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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件Z(2)
【年月日】令和5年3月9日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10100号 発信者情報開示請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第32650号)
 (口頭弁論終結日 令和5年1月12日)

判決
控訴人 カバー株式会社
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
同 吉永雅洋
同 遠藤大介
同 蓮池純
同 神田竜輔
同 鈴木勇輝
同 神崎建宏
被控訴人 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金子和弘


主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がツイッター上のアカウントにおいて投稿したツイート(別紙著作物目録記載1のイラスト(以下「控訴人イラスト」という。)及び同目録記載2の動画(以下「控訴人動画」という。)に基づいて作成された別紙投稿記事目録の使用画像欄記載の画像(以下「本件画像」という。)の掲載を含むもの。以下「本件ツイート」という。)により、控訴人イラスト及び控訴人動画に係る控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると主張し、被控訴人に対して、令和3年法律第27号による改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
 原審は、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人は、これを不服として本件控訴をした。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張
 次の点を改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1ないし3に摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決2頁13行目の「バーチャルYouTubeタレント」を「バーチャルYouTuberタレント」と改める。
(2)原判決2頁24行目の「弁論の全趣旨」を「甲7」と改める。
(3)原判決4頁17行目の「また」の次に「、本件画像は」を加える。
(4)原判決5頁11行目及び24行目の各「本件画像」の次にいずれも「の掲載を含む本件ツイートを投稿すること」を加える。
(5)原判決5頁25行目の「本件ツイートは」を削る。
(6)原判決9頁24行目の「あるところ」の次に「、法4条1項に」を加える。
(7)原判決11頁14行目の「並びに」の次に「令和4年総務省令第39号による廃止前の」を加える。
(8)原判決11頁16行目の「(以下「省令」という。)」を削る。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、控訴人の請求は理由があるものと判断する。その理由は、次のとおりである。
2 争点1(本件ツイートの投稿により控訴人の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)控訴人イラストの著作物性
ア 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいうところ(著作権法2条1項1号)、思想又は感情を創作的に表現したものであるといえるためには、創作者の個性が何らかの形で発揮されていれば足りると解するのが相当である。
イ これを本件についてみるに、証拠(甲14、16、17)によると、控訴人イラストは、控訴人キャラクターのイラストであるところ、頭頂部からウサギの耳のような形状の耳が生え、左側頭部の三つ編みの上部、右側頭部の三つ編みの下部及び左腰部のポケットにそれぞれにんじんが1本ずつ挟まり、首元にウサギを模したマフラーないしショールを身につけているなど、ウサギを擬人化したような特徴的なデザインとなっているものと認められる。そうすると、控訴人イラストは、創作者の個性が発揮されているということができるから、思想又は感情を創作的に表現したものに該当する。なお、控訴人イラストが美術の範囲に属するものであることは、その内容に照らし、明らかである。
 以上のとおりであるから、控訴人イラストは、著作物に該当する。
(2)控訴人動画の著作物性
 証拠(甲18、19)及び弁論の全趣旨によると、控訴人動画は、控訴人イラストを映像化したものであると認められるところ、前記(1)において説示したところに照らすと、控訴人動画も、著作物に該当するといえる。
(3)控訴人イラスト及び控訴人動画に係る著作権の帰属
