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【事件名】調理器具の写真無断流用事件C(2)
【年月日】令和5年3月9日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10105号 損害賠償金請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和4年(ワ)第3313号)
 (口頭弁論終結日 令和5年1月26日)

判決
控訴人 エス・アンド・ケー株式会社
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 柳田康男


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、68万3326円及びこれに対する令和3年4月14日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
(以下、略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
1 事案の概要
 本件は、控訴人において、被控訴人が原判決別紙画像目録1及び2記載の各画像を複製して、その運営するオンラインショップ(被告ストア)のウェブページにおいて閲覧できる状態とした行為につき、これらの画像に係る控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたと主張して、被控訴人に対し、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金73万3326円及び最終の不法行為の日である令和3年4月14日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、本件請求につき、被控訴人に対して5万円及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる限度でこれを認容し、その他の請求を棄却した。控訴人は、敗訴部分(73万3326円から5万円を控除した部分及びこれに対する遅延損害金)を不服として控訴を提起した。
2 前提事実
 次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の1(前提事実)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
 原判決2頁5行目の「(スキャンパン)」を「(スキャンパン。以下、その経営主体を「スキャンパン社」という。)」に改める。原判決2頁15行目の「「本件画像」という。」の次に「また、本件個別画像の各画像に付された番号に従い各画像を「本件画像@」のようにいう。」を加える。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
 次のとおり補正し、後記4に当審における控訴人の補充主張を付加するほかは、原判決第2の2(争点及び争点に係る当事者の主張)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決3頁9行目の「デザイン制作会社」の次に「である株式会社いつも(以下「いつも社」という。)」を加え、同10行目の「また、原告は、同デザイン制作会社に対し、」を次のとおり改める。
 「いつも社の担当者と控訴人とは、控訴人において本件商品の紹介及び販売をするためのウェブサイトのデザインやそのコンテンツについて継続的に協議を重ね、遅くとも平成31年3月頃までには、上記ウェブサイトのデザイン、本件画像、本件商品の説明文、動画等を完成させ、外部から閲覧可能な状態にした。本件画像のうち、本件画像A中のフライパンの写真及び本件画像B中の作業中の職人の写真3枚は、スキャンパン社から提供を受けたものであるが、本件画像@、C、F中の各写真及び本件個別画像は控訴人が撮影した写真である。いずれの写真も控訴人がいつも社に提供し、控訴人の指示の下に同社が、控訴人の考案する文章や控訴人の選択する素材、配色、構図、フォントを配置、組み合せて控訴人独自の発想を表現して、本件画像@ないしF及び本件個別画像を作成した。このようなことから、控訴人は、いつも社に対し、」
(2)原判決3頁15行目の「6万6666円」の次に「(当初、ウェブページ1ページ当たり6画像を利用していたとして損害賠償金をウェブページ1ページ当たり5万円としていたが、その後、1ページ当たり8画像を利用していたことが判明したことによる〔5万円÷6×8〕。)」を加える。
4 当審における控訴人の補充主張(控訴人の損害額について)
(1)仮に、本件画像@ないしFと本件個別画像とが一体としてみられる利用態様であったとしても、被告ストアにおいては、個別の商品の販売促進のため個別の商品ごとにウェブページが分けられ、本件画像が商品ごと、すなわちウェブページごとに独立して利用されている。したがって、全ウェブページが一体をなすものではないから、その複製又は送信可能化は、当該商品ごと又はウェブページごとにその数だけ行われたものである。したがって、損害賠償額は、少なくとも、当該無断複製又は送信可能化に係るウェブページ11ページ分の額となるはずである。
(2)音楽ないし音源の利用料について、曲の使用回数、使用方法、複製枚数(本数)等による例があり(甲21ないし24)、複数回利用すれば、その回数ごとに利用料が発生するとされている。また、美術作品の利用料について、美術作品の使用回数、複製枚数等による例があり(甲25、26)、目的ごとに(例えば、URLが異なるウェブページ)複数回利用すれば、その回数ごとに利用料が発生するとされている。画像の利用料について、1媒体につき1回限りによる例があり(甲27)、画像を複数媒体(例えば、URLが異なるウェブページ)に利用すれば、その回数ごとに利用料が発生するとされている。
