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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件D(2)
【年月日】令和4年11月29日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10033号 発信者情報開示請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第5668号)
 (口頭弁論終結日 令和4年9月6日)

判決
控訴人 Twitter,Inc.
同訴訟代理人弁護士 中島徹
同 平津慎副
同 犬飼貴之
同 中村彰男
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 齋藤理央


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1)控訴人は、被控訴人に対し、別紙発信者情報目録記載第1及び第2の各情報のうち、ア 原判決別紙アカウント目録記載の各アカウントについて、原判決別紙投稿記事目録記載の各投稿の直前に各アカウントにログインした際のIPアドレス並びに上記各IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に上記各ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻(UTC)、
イ 原判決別紙アカウント目録記載のアカウント2、3、5の電話番号、
ウ 原判決別紙アカウント目録記載の各アカウントのメールアドレスを開示せよ。
(2)被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを2分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
3 控訴人のために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要(略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
 本件は、原判決別紙写真目録記載1ないし5の各写真(以下「本件各写真」といい、同目録の番号に応じて、それぞれを「本件写真1」などという。)の著作者である被控訴人が、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトにおいて、原判決別紙アカウント目録記載の各アカウントを利用してされた原判決別紙投稿記事目録記載1ないし5の各投稿(以下「本件各投稿」といい、同目録の番号に応じて、それぞれを「本件投稿1」などという。)により、被控訴人の本件各写真に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたと主張して、ツイッターを運営する控訴人に対し、令和3年法律第27号による改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載第1及び第2記載の各情報の開示を求める事案である。
 原審は、被控訴人の請求を認容したため、控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。
1 前提事実
 次のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決2頁9行目の「(以下」から「という。)」までを「(本件各写真)」と改める。
(2)原判決3頁23行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「一方で、控訴人は、本件各投稿時のIPアドレス及びタイムスタンプの情報を保有していない。
(5)アカウント情報の開示請求
 別紙発信者情報目録記載第2の各情報の開示に係る請求原因事実は、当事者間に争いがない。
(6)関連規定
ア 法4条1項
(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
イ 令和4年総務省令第39号による廃止前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号。以下「省令」という。)
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項に規定する侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものは、次のとおりとする。
一 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称
二 発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所
三 発信者の電話番号
四 発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)
五 侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第百六十四条第二項第三号に規定するアイ・ピー・アドレスをいう。)及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号(インターネットに接続された電気通信設備(同法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。以下同じ。)において通信に使用されるプログラムを識別するために割り当てられる番号をいう。)
六 侵害情報に係る携帯電話端末又はPHS端末(以下「携帯電話端末等」という。)からのインターネット接続サービス利用者識別符号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービス(利用者の電気通信設備と接続される一端が無線により構成される端末系伝送路設備(端末設備(電気通信事業法第五十二条第一項に規定する端末設備をいう。)又は自営電気通信設備(同法第七十条第一項に規定する自営電気通信設備をいう。)と接続される伝送路設備をいう。)のうちその一端がブラウザを搭載した携帯電話端末等と接続されるもの及び当該ブラウザを用いてインターネットへの接続を可能とする電気通信役務(同法第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。)をいう。以下同じ。)の利用者をインターネットにおいて識別するために、当該サービスを提供する電気通信事業者(同法第二条第五号に規定する電気通信事業者をいう。以下同じ。)により割り当てられる文字、番号、記号その他の符号であって、電気通信(同法第二条第一号に規定する電気通信をいう。)により送信されるものをいう。以下同じ。)