 証拠(甲12、14ないし16)及び弁論の全趣旨によると、控訴人キャラクターは、控訴人が、控訴人キャラクターに係る著作権等の権利が控訴人に帰属することを条件とし、外部のイラストレーターに委託して制作させたものであると認められるから、控訴人キャラクターに係る著作権(控訴人イラスト及び控訴人動画に係る著作権)は、控訴人に帰属するものと認めるのが相当である。
(4)本件ツイートの投稿による著作権侵害の成否
 証拠(甲1、18、19)及び弁論の全趣旨によると、本件画像は、控訴人動画を静止させて切り抜いた画像を素材とし、控訴人キャラクターの両目の下にそれぞれ涙の絵柄を付し、また、控訴人キャラクターの顔の周りに首つり用の縄の絵柄を付し、さらに、「死ぬ」及び「ぺこ」との文字を付したいわゆるコラージュ画像であると認められるから、本件発信者が本件画像の掲載を含むツイートである本件ツイートを投稿し、これにより、本件画像をツイッターのサーバにアップロードした行為は、控訴人イラスト及び控訴人動画に係る控訴人の著作権(複製権)を侵害するものであるということができる。
(5)控訴人による利用許諾の有無
 控訴人が定める本件規約(甲12、15)によると、控訴人が権利を保有するキャラクターの二次的創作物の作成等に関しては、当該作成等を行う者に対し、当該キャラクターの名誉ないし品位を傷つける行為をしないことなどを条件として、非独占的に許諾することとされている(4条1項及び2項)。
 前記(4)によると、本件画像も、控訴人キャラクターの二次的創作物であるといえるが、証拠(甲1)によると、本件画像の内容は、控訴人キャラクターが自殺しようとしており、かつ、その様子を自ら配信しているというものであると認められるから、本件画像の作成等は、本件規約(4条2項2号)にいうキャラクターの名誉ないし品位を傷つける行為に該当するというべきである。
 この点に関し、被控訴人は、自殺は不名誉なものと解されてはならないし、本件画像には自殺について閲覧者の考察を深めるための創作作品としての価値があるなどとして、本件画像の作成等はキャラクターの名誉ないし品位を傷つける行為に該当しないと主張する。しかしながら、社会通念上、自殺が否定的な印象を持って受け止められていることは明らかであるから、控訴人キャラクターが自殺しようとしている様子を描く本件画像の作成等を行うこと自体、控訴人キャラクターの名誉を傷つけるものといえるし、自殺の様子を自ら配信するという行為に至っては、控訴人キャラクターの品性が疑われるものであるといわざるを得ないから、控訴人キャラクターが自己の自殺の様子を配信している様子を描いているという点でも、本件画像の作成等を行うことが控訴人キャラクターの名誉ないし品位を傷つけるものであることは明らかである。なお、仮に本件画像に創作作品としての価値があったとしても、そのことは、本件画像の作成等が控訴人キャラクターの名誉ないし品位を傷つけるとの上記結論を左右するものではない。したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
 以上のとおりであるから、本件画像に関し、控訴人が本件発信者に対して控訴人イラスト及び控訴人動画の利用(複製)を許諾したものと認めることはできない。
(6)小括
 前記(1)ないし(5)において検討したところによると、本件発信者による本件ツイートの投稿により、控訴人イラスト及び控訴人動画に係る控訴人の著作権(複製権)が侵害されたことは明らかであるといえる。
3 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)に該当するか)について
(1)前記第1のとおり、控訴人は、本件ログインがされた日時である令和3年6月26日7時47分54秒(時刻の表記は、24時間制による。以下同じ。また、令和3年中の日付については、以下、年の記載を省略する。)頃に被控訴人から本件IPアドレス(省略)が割り当てられていた契約者に係る発信者情報(本件発信者情報)の開示を求めているところ、前記前提事実(補正して引用する原判決第2の1(2))のとおり、本件ツイートが投稿されたのは、同月20日20時39分であるから、本件ツイートは、上記のとおり控訴人が発信者情報の開示を求める本件ログインがされた時期にされたものではなく、本件発信者情報は、本件ツイートの投稿時に利用されたログインに係る発信者情報ではない。そこで、侵害情報である本件ツイートの投稿時に利用されたログイン以外のログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報が法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するかが問題となる。