 著作物を複数媒体に利用すると回数ごとに利用料が発生するとされているこれらの料金体系を、本件画像の利用に当てはめた場合、利用料は、被告ストアにおける利用ページごとにカウントされるべきとするのが相当である。
 また、新聞社や写真素材等の利用料金表(甲5ないし7)についても、素材(写真等)の数、利用予定期間、利用回数、媒体数(URLが異なるウェブページで使用した場合等)ごとに料金設定がされている。
(3)本件画像は、控訴人が自ら取り扱う商品の販売促進のために制作されたものであり、そもそも第三者に利用許諾をすることは想定されておらず、料金体系など存在し得ない。このような場合、一般的に写真素材の利用許諾がされるときの利用料の相場を参考にして損害を算定せざるを得ないはずであり、そして、そのような利用料の相場の根拠となるのは写真のライセンス等を目的とするサービスの料金体系しかない。そうであれば、本件画像がレンタルや販売を目的としていないとしても、新聞社や写真素材等の利用料金表(甲5ないし7)の料金額を参考にせざるを得ない、そして、被告サイトは通販サイトであり、誰でもいつでもアクセス可能であり、本件画像が掲載されていた期間が比較的短期とはいえ、相当数の利用者によって閲覧された蓋然性が高い。また、被控訴人の利用は、顧客を誘引することを目的とする商業的利用であるから、その目的及び態様が悪質であることも損害額の算定に当たり考慮されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件請求は、被控訴人に対して損害賠償金5万円及びこれに対する最終の不法行為の日である令和3年4月14日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。
 その理由は、原判決4頁22行目冒頭から5頁4行目末尾までを次のとおり補正し、後記2に当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決第3の1に記載されたとおりであるから、これを引用する。
 「ア 控訴人は、いつも社に対し、本件画像等のデザイン制作業務を含む本件委託契約の対価として約700万円を支払った旨を指摘するが、本件委託契約の業務内容や代金の支払方法等を考慮すると、その支払の多くは、本件画像の作成以外のウェブサイト関連業務サービスや検索エンジン最適化サービスの対価であると推認することができる(甲15ないし17)。
 したがって、上記約700万円の支払に基づいて、控訴人による著作権の行使について受けるべき金銭の額を算定することは相当ではない。
イ 次に、控訴人は、本件画像の1ページ当たりの損害額に被控訴人が本件画像を掲載したウェブサイトのページ数を乗じて控訴人の損害額を算定すべき旨を主張する。
 しかしながら、前記(1)のとおり、本件画像@ないしF(本件共通画像)とそれぞれ異なる本件個別画像との組合せは、本件画像の1回の利用として想定された範囲内の一体の利用とみられるから、まず、各画像の複製又は送信可能化ごとに損害額を算定することは重複となり妥当ではない。また、控訴人指摘に係る毎日新聞社のPhotoBank(甲5)、朝日新聞フォトアーカイブ(甲6)及び株式会社アフロ(甲7)の各料金表は、本件証拠上、上記各料金表記載の価格が前提とする利用条件等が必ずしも明らかではないこと等からすると、これらの各料金表記載の価格を、本件画像の複製又は送信可能化により生じた控訴人の損害額算定に当たり、ウェブページ1ページごとに算定するものとすべき根拠とすることはできない。
 他方、控訴人は、控訴人の売上減少額を控訴人の損害としてみるべきである旨をも主張する。しかし、そもそも被控訴人による本件画像の利用と相当因果関係の認められる控訴人の売上減少及びその額の立証はない。この点を措くとしても、被控訴人による本件商品の販売実績を認めるに足りる証拠はないから、被控訴人が本件商品を販売したことによって控訴人の売上が減少したという関係も認められず、本件画像の利用と控訴人の売上減少との因果関係を検討する前提も欠けている。
 したがって、これらの点に関する控訴人の主張はいずれも採用することができない。」
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
ア 控訴人は、前記第2の4のとおり、@本件画像がウェブページごとに独立して利用されている以上、損害額はウェブページ数を基本に算定すべきである(同(1)及び(2))、A第三者に許諾することを想定していない著作物にも相場の利用料を参酌して利用料を算出するべきである(同(3))旨主張する。
 上記主張に対して、引用に係る原判決の第3の1(補正後のもの)において説示するところを改めて敷衍すると、次のとおりである。
イ 著作権法114条3項によって、著作権者が著作権侵害によって受けた損害の額とすることのできる「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、当該著作物の利用回数あるいは当該利用から生じた利益等の、当該著作物の直接の侵害行為の物理的な分量に従うのみならず、当該著作物の利用期間、利用態様、当該著作物から享受できる内容又は価値、侵害者の内心の態様(同条5項参照)、当該著作物を利用する市場の状況、他の者への利用許諾の状況等の諸般の事情を総合考慮して定めるべきものである。本件についてみると、ウェブサイトの閲覧上、本件画像は、見かけ上、本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それらは一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみることも可能なものであり、本件画像の1回の利用として想定された範囲内の一体の利用とみることができるから、本件画像ごとに複製又は送信可能化について損害額を算定することは妥当とはいい難い。