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【事件名】映画「ハレンチ君主いんびな休日」事件(2)
【年月日】令和5年2月7日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10090号 損害賠償等請求控訴事件、令和4年(ネ)第10097号 同附帯控訴事件
 (原審・東京地裁令和2年(ワ)第22324号)
 (口頭弁論終結日 令和4年11月30日)

判決
 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 本件各附帯控訴をいずれも棄却する。
3 控訴人X1と被控訴人らとの間に生じた控訴費用は控訴人X1の負担とし、控訴人X2と被控訴人新潮社との間に生じた控訴費用は控訴人X2の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人新潮社の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1)原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2)被控訴人新潮社は、控訴人らに対し、それぞれ220万円及びこれに対する平成30年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)被控訴人新潮社は、控訴人らに対し、それぞれ77万円及びこれに対する平成30年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(4)被控訴人新潮社は、原判決別紙2記載の謝罪広告を原判決別紙3記載の掲載要領により被控訴人新潮社が発行する「週刊新潮」に1回掲載せよ。
(5)被控訴人新潮社及び被控訴人大蔵映画は、控訴人X1に対し、連帯して220万円及びこれに対する平成30年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)被控訴人大蔵映画及び被控訴人オーピー映画は、控訴人X1に対し、連帯して110万円及びこれに対する平成30年2月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7)被控訴人大蔵映画及び被控訴人オーピー映画は、控訴人X1に対し、連帯して110万円及びこれに対する令和4年3月4日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
(8)控訴人X1と被控訴人オーピー映画との間において、控訴人X1が原判決別紙1記載の映画の著作権を有することを確認する。
(9)訴訟費用は第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
(10)(2)項、(3)項及び(5)項ないし(7)項についての仮執行宣言
2 附帯控訴の趣旨
(1)原判決中、被控訴人新潮社敗訴部分を取り消す。
(2)上記の部分につき、控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3)控訴人らと被控訴人新潮社との間に生じた訴訟費用は、第1、2審とも控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 控訴人X1は、原判決別紙1記載の映画(以下「本件映画」という。)の脚本(以下「本件脚本」という。)を制作し、本件映画の監督を務めるなどした者、控訴人X2は、控訴人X1とともに本件脚本を制作した者、被控訴人新潮社は、平成30年3月1日に発売された週刊新潮2018年3月8日号(以下「本件週刊誌」という。)において、本件脚本の一部(原判決別紙5)を引用した上、原判決別紙4の記事(以下「本件記事」という。)を掲載した者、被控訴人オーピー映画は、控訴人X1から、本件映画の著作権の譲渡を受けた者、被控訴人大蔵映画は、被控訴人オーピー映画から、本件映画の著作権の譲渡を受けた者である。
 本件は、@控訴人らが、本件記事の記載内容は控訴人らの名誉を毀損すると主張し、不法行為に基づく損害賠償として、被控訴人新潮社に対し、それぞれ220万円及びこれに対する不法行為の日(本件週刊誌の発売の日)である平成30年3月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、A控訴人らが、本件脚本を無断で引用することは控訴人らの著作者人格権(公表権)を侵害すると主張し、不法行為に基づく損害賠償として、被控訴人新潮社に対し、それぞれ110万円及びこれに対する不法行為の日(本件週刊誌の発売の日)である平成30年3月1日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、B控訴人らが、本件記事の記載内容は控訴人らの名誉を毀損すると主張し、民法723条に基づいて、被控訴人新潮社に対し、前記第1の1(4)のとおりの謝罪広告の掲載を求め、C控訴人X1が、被控訴人大蔵映画に対する取材に基づいて被控訴人新潮社が掲載した本件記事(控訴人X1の謝罪等に関する部分)は控訴人X1の名誉を毀損すると主張し、共同不法行為に基づく損害賠償として、被控訴人新潮社及び被控訴人大蔵映画に対し、220万円及びこれに対する不法行為の日(本件週刊誌の発売の日)である平成30年3月1日から支払済みまで上記改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、D控訴人X1が、被控訴人大蔵映画及び被控訴人オーピー映画(以下、両被控訴人を併せて「被控訴人大蔵映画ら」という。)は本件映画の公開を中止し、これにより、本件映画が公開され、観客により視聴されることに対する控訴人X1の期待権を侵害したと主張し、共同不法行為に基づく損害賠償として、被控訴人大蔵映画らに対し、110万円及びこれに対する不法行為の日の後(本件映画の公開延期決定の日の翌日)である平成30年2月17日から支払済みまで上記改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、E控訴人X1が、被控訴人大蔵映画らは本件映画に係る完成作品及びその他一切の映像素材のデータ(以下「本件データ等」という。)を廃棄し、これにより、控訴人X1の人格権を侵害したと主張し、共同不法行為に基づく損害賠償として、被控訴人大蔵映画らに対し、110万円及びこれに対する不法行為の日の後である令和4年3月4日(請求の拡張申立書の送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、F控訴人X1が、本件映画の著作権の譲渡契約は被控訴人オーピー映画の債務不履行により解除されたと主張し、被控訴人オーピー映画との間で、控訴人X1が本件映画の著作権を有することの確認を求める事案である。
