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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件K(2) 【年月日】令和4年12月26日 知財高裁 令和4年(ネ)第10083号 発信者情報開示請求控訴事件 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第14780号) (口頭弁論終結日 令和4年11月14日) 判決 控訴人(一審原告) X 同訴訟代理人弁護士 小沢一仁 被控訴人(一審被告) Twitter,Inc. 同訴訟代理人弁護士 中島徹 同 平津慎副 同 上田一郎 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 用語の略称及び略称の意味は、本判決で定義するもののほかは、原判決に従うものとする。 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 3 訴訟費用は、第1審、第2審を通じ、被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 (1)控訴人は、インターネット上の短文投稿サイトである「ツイッター」の利用者であり、その利用に当たって、自らのアカウント(原告アカウント)のプロフィール画像として、自らが著作権を有するイラスト(原告イラスト)がトリミングされた画像を設定していたものである(以下、アカウントのプロフィール画像として設定されることによりツイッター上で当該アカウントの画像として表示されるものを「アイコン」ということがあり、控訴人が上記のように設定したことにより控訴人のアカウントの画像として表示されるに至ったものを「原告アイコン」という。)。 被控訴人は、上記ツイッターを運営する米国法人である。 (2)本件は、控訴人が、氏名不詳者(本件投稿者)においてツイッター上に原告アイコンを含む控訴人のツイート(原告ツイート)のスクリーンショットを添付したツイート(本件ツイート)を投稿したことで、原告イラストに係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたとして、被控訴人に対し、令和3年法律第27号による改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の情報(本件ツイートに係るアカウントについて被控訴人が保有していた電話番号)の開示を請求する事案である。 (3)原審は、本件ツイートによる原告イラストの引用は適法なものであるから本件ツイートによって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであるとはいえないとして、控訴人の請求を棄却した。 原判決を不服として、控訴人が控訴を提起した。 2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり改め、後記3のとおり当審における控訴人の補充主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「2事案の概要」の2及び3並びに「第3争点に関する当事者の主張」に記載するとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決2頁7行目〜8行目の「別紙著作物目録」を「原判決別紙著作物目録」に、同頁12行目〜13行目の「含まれるように」から14行目の「設定した」までを「アイコンに含まれるものとなるように自らのツイッターアカウントのプロフィール画像を設定し、当該画像が丸くトリミングされた原告アイコンが作成された」にそれぞれ改める。 (2)原判決2頁22行目の「選択した」を「プロフィール画像として設定した」に改める。 (3)原判決3頁10行目の「である」の次に「(甲3の1)」を加え、同頁11行目の「閲覧可能な状態にある本件投稿画像には」を「表示されているのは本件投稿画像の一部であって」に、同頁13行目の「時点のもの」を「時点の状態である。」に、同行目の「本件投稿画像部分」を「その表示された部分(以下「本件投稿画像部分」という。)」にそれぞれ改める。 (4)原判決4頁6行目〜7行目の「作成したツイートのスクリーンショットを、」を「既存の他のツイートのスクリーンショットを作成し、これを」に改める。 (5)原判決4頁18行目の「不法行為」を「著作権侵害の不法行為」に改め、同頁20行目冒頭から21行目末尾までを削除する。 (6)原判決5頁24行目〜25行目の「リツイート機能」を「引用リツイート機能」に改める。 (7)原判決6頁23行目の「著作権者」を「プロフィール画像の著作権者」に改める。 3 当審における控訴人の補充主張 (1)本件投稿画像の引用が公正な慣行に合致しないこと ア 「Twitterサービス利用規約」(甲2。以下、単に「利用規約」という。)中の本件規定によると、他のツイートをスクリーンショットした画像をツイートに添付する行為が利用規約により許諾されていないことは、明らかである。本件規約に、他人のツイートをスクリーンショットで画像化して引用することを許諾する記載はない。本件規定において、「手順」とは、引用リツイート機能を指すもので、他に上記のような引用を許諾する記載もない。 この点、原判決は、上記のような行為が利用規約に反すると被控訴人が明言していないことを指摘するが、発信者側の利益をも考慮しなければならないコンテンツプロバイダである被控訴人において、発信者にとって不利益な行為をすることは容易でないから、上記の事情をもって規約違反を否定する理由とすることは不当である。また、原判決は、規約違反を理由としたツイートの削除がされていないことを指摘するが、日々膨大な量投稿されるツイートを被控訴人が逐一チェックして削除するなどおよそ考え難いことであり、また、被控訴人による削除があり得るとしても例えば殺害予告など緊急性の高いものが優先されると考えられるから、他人のツイートをスクリーンショットで画像化して引用することのみを理由に被控訴人が特定のツイートを削除することは考え難い。 イ 前記アのとおり、他人のツイートをスクリーンショットで画像化し、これを自身のツイートに掲載することが利用規約により許諾されている行為に含まれない以上、利用規約に基づいて本件ツイートによる複製ないし翻案、公衆送信権侵害が適法となることはない。 そして、ツイッターの全ユーザー(平成29年10月時点で日本における利用者数は4500万人ともいわれる。)が利用規約に従うとしてツイッターを利用していることからすると、利用規約が遵守されることがツイッターの全ユーザー間の共通認識となる。 これに対し、利用規約で許容されていない行為が一部の利用者により重ねて行われていたとしても、そのことをもって、膨大な数のユーザー間における慣行になっているとはいえない。事実上当該行為が黙認されているとしても、当該行為が話題にする事柄に興味のないユーザーもおり、興味があってもユーザー間の紛争に発展することを恐れて指摘しないユーザーも存在すると思われる。一部のユーザーが複数の規約違反行為を行っていることをもって公正な慣行に合致することを肯定する事情と評価することは、規約違反行為が繰り返されれば著作権法上は許容する、規約に反する行為であっても既成事実が積み重ねられれば適法となることを許容するというものであって、不当であることが明らかである。 ウ ツイッターユーザーは、原則として、利用規約を各ユーザーが遵守することを前提に利用規約に同意してツイッターを利用している。したがって、ユーザーは、自身のツイートに関し、ツイートをするとこれがツイッター上で公開され、ツイートを削除すると非公開となり、ツイートを削除していなくともプロフィール画像を変更すれば過去のツイートについても変更後のプロフィール画像が表示されることを前提として、ツイッターを利用している。 そして、プロフィール画像は、各ユーザーが管理するアカウントを識別するとともに、自身の個性を表現するものとして用いられるもので、ツイート本文の内容とは独立して自身の個性を表現するものである。 それにもかかわらず、将来価値観や考えの移り変わりなどから変更したいと考えたときに、スクリーンショットにより過去のプロフィール画像がツイッター上に残り続けることは、ツイッターを利用し続ける支障になり、利用規約へ同意することによって得た認識とも異なるものとなる。 したがって、本件ツイートにより控訴人が受ける不利益は大きいというべきである。 エ 仮に元ツイートが削除されたときに備えるということに一定の合理性があるとしても、本文やユーザー名のほかにプロフィール画像まで掲載する必要があるのかは疑問である。 また、原告ツイートは、現在もツイッター上で閲覧が可能である(甲20)。批判対象の原告ツイートが削除されたから保存していた過去のスクリーンショット画像を掲載するというのであれば、まだ分からなくもないが、現存するツイートをあえてスクリーンショット画像で掲載する必要はない。 したがって、ツイッター上で、現存するツイートをスクリーンショット画像で引用するというような慣行は存在せず、仮に存在するとしても公正なものではない。 (2)引用目的との関係で正当な範囲といえないこと ア 前記(1)エのとおり、本件ツイートにおいて本件投稿画像を掲載する必要性はそもそも存在しない。