判例全文 line
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【事件名】YouTube動画の製作委託事件
【年月日】令和5年2月10日
 令和3年(ワ)第31866号 損害賠償請求事件(本訴)、令和4年(ワ)第10945号 損害賠償請求事件(反訴)
 (口頭弁論終結日 令和4年12月8日)

判決
原告(反訴被告) A(以下「原告」という。)
被告(反訴原告) 株式会社ユチュブる(以下「被告会社」という。)
被告(反訴原告) B(以下「被告B」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 山本和広
同訴訟復代理人弁護士 中野雄太


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 原告は、被告会社に対し、12万円及びこれに対する令和4年1月5日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
3 原告は、被告Bに対し、12万円並びにうち6万円に対する令和3年12月2日から及びうち6万円に対する同月23日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告に生じた費用の10分の7、被告会社に生じた費用の10分の7及び被告Bに生じた費用の5分の4を原告の負担とし、原告に生じた費用の10分の2及び被告会社に生じた費用の10分の3を被告会社の負担とし、原告及び被告Bに生じたその余の費用を被告Bの負担とする。
6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴
(1)被告らは、原告に対し、連帯して、230万円及びこれに対する令和3年11月26日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
(2)被告会社は、原告に対し、3万3000円及びこれに対する令和4年1月29日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 反訴
(1)原告は、被告会社に対し、121万円並びにうち55万円に対する令和3年12月2日から、うち22万円に対する同月23日から及びうち44万円に対する令和4年1月5日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
(2)原告は、被告Bに対し、77万9405円並びにうち55万9405円に対する令和3年12月2日から及びうち22万円に対する同月23日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本訴は、原告が、被告会社との間で、オンライン動画共有プラットフォームであるYouTube上に開設された、「(チャンネル名は省略)」のチャンネル名のYouTubeチャンネル(以下「本件チャンネル」という。)に、原告が出演する動画を被告会社が有償で編集し、アップロードをする旨の合意をし、被告会社が同合意に基づく業務を行っていたことに関し、@被告らは、本件チャンネルと紐づけされているGoogleアカウント(以下「本件アカウント」という。)のパスワードを原告の承諾なく変更し、原告の権利を違法に侵害したとして、被告らに対し、民法709条及び719条に基づき、連帯して、原告が被った損害205万円及びこれに対する不法行為の後の日である令和3年11月26日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求め、A被告らは、令和3年11月26日以後、原告の承諾なく被告会社のウェブサイト上に原告の容姿が表示された動画のサムネイル(別紙サムネイル目録記載の各サムネイル。以下「本件各サムネイル」という。)を掲載し続け、本件各サムネイルに係る原告の肖像権を侵害したとして、被告らに対し、民法709条及び719条に基づき、連帯して、慰謝料25万円及びこれに対する不法行為日である令和3年11月26日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求め、B被告会社は、原告との間の合意に基づいて、原告が制作し、被告会社が編集した未公開動画(別紙未公開動画目録記載の動画。以下「本件未公開動画」という。)のデータを引き渡す等の義務を負っていたにもかかわらず、これを履行していないなどとして、被告会社に対し、債務不履行に基づき、原告が被った損害3万3000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和4年1月29日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 反訴は、@被告会社が、原告は、メッセージアプリLINE上に作成されたグループ内において、別紙投稿目録記載1及び2の投稿(以下、順に「本件投稿1」、「本件投稿2」といい、本件投稿1のうち下線部の表現を番号順に「本件投稿1−@」などという。)並びにGoogleMap上の被告会社のレビュー欄に別紙投稿目録記載3の投稿(以下、「本件投稿3」といい、本件投稿3のうち下線部の表現を番号順に「本件投稿3−@」などという。)をして被告会社の名誉を毀損したとして、原告に対し、被告会社が被った無形損害合計121万円並びにうち55万円に対する不法行為日(本件投稿1の投稿日)である令和3年12月2日から、うち22万円に対する不法行為日(本件投稿2の投稿日)である同月23日から及びうち44万円に対する不法行為日(本件投稿3の投稿日)である令和4年1月5日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求め、A被告Bが、原告は、本件投稿1及び2をして被告Bの名誉を毀損し、又は被告Bを侮辱したとして、原告に対し、民法709条に基づき、被告Bが被った損害合計77万9405円並びにうち55万9405円に対する不法行為日(本件投稿1の投稿日)である令和3年12月2日から及びうち22万円に対する不法行為日(本件投稿2の投稿日)である同月23日から、それぞれ支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア 原告は、東京弁護士会所属の弁護士であり、かつ、YouTubeにおいて動画を配信するYouTuberである(弁論の全趣旨)。
イ 被告会社は、YouTube用の動画編集業務等を行う会社であり、被告Bは、被告会社の代表取締役である。
(2)本件チャンネル開設の経緯
 原告は、YouTubeを立ち上げた経験がなく、インターネットの操作をすることが苦手だったため、被告Bにチャンネルの開設を依頼し、被告Bが、被告会社名義で本件アカウントを作成し、これと紐づくものとして本件チャンネルを開設した。
(3)動画の制作、編集及びアップロードの流れ
 原告及び被告会社は、令和2年3月頃、被告会社が、原告が出演する動画を編集してこれを本件チャンネルにアップロードし、原告が、被告会社に対し、上記業務の報酬として、動画1本につき3万円を支払う旨合意した。
 上記合意に基づいて、原告は、アップロードする動画の内容を企画し、被告Bは、原告が出演する動画を撮影及び編集し、いったん一部の関係者に対してのみ公開される限定公開設定にしたまま本件チャンネルに動画をアップロードして、原告から編集後の動画を公開する承諾が得られたら、これを誰でも閲覧することができる公開設定にするという流れで動画の作成及び編集作業を行っていた(弁論の全趣旨)。
(4)本件アカウントのパスワードの変更(甲9,10、弁論の全趣旨)
ア 原告は、令和3年7月頃から、前記(3)の報酬が高額であると思うようになり、これよりも低い報酬でC(以下「C」という。)に動画の編集を依頼するようになった。
 原告は、Cが自ら編集した動画を本件チャンネルにアップロードできるようにするため、被告Bに対し、Cにも本件チャンネルを管理させることを提案したところ、被告Bは、これを承諾し、本件アカウントのパスワードをCに教え、Cが制作・編集した動画を本件チャンネルに投稿することを許可した。
イ Cは、令和3年11月22日、被告会社に事前の相談をすることなく、本件チャンネルの収益化の手続をするため、二段階認証設定をしたことにより、被告会社が本件アカウントにログインできない状態となった。
ウ 被告Bは、令和3年11月24日、本件アカウントのパスワードを変更した。
 原告は、被告Bに対し、本件アカウントのパスワードを教えるよう求めたところ、被告Bは、原告及びCにパスワードを教えることを拒否したが、原告の事務所のパソコンにパスワードを記憶させ、原告が事務所のパソコンから本件アカウントにログインできるようにすることを提案し、原告はこれを承諾した。
(5)本件契約書の作成
 被告Bは、令和3年11月24日、前記(4)ウの後、原告に対し、前記(3)の被告会社と原告との間の動画編集に関する合意について、契約書を作成することを提案し、原告はこれを承諾した。
