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【事件名】加圧ベルトの写真無断流用事件C 【年月日】令和4年12月22日 東京地裁 令和3年(ワ)第23925号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年10月25日) 判決 原告 株式会社サーナ(以下「原告会社」という。) 原告 A(以下「原告A」という。) 被告 B 主文 1 被告は、原告会社に対し、5万円を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、原告会社に生じた費用と被告に生じた費用の14分の11との合計の22分の21を原告会社の、22分の1を被告の各負担とし、原告Aに生じた費用と被告に生じたその余の費用を原告Aの負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告会社に対し、110万円を支払え。 2 被告は、原告Aに対し、30万円を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、原告会社及びその代表者である原告Aが、被告が原告会社の商品をインターネット上のショッピングサイトに出品した際に同商品の写真と説明文からなる画像(以下「本件画像」という。)を複製した上で掲載したこと(以下「本件掲載行為」という。)につき、それぞれ、被告に対し、以下の請求をする事案である。 (1)原告会社の請求(請求1) 本件掲載行為は、本件画像を複製した上でウェブサイトに掲載して公衆送信した点で、本件画像に係る原告会社の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害すると共に、原告会社の周知の商品等表示を使用し、また、競争関係にある原告会社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した不正競争であり、さらに、本件掲載行為により被告は法律上の原因なく原告会社の損失において利益を得たことから、著作権侵害の不法行為(民法709条)もしくは不正競争(不正競争防止法4条、2条1項1号、21号)に基づく損害賠償請求として、又は不当利得返還請求(民法703条)として、110万円の支払を請求する。 (2)原告Aの請求(請求2) 原告Aは、本件掲載行為への対応につき弁護士に相談することとなったことにより弁護士報酬及び交通費等の費用を負担すると共に、それに時間を要したことで営業機会を損失するなどしたことにより、少なくとも30万円を下回らない損害を受けたことから、民法709条に基づき、30万円の損害賠償を請求する。 2 前提事実 以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1)原告会社は、健康器具等の企画、製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社であり、原告Aは、その代表取締役である。(甲1) (2)原告会社は、平成26年2月1日、株式会社C(以下「C社」という。)との間で、原告会社が製造する加圧ベルト(以下「本件加圧ベルト」という。)等のインターネット販売を委託する販売権委託契約(商品専売契約)を締結した。同契約によれば、C社は、本件加圧ベルト等の販売を行うと共に、これを達成するため、「インターネット上における広告宣伝制作媒体の所有管理」等の業務を行うこととされている。 (甲14) (3)C社は、遅くとも平成31年1月までに、インターネットのショッピングサイトにおいて、次の画像(本件画像)を掲載して、本件加圧ベルトを販売した。(甲13、弁論の全趣旨) 【画像】 知的財産権承諾済の加圧ベルト 本件画像が言語ないし写真の著作物に該当することは、当事者間に争いがない。 (4)被告は、遅くとも平成31年2月頃までに、本件画像を複製した画像(以下「被告画像」という。)を作成し、自己の開設したYahoo!ショッピングサイトのショップ「(省略)」(以下「被告ショップ」という。)に本件加圧ベルトを出品した際、同出品に係るウェブページに被告画像を掲載した(本件掲載行為)。 なお、被告は、被告ショップにおいて本件加圧ベルトを受注した場合、原告会社等正規の販売店から本件加圧ベルトを購入して転売することを予定していた。(甲2、弁論の全趣旨) (5)被告は、令和元年6月20日、原告Aから本件掲載行為に関する問合せを受けたことから、本件加圧ベルトの出品を中止し、同出品に係るウェブページを削除した(甲5、弁論の全趣旨)。 なお、被告が本件画像の著作権を有する者の著作権(複製権及び公衆送信権)を少なくとも過失によって侵害したことは、当事者間に争いがない。 3 争点 (1)原告会社の不法行為に基づく請求 ア 職務著作該当性(争点1−1) イ 損害の有無及び額(争点1−2) (2)原告会社の不正競争防止法4条に基づく請求 ア 周知性の有無(争点2−1) イ 混同の有無(争点2−2) ウ 信用毀損の有無(争点2−3) エ 損害の有無及び額(争点2−4) (3)法律上の原因なき被告の利得及び原告会社の損失の有無(争点3) (4)原告Aの請求 ア 違法性の有無(争点4−1) イ 損害の有無及び額(争点4−2) 4 当事者の主張 (1)争点1−1(職務著作該当性) (原告会社の主張) 本件画像は、原告会社が本件加圧ベルトの広告素材として作成を計画し、原告Aが原告会社代表者として商品の置き方や撮影のアングルも含めてC社従業員に指示して作成したのであり、原告会社の商号も記載されている。 