本件投稿画像を保存していたのであれば、本件投稿画像が実際に削除されたときに掲載すれば目的を達することができたのであり(ただし、プロフィール画像まで掲載することには疑義がある。)、本件ツイートの当時、あえて本件投稿画像を掲載する方法でツイートをしなければならない必要性はなかった。 イ 前記(1)ウで述べたとおり、プロフィール画像は本文とは独立した著作物である。また、出所を明示するにはユーザー名を表示すれば足り、プロフィール画像まで掲載する必要はない。本件ツイートの内容からしても、プロフィール画像まで掲載する理由はない。 以上の点の一方で、前記(1)ウの控訴人の不利益も考慮すると、本件投稿画像の掲載には相当性もないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、本件ツイートによる原告イラストの引用は適法なものと認められ、控訴人の請求には理由がないものと判断するが、その理由は、後記2のとおり改め、後記3のとおり当審における控訴人の補充主張についての判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第4当裁判所の判断」(以下、単に「原判決の第4」という。)の1〜3に記載するとおりであるから、これを引用する。 2 引用に係る原判決の訂正 (1)原判決10頁6行目〜7行目の「原告イラストの引用」を「原告アイコンを含む原告ツイートの引用による原告イラストの一部の引用」に、同頁13行目〜14行目の「選択し、これをトリミングして原告アイコンとして設定したことにより、」を「プロフィール画像として選択し、それがトリミングされて原告アイコンとされたことにより、その一部が」に、同頁15行目の「原告イラスト(原告アイコン)」を「原告イラストの一部から成る原告アイコン」に、同頁22行目の「本件イラスト」を「原告イラスト」に、同頁25行目の「引用は」を「利用は、引用として」にそれぞれ改める。 (2)原判決11頁3行目冒頭から10行目末尾までを次のとおり改める。 「しかし、そもそも利用規約は本来的には被控訴人とユーザーとの間の約定であって、その内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではない。また、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が利用規約違反に当たることも認めるに足りない。 他方で、批評に当たり、その対象とするツイートを示す手段として、引用リツイート機能を利用することはできるが、当該機能を用いた場合、元のツイートが変更されたり削除されたりすると、当該機能を用いたツイートにおいて表示される内容にも変更等が生じ、当該批評の趣旨を正しく把握したりその妥当性等を検討したりすることができなくなるおそれがあるのに対し、元のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする場合には、そのようなおそれを避けることができる。そして、現にそのように他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートするという行為は、ツイッター上で多数行われているところである(以上について、乙4〜6、弁論の全趣旨)。 さらに、自らのツイートと併せて、自らのアカウント名及びユーザー名に加えて自らが設定したプロフィール画像に係るアイコンが表示されることは、ツイッターのユーザーにおいては当然に了解していることと解されるところ、任意にプロフィール画像として設定し得る画像に基づくというその性質や上記のような表示態様も考慮すると、アイコンがツイートした者を特定する重要な一要素として利用されていることは明らかであり、文字列であるアカウント名及びユーザー名と比較した場合の画像の印象の強さ等を踏まえても、ツイートした者の特定において、アイコンがアカウント名及びユーザー名と同様に、重要な役割を果たしていることも容易に理解される。そうすると、ユーザーは、ツイートという表現行為において、その内容が当該ツイートをした時点において自らを特定する重要な要素の一つとされているアイコンと一体的に、表現主体及び表現内容を示すものとして取り扱われ得ることについても、相応の範囲で受忍すべきものといえる。 以上の諸点を踏まえると、スクリーンショットの添付という引用の方法や、当該方法によるアイコンの利用も、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得るというべきである。」 (3)原判決11頁11行目の「リツイート機能」を「引用リツイート機能」に改める。 