 原審は、控訴人らの上記Aの請求をそれぞれ33万円及びこれに対する上記の遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余をいずれも棄却し、控訴人ら又は控訴人X1の上記@及びBないしFの請求をいずれも棄却したところ、控訴人ら及び被控訴人新潮社は、いずれも自己の敗訴部分を不服として、それぞれ本件各控訴及び本件各附帯控訴をした。
2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張
 次の点を改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1ないし3に摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決5頁4行目及び5行目の各「本件映画の脚本」をいずれも「本件映画の脚本制作」と改める。
(2)原判決5頁5行目の「映画監督・脚本家であり、」の次に「控訴人X1とともに」を加える。
(3)原判決5頁6行目末尾に「(甲64)」を加える。
(4)原判決6頁5行目の「8」の次に「、12」を加える。
(5)原判決6頁14行目の「その後、被告オーピー映画は」を「被控訴人オーピー映画は、遅くとも平成30年2月16日までに」と改める。
(6)原判決7頁3行目及び6行目の各「王」をいずれも「〈王〉」と改める。
(7)原判決7頁13行目及び16行目の各「。」をいずれも削る。
(8)原判決7頁15行目の「制作サイド」を「製作サイド」と改める。
(9)原判決7頁21行目の「ありません。」を「ありません」と改める。
(10)原判決7頁25行目の「大(蔵の旧字体)側」を「大蔵側」と改める。
(11)原判決8頁7行目の「。」を削る。
(12)原判決8頁21行目の「違法性阻却事由」を「違法性又は故意若しくは過失」と改める。
(13)原判決9頁18行目の「王」を「〈王〉」と改める。
(14)原判決10頁17行目及び11頁24行目の各「実質的違法性」をいずれも「類型的実質的違法性」と改める。
(15)原判決11頁26行目の「対象」を「対象者」と改める。
(16)原判決12頁19行目の「制作サイド」を「製作サイド」と改める。
(17)原判決12頁20行目の「。」を削る。
(18)原判決13頁2行目の「作成された」を「制作された」と改める。
(19)原判決13頁5行目の「ありません。」を「ありません」と改める。
(20)原判決13頁14行目の「皇族には」を「皇族において」と改める。
(21)原判決13頁22行目並びに14頁10行目、16行目及び25行目の各「原告ら」をいずれも「控訴人X1」と改める。
(22)原判決15頁6行目及び10行目の各「作成した」をいずれも「制作した」と改める。
(23)原判決15頁19行目の「原告ら」を「控訴人X1」と改める。
(24)原判決15頁22行目の「(ア)」の次に「本件記載3は、」を加える。
(25)原判決15頁25行目の「作成した」を「本件映画を制作した」と改める。
(26)原判決16頁2行目の「原告ら」を「控訴人X1」と改める。
(27)原判決16頁25行目の「F社長」を「F社長ら」と改める。
(28)原判決17頁7行目から8行目にかけての「従うしかないから、」の次に「控訴人X1が本件映画の公開中止を」を加える。
(29)原判決17頁15行目の「文脈からすれば、」の次に「控訴人X1の謝罪は」を加える。
(30)原判決18頁18行目の「被告大蔵映画ら」を「被控訴人大蔵映画」と改める。
(31)原判決18頁20行目の「被告大蔵映画らは」を「被控訴人大蔵映画は、被控訴人新潮社に対し」と改める。
(32)原判決18頁21行目の「また、」の次に「被控訴人新潮社の」を加える。
(33)原判決18頁23行目の「被告大蔵映画ら」を「被控訴人大蔵映画」と改める。
(34)原判決19頁2行目の「A」から5行目の「採用することとした」までを「Aは、本件映画に係る企画を除くその余の2つの企画については、これを採用できないと判断した上、本件映画に係る企画について、被控訴人大蔵映画らの映像部責任者兼上野オークラ劇場の支配人であるB(以下「B」という。)に相談したところ、Bは、本件映画に係る企画について、控訴人X1が設定の変更に応じることを条件にこれを採用することとした」と改める。
(35)原判決21頁3行目の「作成」を「制作」と改める。
(36)原判決21頁6行目の「違法性阻却事由」を「違法性又は故意若しくは過失」と改める。
(37)原判決21頁8行目から9行目にかけての「違法性が阻却されるため」を「被控訴人新潮社が本件記事を掲載したことについては、違法性が阻却され、又は被控訴人新潮社に故意若しくは過失がないから」と改める。
(38)原判決22頁5行目から6行目までを以下のとおり改める。
 「仮に本件記事の内容が真実でなかったとしても、以下の事情に照らすと、被控訴人新潮社においてこれが真実であると信ずるにつき相当な理由があるというべきである。」
(39)原判決22頁7行目の「C記者」を「C’記者(以下「C記者」という。)」と改める。
(40)原判決22頁9行目、11行目及び13行目の各「B支配人」をいずれも「B」と改める。
(41)原判決22頁17行目の「同人ら」を「B」と改める。
(42)原判決22頁21行目の「D記者」を「D’記者」と改める。
(43)原判決22頁22行目の「E記者」を「E’記者」と改める。
(44)原判決23頁16行目から17行目にかけての「晒らした上で」を「さらした上で」と改める。
(45)原判決24頁2行目の「真実と信ずるにつき」を「被控訴人新潮社においてこれが真実と信ずるにつき」と改める。
(46)原判決24頁18行目の「制作サイド」を「製作サイド」と改める。
(47)原判決24頁18行目から19行目にかけての「言い訳しているそうです。」を「言い訳しているそうです」と改める。
(48)原判決24頁22行目から23行目にかけての「ありません。」を「ありません」と改める。
(49)原判決25頁22行目の「本件映画の脚本」及び25行目の「脚本」並びに26頁15行目の「本件映画」をいずれも「本件脚本」と改める。
(50)原判決26頁11行目の「制作人以外」を「制作陣以外」と改める。
(51)原判決26頁20行目の「本件映画は」を「本件映画については」と改める。
(52)原判決26頁25行目の「原告」を「控訴人ら」と改める。
(53)原判決28頁3行目の「原告X1において」を「控訴人X1により」と改める。
(54)原判決28頁10行目の各「原告ら」をいずれも「控訴人X1」と改める。
