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【事件名】GMOペパボへの発信者情報開示請求事件C
【年月日】令和5年2月17日
 東京地裁 令和4年(ワ)第18630号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年12月14日)

判決
原告 スギ株式会社
同訴訟代理人弁護士 齋藤理央
被告 GMOペパボ株式会社
同訴訟代理人弁護士 横田将大
同 龜田智


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各発信者情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告に対し、原告の提供するサービスに関心を有するTwitter(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のユーザーが、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)の管理運営する別紙サイト目録記載のウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)の記載に従い、Twitter上のアカウント(以下「ユーザーアカウント」という。)と特定のアプリケーション(以下「本件スパムアプリ」という。)を連携したことにより、当該ユーザーアカウントにおいて、上記ユーザーの意図に関係なく、原告が著作権を有する文章を記載したツイート(以下「本件スパムツイート」という。)が投稿されるようになり、これによって原告の営業権が侵害されたことが明らかであり、本件発信者に対する損害賠償請求権等の行使のため、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、ウェブサイト「A」(以下「原告ウェブサイト」という。)の運営等を行うインターネット企業である(弁論の全趣旨)。
 原告ウェブサイトは、「あなたは攻めなのか受けなのか診断!」、「あなたをうなぎ料理に例えると!!」、「あなたのかわいさタイプ!!」等のテーマについて、ユーザーを診断し、その結果を表示するサービス(以下「原告サービス」という。)を提供しており、原告は、原告ウェブサイトに広告を掲載すること等により、収益を上げている(甲7、弁論の全趣旨)。
イ 被告は、インターネットに関する設備の販売、設置、運営及びメンテナンス業務等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2)原告のTwitter上のアカウント
 原告は、Twitter上に、アカウント名を「A」、ユーザー名を「B」とするアカウントを保有しており、当該アカウントにおいて、原告サービスにおける新着診断や人気の診断を記載したツイートを投稿している(甲8)。
(3)本件スパムツイートの投稿
 本件スパムツイートが投稿される仕組みは、以下のとおりである(以下、後記アないしエの一連の行為を「本件スパム行為」という。)。
ア Twitter上で、原告ウェブサイトにおいて表示される診断結果や前記(2)のツイート(以下「原告診断結果等」という。)とほぼ同一の内容の本件スパムツイートが投稿される。本件スパムツイートの一例は、以下のとおりである。(甲1、9,14,弁論の全趣旨)
 「あなたはサファイア。宝石言葉は慈愛・誠実。愛情深く慈愛に満ちた人。尽くしたがり。尽くし過ぎて相手がダメになってしまうダメ男(女)製造機。翡翠の人とただならぬ関係にあなたを宝石に例えたらURL省略誰か翡翠の人いる?」
イ 本件スパムツイートには、ハイパーリンクの設定された「URL省略」等のURLが記載されており、これをクリックすると、このURLで特定されるウェブページ(本件ウェブサイト中のウェブページ。以下「本件ウェブページ」という。)に遷移する。本件ウェブページには、「あなたを宝石に例えたら!」等の前記アの本件スパムツイートに対応した記載があり、その上部に「診断する」と記載されたボタンが設けられている。(甲2、弁論の全趣旨)
ウ 前記イのボタンをクリックすると、Twitterのウェブページに遷移する。同ウェブページには、「あなたを宝石に例えたら!にアカウントへのアクセスを許可しますか?」等の前記アの本件スパムツイートに対応した記載があり、その下部に「連携アプリを認証」と記載されたボタンがある。上記ボタンをクリックすると、上記ボタンをクリックした者のユーザーアカウントと本件スパムアプリが連携され、本件スパムアプリが、当該ユーザーアカウントにおいて、上記クリックをした者の意図に関係なく、本件スパムツイートを投稿することなどができるようになる。(甲3、16、弁論の全趣旨)。
エ 前記ウの連携後、「アプリケーションに戻ります。しばらくお待ちください。」と記載されたTwitterのウェブページに遷移し、その後、原告ウェブサイトに自動的に遷移する(甲4、5)。
オ 本件スパムアプリは、前記ウのとおりに本件スパムアプリと連携したユーザーアカウントにおいて、当該ユーザーアカウントの保有者の意図に関係なく、前記アのとおりに本件スパムツイートを投稿する(甲9、15、21ないし23)。