そして、本件画像の利用期間も短期間であって、現に被告ストアで販売された本件商品も認められないということであれば、たとえ通販サイトであろうとも、閲覧に供された回数は限定的なものと考えるのが自然である。さらに、本件画像A中のフライパンで調理中の食材を写した写真と本件画像B中のフライパンを製造している職人の写真は、スキャンパン社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(スキャンパン社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。)、控訴人が著作権を有するものではないし、本件画像は商業的実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件商品をありのままに表現することを主目的とするものと理解され、その表現される思想又は感情は限定的なものであるといえる。また、被控訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではなく、その利用目的も、控訴人の営業を殊更に妨害するためであったり、本件画像に表現されたところから享受できる価値を損なうためであったりなどの、専ら害意に基づくものとは認められず、単純なる自己の営業のための商業的利用にすぎない。
ウ 次に、写真又は画像についての利用許諾状況をみてみると、日本美術著作権協会の利用申請方法は、画像の利用許諾を原則として1用途1目的につき毎回申請を要するものと定めていること(甲25)、株式会社東京美術倶楽部の使用料規程は、コンピューター・ネットワークにおける美術の著作物の利用料の額を、著作物1点あたり1回につき1か月当たり1万円(美術関係業態以外)、2か月目以降は5000円と定めていること(甲26)、朝日新聞社が運営するデータベースの利用規約は、収録された写真、動画等を提供するサービスにおける法人の利用条件を、1媒体につき1用途1回限りの非独占的使用に限り、重版、再放送その他の用途で再利用する場合には別料金が発生すると定めていること(甲27)、Imagenaviの利用ガイドは、画像素材について、使用になる用途、期間によって料金設定が決まり、複数媒体に使用する場合には1使用ごとに料金が発生すると定めていること(甲28)が認められるが、これらの規定が念頭に置く「目的」、「用途」、「回数」又は「使用」は何を基準とするかは一義的には明らかでなく、ましてや上記各証拠がウェブサイトという1媒体の中における利用料をウェブページを基準にして決めていると理解することも困難であるから、これら利用料の算定方法を直ちに本件における損害額の算定方法の参考とすることはできない(なお、控訴人から音楽又は音源の利用に関する利用許諾に関する証拠も提出されているが、著作物としての性質が大きく異なるものであり、その参酌は相当でない。)。
エ さらに、写真又は画像についての利用料についてみると、毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業利用する者に対し、2万2000円から4万4000円の利用料の支払を求めることがあり(甲5)、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で利用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがあり(甲6)、株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに利用する者に対し、同一ウェブサイト内においては利用箇所を問わず、利用期間1年までの場合に2万2000円、利用期間3年までの場合に2万8600円、利用期間5年までの場合に3万3000円の利用料の支払を求めることがある(甲7)との事実が認められるものの、利用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の利用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これら利用料をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることはできず、ましてや、上記利用料を参考として算定した額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根拠ともならない。
オ 以上のとおりであり、本件記録に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件における損害額は、ストア(店舗)を基準にして1ストア当たり5万円とするのが相当であると認められ、控訴人の前記主張を採用することはできない。
3 結論
 以上の次第であり、控訴人の本件請求は、被控訴人による本件画像の著作権(複製権及び公衆送信権)侵害の不法行為に基づき、被控訴人に対し、損害賠償金5万円及びこれに対する最終の不法行為の日である令和3年4月14日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を命じる限度で理由があるから、この限度で控訴人の請求を認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないので、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 本吉弘行
 裁判官 中村恭
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