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【事件名】芸名の“パブリシティー権”事件
【年月日】令和4年12月8日
 東京地裁 令和3年(ワ)第13043号 芸名使用差止請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年9月1日)

判決


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、その芸能活動に、「C」の名称を使用してはならない。
第2 事案の概要
 本件は、被告との間で専属契約(以下「本件契約」という。)を締結していた原告が、被告において、本件契約の約定(本件契約に係る契約書(以下「本件契約書」という。)10条(後記前提事実(2)ア参照))に反して、原告の承諾なしに「C」という名称(以下「本件芸名」という。)を使用して芸能活動を行っていると主張して、被告に対し、上記約定に基づき、被告の芸能活動における本件芸名の使用の差止めを求める事案である。
1 前提事実(認定に用いた証拠は括弧内に示した。)
(1)ア 原告は、演劇・音楽のタレントの養成及びマネージメント、音楽録音物の企画・製作・宣伝及び販売、演劇・音楽の興業の企画制作、並びにアーティストに関連するキャラクター商品の企画、制作、宣伝、販売等を業とする株式会社である。
イ 訴外株式会社F(以下「訴外会社」という。)は、原告と同じ企業グループに属する会社である(甲33)。
(2)ア 被告は、平成11年5月20日、訴外会社との間で、本件契約を締結した。本件契約書には、以下の定めが含まれている。(甲1、33及び乙34。なお、後記ウのとおり、原告が訴外会社の契約上の地位を承継しているので、本件契約書上、「乙」と記載されている部分は、原告と読み替えて記載した。また、本件契約書上、「甲」と記載されている部分は、被告と記載した。)
(ア)2条
 被告は原告に対し、1999年6月1日より2004年5月31日までの間、被告のアーティストとしてのすべての活動について全世界においてマネージメントを行うことを独占的に委託し、被告は原告の専属アーティストとして原告の指示に従い、以下の活動を行う。
@コンサート、映画、演劇、テレビ、ラジオ、コマーシャル、講演、取材、その他の出演業務(注:本件契約書では、この@記載の業務を「出演業務」と呼称している。)
Aレコーディング
B音楽著作物その他の著作物の創作
Cその他一切のアーティスト活動
(イ)8条
 被告の出演業務により発生する著作権、著作隣接権、著作権法上の報酬請求権ならびにパブリシティ権、その他すべての権利は、何らの制限なく原始的に原告に帰属する。
(ウ)10条
 被告は本契約期間中はもとより契約終了後においても、原告の命名した以下の芸名および名称を原告の承諾なしに使用してはならない。
「C」
(エ)12条
 被告または原告が、本契約の期間満了2年前までに相手方に対し、文書をもって別段の意思表示をしないときは、本契約は満了日より2年間、更新延長され、以後これを繰り返すことになる。
イ 被告は、平成12年2月1日、訴外会社との間で、アーティスト報酬契約書(以下「本件報酬契約書」という。)を締結した。本件報酬契約書には、以下の定めが含まれている。(甲16。なお、本件報酬契約書上、「乙」と記載されている部分は、原告と読み替えて記載した。また、本件契約書上、「甲」と記載されている部分は、被告と記載した。)
(ア)1条
 原告は、被告との間の専属契約に基づき、被告に対して、以下の報酬を支払う。
(イ)2条
1 報酬は、固定給とし、原告は、2000年2月1日より2001年3月31日まで毎月25日に被告に金10万円(源泉所得税込)を支払う。
2 被告のアーティスト活動実績に著しい変動が生じた場合は、原告はその都度、前項の条件を見直すものとする。
3 原告において必要と判断した場合には、第1項は歩合給とする。
(ウ)5条
 第2条第3項の歩合給は、次に定める売上の70%とする(但し、著作隣接権使用料は含まない)。なお、その必要経費に関しては、原則として売上から控除しないものとする。
(1)出演料、吹込料、編曲料
(2)原稿料、講演料
ウ 訴外会社、原告及び被告は、平成16年3月18日、移籍契約書(以下「本件移籍契約書」という。)を締結し、これにより、原告は、訴外会社の本件契約上の地位を承継した。本件移籍契約書には、以下の定めが含まれている。(甲4、A及び乙34。なお、本件移籍契約書上、「甲」、「乙」、「丙」と記載されている部分は、それぞれ、「被告」、「訴外会社」、「原告」と記載した。)
(ア)3条
 被告、訴外会社及び原告は、2004年3月31日をもって、それ以前に被告の出演業務によって発生した著作権、著作隣接権、著作権法上の報酬請求権及びパブリシティ権、その他全ての権利、ならびに、被告が作成した作品の著作権(翻訳権、編曲権、映画化権、その他の翻案権のすべてを含む)が、何らの制限なく原告に譲渡されるものであることを確認する。
