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【事件名】桜のイラスト侵害事件 【年月日】令和4年12月12日 大阪地裁 令和3年(ワ)第5086号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年10月7日) 判決 原告 P1 同訴訟代理人弁護士 拾井美香 被告 協和紙工株式会社 同訴訟代理人弁護士 小西憲太郎 同訴訟復代理人弁護士 山城尚嵩 同訴訟代理人弁護士 片木研司 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、2000万円及びこれに対する令和3年6月10日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、桜を題材とする後記原告各イラストを作成した原告が、被告による桜を題材とするイラストが描かれた後記被告各製品の販売行為が、原告各イラストに係る原告の著作権(複製権及び翻案権)並びに同一性保持権を侵害したと主張して、被告に対し、不法行為(民法709条)による損害賠償請求権に基づき、合計5544万円(著作権侵害による著作権法114条3項に基づく損害額4940万円、同一性保持権侵害による無形損害100万円、弁護士費用相当額504万円)の一部である2000万円及びこれに対する不法行為の後日である令和3年6月10日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実。なお、枝番号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含む。) (1)当事者 原告は、文具、雑貨等のイラスト及びデザインの作成等を行うイラストレーターである(甲1、2)。 被告は、紙及び紙製品の製造販売等を目的とする株式会社である。 (2)原告イラスト 原告は、遅くとも平成23年12月までに、別紙原告イラスト目録記載1のイラスト(以下「原告イラスト1」という。)を作成した。原告イラスト1を用いたポストカードは、同月から販売された。 原告は、遅くとも平成25年12月までに、原告イラスト1の花及びつぼみ等を拡大し配置等を変更する等してグリーティングカードに使用される別紙原告イラスト目録記載2のイラスト(以下「原告イラスト2」といい、総称して「原告各イラスト」という。)を作成した。((2)につき甲4、8、弁論の全趣旨) (3)被告各製品の販売 被告は、令和2年及び令和3年の各2月頃から4月頃に、別紙被告製品目録1ないし19記載の各製品(以下、目録の番号に応じて「被告製品1」などといい、各製品を総称して「被告各製品」という。また、被告各製品に使用されたイラストを、その製品の番号に対応し、「被告イラスト1」などといい、総称して「被告各イラスト」という。)を、「SAKURAGOCOCHI」シリーズとして販売した。 2 争点 (1)原告各イラストが著作物(著作権法2条1項1号)であるかどうか(争点1) (2)被告各イラストが、原告各イラストを複製ないし翻案したものであり、かつ同一性保持権を侵害するものであるかどうか(争点2) (3)被告に故意又は過失があったかどうか(争点3) (4)原告の損害額(争点4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 原告各イラストが著作物(著作権法2条1項1号)であるかどうか(争点1) 【原告の主張】 原告各イラストは、原告の思想又は感情を創作的に表現したもので、美術の範囲に属するものであるから、著作権法2条1項1号に定める著作物に該当する。 【被告の主張】 否認し、争う。 2 被告各イラストが、原告各イラストを複製ないし翻案したものであり、かつ同一性保持権を侵害するものであるかどうか(争点2) 【原告の主張】 (1)原告各イラストの表現上の本質的な特徴 原告各イラストの表現上の本質的特徴は、次の@〜Hのとおりである(以下番号に応じて「原告特徴@」などという。)。 @水彩絵の具のタッチで、背景全体に桃色を基調としてこれと相性のよい複数の色(濃いピンク、青みのあるピンク、明るいピンク、オレンジ等)全てをそれぞれ組み合わせてランダムにグラデーションをつけながら描いた上で、白い桜の花と一部重ねながら、背景の桃色と桜の花の色の中間色の白っぽい花の影を付している点 A@に加え、背景に適宜桜の花の白いスタンピングを描いている点 B正面から見た花と側面から見た花を適宜組み合わせた3〜6個の花を一つのまとまりとして描いている点 C花のまとまり同士の空きスペースに適宜桜の花を描いている点 D花弁を基本的に白色で、おしべ及びめしべ(以下総称する場合、「おしべ等」という。)の部分の花弁を桃色でぼかしながら描いている点 E正面から見た花では、5枚の花弁を放射線状に一体に、花弁ごとに区切らずに描き、花弁の中央部におしべ等を略放射線状にランダムな長さ及び角度で8本又は9本描き、その先端を茶色の小さい丸で描いている点 F側面から見た花では、5枚の花弁を略扇形に一体に、花弁ごとに区切らずに描いた上で、弧の部分にランダムに山を複数描き、花弁の下寄りの部分に茶色の細い線でおしべ等を略扇形状にランダムな長さ及び角度で6本又は7本描き、その先端を茶色の小さい丸で描いている点 G先端に白色のつぼみがついた茶色の花柄及びがく片を、花から適宜飛び出して描いている点 Hつぼみには完全に閉じた状態のものと、半開き状態のものがあり、前者はふっくらとした雫形状で、先端がやや尖っていて、がく片は3本であり、後者は略扇形で弧の部分にランダムに山を複数描き、がく片は基本的に4本となっている点 (2)被告各イラストと原告イラスト1との共通点 ア 被告は、被告各イラストを使用した被告各製品を販売しているところ、被告各製品の大半は、被告製品2に係るイラスト(被告イラスト2)のデザインを縮小、拡大及び切り取るなどして使用している。被告各イラストは、原告特徴Aがなく、原告特徴@の背景について青味のあるピンク色の配分が多い等若干色味に相違がある点を除き、原告特徴@及びB〜Hの特徴を全て有している。以下詳述する。 イ 原告特徴@について、原告イラスト1と被告各イラストの背景の色味の違いは微差であり、構成する色の組み合わせ、これらの色をランダムにグラデーションをつけながら描き、白い桜の花と一部重なるように白っぽい花の影を付している点が共通することから、全体的な印象は酷似している。 原告特徴Bについて、被告各イラストは、花のまとまりにおける花の個数が共通し、花の向きがランダムに描かれている点や、まとまり内の花の描写と配置、花と花との間隔の形状、花の傾きが原告イラスト1に酷似している。また、被告各イラストの花のまとまりの一部を反転させて合体すると、原告イラスト1の花のかたまりと完全に同じ配置となるものがある。 原告特徴Cについて、被告各イラストは、花のまとまり同士の間隔に正面から見た花を描いている点で原告イラスト1と共通する。被告各イラストに描かれた当該花は、原告イラスト1のものと花の外郭が近似するか、おしべ等のランダムな角度、描き方が酷似している。 原告特徴Dについて、被告各イラストの花弁には白色の色斑があるが、ほとんど目立たず、ほぼ白と評価できる。原告イラスト1と被告各イラストの花弁の中心部の桃色の違いは微妙なものであり、全体の印象を変えるものではない。 (3)共通部分が表現上の創作性を有すること ア 原告特徴@ 原告イラスト1は、背景の桃色と花の白色との中間色の桜の影を描くことにより、色の落差を緩和して背景と桜の花を融和させ、奥行き感を出し、桜の花が幾重にも重なっているように見せる等している。このような表現は、被告が指摘する被告各イラスト以外の桜を題材としたイラストには見られない、原告独自の形式及び工夫によるものである。 イ 原告特徴B及び同G 自然の桜は、1つの枝に10個以上の花が含まれている場合が多く、花の組み合わせ、つぼみの数、形状、飛び出し方等も様々である。