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【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件F
【年月日】令和5年1月20日
 東京地裁 令和4年(ワ)第18494号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年12月6日)

判決
原告 株式会社MBM
同訴訟代理人弁護士 杉山央
被告 株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 桑原秀明
同 馬場嵩士
同 堺有光子
同 横山経通


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、原告が、氏名不詳者が、P2Pの一種であるBitTorrent(以下「ビットトレント」という。)のネットワーク(以下「ビットトレントネットワーク」という。)を介して、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の動画(以下「本件著作物」という。)を複製して作成した電子データをインターネット上でダウンロードし、不特定多数の利用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態とすることによって、本件著作物に係る原告の公衆送信権(送信可能化を含む。以下同じ。)を侵害したことが明らかであり、上記氏名不詳者に対する損害賠償請求等のために必要であると主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条1項に基づき、被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、各種映像物の企画、制作、販売及びプロデュースを主な目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である。
(2)本件著作物の著作物性
 本件著作物は、アダルト動画であり(甲11)、思想又は感情を創作的に表現した、映画の著作物として保護される著作物である。
(3)原告による調査等
 原告は、株式会社utsuwa(以下「本件調査会社」という。)に対し、本件著作物について、ビットトレントを利用した著作権侵害行為の監視を依頼した。本件調査会社は、「μTorrent」という名称のソフトウェア(以下「本件ソフト」という。)を使用して調査を開始したところ、別紙発信者情報目録記載の日時に、同記載のIPアドレスを割り当てられた氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)が、ビットトレントネットワーク上において、本件著作物の複製物である電子データ(以下「本件複製物」という。)を、不特定多数のビットトレント利用者の求めに応じ、自動的にアップロードし得る状態にしたとの調査結果を得た。(甲1の1、3の1、5、11及び12)
3 争点
(1)原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(2)原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(原告の主張)
(1)原告が本件著作物の著作権を有していることについて
 本件著作物のパッケージには、原告の名称が記載されており、著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その名称が著作者名として通常の方法により表示されているといえるから(著作権法14条)、本件著作物の著作者は原告であると推定される。
 したがって、原告は本件著作物の著作権を有している。
(2)原告の調査方法に信用性があることについて
 本件ソフトは、ビットトレントをより効率的に利用するためのソフトウェアであって、違法アップロードをした者(以下「侵害者」という。)を特定することを目的として開発されたものではない。しかし、本件ソフトには、侵害者がファイルをダウンロードしつつ、同ファイルをアップロードしている状態を監視することができる機能が備わっており、侵害者のIPアドレスを解明することができる仕組みとなっている。
 本件調査会社は、「.torrent」という拡張子がついたファイル(以下「トレントファイル」という。)をダウンロードした上、本件ソフト上にて対象ファイルのダウンロードを開始して、侵害者が対象ファイルをアップロードしていることが判明した場合に、侵害者のIPアドレスを把握し、実際にダウンロードしたファイルを開いて被侵害品と比較して、その同一性を確認するという方法により、侵害者のIPアドレスを特定している。本件においても同様の方法で調査が実施されており、本件調査会社が本件発信者から本件複製物をダウンロードしている場面をスクリーンショットで撮影した画像が甲第1号証の1であり、本件発信者が本件複製物を不特定多数の者からの求めに応じてダウンロードできる状態にしていた日時及びその際に割り当てられたIPアドレスに係る調査結果の正確性に疑義はない。
 よって、原告の調査方法には信用性が認められるから、本件発信者が原告の著作権を侵害していることは明らかである。
(被告の主張)
(1)原告が本件著作物の著作権を有しているとの主張について
 原告は、本件著作物の著作権を有することの根拠として、本件著作物のパッケージに原告の名称が表示されていることを挙げるが、原告が映画製作者であることを示す証拠や、仮に原告が映画製作者である場合に、本件著作物の著作者が、原告に対して本件著作物の製作に参加することを約束していることを示す証拠は提出されていない。
 よって、原告が本件著作物の著作権を有していることには疑義がある。
(2)原告の調査方法に信用性があるとの主張について
 原告は、本件調査会社に依頼して調査した結果、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時に、同目録記載のIPアドレスを利用して、本件複製物をアップロード等した旨主張するが、本件調査会社が撮影したとするスクリーンショット画像(甲1の1)には、本件複製物をアップロードしたと思われる日時等が写っているものの、同日時の正確性を担保するためのタイムゾーンの設定画面のスクリーンショット画像等の証拠はない。