(2)被告及び訴外会社は、2004年3月31日以前の被告の出演業務によって発生した著作権、著作隣接権、著作権法上の報酬請求権及びパブリシティ権、その他全ての権利、ならびに、被告が作成した作品の著作権(翻訳権、編曲権、映画化権、その他の翻案権のすべてを含む)が、法律上原告に原始的に帰属しない場合であっても、既に何らの制限なく被告から訴外会社に譲渡されていることを確認し、前項により、さらに原告に譲渡されるものであることを確認する。
(3)被告、訴外会社及び原告は、2004年4月1日以降の被告の出演業務によって発生する著作権、著作隣接権、著作権法上の報酬請求権及びパブリシティ権、その他全ての権利、ならびに、被告が作成した作品の著作権(翻訳権、編曲権、映画化権、その他の翻案権のすべてを含む)が、何らの制限なく原告に原始的に帰属することを確認する。
(4)2004年4月1日以降の被告の出演業務によって発生する著作権、著作隣接権、著作権法上の報酬請求権及びパブリシティ権、その他全ての権利、ならびに、被告が作成した作品の著作権(翻訳権、編曲権、映画化権、その他の翻案権のすべてを含む)が、法律上原告に原始的に帰属しない場合、被告は、原告に対し、これらの権利の全部を譲渡し、原告は、これを譲り受けるものとする。
(イ)4条
 被告、訴外会社及び原告は、原契約(注:本件契約等を指す。)に基づき訴外会社が収受して被告に分配している被告の楽曲の著作権使用料その他印税等の報酬請求権について、それぞれ下記の期間まで訴外会社が収受し被告に分配することとし、期間満了後、原告が収受して原契約の規定に従い被告に分配することに合意する。
@著作権使用料(2004年1期分)
Aアーティスト印税(2004年1月〜3月分)
B貸レコード使用料(2004年1月〜3月分)
C二次使用料・私的録音録画補償金(2004年3月までの訴外会社入金分)
Dその他報酬(2004年3月までのアーティスト活動分)
(3)被告は、平成12年3月のCDデビューにより本件芸名を用いた芸能活動を開始したが、平成22年12月31日をもって、本件芸名を用いた芸能活動を停止した。
 被告は、原告との間で、本件契約を終了させる旨の書類は作成していないが、被告は、同日より後に、原告からいわゆる印税以外の金員の支払は受けていない。(甲17、33、乙1及び34)
(4)被告は、平成27年9月頃から「D」の名称で、また、平成30年頃からは「E」の名称で、それぞれ芸能活動を行っていたが、令和3年3月、本件芸名で芸能活動を行うことを公表した。被告は、本件芸名で芸能活動を行うことについて原告の承諾を受けていない。(甲5、乙34、被告本人及び弁論の全趣旨)
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)本件契約が終了しているか否か
(被告の主張)
 原告と被告との間で、本件契約を終了させる旨の書面は作成されていないものの、以下の事情等に鑑みれば、本件契約は、平成22年12月31日をもって、原告と被告との間の解約合意又は被告の原告に対する解約の意思表示により終了しているというべきである。
ア 被告は、原告との合意に基づいて、平成22年12月31日をもって引退することを発表した。そして、同日をもって、被告は、原告から、原告の事務所にあった全ての私物を引き払うように指示されたほか、被告の担当マネージャーも、原告を退職した。
イ 被告は、平成22年12月31日より後、10年以上もの間、原告から、本件契約書2条にいう「マネージメント」を受けたことが一切ない。また、被告は、同日より後に、原告から、(従前支払われていたような)報酬の支払を受けていない。
ウ 本件契約書2条によれば(被告が原告に対し)マネージメント業務を独占的に委託することとされているから、仮に本件契約が継続していたのであれば、被告による芸能活動は、たとえ、本件芸名を用いない場合であっても、原告を通じて行わなければならないはずであるが、原告自身が(平成22年12月31日より後の)被告の芸能活動を制限していない旨主張しているとおり、同日より後に、被告が、原告から、本件芸名を用いない芸能活動について、本件契約に違反するとの指摘を受けたことはない。
エ 原告は、平成22年12月31日より後にも、被告による名称の使用に対するコントロールは行っていたが、本件契約書10条において、本件芸名が、本件契約の終了後も原告の承諾なく使用してはならない旨が定められていることとの関係上、原告側からみれば、本件契約が終了していたとしても、被告による名称の使用に対する諾否を表明するのはいわば当然の行動にすぎない。したがって、上記の事実は、本件契約が終了していることを示す事情にはなり得ない。
オ 仮に、原告が、何ら被告に対するマネージメント等の業務の実態がないにもかかわらず、本件契約書12条に基づく更新を一方的に主張して自らの権利だけを主張しようとしているのであれば、公正取引委員会が作成した令和元年9月25日付けの「人材分野における公正取引委員会の取組」と題する資料(乙3参照)の中で、優越的地位の濫用等が問題となり得る例として挙げられている「契約満了時に芸能人が契約更新を拒否する場合でも、所属事務所のみの判断により、契約を一方的に更新できる旨の条項を契約に盛り込み、これを行使すること」に当たる。
