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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件M 【年月日】令和5年3月16日 東京地裁 令和4年(ワ)第18827号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和5年1月20日) 判決 原告 株式会社ホットエンターテイメント 同訴訟代理人弁護士 杉山央 被告 ビッグローブ株式会社 同訴訟代理人弁護士 橋利昌 同 平出晋一 同 太田絢子 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がいわゆるファイル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙侵害著作物目録の品番及び作品名記載の動画(以下「本件著作物」という。)を送信可能化したことにより、本件著作物に係る原告の送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実をいう。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。) (1)当事者 ア 原告は、映像の企画、製作、発売、配給等を目的とする株式会社である。 イ 被告は、インターネットサービスプロバイダ事業等を営む株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号にいう特定電気通信役務提供者に該当する。 (2)本件著作物の販売等(甲2の11、甲14) 原告は、本件著作物を販売しているところ、本件著作物のパッケージには、制作、著作、受審、発売の主体として、原告の名称が表示されている。また、本件著作物はインターネット上において配信されているところ、「メーカー」欄に「ホットエンターテイメント」との表記がある。 (3)BitTorrentの仕組み(甲6) BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有に係るソフトであり、その概要や利用の手順は、以下のとおりである。 ア BitTorrentにおいては、ファイルを細分化し(以下、細分化されたファイルの一部を「ピース」という。)、ネットワーク上のユーザーに分散して共有させる。 イ ユーザーがBitTorrentを通じてファイルをダウンロードするためには、まず、クライアントソフトであるBitTorrentを自己の端末にインストールした上で、インターネット上においてトレントファイルを取得する。なお、トレントファイルには、ピース全てのハッシュとともに、ピースを完全な状態のファイルに再構築するための情報や、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバのアドレスが記録されている。 ウ 次に、トレントファイルをBitTorrentに読み込ませると、端末は、トラッカーと通信を行い、目的となるピースを保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、当該ユーザーと接続して、当該ピースのダウンロードを開始する。 エ そして、全てのピースのダウンロードが終了すると、元の完全な状態のファイルが復元される。 オ 完全な状態のファイルを有するユーザーは、「シーダー」と呼ばれる。また、目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ばれる(以下、両者を併せて「ピア」ということがある。)。 ユーザーは、シーダーの状態であっても、リーチャーの状態であっても、ダウンロードした当該ピースについて自動的に即時トラッカーに登録されるため、自らがダウンロードしたピースに関しては、他のユーザーからの要求があれば、当該ピースを提供しなければならないことから、ダウンロードと同時にアップロードが可能な状態になっている。 (4)原告による著作権侵害調査の概要(甲4ないし6) ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本件著作物に係る著作権侵害についての調査(以下「本件調査」という。)を依頼した。 イ 本件調査会社は、本件調査を踏まえ、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレスの割り当てを受けた発信者(本件発信者)が本件著作物に係るファイル(以下「本件ファイル」という。)のダウンロード及びアップロードを行っていたことを報告した。 (5)本件発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報を保有している。 3 争点 本件の争点は、権利侵害の明白性であり、具体的には、@著作権者該当性、A本件著作物と侵害品である本件ファイルとの同一性、B調査方法の信用性が争われている(令和4年11月11日付け経過表参照)。 第3 争点に関する当事者の主張 (原告の主張) 1 著作権者該当性について 本件著作物のパッケージ(甲2の11)には、第三者認証機関によって割り当てられた会員番号等が明記されているほか、制作・著作・受審・発売した者として原告の名称が明記されている。また、本件著作物が販売又は配信されている複数のウェブサイト上では、メーカー名として原告の名称が記載されている。 そうすると、原告の名称が著作者名として通常の方法により表示されているものといえるから、著作権法14条により、原告は、本件著作物の著作者として推定される。 2 本件著作物と侵害品である本件ファイルとの同一性について 侵害品である本件ファイル(甲8の1)は、本件著作物(甲8の2)と同一である。 