(55)原判決28頁12行目の「これによって」から13行目末尾までを削る。
(56)原判決29頁1行目の「被告オーピー映画」の次に「ないし被控訴人大蔵映画」を加える。
(57)原判決30頁5行目の「本件契約」を「本件基本契約」と改める。
(58)原判決30頁7行目の「本件映画」から8行目の「その後、」までを削る。
(59)原判決30頁11行目の「原告ら」を「控訴人X1」と改める。
(60)原判決30頁13行目から14行目にかけての「本件映画に係る著作権譲渡契約」を「本件著作権譲渡契約」と改める。
(61)原判決30頁19行目の「本件映画の著作権譲渡契約を解除しており、」を「本件著作権譲渡契約を解除する。」と改める。
(62)原判決30頁21行目の「被告大蔵映画ら」を「被控訴人オーピー映画」と改める。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件脚本に係る著作者人格権(公表権)の侵害を理由とする控訴人らの請求は、それぞれ33万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がなく、控訴人ら又は控訴人X1のその余の各請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり改め、控訴人らの当審における補充主張に鑑み後記2を付加し、被控訴人新潮社の当審における補充主張に鑑み後記3を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の1ないし12に説示のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決32頁10行目から12行目までを以下のとおり改める。
 「控訴人X1は、平成7年に被控訴人大蔵映画が提供する映画の監督を務めて以来、被控訴人大蔵映画らが提供する映画に関し、約90本の監督を務めてきた。(甲63、乙B9、原審控訴人X1本人)」
(2)原判決32頁13行目の「以下」の次に「、この(2)及び次の(3)において」を加える。
(3)原判決32頁22行目の「国王」を「国の王の話」と改める。
(4)原判決34頁9行目から10行目にかけての「、「国体維持」」を削る。
(5)原判決34頁22行目から25行目までを以下のとおり改める。
 「なお、Aから、控訴人X2に対し、脚本の作成に当たって、誰が見ても昭和天皇を想起しない内容にする必要があることなどを告げることはなかった。(以上につき、甲17、18、63、原審証人A)」
(6)原判決36頁21行目の「甲8」の次に「、12」を加える。
(7)原判決36頁24行目の「終了した。」の次に「なお、これに対し、Aが異議を述べることはなかった。」を加える。
(8)原判決36頁25行目の「以下」の次に「、この(4)並びに次の(5)及び(6)において」を加える。
(9)原判決38頁6行目の「甲59、63」を「甲8、12、59、63、弁論の全趣旨」と改める。
(10)原判決38頁20行目の「53」を「63」と改める。
(11)原判決40頁2行目の「甲61」の次に「、63」を加える。
(12)原判決40頁5行目の「天皇」を「昭和天皇」と改める。
(13)原判決40頁19行目の「霊長類宣言」を「霊長類宣言(ただし、準備稿1では「人間宣言」)」と改める。
(14)原判決41頁7行目の「被告大蔵映画らは、」の次に「同年の」を加える。
(15)原判決41頁13行目の「F」の次に「被控訴人オーピー映画は、同月31日、本件映画の残代金全額を支払っていること、G」を加える。
(16)原判決41頁15行目の「G」を「H」と改める。
(17)原判決41頁15行目から16行目にかけての「2月23日」を「同年2月23日」と改める。
(18)原判決41頁25行目の「天皇」を「昭和天皇」と改める。
(19)原判決42頁1行目の「被告ら」から3行目の「すぎず」までを「被控訴人大蔵映画らの主張は、本件映画の公開延期ないし公開中止の責任を一方的に控訴人X1に押し付けるための後付けのものにすぎず」と改める。
(20)原判決42頁5行目から16行目までを削る。
(21)原判決42頁17行目の「(イ)」を「イ(ア)」と改める。
(22)原判決42頁18行目の「一旦制作された」を「脚本の制作段階に入った」と改める。
(23)原判決43頁4行目の「(ウ)」を「(イ)」と改める。
(24)原判決43頁12行目の「協議をしていたというは」を「協議をしていたというのはと改める。
(25)原判決43頁15行目の「提出証拠」を「本件全証拠」と改める。
(26)原判決44頁24行目の「最高裁」から25行目の「参照」までを「前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照」と改める。
(27)原判決45頁4行目及び6行目の各「王」をいずれも「〈王〉」と改める。
(28)原判決45頁12行目の「。」を削る。
(29)原判決45頁17行目から18行目にかけて及び46頁8行目から9行目にかけての各「社会的に許されるものではない旨」をいずれも「社会的に許されないとされるおそれがある旨」と改める。
(30)原判決46頁10行目から11行目にかけての「社会的に許されないような映画」を「社会的に許されないとされるおそれがある映画」と改める。
(31)原判決47頁3行目から4行目にかけての「本件映画」から5行目の「ものであるから」までを「本件映画を制作すること自体、社会的に許されないとされるおそれがある旨の意見ないし論評を表明することにより、本件映画を制作した控訴人らの資質等に問題があるとの印象を与えるものであるから」と改める。
(32)原判決47頁11行目の「提出証拠」を「本件全証拠」と改める。
(33)原判決47頁13行目の「違法性阻却事由の有無」を「違法性の有無(争点2)」と改める。
(34)原判決47頁15行目冒頭に「(ア)」を加える。
(35)原判決47頁16行目及び22行目の各「上映中止」をいずれも「公開延期」と改める。
(36)原判決47頁20行目の「社会的に許されるものではない旨」を「社会的に許されないとされるおそれがある旨」と改める。
(37)原判決48頁1行目の「イ」を「(イ)」と改める。
(38)原判決48頁2行目の「(ア)」を「a」と改める。
(39)原判決48頁2行目から3行目にかけての「原告X1」を「控訴人ら」と改める。
(40)原判決48頁5行目から6行目にかけての「上映中止」を「公開延期」と改める。
(41)原判決48頁9行目の「(イ)」を「b」と改める。
(42)原判決48頁15行目の「本件映画」から18行目末尾までを「本件記事には、本件映画の監督や脚本を担当した控訴人ら個人を殊更攻撃したり、本件映画を公開させないようにしたりするなどの記載はみられない。したがって、控訴人らの主張を採用することはできない。」と改める。