 本件においては、原告及び被告会社の署名押印のある令和3年11月24日付け「映像制作、アカウント運用に関する業務委託契約書」と題する契約書(以下、「本件契約書」といい、同契約書記載の契約を「本件契約」という。)が存在しているところ、本件契約書においては、原告の事務所を「甲」といい、被告会社を「乙」というとした上で、9条2項(2頁目)には、「甲は、乙が自社のHPなどに広報・宣伝目的として、甲の制作した動画の実績を掲載することを許可する。また、甲は、乙が本チャンネルのアカウント所有者であることを認める。」との記載がある(乙1、弁論の全趣旨)。ただし、本件契約書の2頁目及び3頁目が真正に成立したか否かについては当事者間に争いがある。
(6)本件未公開動画のアップロード
 被告会社は、令和2年3月9日から令和3年7月12日までの間、複数の動画を本件チャンネルにアップロードし、限定公開設定から公開設定にしたが、本件未公開動画に関しては、これを同年4月21日アップロードしたものの、同動画を限定公開設定のままとしている(甲3、乙9)。
(7)本件各サムネイルの掲載
 被告会社は、令和3年11月26日から、本件チャンネルに投稿された動画の一場面を切り取ったサムネイル画像である本件各サムネイルを被告会社のYouTube用動画の制作実績として被告会社のウェブサイトに掲載した(甲5)。
(8)原告のLINEグループへの投稿
 原告及び被告Bは、LINE上に作成された、「F」という名称のグループ(以下「本件グループ」という。)のメンバーであったところ(ただし、被告Bは令和3年11月26日、本件グループのメンバーから除外された。)、原告は、同グループにおいて、令和3年12月2日に本件投稿1をし、同月23日に本件投稿2をした。なお、同グループには、本件投稿1の投稿時に197人のメンバーが、本件投稿2の投稿時に200人のメンバーが、それぞれ在籍していた。
(9)原告のGoogleMapへの投稿
 原告は、令和4年1月5日、GoogleMap上で表示される被告会社に関するレビューとして、本件投稿3を投稿した。
3 争点
(1)本訴請求について
ア 本件アカウントのパスワード変更による権利侵害の成否等(争点1)
イ 本件各サムネイルの掲載による肖像権侵害の成否等(争点2)
ウ 被告会社の本件未公開動画のデータ引渡等義務の存否及び義務違反の有無(争点3)
エ 原告の損害の発生及び損害額(争点4)
(2)反訴請求について
ア 本件投稿1−@ないし1−C、本件投稿2及び本件投稿3による名誉毀損の成否(争点5)
イ 本件投稿1−D及び1−E並びに本件投稿2による人格的利益侵害の成否(争点6)
ウ 公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図ることにあり、摘示された事実がその重要な部分について真実であることによる抗弁(以下「真実性の抗弁」という。)の成否(争点7)
エ 被告らの損害の発生及び損害額(争点8)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件アカウントのパスワード変更による権利侵害の成否等)について
(原告の主張)
ア 被告らは、令和3年11月24日、原告の承諾なく本件アカウントのパスワードを変更した上で、本件チャンネルの管理者から原告及びその履行補助者であるCを排除し、その後の本件チャンネルの管理運用を不可能とさせた。
 原告が被告らから本件アカウントのパスワードを教えてもらえなければ、原告がCに制作及び編集作業を依頼した動画をCがアップロードすることができない。そのため、原告は、自己が管理権限を有する本件チャンネルによる収益を上げることができない状態となっている。
イ 被告らは、本件契約の存在を理由として、本件アカウントの所有者が被告会社であるなどと主張している。
 しかし、本件契約書の1頁目と4頁目については文書の真正な成立が認められるものの、本件契約書の2頁目と3頁目には原告の契印がないから、本件契約書の全体が真正に成立したとはいえない。したがって、2頁目と3頁目は差し替えられた可能性があり、本件契約は有効に成立していない。
 また、仮に本件契約が有効であるとしても、本件契約は、原告にとって何らメリットのない内容となっており、著しく不平等な内容の契約を締結させるという暴利行為に当たるものであり、無効である。
 さらに、仮に無効事由がないとしても、被告会社は本件チャンネルを管理していないから、債務不履行があるといえ、原告は、令和3年11月25日、被告Bを通じて、被告会社に対し、LINEにて「今までありがとうございました。とりあえず、今後は自分の管理するチャンネルに移転します。」と契約解除の意思表示をしているため、本件契約は解除により終了している。
ウ したがって、被告らが本件アカウントのパスワードを変更したことにより、原告が本件チャンネルを運営し集客する利益及び作成した動画を自由に編集し管理する権利が侵害されたといえ、同行為について、被告らには故意又は過失が認められる。
(被告らの主張)
 本件チャンネルは、被告Bが同人の電話番号を用いて被告会社名義のアカウント(本件アカウント)を作成し、これと紐づくものとして開設したものであり、被告会社がその管理権限を有している。
 また、原告と被告会社は、本件アカウントのパスワードを変更した後に、本件契約書を作成したところ、同契約書の9条2項においても、原告が、被告会社が本件アカウントの所有者であることを認める旨の条項があることから、本件契約締結以前から本件アカウントの所有者が被告会社であったことが推認できる。なお、原告の本件契約の無効又は解除による終了の主張は争う。被告会社に債務不履行はないし、原告による解除の意思表示もされていない。
 さらに、被告Bが本件アカウントのパスワードを変更したことには正当な理由がある。すなわち、Cは、令和3年11月頃、被告会社に相談することなく、本件チャンネルを収益化するため、本件アカウントに二段階認証設定をするなどしたことから、被告Bが本件アカウントにログインできない状態となり、被告Bは、同状態を回復するため、本件アカウントのパスワードを変更したものである。
 したがって、被告Bが本件アカウントのパスワードを変更したことは、何ら原告の権利を侵害するものではなく、原告の主張は理由がない。
(2)争点2(本件各サムネイルの掲載による肖像権侵害の成否等)について
(原告の主張)
 被告会社が同会社のウェブサイトに本件各サムネイルをアップロードする際に、原告の同意があったことは認める。しかし、原告は、その後、本件各サムネイルを公表することを中止するよう要求したものである。
 また、本件契約は、前記(1)(原告の主張)イのとおり、無効事由があり、仮に無効事由がないとしても被告会社の債務不履行を理由に解除しているから、遅くとも解除の効力が発生した後は、被告会社は本件各サムネイルを掲載する権利を喪失した。
 それにもかかわらず、被告らは被告会社のウェブサイト上に本件各サムネイルを掲載し続けたものであり、同行為は故意又は過失により原告の肖像権を侵害するものといえる。
(被告らの主張)
 原告が被告会社に対し、本件各サムネイルの掲載をやめるよう要求したことは認める。
 しかし、原告は、YouTuberとして、自らの容姿を不特定多数の者に積極的に公開している。また、被告会社は、本件チャンネルを開設する際、原告に対し、被告会社のウェブサイトに本件各サムネイルを制作実績として掲載することを説明して了解を得ており、本件契約書の9条2項においても、「甲は、乙が自社のHPなどに広報・宣伝目的として、甲の制作した動画の実績を掲載することを許可する」とされていたから、原告は、被告会社に対し、本件各サムネイルを被告会社のウェブサイトにアップロードすることを承諾している。
 そして、前記(1)(被告らの主張)のとおり、本件契約には無効事由はなく、また、原告により解除の意思表示がされたとしても同解除は有効ではないから、本件契約は有効に存続しており、原告の承諾の効力は存続している。
 仮に、原告の承諾の効力が及ばず、原告の肖像権を侵害するものであったとしても、本件チャンネルにアップロードされた動画は、原告の依頼に基づいて被告会社が制作・編集し、原告の意思に基づいて投稿されたものであり、被告会社は、本件チャンネルにおける動画を紹介するものとして、本件各サムネイルを被告会社のウェブサイトに掲載したものである以上、原告に意図されない形で掲載されたものであるともいえないから、原告の肖像権侵害は、社会的生活上受忍の限度を超えるとはいえず、違法性があるとはいえない。
 したがって、原告の肖像権侵害の主張は理由がなく、仮に、原告の肖像権侵害があったとしても、同権利侵害に違法性があるとはいえない。
(3)争点3(被告会社の本件未公開動画のデータ引渡等義務の存否及び義務違反の有無)について
(原告の主張)
 完成したYouTube動画は、大衆の目に触れる状態で公開されて初めて意味をなすものであるから、原告は、本件未公開動画に登場するD(以下「D」という。)の逮捕を条件として、被告会社により本件未公開動画が公開されることをもって、債務の履行となるものと認識しており、被告会社の主張する限定公開設定の状態では債務が履行されたことにはならない。
 また、被告らが、本件アカウントのパスワードを変更した後は、原告は本件チャンネルを管理することができなくなったため、別のチャンネルを開設し、動画をアップロードするようになった。この段階においては、もはや本件チャンネルで本件未公開動画をアップロードすることは望めない状況となったから、原告は、被告会社から本件未公開動画のデータの引渡しを受けさえすれば、債務の履行はあったものとみなすという認識であった。
