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【事件名】調理器具の写真無断流用事件H(2)
【年月日】令和4年12月21日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10085号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第15526号)
 (口頭弁論終結日 令和4年11月21日)

判決
控訴人 エス・アンド・ケー株式会社
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 瀬野和希


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、169万9982円及びこれに対する令和3年4月15日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
(以下、略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
1 事案の概要
 本件は、控訴人において、被控訴人が原判決別紙画像目録1及び2記載の各画像を複製して、その運営するオンラインショップ(被告ストア)のウェブページにおいて閲覧できる状態とした行為につき、これらの画像に係る控訴人の著作権(複製権)が侵害されたと主張して、被控訴人に対し、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金179万9982円及び不法行為後の日である令和3年4月15日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、本件請求につき、控訴人に対して10万円(オンラインストア1店舗当たり5万円の2店舗分)及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる限度でこれを認容し、その他の請求を棄却した。
 控訴人は、敗訴部分(179万9982円から10万円を控除した部分)を不服として控訴を提起するとともに、請求を原因付ける支分権に公衆送信権(送信可能化)を追加した。
2 前提事実
 次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の1(前提事実)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決2頁5行目の「「SCANPAN」(スキャンパン」の次に「。以下、その経営主体をスキャンパン社という。」を加える。
(2)原判決2頁17行目から18行目の「(以下「本件画像@〜F」という。)と組み合わせ(以下、組み合わせた画像を一括して「本件画像」という。)」を「(以下、番号に従い各画像を「本件画像@」のようにいう。)と組み合わせ(以下、本件画像@ないしGのうちのいずれかの画像を組み合わせた画像を一括して「本件画像」という。)」と改める。
3 争点
 原判決3頁2行目の「複製」の次に「又は送信可能化」を加えるほかは、原判決第2の2(争点)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
4 争点に関する当事者の主張
 次のとおり補正し、後記5に当審における控訴人の補充主張を付加するほかは、原判決第2の3(当事者の主張)に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決3頁12行目末尾に行を改め次のとおり加える。
 「 本件画像A中のフライパンの写真、本件画像B中の作業中の職人の写真3枚、本件画像C中のフライパンの写真2枚は、スキャンパン社から提供を受けたものであるが、本件画像@、F及びG中の各写真は控訴人が撮影した写真である。いずれの写真も控訴人がいつも社に提供し、控訴人の指示の下に同社が、控訴人の考案する文章や控訴人の選択する素材、配色、構図、フォントを配置、組み合せて控訴人独自の発想を表現して、本件画像@ないしGを作成したものであり、本件画像@ないしG又は本件画像はいずれも創作性を有するものである。」
(2)原判決3頁18行目の「複製」の次に「又は送信可能化」を、同頁22行目の「複製権侵害」の次に「又は公衆送信権侵害」をそれぞれ加える。
(3)原判決4頁16行目の「6万6666円」の次に「(当初、ウェブページ1ページ当たり6画像を使用していたとして損害賠償金をウェブページ1ページ当たり5万円としていたが、その後、1ページ当たり8画像を使用していたことが判明したことによる〔5万円÷6×8〕。)」を加える。
(4)4頁26行目の「複製権」の次に「又は公衆送信権」を加える。
5 当審における控訴人の補充主張(控訴人の損害額(争点3)について)
(1)仮に、本件画像@ないしFと本件画像Gとが一体としてみられる利用態様であったとしても、被告ストアにおいては、個別の商品の販売促進のため個別の商品ごとにウェブページが分けられ、本件画像が商品ごと、すなわちウェブページごとに独立して使用されている。したがって、全ウェブページが一体をなすものではないから、その複製又は送信可能化は、当該商品ごと又はウェブページごとにその数だけ行われたものである。したがって、損害賠償額は、少なくとも、当該無断複製又は送信可能化に係るウェブページ27ページ分の額となるはずである。
(2)本件画像は、控訴人が自ら取り扱う商品の販売促進のために制作されたものであり、そもそも第三者に使用許諾をすることは想定されておらず、料金体系など存在し得ない。このような場合、一般的に写真素材の使用許諾がされるときの使用料の相場を参考にして損害を算定せざるを得ないはずであり、そして、そのような使用料の相場の根拠となるのは写真のライセンス等を目的とするサービスの料金体系しかない。そうであれば、本件画像がレンタルや販売を目的としていないとしても、新聞社や写真素材等の利用料金表(甲5ないし7)を参考にせざるを得ないはずであり、レンタルや販売を目的としていないからといって上記各料金表を参酌しないのは、損害算定の方法として誤りである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件請求は、被控訴人に対して損害賠償金10万円及びこれに対する不法行為後の日である令和3年4月15日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。
 その理由は、以下のとおり原判決を補正し、後記2に当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決第3の1ないし3に記載されたとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決6頁12行目末尾に行を改め次のとおり加え、同頁13行目冒頭の「(2)」を「(3)」と改める。