これに対し、3ないし6個の花を一つのまとまりとして描き、1ないし3個のつぼみを花のまとまりから飛び出して描く表現(色、花柄の長さ・細さ、うねり具合等)は、原告なりの個性の表れである。他の桜のイラストに見られる表現とは、原告イラスト1の花のまとまりの描き方とアイデアのみが共通するもので、花やつぼみを含めた表現全体は異なる。 ウ 原告特徴Dないし同F 原告イラスト1における花の表現は、花弁とおしべ等の組み合わせ(形状、色、描き方等も含む)により作り出される。原告は、原告特徴Dないし同Fの点で、花が全体として可愛らしく、かつ美しく見えるように工夫しており、当該特徴を全て備えたイラストは他に存在しない。 エ 原告特徴G及び同H 原告イラスト1におけるつぼみは、先端につぼみがついたがく片及び花柄が花から飛び出している様子を描いたもの(形状、色、角度、画風を含む)が一つの表現であり、つぼみの色、つぼみの形状、水彩画のタッチで描かれている点、花柄の長さやうねり具合等の点に、原告独自の工夫、個性が表れている。原告特徴G及びHを全て備えたイラストは他に存在しない。 オ 全体的な構成 原告イラスト1は、原告特徴@のとおりの背景に、メインの桜の花について、花単体ではなく、正面から見た花、側面から見た花及びつぼみ等を適宜組み合わせて一つのまとまりとし(原告特徴B)、これをイラスト内に複数ちりばめている。さらに、桜の花及びつぼみの輪郭をぼかしながら白色で描いた上で、桜の花の可愛らしさと美しさの両方を表現できるように、おしべ等を簡単過ぎず、またリアル過ぎない本数、形状、角度、色等で表現を工夫して中心部に描いている。原告イラスト1は、このような構成及び表現により、メインの桜の花と背景の桃色が調和して奥行き感があり、桜の花がまとまりごとに描かれることによって華やかな印象を与える。また、背景の白っぽい影や背景の桃色等の色遣いにより桜の花が幾重にも重なり合っているように見え、かつ桜の各花の描きぶりにより可愛らしくも美しい印象に仕上がっている。したがって、このような原告イラスト1の全体的な構成自体にも、表現上の創作性がある。 (4)被告イラスト2から原告イラスト1の表現上の本質的特徴が直接感得できること ア 前記(3)のとおり、被告イラスト2は、原告イラスト1の表現上の本質的特徴である原告特徴@及びB〜Hが共通する上、その全体的な表現から原告イラスト1と同様の印象が得られる。 イ さらに、被告イラスト2は、次の特徴IないしR(以下「原告特徴I」などという。)の点で、原告イラスト1と重ね合わせると、個々の花の形状、おしべ等の角度及び長さ、つぼみ等の形状が一致し、細やかな表現に至るまで同一又はほぼ同一である(以下、被告イラスト2について、別紙被告イラスト2説明図記載の緑色枠で囲まれた各花等を、枠内の記載に応じて「花A」「つぼみa」などといい、原告イラスト1について、別紙原告イラスト1説明図記載の番号に応じて「花@」「つぼみ?」などという。)。 特徴I被告イラスト2の花Aと原告イラスト1の花Cの形状の近似性 特徴J被告イラスト2の花Cと原告イラスト1の花Aの形状の近似性 特徴K被告イラスト2の花Eのおしべ等と原告イラスト1の花Eのおしべ等の角度の一致又は近似性 特徴L被告イラスト2の花Bと原告イラスト1の花@の形状の近似性 特徴M被告イラスト2の花Bのおしべ等と原告イラスト1の花Dのおしべ等の7本中5本の長さ・角度の一致又は近似性 特徴N被告イラスト2の花Dと原告イラスト1の花Bの形状の近似性 特徴O被告イラスト2のつぼみaと原告イラスト1のつぼみ?の形状(輪郭、ふくらみ具合、白の分量)の近似性 特徴P被告イラスト2のつぼみbと原告イラスト1のつぼみ?の形状(同上)の近似性 特徴Q被告イラスト2のつぼみcと原告イラスト1のつぼみ?の形状(同上)の近似性 特徴R被告イラスト2のつぼみdと原告イラスト1のつぼみ?の形状(同上)の近似性 ウ 前記ア及びイのとおりの事情を踏まえれば、被告イラスト2に接した者は、原告イラスト1の表現上の本質的特徴を直接感得することができる。 (5)被告イラスト2以外の被告各イラストについて 被告製品10、同14及び同16は、伊予和紙に印刷されたものであることから、それらに用いられている被告イラスト10、同14及び同16と、被告イラスト2とは若干色味が異なる。しかし、通常、和紙はインクを良く吸い、 色が薄く出やすい性質を有し、原画よりも色を濃くして印刷されるのが一般的であるため、これらの製品は製造時に色が変化したものと考えられる。 マスキングテープである被告製品17は、桜の花の絵柄及びテープ内における花の量について、原告各イラストと酷似している。 被告製品の中には、花やつぼみ等のみを使用するものや、背景の色が異なるものがあるが、いずれも被告イラスト2をアレンジしたものであり、原告各イラストを複製ないし翻案したものと解するのが相当である。 (6)依拠性 ア 前記(1)ないし(5)のとおり、原告各イラストと被告各イラストの間には数多く共通点があり、その程度は偶然の一致では説明のつかないものである。 原告各イラストと被告各イラストは、いずれも絵描き・画像編集ソフトで描かれており、当該ソフトの機能を利用して、パソコン上で原告各イラストの原画をなぞり描きし、背景色の濃淡・色味を変更する等の加工を施せば、被告各イラストを容易に作成することができる。 イ 原告は、平成30年9月4日から7日にかけて東京で開催された見本市に出展し、原告作成にかかるデザインを採用したマスキングテープを含む商品を展示した。 被告の従業員は、この出展に訪れ、原告と名刺を交換した。原告は、その際、当該従業員から、被告がいわゆる100円均一ショップで販売する商品の企画製造を行っており、そのような商品に対するイラスト及びデザインの提供が可能であるかという打診を受けたが、断った。当該従業員が当時所属していた被告の企画部企画課は、被告が販売する商品の企画デザインを行う部門である。 このような事情に照らせば、当該従業員は、この見本市において原告が出品していた製品のデザインを気に入ったものの、原告からデザインの提供を断られたため、前記マスキングテープを模倣して、被告製品を企画製作したものと考えられる。 (7)まとめ 以上のとおり、被告各イラストは、原告各イラストの複製又は翻案及び原告の意に反する改変に当たる。 よって、被告各イラストが描かれた被告各製品を被告が販売する行為は、原告各イラストに係る原告の著作権(複製権及び翻案権)並びに著作者人格権(同一性保持権)を侵害する。 【被告の主張】 (1)原告特徴@及びB〜Hの共通点が認められないこと ア 被告各イラストは、次のとおり、原告特徴@及びB〜Hの特徴を有しておらず、原告各イラストとの間に、原告主張の共通点は存しない。 イ 原告特徴@ 背景は、前景との関係で特定され前景と一体となって具体的表現を構成するところ、原告イラスト1と被告イラスト2は、前景と背景の対応関係が共通していないため、具体的表現としての背景の共通性がない。また、原告が、「濃いピンク」、「明るいピンク」及び「オレンジ」と指摘する色は同一ではなく、被告イラスト2の背景には青みのあるピンクがあるものの、原告イラスト1の背景には青みのあるピンク色が存在しない。 ウ 原告特徴B 原告特徴Bは、「正面から見た花」及び「側面から見た花」が特定されておらず、いかなる具体的表現を問題とするかが不明である。この点を措いても、花のまとまりを構成する花の数は、原告イラスト1が5又は6個、被告イラスト2が3ないし5個で異なる。また、花のまとまりを構成する個々の花の大きさ、形状、角度、配置や、これらの花の組み合わせ方が異なる。 エ 原告特徴C 被告イラスト2には、花のまとまりに周囲を囲まれたスペースが存在し、そこに桜の花が描かれている。しかし、原告イラスト1において単独で描かれた桜の花は、その全周囲を花のまとまりに取り囲まれていないため、「花のまとまり同士の空きスペース」が存在しない。