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【事件名】店舗の“設計図”事件(2)
【年月日】令和5年1月31日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10079号 著作権侵害による損害賠償、損害賠償反訴請求控訴事件
 (原審・横浜地裁令和3年(ワ)第1498号、令和4年(ワ)第296号)
 (口頭弁論終結日 令和4年12月19日)

判決
控訴人 X
被控訴人 株式会社ディアキッズ
同訴訟代理人弁護士 楠部亮太
同 津島一登


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決主文1項中、被控訴人に関する部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、150万円及びこれに対する令和3年4月20日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要(以下において略称を用いるときは、別途定めるほか、原判決に同じ。)
 本件は、控訴人において、被控訴人が一審被告キャピタランドの管理運営する本件商業施設に本件店舗を出店するに際し、控訴人が本件店舗の内装工事に係る原判決別紙図面目録記載の図面(原告設計図)を作成したところ、被控訴人が控訴人に無断で一審被告キャピタランドに対し原告設計図の利用を許諾し、一審被告キャピタランドが原告設計図に基づく内装工事を発注して本件店舗を完成させて、原告設計図に表現されている内装(原告内装)を複製し、本件店舗が開店した後は、本件店舗を経営する被控訴人らが、原告内装の複製物である本件店舗を公衆に提示すると共に、ウェブサイトに画像等を掲載して公衆送信して、控訴人の原告設計図ないし原告内装に係る著作権及び著作者人格権を侵害したなどと主張して、不法行為による損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権に基づき、被控訴人に対し、450万円(@原告設計図の無断利用等による損害150万円、A原告内装の無断複製等による損害150万円、B本件店舗の使用等により同被告らが得た利益150万円)及びこれに対する本件店舗の開業日である平成26年4月25日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である(なお、一審段階では、他の一審被告らに対する各種請求や、被控訴人及び一審被告ママスクエアによる反訴請求が存在した。)。
 原判決が控訴人の本訴請求と、被控訴人及び一審被告ママスクエアの反訴請求をいずれも棄却したところ、控訴人が、被控訴人に対する本訴請求を棄却した部分について、控訴を提起した。控訴人は、原審においては、前記@及びAの損害賠償請求並びに前記Bの不当利得返還請求を単純併合としていたが、当審においては、@及びAを選択的請求とし、Bを予備的請求とする旨、併合の態様を変更し、また、遅延損害金の起算点を令和3年4月20日(訴状の作成日付)とする旨、不服の範囲を限定した。
2 「前提事実」、「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は、原判決6頁2行目の「締結した。」の次に「同契約の注文書に添付された訴外アイ・イーエスの見積書では、デザイン・設計料は別途と記載されている。」を加え、後記3のとおり、当審における控訴人の補充主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3(1)並びに第3の1ないし6に記載するとおりであるから、これを引用する。
3 控訴人の当審における補充主張
(1)争点(2)(原告設計図ないし原告内装の著作物性)について
ア 原判決は、原告設計図の作成において、表現手法がCADやCGを用いた機械的なものであることから創作性を否定したが、設計図は、施主、施工者、メーカー及び作業職人に向ける共通言語であり、特に、設計者と施工者が異なる場合は、設計図面以外での詳細な情報伝達手段はないから、原告設計図全体では創作性があると認められるべきである。
イ 原判決は、本件店舗が被控訴人が運営する親子カフェの系列店として出店するものであったから、内装のデザインには制約があったとして、原告設計図の創作性を否定したが、原告設計図作成時点において被控訴人運営に係る既存店は、第三者が経営した店舗を譲り受けたものにすぎず、デザイン構築上準備段階のものであり、本件店舗が被控訴人の経営する系列店舗で初の旗艦店であるから、原告設計図は、創作性を有するものである。
(2)争点(4)(著作権の譲渡ないし利用許諾の有無等)について
 原判決は、控訴人が原告設計図を一審被告キャピタランドの内装監理室に提出し、その後、内装工事の施工監理をしたことを理由に、控訴人が被控訴人において原告設計図を自由に利用することを承諾した旨判示する。
 しかし、控訴人は、平成26年3月9日に、被控訴人が設計報酬を支払うことを確認して、被控訴人からの指示で、原告設計図を上記内装監理室に持参しただけであり、これを著作権の利用許諾とはいえない。
 また、控訴人は、建築士ではなく設計士であり、施工監理をすることはできないから、原判決には事実認定にも誤りがある。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求にはいずれも理由がないものと判断する。
 その理由は、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の第4の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。
 原判決23頁20行目の「本件内装工事の施工監理も行うなどしていた」を「前記第2の2(2)オのとおり、本件内装工事の工事完了引渡し検査確認書の作成にも立ち会うなど、本件内装工事が行われていることを認識しながら異議も述べなかった」に改める。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1)控訴人は、前記第2の3(1)アのとおり、設計図は、工事に携わる者の間の共通言語であり、特に、設計者と施工者が異なる場合は、設計図面以外での詳細な情報伝達手段はないから、原告設計図全体では創作性があると認められるべきである旨主張する。しかし、設計図が工事に携わる者に共通して利用されるものであることは、むしろ、多くの場合、様々な関係者が施工内容を理解することができるよう、作図上の表現方法や内装の具体的な表現は実用的、機能的でありふれたものにならざるを得ないことを示すものというべきであり、現に、原告設計図や原告設計図の具体的な表現内容が実用的、機能的でありふれたものであることは、引用に係る原判決第4の2(3)における説示のとおりである。
 また、控訴人は、前記第2の3(1)イのとおり、原告設計図作成時点において被控訴人運営に係る既存店は、第三者が経営する店舗を譲り受けたものにすぎず、デザイン構築上準備段階のものであり、本件店舗が、被控訴人の経営する系列店舗で初の旗艦店であるから、原告設計図は創作性を有する旨主張する。しかし、ここで問題となっているのは、被控訴人運営に係る各店舗に統一感を持たせる観点から、内装のデザインには一定の制約があったということであり、各店舗の具体的な内装の先後関係ではないから、上記主張は採用できない。
(2)前記(1)によれば、原告設計図や原告内装について著作物性が認められない以上は、その他の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないというほかないが、念のために、控訴人の前記第2の3(2)記載の主張についても触れると、建物やその内装の完成のための手段であり、通常それ自体が鑑賞の対象となるものではない設計図の性質からして、設計に係る契約においては、特段の合意がない限り、設計報酬とは別に設計図ないし内装の著作権についての使用料請求権が設計者に留保されるとは認め難く、本件で特段の合意がされたと認めるべき証拠もない。これを裏返して言えば、控訴人は、本件設計等契約において、被控訴人に対し、原告設計図に基づき、自ら又は第三者をして本件店舗の内装工事を施工し、工事完了後は本件店舗で親子カフェの営業を行うこと等を当然に了承していたもので、著作権ないし著作者人格権を行使しないことが契約締結の前提となっていたものというべきである。
 なお、原告設計図に基づき本件店舗の内装が施工されたことは事実であり、また、補正の上引用した原判決第2の2(2)オのとおり、一審被告キャピタランドと訴外アイ・イーエスとの間の本件店舗の内装工事に係る請負契約では、デザイン・設計料は別途とされたものであるところ、それにもかかわらず控訴人が誰からも設計図に係る報酬を得られないことについては同情すべき面もあるが、報酬請求権が時効消滅した以上、やむを得ないというほかない。
第4 結論
 以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当である。
 したがって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 本吉弘行
 裁判官 岡山忠広
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