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【事件名】グーグルへの発信者情報開示請求事件C 【年月日】令和5年3月29日 東京地裁 令和4年(ワ)第13614号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和5年2月8日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 沼倉悠 同 春日真奈美 被告 GoogleLLC 同訴訟代理人弁護士 赤川圭 同 山内真之 同 佐藤絵美香 同 伊藤誠悟 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、原告が、被告の管理、運営する動画投稿サイトであるYouTube(以下「本件サイト」という。)において、氏名不詳者が、原告による釣具の用法や釣りの技法に係る口頭での解説(以下「本件解説」という。)を録音録画した別紙動画目録記載2の動画(以下「本件原動画」という。)の複製物である別紙動画目録記載1の動画(以下「本件投稿動画」という。)を投稿し、これにより「言語の著作物」(著作権法10条1項1号)である本件解説の内容に係る原告の著作権(複製権)が侵害されたことが明らかであり、上記氏名不詳者に対する損害賠償請求権等の行使のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 ア 原告は、釣具の企画、開発、製造及び販売を業とするB(以下「本件会社」という。)の代表取締役である(乙2)。 イ 被告は、本件サイトを管理、運営する米国法人であり、本件において、プロバイダ責任制限法2条7号所定の「開示関係役務提供者」に当たる。 (2)本件解説に係る動画の作成 原告は、本件解説を録音録画して本件原動画を作成し、令和2年6月13日、本件サイトに投稿した(甲5)。 (3)本件投稿動画の投稿 氏名不詳者は、本件原動画の一部を抜き出して本件投稿動画を作成し、令和3年9月21日、本件サイトに本件投稿動画を投稿した(以下「本件投稿」という。甲3、4、乙1)。 (4)本件発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報を保有している(弁論の全趣旨)。 3 争点 (1)本件投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1) (2)原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点2) 4 当事者の主張 (1)争点1(本件投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について (原告の主張) ア 本件解説は、本件会社が販売する複数の釣具の使い分け方や具体的な使用方法を、原告自身の経験を基に口頭で説明したものである。一般的に、釣具の用法や釣りの技法を解説するための言語表現には、これを聞く者の理解度などにより様々な選択の幅がある。本件解説は、アマチュア向けのハウツー動画というコンセプトの下、原告が敢えて平易で具体的な言葉を選んで説明しているものである。したがって、本件解説の内容は、言語という表現手段を用いて原告の思想を表現したもので、かつ、その表現には原告の個性が表れているものであるから、原告の「思想又は感情を創作的に表現したものであつて」「文芸、学術」「の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)であり、「言語の著作物」(同法10条1項1号)に当たる。 氏名不詳者は、本件原動画の一部を抜き出して切り貼りすることによって作成した本件投稿動画を本件サイトに投稿し、本件原動画の一部を有形的に再製した。本件投稿動画は、本件原動画に依拠したもので、本件原動画を構成している本件解説の内容とその形式を覚知させるに足りるものであるから、氏名不詳者が、本件投稿により、本件解説の内容に係る原告の著作権(複製権)を侵害したことは明らかである。 イ 被告は、本件投稿動画の説明欄に本件会社が本件サイトに開設したチャンネルが紹介されていることなどを指摘して、原告が、氏名不詳者に本件原動画の複製を許諾したことがうかがわれると主張する。 しかし、本件サイトの動画説明欄は、動画投稿者が自由に文章を記載できるものであるから、動画投稿者は第三者の開設したチャンネルや投稿動画をその者の承諾なく紹介することができる。そのため、本件投稿動画の説明欄に本件会社の販売する釣具や原告及び本件会社の開設したチャンネル等が紹介されていたとしても、原告が氏名不詳者に本件原動画の複製を許諾していたことの裏付けといえない。 このほか、氏名不詳者が本件投稿をしたことに関し、違法性阻却事由に該当する事実は存在しない。 ウ したがって、本件投稿によって本件解説の内容に係る原告の著作権(複製権)が侵害されたことは明らかである。 (被告の主張) ア 本件解説の内容は、釣具の用法や釣りの技術といった定型的なものにすぎず、原告の創作性が発揮されているとはいえないから、「思想又は感情を創作的に表現した」「文芸、学術」等「の範囲に属するもの」に該当せず、「著作物」(著作権法2条1項1号)といえない。 イ また、本件投稿動画の説明欄には、本件会社が販売するルアーの紹介文が記載されているほか、参考動画等として原告や本件会社が本件サイトに開設したチャンネルが紹介されていることからすると、氏名不詳者は、本件投稿動画を投稿することで原告の著作権を侵害する意図を有しておらず、むしろ原告の許諾を得て本件原動画を複製したことがうかがわれる。 ウ したがって、本件投稿によって本件解説の内容に係る原告の著作権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。 (2)争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について (原告の主張) ア 原告は、本件投稿をした氏名不詳者に対し、著作権侵害を理由とする損害賠償請求等を予定しており、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 イ 被告は、本件投稿によって原告に損害が生じていないと主張する。 しかし、原告は、本件原動画が投稿された原告が管理するチャンネルを収益化しているところ、本件投稿によって本件原動画の視聴回数が減少し、これに伴って原告が得られる収益も減少することは明らかである。 (被告の主張) 原告は、著作権侵害を理由とする損害賠償請求等を予定していると主張するが、本件投稿によって原告に損害が生じたことについて立証がされているとはいえない。