七 侵害情報に係るSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスを提供する電気通信事業者との間で当該サービスの提供を内容とする契約を締結している者を特定するための情報を記録した電磁的記録媒体(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に係る記録媒体をいい、携帯電話端末等に取り付けて用いるものに限る。)を識別するために割り当てられる番号をいう。以下同じ。)のうち、当該サービスにより送信されたもの
八 第五号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第六号の携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は前号のSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスにより送信されたものに限る。)に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻
ウ 令和3年法律第27号による改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「改正法」という。令和4年10月1日施行)
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一〜四(略)
五 侵害情報特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が当該権利を侵害したとする情報をいう。
六 発信者情報氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。
(発信者情報の開示請求)
第五条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
一 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
三 次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
イ 当該特定電気通信役務提供者が当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。
ロ 当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもののみであると認めるとき。
(1)当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所
(2)当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報
ハ 当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く。)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。
2 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときは、当該特定電気通信に係る侵害関連通信の用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者(当該特定電気通信に係る前項に規定する特定電気通信役務提供者である者を除く。以下この項において「関連電気通信役務提供者」という。)に対し、当該関連電気通信役務提供者が保有する当該侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる。
一 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
3 前二項に規定する「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号(特定電気通信役務提供者が特定電気通信役務の提供に際して当該特定電気通信役務の提供を受けることができる者を他の者と区別して識別するために用いる文字、番号、記号その他の符号をいう。)その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。
エ 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(令和4年総務省令第39号。以下「規則」という。令和4年10月1日施行)
(用語)
第一条 この省令において使用する用語は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)において使用する用語の例による。
(発信者情報)
第二条 法第二条第六号の総務省令で定める侵害情報の発信者の特定に資する情報は、次に掲げるものとする。
一 発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の氏名又は名称
二 発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の住所
三 発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の電話番号
四 発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の電子メールアドレス(電子メール(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第一号に規定する電子メールをいい、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令(平成二十一年総務省令第八十五号)第一号に規定する通信方式を用いるものに限る。第六条第一項第一号において同じ。)の利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)
五 侵害情報の送信に係るアイ・ピー・アドレス(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第百六十四条第二項第三号に規定するアイ・ピー・アドレスをいう。以下この条において同じ。)及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号(インターネットに接続された電気通信設備(同法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。以下この条において同じ。)において通信に使用されるプログラムを識別するために割り当てられる番号をいう。第九号において同じ。)
六〜七(略)
八 第五号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第六号の移動端末設備からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る移動端末設備又は前号のSIM識別番号に係る移動端末設備から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻
九 専ら侵害関連通信に係るアイ・ピー・アドレス及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号
十〜十二(略)
十三 第九号の専ら侵害関連通信に係るアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第十号の専ら侵害関連通信に係る移動端末設備からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る移動端末設備、第十一号の専ら侵害関連通信に係るSIM識別番号に係る移動端末設備又は前号の専ら侵害関連通信に係るSMS電話番号に係る移動端末設備から開示関係役務提供者の用いる電気通信設備に侵害関連通信が行われた年月日及び時刻
十四(略)
(侵害関連通信)
第五条 法第五条第三項の総務省令で定める識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識別符号その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定する侵害情報の送信と相当の関連性を有するものとする。
一〜四(略)」
2 争点
 原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件ログイン時IPアドレス等の「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)該当性)
 次のとおり原判決を訂正し、当審における当事者の補充主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の3(1)記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決の訂正
(ア)原判決5頁7行目の「当該権利の侵害に係る発信者情報」の前に「本件各投稿を行った発信者の特定に資する情報であり、」を加え、同頁9行目の「ログイン時」から同頁11行目の「という。)」までを「省令」と改める。
(イ)原判決9頁19行目の「あるとしても,」の次に「ツイッターのシステム上、1個のアカウントについて、複数のログイン状態が競合することは可能であり、ユーザーが、上記ツイッターのアカウントを通じてツイートを投稿した場合、どのログイン状態の下で投稿を行ったものなのかを知ることは技術上困難であって、」を加える。
イ 当審における控訴人の補充主張
 原判決は、@法4条1項の趣旨からすると、権利侵害行為そのものの送信時点ではなく、その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には、法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解すべきであり、ログイン時のIPアドレス等であっても、当該ログインが侵害情報の発信者のものと認められる場合には、侵害情報の送信行為との関連性を有するということができるから、法4条1項所定の発信者情報に当たる、A法4条1項の委任を受けた省令5号は、法4条1項所定の発信者情報に該当するIPアドレスにつき、「侵害情報に係る」と規定しており、侵害情報の送信の際に割り当てられたIPアドレスに限定する規定ぶりとはなっていないことからすれば、ログインの際に割り当てられたIPアドレスも、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当するというべきである、BIPアドレスの開示を受けるだけでは発信者を特定することが不可能ないし極めて困難であって、発信者の特定には、当該IPアドレスを割り当てられた年月日及び時刻(タイムスタンプ)を必要とすることからすれば、省令8号の規定するタイムスタンプは、ログインの際のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備からのログイン情報の発信時のものを含むと解するのが相当である、Cツイッターの仕組みを踏まえると、法人や団体においてその営業や事業に利用する場合を除き、複数人が共有して特定のアカウントを利用する可能性は極めて乏しく、また、本件において複数人が本件各アカウントを共有して使用していることをうかがわせる事情は見当たらないから、本件各アカウントはそれぞれ特定の個人が利用していたものであるというべきであり、本件各アカウントにそれぞれログインした者と本件各投稿の各発信者とは同一の者であると認められ、本件IPアドレス等から把握される発信者情報が本件各投稿の発信者のものということができる、Dそして、ツイッターの仕組みからすれば、本件各投稿を本件各アカウントの設定者がこれを第三者に譲渡したことがうかがわれるなどの特段の事情のない限り、本件各投稿と開示を求めるログイン時の情報との前後関係、その時間的間隔の程度等を考慮することなく、本件各アカウントにログインした際のIPアドレス等は、本件各投稿による権利の侵害に係る発信者の特定に資する情報に該当するというべきであるところ、本件全証拠に照らしても、上記特段の事情の存在はうかがわれない、E以上からすると、本件各アカウントにログインした際のIPアドレス等の情報は、最新のログイン時のIPアドレス等も含め、法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるというべきである旨判断したが、以下のとおり、原判決の判断は誤りである。
(ア)法4条及び同法の委任による省令は、発信者が有するプライバシーや表現の自由、通信の秘密等の権利・利益と権利を侵害された者の差止め、損害賠償等の被害回復の利益との調整を図るために設けられた規定であって、両者のバランスの観点から、法4条が具体的な発信者情報の範囲を省令に委任し、省令が開示請求の対象となり得る情報の範囲について謙抑的・限定的に必要最小限の範囲の情報のみを個別具体的に発信者情報として限定列挙の形で指定している。
 ログイン時のIPアドレス等は、侵害情報の発信行為とは全く別個の行為であるアカウントへのログイン行為に関する情報であるから、そもそも、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない。
 また、ツイッターのシステム上、1個のアカウントに対して、複数のログイン状態が競合することは可能であり、現実にも頻繁に発生している事態(例えば、固定インターネット回線の経由プロバイダを通じてノートパソコンを用いて自らのアカウントにログインし、かつ、別の経由プロバイダを通じてスマートフォンを用いて同じアカウントにログインしているといった事態)であることからすると、投稿行為がどのログイン行為に基づくログイン状態を利用して行われたのかを特定できないから、投稿が当該投稿直前のログイン状態を利用してされたものである蓋然性が高いという経験則は存在しない。仮にログイン時のIPアドレス等が開示の対象でないことが被害者・請求者にとって不合理に感じられることがあり得るとしても、それは現行法の限界であり、不都合があるのであれば法律又は省令の改正によって解決すべき問題である。