(43)原判決48頁19行目の「(ウ)」を「c」と改める。
(44)原判決48頁22行目から23行目にかけての「しかしながら」から26行目の「至らない。」までを「しかしながら、被控訴人新潮社に、本件記事によって週刊誌の売上げを増加させ、これにより経済的利益を図る目的があったとしても、上記説示したところに加え、映画の公開が延期されるという問題は、社会の関心が高く、表現の自由にも関わるものであることにも照らすと、被控訴人新潮社が上記のような目的を有していたとの事情は、本件記載1を含む本件記事が専ら公益を図る目的で掲載されたとの上記判断を左右するものではない。」と改める。
(45)原判決49頁1行目の「(3)」を「イ」と改める。
(46)原判決49頁2行目の「ア」を「(ア)」と改める。
(47)原判決49頁4行目の「脚本」を「企画書」と改める。
(48)原判決49頁11行目の「一人称は「朕」であること」を「一人称が「朕」とされている箇所が多数見られること」と改める。
(49)原判決50頁1行目の「イ」を「(イ)」と改める。
(50)原判決50頁3行目の「昭和天皇をモデルにしたものであること」を「昭和天皇をモデルにしたものであると一般に受け止められること」と改める。
(51)原判決50頁5行目の「68」を「4、6、7、48の2、甲68」と改める。
(52)原判決50頁10行目の「ウ」を「(ウ)」と改める。
(53)原判決50頁12行目を以下のとおり改める。
「ウ 意見ないし論評としての域を逸脱したものであるか」
(54)原判決50頁14行目の「社会的に許されるものではない旨」を「社会的に許されないとされるおそれがある旨」と改める。
(55)原判決50頁19行目の「(5)」を「エ」と改める。
(56)原判決50頁22行目から23行目までを以下のとおり改める。
 「4 本件記載2について(名誉毀損の成否(争点1−2))」
(57)原判決50頁24行目の「ア」を「(1)」と改める。
(58)原判決50頁25行目の「制作サイド」を「製作サイド」と改める。
(59)原判決50頁26行目の「。」を削る。
(60)原判決51頁4行目の「ありません。」を「ありません」と改める。
(61)原判決51頁10行目の「イ」を「(2)」と改める。
(62)原判決51頁17行目の「ウ」を「(3)」と改める。
(63)原判決51頁18行目の「(ア)」を「ア」と改める。
(64)原判決51頁26行目の「(イ)」を「イ」と改める。
(65)原判決52頁4行目の「取材をした側」を「本件映画が不敬な映画であるとの立場に立つ被控訴人新潮社の側」と改める。
(66)原判決52頁10行目の「(ウ)」を「ウ」と改める。
(67)原判決52頁10行目の「提出証拠」を「本件全証拠」と改める。
(68)原判決52頁13行目の「エ」を「(4)」と改める。
(69)原判決52頁15行目から16行目までを以下のとおり改める。
 「5 本件記載3について(名誉毀損の成否(争点1−3)及び違法性又は故意若しくは過失の有無(争点2))」
(70)原判決52頁17行目の「ア」を「(1)」と改める。
(71)原判決52頁19行目の「大蔵側」を「被控訴人大蔵映画側」と改める。
(72)原判決52頁26行目の「作成した」を「制作した」と改める。
(73)原判決53頁2行目の「イ」を「(2)」と改める。
(74)原判決53頁4行目及び22行目の各「制作過程や」の次にいずれも「これに関する」を加える。
(75)原判決53頁9行目の「しかも」の次に「、本件記載3は、公開直前に公開延期とされた本件映画の制作過程に関するものであるところ、前記3(2)アにおいて説示したところに照らすと、本件記載3を含む本件記事の掲載は、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったということができる。また」を加える。
(76)原判決53頁9行目の「被告」を「被控訴人新潮社」と改める。
(77)原判決53頁10行目の「オークラ劇場」を「上野オークラ劇場」と改める。
(78)原判決53頁13行目の「違法性がなく、」の次に「又は被控訴人新潮社において」を加える。
(79)原判決53頁14行目から15行目にかけての「故意又は過失」を「故意若しくは過失」と改める。
(80)原判決53頁15行目の「上記結論」を「本件記載3を含む本件記事の掲載が不法行為を構成しないとの結論」と改める。
(81)原判決53頁17行目の「ウ」を「(3)」と改める。
(82)原判決53頁18行目の「(ア)」を「ア」と改める。
(83)原判決53頁19行目の「作成した」を「制作した」と改める。
(84)原判決54頁2行目の「(イ)」を「イ」と改める。
(85)原判決54頁2行目の「提出証拠」を「本件全証拠」と改める。
(86)原判決54頁5行目の「エ」を「(4)」と改める。
(87)原判決54頁5行目の「名誉毀損」を「不法行為」と改める。
(88)原判決54頁7行目から8行目までを以下のとおり改める。
 「6 本件記載4について(名誉毀損の成否(争点1−4)及び違法性又は故意若しくは過失の有無(争点2))」
(89)原判決54頁9行目の「ア」を「(1)」と改める。
(90)原判決54頁14行目から15行目にかけての「謝罪しているそうです。」を「謝罪しているそうです」と改める。
(91)原判決54頁21行目の「イ」を「(2)」と改める。
(92)原判決54頁23行目の「原告X1」から24行目の「対するものであるから」までを「控訴人X1が主張するような控訴人X1が作品に対して真摯でないという印象を読者に与えるものでもないから」と改める。
(93)原判決55頁1行目の「のみならず」の次に「、本件記載4は、公開直前に公開延期とされた本件映画に対する制作側(控訴人X1)の対応に関するものであるところ、前記3(2)アにおいて説示したところに照らすと、本件記載4を含む本件記事の掲載は、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったということができる。また」を加える。
(94)原判決55頁1行目の「被告」を「被控訴人新潮社」と改める。
(95)原判決55頁9行目の「違法性がなく、」の次に「又は被控訴人新潮社において」を加える。
(96)原判決55頁10行目から11行目にかけての「故意又は過失」を「故意若しくは過失」と改める。
(97)原判決55頁11行目の「上記結論」を「本件記載4を含む本件記事の掲載が不法行為を構成しないとの結論」と改める。
(98)原判決55頁13行目の「ウ」を「(3)」と改める。
(99)原判決55頁14行目の「(ア)」を「ア」と改める。
