及びプライバシーが侵害されることを回避するために必要な措置であることは、引用に係る原判決の第4の6のとおりであるし、本件逮捕動画の引用がその目的上正当な範囲内で行われたものであることや、明瞭区別性を欠くことを前提とする主張が採用し得ないことは既に前示したとおりであるから、一審被告の上記主張は、いずれも理由がない。
イ 原告動画2について
(ア)著作権侵害について
 一審被告は、前記第2の4(1)イ(ウ)のとおり、原告動画2における本件イラストの引用は、その目的において正当な範囲内でしたものとは評価することができない旨主張するが、原告動画2は、本件逮捕動画では一審原告が容ぼうを隠すことなくさらされたのに対して、一審被告が投稿動画において顔出ししていないことを表現するために、被告動画1の出所を明記した上で、本件イラストが映り込んだ被告動画1の一場面を引用したものであり、引用の目的及び態様等に照らし正当な範囲で行われたものと認められることは、引用する原判決の第4の7(3)のとおりであり、一審被告が主張する原告動画2の編集状況等の事情は、上記認定を左右し得ない。
(イ)著作者人格権侵害について
 一審被告は、前記第2の4(1)イ(エ)のとおり、原告動画2において被告動画1を引用する目的が正当なものではなく、仮に引用する目的が正当であるとしても、本件イラストが映り込んだ動画を使用する必要性はなく、本件イラストに係る氏名表示を省略することを許容されるべきではない旨主張するが、原告動画2における被告動画1の当該場面の引用が正当な範囲内で行われたものといえることは前記のとおりであり、また、原告動画2において本件イラストが映り込んだ場面が数秒であり、こうした態様に照らせば、一審被告に実質的な不利益が具体的に生じたともうかがわれない(一審被告は、登録者数55万人を超えるYouTuberであり、その投稿動画において本件イラストを使用していることを挙げて、本件イラストの無断使用により一審被告には実質的不利益を被ったなどと主張するが、本件イラストの利用態様や本件イラストを含む被告動画1の利用目的に照らし、一審被告に具体的な不利益が生じたとはおよそ認め難い。)ことは、引用に係る原判決の第4の8のとおりである。そうすると、その利用の目的及び態様に照らし、一審被告が本件イラストの創作者であることを主張する利益を害するおそれがあるとはいえず、また、こうした氏名表示の省略が公正な慣行に反すると認めるべき事情もないから、著作権法19条3項に基づいて、著作者名の表示を省略することができるというべきである。
ウ 原告動画3について
(ア)著作権侵害について
 一審被告は、前記第2の4(1)イ(オ)のとおり、原告動画3において被告動画2を使用する必要性はなく、仮にその必要性があるとしても、正当な範囲を逸脱するものであり、質的、量的に考慮しても、「引用」の要件を欠く旨主張する。しかし、原告動画3は、一審被告が現金10万円を募金しているのに、一審原告には裁判で1円も払わないと反論していることを表現するために、被告動画2が一審被告の動画であることを表示した上で、その目的の限度で被告動画2の各場面を画像として引用したものであって、その引用の目的において正当な範囲内で行われたものであることは、引用に係る原判決の第4の9のとおりであり、こうした引用の目的のためには、被告動画2で一審被告が募金をしている場面の画像を利用することは直接的かつ有効な手段であるといえるから、引用において正当な範囲を逸脱するものではなく、質的、量的にみても過剰な引用に当たるものとはいえない。
(イ)著作者人格権侵害について
 一審被告は、前記第2の4(1)イ(カ)のとおり、@被告動画2の一場面にテロップを付す必要性はなく、同一性保持権を侵害する、A「【A】さんの回想シーン」という表示だけでは氏名表示権が要求する表示としては不十分であり、また、一般の視聴者の普通の視聴の仕方を基準として著作者が一審被告であることを明らかであると判断することは、著作権法19条1項の文言に反する独自の解釈である、B原告動画3において被告動画2を利用する目的が正当なものではなく、被告動画の一場面を画像とはいえ無断利用されることは一審被告に経済的被害が生じるから、著作権法19条3項の適用はない旨主張する。
 しかし、その引用がその目的に照らし、正当な範囲を逸脱するものとはいえないことは前記のとおりであり、被告動画2の画像の一部を掲載しつつテロップを付すことは、こうした引用の目的に照らしてやむを得ない改変であることは、引用に係る原判決の第4の10のとおりであるから、原告動画3において被告動画2の一部の画像を引用し、その一部にテロップを付すことは、同一性保持権侵害に当たるものではない。
 また、上記の目的のために、原告動画3において、「【A】さんの回想シーン」等を示した上で、手元にある現金10万円を募金箱に入れた被告動画2の一部の画像を複数表示しながら引用しており、引用に係る画像の内容や撮影アングルからして、引用に係る画像は一審被告が撮影したものであり、その著作者が一審被告であることは表示されているものと認められる。したがって、その他の点について判断するまでもなく、一審被告が主張する氏名表示権の侵害は認められない。
(ウ)プライバシー権侵害について
a 一審被告は、前記第2の4(1)イ(キ)aのとおり、原告動画3において、一審被告の郵便番号を公開することは社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であると主張する。
 一般に、居住地は、第三者にみだりに知られたくない事項であるとはいえるものの、郵便番号は、居住地を含む一定の範囲の地域で特定されるものであるから、それが公開されることで直ちに居住地が明らかになるものではない。また、一審被告は、登録者数55万人を超えるYouTuberとして活動しているとするものの、その容ぼう等は一切公開しないで活動していることに照らせば、原告動画3で郵便番号が公開されることにより、一審被告のYouTuberとしての活動を含めて実質的に不利益が生じ、又は生じさせるおそれがあるとは認め難いし、不利益の発生等を裏付ける具体的な証拠は見当たらない。そして、一審原告が別訴における一審被告の答弁書を掲載した原告動画3を投稿した目的は、別訴における一審被告の言い分を明らかにする必要性があったためであることは引用に係る原判決の第4の11(1)のとおりであるから、郵便番号についてマスキング処理を施すことなく答弁書を掲載したことに配慮を欠く面があったとしても、社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であったとまではいえない。したがって、一審被告の主張は理由がない。
b また、一審被告は、前記第2の4(1)イ(キ)bのとおり、原告動画3において引用されている答弁書のマスキング処理は雑な伏字処理がされており、これに続く「のため記憶が定まりません」という記載からすると、伏字部分は統合失調症を指すことは明らかである旨主張するが、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すれば、伏字部分が「統合失調症」を意味するものと解読されるものとは認め難いことは、引用する原判決の第4の11(2)のとおりであるから、一審被告の主張は理由がない。
エ 小括
 その他、一審被告が種々主張するところを検討しても、反訴請求はいずれも理由がない。
3 結論
 以上によれば、本訴請求は、40万円及びこれに対する令和3年8月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり(原判決は、附帯請求の始期を令和3年3月11日とするが、訴状送達の日は令和3年8月16日であることは前記のとおりであるから、この点に関する原判決の判断は誤りである。)、反訴請求はいずれも理由がないから棄却されるべきところ、これと異なる原判決は一部失当であるから、本件控訴及び本件附帯控訴に基づいて原判決を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 中村恭
 裁判官 岡山忠広
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/