(イ)省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」の文言上、同号が開示の対象としているのは、侵害情報送信時のタイムスタンプ(年月日及び時刻)のみであることは明らかである。そして、ログイン行為は、侵害情報とは全く異なる情報であるログイン情報(具体的には、アカウント名、パスワード等)を送信する行為であり、かつ、侵害情報送信時とは全く異なる時点においてされるのであるから、ログイン時のタイムスタンプは省令8号のタイムスタンプに該当しない。
 一方、省令5号は、「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定し、「発信者」の「アイ・ピー・アドレス」とは規定していないが、これは、発信者以外の者が経由プロバイダの契約者である場合にも、経由プロバイダのIPアドレスの開示を可能とするために、「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」との文言が用いられたものであり、省令5号は、侵害情報の発信行為に関連する情報のみを対象としているものと解される。
 また、そもそも、IPアドレスとタイムスタンプは、それぞれ一方のみでは発信者を特定することができず、両者を一体として利用することで初めて発信者の特定に資する情報となり得るものであること(被害者が経由プロバイダに対して、発信者の氏名及び住所等の開示を請求する場合には、IPアドレスだけではなく対応するタイムスタンプを示して、特定のタイムスタンプの時点において特定のIPアドレスを使用していた者の氏名及び住所等を請求する必要がある。)、省令8号の「第五号のアイ・ピー・アドレス」との文言上も、省令8号の情報が省令5号と一体となるものであることを明らかにしていることからすると、ログイン時のタイムスタンプが開示の対象とならない以上、ログイン時のIPアドレスについてのみ開示の対象とすることは無意味でありかつ不自然であるから、省令5号は、省令8号と同様に、侵害情報発信時のIPアドレスのみを対象とするものと解される。
 この点に関し、被控訴人は、省令5号の「侵害情報に係る」の部分に独自の意義があるとすると、法4条1項及び省令5号を合わせて読むと「侵害情報に係る侵害情報に係るIPアドレス」と二重に限定を加えていることになり適当でないから、省令5号の「侵害情報に係る」の部分はIPアドレスの範囲を限定するものではない旨主張する。
 しかし、法4条1項柱書の文言は「当該権利の侵害に係る発信者情報」であるから、法律及び省令の文言を合わせて読むと、「当該権利の侵害に係る侵害情報に係るIPアドレス」となり、「請求者が侵害情報であると主張する特定の情報の発信行為又は投稿行為の際に取得されるIPアドレス」を意味するものであり、不自然とはいえないから、被控訴人の上記主張は失当である。
(ウ)ログイン時のIPアドレス等が発信者情報開示請求の対象に含まれるかどうかは、省令の文言に該当するかどうかによって決せられるべき問題であって、仮にログインした者と侵害情報を発信した者が同一人物であると認められる事情又は同一人物であることを疑わせる事情が存在しないからといって、ログイン時のIPアドレス等が当然に発信者情報開示請求の対象に含まれると解することはできない。
 また、仮にログイン時のIPアドレス等が発信者情報開示請求の対象となり得るとしても、どの範囲の情報が開示の対象となるのかを明確にするためには、開示の対象となるIPアドレス等は侵害情報の発信行為と一定の関連性を有するものでなければならない。このような観点からも、ログイン時のIPアドレス等は発信者情報開示請求の対象とはならないというべきである。
 さらに、判決が確定された時点での「最新のログイン時」のIPアドレス等についても、侵害情報の投稿時から最も離れた時点での情報であり、侵害情報投稿行為との関連性が最も希薄であることからすれば、省令5号及び8号の文言に該当せず、発信者情報開示の対象とはならないというべきである。
 したがって、「最新ログイン時」のIPアドレス等に限らず、侵害情報の発信行為に全く関連しないIPアドレス等は、省令5号及び8号に該当しないというべきである。
(エ)本件各投稿記事は、それぞれ令和2年11月12日(甲2)、同月7日(甲6)、同年12月18日(甲10、14)、令和3年3月7日(甲18)に投稿されたものであるが、原判決が開示を認めた本件各アカウントにログインした際のIPアドレス等は、当該投稿記事の投稿行為との間に時間的な近接性がなく、何らの関連性も認められないものであり、なぜログイン時の情報であれば時間的な前後関係及び時間的間隔の程度に関わらず、「発信者の特定に資する情報」に該当するといえるのかについて原判決は理由を示していない。
(オ)以上によれば、原判決の前記判断は誤りである。
ウ 当審における被控訴人の補充主張
(ア)原判決の判断に控訴人主張の誤りはない。
(イ)本件ログイン時のIPアドレス等の全面開示を認めないことは被控訴人の知る権利(憲法21条1項、13条、32条)を侵害し違憲であり、「権利行使を確保するための手続を国内法において確保」しなければならないとするWIPO著作権条約14条2項の要請にも反するから、憲法適合解釈のもと、法及び省令を憲法21条1項、13条、32条に適合的に解釈し、本件ログイン時IPアドレス等を全面的に開示すべきである。
 法4条1項は、特定電気通信による情報の流通により自己の権利を侵害されたとする者が開示関係役務提供者に対して開示を請求することのできる情報として、「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており、権利侵害行為そのものに使用された発信者情報に限定した規定ではなく、「係る」という、関係するという意義の文言が用いられていることからしても、「権利の侵害に係る発信者情報」は、権利侵害行為に関係する情報を含むと解するのが相当である。そして、権利侵害行為そのものの送信時点ではなく、その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解すべきである。
(ウ)省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」は、二重に情報を限定していると解すべきではなく、「侵害情報に係る」における情報の限定は法律本文が行っており、省令にいう「侵害情報に係る」の部分に特段の意味はなく、省令5号は単に「アイ・ピー・アドレス」という開示されるべき情報の種類を定めていると解すべきである。また、省令8号の定めるタイムスタンプは、IPアドレスと「対」になったタイムスタンプという程度の情報の種類の摘示程度の意味しか有していないと解すべきである。ログイン情報の開示範囲を検討する場合に省令8号の文言に囚われて「侵害情報が送信された」という文言に情報限定の意味を読み込むと不当な結論となる。
