判例全文 line
line
【事件名】インスタグラムへの発信者情報開示請求事件
【年月日】令和5年2月3日
 東京地裁 令和4年(ワ)第19527号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年12月14日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 小沢一仁
被告 メタプラットフォームズインク
同訴訟代理人弁護士 宇佐神順
同 馬場ア悠
同 日向美月
同 古川祐介


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告に対し、氏名不詳者が、ソーシャルネットワーキングサービスであるInstagram上において、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の画像(以下「本件画像」という。)を複製した画像(以下「本件投稿画像」という。)をプロフィール画像として投稿したことにより、本件画像に係る原告の複製権及び公衆送信権並びに原告の肖像権を侵害したことが明らかであり、上記氏名不詳者に対する損害賠償請求権の行使等のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、肩書住所地に居住する私人である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、Instagramサービス(Instagramのウェブサイト及びアプリ)を管理・運営する会社であり、その主たる事務所はアメリカ合衆国に所在する。
(2)被告の提供するサービス被告は、日本に居住している利用者に対し、日本語でInstagramサービスを提供している。
(3)本件画像の著作物性及び著作権の帰属
 本件画像は、原告が撮影し、かつ原告が被写体である写真のデータであるところ、原告の思想又は感情を創作的に表現した写真の著作物であり、原告はその著作権を有している(甲5、7)。
(4)氏名不詳者による本件投稿画像の投稿
 氏名不詳者は、Instagramにおいて開設された、アカウント名「B」のアカウント(以下「本件アカウント」という。)に、アカウント開設者のプロフィール画像として、本件画像を複製することによって作成された本件投稿画像を投稿した(以下、同投稿を「本件投稿」といい、本件投稿の投稿者を「本件投稿者」という。甲3)。
3 争点
(1)本件訴えの管轄が東京地方裁判所にあるといえるか(争点1)
(2)原告の被告に対する発信者情報開示請求権の存否(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件訴えの管轄が東京地方裁判所にあるといえるか)について
(原告の主張)
 被告は、日本に居住している利用者に対してInstagramサービスを提供しているから、本件訴えは、「日本において事業を行う者」に対する「日本における業務に関する」訴えに該当し、民訴法3条の3第5号により日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる。
 また、被告は日本国内に主たる事業所及び営業所がなく、日本における被告の主たる業務担当者も不明であることから、民訴法10条の2に規定する「管轄裁判所が定まらないとき」に該当し、民訴規則6条の2により、東京都千代田区を管轄する東京地方裁判所に管轄が生じる。
 したがって、東京地方裁判所は本件につき管轄を有している。
(被告の主張)
 被告の主たる事業所はアメリカ合衆国カリフォルニア州メンロー・パークにある。被告は、本件訴えについて東京地方裁判所の管轄権の存在を認めるものではない。
2 争点2(原告の被告に対する発信者情報開示請求権の存否)について
(原告の主張)
(1)原告の権利を侵害していることが明らかであることについて
 本件投稿者は、本件投稿画像をインターネットに接続されたサーバー上にアップロードして、本件画像を、有形的に再製し、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態にしたものであるから、本件画像に係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害したといえる。
 また、本件投稿者は、原告に成りすます目的で本件アカウントを作成し、同アカウント上のプロフィール画像として原告が被写体となっている本件投稿画像をアップロードしたものであり、これは原告の人格的利益を社会通念上の受忍限度を超えて侵害するものといえるから、原告の肖像権を侵害したというべきである。
 よって、本件投稿によって原告の権利が侵害されたことが明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。
(2)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があることについて
 原告は、本件投稿者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求等を行う予定であるが、その権利行使のためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
(被告の主張)
 事実については不知であり、法律上の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件訴えの管轄が東京地方裁判所にあるといえるか)について
 前記前提事実(1)及び(2)のとおり、被告は、Instagramサービスを管理・運営する会社であって、日本に居住している利用者に対し、日本語でInstagramサービスを提供している。したがって、被告は、日本において継続的に事業を行っていると認められ、民訴法3条の3第5号の「日本において事業を行う者」に該当する。
 また、日本から本件アカウントにアクセスし、本件投稿画像を閲覧することが可能であること(弁論の全趣旨)からすると、本件訴えは、民訴法3条の3第5号の被告の「日本における業務に関するもの」に該当する。
 さらに、被告の主たる事務所はアメリカ合衆国に所在する一方で、本件記録を精査しても、被告が日本国内に主たる事務所又は営業所を有するとはうかがわれず、また、日本における代表者その他の主たる業務担当者がいるともうかがわれないから、民訴法4条5項により被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所が定まらず、民訴法10条の2に規定する「この法律の他の規定又は他の法令の規定により管轄裁判所が定まらないとき」に該当し、民訴規則6条の2により、東京都千代田区を管轄する東京地方裁判所に管轄があるというべきである。
 よって、当裁判所は、本件訴えについて管轄を有する。
2 争点2(原告の被告に対する発信者情報開示請求権の存否)について
 前記前提事実(3)及び(4)のとおり、本件投稿者は、原告が著作権を有する著作物である本件画像を複製することによって作成された本件投稿画像を、Instagramのプロフィール画像として投稿するという、本件投稿に及んだものである。これは、本件投稿画像をインターネットに接続されたサーバー上にアップロードすることにより、本件画像を、有形的に再製し、公衆からの求めに応じ自動的に送信し得る状態にしたものということができるから、本件投稿者は、本件投稿により、少なくとも本件画像に係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害したものと認められる。
 また、本件においては、本件投稿について違法性を阻却する事由があるとはうかがわれないから、本件投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえる。
 そして、証拠(甲7)によれば、原告には、本件投稿者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使するため、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があると認められるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
3 結論
 以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 バヒスバラン薫


(別紙)発信者情報目録
 ユーザーアカウントhttps://(以下省略)について、次に掲げるもの。ただし、当該情報が入手可能であるものに限る。
@氏名又は名称
A電子メールアドレス
B電話番号
 以上

(別紙著作物目録省略)
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/