 なお、被告会社は、原告に本件未公開動画のデータを送付しているものの、これは動画の確認のためのものである上、原告はスマートフォンで動画を確認しただけで、ダウンロードはしていないので、結果的にデータの引渡しを受けていない。
 したがって、被告会社は、本件未公開動画を公開することも、原告に本件未公開動画を引き渡すこともしなかったものであるから、同動画の引渡義務等の債務不履行となる。
(被告会社の主張)
 被告会社が原告に対して本件未公開動画のデータ引渡等義務を負っていたとの主張及びその義務に違反したとの主張については、いずれも否認する。
 そもそも、原告が主張する本件未公開動画のデータを引き渡す契約及びDの逮捕を条件として動画の公開設定をする合意がいつ、どこで、どのようにされたのか不明である。
 また、被告会社は、本件未公開動画の編集内容について原告から了承を得るため、令和3年4月20日頃、本件未公開動画のデータを引き渡したものであるから、仮に被告会社が原告に本件未公開動画のデータを引き渡す義務を負っていたとしても、これを履行している。
 さらに、被告会社は、本件チャンネルに動画をアップロードする債務を負っているが、これを公開設定にする義務までは負っておらず、これをしなかったとしても債務不履行になることはない。なお、被告会社は、原告からの依頼があれば本件未公開動画を公開することについて準備を整えていたが、原告が上記データの引渡し後も同動画の編集内容に何らの返答もしていないため、これを公開していないにすぎない。
 したがって、原告の主張に理由はない。
(4)争点4(原告の損害の発生及び損害額)について
(原告の主張)
ア パスワード変更行為による損害
 原告は、本件アカウントのパスワードを変更したことにより、本件チャンネルを運営することができなくなり、新たにチャンネルを開設し、データを移管せざるを得なくなった。その際に、移管費用として原告が支払った金額は55万円である。
 そして、本件チャンネル作成から1年半の間、被告会社に支払った150万円の動画編集料や、着々と登録者数を積み重ねていった2200人の登録者数がリセットされたことによる損失、被告らが本件チャンネルを削除せずに放置している状況により生じる視聴者分散の損失などを踏まえると、被告らによる本件アカウントのパスワード変更により生じた原告の経済的損失は少なく見積もっても150万円を下らない。
 よって、原告は被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として205万円の支払を求める。
イ 肖像権侵害による損害
 原告は弁護士であり、何度も大きな詐欺事件を解決し、何度もテレビ出演している。このように、原告は社会的信用性が求められる立場にあるため、自分の意図しない形で原告の容貌が掲載されることによる影響は少なくない。このような原告の精神的苦痛を金銭に換算すると、その慰謝料額は25万円を下らない。
ウ 債務不履行による損害
 原告は、令和3年夏頃、被告会社に本件未公開動画を編集し、同動画を引き渡すよう依頼し、その頃、同動画の編集業務の報酬として3万3000円を支払った。しかし、被告会社は本件未公開動画を引き渡さないから、原告は、上記報酬相当額の損害を被った。
(被告らの主張)
 いずれも争う。
(5)争点5(本件投稿1−@ないし1−C、本件投稿2及び本件投稿3による名誉毀損の成否)について
(被告らの主張)
ア 本件投稿1−@について
 本件投稿1−@は、「お金を払ったのに、これまで作成した動画のデータ引き渡し拒否」、「YouTube動画編集の引き渡し拒否」というものであり、これは被告Bが原告に対し何の理由もなく動画の引渡しを拒否しているとの事実を摘示するものである。
 このような記載がされれば、被告Bが、原告に対して理由もなく動画を引き渡さず嫌がらせをするような人物であるとの印象を与えるから、被告Bのみならず、同人が代表取締役を務める被告会社の信用も低下させるものである。
 したがって、本件投稿1−@は、原告の故意又は過失により、被告らの社会的評価を低下させるものである。
イ 本件投稿1−Aについて
 本件投稿1−Aは、「チャンネルを人質とし、自分に仕事を回せという脅迫に近い要求。」、「いくら管理しているからってチャンネルを人質に取るのは相手の感情を逆撫でするの逆効果。詐欺師でもこんなことは知ってる。」というものであり、被告らが本件チャンネルにつき管理権限を有していることを利用して、不当にも被告らに仕事を回させるという要求を実現させようとするもので、脅迫罪の構成要件に該当し得る行為であり、詐欺師でも行わないような悪質な行為であるとの事実を摘示するものである。
 このような記載がされれば、詐欺案件に強い弁護士の目から見て、被告らが犯罪行為に等しいような、詐欺師でも行わないような悪質な行為を行ったとの印象を閲覧者に与えるものであるといえ、被告Bのみならず、同人が代表取締役を務める被告会社の信用も低下させるものである。
 したがって、本件投稿1−Aは、原告の故意又は過失により、被告らの社会的評価を低下させるものである。
ウ 本件投稿1−Bについて
 本件投稿1−Bは、「こいつの動画編集一本10マンやで」、「1本10マンの編集料吹っかけてくる」というものであり、これは、被告会社が1本の動画編集当たり10万円という非常に高額な費用を請求するという事実を摘示するものである。
 このような記載がされれば、詐欺案件に強い弁護士の目から見ても、被告会社が不当に高額な請求をする業者であるとの印象を閲覧者に与えるものであり、被告Bのみならず、同人が代表取締役を務める被告会社の信用も低下させるものである。
 したがって、本件投稿1−Bは、原告の故意又は過失により、被告らの社会的評価を低下させるものである。
エ 本件投稿1−Cについて
 本件投稿1−Cは、「契約書すらないのに、俺の著作権や肖像権は一切無視」、「契約書はない」、「肖像権の放棄はない」、「契約書がなければ普通に著作権は私ですよ」というものであり、これは、前記アの被告Bが原告に対し何の理由もなく動画の引渡し等を拒否している事実を前提に、被告らが、原告と契約書を取り交わしておらず、原告に著作権や肖像権の帰属について説明や取り決めを行っていないという事実を摘示するとともに、著作権や肖像権が原告に帰属するにもかかわらず、この点に関し被告らが一切無視しているという論評を加えたものである。
 このような記載がされれば、一般読者は、前記アのとおり被告らが理由もなく本件未公開動画の引渡しを拒否しているという印象を抱くばかりか、被告らが、契約書も作成せず、本件未公開動画の著作権や原告の肖像権について説明すら行わない態度をとる者であり、被告らが悪質であるとの印象を抱くといえる。
 したがって、本件投稿1−Cは、原告の故意又は過失により、被告らの社会的評価を低下させるものである。
オ 本件投稿2について
 本件投稿2は、被告Bを「詐欺師のくそ粘着」と記載したものであり、これは、被告Bが粘着質な詐欺師であるという事実を摘示するものである。
 このような記載がされれば、詐欺案件に強い弁護士の目から見て、被告Bが詐欺師であるとの印象を閲覧者に与えるものであり、被告会社についても、詐欺師が経営する会社であるとの印象を閲覧者に与えるといえる。
 したがって、これらの記載は、原告の故意又は過失により、被告らの社会的評価を低下させるもので、被告らの名誉権を侵害する。
カ 本件投稿3−@について
 本件投稿3−@は、被告会社について、「サービスは他の業者の半分以下の仕事で倍以上の値段をとるという印象」、「別の業者との比較ですが、他の業者だと、値段は半分以下で音質もよく、フルで字を入れてくれます。あきらかに値段とサービスが一致してませんね。」、「1本3万はサービスに見合ってないというと(これでもやすくやってくれているそうな)」と記載するものであり、被告会社が、競合他社と比較して、半分以下の品質のサービスしか提供していないにもかかわらず、2倍以上の報酬を請求する会社であり、サービスと報酬が釣り合っていないという事実を摘示するものである。
 このような記載がされれば、被告会社が質の悪いサービスしか提供せず、他方で、他社の2倍以上の報酬を請求する会社であるとの印象を閲覧者に与えるといえる。
 したがって、本件投稿3−@は、原告の故意又は過失により、被告会社の社会的評価を低下させるものである。
キ 本件投稿3−Aについて
 本件投稿3−Aは、「自撮り棒だけわたされて「じゃあ安くやってやるから、今後は編集だけやってやるから自撮りで撮影やれ。今後仕事をこちらに流さなければチャンネルを使わせない。…」等と自撮り棒だけ渡され、途方にくれました。」というものであり、被告会社が、値段交渉を行った原告に対し、料金体系について詳しい説明をすることなく、命令口調で一方的に自撮り棒を手渡し、今後は自分自身で撮影をするように告げたという事実を摘示するものである。
 このような記載がされれば、被告会社が料金体系について顧客に十分説明することなく、また、顧客に対して命令口調で高圧的な態度をとる会社であるという印象を閲覧者に与えるといえる。
 したがって、本件投稿3−Aは、原告の故意又は過失により、被告会社の社会的評価を低下させるものである。
ク 本件投稿3−Bについて