 「(2)本件画像A及びC中のフライパンで調理中の食材を写した写真と本件画像B中のフライパンを製造している職人の写真は、スキャンパン社から提供を受けたものであることを控訴人は自認しており(スキャンパン社がこれら写真に係る著作権を控訴人に譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。)本件画像Fはスポンジを、本件画像Gは本件商品とスポンジを被写体としてありふれた態様で撮影した写真であり、本件画像中の文章はごくありきたりの広告文又は説明文にすぎないものの、これら素材の選択、配置及び組合せに全く選択の幅がないわけではなく、本件商品の特徴を分かりやすくする工夫も見られないではないし、個性の顕れも一応うかがわれるから、本件画像には創作性があるといえ、本件画像を著作物と認める。」
(2)原判決6頁18行目、同23行目、7頁14行目及び8頁10行目の各「複製」並びに7頁23行目の「複製行為」の次にいずれも「又は送信可能化」を加え、8頁14行目の「前記1(1)」を「前記第2の1(2)」と改める。
(3)原判決9頁3行目末尾に行を改め次のとおり加え、同頁4行目の「(2)これに対し、」を「(3)次に、」と改める。
 「(2)これに対し、控訴人は、いつも社に対し、本件画像等のデザイン制作業務を含む本件委託契約の対価としておよそ700万円を支払った旨を指摘するが、本件委託契約の業務内容や代金の支払方法等を考慮すると、その支払の多くは、画像の作成以外のウェブサイト関連業務サービスや検索エンジン最適化サービスの対価であると推認することができる(甲15ないし17)。」
(4)原判決9頁8行目冒頭から21行目末尾までを次のとおり改める。
 「 しかしながら、前述のとおり、本件画像@ないしFとそれぞれ異なる各本件画像Gとの組合せは一体としてみられるから、まず、各画像の複製又は送信可能化ごとに損害額を算定することは重複となり妥当ではない。また、控訴人指摘に係る毎日新聞社のPhotoBank(甲5)、朝日新聞フォトアーカイブ(甲6)及び株式会社アフロ(甲7)の各料金表は、本件証拠上、上記各料金表記載の価格が前提とする利用条件等が必ずしも明らかではないこと等からすると、これらの各料金表記載の価格を、本件画像の複製又は送信可能化により生じた控訴人の損害額算定に当たり、ウェブページ1ページごとに算定するものとすべき根拠とすることはできない。
 他方、控訴人は、控訴人の売上減少額を控訴人の損害としてみるべきである旨をも主張する。しかし、そもそも被控訴人による本件画像の利用と相当因果関係の認められる控訴人の売上減少及びその額の立証はない。この点を措くとしても、被控訴人による本件商品の販売実績を認めるに足りる証拠はないから、被控訴人が本件商品を販売したことによって控訴人の売上が減少したという関係も認められず、本件画像の利用と控訴人の売上減少との因果関係を検討する前提も欠けている。
 したがって、これらの点に関する控訴人の主張はいずれも採用することができない。」
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
 控訴人は、前記第2の5のとおり、@本件画像がウェブページごとに独立して利用されている以上、損害額はウェブページ数を基本に算定すべきである、A第三者に許諾することを想定していない著作物にも相場の利用料を参酌して使用料を算出するべきである旨主張する。
 上記主張に対して、引用に係る原判決の第3の3において説示するところを改めて敷衍すると、次のとおりである。
 すなわち、著作権法114条3項によって、著作権者が著作権侵害によって受けた損害の額とすることのできる「受けるべき金銭の額に相当する額」の算定に当たっては、当該著作物の利用回数あるいは当該利用から生じた利益等の、当該著作物の直接の侵害行為の物理的な分量に従うのみならず、当該著作物の利用期間、利用態様、当該著作物から享受できる内容又は価値、侵害者の内心の態様(同条5項参照)、当該著作物を利用する市場の状況、他の者への利用許諾の状況等の諸般の事情を総合考慮して定めるべきものである。
 本件についてみると、ウェブサイトの閲覧上、本件画像は本件商品の数に相当するウェブページで閲覧されるものではあるが、それらは一定の目的をもって一体化された画像の一部が使い回されているとみることも可能なものであり、本件画像ごとに複製又は送信可能化について損害額を算定することは妥当とはいい難い。そして、本件画像の利用期間も短期間であって、現に被告ストアで販売された本件商品も認められないということであれば、閲覧に供された回数も限定的なものと考えるのが自然である。さらに、本件画像中の写真の一部はスキャンパン社から提供された写真であって控訴人が著作権を有するものではないし、本件画像は商業的実用用途を目的とする著作物であって、むしろ、本件商品をありのままに表現することを主目的とするものと理解され、その表現される思想又は感情は限定的なものであるといえる。また、被控訴人に過失があることは免れないとしても、それは重大なものではない。
 ここで、写真についての利用許諾状況をみてみると、毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業使用する者に対し、2万2000円から4万4000円の使用料の支払を求めることがあり(甲5)、朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で使用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがあり(甲6)、株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに使用する者に対し、同一ウェブサイト内においては使用箇所を問わず、使用期間1年までの場合に2万2000円、使用期間3年までの場合に2万8600円、使用期間5年までの場合に3万3000円の使用料の支払を求めることがある(甲7)との事実が認められるものの、使用許諾される写真のサイズ、質等や、媒体の数、掲載場所等の使用許諾の際の利用条件の詳細が不明であり、これら使用料をそのまま本件における損害額の算定について参考とすることはできず、ましてや、上記使用料を参考として算定した額をウェブページ1ページ当たりの損害として損害額を算定すべきとする根拠ともならない。
 以上のとおりであり、本件記録に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件における損害額は、ストア(店舗)を基準にして1ストア当たり5万円とするのが相当であると認められ、控訴人の上記@の主張を採用することはできず、また、同Aに主張するところを参酌しても、上記結論は左右されない。
3 結論
 以上の次第であり、控訴人の本件請求は、被控訴人による本件画像の著作権(複製権及び公衆送信権)侵害の不法行為に基づき、被控訴人に対し、損害賠償金10万円及びこれに対する不法行為後の日である令和3年4月15日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を命じる限度で理由があるから、この限度で控訴人の請求を認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がないので、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 本吉弘行
 裁判官 中村恭
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