したがって、本件画像は、原告会社の発意に基づき原告会社の業務に従事する者が職務上作成した著作物であり、原告会社がその著作名義の下に公表したものであるから、原告会社の著作物であり(著作権法15条1項)、原告会社は、著作者として本件画像に係る著作権を有する。 (被告の主張) 否認し争う。原告AはC社従業員に助言を与えるなどしたに過ぎず、本件画像を作成したのはC社であるから、本件画像は原告会社の職務著作に該当しない。 (2)争点1−2(損害の有無及び額) (原告会社の主張) 原告会社は、被告が、本件画像を利用することにより需要者からは正規の販売代理店としか見えない状況において、本件加圧ベルトを正規販売代理店の約207%の価格で販売したことによって、本件加圧ベルトのブランドとしての価値等を大きく毀損され、信用を失った。 原告会社における本件加圧ベルトの平成31年1月分から同年6月分までの売上の規模に鑑みると、これによる原告会社の損害は110万円を下らない。 また、これらの事情を考慮すると、原告会社が本件画像に係る「著作権...の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)は、110万円を下らない。 (被告の主張) 否認し争う。 (3)争点2−1(周知性の有無) (原告会社の主張) 原告らは、本件加圧ベルトの販売のため、原告Aを著者として、本件加圧ベルト付きの加圧トレーニング及び本件加圧ベルトに係る書籍を有名出版社から出版した。また、本件加圧ベルトは、インターネットモール「楽天市場」のトレーニング器具部門で1位を獲得した。 これらの事情から、原告会社の商号及び本件著作物は、いずれも本件加圧ベルト又は原告会社の営業を表示する商品等表示として需要者の間に広く認識されているといえる。 (被告の主張) 否認し争う。加圧ダイエット自体一般に広く認識されていないし、書籍を出版したからといって広く認識されていることにはならない。また、インターネットモールに出品されている本件加圧ベルトの販売ブランド名として原告会社は記載されていない。 (4)争点2−2(混同の有無) (原告会社の主張) 被告は、本件画像をそのまま複製して自らの販売画面として利用したところ、本件画像の利用は、原告会社から許諾を受けた正規販売代理店にしか許容されていない。そのため、本件掲載行為によって、需要者が被告ショップを原告会社の正規代理店と誤認混同することは明らかである。 (被告の主張) 否認し争う。 (5)信用毀損の有無(争点2−3) (原告会社の主張) 前記(2)(原告会社の主張)のとおり、原告会社は、被告の本件掲載行為によりその信用を毀損された。 (被告の主張) 否認し争う。 (6)争点2−4(損害の有無及び額) (原告会社の主張) 前記(2)のとおり、原告会社が被った損害の額は110万円を下らない。 (被告の主張) 否認し争う。 (7)法律上の原因なき被告の利得及び原告会社の損失の有無(争点3) (原告会社の主張) 著作権侵害である本件掲載行為により、被告は、法律上の原因なく110万円の利益を受け、原告会社は同額の損失を受けた。 (被告の主張) 否認し争う。 (8)争点4−1(違法性の有無) (原告Aの主張) 著作権侵害等である本件掲載行為がされたことにより、原告Aは、その対応を弁護士に相談することとなり、弁護士への報酬及び交通費等の費用を負担すると共に、これに時間を要することによって営業機会を喪失するなどしたのであって、本件掲載行為は、原告Aとの関係においても違法である。 (被告の主張) 否認し争う。 (9)争点4−2(損害の有無及び額) (原告Aの主張) 原告Aは、本件掲載行為を受けて、6〜7名の人員で約12日間かけて対応しなければならず、営業機会を損失した。その上、弁護士への相談を余儀なくされ、弁護士報酬55万円及び交通費を負担することとなった。これらの事情を考慮すると、原告Aが被った損30万円を下らない。 (被告の主張) 否認し争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1−1(職務著作該当性)について (1)証拠(甲13、15、16)及び弁論の全趣旨によれば、本件画像は原告会社が本件加圧ベルトの広告素材として作成を計画したものであること、原告代表者である原告AがC社従業員に対して商品の置き方や撮影アングル等を具体的に指示して本件加圧ベルトの写真を撮影させ、撮影した複数の画像の中から実際に使用するものを原告Aが選択したこと、本件画像の説明文は原告Aが作成したものであること、説明文中に原告会社の商号が表示されていること等が認められる。これらの事情によれば、本件画像は、原告会社の発意に基づき原告会社の業務に従事する者が職務上作成した著作物で、原告会社が自己の著作の名義の下に公表するもの(著作権法15条1項)に該当するといえる。また、上記各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件画像の作成時における契約、勤務規則その他に本件画像の著作権に関する別段の定めはなかったとみられる。 したがって、本件画像の著作者は原告会社であり、原告会社がその著作権を有する(著作権法17条1項)。 これに対し、被告は、原告AはC社従業員に助言を与えるなどしたにすぎず、C社が本件画像の著作者であるなどと主張する。しかし、上記のとおり、本件画像は原告会社の職務著作といえるのであって、C社をその著作者とすべきことを裏付けるに足りる証拠はない。この点に関する被告の主張は採用できない。 (2)被告は、原告会社が著作権を有する本件画像を複製した上で被告ショップのウェブページに掲載して公衆送信したことから、原告会社の上記著作権を侵害したことが認められる。 なお、被告は、被告による本件画像の利用につき美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等(著作権法47条の2)として許容される旨を主張するものとも理解し得る。