(100)原判決55頁18行目の「しかしながら」の次に「、上記のとおり、本件記載4は、被控訴人大蔵映画の社長が劇場支配人から電話で聞き取った事実を摘示するものにすぎず、控訴人X1が本件映画の公開延期につき安易に謝罪をしたものと断定するものではない。また」を加える。
(101)原判決55頁26行目の「(イ)」を「イ」と改める。
(102)原判決55頁26行目の「提出証拠」を「本件全証拠」と改める。
(103)原判決56頁3行目の「エ」を「(4)」と改める。
(104)原判決56頁3行目の「名誉毀損」を「不法行為」と改める。
(105)原判決56頁6行目の「名誉毀損」を「控訴人ら又は控訴人X1に対する不法行為」と改める。
(106)原判決56頁10行目の「本件脚本の著作権を有していたとしても」を「本件脚本につき著作者人格権を有していたとしても」と改める。
(107)原判決56頁11行目の「試写会」を「本件試写会」と改める。
(108)原判決56頁14行目の「著作権法4条3項」から20行目の「他方、」までを削る。
(109)原判決56頁26行目の「上記各規定」を「上記規定」と改める。
(110)原判決57頁24行目及び58頁5行目の各「原告X1」をいずれも「控訴人ら」と改める。
(111)原判決58頁7行目の「超えて、」の次に「控訴人らにおいて」を加える。
(112)原判決58頁10行目から12行目までを以下のとおり改める。
 「ウ その他、被控訴人新潮社の主張及び本件全証拠を検討しても、被控訴人新潮社の主張は、前記認定事実に照らし、本件脚本の本件週刊誌への掲載(引用)が本件脚本に係る控訴人らの著作者人格権(公表権)を侵害するとの前記結論を左右するものではない。」
(113)原判決58頁15行目の「原告ら」を「控訴人X1」と改める。
(114)原判決58頁17行目の「被告オーピー映画」から19行目の「認められる」までを「被控訴人オーピー映画は、合計207万3000円を支払って、控訴人X1から、本件映画を買い取るとともに、本件映画に係る著作権を譲り受けたものである」と改める。
(115)原判決58頁20行目の「207万3000円で」を「被控訴人オーピー映画に」と改める。
(116)原判決59頁5行目から12行目までを以下のとおり改める。
 「 しかしながら、本件データ等は、本件映画に係る完成作品及びその他一切の映像素材のデータであり、その内容に照らすと、本件データ等の中には、著作物たる本件映画の全部又は一部を構成するものも含まれると認められる。そして、本件映画の全部又は一部を構成する本件データ等についてみると、前記前提事実のとおり、控訴人X1は、本件映画と共にその著作権を被控訴人オーピー映画に譲渡している以上、もはや本件映画を利用する権利を有しておらず、加えて、被控訴人大蔵映画らが私企業であり、上映すべき映画、保存すべき映画等についての選択の自由を有しているものと解されることにも照らすと、被控訴人大蔵映画らが本件映画の全部又は一部を構成する本件データ等を廃棄したとしても、控訴人X1が本件映画の著作権に優先する人格権その他の法律上保護される権利ないし利益を有しているとはいえず、当該廃棄によりこれが侵害されるということにはならない。また、前記前提事実によると、控訴人X1が被控訴人オーピー映画に対して本件映画を譲渡した結果、本件データ等に係る所有権その他の権利は、被控訴人オーピー映画に原始的に帰属することになるのであり、加えて、被控訴人大蔵映画らが上記の選択の自由を有しているものと解されることも併せ考慮すると、この点からも、控訴人X1が本件データ等に係る所有権その他の権利に優先する人格権その他の法律上保護される権利ないし利益を有しているとはいえず、被控蔵映画らが本件データ等を廃棄したことによりこれが侵害されるということにはならない。」
(117)原判決59頁21行目から22行目にかけての「207万3000円で」を「被控訴人オーピー映画に」と改める。
(118)原判決60頁14行目の「請求」の次に「(名誉毀損を理由とするものを除く。)」を加える。
2 控訴人らの当審における補充主張について
(1)控訴人らは、本件記載1、3及び4に関し、本件映画は成人映画であり、上映される映画館も限定され、社会的にほとんど注目されることがなかったから、本件映画の公開につき社会の関心が高いとはいえず、したがって、本件記事の掲載は公共の利害に関する事実に係るものではないと主張する。
 確かに、補正して引用する原判決第3の3(2)イ(イ)のとおり、本件映画は、R18指定がされた成人向け映画であり、また、その性質上、上映される映画館も限定されていたものと認められるが、そうであるからといって、本件映画が18歳以上の者一般に対して広く視聴の機会が与えられるものであったことに変わりはないし、また、補正して引用する原判決第3の3(2)ア(ア)のとおり、およそ公開が予定されていた映画の公開がその直前になって延期されることは、社会的に異例の事態であって、本件映画自体に関心がある者であるか、そうでない者であるかに関わりなく、社会一般の関心が高い出来事であるといえる。
 そうすると、本件記載1、3及び4を含む本件記事の掲載は、公共の利害に関する事実に係るものであると評価するのが相当である。
 以上のとおりであるから、控訴人らの上記主張を採用することはできない。
 なお、控訴人らは、他人の社会的評価を低下させる行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったというためには、摘示された事実等が国、地方公共団体等の統治の過程に関わる国民の正当な関心事ないし国民が知る権利を持つ事実である場合に限られると主張するが、独自の見解であり、採用の限りでない。
(2)控訴人らは、本件記載1における意見ないし論評が前提としている事実の真実性に関し、本件映画が昭和天皇をモデルとしたピンク映画であるという漠然とした事実が真実であるというだけでは足りず、昭和天皇を侮辱するような内容の不敬映画であることを基礎付ける具体的な事実が真実であることを要すると主張する。
 しかしながら、補正して引用する原判決第3の3(1)アのとおり、被控訴人新潮社は、本件記載1において、要するに、事実としては、本件映画が昭和天皇をモデルとしたピンク映画であることのみを摘示した上、意見ないし論評として、本件映画が不敬映画であり、そのような本件映画を制作すること自体、社会的に許されないとされるおそれがある旨を表明しているにすぎないから(過去に不敬映画と評された例や民族派右翼の重鎮の発言は、当該意見ないし論評の正当性を補強する材料として引用されているものである。)、そのような本件記載1についてみると、意見ないし論評が前提としている事実は、本件映画が昭和天皇をモデルとしたピンク映画であるとの事実であり、それに尽きるといわざるを得ない。そして、当該事実の重要な部分が真実であることは、補正して引用する原判決第3の3(2)イのとおりであるから(なお、控訴人らは、本件映画が昭和天皇をモデルにしているとは言い切れないと主張するが、補正して引用する原判決第3の3(2)イにおいて説示したとおりであり、採用することができない。)、本件記載1における意見ないし論評が前提としている事実は、その重要な部分について真実であるというべきである。