 また、本件ソフトは、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会において、侵害者の特定方法等の信頼性が認められるシステムとして認定されている「P2PFinder」を用いない独自のものである。
 したがって、本件調査会社の調査結果の信用性には疑義があるといわざるを得ない。
2 争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
(原告の主張)
 原告は、本件発信者に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があり、正当な理由があるといえる。
(被告の主張)
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)原告に著作権が帰属するか
 証拠(甲2の1)によれば、本件著作物のパッケージの裏面の端に、本件著作物の製品番号、収録時間、販売価格、バーコード等の記載とともに「株式会社MBM」と記載され、さらに、その横に、商品に関する問合せ先として、原告の名称をドメイン名の一部に含む「(省略)」というメールアドレスが記載されていることが認められ、これらの記載によれば、原告の名称が本件著作物を制作した者として表示されていると認めるのが相当である。
 したがって、原告は本件著作物の著作権を有していると認めるのが相当である。
(2)本件調査会社の調査手法の信用性
 証拠(甲4、5及び8)及び弁論の全趣旨によれば、ビットトレントネットワークとは、インターネットを通じ、P2P方式でファイルを共有するネットワークであり、特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにおいて当該ファイルに係るトレントファイルをダウンロードした後、当該トレントファイルを自らの端末のクライアントソフトで読み込むと、トラッカーサイトと呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルを保有するピア(データをやり取りするコンピュータの名称をいう。)のIPアドレスを取得して、当該ピアから当該ファイルをダウンロードするとともに、自動的にトラッカーサイトにピアとして登録され、以後、別のピアから要求があれば、自己の端末から当該ピアに対して当該ファイルを送信する仕組みのものであることが認められる。
 そして、証拠(甲4、5、8、11及び12)及び弁論の全趣旨によれば、本件調査会社は、本件複製物に係るトレントファイルをダウンロードした上、ビットトレントのクライアントソフトの一つである本件ソフトを起動し、本件ソフト上にて、本件複製物のダウンロードを開始したところ、本件発信者が本件複製物をアップロードしていることを確認し、さらに、実際に本件発信者からダウンロードしたファイルを開いて本件著作物と比較したところ、これらが同一の内容を有していることを確認したことが認められる。このような本件調査会社の調査方法の内容に特段の問題点は認められない。
 これに対し、被告は、本件調査会社が撮影したとするスクリーンショット画像(甲1の1)には、侵害者が本件複製物をアップロードしたと思われる日時等が写っているものの、その正確性を担保する証拠はないなどとし、上記調査方法の信用性が認められない旨主張する。しかし、上記スクリーンショット画像を精査しても、同画像が事後に修正・合成されたことはうかがわれず、上記調査が日本国外で行われたり、同調査に使用されPCの時計が不正確であったことなどもうかがわれないから、その信用性を吟味するために被告が指摘するタイムゾーン等に係る証拠が必要であるとはいえず、上記日時等の正確性を否定し得る証拠もないから、被告の上記主張は採用できない。
 また、被告は、本件調査会社による上記調査が、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会において、特定方法等の信頼性が認められるシステムとして認定されているソフトウェアを用いたものではないなどとして、その調査の信用性を争う。しかし、被告は、本件ソフトを用いた調査方法によっては侵害者を正確に把握することができないことなど、本件調査会社の調査手法の具体的な問題点を指摘できておらず、被告の上記指摘は、本件調査会社の調査手法の信用性を否定するに足りない。
 よって、本件調査会社の調査手法には信用性が認められる。
(3)違法性阻却事由の不存在
 本件発信者の行為について、違法性阻却事由が存在することは全くうかがわれない。
(4)小括
 以上によれば、本件著作物に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法5条1項1号)。
2 争点2(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であり、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があることが認められる。
 したがって、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる(プロバイダ責任制限法5条1項2号)。
3 結論
 以上の次第で、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 バヒスバラン薫

(別紙)発信者情報目録
 以下のIPアドレスを、以下の日時に株式会社NTTぷららから割り当てられていた契約者に関する情報であって、次に掲げるもの
1 氏名又は名称
2 住所
日時 令和4年(2022年)2月3日19時05分00秒
IPアドレス (省略)
 以上

(別紙)著作物目録
品番 MBMS−024 甲1−1
甲2−1
作品名  素人ホイホイ×MBM 舞い降りた貧乳エンジェル ちっぱいフェアリー 撮り下ろし3名
 以上
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