 本件投稿3−Bは、原告が被告会社から「なお、お前に肖像権や著作権はない」等と言われた、「ホームページの今までの実績で掲載している私の画像を消してほしいですね。肖像権侵害ですよ。」、「まさか、この会社の代表の名刺とかまだ私の名前のっけていませんよね?こちらも著作権無しですか。」との記載がされている。これは、被告会社が顧客に対し「お前」と呼び捨てるなど失礼な態度をとり、そのウェブサイトに顧客の画像を勝手に掲載し、その名刺にも顧客の氏名等を掲載することで、顧客の肖像権や著作権を侵害しているという事実を摘示するものである。
 このような記載がされれば、被告会社が、顧客に対して失礼な態度をとるばかりか、顧客の知的財産権を侵害する行為を繰り返しているかのような印象を閲覧者に与えるといえる。
 したがって、本件投稿3−Bは、原告の故意又は過失により、被告会社の社会的評価を低下させるものである。
(原告の主張)
ア 本件投稿1−@について
 被告らは、本件投稿1−@について、原告に対し何の理由もなく動画の引渡しを拒否しているとの事実を摘示すると主張するが、「理由なく」とは記載されておらず、そのような事実は全く言及されていない。本件投稿1−@の内容や前後の文脈を見ても、被告らが全く理由なくデータの引渡しを拒否しているわけではないことは誰の目から見ても容易に想像できる。
 したがって、本件投稿1−@は、被告らの社会的評価を低下させるものではない。
イ 本件投稿1−Aについて
 被告らは、本件投稿1−Aについて、被告会社が本件チャンネルにつき管理権限を有していることを利用して、不当にも被告会社に仕事を回させるという被告らの要求を実現させようとするもので、脅迫罪の構成要件に該当し得る行為であり、詐欺師でも行わないような悪質な行為であるとの事実を摘示するものであると主張する。
 しかし、脅迫という言葉は用いたものの、脅迫罪に該当するとは一言も記載されていない。一般的に「脅迫」は、「脅迫罪に該当する」とは同一の意味で使われてはおらず、多分に評価を含むものであり、事実の摘示ではない。本件投稿1―Aには、「脅迫に近い」と婉曲的な表現が使われているのであるからなおさらである。
 したがって、本件投稿1−Aは事実を摘示するものではなく、名誉毀損は成立しない。
ウ 本件投稿1−Bについて
 被告らは、被告会社が1本の動画編集当たり10万円という非常に高額な費用を請求するという事実を摘示するものであると主張する。
 しかし、動画編集を1本10万円で業務を受託することが、「非常に高額である」とは記載されていないのであり、そのような事実を摘示するものではない。また、「吹っかけてくる」との表現が非常に高額な動画編集料金を請求するとの事実の摘示であるとの主張は争う。動画編集を1本10万円で受託する会社も少なからず存在するのであり、これが高いか安いかは、そのサービスの質や内容等様々な要素によって決まるものであるから、本件投稿1−Bの内容は被告らの社会的評価を低下させるものではない。
エ 本件投稿1−Cについて
 本件投稿1−Cが、被告会社が業務に関し、原告と契約書を取り交わしておらず、原告に著作権や肖像権の帰属について説明や取り決めを行っていないという事実を摘示するものであるという点については認める。
 また、被告らは、本件投稿1−Cが、被告Bが原告に対して何の理由もなく動画の引渡しを拒否しているとの事実を前提として、著作権や肖像権が原告に帰属するにもかかわらず、この点に関し被告らが一切無視、つまり説明すら行わないという論評を加えたものであり、被告らの社会的評価を低下させると主張するが、否認ないし争う。
オ 本件投稿2について
 被告らは、被告Bが粘着質な詐欺師であるという事実を摘示するものであるなどと主張するが、「粘着質な詐欺師」という表現自体が意味不明であり、そのようなことが表現されたものではない。「詐欺師」とは、一般的に不誠実な取引に及んでいると評価される者も含む意味で用いられているものであり、「クソ粘着」とは、一般的に、とてもしつこい人を評価するものとして用いられているから、何らかの事実を摘示したものではない。
 したがって、本件投稿2に名誉毀損は成立しない。
カ 本件投稿3について
 いずれも被告主張の事実の摘示であること、被告らの社会的評価を低下させるものであることを認める。
(6)争点6(本件投稿1−D及び1−E並びに本件投稿2による人格的利益侵害の成否)について
(被告Bの主張)
ア 本件投稿1―Dについて
 本件投稿1−Dは、「元Fのメンバー動画編集業者のB氏に対する懲罰の損害賠償を起こすべきか。」、「Bを訴えるかどうか投票しました。」、「とりあえずB氏の意見に反対の方は裁判に投票。そうでない方は裁判しないに投票」というものであるところ、このような原告の本件グループのメンバーに対する被告Bへの「懲罰の損害賠償」訴訟に係る投票の促しは、不特定多数の者に対し、一緒になって被告Bを懲らしめようと促すものであり、被告Bの名誉感情を侵害する行為である。
 そして、原告が弁護士であることに鑑みると、上記投稿の閲覧者は、原告の被告Bに対する損害賠償請求が認められるものであると受け取る可能性があり、もはや被告Bに対する正当な批判の限度を超えて被告Bの人格に対する攻撃に及んでいるというべきであって、社会通念上許容される限度を超えている。
 したがって、本件投稿1−Dは、被告Bに対する社会通念上許容されない侮辱行為であるといえ、原告の故意又は過失による被告Bの人格的利益の侵害となる。
イ 本件投稿1−Eについて
 本件投稿1−Eは、「これやばくない?」、「変なやつと組むとえらいことになるだけ」、「商売が下手だと思う。起業家には向いてない」、「こうも上から目線の業者に依頼する気はなくなりました。」、「商売が下手。これに尽きる。」、「Bさんは商売というものを知らない。」というものであるところ、これは、被告Bが変人であり、商売が下手で、起業家に向いておらず、客に対して横柄な態度をとると論評したものであり、前記アの投稿とあいまって、被告Bの名誉感情が侵害されることは明白であり、社会通念上許される限度を超えている。
 したがって、本件投稿1−Eは、被告Bに対する社会通念上許容されない侮辱行為であるといえ、原告の故意又は過失による被告Bの人格的利益の侵害となる。
ウ 本件投稿2について
 仮に、本件投稿2が被告らの名誉を毀損するものではないとしても、社会通念上許される表現の範囲を逸脱した誹謗中傷である。
 したがって、本件投稿2は、被告Bに対する社会通念上許容されない侮辱行為であるといえ、原告の故意又は過失による被告Bの人格的利益の侵害となる。
(原告の主張)
ア 本件投稿1−Dについて
 被告Bは、投票の促しは、不特定多数の者に対し、一緒になって被告Bを懲らしめようと促すものであるなどと主張するが、否認ないし争う。原告にそのような意図はなかった。
イ 本件投稿1−Eについて
 被告Bは、本件投稿1−Eにつき、前記アの投稿とあいまって、被告Bの人格的利益が侵害されたなどと主張するが、争う。
 「商売が下手」などの表現は、被告Bの人格を攻撃しているものではないことは明らかであり、起業家であれば他人から商売が上手か下手かの評価をされることは当然である。したがって、本件投稿1−Eの内容は、被告Bの社会的地位に照らして受忍限度内のものである。
ウ 本件投稿2について
 本件グループにおいては、メンバーを追放した場合、追放理由を必ず開示する慣行となっていた。そして、被告Bはこのような慣行の存在を知って本件グループに加入したことを踏まえると、本件投稿2は正当な論評であり受忍限度の範囲内である。
(7)争点7(真実性の抗弁の成否)について
(原告の主張)
ア 本件投稿1−@について
 本件投稿1−@のうち、「お金を払ったのに、これまで作成した動画のデータ引き渡し拒否」という部分については、被告らが動画のデータの引渡しを拒否したという事実の摘示であるが、被告らは、実際に本件未公開動画のデータの引渡しを拒否しているのであるから、同事実は真実であり、違法性が阻却される。
イ 本件投稿1−Aについて
 本件投稿1−Aのうち、「チャンネルを人質とし、自分に仕事を回せという…要求」、「チャンネルを人質に取る」との部分は、被告会社が本件チャンネルにつき管理権限を有していることを利用して、被告会社に仕事を回させるという被告らの要求を実現させようとするとの事実を摘示するものであるが、前記(1)(原告の主張)のとおり、被告会社は原告の承諾なく本件アカウントのパスワードを変え、被告会社に編集を依頼しなければ本件チャンネルを利用させない旨述べていたのであるから、同事実は真実であり、違法性が阻却される。
ウ 本件投稿1−Bについて
 本件投稿1−Bは、被告会社の編集料が1本10万円であるとの事実を摘示するものであるところ、被告会社は、原告の顧問先の担当者であるE(以下「E」という。)に対し、1本10万円の料金で動画の編集をすることを提案したことがあり、同事実は真実であるから、違法性が阻却される。
エ 本件投稿1−Cについて
 本件投稿1−Cは、被告会社が、業務に関し、原告と契約書を取り交わしておらず、原告に著作権や肖像権の帰属について説明や取り決めを行っていないという事実を摘示するものであるところ、被告らが本件アカウントのパスワードを変更した時点においては、契約書は作成されていないから、同事実は真実である。
 また、被告らは、本件投稿1−Cは、被告Bが原告に対して何の理由もなく動画の引渡しを拒否しているとの事実を摘示するものである旨主張するところ、仮にこのような事実の摘示であると認められたとしても、前記(3)(原告の主張)のとおり、被告会社が本件未公開動画のデータの引渡しを拒否していることは真実である。