(2)そこで検討するに、法4条の趣旨は、特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。そうすると、「当該権利の侵害に係る発信者情報」の範囲をむやみに拡大することは相当とはいえないものの、これを侵害情報の投稿時に利用されたログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報に限定するとなると、複数のログインが同時にされているなどして投稿時に利用されたログインが特定できない場合などには、被害者の権利の救済を図ることができないこととなり、上記の法の趣旨に反する結果となる。そして、法4条1項の文言は、「侵害情報の発信者情報」などではなく、「当該権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅をもたせたものとされていること、証拠(甲33、38)及び弁論の全趣旨によると、令和3年法律第27号(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律)による改正は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に侵害情報を送信した後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報が含まれ得ることを前提として行われたものと認められ、上記の改正の前後を通じ、「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、侵害情報を送信した際のログインに係る発信者情報のみに限定されるものではないと解されること、また、このように解したとしても、当該発信者が侵害情報を流通させた者と同一人物であると認められるのであれば、発信者情報の開示により、侵害情報を流通させた者の発信者情報が開示されることになるのであるから、開示請求者にとって開示を受ける理由があるということができる一方、発信者にとって不当であるとはいえないことなどに照らすと、「当該権利の侵害に係る発信者情報」を侵害情報の投稿時に利用されたログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報に限定して解釈するのは相当でなく、それが当該侵害情報を送信した者の発信者情報であると認められる限り、当該侵害情報を送信した後のログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報や、当該侵害情報の送信の直前のログインよりも前のログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報も、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると解するのが相当である。
(3)これを本件についてみるに、本件アカウントのプロフィール欄(アカウント名の下部に表示される自己紹介の文章部分。甲11)には、「感謝するぜ、お前と出会えたこれまでの全てに」、「俺の手持ち」、「誕生日:1月8日」などの記載があり、また、本件アカウントにおいてされた投稿(甲11)の内容は、単にYouTubeの動画を引用するもののほか、「泣いてる」、「俺のグラグラの能力が発現してモーター」、「愛知県に地震きた」、「エドモンド本田美央」、「エドモンド本田たのし〜」、「スーパー頭突きじゃあ!!笑笑」、「ガチンコでごわす!!笑笑」、「本田やばい」、「アイシールド21は神龍寺戦までね」、「やまゆり園真実の名言集ライフラインはいるだけで士気が下がる」、「これ使うなら5cで良くね?」などといったものであり、上記プロフィール欄の記載内容や上記投稿内容に照らすと、本件アカウントが複数の者によって管理されていたことはうかがわれず、むしろ、本件アカウントは、1名の個人によって管理されていたものと推認するのが相当である。また、証拠(甲23、33)及び弁論の全趣旨によると、ツイッターは、いわゆるログイン型サービスであり、ツイートの投稿を行おうとする者は、アカウント名及びパスワード(8文字以上)を入力してログインをしなければならないものと認められるところ、通常、アカウント名やパスワードを第三者と共有するという事態は余り考えられない。さらに、証拠(甲5、26、27、35)及び弁論の全趣旨によると、本件アカウントについては、6月26日から9月21日までの間、合計467回のログインがされているところ、そのうち本件IPアドレスからは、毎日のようにログインがされており、ログインの回数(合計147回)においても、他の各IPアドレスからのログインの回数(例えば、被控訴人が携帯電話回線に割り当てた各IPアドレスのうち本件アカウントへのログインに使用された回数が最も多かったのは、「IPアドレス省略」及び「IPアドレス省略」の各10回にとどまる。)を圧倒していたものと認められるから、本件IPアドレスは、本件アカウントへのログインに使用される最も主要なIPアドレスであったと評価することができる。以上に加え、本件ログインが本件ツイートの投稿の約5日半後にされたものであることも併せ考慮すると、本件発信者情報は、本件ツイートの投稿の後のログインに係るIPアドレスから把握される発信者情報ではあるが、本件ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められ、したがって、法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると認めるのが相当である。