しかし、同条は、美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が、その原作品又は複製物を譲渡し、又は貸与しようとする場合に関する規定であるところ、被告が本件画像の原作品又は複製物の譲渡又は貸与の権原を有する者であることを認めるに足りる証拠はない。したがって、仮に被告がこれを主張する趣旨であるとしても、主張自体失当である。 2 争点1−2(損害の有無及び額)について (1)原告会社の信用毀損について 原告会社は、本件掲載行為によって原告会社がその信用を毀損されたなどと主張し、原告Aの陳述書にもこれに沿う記載がある。 しかし、本件掲載行為により原告会社の信用が低下したことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。原告Aの陳述書には、本件加圧ベルトの購入予定者や被告からの購入者から、原告会社及びC社に対して合計7件の苦情があったとの記載があるものの、苦情の具体的内容は明らかでなく、これらの苦情により原告会社の信用が低下したことをうかがわせる具体的な事情も見当たらない。そもそも、その存在を裏付ける客観的な証拠はない。 したがって、本件掲載行為によって原告会社の信用が毀損されたとはいえず、これを前提とする損害の発生も認められない。この点に関する原告会社の主張は採用できない。 (2)「著作権...の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)について 本件画像は、原告Aが、原告会社の商品である本件加圧ベルトの広告素材として、本件加圧ベルトの特徴等が伝わるよう工夫し、C社従業員に指示するなどして作成したものである。もっとも、その内容は、比較的簡素な宣伝文句と商品画像からなるものであるにとどまる。また、被告が本件画像を掲載した期間は、平成31年2月頃〜令和元年6月20日の約4か月間に過ぎない(前提事実(4)、(5))。これらの事情を総合的に考慮すると、本件画像の「著作権...の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」は5万円とするのが相当であるから、これをもって原告会社の損害額と認める。 これに対し、原告会社は、本件著作物の「著作権...の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」は110万円を下らないと主張する。しかし、これを裏付けるに足りる証拠はない。この点に関する原告会社の主張は採用できない。 3 その余の争点について (1)争点2−1(周知性の有無)及び争点2−2(混同の有無)について 原告会社は、原告会社の商号及び本件画像につき、いずれも本件加圧ベルト又は原告会社の営業を表示する商品等表示として需要者の間に広く認識されている旨を主張する。 しかし、そもそも、有名出版社により書籍が出版されたからといって、発行部数等を問わず当然に原告会社の商号等が商品等表示として需要者の間に広く認識されていたことにはならない。インターネットモールでのランキングについても、集計対象や集計方法等は具体的には明らかでなく、また、本件加圧ベルトの具体的な販売数等も不明であること等に鑑みると、原告会社の商号等が商品等表示として需要者の間に広く認識されていたことを裏付けるものとは必ずしもいえない。 したがって、原告会社の商号及び本件画像は、いずれも本件加圧ベルト又は原告会社の営業を表示する商品等表示として需要者の間に広く認識されているものとは認められない。 そうである以上、争点2−2(混同の有無)につき検討するまでもなく、この点に関する原告会社の主張は採用できない。 (2)争点2−3(信用毀損の有無)について 前記2(1)のとおり、本件掲載行為により原告会社の信用が毀損されたとはいえない。したがって、この点に関する原告会社の主張は採用できない。 (3)争点3について15 原告会社は、本件掲載行為による被告の利得及び原告会社の損失を主張する。しかし、これを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、この点に関する原告会社の主張は採用できない。 (4)争点4−1(違法性の有無)及び争点4−2(損害の有無及び額)について 原告Aは、本件掲載行為によって弁護士報酬等を負担することになると共に営業活動が妨害された旨主張する。しかし、原告Aが、原告会社代表者としての職務執行とは別に、個人として具体的な営業活動をしていたことを認めるに足りる証拠はない。そもそも、原告Aによる本件掲載行為に係る費用の負担及び営業活動への支障を裏付けるに足りる証拠はない。 したがって、この点に関する原告Aの主張は採用できない。 4 まとめ 以上より、原告会社は、本件画像に係る著作権侵害の不法行為に基づき、被告に対し、5万円の損害賠償請求権を有する。他方、原告Aは、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権を有しない。 第4 結論 よって、原告会社の請求は、5万円の損害賠償を求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、原告会社のその余の請求及び原告Aの請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判官 鈴木美智子 裁判長裁判官 杉浦正樹、裁判官 稲垣雄大は、いずれも差支えのため署名押印することができない。 裁判官 鈴木美智子 |
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