 さらに、前記(6)(原告の主張)ウのとおり、本件グループにおいては、メンバーを追放した場合追放理由を必ず開示する慣行となっていた。原告は、この慣行にしたがって被告Bの追放理由を公開したのであり、本件投稿1−Cには公益目的も認められる。
 よって、違法性が阻却される。
オ 本件投稿3について
 本件投稿3は、原告が、原告のような被害者を出さないようにするため被告会社の口コミを投稿することにしたものであり、公益目的が認められる。
 また、本件投稿3の記載内容はいずれも原告が体験した事実であるから真実である。原告と被告BのLINEでのやり取り(甲9の13頁目)に、被告Bが、原告に対し、「お前に、肖像権や著作権はない。」という発言をしたことと同趣旨の発言が記載されている。
よって、違法性が阻却される。
(被告らの主張)
ア 専ら公益を図る目的がないこと
 本件投稿1ないし3の内容に照らし、原告は、被告らを懲らしめる目的、すなわち報復・攻撃目的をもって投稿を行っているといえ、本件投稿1ないし3に専ら公益を図る目的がないことは明らかである。
イ 真実性の立証がないこと
(ア)本件投稿1−@について
 被告らは、本件未公開動画を限定公開設定にした状態で本件チャンネルにアップロードしているし、令和3年4月20日頃、原告に対し、本件未公開動画のデータをファイル転送サービスである「ギガファイル便」で引き渡しているのであるから、本件未公開動画のデータの引渡しを拒否した事実はない。
 したがって、本件投稿1−@により摘示された事実は真実であるとはいえない。
(イ)本件投稿1−Aについて
 原告は、被告会社が本件チャンネルにつき管理権限を有していることを利用して、被告会社に仕事を回させるという被告らの要求を実現させようとするとの事実について、同事実が真実であると主張するが、争う。
(ウ)本件投稿1−Bについて
 被告会社は、Eに対し、チャンネル運用、企画構成、撮影等を全て込みの対価として動画1本につき10万円を請求したのであって、動画編集のみの対価として10万円を請求したわけではない。これは相場と比較しても安い金額であり、適正価格から大きく外れた金額ではない。
 したがって、本件投稿1−Bにより摘示された事実は真実であるとはいえない。
(エ)本件投稿1−Cについて
 被告会社は原告との間で本件契約書を作成しているし、本件未公開動画のデータの引渡しを拒否していない。また、被告らは、原告に対し、本件チャンネル開設時及び本件契約締結時において、著作権の帰属について、適切に説明をしている。
 したがって、本件投稿1−Cにより摘示された事実は真実であるとはいえない。
(オ)本件投稿3について
 被告会社の動画制作及び編集料金は、競合他社と比較しても安価であるし、他社に劣らない品質のサービスを提供している。
 また、被告会社は、原告に対し、「お前に、肖像権や著作権はない」等という発言をしたことや、命令口調で一方的に「今後は自撮り棒で撮影をするように」等と告げたことは一切ない。
 したがって、本件投稿3により摘示された事実は真実であるとはいえない。
ウ 小括
 以上のことから、原告の真実性の抗弁の主張は認められない。
(8)争点8(被告らの損害の発生及び損害額)について
(被告会社の主張)
 通常人が本件投稿1ないし3を見ると、原告が詐欺案件に強い弁護士として知識と経験を有していると判断するといえ、このような属性を持つ原告による本件投稿1ないし3は、被告会社の社会的評価及び業務上の信用を著しく毀損するものである。
 したがって、被告会社が被った無形損害は多大なもので、これを金銭に換算すると、本件投稿1について50万円を、本件投稿2について20万円を、本件投稿3について40万円を、それぞれ下らない。
 そして、本件訴訟追行のための弁護士費用相当額は11万円というべきである。
 以上によれば、原告は、被告会社に対し、不法行為に基づく損害賠償として、合計121万円の支払義務を負う。
(被告Bの主張)
 被告会社と同様に、本件投稿1及び2により、被告Bもその人格を疑われることになり、同人の社会的評価や名誉感情は著しく毀損された。
 そして、このような状況に陥ったことで、被告Bは、令和3年12月8日頃から酷い腹痛やうつ気味となったりする症状に苦しめられることになった。
 したがって、被告Bが被った精神的苦痛は多大なもので、これを金銭に換算すると、本件投稿1について50万円を、本件投稿2について20万円を、それぞれ下らない。
 また、被告Bは、令和3年12月8日頃から10日頃にかけて苛まれた酷い腹痛により通院することとなり、合計8550円の通院費用を支払ったところ、同通院費用は原告の不法行為と相当因果関係のある損害である。
 さらに、本件訴訟追行のための弁護士費用相当額は7万0855円というべきである。
 以上によれば、原告は、被告Bに対し、不法行為に基づく損害賠償として、合計77万9405円の支払義務を負う。
(原告の主張)
 被告らの主張する事実については不知であり、同法的評価は争う。
 本件グループは、原告の顧問先や友人等を中心として形成されたグループであり、原告の本件投稿1又は2の有無にかかわらず、被告Bが本件グループから除外された時点で、既に被告らが本件グループのメンバーから仕事の依頼を受けることは見込めない状況が確定しているのであり、被告らが被った損害と本件投稿1又は2との間に因果関係はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件アカウントのパスワード変更による権利侵害の成否等)について
(1)本件契約書が真正に成立したといえるか
 原告は、本件契約書の2頁目と3頁目には原告の契印がなく、2頁目と3頁目が被告らにより差し替えられた可能性があるなどと主張し、文書の成立の真正を争う。
 そこで検討すると、まず、前記前提事実(5)のとおり、本件契約書の末尾には、原告の署名押印がある。そして、本件契約書は、1頁から4頁までの全体が同じフォントの同じサイズの文字で記載されており、頁相互の内容に齟齬はなく、各頁に手書きで記載された頁数は、その筆跡からして同一人の手によるものと考えられ、他方で、本件契約書において差替え等がされた形跡はうかがわれないことからすると、一体の文書であると認めるのが相当である。そうすると、本件契約書は、その全体が真正に成立したものと推定することができる。
 これに対し、原告は、本件契約書の2頁目と3頁目には原告の契印がないから、これらは差し替えられた可能性があると主張するが、契印がなかったからといって直ちに文書としての一体性が認められないものではなく、他にその疑いを生じさせる具体的な事情は認められないから、上記推定は覆らないというべきである。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(2)本件契約が無効であるか又は解除によって終了しているか
ア 原告は、本件契約は、原告にとって何らメリットのないものであり、著しく不平等な内容の契約を結ばせる暴利行為に当たるから、無効であると主張するところ、これは、公序良俗違反(民法90条)を主張するものと解される。
 しかし、原告において、本件契約の内容の具体的にどの点が不平等な内容であるかの主張はされていない上、本件契約の内容を見ても、暴利行為として公序良俗に違反するほどの不平等な契約内容は見当たらない。
 よって、この点に関する原告の主張は理由がない。
イ 原告は、被告会社が本件アカウントの管理を全く行っていないから、被告会社の債務不履行を理由として本件契約を解除したなどと主張する。
 しかし、原告のいう「アカウントの管理」とは具体的にどのような管理行為を指すのかは明らかではなく、そのため、被告会社による債務不履行を基礎付ける事実も明らかではないから、主張自体失当であるといわざるを得ない。
 よって、この点に関する原告の主張も理由がない。
(3)本件アカウントのパスワード変更により原告の権利が侵害されたといえるか
 前記前提事実(2)のとおり、本件チャンネルは、被告会社名義の本件アカウントに紐づくものとして被告Bが作成したものであること、前記前提事実(4)のとおり、被告Bが本件アカウントのパスワードを変更するまでの間、本件アカウントにログインし、本件チャンネル上で動画をアップロードしていたのは被告Bであったこと、他方、原告による本件チャンネルの具体的な管理行為があったとはうかがわれないこと、前記前提事実(5)及び前記(1)のとおり、原告は、被告Bが本件アカウントのパスワードを変更した後ではあるが、本件契約書を作成し、被告会社が本件チャンネルを含む本件アカウントの「所有者」であることを確認していることからすると、被告Bが本件アカウントを作成した時点から、本件アカウント及びこれに紐づくチャンネルの管理権限は被告会社にあったと認めるのが相当である。
 そして、本件チャンネルの管理権限が被告会社にある以上、原告が「本件チャンネルを運営し集客する利益及び作成した動画を自由に編集し管理する権利」を有していたとはいい難く、被告らによる本件アカウントのパスワード変更が原告の権利を侵害することにはならない。
 したがって、被告らが本件アカウントのパスワードを変更したことにより、原告の権利が侵害されたとは認められず、よって、この点に係る不法行為は成立しない。
2 争点2(本件各サムネイルの掲載による肖像権侵害の成否等)について前記1(1)のとおり、本件契約書は真正に成立したものと認められるから、原告と被告会社との間において、令和3年11月24日、本件契約が締結されたことが認められる。
