判例全文 line
line
【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件H(2)
【年月日】令和4年12月26日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10084号 発信者情報開示請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第24416号)
 (口頭弁論終結日 令和4年11月16日)

判決
控訴人 株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 上田雅大
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 河瀬季
同 足立梓
同 谷川智


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
第2 事案の概要(略称は原判決に従う。)
1 本件は、被控訴人において、氏名不詳者が控訴人の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」に投稿した原判決別紙投稿記事目録記載の記事(本件記事)は被控訴人の著作物に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであることが明らかである旨主張して、控訴人に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(ただし、令和3年法律第27号による改正前のもの。以下、単に「法」という。)4条1項に基づいて、原判決別紙発信者情報目録記載の発信者情報(本件発信者情報)の開示を求めた事案である。
 原判決は、本件記事は、被控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであることは明らかであり、被控訴人は、本件記事の発信者に対する損害賠償請求権の行使等のために、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると判断して、被控訴人の請求を認容したところ、控訴人がこれを不服として控訴をした。
 なお、当審において、被控訴人は、本件については、令和3年法律第27号による改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「改正法」という。令和4年10月1日施行)が遡及適用される旨主張し、控訴人もこの点については異論を述べるものではない。
2 「前提事実」、「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は、原判決3頁20行目の「本件訴えは、この開示結果を踏まえたものである。」を以下のとおりに、同21行目の「(5)」を「(6)」にそれぞれ改め、後記3のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。
 「 ツイッター社から開示を受けたIPアドレスは、令和3年3月8日から同年7月15日までの延べ622個であり、被控訴人訴訟代理人河瀬季は、開示されたIPアドレスの割当先を調査したところ、73個のIPアドレスが控訴人に割り当てられたものであることが判明した(甲23、24、26)。
 そこで、同代理人は、令和3年8月26日付けで、控訴人に対し、控訴人に割り当てられたIPアドレスの開示及び保存を要求したところ、同年9月15日付けで、控訴人から、@権利侵害の明白性の判断ができかねる、A発信元IPアドレス、接続先IPアドレス、タイムスタンプ等の対象の通信を調査するための情報等が不足している、B令和3年6月6日以前のログイン情報は保存期間が経過しているため保存していない旨の回答を受けた(甲25、26)。
(5)被控訴人は、令和3年9月17日、控訴人に対し、令和3年6月8日から同月25日までのツイッター社から開示されたIPアドレス17個についての発信者情報の開示を求める本件訴訟を提起した。
 控訴人は、原審において、時刻(日本標準時)、発信元IPアドレス及び接続先IPアドレスの3点で特定した結果、原判決別紙発信者情報目録1の「No.1」と「No.2」の発信日時、接続元アドレス、接続先IPアドレス記載については通信記録を特定することは可能である旨答弁したことから、これを受けて、被控訴人は、控訴人に開示を求める発信者情報を原判決別紙発信者情報目録記載のものと特定した。」
3 当審における当事者の補充主張
(1)控訴人の主張
ア 本件発信者情報は法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないこと
(ア)本件発信者情報は、ツイッターへのログインを対象とするものであるところ、ログイン時の通信は権利侵害情報を投稿した通信そのものではないから、当該通信についての通信記録から把握される発信者情報は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」とはいえない。法4条1項の趣旨は、情報の発信者のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で発信者情報の開示請求権を認めることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利救済を図る点にあることからすると、「当該権利の侵害に係る発信者情報」の範囲は、限定的に解釈されるべきであり、ログイン時の通信についての通信記録から把握される発信者情報まで含めるべきではない。
(イ)仮に、ログイン情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するとしても、発信者のプライバシーや表現の自由及び通信の秘密等に配慮し、一定の厳格な要件が満たされる場合に発信者情報の開示を認める法4条1項の趣旨に照らせば、ログイン時における発信者情報のうち「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると認められる範囲は、必要最小限度にとどめるべきである。
 被控訴人は、後記(2)アのとおり、本件については、改正法が適用される旨主張しており、控訴人もこの点については異論を述べるものではないが、令和4年総務省令第39号による改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(以下「改正規則」という。)は、ログイン情報(改正規則5条2号)については、「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」(改正規則5条柱書)に限定しているところ、「相当の関連性を有するもの」は、発信者に保障される表現の自由及び通信の秘密を侵害することがないように画一的な基準を示すものとして解釈されるべきであり、そのためには、「侵害関連通信」(改正法5条3項)に該当し得る通信は、侵害情報の送信と最も時間的に近接して行われた時点のものに限られるというべきである。
 これを前提として本件についてみると、本件投稿の直前直後におけるログインの内容は明らかではなく、原判決別紙発信者情報目録記載の「No.1」(以下「本件ログイン1」という。)及び同目録記載の「No.2」(以下「本件ログイン2」といい、本件ログイン1及び本件ログイン2を併せて「本件ログイン」という。)の前後において、いずれも控訴人以外のプロバイダを経由したログインが前後に十数件から数百件単位で存在している上、本件ログイン1及び本件ログイン2は、本件投稿から4か月以上も経過しており、本件ログイン1及び2に係る発信者情報は、投稿と最も時間的に近接して行われた時点のものとはいえないから、いずれも「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するとはいえない。
(ウ)以上によれば、法4条1項の文言解釈によれば、ログイン情報は、同項の発信者情報の開示の対象にならないというべきであり、仮に本件については改正法が適用されるとしても、本件発信者情報は、「侵害関連通信」に該当するものではないというべきである。これと異なる原判決の判断には誤りがある。
イ 本件投稿による被控訴人の権利侵害が明白であるとまではいえないこと
(ア)本件文書が作成された当時、被控訴人は設立されておらず、また、Aが本件協議会における職務著作として本件文書を作成したかは不明であるのみならず、少なくとも、被控訴人の設立前に、被控訴人の発意に基づいてAが本件文書を作成することはあり得ないから、本件文書が被控訴人におけるAの職務著作として被控訴人がその著作権を取得することはない。
 また、本件文書の作成当時、被控訴人が設立準備中であったとしても、設立準備中の団体から設立後の法人に承継される権利義務関係は、法人の設立それ自体を目的とする限度にとどまるものと解されるところ、本件文書の作成は、一般社団法人としての設立行為それ自体とは無関係であり、そのような設立行為と無関係に作成された本件文書の著作権が設立後の被控訴人に承継されるとはいえない。仮に、本件文書に係る著作権が被控訴人に承継されたとしても、被控訴人の設立当時、本件投稿が未だ存在しており、本件投稿の流通により被控訴人の著作権が侵害されたかどうかも証拠上明らかではない。
(イ)原判決は、本件協議会と被控訴人とは、被控訴人の法人格の前後を通じて実質的に同一の団体として事業活動を行っていたものとみるのが相当であり、事業活動を通じて取得した本件文書に係る著作権が法人格取得後の被控訴人に当然承継されるものとすることが合理的意思に合致するなどとして、被控訴人が本件文書の著作権を有する旨説示するが、著作権が「当然承継される」理由が明らかではなく不合理である。