(エ)令和4年10月1日に施行される規則においては、投稿前のログアウト情報や投稿後のログイン情報など論理的に投稿そのものに供された可能性がない通信情報も含めてアカウント開設から閉鎖までの全ての情報が理論上開示され得ることが定められている。規則は、開示対象の発信者情報について、侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求めておらず、通信情報が侵害情報の発信者のものと認められる場合には開示を肯定する立場をとっている。そうすると、規則施行前の省令においても、ログイン情報等の開示において、発信者と投稿者との主観的同一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求められていないというべきである。
(オ)控訴人は、本件各アカウントに係る発信情報開示開示仮処分決定(甲32等)を受けて、被控訴人に対し、アカウント1につき保有する全てのログイン時のIPアドレス等(甲58、59、63)を、アカウント2ないし4につき各投稿直前のログイン時のIPアドレス等(甲60、61、62)を開示したが、アカウント2ないし4の各投稿直前のログイン時のIPアドレス等は既に各投稿から2年が経過しており、発信者の特定に結びつかない一方、アカウント1に係る最新のログイン時のIPアドレス等だけが発信者の特定につながり得る情報であって、かつ、当該情報が一定期間のログイン時のIPアドレス等とともに開示されることによって発信者の特定可能性があるものといえる。
 そうすると、控訴人が保有するログイン時のIPアドレス等の全ての開示を認めなければ、被控訴人において、発信者の特定ができないことから、本件においては、別紙発信者情報目録第1記載のとおり、控訴人が保有する全てのログイン時のIPアドレス等の開示を認める必要性がある。
(2)争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)
 原判決の「事実及び理由」の第2の3(2)記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件ログイン時IPアドレス等の「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)該当性)について
(1)はじめに
 被控訴人は、本件ログイン時IPアドレス等(@アカウント1ないし5にログインした際のIPアドレスのうち、控訴人が保有するものすべて、A@の各IPアドレスが割り当てられた電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に情報が送信された年月日及び時刻)が、本件各投稿の発信者の特定に資する情報であって、省令5号及び8号に該当するから、法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当する旨を主張する。
 ところで、法4条1項は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、「当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。)」の開示を請求することができると規定し、省令は、法4条1項に規定する「侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」は、次のとおりとすると規定し、1号から8号までを列挙している。このうち、省令5号は、「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」を、省令8号は、「第5号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、…携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」と規定するものである。
 そして、法4条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解されること(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)に鑑みると、法4条1項の委任を受けた省令1号ないし8号の規定は、開示の対象となる「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を限定的に列挙したものと解される。
 以上を前提に、本件ログイン時IPアドレス等が省令5号及び8号に該当するかどうかについて判断する。
(2)認定事実
 前記前提事実と証拠(甲32、58ないし63)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件各投稿の日時
 本件投稿1は、令和2年11月12日午前7時52分にアカウント1を利用して、本件投稿2は、同月7日午前4時57分にアカウント2を利用して、本件投稿3は、同年12月18日午後7時3分にアカウント3を利用して、本件投稿4は、同日午前10時35分にアカウント4を利用して、本件投稿5は、令和3年3月7日午後5時52分にアカウント5を利用して、ツイッターのウェブサイトにそれぞれ投稿された。
イ 本件訴訟に至る経緯等
(ア)被控訴人は、令和2年11月17日、アカウント1について、控訴人を債務者とする発信者情報開示仮処分の申立て(東京地方裁判所令和2年(ヨ)第22121号)をし、令和3年2月17日、アカウント1にログインした際のIPアドレスのうち、本件投稿1の直前のログイン時以降、控訴人が保有するIPアドレス及びそのタイムスタンプの全ての開示を命じる仮処分決定(以下「本件仮処分決定1」という。)がされた。その後、控訴人は、本件仮処分決定1につき本案の起訴命令の申立てをし、同月25日、起訴命令が発せられた。
 また、被控訴人は、アカウント2ないし4について、控訴人を債務者とする発信者情報開示仮処分の申立て(令和2年(ヨ)第22125号)をし、同年3月2日、控訴人が保有するログイン情報のうち、侵害情報の投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのタイムスタンプの開示を命じる旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定2」という。)がされた。その後、控訴人は、本件仮処分決定2につき本案の起訴命令の申立てをし、同月29日、起訴命令が発せられた。
(イ)被控訴人は、前記(ア)の各起訴命令を受けて、令和3年3月3日、原審に本件訴訟を提起した。その後、被控訴人は、同年10月12日、アカウント5について、発信者情報の開示を求める訴えの追加的変更をした。
(ウ)被控訴人は、本件仮処分決定1に基づき、間接強制決定を求める申立てをし、同月19日、間接強制決定がされた。
 また、被控訴人は、本件仮処分決定2に基づき、間接強制決定を求める申立てをし、同月24日、間接強制決定がされた。
(エ)原審は、令和3年11月9日、口頭弁論を終結し、令和4年1月20日、原判決を言い渡した。
 その後、控訴人は、同年3月4日、本件控訴を提起した。