 そして、前記前提事実(5)の本件契約書の記載内容に照らせば、原告は、本件契約において、被告会社が、広報・宣伝目的で、そのウェブサイトに原告の制作した動画の実績を掲載することを包括的に許可した(本件契約9条2項)と認められるところ、当該動画の実績の掲載は、被告会社が動画の一部を切り取って作成したサムネイルを掲載することにより行われていたと認められるから(弁論の全趣旨)、本件契約が有効に存続している限り、原告は、本件契約に拘束され、被告会社に本件各サムネイルの掲載の中止を求めることはできないと解するのが相当である。
 これに対し、原告は、本件契約が無効であるか又は解除により終了しているから、被告会社は本件各サムネイルを掲載し続けることはできない旨を主張するものと解されるが、前記1(2)のとおり、本件契約には無効事由がなく、債務不履行に基づく解除も認められないから、原告の同主張は採用することができない。
 したがって、被告らによる原告の肖像権侵害は認められず、この点に係る不法行為は成立しない。
3 争点3(被告会社の本件未公開動画のデータ引渡等義務の存否及び義務違反の有無)について
 原告の主張は、要するに、原告と被告会社との間では、Dが逮捕された時点で被告会社が本件未公開動画を公開する旨合意されていたが、本件アカウントのパスワードが変更された後は、同義務の履行が期待できなくなったことから、被告会社が負う義務の内容は、本件未公開動画のデータを原告に引き渡すことに変化したと主張するものと解される。
 しかし、本件未公開動画に登場するDという人物が逮捕された時点で本件未公開動画を公開する旨の合意については、原告と被告会社との間で、いつ、どのようにされたか明らかではなく、かつ、そのような合意の存在を認めるに足りる証拠はない。
 また、被告会社は、令和3年4月20日頃、原告に本件未公開動画に係るデータを引き渡しており(甲8)、原告は、同データの引渡しを受けた後、被告会社に対し、同データの内容を確認してこれを承諾する旨の連絡をしておらず(争いがない)、被告会社は、同月21日、本件未公開動画を限定公開設定でアップロードしている(前記前提事実(6))。そして、前記前提事実(3)のとおり、被告会社は、原告が出演する動画を撮影し、限定公開設定にしたまま本件チャンネルに動画をアップロードし、原告から編集後の動画を公開する承諾が得られたら、これを公開設定にするという流れで業務を行っていたことを併せ考慮すると、被告会社は、従前の流れに従って、編集内容に対する承諾が得られていないことから本件未公開動画を公開設定にしていないにすぎないと認められる。そうすると、本件未公開動画が公開されていないのは、原告が被告会社に対して上記の承諾を行っていないことが原因であるといわざるを得ない。
 なお、原告は、自己が本件未公開動画のデータをダウンロードしていないから、被告会社が原告に対して本件未公開動画に係るデータを引き渡したことにはならないなど、被告会社に債務不履行がある旨を種々主張するが、上記の説示に照らし、いずれも理由がないというべきである。
 したがって、被告会社において原告主張に係る義務違反があるとは認められない。
4 争点5(本件投稿1−@ないし1−C、本件投稿2及び本件投稿3による名誉棄損の成否)について
 名誉毀損とは、人の品行、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価を低下させる行為であるところ、新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり、このことは、新聞記事等によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても妥当するものというべきであって、名誉棄損の成否が問題となっている部分の前後の文脈や、記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮して判断するのが相当である。(新聞報道に関する最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁、最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。
 本件のように、メッセージアプリLINE上に作成されたグループ内における投稿の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうか及び投稿によって摘示された事実がどのようなものであるかが問題となる事案についても、当該投稿についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準とし、当該投稿の前後の投稿内容や、投稿当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮して判断すべきものである。
(1)本件投稿1−@について
 本件投稿1−@は、「お金を払ったのに、これまで作成した動画のデータ引き渡し拒否」、「YouTube動画編集の引き渡し拒否」というものであるところ、その前後の文脈に照らすと、同投稿の内容は、原告が被告BにYouTubeの動画編集料を支払い、その料金の中にはデータの引渡しに対する対価も含まれていたにもかかわらず、被告Bが編集動画の引渡しを拒否しているとの事実を摘示するものであると認めることができる。
 そして、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、このような事実の摘示は、被告Bが、自らの負う債務は適切に履行しないのに、その対価だけは取得するような人物であるとの印象を与えるといえ、被告Bの社会的評価を低下させるといえる。
 他方で、本件投稿1−@の前後を通じても、被告Bと被告会社との関係は明らかにされておらず、本件グループのメンバーが被告Bと被告会社との関係を知っていたことをうかがわせる証拠もないから、本件投稿1−@により被告会社の社会的評価が低下したとは認められない。
 よって、本件投稿1−@について、被告Bに対する名誉毀損の成立は認められるが、被告会社に対する名誉毀損の成立は認められない。
(2)本件投稿1−Aについて
 本件投稿1−Aは、「チャンネルを人質とし、自分に仕事を回せという脅迫に近い要求。」、「いくら管理しているからってチャンネルを人質に取るのは相手の感情を逆撫でするの逆効果。詐欺師でもこんなことは知ってる。」というものである。そして、本件投稿1−Aの前後の文脈に照らすと、本件投稿1−Aは、被告Bが、本件チャンネルの管理権限を有していることをいいことに、原告に本件チャンネルの管理等をさせることを拒否し、被告Bに動画の編集を依頼せざるを得ない状況を実現しようとしているとの事実を摘示した上、このような行為は違法な脅迫行為に近いものと評価できるとの論評を加えるものであるといえる。
 そして、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿1−Aは、被告Bが、自らの権限を濫用し、相手を脅すようなことをしてでも、仕事を得ようとする人物であるとの印象を与えるものであり、被告Bの社会的評価を低下させるものであるといえる。
 他方で、本件投稿1−Aの前後を通じても、被告Bと被告会社との関係は明らかにされておらず、本件グループのメンバーが被告Bと被告会社との関係を知っていたことをうかがわせる証拠もないから、本件投稿1−Aにより被告会社の社会的評価が低下したとは認められない。
 よって、本件投稿1−Aについて、被告Bに対する名誉毀損の成立は認められるが、被告会社に対する名誉毀損の成立は認められない。
(3)本件投稿1−Bについて
 本件投稿1−Bは、「こいつの動画編集一本10マンやで」、「1本10マンの編集料吹っかけてくる」というものであるところ、同投稿が「吹っかける」との表現を含んでいることに照らすと、単に被告Bの動画編集料が1本10万円であることを摘示するのみならず、同料金が一般的な相場に比して高額なもので、被告Bの提供するサービス内容に相応しないものであるとの事実を摘示するものであるといえる。
 そして、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、このような事実の摘示は、被告Bが、自己の提供するサービスに相応しない高額な料金を請求してくる者であるとの印象を与えるものであり、被告Bの社会的評価を低下させるものである。
 他方で、本件投稿1−Bの前後を通じても、被告Bと被告会社との関係は明らかにされておらず、本件グループのメンバーが被告Bと被告会社との関係を知っていたことをうかがわせる証拠もないから、本件投稿1−Bにより被告会社の社会的評価が低下したとは認められない。
 よって、本件投稿1−Bについて、被告Bに対する名誉毀損の成立は認められるが、被告会社に対する名誉毀損の成立は認められない。
(4)本件投稿1−Cについて
 本件投稿1−Cは、「契約書すらないのに、俺の著作権や肖像権は一切無視」、「契約書はない」、「肖像権の放棄はない」、「契約書がなければ普通に著作権は私ですよ」というものである。
 本件において、上記投稿が、被告Bと原告との間に契約書は存在せず、被告Bから、被告Bに編集を依頼した動画の著作権及び肖像権の帰属についての説明もされなかったとの事実を摘示するものであることは当事者間に争いがない。