(ウ)以上によれば、被控訴人が本件文書の著作権を有しているとはいえず、本件投稿による被控訴人に対する権利侵害が明白であるとはいえない。
(2)被控訴人の主張
ア 改正法5条2項に基づく侵害関連通信に係る発信者情報開示請求
 令和4年10月1日から施行された改正法は、同日前に提起された訴訟についても遡及適用されるところ、以下のとおり、本件請求は、改正法5条2項の各要件を充足する。
 なお、仮に、改正前の法が適用されるとしても、ログイン情報が「侵害関連通信」に含まれる旨の法改正は、旧法下でも解釈により含まれていたことを明確化するものであるから、前記アの控訴人の主張は誤りである。
(ア)控訴人は開示関係役務提供者(改正法2条7号)に該当すること
 本件投稿は、インターネットを通じて不特定の誰もが自由に閲覧することができるものであるから、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」であり、「特定電気通信」(改正法2条1号)に該当する。
 また、ツイッターは、各利用者に割り当てられたアカウントにログインしなければ記事を投稿することができない、いわゆるログイン型のサービスであるため、本件投稿に際して行われるログインのための通信は、「あらかじめ定められた当該特定電気通信役務を利用し得る状態にするための手順に従って行った・・・識別符号その他の符号の電気通信による送信」(改正規則5条2号)に規定する「侵害関連通信」に該当する。
 そして、投稿に際して行われるログインのための通信が経由したリモートホストや電気通信設備一式は、特定電気通信を行うために発生するログインのための通信、すなわち、侵害関連通信のために用いられるために「特定電気通信に係る侵害関連通信の用に供される電気通信設備」に該当するものであり、控訴人は、こうした電気通信設備を用いて本件投稿に際して生じるログイン通信を媒介し、又は当該電気通信設備をこれら他人の通信の用に供する者であるから、改正法5条2項に規定する「関連電気通信役務提供者」に該当する。
 以上によれば、控訴人は、改正法5条2項に規定する関連電気通信役務提供者に該当するから、開示関係役務提供者であるといえる。
(イ)本件発信者情報は「侵害関連通信に係る発信者情報」(改正法5条2項)に該当すること
 「侵害関連通信」とは、「侵害情報の送信と相当の関連性を有する」(改正規則5条柱書)ことが必要であるところ、「相当の関連性」との文言のとおり、侵害情報の送信と最も近接するといった要件を課しているものではない。また、侵害情報を流通させた加害者の特定を可能にし、当該侵害情報の流通に係る被害者の救済を図るという改正法5条の趣旨に鑑みれば、侵害情報と最も近接して行われた時点の侵害関連通信に限定される必要はなく、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信から発信者を特定することが困難である場合には、侵害情報の送信と最も近接する通信以外の通信も「侵害情報の送信と相当の関連性を有する」というべきである。
 これを前提として本件についてみると、本件ログインは、本件投稿に最も近接しているとはいえないが、控訴人からの事前の回答を踏まえて本訴提起時に開示を求めた17個のIPアドレスのうち控訴人が特定可能であるとしたものであって、その他の通信では発信者の特定が困難であるから、「侵害情報の送信と相当の関連性を有する」ものといえる。
イ 本件投稿による被控訴人の権利侵害が明白であること
 控訴人は、前記(1)イのとおり、本件記事の著作権が被控訴人に帰属することを争い、本件投稿による被控訴人の権利侵害が明白であるとはいえない旨主張するが、設立中の法人である被控訴人の職務著作として本件記事が作成され、設立後にその権利が当然に承継されることになったものであるから、本件記事の著作権は被控訴人に帰属する。
 したがって、本件投稿による被控訴人の権利侵害は明白であるというべきである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も被控訴人の請求は理由があるものと判断する。
 その理由は、次のとおり補正し、後記2のとおり判断を付加するほかは、原判決の第3の1ないし5に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、原判決は、法4条1項に基づく請求を前提に判断しているが、上記引用部分は、改正法の遡及適用による同法5条2項に基づく請求においても等しく当てはまるものである。
(原判決の補正)
(1)10頁9行目の「このような趣旨に鑑みると、」の次に、「ログイン時の通信は被控訴人の権利が侵害されたという本件投稿に係る通信そのものではないから、本件発信者情報は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」とはいえないとする控訴人の主張は採用できないし、」を加える。