3 調査方法の信用性について (1)本件調査会社において、BitTorrentを利用した違法ダウンロード及びアップロードの特定に際しては、μtorrentというクライアントソフトを利用している。そして、μtorrentは、BitTorrentの情報をそのまま表示するという機能が付いているため、μtorrentを利用すると、違法ダウンロードを行っているピアのIPアドレスを解明することができるという仕組みになっており、機械的に取得した情報が表示されるため、その点に関する恣意性等を疑う必要がない。 そして、本件調査会社は、μtorrentを利用して、本件発信者が別紙発信者情報目録記載の日時頃、同目録記載のIPアドレスの割当てを受けて、BitTorrentのネットワークに参加し、本件ファイルをダウンロード及びアップロードしていることを確認している。 (2)撮影時刻について 本件調査会社が、本件調査において、μtorrentを利用して、本件発信者から本件ファイルをダウンロードしている様子は、甲1の10のとおりであり、表示されている時刻に関し、前後1分間のIPアドレスが変わっていない点については、甲9のとおりである。 また、IPアドレスの取得に際しては、μtorrentを起動しているパソコンの時刻とそれを遠隔で操作しているパソコンの時刻を本件調査会社の作業担当者が見比べた上で、一致していることを確認してからスクリーンショットの撮影を行っているのであるから、表示時刻の正確性に問題はない(甲13)。 (3)下り速度及び上り速度の表示について μtorrentの表示において、「下り速度」及び「上り速度」欄に数字が表示されない場合があるが、この場合であっても、ダウンロードが進行することに変わりはない(甲17)。 (被告の主張) 1 著作権者該当性について 原告は、著作権法14条に基づく推定を主張するが、同規定により法人についても同様に推定されるものか必ずしも明らかではない。 仮に、法人についても推定が働き得るとしても、被告は、原告の著作物がいかに公衆への提供若しくは提示されているのかなどが分からず、推定の前提が満たされているのか分からない。 2 本件著作物と侵害品である本件ファイルとの同一性について 本件調査においてダウンロードされたとされる本件ファイルが、原告の正規品とされるものを複製、翻案したものかなどは、被告には必ずしも明らかではない。 3(1)本件調査については、時刻等の記録の正確性が担保されていないこと等から、その信用性を争う。 (2)本件調査における日時の特定の方法は、コンピュータのログやソフトにより日時を自動的に把握する方法とは大きく異なっており、どの程度正確に日時を把握し記録し得るものか疑問である。 とりわけ、パソコンの時刻表示は、実際の時刻と数分ずれたりすることがままあるところ、本件調査においては、表示時刻の正確性を担保するための仕組みが見当たらない。 また、本件調査において用いられたパソコンの画面の時刻表示は分単位であるため、最大で約1分の誤差がある。そして、被告は、同じIPアドレスが時に応じて異なる会員等に割り当てられるように管理しているから、本件調査により特定されたIPアドレスの使用者が、原告において本件ファイルを送信可能化したと主張する者と一致するか否かについては、被告には分からない。 これに対し、原告は、時刻の一致を確認してスクリーンショットを撮影しているから問題はないと主張し、陳述書(甲13)を提出する。しかしながら、同じ担当者が同様に作業したスクリーンショット(甲1の1)には、時刻の異なるものがあるほか、同担当者が膨大な情報の特定作業を同時期に行っていたこと等からしても、時刻の正確性にどれだけ意を払って作業されたものかは疑わしいといわざるを得ない。また、上記の確認方法については、そもそも、各パソコンの時刻の正確性の管理がいかに行われたのかが問題であり、その信頼性を確保するための方策が何ら取られていない。 (3)原告によって通信を特定するスクリーンショット(甲1の10)を見ても、その画面上の表示として、下り速度、上り速度共に何らの表示がない瞬間に特定がされており、そもそも当該スクリーンショットに表示された日時に送信可能化がされたといえるのか、被告には理解することができない。 第4 当裁判所の判断 1 争点(権利侵害の明白性)について (1)著作権者該当性について 前提事実、証拠(甲2の11、甲14)及び弁論の全趣旨によれば、本件著作物のパッケージの裏面には、制作、著作、受審、発売の主体として、原告の名称が表示されているほか、本件著作物はインターネット上で配信されているところ、その提供の際に「メーカー」として「ホットエンターテイメント」という原告の名称が表示されていることが認められる。 上記認定事実によれば、公衆への提供若しくは提示の際に、原告の名称が本件著作物を制作した者として表示されていると認めるのが相当である。 そうすると、著作権法14条に基づき、原告が本件著作物の著作者と推定するのが相当であり、これを覆すに足りる的確な証拠はない。 したがって、本件著作物の著作権は、原告に帰属するものと認められる。 (2)本件著作物と侵害品である本件ファイルとの同一性について 証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば、本件ファイルは、本件著作物と全部又は一部において同一のものであることが認められる。そうすると、本件ファイルは本件著作物の全部又は一部を複製又は翻案したものといえる。 (3)本件調査の信用性について ア 前提事実、証拠(甲1の10、甲2の11、甲4ないし6、8ないし10、13)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査につき、次の事実が認められる。 (ア)μtorrentは、BitTorrentのクライアントソフトの一つであり、BitTorrentを用いて実際に特定のファイルをアップロード及びダウンロードしている最中のユーザーにつき、そのIPアドレスを特定した上で、当該IPアドレスとともに、当該ユーザーが当該ファイルをアップロードする際の上り速度や、ダウンロードする際の下り速度、ダウンロード量及びアップロード量等を画面上に表示するという機能を有している。 (イ)本件調査会社は、μtorrentを起動し、本件著作物に係るトレントファイルをμtorrentに読み込ませた上で、BitTorrentを通じて、本件著作物のファイルのダウンロードを行った。 そして、本件調査会社は、上記ダウンロードの際、μtorrentの上記機能を利用して、その時点において、本件ファイルにつき、BitTorrentを通じてアップロード及びダウンロードを行っている他のユーザーの存否を確認したところ、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレスの割当てを受けたユーザー(本件発信者)が、本件ファイルに係るピースをダウンロードすると同時にアップロードしていることを確認した。 (ウ)本件調査の担当者は、スクリーンショット(甲1の10)の取得に際し、表示されている時刻の前後1分間はIPアドレスが変わっていないことを確認したほか、μtorrentを起動しているパソコンの時刻とそれを遠隔で操作しているパソコンの時刻を見比べた上で、一致していることを確認してから、スクリーンショットの撮影を行った。 イ 前提事実記載のBitTorrentの仕組み及び前記認定事実によれば、本件発信者は、本件ファイルに係るピースをその端末にダウンロードして、当該ピースを不特定多数の者からの求めに応じ、BitTorrentを通じて自動的に送信し得るようにした上、被告から別紙発信者情報目録記載のIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、同記載の日時において、ダウンロードと同時に不特定多数にアップロードが可能な状態となる本件調査会社の端末に、本件ファイルのピースを実際にダウンロードさせたことが認められる。 これらの事情を踏まえると、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時において本件著作物に係る原告の送信可能化権を侵害したと認めるのが相当である。そして、本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはできない。 したがって、権利侵害の明白性を認めるのが相当である。 ウ これに対し、被告は、本件調査においては、時刻等の記録の正確性が担保されていないこと等から、信用性が認められない旨主張するため、以下検討する。 (ア)前記認定のとおり、本件調査の担当者は、スクリーンショット(甲1の10)の取得に際し、表示されている時刻の前後1分間はIPアドレスが変わっていないことを確認しているほか、μtorrentを起動しているパソコンの時刻とそれを遠隔で操作しているパソコンの時刻を見比べた上で、一致していることを確認してから、スクリーンショットの撮影を行った旨陳述するところ、その陳述内容は、μtorrentを用いた本件調査における表示の特定方法等について具体的に述べるものであり、その内容に不合理なところは見当たらない。 (イ)証拠(甲1の1)によれば、本件発信者とは異なるピアによるμtorrentの利用状況に係る調査において、μtorrentを起動しているパソコンの時刻とそれを遠隔で操作しているパソコンの時刻とに1分のずれが認められるものの、同ピアに係る訴えについては、既に取り下げられているほか、上記の陳述内容に照らしても、上記証拠のみをもって、直ちに本件発信者の特定に係る調査の信用性が疑われるとまで認めることはできない。また、本件調査に使用されたパソコンの時刻表示の正確性について、これを疑わせるような事情も見当たらない。 (ウ)証拠(甲17)によれば、μtorrentの表示のうち、ダウンロードしている者の状況に係る欄(甲1の10の右側上段)及び特定のファイルについて他に接続しているピアが表示される欄(甲1の10の右側下段)において、「下り速度」又は「上り速度」が表示されないような場合であっても、ファイルのダウンロードは進行していることが認められる。そうすると、本件調査において発信者を特定したスクリーンショット(甲1の10)において、表示箇所に「下り速度」及び「上り速度」が表示されていないとしても、このことは、本件調査の信用性を左右するものとはいえない。 (エ)これらの事情を踏まえると、被告の主張は、本件調査の信用性を左右するものとはいえず、その他に、本件証拠を改めて検討しても、上記判断を左右するまでの事情をうかがうことはできない。したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。 2 正当な理由について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求等を予定していることが認められることからすると、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものといえる。 したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。 3 結論 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 小田誉太郎 裁判官 國井陽平 (別紙)侵害著作物目録 (省略) (別紙)発信者情報目録 以下の日時に以下のIPアドレス、接続元ポート番号を割り当てられていた者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
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