 そして、本件投稿1−Cは、その前後の文脈に照らすと、動画の著作権や肖像権の帰属について、契約書もなく、説明もない以上、これらの権利は原告に帰属しているといえ、原告は、同権利の行使として、被告Bに対して動画のデータを引き渡すことを請求できるにもかかわらず、被告Bはその引渡しを拒否しているとの事実を摘示するものであると認められる。
 上記摘示事実における原告の主張に法的な根拠が認められるか否かはさておき、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、このような事実の摘示は、被告Bが、原告が動画の著作権や肖像権を有しているにもかかわらず、その権利を軽視し、動画の引渡しを拒んでいるとの印象を与えるものであり、被告Bの社会的評価を低下させるものである。他方で、本件投稿1−Cの前後を通じても、被告Bと被告会社との関係は明らかにされておらず、本件グループのメンバーが被告Bと被告会社との関係を知っていたことをうかがわせる証拠もないから本件投稿1−Cにより被告会社の社会的評価が低下したとは認められない。
 よって、本件投稿1−Cについて、被告Bに対する名誉毀損の成立は認められるが、被告会社に対する名誉毀損の成立は認められない。
(5)本件投稿2について
 本件投稿2は、前後の文脈に照らし、被告Bを「詐欺師のくそ粘着」と呼称するものであるが、同投稿は、被告らについての事実の摘示を含むものとはいい難いし、何らかの事実に基づいた被告らに対する論評であるともいい難い。
 よって、本件投稿2について、被告らに対する名誉毀損の成立は認められない。
(6)本件投稿3−@について
 本件投稿3−@が、競合他社と比較して、被告会社は、半分以下の品質のサービスしか提供していないにも関わらず、2倍以上の報酬を請求する会社であり、サービスと報酬が釣り合っていないという事実を摘示するものであること、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、このような事実の摘示は、被告会社が質の悪いサービスしか提供せず、他方で、他社の2倍以上の報酬を請求する会社であるとの印象を与えるものであるといえ、本件投稿3−@は、被告会社の社会的評価を低下させるといえる。
 したがって、本件投稿3−@について、被告会社に対する名誉毀損の成立が認められる。
(7)本件投稿3−Aについて
 本件投稿3−Aが、被告会社が、同社と動画編集料に関する値段交渉を行った原告に対し、料金体系について詳しい説明をすることなく、命令口調で一方的に自撮り棒を手渡し、今後は自分自身で撮影をするように告げたという事実を摘示するものであること、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、このような事実の摘示は、被告会社が、料金体系について顧客に十分説明することなく、また顧客に対して命令口調で高圧的な態度をとる会社であるという印象を与えるものであるといえ、本件投稿3−Aは、被告会社の社会的評価を低下させるといえる。
 したがって、本件投稿3−Aについて、被告会社に対する名誉毀損の成立が認められる。
(8)本件投稿3−Bについて
 本件投稿3−Bが、被告会社が顧客に対して「お前」と呼び捨てるなど失礼な態度をとり、そのウェブサイトに顧客の画像を勝手に掲載し、その名刺にも顧客の名前を掲載することで、顧客の肖像権や著作権を侵害しているという事実を摘示するものであること、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、このような事実の摘示は、被告会社が、顧客に対して失礼な態度をとるばかりか、顧客の知的財産権を侵害する行為を繰り返しているかのような印象を与えるものであるといえ、本件投稿3−Bは、被告会社の社会的評価を低下させるといえる。
 したがって、本件投稿3−Bについて、被告会社に対する名誉毀損の成立が認められる。
5 争点6(本件投稿1−D及び1−E並びに本件投稿2による人格的利益侵害の成否)について
 人の名誉感情が侵害されたとしても、これによって直ちに不法行為が成立するものではなく、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて人格的利益の侵害が認められる。そこで、本件投稿1−D及び1−E並びに本件投稿2が社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められるかについて、以下検討する(なお、被告Bは、本件投稿2について、被告らに対する名誉棄損が成立しない場合には予備的に被告Bに対する侮辱の成立を主張するものである。)。
(1)本件投稿1−Dについて
 本件投稿1−Dは、「元Fのメンバー動画編集業者のB氏に対する懲罰の損害賠償を起こすべきか。」、「Bを訴えるかどうか投票しました。」、「とりあえずB氏の意見に反対の方は裁判に投票。そうでない方は裁判しないに投票」というものであるところ、これらの表現は、いずれも被告Bに対する訴訟を提起するべきかどうかというアンケートに回答するよう呼びかけるにすぎないものであり、同表現自体が被告Bの人格を傷つけるような内容を含むものとはいえず、被告Bに対する社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとは認められず、人格的利益の侵害があるとはいえない。
(2)本件投稿1−Eについて
 本件投稿1−Eは、「これやばくない?」、「変なやつと組むとえらいことになるだけ」、「商売が下手だと思う。起業家には向いてない」、「こうも上から目線の業者に依頼する気はなくなりました。」、「商売が下手。これに尽きる。」、「Bさんは商売というものを知らない。」というものであるところ、これらの表現自体は、被告Bの経営者としての仕事の進め方や経験の浅さ等を批評するにとどまるもので、被告Bの人格を攻撃する侮辱的表現であるとはいい難い。そして、被告Bが、会社の経営者であって、会社の経営やその提供するサービスに関して批判を受け得る立場にあり、他方で、原告は、被告Bが代表者を務める被告会社に対し、対価を支払って動画の編集等を依頼したことを考慮すると、これらの表現が社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとは認められず、人格的利益の侵害があるとはいえない。
(3)本件投稿2について
 本件投稿2は、被告Bについて、「詐欺師のくそ粘着」と称するものであるところ、本件投稿2と同じく本件グループに投稿された本件投稿1の内容に照らせば、原告は、被告Bが動画編集料を徴収しているにもかかわらず、自らは動画を引き渡す債務の履行をしないことを具体的根拠とし、被告Bを「詐欺師のくそ粘着」と称しているものと解され、具体性を伴う表現であることから、被告Bの名誉感情を著しく害するものであり、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為というべきである。
 したがって、本件投稿2は、被告Bの人格的利益を侵害するものであるといえ、同投稿内容に照らし、被告Bの人格的利益の侵害につき、原告に故意があったと認められる。
6 争点7(真実性の抗弁の成否)について
 事実を摘示しての名誉毀損の場合、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であるとの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(真実性の抗弁。最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。
 原告は、本件投稿1−@ないし1−Bの摘示事実は真実であり、本件投稿1−C及び本件投稿3には公益目的があり、かつ摘示事実は真実であると主張することから、真実性の抗弁を主張しているものと解される。
 もっとも、本件投稿1−@ないし1−Bについて、原告は、その摘示事実が公共の利害に関する事実に係るものであること及びその目的が専ら公益を図ることにあることの主張をしていないことから、真実性の抗弁の要件を満たさず、原告の主張は失当である。
 そこで、以下、本件投稿1−C及び本件投稿3について、真実性の抗弁が成立するか否かを検討する。
(1)本件投稿1−Cについて
ア 公共の利害に関する事実に係るものであったこと及び目的が専ら公益を図るものであったことについて
 本件投稿1−Cについて、本件全証拠によっても、これにより摘示された事実が公共の利害に関する事実に係るものとは認められず、専ら公益を図る目的があったとも認められない。
 この点に関し、原告は、本件グループにおいては、メンバーを追放した場合、追放理由を必ず開示する慣行となっていたものであり、公益目的が認められるなどと主張するが、本件グループにそのような慣行があった事実は何ら立証されておらず、原告の主張する事実は認められない上、LINE上に作成された私的なグループにおいて、メンバーを追放した理由を明らかにすることが公益を図る目的であったとは認め難いから、本件投稿1−Cに専ら公益目的があったとも認められない。