(4)本件発信者情報
 被告は、本件ウェブサイトに係るサーバを管理運営しており、本件発信者情報を保有している(甲6,弁論の全趣旨)。
3 争点
(1)権利侵害の明白性(争点1)
(2)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(争点2)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
ア 本件スパム行為は、ユーザーをして、本件スパムアプリを正式なアプリケーションと誤信させて、ユーザーアカウントとこれを連携させ、上記ユーザーが意図せず、当該ユーザーアカウントにおいて、本件スパムツイートを投稿させるものである。これによって、原告がスパム行為を行っていると誤信される危険性があり、原告の信用が毀損されることになる上、原告サービスにおける診断結果は、言語の著作物であり、原告が著作権を有するところ、本件スパムツイート及び本件ウェブサイトは、原告に無断で、これを転載するものである。
 したがって、本件スパム行為及びこの一部を構成する本件ウェブサイトは、著しく不公正な手段を用いて法的保護に値する原告の営業上の利益(営業権)を侵害するものであり、不法行為を構成する。
イ 本件スパム行為は、ユーザーをして、本件スパムアプリを正式なアプリケーションと誤信させ、当該錯誤を利用して本件スパムツイートを拡散せしめ、ユーザーに本件スパムアプリを違法なアプリケーションと気付かせないために、原告ウェブサイトに遷移させるなどして偽装している。そして、誤信したユーザーは、意図せず、本件スパムアプリと連携したユーザーアカウントにおいて、原告の著作権を侵害する内容のツイートを投稿させられるなどしている。このような本件スパム行為は、偽計業務妨害罪(刑法233条)にいう「偽計」に該当する典型的な行為というべきである。
 また、上記「偽計」の結果、原告は、本件訴訟を提起せざるを得なくなるなど、実際に業務活動を阻害されているから、原告の業務を妨害するものである。
 したがって、本件スパム行為及びこの一部を構成する本件ウェブサイトは、「偽計」により原告の業務を違法に妨害して、原告の権利を侵害するものであり、不法行為を構成する。
ウ 本件スパム行為は、本件スパムアプリが違法なアプリケーションであるとユーザーに気付かせないために、原告ウェブサイトに遷移するなどし、これにより、ユーザーは、原告がユーザーアカウントを乗っ取ったと誤信して、原告に対する信用を低下させるという業務妨害の危険性の極めて高い行為である。また、本件スパム行為の結果、ユーザーは、意図せず、原告の著作権を侵害する本件スパムツイートの投稿を余儀なくされることになるところ、このような悪質な行為が社会的に許容されないことは明らかである。さらに、本件スパム行為は、営利等の目的によるものであって、その動機、目的及び態様は悪質というほかない。
 したがって、本件スパム行為及びこの一部を構成する本件ウェブサイトは、社会生活上受容できる限度を超えた行為であり、「悪戯など」(軽犯罪法1条31号)により原告の業務を違法に妨害して、原告の権利を侵害するものであり、不法行為を構成する。
エ 本件スパム行為の態様に照らして、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は皆無である。
オ したがって、本件スパム行為及びこの一部を構成する本件ウェブサイトが原告の権利を侵害するものであることは、明白である。
(被告の主張)
ア 営業活動上の利益とは、事業者が営業を遂行する上で得られる有形無形の経済的価値その他の利益一般をいう。
 しかし、ユーザーは、原告サービスを受けるために、診断料等の金銭を支払っておらず、原告は、原告ウェブサイトを運営することにより、原告サービスの対価としての経済的価値を得ているわけではないから、本件スパム行為により原告の営業権が侵害されたとはいえない。
イ 原告ウェブサイトと本件ウェブサイトでは、URLの文字列が全く異なるから、原告が本件ウェブサイトを管理運営しているとユーザーが誤信することはないから、「偽計」(刑法233条)や「悪戯など」(軽犯罪法1条31号)には該当しない。
(2)争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由)について
(原告の主張)
 原告は、氏名不詳者に対し、損害賠償請求等をする正当な権利を有するため、本件発信者情報の開示を受ける正当な理由を有する。
(被告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1)前記前提事実(3)ア及びイによれば、原告診断結果等と同一の内容の本件スパムツイートを読み、原告サービスに関心を持ったユーザーは、本件スパムツイート中のURLをクリックし、さらに、本件ウェブサイト中の本件ウェブページにおいて、「診断する」と記載されたボタンをクリックすると考えられる。また、前記前提事実(3)ウによれば、上記ユーザーは、「あなたを宝石に例えたら!にアカウントへのアクセスを許可しますか?」等の記載のあるTwitterのウェブページを閲覧し、原告サービスを受けるためにはアクセスを許可する必要があると誤信して、「連携アプリを認証」と記載されたボタンをクリックし、自らのユーザーアカウントと本件スパムアプリを連携させてしまう蓋然性があるといえる。