(4)アこの点に関し、被控訴人は、本件IPアドレスは固定回線に割り当てられたものであるのに対し、本件ツイートはiPhoneにより投稿されたものであるところ、本件アカウントへのログインに際しては固定回線に割り当てられたIPアドレスと携帯電話回線に割り当てられたIPアドレスとが別々に使用されているから、本件IPアドレスに係る契約者と本件ツイートの投稿の際に使用されたIPアドレスに係る契約者とは異なると主張する。
 確かに、証拠(甲1、27、36)及び弁論の全趣旨によると、本件IPアドレスは、固定回線に割り当てられたものであるのに対し、本件ツイートには、「TwitterforiPhone」との表示がされ、本件ツイートは、iPhone向けのアプリケーションである「TwitterforiOS」を利用してされたものであると認められる。しかしながら、証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によると、携帯電話を用いてツイッターのアカウントにツイートを投稿する場合、当該携帯電話が5G回線等の携帯電話回線に接続されているとき又は固定回線を利用した自宅等のWi−Fiに接続されているときのいずれであっても、当該ツイートには「TwitterforiPhone」との表示がされるものと認められるから、本件IPアドレスが固定回線に割り当てられたものであるのに対し、本件ツイートに「TwitterforiPhone」との表示がされているとの事実は、本件IPアドレスから把握される発信者情報(本件発信者情報)が本件ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められるとの前記結論を左右するものではない。
 なお、証拠(甲28、29)及び弁論の全趣旨によると、携帯電話を用いてインターネットに接続する場合、携帯電話回線を利用するときには携帯電話回線に割り当てられたIPアドレスが使用され、自宅等におけるWi−Fi接続によるときには固定回線に割り当てられたIPアドレスが使用されるものと認められるから、証拠(甲5、26、35)によって認められる本件アカウントへのログインの状況によっても、本件アカウントへのログインに関し、固定回線に割り当てられたIPアドレス(本件IPアドレス)と携帯電話回線に割り当てられたIPアドレス(「省略」等)とが別人によって使用されていたものと認めることはできない。
 以上のとおりであるから、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
イ 被控訴人は、本件アカウントへのログインについては本件IPアドレス以外のIPアドレスを使用してされたものも多数存在しており、本件IPアドレス以外のIPアドレスを使用してしたログインに基づいて本件ツイートが投稿された可能性も否定できないと主張する。
 確かに、証拠(甲5、26、35)によると、本件アカウントについては、6月26日から9月21日までの間、合計467回のログインがされ、そのうち本件IPアドレス以外のIPアドレスを使用してされたログインは、320回に上るものと認められる。しかしながら、前記アのとおり、携帯電話を用いてインターネットに接続する場合、携帯電話回線を利用するときには携帯電話回線に割り当てられたIPアドレスが使用され、自宅等におけるWi−Fi接続によるときには固定回線に割り当てられたIPアドレスが使用されるものと認められるところ、証拠(甲28、29)及び弁論の全趣旨によると、少なくとも携帯電話回線を利用するときは、使用するIPアドレスが頻繁に変わるものと認められ、加えて、前記(3)のとおり、本件IPアドレスが本件アカウントへのログインに使用される最も主要なIPアドレスであったと評価できることも併せ考慮すると、本件IPアドレス以外のIPアドレスを使用してされた本件アカウントへのログインが多数回存在するとしても、それは、本件IPアドレスから把握される発信者情報(本件発信者情報)が本件ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められるとの前記結論を左右するものではない。
 以上のとおりであるから、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
ウ 被控訴人は、本件ツイートの投稿は6月20日20時39分にされているところ、これは本件発信者が自宅に帰っていない時間帯であるから、本件ツイートは固定回線を使用して投稿されたものではなく、固定回線に割り当てられたIPアドレスである本件IPアドレスは本件ツイートの投稿の際に使用されたIPアドレスではないと主張する。
 しかしながら、証拠(甲5、26、35)によると、本件アカウントについては、20時39分より前の夕方ないし夜間の時間帯に本件IPアドレスからログインがされている例が幾つもあるものと認められ、20時39分が本件発信者においておよそ本件IPアドレスを使用することができない時間帯であるということはできないし(なお、6月20日は、日曜日である。)、仮に、本件発信者が6月20日20時39分に本件IPアドレスを使用できる場所に居なかったとしても、前記アのとおり、本件アカウントへのログインに関し、固定回線に割り当てられたIPアドレス(本件IPアドレス)と携帯電話回線に割り当てられたIPアドレス(「省略」等)とが別人によって使用されていたものと認めることはできないから、本件発信者が同日20時39分に本件IPアドレスを使用できる場所に居なかったとの事実も、本件IPアドレスから把握される発信者情報(本件発信者情報)が本件ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められるとの前記結論を左右するものではない。
