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【事件名】調理器具の写真無断流用事件F
【年月日】令和4年11月28日
 東京地裁 令和3年(ワ)第21922号 損害賠償金請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年9月15日)

判決
原告 エス・アンド・ケー株式会社
被告 株式会社BOOTROOM
同訴訟代理人弁護士 辻󠄀居弘平
同 加藤尚敬
同 毛塚衛
同 石原知


主文
1 被告は、原告に対し、5万円及びこれに対する令和3年4月18日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを10分し、その9を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、46万6662円及びこれに対する令和3年4月18日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、被告がインターネット上のウェブサイトに原告が著作権を有する画像を掲載したことが、原告の著作権(複製権及び送信可能化権)を侵害すると主張して、不法行為に基づき、損害賠償金46万6662円及びこれに対する不法行為後の日である令和3年4月18日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実をいう。)
(1)当事者
ア 原告は、家庭用雑貨及び厨房用品等の売買及び輸出入業等を目的とする株式会社である。
イ 被告は、物品の販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。
(2)本件各画像の作成等(甲1、4、12、13)
ア 原告は、令和元年9月頃、株式会社いつもに対し、デンマーク製の「SCANPAN」というブランドのキッチン製品の輸入及び販売に係るウェブサイトの制作業務等を委託した。
 これに対し、株式会社いつもは、上記キッチン製品のうちフライパンについて、別紙画像目録記載の各画像(同目録記載の番号に合わせて「本件画像①」ないし「本件画像⑧」という。ただし、本件画像⑧は、別紙画像目録の2枚目ないし3枚目の各画像を総称するものである。また、本件画像①ないし本件画像⑧を併せて「本件各画像」という。)を作成し、令和2年3月30日頃、原告に対し、本件各画像に係る著作権を譲渡した。
イ 原告は、その頃から、自身のウェブサイトや「楽天市場」というウェブサイト(以下、併せて「原告サイト等」という。)において、本件各画像を使用して、「SCANPAN」のフライパンを販売している。
(3)被告による本件各画像の掲載等(甲2、3、11、17)
ア 被告は、令和3年3月3日までに、「Yahoo!JAPANショッピング」というウェブサイトにおいて「ブートショップ」という店舗を開設し、「SCANPAN」のフライパンを販売するようになり、遅くともその頃から同年5月19日頃までの間、別紙商品目録記載の各商品(原告が販売する「SCANPAN」ブランドの商品の一部であり、以下「本件各商品」という。)を販売するために、上記店舗のウェブサイト(以下「被告サイト」という。)において、本件各画像を掲載し(ただし、被告は、販売する商品に応じて、本件画像⑧の画像を選択して掲載した。)、公衆送信用記録媒体にその情報を記録した。
イ 原告は、令和3年4月18日、被告に対し、被告サイトにおける本件各画像の使用中止等を求める通知書を送付した。
2 争点
(1)本件各画像の著作物性(争点1)
(2)故意又は過失の有無(争点2)
(3)損害(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件各画像の著作物性)について
(原告の主張)
 本件各画像は、以下のとおり、本件各商品を含めた「SCANPAN」の製品に関して消費者に伝えるべきことについて、工夫して表現したものであるから、著作物性が認められる。
(1)本件画像①
 黒色、金色、赤色の配色により高級感や贅沢感を、クラシックな書体により時代を超えたエレガントさを表現しており、これらを組み合わせることで、全体として上質な料理に寄与するという印象を与えるようにしている。また、背景にかすかに見える「Made in Denmark」の表示は、仰々しくなく、さりげない表現としている。さらに、写真を白い枠で囲んで散らせた構図は、料理のスナップショットのようにすることにより、消費者において本件各商品を生活の一部として想像できるようにしている。そして、配色やフォントで高級感を表現しながらも、餃子や卵焼き、パンケーキといった、ベーシックな料理を写すことにより、日本の消費者が普段作っている一般的な料理についても、本件各商品を使えば更に美味しくなることを表現している。
(2)本件画像②