 そして、前記前提事実(3)ア、ウ及びオのとおり、本件スパムツイートを見たユーザーが、ユーザーアカウントと本件スパムアプリを連携させ、そのユーザーアカウントにおいて投稿された本件スパムツイートを見た別のユーザーが、新たなユーザーアカウントと本件スパムアプリを連携させるといった行為が繰り返され得ることからすると、本件スパムアプリと連携されたユーザーアカウント及び本件スパムツイートは、相当な数に上ると考えられる。
 さらに、前記前提事実(3)ウ及びオのとおり、本件スパムアプリが投稿する本件スパムツイートは、本件スパムアプリと連携されたユーザーアカウントの保有者の意図に関係なく投稿されるものである。
 その上、上記のとおり、原告サービスに関心を持ったユーザーは、原告サービスを受けることができると誤信して、「連携アプリを認証」と記載されたボタンをクリックしたものであり、この結果、自らのユーザーアカウントと本件スパムアプリが連携され、原告診断結果等と同一の内容の本件スパムツイートが投稿されるようになることからすると、上記ユーザーが原告に対して著しい不信感を持つことは、容易に想像することができる。
 以上を総合すると、本件スパム行為は、ユーザーアカウントの保有者の意図に関係なく、原告診断結果等と同一の内容の、相当な数の本件スパムツイートを投稿するものであり、非常に多くのユーザーが原告に対して不信感を抱くこととなり、原告の事業に大きな影響を与えるものということができる。
 したがって、本件スパム行為は、原告の営業権を侵害すると認めるのが相当である。
 そして、本件ウェブサイト中の本件ウェブページは、上記のとおり、原告サービスに関心を持ったユーザーをして、原告サービスを受けることができると誤信させ、「診断する」と記載されたボタンをクリックさせて、ユーザーアカウントと本件スパムアプリを連携させるためのTwitterのウェブページに誘導するものであり、これにより相当な数のユーザーが本件スパムアプリと連携していることからすると、本件ウェブページの内容がインターネット上で流通することにより、原告の営業権を侵害していると評価するのが相当である。
 一方で、本件において、違法性阻却事由が存在することは全くうかがわれない。
 以上によれば、本件ウェブサイト中の本件ウェブページにより原告の営業権が侵害されたことが明らかであるといえる(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。
(2)これに対して、被告は、@原告は、原告ウェブサイトを運営することにより、原告サービスの対価としての経済的価値を得ているわけではないから、原告の営業権が侵害されたとはいえない、A原告ウェブサイトと本件ウェブサイトでは、URLの文字列が全く異なるから、原告が本件ウェブサイトを管理運営しているとユーザーが誤信することはないと主張する。
 しかし、上記@については、前記前提事実(1)アのとおり、原告は、原告ウェブサイトに広告を掲載すること等により収益を上げていたから、原告ウェブサイトにおける原告サービスの提供そのものにより収益を上げていなかったとしても、本件スパム行為により原告の営業権が侵害されたといえる。
 また、上記Aについては、ユーザーが、URLの文字列を見ただけで、原告が管理運営するウェブサイトか否かを判断できることは稀であるというべきであるから、原告ウェブサイトと本件ウェブサイトでURLの文字列が異なるとしても、原告が本件ウェブサイトを管理運営しているとユーザーが誤信することはあり得る。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
2 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、氏名不詳者に対し、損害賠償請求等をする予定であり、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があると認められる。
 したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
第4 結論
 以上のとおり、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 バヒスバラン薫


(別紙)発信者情報目録
1 別紙サイト目録記載のサーバの契約者の氏名
2 別紙サイト目録記載のサーバの契約者の住所
3 別紙サイト目録記載のサーバの契約者の電話番号
4 別紙サイト目録記載のサーバの契約者のメールアドレス
 以上

(別紙)サイト目録
 下記で特定されるサーバに蔵置され下記URLと紐づけられたサイト
1 URL URL省略
2 サーバIPアドレス 省略
3 サーバ逆引きホスト名 省略
 以上
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/