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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件Y
【年月日】令和5年2月6日
 東京地裁 令和4年(ワ)第23392号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年12月22日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 野口明男
同 藤井智裕
同 福田正樹
同 山下晃生
同 梶原諒平
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 今井和男
同 小倉慎一
同 山本一生


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)によって、インターネット上のウェブサイトであるインスタグラム(以下「本件ウェブサイト」という。)に別紙投稿記事目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)がされたことにより、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び名誉感情が侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条2項に基づき(第2回口頭弁論調書参照)、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
 なお、争点整理の結果、本件の争点は、著作物性、著作権者該当性及び名誉感情侵害の有無のみであるとされた(第1回口頭弁論調書参照)。
2 前提事実(本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告は、ミセス・グローバル・アース日本大会に出場したことのある者である。(甲16、弁論の全趣旨)
イ 被告は、電気通信事業等を行う株式会社である。(弁論の全趣旨)
(2)本件投稿等
ア 本件発信者は、本件ウェブサイトにおいて、別紙投稿記事目録の投稿日時欄記載の日時に、同目録の投稿内容欄記載の文章を投稿するとともに、別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)をスクリーンショットした画像(以下「本件画像」という。)を投稿(本件投稿)した。(甲2、弁論の全趣旨)
イ 被告は、本件発信者情報を保有している。(弁論の全趣旨)
3 争点
(1)著作物性(争点1)
(2)著作権者該当性(争点2)
(3)名誉感情侵害の有無(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(著作物性)について
(原告の主張)
 本件動画は、原告以外の第三者が撮影した加工前の元の各写真(以下「本件各元写真」という。)を、原告が選択し、動画制作アプリを使用して、動画の再生時間、再生速度を設定し、当該各写真が表示される時間や順番を決め、「Chapter2oflife」という文章を入力し、アニメーションのようにスライドして動きを付けて流れるように工夫して、作成したものである。
 本件動画では、本件各元写真に写った原告の姿を拡大し、原告の肌の色をトーンアップした上、本件各元写真の角度の調整もしている。また、本件動画を作成した際の原告のイメージや想いを反映した曲も流れている。そして、「Chapter2oflife」という文章は、原告が筋痛性脳脊髄炎等を患っていたところから回復し、ミセス・グローバル・アース日本大会でグランプリを獲得するなどしてきた人生を振り返り、第2の人生の幕開けという想いを込めたものである。また、本件動画の最後には、原告が過去、現在の余韻を残しながら、未来に向かって歩いていくイメージが整ったとの想いを込めて、原告の残像が一つになるようにエフェクトを施している。
 このように、本件動画は、原告が本件各元写真を翻案するに当たり、原告の個性が表現として現れており、原告の思想・感情を創作的に、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現したものであるから、二次的著作物に該当する。
(被告の主張)
 本件動画は、原告以外の第三者が撮影した写真に対して、分身又は残像のエフェクトを施したものにすぎない。そして、ある人物像に対してそのようなエフェクトを施した場合、分身又は残像と本体の距離や位置、構図等の表現の選択の幅は必然的に限定されるところ、本件動画中の画像は、上記のいずれの点についてもありふれたもので、作成者の個性が現れたものとはいえない。したがって、本件動画には創作性がなく、本件動画は著作物に該当しない。
2 争点2(著作権者該当性)について
(原告の主張)
 上記1で主張したとおり、本件動画は、原告が動画制作アプリを用いて作成して編集し、本件ウェブサイトの原告のアカウント(以下「原告アカウント」という。)に投稿されたものである。また、原告アカウントは、原告のみが管理しており、原告のみがログインできるアカウントであるから、原告が本件動画の著作権者であることは明らかである。
(被告の主張)
 誰が、いつ、どこで、どのような方法で本件動画を作成したかについて、客観的な証拠は提出されていない。この点につき、原告は、本件動画が、本件ウェブサイトの原告アカウントに投稿されたことをもって、原告が本件動画の著作権者であることが示されていると主張するが、原告が、原告以外の第三者が作成した写真や動画を、当該第三者の許諾を得て投稿することは十分にあり得るから、当該アカウントに投稿されたことをもって、本件動画の著作権者が原告であることが明らかであるとはいえない。
3 争点3(名誉感情侵害の有無)について
(原告の主張)
 本件投稿では、本件ウェブサイトの原告アカウントにおける投稿をスクリーンショットしたものが投稿されており、本件画像に写っている人物も原告である。
 また、本件投稿においては、原告アカウントのユーザーネームが表示されており、それをクリックすれば本件ウェブサイトの原告アカウントに移行することができる。さらに、原告アカウントには原告の氏名がローマ字で掲載されている上、原告の容姿が写った画像も使用されている。
 したがって、一般の読者の普通の注意と読み方によれば、本件投稿における「アナタ」とは原告のことであると理解され、本件投稿の対象は原告と同定することができる。
 そして、本件投稿においては、「これ何回目でしょうか?度が過ぎているのはアナタ本当に恐ろしい」との記載があるところ、原告のことを「アナタ」と呼び捨てにした上で、「度が過ぎている」、「本当に恐ろしい」と述べて、原告の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値に係る評価である名誉感情を侵害している。