また、原告イラスト1と被告イラスト2において、単独で描かれた各花は、花弁の形状及び枚数並びにおしべ等の形状や本数が異なる。 オ 原告特徴D 原告イラスト1では、花弁が白くベタ塗りされ、その上に、ほのかに薄いピンク色を配色し、おしべ等の中心部から略同心円状に拡散させている。そのため、花弁は濃淡やムラがなく均一的で、丸みを帯びた輪郭となり、ピンク色の部分が周囲のベタ塗りされた白色の花弁との関係でアクセントとなり、おしべ等がぽわっと明るく、紅潮したような印象を与えている。 他方、被告イラスト2では、花弁が白色で重ね塗りされ、おしべ等の付近は、この重ね塗りが全くされていないか、極僅かにされているに留まる。その結果、花弁は濃淡やムラがあり、背景の色が透け、ぼんやりとした輪郭になり、おしべ等又はがく片付近では背景の薄いピンク色が濃淡やムラを伴って露出するような形で見える。そのため、おしべ等の付近の配色が目を引くことはなく、花弁及びおしべ等を含む花の外郭全体が一体として認識され、薄いピンク色から白色の範囲で重ね塗りされた濃淡やムラのあるぼんやりとした印象を与える。 カ 原告特徴E及びF 原告特徴E及びFは、「正面から見た花」及び「側面から見た花」並びに各要素が特定されておらず、いかなる具体的表現を問題とするか不明である。また、個々の花(花弁及びおしべ等を一体と見たもの)は、原寸大でも、大きさを揃えるために拡大又は縮小した場合でも形状(花の外郭、おしべ等の角度、長さ等)が異なる。 キ 原告特徴G つぼみは、花弁と同様にベタ塗りであるか重ね塗りであるかという点が異なる。そのため白色の濃淡やムラが異なり、同一色と認められない。また、原告イラスト1のつぼみの花柄等は、赤茶色のものと黒色のものが混在し、被告製品のものは、全てこげ茶色であるため、色が異なる。 原告特徴Gの「花から適宜飛び出して描いている点」が特定されておらず、いかなる具体的表現を問題とするか不明であるが、この点を措いても、花から飛び出すつぼみの本数や花柄の軌跡が異なる。 ク 原告特徴H 原告特徴Hの「完全に閉じた状態」及び「半開き状態」の「つぼみ」並びに各要素は特定されておらず、いかなる具体的表現を問題とするかが不明である。この点を措いても、つぼみ等を一体に見たものの形状(先端部のひねり、ふくらみ具合、白の分量)、長さ、向き等が異なる。 (2)共通部分が表現上の創作性を有しないこと 仮に、原告特徴@及びB〜Hについて、両イラストの間に共通する部分があるとしても、当該共通部分は、表現手法及びアイデア等表現それ自体でない部分か、表現であるとしても、他のイラストに見られるありふれた表現である。 したがって、原告イラスト1と被告イラスト2とで、共通する部分は、表現上の創作性がない部分に過ぎない。 (3)被告イラスト2から原告イラスト1の表現上の本質的特徴が直接感得できないこと ア 仮に、被告イラスト2及び原告イラスト1において創作的表現が共通するとしても、その創作性の程度が低い場合や、両イラストの間に多数の相違点がある場合には、共通点が被告イラスト2の中で埋没し、両イラストは全体として異なる印象を与える。そのため、被告イラスト2に接した者は、原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を直接感得することができない。 イ 原告が主張する原告特徴@及びB〜Hは、ほとんどがアイデアやありふれた表現等に係るものであり、創作性の程度が低い。 ウ 桜の花は、わが国で伝統的に親しまれてきた花であり、多くの人によって描かれ、そのイラストが大量に存在する。被告イラスト2に接する者は、自然に咲く桜の花やこれが描かれたイラストを幾度となく目にしたことがあるため、桜の花という主題が製品全体を通じてどのような構成で表現されているかという観点から、被告イラスト2を類型化して観察する。この場合、被告イラスト2は、個々の桜の花を一定のまとまりをもって描く構成によって表現しており、全体として花のまとまりを基本に把握される。 花のまとまりに注目した場合、原告イラスト1では3種類の花のまとまりが1回ずつ、被告イラスト2では5種類の花のまとまりが複数回にわたって描かれている点で異なる。また、両イラストの各花のまとまりを構成する花及びつぼみの個数、大きさ、形状、角度、飛び出し方及び配置等は異なる。 エ そのほか、例えば、原告イラスト1の中央付近には、白色でベタ塗りされた真横から見た花弁が2つ描かれ、当該花弁のがく片部分中央から略扇形状に拡散するようにほのかに薄いピンク色に配色されている。当該花弁は、原告イラスト1に描かれたその他の花と一見して形状が異なり、かつ同程度の大きさであり、配置場所が中央付近である上、がく片付近に配色された薄いピンク色がアクセントとなりがく片が明るく紅潮したように見えることから、イラストを見る者の目を引く。他方、被告イラスト2にはこのように描かれたものは存在しない等、多数の相違点がある。 オ 以上の相違点等の結果、原告イラスト1と被告イラスト2は、全体として異なる印象を与える。そのため、被告イラスト2に接した者は、原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。 なお、原告は、原告イラスト1と被告イラスト2の要素を重ね合わせて検証したとして原告特徴IないしRの共通性を主張する。しかし、おのおののイラストの各要素を適宜拡大、回転、引き伸ばし、画像を潰すといった編集をした上で重ね合わせを行っている。したがって、原告による検証は、実際の両イラストの各構成要素を重ね合わせたものではなく、その具体的表現の共通性を示していない。 (4)被告製品2以外の被告各製品について 被告製品9を例にとると、同製品は、縦55ミリメートル、横91ミリメートルのミニカード30枚からなるところ、ミニカードの四辺に沿うように桜が描かれている一方で中央には桜が描かれず、英文字及び蝶結びのイラストが描かれている。 また、被告製品19では、1シートあたり20片のダイカット(抜き型)シールが貼付された台紙(縦120ミリメートル、横90ミリメートル)4シートからなり、ダイカットシールには、様々な種類の桜が描かれている。このように、被告各製品に表れた具体的表現は各々異なる。 被告イラスト2の一部を用いた被告製品もあるが、被告イラスト2そのままの内容で被告各製品に使用されていない。 (5)依拠性 被告は、被告各イラストを作成するにあたり、原告各イラストに依拠していない。 原告主張の機会に被告従業員と原告が名刺交換をした事実は認めるが、当該従業員の当時の役職は事務職であり、デザイナーをスカウトしたり、イラストやデザインの提供を打診したりする権限は一切なく、原告に対しイラストやデザインの提供を打診することはない。 (6)小括 以上のとおり、被告各イラストは、原告各イラストの複製、翻案及び改変に当たらず、被告が被告各製品を販売する行為が、原告の著作権(複製権及び翻案権)並びに著作者人格権(同一性保持権)を侵害することはない。 3 被告に故意又は過失があったかどうか(争点3) 【原告の主張】 被告は、被告各イラストを付して文具を製造販売する業者であるから、自ら製造販売する製品に付されるイラストが他人の著作権等を侵害するものでないか調査及び確認する義務を負っていた。また、被告は、前記2【原告の主張】(6)のとおり、原告各イラストに依拠して、被告各製品を創作した。 よって、被告には、原告各イラストに係る原告の著作権及び著作者人格権の侵害について、故意又は過失がある。 【被告の主張】 否認し、争う。 4 原告の損害額(争点4) 【原告の主張】 (1)著作権侵害(複製権、翻案権)に基づく損害額 ア 被告各製品の譲渡数量 被告各商品は、いわゆる100円均一ショップで販売されたものであるところ、被告各製品が、令和2年及び令和3年の各2月頃から4月頃までに、約4000店の100円均一ショップの店頭等で大々的に販売されていたことからすれば、当該期間に製造販売された被告各製品の個数は、各20万個を下ることはない。 