(原告の主張)
ア 争う。
イ 以下の事情等からすれば、本件契約は終了していないというべきである。
(ア)本件契約書12条によれば、本件契約の更新拒絶の意思表示は、相手方に対して文書をもって行うものとされているところ、被告は、原告に対して、文書によることはもとより、口頭によっても、本件契約の更新拒絶の意思表示をしていない。また、原告は、被告と本件契約の解約合意をしたこともない。したがって、本件契約は、同条により、2年ごとに自動更新されている。
 原告は、平成23年1月1日以降も、本件芸名のブランド価値の維持という観点から、被告の活動内容を把握し、その活動を容認するか否かの判断を行い、名称の使用について承諾の可否を決定するなどのマネージメント業務を行ってきた。
 原告は、平成23年1月1日以降も、いわゆる印税については現在に至るまで支払を継続している(甲17参照)。固定給や印税以外の歩合給については支払われていないが、これらは被告が芸能活動をしていることが前提であるから、活動していない期間に支払われていないのは当然である。
 なお、本件契約書12条は、原告又は被告のいずれかが文書をもって更新拒絶をすれば本件契約を終了できる旨を定めており、原告のみの判断により、契約を一方的に更新できるなどとは定めていないから、(被告の主張)オは、前提を欠く。
(2)本件芸名に係るパブリシティ権の帰属先等
(原告の主張)
ア 以下の点からすれば、パブリシティ権の譲渡性が認められるというべきである。
(ア)芸能事務所は芸能人の育成等のために多額の投資をしているところ、その投下資本の回収機会の確保及び投下資本の原資の確保は、個々の事務所や芸能人の利益に適うだけではなく、業界全体を存続させるためにも必要である。芸能事務所がきちんと利益を回収する機会を確保する上では、芸能事務所に芸名の利用についてのコントロール権を独占させ、ブランドコントロールによる収益の最大化や芸能人の価値の毀損の防止を行えるようにすることが極めて重要である。
 したがって、パブリシティ権の譲渡性を認めるべき必要性がある。
(イ)パブリシティ権の法的性質が、人格権に由来する権利の一内容を構成するものであるとしても、パブリシティ権の保護法益は顧客吸引力という財産的利益であり、侵害の成否は、顧客吸引力の主体(芸能人等)の意に反するか否かではなく、問題とされる利用方法が客観的に、専ら顧客吸引力の利用を目的とするか否かで決まる点で、パブリシティ権は、著作財産権と同様であり、第三者による行使も可能である。
 また、人格権は、人格要素(生命、身体等)の利用禁止や毀損防止という「不使用」を権利の方向性とするのに対し、パブリシティ権は、人格要素の「使用」を権利の方向性とするものであるから、人格権について、権利の主体と客体が分離することに問題があり得るとしても、パブリシティ権については、人格的要素が主体から離れて利用される場面を予定しているものであるといえる。
 したがって、パブリシティ権の譲渡性を認める許容性がある。
イ そして、本件契約書8条により、本件芸名に係るパブリシティ権は、原告に原始的に帰属している。
ウ なお、仮に、パブリシティ権の譲渡性が認められないとしても、本件契約書8条のような条項は、独占的な利用許諾、すなわち、芸能人がその所属する芸能事務所に対してパブリシティ権の利用を独占的に許諾した(芸能人自身も利用できない)と解釈されるのが一般的である。したがって、パブリシティ権の譲渡性が否定されたとしても、原告が本件芸名を独占的に利用できるというべきである。
(被告の主張)
ア 争う。
イ 以下の点からすれば、パブリシティ権の譲渡性は認められないというべきである。
(ア)パブリシティ権の財産的側面たる「顧客吸引力」は、芸能人本人の容姿、個性、才能や公私にわたる努力、忍耐等によって形成され、肥大化していくものである。また、「顧客吸引力」の相手方である顧客側からみても、肖像や芸名から想起されるのは芸能事務所などではなく、まさに芸能人本人である。そうすると、「顧客吸引力」は、常に芸能人個人がコントロールできなければならないはずであり、このことからも、パブリシティ権は、芸能人個人の人格とは切っても切り離せない関係にある。
 そもそも芸能事務所は、才能、容姿、能力を含めて一定のレベルに既に達している候補者のみを選定して専属契約の相手方とするのであって、0から育成するわけではないから、「人材の育成」に多額の費用を要するとは考え難い。また、芸能事務所は、自らメディアの出演料を交渉し、芸能人に支払うギャラを決定できる立場にあり、楽曲や映像の原盤権や著作権をも保有している場合も多いため、あえてパブリシティ権を保有させなくとも、育成費用に関する投下資本の回収は十分に可能である。
 また、芸能事務所は、パブリシティ権の譲渡性を認めなくとも、パブリシティ権の使用許諾を受ける方法により投下資本の回収を図ることが可能である。
 したがって、パブリシティ権の譲渡性を認めるべき必要性はない。
(イ)パブリシティ権は、人格的価値の側面も財産的価値の側面も、人格権又はそれに由来するものであり、契約によって第三者に財産的価値の部分のみが切り離されて、他人に帰属させたり、取引の対象となったりすることができる性質のものではないから、パブリシティ権の譲渡性を認める許容性もない。