 したがって、本件投稿は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為として、原告の人格的利益を侵害するものである。
(被告の主張)
 本件投稿には「アナタ」としか記載されておらず、当該投稿の対象が原告であると特定できる情報は一切記載されていない。したがって、本件投稿を見た一般の閲覧者をして、その対象が原告であると認識することが明らかとはいえない。
 また、仮に原告を対象としたものと解されるとしても、「度が過ぎている」及び「本当に恐ろしい」との表現は、何について度が過ぎていて、何が恐ろしいのか不明であり、原告を侮辱したといえるほどの悪質性の高い表現とはいえない。さらに、原告は、本件ウェブサイトにおいて自らの活動等を投稿しているのであるから、当該活動に対する否定的な評価も甘受すべき立場にあるといえる。
 したがって、本件投稿の内容は、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為として原告の名誉感情を侵害することが明らかとはいえない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(著作物性)及び争点2(著作権者該当性)について
(1)証拠(甲8、9、14、16)及び弁論の全趣旨によれば、本件動画は、原告が、カメラマンに依頼して撮影してもらった本件各元写真の角度を調整したり、動画制作アプリ等を使用して肌の色をトーンアップしたりして制作したこと、本件動画に挿入された「Chapter2oflife」との文字は、原告が筋痛性脳脊髄炎等によって寝たきりに近い状態から回復し、ミセス・グローバル・アース日本大会でグランプリを獲得するなどしてきた人生を振り返り、暗いトンネルの中から出て、未来に向かって歩いていくイメージを表すために、第2の人生の幕開けという意味で使用したこと、本件動画では、過去を振り返るというイメージのために残像を残したエフェクトを採用し、リスタートできたのは「あなた方がいてくれたから」という想いで「YouAreTheReason」という曲を流していること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、本件動画は、原告の人生を振り返り、未来に向かって歩んでゆく第2の人生の幕が開けたという想いが伝わるように、本件各元写真の角度や画質を調整し、字幕やエフェクトを用いるなど視覚的効果が生ずる方法を工夫するとともに、原告の想いに沿う曲を背景に添えるなど聴覚的効果が生ずる方法を工夫して、制作されたものであることが認められる。
 そうすると、本件動画は、原告のリスタートという想いを的確に表現するために、視聴覚的効果が生ずる方法を工夫した点において、思想又は感情を創作的に表現したものであり、映画の著作物として著作物性を認めるのが相当である。そして、本件動画をスクリーンショットした本件画像についても、上記において説示した視覚的効果に係る工夫を踏まえると、著作物性を認めるのが相当である。
 したがって、本件動画は、著作物である本件各元写真を映画化した二次的著作物に該当するものといえる。
 また、上記認定のとおり、原告は、本件動画の視聴覚的効果が生ずる方法を自ら決めて本件動画を制作したことが認められることからすると、本件各元写真の著作権が第三者に帰属することを考慮しても、本件動画の著作権は、本件動画の全体的形成に創作的に寄与した者として、原告に帰属するものと認めるのが相当である。
(2)これに対し、被告は、本件動画中の画像はありふれたもので、作成者の個性が現れたものとはいえない旨主張する。しかしながら、本件動画は、原告のリスタートという想いを的確に表現するために、視聴覚的効果が生ずる方法において工夫がされたものと認められることは、上記において説示したとおりであり、本件動画又は本件画像における上記工夫がありふれたものとはいえない。したがって、被告の主張は、採用することができない。
 また、被告は、本件動画が原告アカウントに投稿されたことは本件動画の著作権者が原告であることの裏付けにはならないから、本件動画の著作権者に係る客観的な証拠はなく、原告が著作権者であることは明らかではない旨主張する。しかしながら、原告は、本件動画の制作経緯等について、制作に使用した動画制作アプリ名をはじめ、本件動画が自らの人生を投影していることなども含めて具体的に陳述している上(甲14、16)、本件ウェブサイト上の原告アカウントに投稿してから、これまでに原告以外の第三者が本件動画の著作権を主張している事情もうかがわれない。そうすると、被告の主張を十分考慮しても、原告の上記陳述は信用性が高いものといえるから、本件動画の著作権者は原告であると認めるのが相当である。したがって、被告の主張は、採用することができない。
2 意見照会の結果について
 被告は、意見照会の結果、本件発信者情報によって特定された契約者から、別の者が自宅を訪問した際に本件投稿をしたとの回答があったと主張するものの、当該主張を裏付ける証拠が提出されていないことを踏まえると、被告の主張は、採用することができない。
3 正当な理由の有無について
 証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、損害賠償請求を予定していることが認められる。したがって、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものといえる。
4 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法5条2項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。
第5 結論
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 中島基至
 裁判官 古賀千尋
 裁判官 國井陽平


別紙 発信者情報目録
 別紙IPアドレス目録記載の各IPアドレスを同目録記載の各ログイン日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げるもの
1 氏名又は名称
2 住所
3 電話番号
4 電子メールアドレス

別紙 投稿記事目録
URL:https(以下省略)
ユーザーネーム:B
名前:B
投稿日時:令和4年6月13日18時54分34秒
投稿内容:これ何回目でしょうか?度が過ぎているのはアナタ本当に恐ろしい

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(日本時間)
1 省略 2022/6/13
 03:09:04
2022/6/13
 12:09:04
2 省略 2022/6/13
 03:09:06
2022/6/13
 12:09:06
3 省略 2022/6/13
 12:13:18
2022/6/13
 12:13:18

別紙動画目録、省略
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