よって、被告各製品の譲渡数量は合計380万個(20万個×19種類)となる。 イ 単位数量当たり受けるべき金銭の額 原告が作成したデザインを利用した文具の市場での販売価格は、ポストカードであれば1枚150円(税抜き)、グリーティングカードやマスキングテープであれば1個260円(税抜き)である。原告が受けるべき金銭の額に相当する額は、原告のデザインに係る文具の標準価格である260円を基準に算定するのが相当である。 また、原告各イラストの使用料率が5パーセントを下ることはない。 ウ 原告の損害 以上から、著作権法114条3項に基づき、原告の損害額は、380万個に単価260円及び使用料率5パーセントを乗じた4940万円と推定される。 (2)著作者人格権(同一性保持権)に基づく損害額 原告は、全国的に展開される文具店等で販売される標準価格の文具・生活雑貨等のデザインの受注を維持するため、100円均一ショップのような格安販売店で販売される商品にデザインを提供することを避けてきた。 しかし、原告各イラストを改変した被告イラスト2が描かれた被告各製品が100円均一ショップ等で販売されたことにより、これと類似する原告各イラストに係る文具の価値まで低下し、原告の今後のデザイン受注に影響を及ぼしかねない事態となった。 以上に鑑みれば、被告の改変行為により生じた原告の無形損害を金銭に評価した額が100万円を下ることはない。 (3)弁護士費用 被告の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用の額が504万円を下ることはない。 (4)一部請求 原告は、前記(1)ないし(3)の合計額5544万円のうち、2000万円をその一部として請求する。 【被告の主張】 争う。 第4 当裁判所の判断 1 判断対象及び判断枠組 (1)判断対象 本件訴訟手続において、原告は、訴え提起の段階で、訴状添付の原告著作物目録(別紙原告イラスト目録と同様である。)記載のとおり原告が主張する著作権の対象作品を特定し、「被告著作物」を、別紙「被告著作物目録」記載のとおり被告製品1ないし2に使用された被告イラスト1ないし同2の一部と思われるイラストをもって特定したのみで、被告から対比すべきは被告各製品の具体的表現である旨の指摘があったにもかかわらず、口頭弁論終結に至るまで、被告各製品のそれぞれに使用される具体的な表現を特定して主張することはせず、専ら被告製品2に使用されたイラスト(被告イラスト2)と対比して、複製、翻案ないし同一性保持権侵害に当たる旨を主張するにとどまった。 このような原告の主張によっては、「被告著作物目録」のイラストと、被告各イラストの関係や、被告イラスト2と被告イラスト2以外の被告各イラストの関係が不明であって、原告イラスト1又は同2と対比すべき被告作成に係る表現物の特定自体に明確性の観点から疑問なしとしない。もっとも、前記のとおり、本件の審理を通じ、原告が、原告イラスト1と被告製品2に用いられた被告イラスト2を対比して複製権、翻案権の侵害等を主張したとの経緯にかんがみ、原告は、被告イラスト2が専ら原告イラスト1に係る著作権の侵害を主張するものとして以下判断し、被告イラスト2以外の被告各イラストについては、被告各製品がいずれも被疑侵害物件とされて審判対象となっていることから、被告イラスト2の判断結果を参酌しつつ、侵害の有無を判断することとする。 なお、原告の主張や立証には、原告各イラスト以外の原告作成に係る表現物(マスキングテープ等に利用されたもの等)を著作権侵害の根拠とするかのような内容も含まれているが、前記原告の請求及び主張に照らし、原告が本訴において請求の根拠とした著作物は原告イラスト1、同2以外ではあり得ないから、その余の原告表現物に係る主張ないし立証は審理の対象外である。 (2)判断枠組み ア 複製ないし翻案について 著作物の複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号参照)、既存の著作物に依拠し、これと同一のものを作成し、又は、具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解される。また、著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するに過ぎない著作物を創作する行為は、既存の著作物の翻案に当たらない(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 イ 同一性保持権について 既存の著作物の著作者の意に反して、表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に変更、切除その他の改変を加えて、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを創作することは、著作権法20条2項に該当する場合を除き、同一性保持権の侵害に当たる(著作権法20条、最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号244頁参照)。 ウ 本件においては、これら複製、翻案等の意義に照らし、被告各イラストが原告イラスト1又は同2の著作権の侵害に当たるかどうかを判断することとする。 2 認定事実 (1)桜の花の構造等について 証拠(甲25の1ないし3、乙30の4・5、乙32の4・5)及び弁論の全趣旨、公知の事実によると、桜の花につき、次の事実を認めることができる。 桜の花は、5枚の花弁(各花弁は離れている(離弁)。)、めしべ、おしべ、がくなどから構成される。めしべは、先端の柱頭と、基部の子房、これらをつなぐ柄のような花柱からなり、めしべの周囲におおむね均等におしべが(20本から40本程度とされる)あり、おしべは先端にやく(花粉が入った袋状の組織)と、それを支える花糸からなる。花の基部の花弁の外側は、がく片からなるがくが存する。花は花柄を介して花軸ないし枝と接続している。品種にもよると思われるが、開花する際は、枝分かれした端部(樹冠)で、複数の花が密集して咲くことが多い。花の色は、品種によって違いはあるが、白色から淡いピンク色が多く、また、花弁の基部に近い部分がピンク色から赤色になっているものもある。つぼみの状態では、側面視で概ね頂部がやや尖った略雫形であり、底部はがくが特徴的に把握される。 (2)原告イラスト1について ア 証拠(甲8の1)及び弁論の全趣旨によると、原告イラスト1は、官製はがき大の大きさの枠に、桜を想起させる後記各要素を用いて、次のような表現がされたイラストである。(配置は、縦長に置いたときのものである。) イ 桜を想起させる要素の主なものは、@正面視(めしべの花柱から柱頭方向の延長上から観察する態様)ないし若干の斜方視の、ほぼ完全に開花した状態の花であって、花弁は白色で基部付近はピンクないし淡いピンク色が不均一の色調でぼかしたように配され、それにおおむね重なるようにおしべ等とやくが(現実の桜よりもやや強調されて)黒色ないし茶色で6本から9本、花の正面視か斜方視かに対応して円形の放射状ないし扇形状に描かれ、花弁は現実の桜のように離弁しているという印象を与えないような一体感をもった態様で描かれたもの(以下「正面視花要素A」という)、Aほぼ完全に開花した状態の花を側方ないしやや斜め下方から上方視したものであって、がくと花柄が含まれ、花弁は@と同様に白色で基部がピンクないし淡いピンク色が不均一の色調でぼかしたように配色され、かつ現実の桜のように離弁しているという印象を与えないような一体感をもった態様で描かれたもの(以下「側面視花要素A」という。)、B側面視で描かれた未開花の花弁、がく(がく片が3本描かれている)及び花柄で構成されるつぼみを描いたもの(以下「つぼみ要素A」という。)、C白地にピンクないし淡いピンク色のかすれが配された不整形の略円状のまとまり(左下部にみられるように5枚の花弁を想起させるように配置されたものもある)(以下「かすれ要素A」という。)