 本件画像①で使用した配色、フォント、背景を引き続き用いている。また、本件各商品が国際的に認知されたブランドのものであることを表現するために、各国の国旗を配置するなどしたほか、横にブランドロゴを大きくあしらい、国際的に通用するブランドであることを強調している。そして、写真は、中華鍋とアジアン料理を組み合わせたもので、「世界の食卓」というコンセプトとバラエティを表現している。
(3)本件画像③
 本件画像①で使用した配色、フォント、背景を引き続き用いている。また、北欧の力強い職人技や高品質なハンドクラフトを感じさせる写真を用いるとともに、白い縁取りを設けないことで、よりプロフェッショナルな印象に仕上げている。さらに、灰色と青色を基調とし、厳しい表情の作業員など、真面目で誠実な印象を与える写真を選び、本件各商品が丁寧に作られていることを消費者に伝えるようにしている。
(4)本件画像④
 本件画像①で使用した配色、フォント、背景を引き続き用いている。また、本件各商品は、熱伝導率が非常に均一なため、鍋を振る必要がないことを、オリジナルの文章と写真で表現し、さらに、写真においては、この点を強調するために、動きが無いものを選ぶとともに、ローストチキンを入れたフライパンは、熱伝導率が非常に高いため、多様な調理ができることを表現している。
(5)本件画像⑤
 本件画像①で使用した配色、フォントを用いている。また、環境にやさしい印象を与えるライトオリーブグレーの背景を選び、緑の木の絵や各種情報ロゴを加えて、安全性やエコロジー、健康的な生活を連想させるようなデザインにしている。
(6)本件画像⑥
 黒色、金色、白色を基調とし、全体的にクラシックで洗練された印象の画像である。また、フォントについては、文字のバランスや読みやすさを考えて、他の画像にあるものよりも細くし、サイズを大きめにしている。さらに、本件各商品の長所を強調するために、金色のテキストを選択している。そして、黒色の背景は、製品との視覚的なつながりを保ちつつ、消費者が自然に明るい色のテキストに目を向けるようにするために選んでいる。
(7)本件画像⑦
 本件画像①で使用した配色、フォント、背景を引き続き用いている。また、通常であれば、ノンスティック加工の調理器具には使用しない黒いスポンジの写真を追加することにより、他社製品よりも丈夫なコーティングであることをアピールし、丈夫な製品というイメージの裏付けをしている。さらに、赤で囲った文章は、上記スポンジの長所を強調するために選んでいる。
(8)本件画像⑧
 本件各商品と共に本件画像⑦におけるスポンジが写っており、丈夫な製品という表現を継続しつつ、本件各商品と一緒に上記スポンジを購入して使用することを推奨するために作成している。
(被告の主張)
 本件各画像の著作物性については、これを争う。
 すなわち、フライパンの宣伝であれば、誰が作成しても似たような構成になることは明らかであり、本件各画像も、ありふれた表現にとどまるものであって、創作的な表現とはいえない。
 また、本件各画像につき著作権が生じていたとしても、被告は、記事の著作物の一部を切り取り、その中の写真を用いたにすぎず、本件各画像の創作的部分を使用していない。
2 争点2(故意又は過失の有無)について
(原告の主張)
(1)被告は、本件各画像を作成しておらず、原告サイト等からこれを複製して被告サイトに転載していることからすると、本件各画像に係る著作権の侵害につき、故意が認められる。
(2)原告は、原告サイト等において、掲載されている全ての著作物の著作権が原告に帰属することを表示している。そうすると、被告において、本件各画像を自由に使用してよい旨誤信することはあり得ないから、本件各画像に係る著作権の侵害につき、過失が認められる。
(被告の主張)
 否認する。
 すなわち、被告は、原告サイト等における本件各画像に係る著作権の表示を確認していない。また、被告は、初めてウェブサイト上に店舗を開設したばかりであり、著作権について精通しておらず、原告から通知を受けた後は直ちに出品を停止し、本件各画像の使用を取りやめている。このような事情によれば、著作権侵害につき、被告に過失はない。
3 争点3(損害)について
(原告の主張)
 本件各画像に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(画像8枚の使用料)は、ウェブサイトの1ページ当たり6万6666円が相当であり、被告は、被告サイトにおいて7ページにわたって本件各画像を掲載したのであるから、本件における著作権法114条3項による損害は、46万6662円(=6万6666円×7ページ)となる。
 すなわち、画像レンタルサービスの相場(甲5ないし7)や、本件各画像の作成等に必要となった費用等を踏まえると、1ページ当たりの使用料は6万6666円を下らない。
 そして、被告は、7種類の商品(本件各商品)それぞれについて、被告サイトに各ページを設けたのであるから、使用料の合計としては、上記単価にページ数を乗じたものとすべきである。
(被告の主張)
 争う。