むしろ、前記(1)(被告の主張)イのとおり、本件投稿動画の説明欄等において、原告や本件会社が投稿した動画が紹介されていることからすると、本件投稿は、原告及び本件会社のみならず、原告及び本件会社が開設した本件サイトのチャンネル、本件会社が販売している商品等の知名度を向上させ、ひいては原告及び本件会社の利益に資するものといえる。 したがって、本件投稿により原告の権利が侵害されたとの原告の主張を前提としても、原告の氏名不詳者に対する損害賠償請求等が認められない蓋然性があるから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について (1)本件解説の内容の著作物性 ア 証拠(甲2、5)及び弁論の全趣旨によれば、本件解説は、原告が、本件会社の販売する複数の釣具の使い分け方や使用方法について、各釣具の形式的な使い方にとどまらず、原告自身が使用した経験を踏まえ、風や潮の流れの具体的な状況を例に挙げるなどして、更に釣果を上げるための各釣具の効果的な使い方や技法を紹介しながら、約20分間にわたって、口頭で説明したものであると認められる。このように、本件解説においては、取り上げる事柄の選択やその説明の仕方に工夫がされているだけでなく、想定される視聴者が内容をより理解できるよう言葉の選択や順序にも工夫がされていると認められることからすると(甲2、5)、その表現には原告の個性が表れているといえる。 したがって、本件解説の内容は、原告の「思想又は感情を創作的に表現したものであつて」「文芸」「の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)といえ、「言語の著作物」(同法10条1項1号)に当たる。 イ これに対し、被告は、本件解説の内容は、釣具の用法や釣りの技術といった定型的なものにすぎず、原告の創作性が発揮されているとはいえないと主張する。 しかし、前記アで説示したとおり、本件解説の内容は、各釣具の形式的な使い方の説明にとどまるものではなく、取り上げる事柄の選択やその説明の仕方、言葉の選択、順序などにも工夫がされていると認められ、原告の創作性が発揮されているといえるから、この点についての被告の主張は採用できない。 (2)本件解説の内容に係る原告の著作権(複製権)侵害の有無 証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件解説の内容を自ら表現した者であるから、本件解説の内容に係る著作権者であると認められる。 そして、前提事実(3)第22(3)のとおり、氏名不詳者は、本件解説を録音録画した本件原動画の一部を抜き出して本件投稿動画を作成し、本件サイトにこれを投稿したと認められる。そうすると、氏名不詳者は、本件投稿により、本件解説の内容を有形的に再製したものといえ、本件解説の内容に係る原告の著作権(複製権)を侵害したといえる。 これに対し、被告は、本件投稿動画の説明欄に、本件会社が販売する釣具の紹介文が記載されていることなどを指摘して、原告が本件原動画を複製することについて許諾していることがうかがわれると主張する。しかし、本件サイトの動画説明欄は、動画を投稿する者が自由に記載できるものであると認められ(弁論の全趣旨)、原告や本件会社の承諾がなくとも、当該動画説明欄に本件会社が販売する製品や、原告及び本件会社が本件サイトに開設したチャンネルの紹介文を掲載することが可能であるから、被告が指摘する事情は、本件原動画の複製について原告の許諾があったことを裏付けるものとはいえず、この点についての被告の主張は採用できない。 そして、このほかに本件投稿について違法性阻却事由が存在することは、全くうかがわれない。 (3)小括 以上によれば、本件投稿により、本件解説の内容に係る原告の著作権(複製権)が侵害されたことは明らかである。 2 争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について (1)弁論の全趣旨によれば、原告は、氏名不詳者に対し、本件解説の内容に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として損害賠償請求等をする意思を有しており、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があると認められる。 したがって、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 (2)これに対し、被告は、本件投稿によって原告に損害が生じたことについて立証がされているとはいえないと主張する。 この点、証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件原動画を投稿していたチャンネルを収益化していたと認められるから、本件原動画の内容を含む本件投稿動画が投稿されたことにより、本件原動画の内容に関心を有する者が本件原動画の代わりに本件投稿動画を視聴する結果、本件原動画の視聴数が減少し、原告に逸失利益が生じる可能性が高い。 また、本来、他人の著作物を利用する場合には、著作権者に対して利用料を支払わなければならないから、著作権者の許諾なく著作物が利用されると、著作権者に利用料相当額の損害が生じるのが通常である。本件においても、氏名不詳者が本件原動画を許諾なく利用したことにより、少なくとも原告に利用料相当額の損害が生じたと考えられる。 さらに、被告は、本件投稿動画の説明欄等において、原告や本件会社が投稿した動画が紹介されているから、本件投稿によって原告及び本件会社の知名度が向上するなどして、原告の利益にも資するとも主張するが、仮に本件投稿がされたことによって、被告の指摘するような利益が原告にもたらされるとの面があるとしても、当該利益が当然に上記逸失利益や本件原動画の利用料相当額に係る損害を上回るものであるとはいえない。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。 第4 結論 よって、原告の請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 バヒスバラン薫 (別紙)発信者情報目録 別紙動画目録記載1の動画を投稿したYouTubeアカウントに関する登録情報であって、次に掲げるもの。ただし、本判決の確定日において、被告が保有し、かつ、直ちに利用可能なものに限る。 1 氏名又は名称 2 電話番号 3 メールアドレス 以上 (別紙)動画目録 1 表題 省略 閲覧用URL https://以下省略 2 表題 省略 閲覧用URL https://以下省略 以上 |
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