ウ なお、仮に、パブリシティ権の財産的価値が人格的価値と分離して独立の取引の客体となり得るとの考え方に依拠したとしても、芸能事務所が他人のパブリシティ権を原始的に取得できると解される余地があるのは、本人の意向とは無関係に芸能事務所主導で芸名を定め、厳密なプロモーション計画に沿って売り出されたような場合に限られるところ、本件において、本件芸名の顧客吸引力を形成したのは被告自身であり、原告ではないから、原告が本件芸名に係るパブリシティ権を原始的に取得することはないというべきである。
エ 本件契約書8条の効力について
(ア)前記イのとおり、パブリシティ権に譲渡性はなく、前記ウのとおり、一定の場合にパブリシティ権の譲渡性を認めたとしても、少なくとも、本件において、原告が本件芸名に係るパブリシティ権を原始取得できるような事情は存在しない。また、専属契約を締結する時点において、芸能事務所は芸能人志望者に比べて圧倒的な力を有する存在であり、芸能人志望者は、芸能活動をするためには、その契約内容に関して交渉する余地などなく、芸能事務所から示された一方的に不利な内容の契約書に調印せざるを得ない立場にある。特に、本件契約の締結当時、被告は未成年であり、「パブリシティ権」の意味や、それを原告に帰属させることの効果を十分に理解して本件契約を締結したとは考え難い。以上の点を踏まえると、本件契約書8条の合理的意思解釈として、本件契約の終了後も未来永劫「パブリシティ権」を原告に帰属させるとの真の合意があったと読み取ることはできない。
 そうすると、本件契約書8条がパブリシティ権を譲渡する(原始的に原告に帰属させる)内容の条項であるとすれば、同条は無効であるというべきである。
(イ)仮に、本件契約書8条が被告から原告への独占的な利用許諾の条項であると解されるとすると、本件契約書10条とあいまって、本件契約書8条は、被告から原告に対し、本件芸名の独占的利用権を未来永劫許諾し、その反面として、被告による本件芸名の使用が禁止されるという内容となる。
 これは、被告による(本件芸名に係る)パブリシティ権の行使を未来永劫制約し、顧客吸引力を奪うものであり、権利制限の程度が強い。
 また、前記のとおり、専属契約の締結時の力関係から、芸能人志望者は不利な内容であったとしても芸能事務所と専属契約を締結せざるを得ない立場にあることからすれば、パブリシティ権の帰属に関して真の合意は存在しない。
 さらに原告が自らメディア出演料を交渉し、他方で被告に支払う対価を決定できる立場にあり、楽曲や映像の原盤権、著作権も保有していることからすれば、原告には十分に投下資本の回収の機会が保証されているといえるし、仮に、それでは投下資本の回収の機会が十分でないという場合であっても、代替手段として、専属契約の契約期間中又は契約期間終了後数年程度(被告による)パブリシティ権の行使を制限すること(ただし、その間の対価を支払う必要があることはいうまでもない。)などによっても解決可能であるにもかかわらず、被告に対して、未来永劫パブリシティ権を放棄させるような合意は、合理性を欠いている。
 よって、仮に、本件契約書8条を、パブリシティ権の独占的な使用許諾であると解したとしても、本件芸名の使用を未来永劫禁止することは、被告の重要な権利を侵害するものであり、かつ、取引の方法、内容においても著しく不公正で、目的との間で合理性が認められない取引であるといえるから、同条は、公序良俗に反して無効である。
(3)本件契約書10条の有効性
(被告の主張)
ア 以下の点からすれば、本件契約書10条は、原告(訴外会社)による優越的地位の濫用により合意されたものといえるから、私法上も公序良俗違反に当たり無効であるというべきである。
イ 原告(訴外会社)が被告との関係で「優越的地位」にあること
(ア)本件契約の締結当時から、原告(訴外会社)は、多数の有名芸能人を擁する音楽関連では圧倒的なシェアを持つ芸能事務所であり、所属する芸能人のメディアへの出演やライブ活動、CDの発売など、芸能活動の全てを原告がコントロールできる立場にあった。また、多くの有名芸能人が所属し、メディア出演等を差配できる立場にもあったため、メディアに対しても圧倒的な力を持っており、日本の音楽業界全体に多大な力を持っていた。他方で被告は、当時は未だ芸能活動の経験もなく、何らの実績もない未成年であり、原告との間には圧倒的な地位の格差があった。
(イ)被告が訴外会社との間で本件契約を締結する際、訴外会社の意向とそぐわないのであれば、別の芸能事務所に行くといった趣旨の発言をしたのは、被告が自らの理想とする芸能活動をするために述べたにすぎず、本件契約の内容に関する交渉材料として述べたものではないから、上記発言をもって原告(訴外会社)の「優越的地位」性が否定されることにはならない。
ウ 原告(訴外会社)による「(優越的地位の)濫用行為」があること
(ア)本件契約の締結当時、被告は、訴外会社より契約文言についての説明は一切受けていない。また、上記当時、被告が未成年であったにもかかわらず、訴外会社は、被告の両親への(本件契約の締結に関する)意思確認をしなかった。