 すなわち、原告が本件各画像を第三者に使用させて使用料を収受していないこと、本件各画像は本件各商品の販売促進のためのものであり、その使用料は報道用の写真等よりも低額となること、被告は原告の指摘を受けた後に本件各画像の掲載を取りやめており、被告サイトを閲覧する者もほとんどいなかったことからすれば、原告が主張するような損害の推定をすることはできない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件各画像の著作物性)について
(1)本件画像①ないし本件画像④について
 前提事実及び証拠(甲1、4、12)によれば、本件画像①ないし本件画像④は、いずれも、写真と文字による説明文を組み合わせたデザインであること、写真は、本件各商品の製造過程や使用例等を示すものであり、本件各商品の特徴等を表すために、撮影の構図、ピント、シャッター速度、タイミング、絞り等において工夫がされており、料理や人物の個性等を引き出すものとなっていること、説明文は、写真と相まって本件各商品の特徴等を示すものであること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、本件画像①ないし本件画像④は、本件各商品の魅力を工夫して表現する点において作成者の個性が表れたものであり、作成者の思想又は感情を創作的に表現した著作物に当たるというべきである。
(2)本件画像⑤について
 前提事実及び証拠(甲1、4、12)によれば、本件画像⑤は、木の下部を両掌で支える様子等が写った画像を背景とし、ロゴや文字による説明文を組み合わせたデザインであって、ロゴは、リサイクルを表すものや発がん性物質が含まれていないこと等を示すものであり、説明文は、本件各商品について、環境に配慮したものであることや、有害な化学物質を含まないこと等を示すものであることが認められる。
 そうすると、本件画像⑤は、その背景、ロゴ、文字等をバランスよく組み合わせ、全体としてみれば、本件各商品の魅力を工夫して表現する点において作成者の個性が表れたものであり、作成者の思想又は感情を創作的に表現した著作物に当たるというべきである。
(3)本件画像⑥について
 前提事実及び証拠(甲1、4、12)によれば、本件画像⑥は、フライパンや果物等が微かに写った背景と、文字による説明文を組み合わせたデザインであること、説明文は、本件各商品の特徴5点を箇条書きするものであり、その中でも強調する部分については色を変更して表現していることが認められる。
 そうすると、本件画像⑥は、その背景や文字の体裁等を踏まえて、全体としてみれば、本件各商品の魅力を工夫して表現する点において作成者の個性が表れたものであり、作成者の思想又は感情を創作的に表現した著作物に当たるというべきである。
(4)本件画像⑦について
 前提事実及び証拠(甲12)によれば、本件画像⑦は、写真と文字による説明文を組み合わせたデザインであること、写真は、本件各商品の手入れに用いるためのスポンジを示すものであり、その特徴等を表すために、撮影の構図、ピント、シャッター速度、タイミング、絞り等において工夫がされていること、説明文は、上記スポンジの特徴等について説明するものであり、その中でも強調する部分については色を変更して表現していること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、本件画像⑦は、写真や説明文を組み合わせることにより、全体としてみれば、本件各商品の手入れに用いるスポンジの特徴を工夫して表現する点において作成者の個性が表れたものであり、作成者の思想又は感情を創作的に表現した著作物であるというべきである。
(5)本件画像⑧について
 前提事実及び証拠(甲12)によれば、本件画像⑧は、販売する商品によって変更されるものであり、本件各商品その他「SCANPAN」の商品の横に上記(4)記載のスポンジを並べた様子を写したものであり、撮影の構図、ピント、シャッター速度、タイミング、絞り等において工夫がされていることが認められる。
 そうすると、本件画像⑧は、本件各商品の形状を明確に表現する点において作成者の個性が表れたものであり、作成者の思想又は感情を創作的に表現した著作物であるというべきである。
(6)小括
 以上によれば、本件各画像について、著作物性を認めるのが相当である。
 これに対して、被告は、フライパンの宣伝であれば、誰が作成しても似たような構成になるなどとして、本件各画像の著作物性を争うなどするが、本件各画像を子細に検討すれば、表現上の各工夫においてその創作性が認められることは、上記において各説示したとおりであり、被告の主張は、採用することができない。
2 争点2(故意又は過失の有無)について