 したがって、本件記載1における意見ないし論評が前提としていない事実についてまで、その真実性が必要であるとする控訴人らの上記主張は、採用することができない。
(3)控訴人らは、本件記載1に関し、@本件週刊誌の読者等は、本件映画の内容につき広く情報が与えられておらず、本件映画が不敬映画であるとの評価が適切なものであるか否かにつき判断することができないし、控訴人らも、本件映画の内容に依拠しつつ本件記載1の不当性を訴えることができない、A被控訴人新潮社は、本件週刊誌、その広告及びラジオ番組により、本件映画が不敬映画であるとの言論を著しく拡大したのに対し、控訴人らの対抗言論が大きな広がりを見せる可能性は低いとして、本件記載1を含む本件記事の掲載は控訴人らに対する人身攻撃に当たり、意見ないし論評としての域を逸脱したものであると主張する。
 しかしながら、補正して引用する原判決第3の3(2)ウのとおり、本件記載1には、本件映画が不敬映画であって、そのような本件映画を制作すること自体、社会的に許されないとされるおそれがある旨の意見ないし論評が表明されているものの、本件映画の脚本を制作し、監督を務めた控訴人X1個人又は本件映画の脚本を制作した控訴人X2個人を殊更に攻撃するような表現は認められない。控訴人らは、上記@及びAの事情を指摘するが、これらを考慮に入れたとしても、本件記載1に控訴人ら個人を殊更に攻撃するような表現が認められないとの結論に影響を及ぼすものではない。
 したがって、本件記載1を含む本件記事の掲載は、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえないから、控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(4)控訴人X1は、本件記載2に関し、@「“思想的な意図は全くなかった”と言い訳している」との記載及びA「「自分のほうからは話すことはありません」と言うのみだった」との記載は、控訴人X1において本件映画が本来制作してはいけないものであることを十分に自覚していたとの印象を読者に与えるものであるから、本件記載2は控訴人X1の社会的評価を低下させると主張する。
 しかしながら、上記@の記載は、控訴人X1が言い訳をしているとの表現を含むものではあるものの、補正して引用する原判決第3の4(3)イのとおり、これは、本件映画が不敬な映画であるとの立場に立つ被控訴人新潮社の側の受け止めをいうものにすぎず、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すると、このような表現をもって、控訴人X1において本件映画が本来制作してはいけないものであることを十分に自覚していたと理解されるものとはいえない。また、上記Aの記載も、補正して引用する原判決第3の4(1)のとおり、単に控訴人X1がコメントを控えたとの事実を摘示するものにすぎず、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すると、このような表現をもって、控訴人X1において本件映画が本来制作してはいけないものであることを十分に自覚していたと理解されるものとはいえない。
 以上のとおりであるから、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。
(5)控訴人X1は、本件記載3には控訴人X1が被控訴人大蔵映画らの確認を得ながら本件映画の制作を行ったとの具体的事実が一切含まれていないから、本件記載3は読者をして控訴人X1が発注側の注文内容どおりの映画の制作を行ってその対価を受け取るという一般的な社会人としての適格性を欠くものと理解させ、また、控訴人X1が被控訴人大蔵映画らの反対を押し切り、独断で本来制作してはいけない映画を制作したものと理解させ、控訴人X1の映画監督としての悪質性を強調して伝えるものであり、よって、本件記載3は控訴人X1の社会的評価を低下させると主張する。
 しかしながら、補正して引用する原判決第3の5(2)及び(3)アのとおり、本件記載3は、「業界関係者の話」として被控訴人新潮社の担当記者が第三者から聞いた話をそのように断って伝えるものにすぎず、もとより当該話の内容が真実であると断言するものではないし、「業界関係者の話」と離れて、本件映画の制作過程やこれに関する控訴人X1と被控訴人大蔵映画らとの間の具体的なやり取りを事実として摘示するものでもない。したがって、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すると、このような内容の本件記載3のみをもって、控訴人X1が被控訴人大蔵映画らからの注文内容どおりの映画を制作しなかったものと理解されたり、控訴人X1が被控訴人大蔵映画らの反対を押し切って独断で本来制作してはいけない映画を制作したものと理解されたりするということはできない(これは、本件記載3に、補正して引用する原判決第3の1(3)のとおり、控訴人X1が被控訴人大蔵映画らの担当者であったAらの確認を得ながら本件映画の制作を行ったとの具体的事実が含まれていないことにより左右されるものではない。)。
 以上のとおりであるから、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。
(6)控訴人X1は、本件記載3に関し、控訴人X1は本件映画の制作過程において被控訴人大蔵映画らの確認を得ていたから、本件記載3が摘示する事実は真実に反すると主張する。
 しかしながら、本件記載3が摘示するのは、控訴人X1が被控訴人大蔵映画らの指示等に反して本件映画を制作したなどの事実ではなく、被控訴人新潮社の担当記者が本件記載3にあるような話を業界関係者から聞いたという事実であるから、控訴人X1の上記主張は、本件記載3が摘示する事実の内容を誤るものである(なお、被控訴人新潮社の担当記者が本件記載3にあるような話を業界関係者(上野オークラ劇場の支配人であるB)から聞いたとの事実が真実であることは、補正して引用する原判決第3の5(2)のとおりである。)。
 したがって、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。