(2)10頁14行目の「第2の1(5)」を「第2の1(6)」と改める。
(3)15頁3行の「原告は、」の次に「主たる事務所の所在地を本件協議会の住所と同じくし、」を加える。
(4)16頁4行目から5行目にかけての「本件協議会は、」の次に「主たる事務所を同じくし、」を加える。
2 当審における当事者の補充主張について
(1)本件発信者情報が「侵害関連情報」に当たるかについて
ア 改正法は、令和4年政令第208号により、当審における口頭弁論終結時より前の令和4年10月1日に施行されており、同法には経過規定が置かれていないことから、@本件投稿時、A被控訴人が訴外において控訴人に発信者情報開示請求をした時、B本件訴え提起時及びC原審口頭弁論終結時は、いずれも改正法の施行日前であるが、本件については、改正法が適用される(この点については、控訴人も明示的に争うものではない。)。
 そこで、以下では、改正法の適用を前提とするが、控訴人は、前記第2の3(1)ア(イ)のとおり、本件ログインは「侵害関連通信」(改正法5条3項、改正規則5条2号)に該当しない旨主張するので、この点につき検討を加える。
(ア)法4条が発信者情報の開示請求を規定している趣旨は、特定電気通信(法2条1号)による侵害の流通は、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、高度の伝播性があるがゆえに際限なく被害が拡大し、匿名で情報の発信が行われた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難となるという、他の情報の流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解されることは、引用に係る原判決の第3の1のとおりであり、この趣旨は、「侵害関連通信」に係る発信者情報の開示請求をも可能とした改正法5条においても等しく当てはまるものである。
(イ)ところで、改正法5条3項は、「「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号・・・その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。」と規定し、同項の委任を受けた改正規則5条は、「改正法5条3項の総務省令で定める識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識別符号その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定する侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」(改正規則5条柱書)とした上で、同条2号で「あらかじめ定められた当該特定電気通信役務を利用し得る状態にするための手順に従って行った・・・識別符号その他の符号の電気通信による送信」(改正規則5条2号)と規定するので、特定のアカウントにログインした際の識別符号その他の符号の電気通信(ログイン情報)による送信は、同号が規定する送信に当たるというべきである。
 上記のとおり、改正法5条3項は、侵害関連通信について侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとし、また、改正規則5条柱書及び同条2号は、侵害関連情報は侵害情報と相当の関連性を有するログイン情報による送信に限定しているところ、その趣旨は、ログイン時に係る通信は、対象となる権利侵害行為の通信と異なるものであるため、対象となる権利侵害の通信に係る発信者以外の発信者のログイン情報が開示される可能性があり、また、開示を可能とする情報が際限なく拡大すれば、当該権利侵害に係る通信とは関係の薄い通信の秘密やプライバシーが侵害されるおそれが高まることから、当該権利侵害と一定の関連性を有するものに限定し、また、例えば、コンテンツプロバイダから大量のログイン時のIPアドレスの開示を受けて経由プロバイダに提供される場合には、経由プロバイダにおいて発信者を特定するために過度の負担がかかるおそれがあることから、開示の対象とするログイン時情報の開示請求は、発信者の特定に必要最小限度とすることにしたものと解される。
 こうした趣旨及び前記で説示した発信者情報の開示請求の趣旨に鑑みれば、ログイン情報に係る送信と侵害情報に係る送信とが「相当の関連性」を有するか否かは、当該ログイン情報に係る送信と当該侵害情報に係る送信とが同一の発信者によるものである高度の蓋然性があることを前提として、開示請求を受けた特定電気通信役務提供者が保有する通信記録の保存状況を踏まえ、侵害情報に係る送信と保存されているログイン情報とが開示可能な範囲内で最も時間的に近接したものであるかなどといった諸事情を総合勘案して判断されるべきであり、侵害情報に係る送信と時間的に一定の間隔があって近接していないというだけで関連性が否定されるものではないというべきである。