、D背景のピンク色のグラデーションが透過するような感覚を与える不整形の白みのかかったまとまりであって、@からCの要素と相まって、抽象化された桜の花を想起させるようなスタンピング(以下「スタンピング要素A」という。)である。なお、正面視花要素Aは、個々の花の大きさ、傾き、向き、おしべ等の本数などに違いがあり、一定のパターンを感じさせることはない。つぼみ要素Aは花柄の曲がり具合や大きさなどに多少の違いはあるが、おおむね同様の印象を与える。 ウ 正面視花要素A、側面視花要素A、つぼみ要素Aが、かすれ要素Aやスタンピング要素Aと重なったときは、前者の要素が上に配置されているように見えることから、原告イラスト1は色調の異なるピンク色や一部オレンジ色が、不明瞭にぼかし味をもちながら配色された背景(ベースレイヤー)に、かすれ要素Aやスタンピング要素Aがランダムに配置された背景の上層(レイヤ1)、正面視花要素A、側面視花要素A、つぼみ要素Aといったより自然の桜の花に近い要素が配置され(レイヤ2)、全体として奥行き感(立体感)を与えている。 エ 正面視花要素A、側面視花要素A、つぼみ要素Aは、枠をおおむね上下左右に4分割してみたときに、左上の区画のおおむね下半分に、5個の正面視花要素Aがまとまった印象を与える態様で描かれ、つぼみ要素Aがそのまとまりの左下から3個下方に向けてと、まとまりの右肩部から2個右ないし右上方向に向けてそれぞれ描かれ、左上の区画のその余の上半分は、左端部周辺には、下から側面視花要素A、正面視花要素A、いずれの要素に属するか特定できない白色部分が各1個ずつ見切れるように配置され、その右側にはつぼみ要素Aが3個、側面視花要素Aが上端で少し見切れるように配置されている。略右上の区画には、その区画のほぼ中央に、まとまりから受ける向きの印象としては左上から右下に斜め方向に、6個の正面視花要素Aがまとまった印象を与える態様で描かれ、つぼみ要素Aが、まとまりの左上部から左上方向に3個、右上部から右上方向に3個、左側部から左側方向に2個それぞれ描かれている。まとまりの右側と、少し離れた上部に、端で見切れるように正面視花要素Aが単体で描かれている。 略右下の区画には、正面視花要素A5個がまとまり(縦2列の花の列とみると、右側の列には3個がやや離れて描かれ、一番上の花は他の花に比べやや小さく描かれる。また、左側の列の花2個は接して(花弁が一部重なって)描かれ、上部(前記やや離れた小さな花の上部)には側面視花要素Aとつぼみ要素Aが各1個、前記左側の花の列の上部には側面視花要素Aが1個左上方向に描かれ、同要素の右に2個上方に、左に1個左方向に、つぼみ要素Aが描かれ、前記まとまり全体の右側に3個、下方に3個、右方に2個、それぞれまとまりから外側に向けてつぼみ要素Aが描かれている。 左下部は、正面視花要素Aが単独で2個間隔をもって配置されており(一個は下端で見切れている。)、まとまりを感じさせる要素の配置はなく、背景ないしレイヤ1のスタンピング要素Aやかすれ要素A(前記のとおり、かすれ要素Aが正面視の花のように配置されている)の印象が大きくなっている。 なお、正面視花要素Aの各まとまりの形態は相互に異なる印象を与え、全体として1枚の絵を構成するような印象を受けるものとなっている。 (3)原告イラスト2について 証拠(甲8の2の2枚目)及び弁論の全趣旨によると、原告イラスト2は、原告イラスト1にみられる桜を想起させる要素を用い、所定の枠にその配置を原告イラスト1とは異なる態様で配置したものと認められるが、前記のとおり、原告自身は、特に原告イラスト2に固有の表現に基づく被告各製品との対比を具体的に主張しないので、これ以上に具体的な認定の要をみない。 (4)被告イラスト2について ア 被告イラスト2は、縦26センチメートル、横31センチメートル、襠(まち)が11センチメートルの、広げると直方体状になる紙袋の側方に、一辺を開始線として底面を除く各面に連続的に、桜の花を想起させる要素(原告イラスト1と同様の視点でみると、それぞれ、正面視花要素B、側面視花要素B、つぼみ要素B、スタンピング要素Bが看取できる。各要素の詳細は後述する。)を配置して描かれたものである(甲9の2、乙2の1、弁論の全趣旨)。 イ 紙袋を折りたたんで正面(取っ手ひもの付された面)から観察した場合、後記各要素のまとまりが、見切れたものを除き、横方向に4個から5個、縦方向には3個から4個配される態様で配置され(折りたたんだ正面全体では大部分見切れているものを除き、15から20個のまとまりが配されている。)ているが、各まとまりが列をなすとの印象を与えるほどの規則性はない。また、正面視で横方向に見切れているものは、紙袋を袋体にすると、前記開始線部分を除き、側面に連続して描かれている。 ウ 桜の花を想起させる要素の具体的態様は次のとおりである。 @正面視花要素Bは、正面視花要素Aと同様に、正面視ないし若干の斜方視の、ほぼ完全に開花した状態の花を描いたものであり、花弁はごく薄い赤みないし青みのかかった紫色の下地に、透明感のある白の小さなおおむね丸いドットが重なるように多数配されて前記薄紫の下地が透けて看取できる態様で描かれ、基部付近は前記下地が少しずつ濃さないし明るさを増した紫調にぼかしたように配色され、それにおおむね重なるようにおしべ等とやくが(現実の桜のものよりもやや強調されて)黒色ないし茶色で6本から9本、花の正面視か斜方視かに対応して放射状ないし扇形状に描かれ、一枚一枚の花弁の独立は、とりわけ斜方視の花はさほど意識されない態様で描かれている。また、A側面視花要素Bは、花弁の形状の描き方に応じて3パターンがあるが、いずれもがく片が4片描かれ、花柄はゆるく湾曲して描かれており、花弁の描き方は正面視花要素Bと同様に白いドットが描かれ、前記薄紫の下地が透けて看取できる。Bつぼみ要素Bは、側面からつぼみ状態の花を描き、基部はがく片を3片描き、花柄はわずかに湾曲して描かれており、花弁は、中央にやや淡い紫色が配されている。Cスタンピング要素Bは、透明感のある白色の不整形のもののほか、完全に開花した花を正面視で見た花弁をかたどったものがみられ、いずれもかすれ感がある。 エ そして、正面視花要素B、側面視花要素B及びつぼみ要素Bは、別紙被告イラスト2分析図に記載のとおり、5個の正面視花要素Bを一方に3個、もう一方に右2個、2列に配し、3個の列が左側になる方向からみたときに、側面視花要素Bを上部と左下に左向きに各1個、つぼみ要素Bを上部及び左上部に各1個並びに右側部に2個それぞれ外向きに配したまとまり(同分析図のαで示されるまとまり)、5個の正面視花要素Bを上段に2個、下段に3個配し、下段の右下から側面視花要素Bを右下方向に、つぼみ要素Bを左下方向に各2個を配したまとまり(同分析図のβで示されるまとまり)、3個の正面視花要素Bを3角形に配し、つぼみ要素Bを2個、側面視花要素Bを1個配したまとまり(同分析図のγで示されるまとまり)、4個の正面視花要素Bを略四角形状に配し、側面視花要素Bとつぼみ要素Bを各1個、つぼみ要素Bを2個及び側面視花要素Bを1個配したまとまり(同分析図のδで示されるまとまり)、3個の正面視花要素Bを三角形状に配し、他方につぼみ要素Bを2個並びに側面視花要素Bを1個及びつぼみ要素Bを1個外側に向けて配したまとまり(同分析図のεで示されるまとまり)をおのおの構成し、これらのまとまりが、向きをランダムに回転させて不均一に配置されているほか、これらのまとまりの形状の関係でできた空所に適宜正面視花要素Bが単独で配されている。 オ その余の部分は背景を構成しており、赤みのある紫、青みのある紫、オレンジ色などがグラデーション、ぼかしを伴って全体としてはマーブル状に彩色され、さらに前記すかしを伴ったスタンピング要素Bがランダムに散りばめられている。スタンピング要素Bの透け感の与える印象は強く、マーブル状の彩色と一体となって背景を構成しているようにとらえ得るものである。 (5)桜を題材としたイラスト 桜を題材としたイラストとして、原告イラスト1及び被告各イラスト以外に、次のようなものが認められる。 なお、ここで認定した他のイラストは、乙第56号証の3ないし5を除き、原告イラスト1の公表前に作成されたか否かは明らかでないが、桜はわが国の春を象徴する花として古来より無数に絵に描かれてきたことは公知の事実に属し、現時点において前記のとおりの各表現が用いられているイラストが多数存在する事実は、原告イラスト1が作成された平成23年当時においても、当該表現が桜を表現する際に用いられる一般的な表現であったことをも証するものである。 ア 白色ないし薄いピンク色の桜の花の背景を、ピンク色を基調とし、ピンク色に濃淡をつけ、ランダムに水彩画のようなタッチで、グラデーションを付けながら描いているイラスト(乙22の4、22の6、22の7、50の5、50の6)。 さらに、ピンク色の色味に白味、赤味、黄味及び青味が強いピンク色を含むイラスト(乙22の3、22の5、22の8、22の9、50の1〜50の4、50の7、50の8)。 イ 正面又は側面から見た花の形及び花びらの形を、背景のピンク色と、花弁の白色ないし薄いピンク色の中間色で、影のように描いているイラスト(乙22の3〜22の6、50の1〜50の8)。 ウ 正面又は斜め上から見た花を、複数個(4〜6個)をひとまとまりとして描いているイラスト(乙29の5〜29の8、51、52)。 エ 花のまとまりが描かれていない箇所に、正面から見た桜の花を描いているイラスト(乙52)。 オ 花弁全体を白色ないし極薄いピンク色に塗り、おしべ等を描く部分を薄ピンク色で、中心が濃く、周囲に向けて薄く、輪郭がはっきりしないように描いているイラスト(乙53、56の1、56の2)。 カ 正面から見た花の5枚の花弁を、花弁毎に区切らず放射状に一体に描き、かつ花弁の中央部におしべ等を略放射状にランダムな長さ及び角度で描き、その先端に茶色ないしこげ茶色の小さい丸を描いているイラスト(乙26の7、26の10、27の7、27の8、29の9、30の6〜30の9、39の2、39の4、39の5、54の9。なお、おしべ等の色が茶色ないしこげ茶色でないものも含まれる。)。 さらに、おしべ等の本数が8本ないし10本であるイラスト(乙54の1〜54の3、54の5、54の8)。 キ 斜め上から見た花を、5枚の花弁を区切らずに一体にして略扇形に描き、弧の部分にランダムに山形を複数描き、おしべ等が描かれているイラスト(乙54の3の2、55の8)。 一枚のみ花弁を区別するがその余の花弁を一体に描き、弧の部分にランダムに山形を複数描き、花弁の下寄りの部分におしべ等を略扇形状に描いているイラスト(乙54の11、55の1、55の4)。 斜め上から見た花で花弁の下寄りの部分におしべ等を略扇形状にランダムな長さ及び角度で描き、その先端に小さな丸が描かれているイラスト(29の4、29の5、55の3)。 ク 先端につぼみがついたこげ茶色の花柄等を、花のまとまりから飛び出るように描いており、つぼみが2本及び3本がセットであるイラスト(乙26の7、29の6、29の7、51の1〜51の5、52の2、52の3、56の1、56の9、56の10、56の12。ただし、乙29の7、51の3のイラストは花柄等が緑色である。)。このうち、つぼみの色が白色のイラストが複数ある(乙29の6、52の2、52の3、56の1)。 ケ 先端がやや尖り、ふっくらとした雫形状の完全に閉じた状態のつぼみと、略扇形で弧の部分がランダムな複数の山形の半開き状態のつぼみを描き、前者のがく片が3本、後者のがく片が4本であるイラスト(乙26の7)。 閉じたつぼみをふっくらとした雫形状で、先端がやや尖っているように描いたイラスト(乙25の6、55の7)、閉じたつぼみのがく片を3本描いているイラスト(乙32の6、56)、当該2つの特徴双方を描いたイラスト(乙32の7〜32の9、39の7)。 半開きのつぼみを略扇型で弧の部分にランダムな山形を複数描いたイラスト(乙29の6、54の11、56の10)、さらにがく片が基本的に4本であるイラスト(乙26の7、55の9、56の7、56の11)。 3 争点2(被告各イラストが、原告各イラストを複製ないし翻案したものであり、かつ同一性保持権を侵害するものであるかどうか)について(被告イラスト2に関する判断) 前記2の認定によると、原告イラスト1は、現実の桜にみられる要素を原告なりの手法により適宜デフォルメして表現し、それらを組み合わせた上、認定に係る背景を付した所定の用紙上に配置するなどして1個のデザインとして完成させたものであって、認定した表現を含む表現の総体としては原告の個性が現れたものであって創作性があるといえ、著作物性を一応肯定できる(争点1)。 よって、進んで争点2について判断する。 この点、原告は、原告特徴@〜Hが原告イラスト1の表現上の本質的な特徴であり、そのうち原告特徴@及びB〜Hが被告各イラストと共通し、被告各イラストに接した者が原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を直接感得することができると主張するところ、原告は、主に被告イラスト2との対比において複製ないし翻案を主張したので、まず被告イラスト2について検討する。 (1)原告特徴@について 原告主張の原告特徴@は、前記第3の2(1)に主張のとおりであるところ、ここでいう「背景全体」とは、花の白いスタンピング(かすれ要素A)が原告特徴Aとして特定されてこれが除かれていることから、原告イラスト1から、正面視花要素A、側面視花要素A、つぼみ要素A、かすれ要素Aを除いた部分をいうものと解される。 そして、前記認定によると、同部分の具体的態様は、「色調の異なるピンク色や一部オレンジ色が、不明瞭にぼかし味をもちながら配色された」ものであって、これと対応する被告イラスト2の要素としては、「赤みのある紫、青みのある紫、オレンジ色などがグラデーション、ぼかしを伴って全体としてはマーブル状に彩色され、前記すかしを伴ったスタンピング要素Bがランダムに散りばめられている」背景部分が該当する。 この点、原告イラスト1と被告イラスト2の背景部分は、そもそもの枠の大きさが異なることに伴う広がりの規模や、背景として認識される部分の形状が大きく異なって特段の共通点を見出し難い上、被告イラスト2における、赤みのある紫、青みのある紫、オレンジ色などがマーブル状に彩色されている点は、原告イラスト1にはみられない被告イラスト2の特徴というべきであって、これらの相違点の与える影響は大きなものがある。 したがって、原告特徴@で指摘する内容は、被告イラスト2との共通点を構成しないというべきである。 (2)原告特徴Bないし同Cについて 原告は、原告特徴B及び同Cが被告イラスト2にもみられると主張するところ、前記認定によると、原告イラスト1には、5または6個の正面視花要素A等で構成されるまとまりが台紙の略左中央上、略右上及び略右下の3か所にあることが認められる。また、原告特徴C中の「空きスペース」に描かれた「適宜桜の花」が具体的に何を指すかは必ずしも明らかではないが、右上上端及び左中下端に見切れた正面視花要素Aが各1個、台紙略左下のおおむね中央に正面視花要素A1個をいうものと解され、これらが同位置に配されている。 一方、被告イラスト2においては、3個の正面視花要素B等で構成されるまとまり(別紙被告イラスト2分析図でいうγ及びεのまとまり)、4個の正面視花要素B等で構成されるまとまり(同分析図でいうδのまとまり)、5個の正面視花要素B等で構成されるまとまり(同分析図でいうα及びβのまとまり)が、袋体正面では15から20個、前記αからεまでのまとまりが回転を加えたうえでやや不規則に被告イラスト2の枠を埋めるように配されている。また、これらのまとまりが不整形な形状のためにできたまとまりのない部分に正面視花要素Bが単独で配されている。 