(イ)被告にとって重要な事項である報酬の算定方法について、本件契約の締結時点で(当事者間で)協議がされたことはなく、本件契約書でも、「別途定める」と記載されているのみであり、原告(訴外会社)が報酬額を自由に決定できる内容となっている。
(ウ)被告は、「パブリシティ権」なるものの意味内容や、本件契約の終了後も本件芸名の使用ができないことの不利益の程度を十分理解しないまま、本件契約を締結し、その結果、本件契約書8条及び10条により、著作権やパブリシティ権(芸名を含む。)といった被告にとっては芸能活動の成果ともいえる重要な成果物を、対価なく譲渡させられている。
エ 公正な競争が阻害されること
 芸名は、芸能人個人の識別だけではなく、その芸能活動の全てを表象するものであるといえるところ、本件契約書10条のように、専属契約の終了した後も、芸能人による芸名の使用が禁止されることになれば、独立や移籍後の活動が大きく阻害され、ひいては、芸能人の意思による独立や移籍が妨げられ、自由競争の基盤が侵害されるといえる。
(原告の主張)
ア 争う。以下で述べるとおり、本件契約書10条が無効であるとはいえない。
イ 原告は被告の芸能活動を一切制限していない。本件契約書10条に基づいて本件芸名の使用を禁止しているにすぎない。
ウ 本件芸名の使用の禁止は、原告と被告との間で合意した本件契約に基づくものである。しかもその契約は、当事者間の不均衡を是正しなければならないような消費者契約ではなく、対等な事業者間における契約である。
エ 以下の点からすれば、本件契約書10条は、訴外会社による優越的地位の濫用により合意されたものとはいえない。
(ア)訴外会社が被告との関係で「優越的地位」にはないこと
a 一般論として芸能事務所は複数存在しており、ある特定の事務所に所属できなければ芸能人活動ができないという状況は全くないのだから、芸能人志望者が、ある芸能事務所から提示された条件に合意できないのであれば、他の芸能事務所を選択すればよいだけのことである。
 特に、被告については、本件契約の締結当時、他の芸能事務所のオーディションに合格していた旨、自ら、訴外会社の意向とそぐわないのであれば、別の芸能事務所に行くことを訴外会社に伝えたところ、被告の思うとおりにしたらいいと言われて引き留められた旨を述べており(乙1参照)、訴外会社よりも被告の方が優位な立場に立って契約交渉をしていたといえる。
b 被告の報酬については、本件契約の締結後、原告と被告との間で「アーティスト報酬契約書」(甲16参照)という形で合意しており、実際に「別途定め」られているのであって、何ら一方的でも不当でもない。
(イ)訴外会社による「(優越的地位の)濫用行為」がないこと
a (契約の締結の際に)交渉が行われた事実がないこと自体が濫用行為該当性を根拠づけるものではない。本件で交渉が行われなかったのは、単に被告が原告の提示した本件契約の内容に合意したからにすぎず、原告が交渉を拒絶したとか、被告からの申入れを全く受け付けなかったといった事情は一切ない。
b 法的知識や芸能経験がない当時18歳の被告であっても、本件契約の終了後も本件芸名が使用できないことの意味は十分に理解可能であり、被告の主張は、「契約書に署名捺印はしたが、内容を読んでいないから契約内容は無効である。」との主張に等しい。
c 本件契約は、当初の契約期間が5年で、その後は、2年ごとの自動更新の契約である(甲1参照)から、契約更新の際に契約内容について交渉する機会があった。本件契約の最初の満了日である平成16年5月31日は、被告の絶頂期であったから、被告にも十分な交渉力があり、本件契約書10条の内容を変更するための交渉をする機会があったにもかかわらず、被告から何らの意見や異議が述べられなかったため、本件契約の内容がそのまま維持されているにすぎない。
(ウ)公正な競争が阻害されないこと
 歌やダンスといった「芸」の質やそれに対する社会的な評価は、芸名とは直接関係がない。どのような名称であっても、芸の質やそれに対する社会的な評価により自由競争は可能である。なお、本件契約は、被告が原告から独立、移籍をして芸能活動を行うこと自体は何ら制限していないし、従前に本件芸名で活動していたことを説明することまでを禁止するものでもないから本件芸名と被告との同一性が損なわれることもない。したがって、本件契約書10条によって、公正な競争が阻害されるといはいえない。
(4)本件芸名の使用禁止が権利濫用として許されないか
(被告の主張)
 仮に、本件契約書10条が有効であったとしても、以下の点からすれば、同条に基づいて、被告に対して本件芸名の使用を禁止することは、権利濫用であって許されない。
ア 原告は、関連会社を含めて、多くの有名芸能人を擁しているため、テレビ局に対し、被告にテレビ出演をさせないよう圧力をかけることが可能な立場にある。そして、現に、原告は、そのような立場を利用(濫用)して、被告がテレビ番組等に出演しようとすると、出演先のテレビ局等に本件芸名の使用を認めないと通知するなどして被告の活動を執拗に妨害している(乙5参照)。