 以上のとおりであるから、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
4 争点3(被控訴人が「開示関係役務提供者」(法4条1項)に該当するか)について
 前記3(2)のとおり、法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る発信者情報」は、侵害情報を送信した者の発信者情報をいうものと解されるところ、これと同様に、同項の前記趣旨等に照らすと、同項にいう「開示関係役務提供者」は、上記「当該権利の侵害に係る発信者情報」である侵害情報を送信した者の発信者情報を保有する特定電気通信役務提供者であれば足りると解するのが相当である。
 そして、前記前提事実(補正して引用する原判決第2の1(3))のとおり、被控訴人は、本件発信者情報を保有しているところ、前記3(3)のとおり、本件発信者情報は、本件ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報(侵害情報を送信した者の発信者情報)であると認められ、また、弁論の全趣旨によると、被控訴人は、法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当するものと認められるから、被控訴人は、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当するというべきである。
 この点に関し、被控訴人は、被控訴人は単にログインを媒介したプロバイダにすぎず、侵害情報を流通させた特定電気通信設備そのものを管理するプロバイダではないから、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に当たらないと主張するが、上記説示したところに照らすと、被控訴人の上記主張は、同項の「開示関係役務提供者」の解釈に関し狭きに失するものというほかなく、採用の限りでない。
5 争点4(控訴人が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
 証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によると、控訴人は、本件発信者に対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であるものと認められるところ、本件発信者の氏名(名称)、住所及びメールアドレスは、当該請求をするに際して不可欠なものであるといえるから、控訴人は、前記3(3)のとおり本件ツイートを投稿した本件発信者の発信者情報であると認められる本件IPアドレスから把握される発信者情報(本件発信者情報)の開示を受けるべき正当な理由を有するというべきである。
 この点に関し、被控訴人は、本件発信者情報のうち氏名又は名称及び住所が開示されれば、本件発信者に対して損害賠償等を請求することができるから、控訴人は本件発信者情報のうちメールアドレスの開示を受けるべき正当な理由を有しないと主張するが、権利行使の態様は、訴えの提起に限定されるものではなく、その前段階として、電子メールにより連絡を取り交渉を行うことは、正当な権利行使の一態様であるといえるから、控訴人は、本件発信者情報のうちメールアドレスについても、その開示を受けるべき正当な理由を有するということができる。したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
6 結論
 よって、当裁判所の上記判断と異なる原判決は不当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消した上、控訴人の請求を認容することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 浅井憲
 裁判官 中島朋宏


(別紙)発信者情報目録
 別紙ログイン情報目録のIPアドレス欄記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から別紙投稿記事目録の接続先IPアドレス欄記載のIPアドレスに対して通信を行った電気通信回線を、別紙ログイン情報目録のログイン日時欄記載の日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げるもの
 1 氏名又は名称
 2 住所
 3 メールアドレス
 以上

(別紙)ログイン情報目録
ログイン日時 ログイン日時(日本時間) IP アドレス
2021/06/25 22:47:54 2021/06/26 07:47:54 省略
 以上

(別紙)投稿記事目録
 以上

(別紙)著作物目録
 以上
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