そして、原告イラスト1にみられるまとまりと、被告イラスト2におけるまとまりを、それ自体で相互に比較しても、各構成要素(正面視花要素、側面視花要素、つぼみ要素)の構成や形態において同一のものは認められない上、被告イラスト2においては、まとまりの数自体や、まとまりの繰り返しによって与えられる印象が強く、後述の各構成要素の相違点と相まって、「5ないし6個の桜の花をまとまって描く」というアイデアのレベルを超えた具体的な表現上の共通性を認めることはできない。また、桜の花を数個まとめて描くこと自体は、自然の桜を描写する際に自然に着想することであって、他の桜のイラストにもみられるありふれたものといわざるを得ない。また、原告特徴Cについても、原告イラスト1においては、被告イラスト2との対比において、まとまりとまとまりの間隔というものは観念しづらく、むしろまとまりの配置のない略左下部に1個の正面視花要素Aを配したとの印象が強く、具体的表現における共通性を感得できない。 以上によると、原告特徴B及び同Cで指摘される内容は、被告イラスト2にみられる特徴とはいえず、共通点は認められない。 (3)原告特徴D、同E及び同Fについて 原告は、正面視花要素Aに関して、原告特徴D、同E及び同Fが特徴であり、同特徴が被告イラスト2にも存すると主張する。 この点、まず、正面視花要素Aと同Bの花弁についてみると、前記認定のとおり、原告イラスト1における花弁は、「白色で基部付近はピンクないし淡いピンク色が不均一の色調でぼかしたように配されている」のであり、花弁の白と背景のコントラストが強く意識される一方、被告イラスト2における花弁は「ごく薄い赤みないし青みのかかった紫色の下地に透明感のある白の小さなおおむね丸いドットが重なるように多数配されて前記薄紫の下地が透けて看取できる」態様で描かれており、花弁それ自体も淡く着色されている上、背景とのコントラストは弱く、全体として正面視花要素Bは同Aと相当に異なった印象を受けるものである。したがって、原告特徴Dが被告デザイン2にも備わっているとは認められない。また、原告特徴E及び同Fについてみると、完全に開花した桜を正面視で「5枚の花弁を放射線状に一体に、花弁ごとに区切らずに描き、花弁の中央部に略放射線状にランダムな長さ及び角度で8本又は9本描く」ことや、同様にやや斜方視で、「5枚の花弁を略扇形に一体に、花弁ごとに区切らずに描いた上で、弧の部分にランダムに山を複数描き、花弁の下寄りの部分に茶色の細い線でおしべ等を略扇形状にランダムな長さ及び角度で6本又は7本描き、その先端を茶色の小さい丸で描いている点」は、前記認定に係る自然の桜の態様及び他のイラストの表現に照らすと、桜のイラストにみられるごく一般的な表現であり、ありふれたものであって、そもそもかかる特徴は、原告イラスト1の本質的特徴に当たらない。 (4)原告特徴G及び同Hについて 原告主張の「先端に白色のつぼみがついた茶色の花柄及びがく片を、花から適宜飛び出して描いている点」(原告特徴G)及び「つぼみには完全に閉じた状態のものと、半開き状態のものがあり、前者はふっくらとした雫形状で、先端がやや尖っていて、がく片は3本であり、後者は略扇形で弧の部分にランダムに山を複数描き、がく片は基本的に4本となっている点」についても、前記認定に係る自然の桜の態様及び他のイラストの表現に照らすと、桜のイラストにみられるごく一般的な表現であり、ありふれたものといわざるをえず、原告イラスト1の本質的特徴に当たらない。 (5)その余の原告の主張について 原告は、原告イラスト1には、原告特徴Iないし同Rといった特徴があり、これが被告イラスト2にもみられると主張する。 しかし、前記判示の趣旨に照らすと、個々の正面視花要素Aと同Bないしつぼみ要素Aと同Bなどの表現は、桜のイラストにもみられるごく一般的な表現であり、ありふれたものであって、これらが近似することから被告イラスト2に原告イラスト1の本質的特徴が感得できることにはならない。 (6)まとめ 以上のとおり、被告イラスト2は、アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上創作性がない部分において原告イラスト1と同一性を有するにとどまり、これに接する者が、原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を感得することはできないから、依拠性を判断するまでもなく、原告イラスト1の複製及び翻案に当たらない。よって、被告イラスト2を用いた被告製品2を被告が販売した行為は、原告の原告各イラストに係る複製権及び翻案権を侵害するものとはいえず、同様に、同一性保持権を侵害するということもない。 4 争点2(被告各イラストが、原告各イラストを複製ないし翻案したものであり、かつ同一性保持権を侵害するものであるかどうか)について(被告イラスト2以外の被告イラストに関する判断) (1)被告製品2以外の被告各製品の態様について 証拠(甲4、6、8、37、乙1〜20)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 被告製品1 被告製品1は包装紙であり、全体に桜を題材としたイラスト(被告イラスト1)が描かれ、その要素および表現手法は被告イラスト2のものと共通しており、桜のまとまりを繰り返し不規則に配置されて紙全体にまとまりが配置されている。被告製品1に使用される被告イラスト1は、被告イラスト2よりも色味が若干薄いが、全体的な印象は異ならない。 イ 被告製品3 被告製品3は、ポケットタイプのウェットティッシュであり、取出口に貼られたシールに桜を題材としたイラストが描かれ、「SAKURAGOCOCHI」等の英文字が金色調で中央縦向きに配されている。イラストが描かれる領域が被告製品2と比較して小さいため、被告イラスト2と比較した場合、全体的にイラストの各要素の大きさが6分の1程度に縮小され、かつ5種類の花のまとまりの配置及び花のまとまりが描かれている数が異なるものの、その要素および表現手法は被告イラスト2と共通している。 ウ 被告製品4 被告製品4は便箋であり、その表紙のデザインは、左上角と右下角に、被告イラスト2にみられるような正面視花要素B、側面視花要素B及びつぼみ要素Bが、概ね3個まとめてか単独で複数描かれている。これらが描かれていない部分には、明るい青みのある紫又は赤みのある紫、オレンジ色などがぼかされたマーブル状の背景(被告イラスト2にもみられるものよりも、相当に明るい)に、スタンピング要素Bがちりばめられたイラストが描かれている。表紙には「SAKURAGOCOCHI」「LETTERPAPER」等の英文字や、「伊予和紙」との語が金色調で中央に配されている。 内部の便箋のデザインは、前記表紙に描かれたものから要素の数が減っているが、おおむね表紙と同一である。 エ 被告製品5 被告製品5は、A5サイズの中綴じノートである。ノートの外装(表表紙及び裏表紙)に、被告イラスト1(又は同2)に描かれたイラストの一部が縮小されて使用されている。また、表紙下方中央に「SAKURAGOCOCHI」等の英文字が金色調で配されている。 オ 被告製品6 被告製品6は75ミリメートル四方のメモパッドである。表紙は、被告イラスト2の1部が縮小されて背景として使用され、中央大部分(周囲1センチメートル弱内側)に角を丸めた背景が透ける白い正方形が配され(表紙以降の紙でメモのスペースとして使用される部分)、表紙には、「SAKURAGOCOCHI」「BLOCKMEMO」等の英文字が配されている。 カ 被告製品7 被告製品7は70ミリメートル四方の付箋であり、外周に被告イラスト2と同様の(大きさは縮小されている。)正面視花要素B、側面視花要素B、つぼみ要素Bが配され、その余は淡いピンク色や淡いオレンジ色のぼかしにスタンピング要素Bが適宜配置されている。また、上辺中央に「SAKURAGOCOCHI」の英文字が配されている。 キ 被告製品8 被告製品8は、15センチメートル四方のデザインペーパー(折り紙)である。