(オ)控訴人は、令和4年5月26日、被控訴人に対し、アカウント1について、本件投稿1の直前のログイン時(日本時間令和2年11月12日午前7時44分49秒)以降、令和4年5月24日午後3時49分50秒までのログイン情報に係るIPアドレス及びタイムスタンプを、アカウント2ないし4について、本件投稿2ないし4のそれぞれ直前のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(アカウント2につき令和2年11月7日午前4時46分29秒時、アカウント3につき令和2年12月18日午前8時54分54秒時、アカウント4につき令和2年12月18日午前8時54分9秒時の各IPアドレス)を開示した。
(3)本件ログイン時IPアドレス等の省令5号及び8号該当性について
ア 省令5号及び8号の意義について
(ア)@前記(1)のとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」は、「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を類型化したものであること、A前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害者の権利行使の観点から、開示される情報の幅は広くすることが望ましいが、一方で、発信者情報は個人のプライバシーに深く関わる情報であって、通信の秘密として保護されるものであることに鑑みると、被害者の権利行使にとって有益であるが不可欠ではない情報や開示することが相当とはいえない情報まで開示することは許容すべきではないと考えられ、このことは、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報であっても同様であること、B省令5号の「侵害情報に係る」との文言を総合考慮すると、同号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」とは、侵害情報の送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当である。
 次に、省令8号の「第5号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、…携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」との文言に鑑みると、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、「省令5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又はその送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解するのが相当である。
(イ)これに対し、被控訴人は、@ツイッターにおいては、そのセキュリティの高さからログインした者が発信者であるという蓋然性が極めて高い状況であり、特定のアカウントにログインしている以上、当該ログインをした者は、発信者と同一人物であることが強く推認されるところ、法4条の趣旨・規定ぶり、控訴人の提供するサービスの仕組みやセキュリティの状況からすれば、ログイン情報等の開示において、発信者と投稿者との主観的同一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求められていないというべきであるから、ツイッターへのログイン時のIPアドレス等は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する、A本件ログイン時IPアドレス等の全面開示を認めないことは、被控訴人の知る権利(憲法21条1項、13条、32条)を侵害し違憲であり、「権利行使を確保するための手続を国内法において確保」しなければならないとするWIPO著作権条約14条2項の要請にも反するから、憲法適合解釈のもと、法及び総務省令を憲法21条1項、13条、32条に適合的に解釈し、本件ログイン時IPアドレス等を全面的に開示すべきである、B令和4年10月1日に施行される規則においては、投稿前のログアウト情報や投稿後のログイン情報など論理的に投稿そのものに供された可能性がない通信情報も含めてアカウント開設から閉鎖までの全ての情報が理論上開示され得ることが定められ、開示対象の発信者情報について、侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求めておらず、通信情報が侵害情報の発信者のものと認められる場合には開示を肯定する立場をとっていることからすると、規則施行前の省令においても、ログイン情報等の開示において、発信者と投稿者との主観的同一性が認められれば足り、通信間の客観的関連性は求められていないというべきである旨主張する。
 しかしながら、@及びAについては、法4条1項の委任を受けた省令1号ないし8号の規定は、開示の対象となる「侵害情報の発信者の特定に資する情報」を限定的に列挙したものと解されるところ、前記(ア)で説示したとおり、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」とは、侵害情報の送信に使用されたIPアドレス又は侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものをいうと解するのが相当であり、また、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」とは、「省令5号」の「アイ・ピー・アドレス」を使用して侵害情報の送信又の送信に関連する送信がされた年月日及び時刻をいうものと解するのが相当であるから、ツイッターへのログイン時のIPアドレス等であれば、省令5号及び8号に該当しないものであっても、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するということはできない。
 そして、前記(ア)のとおり、前記(1)の法4条の趣旨に照らすと、被害者の権利行使にとって有益であるが不可欠ではない情報や開示することが相当とはいえない情報まで開示することは許容すべきではないと考えられ、このことは、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報であっても同様である。
 また、控訴人が挙げる憲法の規定やそれらの趣旨を考慮したとしても、被控訴人に、法律に定められていない発信者情報の開示を求める権利があると解することもできない。
 次に、Bについては、ログイン情報に相当する「侵害関連通信」について規定する規則5条柱書によれば、「法第五条第三項の総務省令で定める識別符号その他の符号の電気通信による送信は、次に掲げる識別符号その他の符号の電気通信による送信であって、それぞれ同項に規定する侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」と規定し、ログイン情報の開示において「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に限定しており、被控訴人が述べるように、開示対象の発信者情報について、侵害情報の投稿行為との客観的な関連性を求めておらず、通信情報が侵害情報の発信者のものと認められる場合には開示を肯定する立場をとっているとまでいうことはできない。