イ 本件契約の終了から既に10年以上が経過して、原告にとって本件芸名の使用を禁止するべき正当かつ合理的な理由がないにもかかわらず、原告が、上記アのような通知をテレビ局等にしたり、被告に対して本件訴訟を提起したりすることは、被告に対する嫌がらせ、又は、移籍や独立をしようとする他の芸能人への見せしめでしかない。
(原告の主張)
ア 争う。
イ 以下の点からすれば、本件契約書10条に基づいて本件芸名の使用を禁止することは、権利濫用に当たらない。
(ア)芸能人が独立、移籍した後にも(当該芸能人が所属していた)芸能事務所が当該芸能人の芸名の使用について承諾権限を保有することには、以下のとおり、合理性及び必要性があること
a 芸能事務所は、芸能人がその所属する芸能事務所との専属契約(所属契約)を終了した後でも、継続的に相当額の著作権・印税収入が見込めるため、上記芸能人のブランド価値の維持は、上記契約の終了後も非常に重要である。
b 芸能人がその所属する芸能事務所を退所した後も、当該事務所に在籍していた時に用いていた芸名の使用について上記事務所が承諾権限を留保することには、上記aのブランド価値の維持のための方法の1つとして、その合理性及び必要性が認められる。
(イ)原告がテレビ局等に対し圧力をかけているという事実は存在しないこと
 原告がテレビ局等に対し、被告をテレビ出演させないように圧力をかけているなどという主張は、根拠のない単なる誹謗中傷にすぎない。なお、原告がテレビ局に対して被告による本件芸名の使用を認めない旨の通知をしたことは(乙5参照)、何ら違法ではない。
第3 判断
1 本件契約が終了しているか否かについて
(1)ア 本件契約書12条では、被告又は原告が、本件契約の期間満了の2年前までに相手方に対し、文書をもって別段の意思表示をしないときは、本件契約が更新される旨が定められているところ(前記前提事実(2)ア)、確かに、本件において、原告と被告との間で本件契約を終了させる旨の書類は作成されていない(前記前提事実(3))。
イ しかしながら、被告が、平成22年に、原告の属する企業グループの創業者で、音楽プロデューサーでもあるBに対して、引退を申し出て、Bもこれを特に引き留めていない(甲36、乙1、被告本人)。そして、被告が芸能活動を停止した同年12月31日より後に、原告が被告の芸能活動について本件契約書2条に定められたマネージメント業務を行った形跡はない。特に、同条によれば、被告が原告に対してマネージメント業務を独占的に委託していることになるにもかかわらず(前記前提事実(2)ア)、被告が平成27年9月頃から開始した芸能活動に関して、原告によるマネージメント業務が行われたことを認めるに足りる証拠もない。また、平成22年12月31日より後に、原告から被告に対して、いわゆる印税以外の金員の支払は行われていない(前記前提事実(3))。加えて、原告が令和元年11月29日付けで被告宛てに送付した書面において、原告自身、「本件契約が終了した後も」原告の承諾なしに本件芸名を使用するのは本件契約に違反する旨記載している(甲8)。
ウ 上記イで指摘した事実関係からすれば、本件契約は、平成22年12月31日をもって、原告と被告との間で本件契約を更新しない旨又は本件契約を解約する旨の黙示の合意が成立し、これにより同日をもって終了したものと認めるのが相当である。
 なお、確かに、本件報酬契約書5条(前記前提事実(2)イ)及び本件移籍契約書4条(前記前提事実(2)ウ)の定めからすると、被告に支払われている上記の印税は、原告が著作権等の利用に関して利用者側から収受したものの一部を被告に対する歩合給の一部として支払う形式がとられていることがうかがわれるが、その実質は、特に、被告が芸能活動を停止した平成23年1月以降は、原告が、被告の出演業務により発生した著作権法上の権利を原始的に取得することに対する代償措置としての支払であると性格づけられるから、上述した事実関係の下で、いわゆる印税に相当する金員が歩合給の一部として支払われていることの一事をもって、本件契約が終了していないと評価することはできない。
(2)原告は、本件契約が終了していない根拠として、平成23年1月1日以降も、本件芸名のブランド価値の維持という観点から、被告の活動内容を把握し、その活動を容認するか否かの判断を行い、名称の使用について承諾の可否を決定するなどのマネージメント業務を行ってきた旨主張する。しかし、原告が行ってきたのは、被告も自認する、被告による名称の使用についての諾否に限られ、上記(1)イのとおり、本件契約の定める本来的なマネージメント業務は行っていない。そして、上記の諾否は、本件契約書10条に基づく本件芸名の使用に関するものであるといえるところ、同条は、本件契約の終了後においても原告が被告による本件芸名の使用の諾否を決めることができることを定めているのであるから(前記前提事実(2)ア)、原告がそのような諾否を行っていたことをもって、本件契約が終了していないということはできない。
2 本件芸名に係るパブリシティ権の帰属先等について