被告イラスト1(又は同2)の一部が一定程度縮小されて使用されている。 ク 被告製品9 被告製品9は縦55ミリメートル、横91ミリメートルのミニカードである。カードの外周に被告イラスト2と同様の(大きさは縮小されている。)正面視花要素B、側面視花要素B、つぼみ要素Bが適宜配され、その余は淡いピンク色や淡いオレンジ色のぼかしにスタンピング要素Bが適宜配置されている。上部中央に蝶結びのリボンと「MESSAGE」との英文字が配されている。 ケ 被告製品10 被告製品10は、封筒と便箋のセットであり、素材に伊予和紙が使用されている。便箋は、外周に被告イラスト2と同様の(大きさは縮小されている。) 正面視花要素B、側面視花要素B、つぼみ要素Bが配され、その余は淡いピンク色や淡いオレンジ色のぼかしにスタンピング要素Bが適宜配置されて、罫線が付されている。封筒は、被告イラスト1(又は同2)の一部が一定程度縮小されて使用されている。 コ 被告製品11 被告製品11は万型(封筒タイプ)ののし袋であり、被告イラスト1(又は同2)の一部が一定程度縮小されて使用されている。また、封筒の正面側には、右上に結びを模した形が金色に箔押しされている。 サ 被告製品12 被告製品12は祝儀袋であり、被告イラスト1(又は同2)の一部が一定程度縮小されて使用されている。また、折りたたんだ場合に、正面側の中央部分が、横幅の半分程度の太さで縦方向に白色の印刷が重ねられ、中央上方に黄土色で「御祝」の文字が印刷されている。のし袋を広げた場合は、全体として縦型の長方形となり、当該白色の着色部分が、長方形の製品の左側に一直線に配置される。白色の印刷部分は背景の桜のイラストが極薄く透ける濃さであり、白色部分と、桜のデザインの境界線は、ピンク色で1〜2mm程度縁取りされている。 シ 被告製品13 被告製品13は、二つ折りのメッセージカードであり、折りたたんだ場合に外側になる面について、被告イラスト1(又は同2)の一部が相当に縮小されて描かれており、また、折りたたんだ場合の正面側となる面のおおむね中央に、蝶結びのリボンと英文字の文章が金色調で書かれている。 ス 被告製品14 被告製品14は長型4号の封筒であり、伊予和紙が使用されている。被告イラスト1(又は同2)の一部が縮小されて描かれている。 セ 被告製品15 被告製品15はポチ袋であり、被告イラスト1(又は同2)の一部が縮小されて描かれており、正面側の下部には、蝶結びのリボン及び被告製品13と同じ英文字の文章が金色調で書かれている。 ソ 被告製品16 被告製品16は高さ約24センチメートル、幅約12.7センチメートル、マチ約7.5センチメートルの角底の紙袋である。被告イラスト1(又は同2)の一部が縮小されて描かれているが、比較してみると、全体として色味が薄い印象を与える。 タ 被告製品17 被告製品17は、幅15ミリメートルのマスキングテープである。 マスキングテープの台紙の一部のイラスト及びマスキングテープ自体のイラストに、被告イラスト2と同様の正面視花要素B、側面視花要素B、つぼみ要素Bが適宜配置されており、その余の背景も、若干色味が強いものの、被告イラスト2と同様のものである。 チ 被告製品18 被告製品18は@幅15ミリメートル、長さ38ミリメートル、A幅11ミリメートル、長さ80ミリメートル、B幅15ミリメートル、長さ80ミリメートルのマスキングスティックシールであり、全部で10種類の図柄がある。被告製品18のシールうち、別紙被告製品目録18記載の@、C、D及びFのシールについては、桜の花の形状、背景を含めた色彩等が、原告イラスト1とは一見して異なる。同B及びEのシールは、正面視花要素B、側面視花要素B、つぼみ要素Bが適宜配置されている。同A、G及びIのシールは、目録B及びEのシールと各花、おしべ等及びつぼみ等の図柄が共通しており、背景をピンク色から濃淡のある紫色又は山吹色を基調とした色に変更したイラストが描かれている。 同目録18記載のHのシールは、別紙被告イラスト2分析図のεで示されるまとまりが、右から水色、紫、薄ピンク色と段階的に変化している背景の上に、右寄りに配置されて描かれている(ただし花やつぼみの縁が一部見切れている)。また、シールの左寄りの下部には、白抜きで「SAKURA」の文字が描かれている。 ツ 被告製品19 被告製品19は、@別紙被告製品目録19記載@のとおり単体の正面ないしやや斜め上から見た桜の花の図柄のシール11種類(大き目のもの5種類、中程度の大きさのもの3種類、小さ目のもの3種類)、A同目録19記載Aのとおり単体の横向きの桜の花の図柄のシール1種類、B同目録19記載Bのとおり正面又は斜めから見た3つの花のまとまり及び同まとまりから合計4本のつぼみが飛び出た図柄のシール1種類、C同目録19記載Cのとおり半開きのつぼみ及び閉じたつぼみ合計2本の図柄のシール1種類、D同目録19記載Dのとおり花弁1枚の図柄が描かれ、それぞれに花弁の形状が若干異なるシール5枚である。 これらのうち、一部に、被告イラスト2に用いられる正面視花要素Bを単体で、また側面視花要素B及びつぼみ要素Bを1個づつ組み合わせたシールと、別紙被告イラスト分析図のεで示されるまとまりを用いたシールがある。 (2)被告各製品に用いられる被告各イラストが原告イラスト1の複製ないし翻案に当たり、かつ同一性保持権を侵害するものであるかどうか ア 被告イラスト1、同3、同5、同8、同10のうち封筒、同11、同13ないし16について 前記(1)の認定によると、被告イラスト1は被告イラスト2と同様の手法でより広い枠に表現されたものであって、相互に複製したものということができるところ、同3、同5、同8、同10のうち封筒、同11、同13ないし16には、被告イラスト1ないし2の一部が、そのままないし縮小して用いられているから、これらもまた複製物に当たるということができる。 そうして、被告イラスト2から原告1イラストの表現上の本質的な特徴を感得することができないことは前判示のとおりであるから、これと同様に、被告製品1のイラストから、原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を感得することはできず、結局、被告イラスト1、同3、同5、同8、同10のうち封筒、同11、同13ないし16は原告イラスト1の複製ないし翻案に当たらない。 イ アに掲記の被告製品以外の被告製品について 前記(1)の認定によると、アに掲記の被告製品以外の被告製品に用いられるイラストは、いずれも、被告イラスト2の構成要素(正面視花要素B、側面視花要素B、つぼみ要素B、スタンピング要素B)及び背景部分を適宜取捨選択して作成されたものであって、被告イラスト2以上に、原告イラスト1とは類似しないものというべきである。 したがって、これらのイラストについては、原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を感得することができないから、やはり原告イラスト1の複製ないし翻案に当たらない。 (3)まとめ 以上のとおり、被告製品1及び3〜19に描かれた桜を題材とした被告イラスト2以外のイラストは、原告イラスト1の複製及び翻案に当たらない。よって、被告が被告製品1及び3〜19を販売した行為が、原告の原告各イラストに係る複製権及び翻案権を侵害するものとはいえず、同様に、同一性保持権を侵害するということもない。 第5 結論 以上の次第で、被告が被告各製品を販売する行為は、原告各イラストに係る複製権、翻案権及び同一性保持権を侵害しないから、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松阿彌隆 裁判官 杉浦一輝 裁判官 布目真利子 別紙 原告イラスト目録 別紙 被告製品目録2(ペーパーバック) ※原告イラスト目録及び被告製品目録2を除く別紙につき、添付省略 |
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