 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ)また、控訴人は、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」の文言上、同号が開示の対象としているのは、侵害情報送信時のタイムスタンプのみであり、ログイン時のタイムスタンプは省令8号のタイムスタンプに該当しないことは明らかであり、ログイン時のタイムスタンプが開示の対象とならない以上、ログイン時のIPアドレスについてのみ開示の対象とすることは無意味でありかつ不自然であるから、省令5号は、省令8号と同様に、侵害情報発信時のIPアドレスのみを対象とするものと解されるべきである旨主張する。
 しかしながら、前記(3)ア(ア)の説示したところに照らし、被控訴人の上記主張は採用することができない。
イ アカウント1について
(ア)前記(2)の認定事実によれば、本件投稿1は、令和2年11月12日午前7時52分に投稿されたものであるのに対し、被控訴人がアカウント1について開示を求める情報は、アカウント1にログインした際のIPアドレスのうち、控訴人が保有するものすべて及び上記各情報が送信された年月日及び時刻であるところ、控訴人が本件投稿1のIPアドレス及びタイムスタンプの情報を保有していないことからすれば、本件投稿1の直前のログイン時のIPアドレスは、侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものと認められるから、省令5号に該当するものと認められる。
 また、本件投稿1の直前のログイン時のタイムスタンプについては、上記IPアドレスを使用して侵害情報(本件投稿1)の送信に関連する送信がされた年月日及び時刻に当たるから、省令5号に該当するものと認められる。
 他方、被控訴人がアカウント1について開示を求める情報の範囲は、本件投稿1から当審の口頭弁論終結時である令和4年9月6日までの約1年10か月の期間のものを含むほか、本件投稿1の時点よりも前のものを全て含み得るものであり、本件投稿1の直前のログイン時以降のものよりもさらに広い範囲を開示の対象とするものであるところ、かかる範囲のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ全てについて、侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被控訴人がアカウント1について開示を求める情報のうち、本件投稿1の直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻以外の情報は、省令5号及び8号に該当しないというべきである。
(イ)これに対し、被控訴人は、控訴人が本件仮処分決定1を受けて開示したログイン時のIPアドレス等のうち、アカウント1に係る最新のログイン時のIPアドレス等だけが発信者の特定につながり得る情報であって、かつ、当該情報が一定期間のログイン時のIPアドレス等とともに開示されることによって発信者の特定可能性があるものであるから、本件においては、別紙発信者情報目録第1記載のとおり、控訴人が保有する全てのログイン時のIPアドレス等の開示を認める必要性がある旨を主張する。
 しかしながら、前記(3)ア(ア)の説示のとおり、被害者の権利行使にとって有益であるが不可欠ではない情報や開示することが相当とはいえない情報まで開示することは許容すべきではないと考えられるものであり、このことは、侵害情報の発信者によって行われた通信に係る情報であっても同様であることからすれば、控訴人が保有する全てのログイン時のIPアドレス等の開示を認める必要性があるということはできない。
 したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ アカウント2について
 前記(2)の認定事実によれば、本件投稿2は、令和2年11月7日午前4時57分に投稿されたものであるのに対し、被控訴人がアカウント2について開示を求める情報は、アカウント2にログインした際のIPアドレスのうち、控訴人が保有するものすべて及び上記各情報が送信された年月日及び時刻であるところ、控訴人が本件投稿2のIPアドレス及びタイムスタンプの情報を保有していないことからすれば、本件投稿2の直前のログイン時のIPアドレスは、侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものと認められるから、省令5号に該当するものと認められる。
 また、本件投稿2の直前のログイン時のタイムスタンプについては、上記IPアドレスを使用して侵害情報(本件投稿2)の送信に関連する送信がされた年月日及び時刻に当たるから、省令5号に該当するものと認められる。
 他方、被控訴人がアカウント2について開示を求める情報の範囲は、本件投稿2から当審の口頭弁論終結時である令和4年9月6日までの約1年10か月の期間のものを含むほか、本件投稿2の時点よりも前のものを全て含み得るものであり、本件投稿2の直前のログイン時以降のものよりもさらに広い範囲を開示の対象とするものであるところ、かかる範囲のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ全てについて、侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被控訴人がアカウント2について開示を求める情報のうち、本件投稿2の直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻以外の情報は、省令5号及び8号に該当しないというべきである。
 これに反する被控訴人の主張は採用できない。
エ アカウント3について
 前記(2)の認定事実によれば、本件投稿3は、令和2年12月18日午後7時3分に投稿されたものであるのに対し、被控訴人がアカウント3について開示を求める情報は、アカウント3にログインした際のIPアドレスのうち、控訴人が保有するものすべて及び上記各情報が送信された年月日及び時刻であるところ、控訴人が本件投稿3のIPアドレス及びタイムスタンプの情報を保有していないことからすれば、本件投稿3の直前のログイン時のIPアドレスは、侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものと認められるから、省令5号に該当するものと認められる。
 また、本件投稿3の直前のログイン時のタイムスタンプについては、上記IPアドレスを使用して侵害情報(本件投稿3)の送信に関連する送信がされた年月日及び時刻に当たるから、省令5号に該当するものと認められる。