3 当審における控訴人の補充主張について (1)公正な慣行について ア 控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする行為が利用規約に反することは明らかであり、それゆえ利用規約に基づいて本件ツイートによる公衆送信権侵害等について適法となることはないなどと主張する。 しかし、控訴人の上記主張は、利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることを前提にするものであって、相当でない。この点、控訴人は、利用規約が遵守されることがツイッターの全ユーザー間の共通認識となっているとも主張するが、当該主張も、結局は利用規約の内容によって直ちに著作権法32条1項にいう公正な慣行の内容が規定されることをいうものに帰し、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。特に、本件ツイート及びそこにおける原告ツイートの引用が批評という表現行為に係るものであることに照らしても、利用規約によってその態様ゆえにその引用としての適法性が直ちに左右されるとみることはできない。 イ 控訴人は、ユーザーにおいては、ツイートを削除していなくともプロフィール画像を変更すれば過去のツイートについても変更後のプロフィール画像が表示されること等を前提としてツイッターを利用していることや、プロフィール画像がツイート本文の内容とは独立して自身の個性を表現するものであるなどと主張する。 しかし、訂正して引用した原判決の第4の2(3)で説示したとおり、ユーザーは、自らのツイートの内容が当該ツイートをした時点におけるアイコンと一体的に表現主体及び表現内容を示すものとして取り扱われ得ることについても、相応の範囲で受忍すべきものであり、控訴人の上記主張も、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。 ウ 控訴人は、本文やユーザー名のほかアイコンまで掲載する必要があるのかには疑問があり、また、現在もツイッター上で閲覧可能な原告ツイートについて、これをあえてスクリーンショットで掲載する必要はないなどと主張する。 しかし、控訴人においては原告アイコンが原告ツイートの内容と一体的に取り扱われ得ることを相応の範囲で受忍すべきことは既に説示したとおりであり、また、原告ツイートが現在も閲覧可能であるとしても、仮に本件投稿者が引用リツイート機能を用いていた場合には、原告ツイートを削除等するという専ら控訴人の意思に係る行為によって引用に係る原告ツイートが削除等され、本件ツイートの趣旨等が不明確となるような事態が生じ得ることに照らして、原告ツイートが現在も閲覧可能であるか否かは、本件ツイートにおける引用の適否に直ちに影響すべきものではない。この点、原告ツイートが投稿されてから本件ツイートが投稿されるまでには約7年半という相応の長期間が経過しているところ、原告ツイートが現在も閲覧可能であり(甲20)、その間に特に控訴人がプロフィール画像を変更したといったことも認められないものであるが、一般的に、引用元ツイートが投稿後変更されることなく相応の長期間が経過した後であっても、引用リツイートの投稿を契機として引用元のツイートが変更や削除等されたりする可能性もあるから、上記相応の長期間の経過をもって直ちに本件ツイートにおける引用の必要性や相当性が否定されるものではなく、また、閲覧可能性や画像の変更の有無に係る上記各事情は、他方で、原告ツイートの投稿時から本件ツイートの投稿時までの間に、原告において原告アイコンを含む原告ツイートの変更や削除等をしなければならないような事情が他には生じておらず、本件ツイートにおける引用の必要性や相当性を判断するに当たり他に考慮すべき特段の事情がないことをうかがわせるものである。 したがって、控訴人の上記主張も、訂正して引用した原判決の第4の2(2)の認定判断を左右するものではない。 (2)正当な範囲について 控訴人は、本件ツイートにおいて本件投稿画像を掲載する必要性はなく、また、原告アイコンまで掲載する必要はなかったから、本件ツイートにおける引用は正当な範囲を超えたものであると主張するが、前記(1)で認定説示した点に照らし、上記主張も採用することができない。 第4 結論 よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 本多知成 裁判官 中島朋宏 裁判官 勝又来未子 (別紙)発信者情報目録 別紙対象アカウント目録記載のアカウントについて、令和3年5月28日時点で被控訴人が保有していた情報であって、次に掲げるもの。 @電話番号 (別紙)対象アカウント目録 閲覧用URL:https://以下省略 ユーザー名:A |
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