(7)控訴人X1は、本件記載3に関し、@本件映画の制作過程につき被控訴人新潮社の担当記者が取材を行ったのは、上野オークラ劇場の支配人であるBのみであるところ、Bは、本件映画の制作や公開延期又は公開中止に係る一方当事者にすぎず、本件映画の制作過程につき控訴人X1と認識を異にすることは容易に考えられる、A被控訴人新潮社は、被控訴人大蔵映画らが本件映画の内容を十分に了承しながら本件映画の公開準備を進めていたことを認識していたとして、被控訴人新潮社がBの供述のみに基づいて本件記載3の摘示事実が真実であると信じたのであれば、そのように信じたことについて相当の理由はないと主張する。
 しかしながら、控訴人X1の上記主張は、本件記載3が、控訴人X1が被控訴人大蔵映画らの指示等に反して本件映画を制作したなどの事実を摘示していることを前提とするものと解されるところ、前記(6)において説示したとおり、本件記載3が摘示するのは、そのような事実ではなく、被控訴人新潮社の担当記者が本件記載3にあるような話を業界関係者から聞いたという事実であるから、控訴人X1の上記主張は、本件記載3が摘示する事実の内容を誤るものである(なお、被控訴人新潮社において、その担当記者が本件記載3にあるような話を業界関係者(B)から聞いたとの事実が真実であると信じたことに相当の理由があるといえることは、補正して引用する原判決第3の5(2)のとおりである。)。
 したがって、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。
(8)控訴人X1は、本件記載4により、控訴人X1において本件映画が本来制作してはいけない映画又は公開されてはいけない映画であることを自認したものと理解され、また、控訴人X1が謝罪しなければならないことをしたと理解されるから、本件記載4は控訴人X1の社会的評価を低下させると主張する。
 しかしながら、補正して引用する原判決第3の6(2)のとおり、本件記載4は、要するに、F社長がBと電話で話したとの事実及び被控訴人新潮社の担当記者がF社長から聞いた話をそのように断って伝えるものにすぎず、もとより当該話の内容が真実であると断言するものではないし、F社長の話と離れて、本件映画の公開延期につき控訴人X1が了承しているとの事実又は控訴人X1が謝罪しているとの事実を摘示するものでもない。したがって、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すると、このような内容の本件記載4のみをもって、控訴人X1において本件映画が本来制作してはいけない映画又は公開されてはいけない映画であることを自認したものと理解されたり、控訴人X1が謝罪しなければならないことをしたものと理解されたりするということはできない。
 以上のとおりであるから、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。
(9)控訴人X1は、本件記載4に関し、本件映画は被控訴人大蔵映画らの了承の上で制作されたものであり、本件映画を公開延期としたのは被控訴人大蔵映画らの独断によるものであるし、また、控訴人X1は「申し訳なかった」などの発言をしていないから、本件記載4が摘示する事実は真実に反すると主張する。
 しかしながら、本件記載4が摘示するのは、控訴人X1が被控訴人大蔵映画らの指示等に反して本件映画を制作したなどの事実及び控訴人X1が「申し訳なかった」などと述べたとの事実ではなく、要するに、被控訴人新潮社の担当記者が本件記載4にあるような話をF社長から聞いたという事実であるから、控訴人X1の上記主張は、本件記載4が摘示する事実の内容を誤るものである(なお、被控訴人新潮社の担当記者が本件記載4にあるような話をF社長から聞いたとの事実が真実であることは、補正して引用する原判決第3の6(2)のとおりである。)。
 したがって、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。
(10)控訴人X1は、本件記載4に関し、Bは本件映画の制作や公開延期又は公開中止に係る一方当事者にすぎず、本件映画の公開延期の理由や控訴人X1の謝罪の有無につき控訴人X1と認識を異にすることは容易に考えられるから、被控訴人新潮社がF社長を介して得たBの供述のみに基づいて本件記載4の摘示事実が真実であると信じたのであれば、そのように信じたことについて相当の理由はないと主張する。
 しかしながら、控訴人X1の上記主張は、本件記載4が、本件映画を公開延期にしたのは被控訴人大蔵映画らの独断によるものであるとの事実及び控訴人X1が謝罪をしたとの事実を摘示していることを前提とするものと解されるところ、前記(9)において説示したとおり、本件記載4が摘示するのは、そのような事実ではなく、要するに、被控訴人新潮社の担当記者が本件記載4にあるような話をF社長から聞いたという事実であるから、控訴人X1の上記主張は、本件記載4が摘示する事実の内容を誤るものである(なお、被控訴人新潮社において。その担当記者が本件記載4にあるような話をF社長から聞いたとの事実が真実であると信じたことに相当の理由があるといえることは、補正して引用する原判決第3の6(2)のとおりである。)。
 したがって、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。
(11)控訴人X1は、控訴人X1と被控訴人オーピー映画との間には映像作品の公開を前提とした本件基本契約が締結されており、本件映画も公開を前提として制作の委託や完成作品の買取りがされたことからすると、控訴人X1は自身が監督を務めて制作された本件映画が公開され、観客によって視聴されることにつき合理的な期待を有しているところ、上記の事情に加え、表現の自由が基本的人権として保障されていることに鑑みると、上記期待は法的保護に値する人格的権利ないし利益であると主張する。
 確かに、本件基本契約の内容(補正して引用する原判決第2の1(2))や取引通念に照らすと、被控訴人オーピー映画は、控訴人X1との間で、控訴人X1が制作した映画を公開することを予定して、その買取りに係る本件基本契約を締結し、本件映画も、そのような本件基本契約に基づき、公開を予定して、被控訴人オーピー映画が控訴人X1から買い取ったものと認められるから、控訴人X1において、本件映画が公開されるとの期待を抱くのは、無理からぬところである。
 しかしながら、映画を公開するか否かの決定権は、著作権に含まれる権利(上映権)として著作権者が専有するものであるし、取引通念に照らしても、映画を制作した映画監督等から当該映画やその著作権を買い取った映画会社等は、当該映画を公開するのが当然であるとまでいうことはできない。被控訴人オーピー映画が本件映画の公開を予定して控訴人X1から本件映画を買い取ったなどの控訴人X1が主張する事情を考慮しても、本件映画と共にその著作権を被控訴人オーピー映画に譲渡した控訴人X1が抱いたであろう上記の期待は、いまだ事実上のものであるといわざるを得ず、これが法的に保護された権利ないし利益であるということはできない。