 これを前提として本件についてみると、本件アカウントは、複数人により管理され使用されているものとは認め難いこと、本件ログインと近接する時期に、本件アカウントにより本件記事とその関心事ないし話題が共通する投稿がされていることからすれば、本件接続元IPアドレスを使用して本件アカウントに本件ログインをした者は、本件投稿をした者と同一の個人であると認めるのが相当であることは、引用に係る原判決の第3の1(2)に記載のとおりである。
 また、引用する原判決の第2の1(5)及び(6)(補正後のもの)に記載のとおり、被控訴人が開示を求める本件ログイン情報は、仮処分決定を経てツイッター社から開示を受けたIPアドレスの割当先を調査した結果判明した、控訴人に割り当てられた73個のIPアドレスのうち、保存期間が経過しておらず、発信元IPアドレス、接続先IPアドレス、タイムスタンプ等により通信記録として特定可能であるとの控訴人の答弁を受けて特定されたものであって、本件投稿時から4か月が経過しているものの、本件投稿とは開示可能な範囲内で最も時間的に近接したものであるということができる。
 そうすると、本件投稿時と本件ログインは4か月以上が経過していることを挙げて、本件ログインに係る発信者情報が本件投稿と最も時間的に近接して行われた時点のものであるといえないとする控訴人の主張は採用できない。
(ウ)控訴人は、前記第2の3(1)ア(イ)のとおり、本件ログイン1及び本件ログイン2の前後において、控訴人以外の経由プロバイダを経由したログインが前後に十数件ないし数百件存在していることを挙げて、本件ログインに係る発信者情報は、本件投稿と最も時間的に近接して行われた時点のものであるといえない旨主張する。
 しかし、近時のスマートフォンやフリーWi-Fiの普及に鑑みれば、同一の個人が、控訴人以外の経由プロバイダを経由して本件アカウントにログインすることは不自然なこととはいえず、また、前示のとおり、本件ログイン後の投稿内容等を踏まえれば、本件投稿をした者と本件ログインをした者が同一の個人によるものと認められることからすれば、控訴人主張の事情は、本件ログイン情報と侵害情報との相当の関連性を否定する事情になるものではない。
イ 以上によれば、本件ログインに係る電気通信による送信は侵害関連通信であると認めることができる。
 そして、控訴人は、侵害関連通信である本件ログインの用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者(関連電気通信役務提供者)に該当するといえるから、改正法5条2項各号の要件を満たすときは、被控訴人は、本件ログインに係る発信者情報を侵害関連情報として開示請求することができるというべきである。
(2)権利侵害の明白性について
 控訴人は、前記第2の3(1)イのとおり、本件文書の作成当時、被控訴人が設立準備中であったとしても、設立準備中の団体から設立後の法人に承継される権利義務関係は、法人の設立それ自体を目的とする限度にとどまるものと解されるところ、本件文書の作成は、一般社団法人として設立行為それ自体とは無関係であり、そのような設立行為と無関係に作成された本件文書の著作権が設立後の被控訴人に承継されるとはいえない旨主張する。
 しかし、法人格を取得する前の団体の活動に関係して取得した財産関係については、設立準備行為に関係するものであるか否かにかかわらず、承継前の権利能力なき社団と法人を取得した団体との間における任意の合意いかんによるものであって、本件については、本件協議会と被控訴人が実質的に同一の事業活動を行ってきたものであることに加え、仮に、本件著作権を被控訴人が承継していないとすれば、本件文書の著作権の帰属先が失われることとなることをも考え併せると、本件においては、当然に被控訴人に承継されたものとみるのが相当である。
 そして、本件記事は、被控訴人の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであり、適法な引用の要件を満たすものではないことは、引用に係る原判決の第3の2(3)及び3のとおりであるから、侵害情報である本件投稿の流通によって被控訴人の権利が侵害されたことは明白である。
 以上によれば、控訴人のこの点に係る主張は採用できない。
3 結論
 以上によれば、被控訴人の請求は理由があるから、認容されるべきである。
 よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 中村恭
 裁判官 岡山忠広
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/