 前提事実、証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、①原告は、令和2年3月30日頃から「楽天市場」というウェブサイトにおいて、「BONBONMAMA」という店舗名で、本件各商品を販売していること、②原告は、本件各商品を含めた「SCANPAN」の製品の販売に当たり、本件各画像を表示するとともに、「Copyright(C)2020 BONBONMAMA.AllRightsReserved.」、「エス・アンド・ケー株式会社により作成されたコンテンツ(画像、映像、デザイン、ロゴ、テキスト等)に関する権利は、日本や外国の著作権法やその他の知的財産権法により保護されており、当社の許可なく使用はできません。無断でこれを使用した場合には、これらの著作権法その他の知的財産権法に違反することとなり、当社に生じた損害の倍賞(ママ)を請求します。」との表示をしていること、③被告は、令和3年3月3日頃から同年5月19日頃までの間、被告サイトにおいて、本件各商品を販売するに当たり、本件各画像を掲載したこと、④被告は、本件各画像の掲載に当たり、何らの許諾を得ておらず、その著作権について調査等をしたこともうかがわれないこと、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、本件各画像に係る著作権の侵害につき、被告に過失が認められることは明らかである。
 これに対して、被告は、著作権について精通していなかったなどと主張するが、本件各画像に関する原告表示の内容等を踏まえると、被告には、少なくとも過失が認められることは明らかである。したがって、被告の主張は、採用することができない。
3 争点3(損害)について
(1)前提事実、証拠(甲1、2、4、10、12)及び弁論の全趣旨によれば、①本件各画像は、次のとおり、本件画像①ないし本件画像⑤が、本件各商品の特徴を写真や文字により説明し、本件画像⑥が上記特徴を要約し、本件画像⑦が付属するスポンジの特徴等を説明し、本件画像⑧が販売する商品に応じて当該商品と付属するスポンジを写すというものであり、販売する商品に応じて本件画像⑧の内容を選択しつつ、本件画像①ないし本件画像⑧が一体として使用されるよう作成されていたこと、②現に、被告サイトにおいても、本件各商品を販売するに当たり、販売する商品に応じて本件画像⑧の内容を選択しつつ、本件画像①ないし本件画像⑧が併せて一体として使用されていたこと、③本件各画像は、本件各商品を販売するに当たり、本件各商品を宣伝するために作成されたものであり、第三者に使用を許諾することが想定されていたものではないこと、④被告は、令和3年3月3日頃から同年5月19日頃までの間に、本件各画像を被告サイト一店舗に限り掲載したこと、以上の事実が認められる。
 上記認定に係る本件各画像の内容や性質、被告による本件各画像の使用の目的、態様及び期間その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件各画像に係る著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額としては、合計5万円と認めるのが相当である。
(2)これに対し、原告は、新聞社等の画像の使用料に係る証拠(甲5ないし7)を提出するほか、本件各画像に係る損害額は、単価に対し本件各画像が掲載された被告サイトのページ数(7ページ)を乗じた金額とすべきである旨主張する。
 しかしながら、原告提出の上記証拠に係る画像と本件各画像とは、その作成の主体、使用の態様や目的その他の種々の点において相違があることからすると、必ずしも本件に適切ではなく、原告の主張を十分に踏まえても、上記認定を左右するものとはいえない。また、本件各画像は、被告サイト一店舗に限り本件各商品を販売するために各使用されていた利用態様等を踏まえると、単純に本件各画像が掲載されたページ数を乗じて損害額を算定するのは相当とはいえない。仮に、原告が、本件画像⑧の内容が各ページの商品ごとに異なることを踏まえ、損害額をこれに乗じて算定すべきと主張するものと解したとしても、本件画像①ないし本件画像⑦は、「SCANPAN」の製品に共通する特徴等を説明するのに対し、本件画像⑧は、該当する個別の商品と付属品とを並べた様子を撮影したものであり、本件画像⑧は、当該商品に応じて被写体を変更することが当然に想定されたものである。そうすると、本件画像①ないし本件画像⑧は、全体として一体のものといえるから、本件画像⑧の内容の違いは、本件各画像の利用の一態様にすぎず、本件画像⑧の内容が各ページの商品ごとに異なることは、上記判断を左右するものとはいえない。
 したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
(3)以上によれば、本件における著作権法114条3項に基づく損害額は、5万円であると認められる。その他に、当事者双方の提出に係る準備書面及び証拠を改めて検討しても、上記認定に係る本件各画像の利用目的、態様等に照らし、原告、被告双方の主張は、上記判断に反する限度で、いずれも採用することができない。
4 結論
 よって、原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 中島基至
 裁判官 古賀千尋
 裁判官 國井陽平


(別紙)画像目録 掲載省略
(別紙)商品目録 掲載省略
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