 以上のとおりであるから、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。
(12)控訴人X1は、控訴人X1と被控訴人オーピー映画との間には映像作品の公開を前提とした本件基本契約が締結されており、本件映画も公開を前提として制作の委託や完成作品の買取りがされたことからすると、控訴人X1は自身が監督を務めて制作された本件映画が公開され、観客によって視聴されることにつき法的保護に値する合理的な期待を有しているといえるから、被控訴人オーピー映画は本件映画の公開延期や公開中止を決定するに当たっては、少なくとも控訴人X1に対して十分な説明を行うとともに、控訴人X1との間で十分な協議を尽くすべき信義則上の義務を負っていたと主張する。
 しかしながら、前記(11)において説示したとおり、映画を公開するか否かの決定権は、著作権に含まれる権利(上映権)として著作権者が専有するものであり、取引通念に照らしても、映画を制作した映画監督等から当該映画やその著作権を買い取った映画会社等は、当該映画を公開するのが当然であるとまではいえないし、また、本件基本契約(甲3)の内容をみても、被控訴人オーピー映画において控訴人X1が主張するような信義則上の義務を負っていたものと認めることはできず、その他、本件全証拠によっても、被控訴人オーピー映画において控訴人X1が主張するような信義則上の義務を負っていたものと認めることはできない。なお、本件映画が公開されることにつき、控訴人X1が法的に保護された権利ないし利益を有していたといえないことは、前記(11)のとおりである。したがって、被控訴人オーピー映画が本件映画の公開を予定して控訴人X1から本件映画を買い取ったなどの控訴人X1が主張する事情を考慮しても、被控訴人オーピー映画において控訴人X1が主張するような信義則上の義務を負っていたということはできない。
 以上のとおりであるから、控訴人X1の上記主張を採用することはできない。
3 被控訴人新潮社の当審における補充主張について
(1)被控訴人新潮社は、@本件試写会には、被控訴人大蔵映画の社員に限定されない15名程度の者が参加し、その中には、本件映画の宣伝等を行うであろう映画評論家らも含まれていたこと、A控訴人らが本件映画の公開を積極的に欲していたこと、B本件映画の一般公開に向け、チラシ、パンフレット、予告編等が制作され、配布・配信されていたことなどの事情に照らすと、本件試写会をもって、本件脚本は公衆(特定かつ多数の者)に提示されたものと評価できると主張する。
 しかしながら、上記@の点についてみるに、補正して引用する原判決第3の1(4)キにおいて認定したとおり、本件試写会は、映倫の審査のための試写と被控訴人大蔵映画の社内試写(公開前に、社内の劇場関係者や営業関係者に向けて内容を確認してもらうための試写)を兼ねていたところ、本件試写会に出席した映倫の審査員及びその余の14名のうち9名は、B、A、G等の被控訴人大蔵映画の社員であり、評論家、ライター、スチールマン等の外部の者は、僅か4名にすぎなかったのであるし、これら4名も、控訴人X1の知り合い等であったのであるから、仮に、当該評論家やライターにおいて、本件映画について評論を書くなどの予定があったとしても、上記の者らが参加したにすぎない本件試写会において本件映画が上映されたことをもって、本件脚本が特定かつ多数の者である公衆に提示されたものと評価することはできない。なお、上記のとおりの本件試写会の性質、参加者等に照らすと、被控訴人新潮社が主張する上記A及びBの事情は、本件試写会において本件脚本が公衆に提示されたものと評価することはできないとの上記結論を左右するものではない。
 以上のとおりであるから、被控訴人新潮社の上記主張を採用することはできない。
(2)被控訴人新潮社は、本件記事の掲載は時事の事件(本件映画の公開中止)の報道に該当するところ、本件脚本は、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られる著作物であり、被控訴人新潮社は報道の目的上正当な範囲内において本件脚本を引用しているのであるから、本件記事の掲載による本件脚本の引用(公表)は著作権法41条に基づいて許されると主張する。
 しかしながら、著作権法41条は、著作権の制限に関する規定(同法第2章第3節第5款)であり、現に、同法50条は、「この款の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。」と定めるところであるから、本件脚本が報道の目的で利用される場合であっても、本件脚本に係る控訴人らの公表権が制限されると解することはできない。したがって、仮に、本件記事の掲載が時事の事件の報道に該当し、本件脚本が当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られる著作物であり、かつ、本件週刊誌において、本件脚本が報道の目的上正当な範囲内で利用されたものであったとしても、本件脚本を控訴人らに無断で本件週刊誌に掲載する行為は、本件脚本に係る控訴人らの公表権を侵害するものである。
 以上のとおりであるから、被控訴人新潮社の上記主張を採用することはできない。
4 結論
 よって、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり、本件各控訴及び本件各附帯控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 浅井憲
 裁判官 中島朋宏


(別紙)当事者目録
控訴人兼附帯被控訴人 X1(以下「控訴人X1」という。)
控訴人兼附帯被控訴人 X2(以下「控訴人X2」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 長尾宜行
同 小口明菜
同 青龍美和子
被控訴人兼附帯控訴人 株式会社新潮社(以下「被控訴人新潮社」という。)
同訴訟代理人弁護士 岡田宰
同 広津佳子
同 杉本博哉
同 藤峰裕一
被控訴人 大蔵映画株式会社(以下「被控訴人大蔵映画」という。)
被控訴人 オーピー映画株式会社(以下「被控訴人オーピー映画」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 上野雅祥
同 井上省三
 以上
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