 他方、被控訴人がアカウント3について開示を求める情報の範囲は、本件投稿3から当審の口頭弁論終結時である令和4年9月6日までの約1年9か月の期間のものを含むほか、本件投稿3の時点よりも前のものを全て含み得るものであり、本件投稿3の直前のログイン時以降のものよりもさらに広い範囲を開示の対象とするものであるところ、かかる範囲のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ全てについて、侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被控訴人がアカウント3について開示を求める情報のうち、本件投稿3の直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻以外の情報は、省令5号及び8号に該当しないというべきである。
 これに反する被控訴人の主張は採用できない。
オ アカウント4について
 前記(2)の認定事実によれば、本件投稿4は、令和2年12月18日午前10時35分に投稿されたものであるのに対し、被控訴人がアカウント4について開示を求める情報は、アカウント4にログインした際のIPアドレスのうち、控訴人が保有するものすべて及び上記各情報が送信された年月日及び時刻であるところ、控訴人が本件投稿4のIPアドレス及びタイムスタンプの情報を保有していないことからすれば、本件投稿4の直前のログイン時のIPアドレスは、侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものと認められるから、省令5号に該当するものと認められる。
 また、本件投稿4の直前のログイン時のタイムスタンプについては、上記IPアドレスを使用して侵害情報(本件投稿4)の送信に関連する送信がされた年月日及び時刻に当たるから、省令5号に該当するものと認められる。
 他方、被控訴人がアカウント4について開示を求める情報の範囲は、本件投稿4から当審の口頭弁論終結時である令和4年9月6日までの約1年9か月の期間のものを含むほか、本件投稿4の時点よりも前のものを全て含み得るものであり、本件投稿4の直前のログイン時以降のものよりもさらに広い範囲を開示の対象とするものであるところ、かかる範囲のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ全てについて、侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被控訴人がアカウント4について開示を求める情報のうち、本件投稿4の直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻以外の情報は、省令5号及び8号に該当しないというべきである。
これに反する被控訴人の主張は採用できない。
カ アカウント5について
 前記(2)の認定事実によれば、本件投稿5は、令和3年3月7日午後5時52分に投稿されたものであるのに対し、被控訴人がアカウント5について開示を求める情報は、アカウント5にログインした際のIPアドレスのうち、控訴人が保有するものすべて及び上記各情報が送信された年月日及び時刻であるところ、控訴人が本件投稿5のIPアドレス及びタイムスタンプの情報を保有していないことからすれば、本件投稿5の直前のログイン時のIPアドレスは、侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものと認められるから、省令5号に該当するものと認められる。
 また、本件投稿5の直前のログイン時のタイムスタンプについては、上記IPアドレスを使用して侵害情報(本件投稿5)の送信に関連する送信がされた年月日及び時刻に当たるから、省令5号に該当するものと認められる。
 他方、被控訴人がアカウント5について開示を求める情報の範囲は、本件投稿4から当審の口頭弁論終結時である令和4年9月6日までの約1年6か月の期間のものを含むほか、本件投稿5の時点よりも前のものを全て含み得るものであり、本件投稿5の直前のログイン時以降のものよりもさらに広い範囲を開示の対象とするものであるところ、かかる範囲のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ全てについて、侵害情報の送信に関連する送信に使用されたIPアドレスであって、侵害情報の発信者を特定するために必要かつ合理的な範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被控訴人がアカウント5について開示を求める情報のうち、本件投稿5の直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻以外の情報は、省令5号及び8号に該当しないというべきである。
 これに反する被控訴人の主張は採用できない。
キ まとめ
 以上によれば、被控訴人が本件各アカウントについて開示を求める情報のうち、本件各投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻の情報は、省令5号及び8号に該当するが、その余の情報は、省令5号及び8号に該当しないものと認められる。
2 結論
 前記1によれば、被控訴人の別紙発信者情報目録記載第1の各情報の開示請求については、被控訴人が本件各アカウントについて開示を求める情報のうち、本件各投稿直前のログイン時のIPアドレス及びそのIPアドレスを使用して情報の送信がされた年月日及び時刻の情報を求める限度で理由がある。
 また、被控訴人の別紙発信者情報目録記載第2の各情報の開示請求については、請求原因事実に争いがないから、いずれも理由がある。
 そうすると、被控訴人の請求は、別紙発信者情報目録記載第1及び第2の各情報のうち、@原判決別紙アカウント目録記載の各アカウントについて、原判決別紙投稿記事目録記載の各投稿の直前に各アカウントにログインした際のIPアドレス並びに上記各IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に上記各ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻(UTC)、A原判決別紙アカウント目録記載のアカウント2、3、5の電話番号、B原判決別紙アカウント目録記載の各アカウントのメールアドレスの開示を求める限度で理由があり、その余は理由がないから棄却すべきものである。
 したがって、原判決は一部不当であって、本件控訴は一部理由があるから、原判決を本判決主文第1項のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 小川卓逸
 裁判官 遠山敦士


別紙 発信者情報目録
第1 ログイン情報
 開示を請求する発信者情報
1 原判決別紙アカウント目録記載の各アカウントにログインした際のIPアドレスのうち、控訴人が保有するものすべて
2 前項の各IPアドレスが割り当てられた電気通信設備から、控訴人の用いる特定電気通信設備に前項の情報が送信された年月日及び時刻(UTC)
第2 アカウント情報
 開示を請求する発信者情報
1 原判決別紙アカウント目録記載のアカウント2、3、5の電話番号
2 原判決別紙アカウント目録記載の各アカウントのメールアドレス
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