(1)ア 人の氏名、肖像等は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有する。こうした氏名、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(いわゆるパブリシティ権)は、氏名、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる(最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁)。そして、芸能人等がその活動で使用する芸名等の名称についても上述したことが当てはまる。
イ 前記前提事実(3)及び証拠(甲18、19、乙1及びA)によれば、被告が、平成12年から平成22年末までの約10年間に、多数のCDを発売したり、テレビ番組に出演したりするなどの本件芸名を用いた芸能活動を継続し、その芸能活動に係る配信やCDの販売は、現在も続いていることが認められる。このような事実関係に照らせば、上記期間における被告の芸能活動の結果として、需要者に被告を想起・識別させるものとして、本件芸名には相応の顧客吸引力が生じているといえるから、本来、被告に、本件芸名に係るパブリシティ権が認められるというべきである。
(2)アところで、本件契約書8条は、被告の出演業務により発生するパブリシティ権が原告に原始的に帰属する旨を定めている(前記前提事実(2)ア)。この点、パブリシティ権が人格権に由来する権利であることを重視して、人格権の一身専属性がパブリシティ権についてもそのまま当てはまると考えれば、芸能人等の芸能活動等によって発生したパブリシティ権が(譲渡等により)その芸能人等以外の者に帰属することは認められないから、本件契約書8条のうちパブリシティ権の帰属を定める部分は当然に無効になるという結論になる。しかし、パブリシティ権が人格的利益とは区別された財産的利益に着目して認められている権利であることからすれば、現段階で、一律に、パブリシティ権が譲渡等により第三者に帰属することを否定することは困難であるといわざるを得ない。
イ もっとも、仮に、パブリシティ権の譲渡性を否定しないとしても、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分が、@それによって原告の利益を保護する必要性の程度、Aそれによってもたらされる被告の不利益の程度及びB代償措置の有無といった事情を考慮して、合理的な範囲を超えて、被告の利益を制約するものであると認められる場合には、上記部分は、社会的相当性を欠き、公序良俗に反するものとして無効になると解される。
 そこで、まず、上記@について検討すると、確かに、本件契約が継続していた間の被告の芸能活動は、原告のマネージメント業務により支えられてきた側面があり、そのために原告において一定の営業上の努力や経済的負担をしており(甲33及びA)、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分は、そのような原告が投下した資本の回収の一手段として位置づけることができる。しかし、原告による投下資本の回収は、基本的に、原告と被告との間で適切に協議した上で、(専属契約について)合理的な契約期間を設定して、その期間内に行われるべきものであるから、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分によって原告の利益を保護する必要性の程度は必ずしも高いとはいえない。
 次に、上記Aについて検討すると、本件芸名の顧客吸引力は、飽くまでも被告の芸能活動の結果生じたものであり、需要者が本件芸名によって想起・識別するのも実際に芸能活動等を行った被告であって、原告ではない。それにもかかわらず、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分は、被告が、原告の所属から離れた場合に、自らの活動の成果が化体した本件芸名を(原告の許諾なしに)芸能活動に使用できなくするものであり、実質的に、原告の所属から離れて芸能活動をすることを制約する効果を有し、さらには、本件契約の契約期間終了後の自由な移籍や独立を萎縮させる効果をも有するといえる。原告は、被告が本件芸名を用いないで芸能活動をすることは制約していないと主張するが、本件芸名に相応の顧客誘引力が認められる以上(前記2(1)イ)、本件芸名の使用を認めないことは、被告の芸能活動を制約することと変わらないといえる。そして、被告本人は、本件芸名を用いることができるか否かで、芸能活動の機会の多寡や出演料等の条件に差が生じている旨供述するところ、上述したとおり本件芸名に相応の顧客吸引力があることからすれば、当然の結果であるといえ、被告は、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分の存在により、現実的にも不利益を被っているといえる。したがって、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分によってもたらされる被告の不利益の程度は大きいといえる。