イ 摘示された事実がその重要な部分において真実であると認められるか本件投稿1−Cは、前記4(4)のとおり、動画の著作権や肖像権の帰属について、契約書もなく説明もないから、これらの権利は原告に帰属しているといえ、同権利の行使として原告は被告Bに動画のデータを引き渡すことを請求することができるにもかかわらず、被告Bはその引渡しを拒否しているとの事実を摘示するものであると認められる。
 そして、弁論の全趣旨によれば、原告が主張するとおり、被告会社が本件アカウントのパスワードを変更した時点において、契約書は作成されていなかったことは真実であると認められるが、それ以外の事実が真実であることを認めるに足りる証拠はない(なお、本件において、被告Bが本件未公開動画のデータの引渡義務に違反していると認められないことは、前記3のとおりである。)。
 よって、本件投稿1−Cにおいて摘示された事実のうち、重要な部分において真実であるとの証明があったとは認められない。
ウ 小括
 よって、本件投稿1−Cについては、摘示された事実が公共の利害に関する事実に係るものであったとは認められず、専ら公益目的に基づいてなされたものとも認められない上、その摘示された事実のうち重要な部分において真実であるとの証明があったとも認められないから、原告の真実性の抗弁の主張は理由がない。
(2)本件投稿3について
ア 公共の利害に関する事実に係るものであったこと及び目的が専ら公益を図るものであったことについて
 本件投稿3については、本件全証拠によっても、これにより摘示された事実が公共の利害に関する事実に係るものであったとは認められず、専ら公益を図る目的があったとも認められない。
イ 摘示された事実がその重要な部分において真実であると認められるか本件投稿3において摘示された事実について、真実性の立証は全くされていない。
 なお、原告は、原告と被告BのLINEでのやり取りの証拠である甲第9号証の13頁目において、被告Bが原告に対して「お前に、肖像権や著作権はない。」という発言をしたことと同趣旨の発言が記載されていると主張するが、同証拠の該当頁にそのような記載は見当たらない。
ウ 小括
 よって、本件投稿3については、摘示された事実が公共の利害に関する事実に係るものであったとは認められず、専ら公益目的に基づいてなされたものとも認められない上、その摘示された事実のうち重要な部分において真実であるとの証明があったとも認められないから、原告の真実性の抗弁の主張は理由がない。
 そして、本件投稿1−@ないし1−C及び本件投稿3の内容に照らせば、原告に、被告Bの名誉権侵害につき故意があったと認められる。
7 争点8(被告らの損害の発生及び損害額)について
(1)被告Bの損害額
 被告Bは、本件投稿1−@ないし1−Cにより、その名誉が毀損され、本件投稿2により、人格的利益を侵害されたと認められる。そして、これらの投稿が、約200人のF内でのみされていること、同投稿は一度の機会のみにおいてされており、執拗に繰り返されたわけではないこと、その表現内容は、具体的な紛争の背景や事実関係を明示しているわけではなく、法的にも正当な内容を述べていると直ちに評価し難いことに照らすと、読者によっては原告の主張が正当であると理解しない者もいると考えられるから、被告Bの社会的評価の低下の程度及び人格的利益侵害の程度は軽微なものにとどまるといえる。
 これらに加え、本件投稿1が一連の投稿としてされていることを考慮すると、被告Bの損害額については、本件投稿1及び本件投稿2のそれぞれにつき5万円と認めるのが相当である。
 そして、原告による名誉毀損と相当因果関係のある弁護士費用相当額は本件投稿1及び本件投稿2のそれぞれにつき1万円と認めるのが相当である。
 なお、被告Bは、原告の本件投稿1及び2により腹痛になり、通院費用を支出せざるを得なかったとして、同通院費用をも名誉毀損による損害として主張するが、被告Bが本件投稿1及び2により腹痛となったことについて相当因果関係を認めるに足りる証拠はないから、同主張に係る請求は理由がない。
以上によれば、被告Bの損害額は合計12万円となる。
(2)被告会社の損害額
 被告会社は、本件投稿3により、その名誉が毀損されたと認められ、同投稿がオンライン上で誰もが閲覧できる状態でされていること、弁護士事務所の弁護士であるとの肩書をつけた上で、実名でされた投稿であること、同投稿内容は、原告と被告会社に属する者との具体的な会話の内容が記載され、読者に現実味のある投稿であると受け取られやすいことなどに照らすと、被告会社の事業に少なからず影響を及ぼした可能性は否定できない。他方で、本件投稿3は一度の機会にのみされたもので、執拗に繰り返されたものではないことなどを考慮すれば、被告会社の損害額は、これを10万円と認めるのが相当である。
 そして、原告による名誉毀損と相当因果関係のある弁護士費用相当額は2万円と認めるのが相当である。
 以上によれば、被告会社の損害額は合計12万円となる。
8 小括
 以上によれば、原告の名誉毀損または人格的利益の侵害(侮辱)と相当因果関係のある損害額は、被告Bにつき12万円、被告会社につき12万円とそれぞれ認められる。
9 結論
 以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、被告らの反訴請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 バヒスバラン薫


(別紙サムネイル目録省略)

(別紙)未公開動画目録
 令和3年4月21日に本件アカウントに限定公開の状態でアップロードされた「詐欺に強い弁護士Aが、取り上げてほしいと問い合わせのあった有名雑誌Gで勧誘を繰り返すDを取り上げてみました!」というタイトル名の動画
 閲覧用URL:https://(以下省略)
 以上

(別紙)投稿目録
1 本件投稿1
「自分の詐欺撲滅活動が金儲けのためだと断じて、さらに、自分の編集した動画の著作権は自分にあるといいだし、@お金を払ったのに、これまで作成した動画のデータ引き渡し拒否
「Eこれやばくない?
「いや、これ裁判していい?」
「Bこいつの動画編集一本10マンやで
「とはいえ一応Fの元メンバーなんで民主的に投票します」
(「@YouTube動画編集の引き渡し拒否したD元Fのメンバー動画編集業者のB氏に対する懲罰の損害賠償を起こすべきか。」というタイトルで、本件グループのメンバーに「速やかな訴訟を」「やめとけ」の2択で投票を求めるフォームを作成)
「著作権や肖像権があるのは俺だろ。編集業者が何で著作権もってんだ!」
「俺が演者としてギャラもらってるのはわかるがこっちは一本3まんはらってる」
「DBを訴えるかどうか投票しました。みなさん参加お願いします。」
「C契約書すらないのに、俺の著作権や肖像権は一切無視
「自分が紹介した古巣のHにすらB1本10マンの編集料吹っかけてくるし、追放してよかったわ。」
「それで著作権まで主張するなんてやりすぎでしよ」
「C契約書はない
「ただ金払ってるのはこちら。素材提供はこちら」
「C肖像権の放棄はない
「DとりあえずB氏の意見に反対の方は裁判に投票。そうでない方は裁判しないに投票
「C契約書がなければ普通に著作権は私ですよ
「逆なんです。素材提供して金払ってるので」
「裁判やって勝てばわかりますよ」
「Aチャンネルを人質とし、自分に仕事を回せという脅迫に近い要求。こんなやつに仕事回すくらいならYouTubeやめますわ」
「いや自分一人でやってれば問題ないですが」
「E変なやつと組むとえらいことになるだけ
「法律論はおいとくとしても、こんなこといわれて気持ちよく依頼者がこの業者に依頼できるだろうか。。。まず断られるのだろう。若い人なんで仕方ないが。E商売が下手だと思う。起業家には向いてない
「実際、チャンネルの著作権とか所有権は自分にあるとか、そんなこといわずにいてくれれば、元々の付き合いがあるのだし十分に話し合いで譲歩する気持ちはあったが、Eこうも上から目線の業者に依頼する気はなくなりました。
「E商売が下手。これに尽きる。自分だったらもっと、上手く相手を宥めて落ち着かせれたかなとは思ってます」
「Aいくら管理しているからってチャンネルを人質に取るのは相手の感情を逆撫でするの逆効果。詐欺師でもこんなことは知ってる。EBさんは商売というものを知らない。
2 本件投稿2
詐欺師のくそ粘着がでたらめこきまくって★1つけまくっていて。。」
「だれか★5つけてくださいますか。ご協力よろしくお願いします(;∀;)」
(第三者の投稿:B氏ですよね、、、Vチューバーのアカウントで。)
「うん、B」
3 本件投稿3
「まず、@サービスは他の業者の半分以下の仕事で倍以上の値段をとるという印象です。
 @別の業者との比較ですが、他の業者だと、値段は半分以下で音質もよく、フルで字を入れてくれます。あきらかに値段とサービスが一致してませんね。
 @1本3万はサービスに見合ってないというと(これでもやすくやってくれているそうな)、A自撮り棒だけわたされて「じゃあ安くやってやるから、今後は編集だけやってやるから自撮りで撮影やれ。今後仕事をこちらに流さなければチャンネルを使わせない。Bなお、お前に肖像権や著作権はない」A等と自撮り棒だけ渡され、途方にくれました。
 編集料150万返してほしいし、Bホームページの今までの実績で掲載している私の画像を消してほしいですね。肖像権侵害ですよ。
 Bまさか、この会社の代表の名刺とかまだ私の名前のっけていませんよね?こちらも著作権無しですか。
 以上
line
 
日本ユニ著作権センター
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