 さらに、上記Bについて検討すると、本件契約書において、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分による不利益を被告に課すことに対する(被告への)代償措置の定めはなく(甲1)、本件契約以外で、原告と被告との間で代償措置に関する合意がされたことを認めるに足りる証拠もない。なお、原告は、(被告が活動を停止した)平成23年1月以降も、いわゆる印税に相当する金員を被告に支払っているが(前記前提事実(3))、その中に、原告が本件芸名に係るパブリシティ権を原始的に取得することに対する対価又は代償措置に相当すると認められるものは存在しない(甲16及び17)。
 以上で検討したことからすれば、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分は、原告による投下資本の回収という目的があることを考慮しても、適切な代償措置もなく、合理的な範囲を超えて、被告の利益を制約するものであるというべきであるから、社会的相当性を欠き、公序良俗に反するものとして無効になるというべきである。
 なお、訴外会社、原告及び被告の三者間で締結された本件移籍契約書3条(前記前提事実(2)ウ)においても、本件契約書8条と同様に、被告の出演業務により生ずるパブリシティ権を原告に帰属させるといった趣旨の定めが設けられているが、上述したことと同様の理由から、公序良俗に反し無効であるというべきである。
ウ そして、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分(及び上述した本件移籍契約書の同趣旨の定め)が無効となる以上、本件芸名に係るパブリシティ権は、需要者が本件芸名によって想起・識別するところの被告に帰属するものと認めるのが相当である。
エ なお、原告は、本件契約書8条パブリシティ権に係る部分について、仮に、(パブリシティ権を)原始的に原告に帰属させる定めであるとは解されないとしても、被告が原告に対してパブリシティ権の独占的な利用許諾をした定めであると解される旨の主張をするが、本件契約の契約期間の終了後も無期限にパブリシティ権の独占的な利用許諾をするということは、パブリシティ権を原告に譲渡すること(原始的に原告に帰属させること)と変わりがないから、仮に、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分について、被告が原告に対してパブリシティ権の独占的な利用許諾をした定めであると解することができるとしても、上記イで認定判示した事情が認められる本件においては、少なくとも、上記部分のうち、本件契約の契約期間の終了後に係る部分は無効であると解するのが相当である。
3 本件契約書10条の有効性について
(1)本件契約書10条は、本件契約の契約期間中はもとより、本件契約の終了後においても、被告による(芸能活動における)本件芸名の使用を原告の諾否にかからしめるものである(前記前提事実(2)ア(ウ))。
(2)しかしながら、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分については、前記2(2)イで認定判示したとおり、無効であると認められるところ、本件芸名に係るパブリシティ権が被告に帰属し(前記2)、本件契約が既に終了しているにもかかわらず(前記1)、原告が本件契約書10条により、無期限に被告による本件芸名の使用の諾否の権限を持つというのは、本件契約書8条のパブリシティ権に係る部分の効力を実質的に認めることに他ならない。また、本件契約の終了後も、本件契約書10条による制約を被告に課すことに対する代償措置が講じられていることを認める足りる証拠もない。
 そうすると、本件契約書10条に、原告が被告の芸能人としての育成等のために投下した資本の回収機会を確保する上で必要なブランドコントロールの手段を原告に付与するという目的があるとしても、前述したとおり、そもそも、投下資本の回収は、基本的に、原告と被告との間で適切に協議した上で、合理的な契約期間を設定して、その期間内に行われるべきものであって、上記の目的が、パブリシティ権の帰属主体でない原告に、被告に対する何の代償措置もないまま、本件契約の終了後も無期限に被告による本件芸名の使用についての諾否の権限を持たせることまでを正当化するものとはならない。
 したがって、本件契約書10条のうち少なくとも本件契約の終了後も無期限に原告に本件芸名の使用の諾否の権限を認めている部分は、社会的相当性を欠き、公序良俗に反するものとして、無効であるというべきである。
4 以上のとおり、本件において、本件契約が既に終了している以上、原告が本件の差止請求の根拠とする本件契約書10条は無効であるから、原告の請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がない。よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第44部
 裁判長裁判官 飛澤知行
 裁判官 金田健児
 裁判官 川本涼平
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