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【事件名】プロバイダ各社への発信者情報開示請求事件L 【年月日】令和4年11月10日 東京地裁 令和4年(ワ)第11853号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年9月13日) 判決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 被告NTTコミュニケーションズは、原告に対し、別紙発信者情報目録1記載の各情報を開示せよ。 2 被告ソフトバンクは、原告に対し、別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。 3 被告KDDIは、原告に対し、別紙発信者情報目録3記載の各情報を開示せよ。 4 訴訟費用は被告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告らがそれぞれ提供するインターネット接続サービスを介してインターネット上の匿名掲示板に投稿された別紙投稿記事目録記載1〜7の各記事(以下、順に「本件記事1」などといい、これらを併せて「本件各記事」という。)に貼付された各画像は、いずれも原告が著作権を有する動画の一部を複製し、公衆送信したものであり、その投稿は原告の上記各動画に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであることが明らかであると主張して、被告らに対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録1〜3記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 なお、以下では、本件各記事に貼付された各画像及びその基となっている各動画につき、それぞれ順に「本件画像1」、「本件原動画1」などといい、一連のものを併せて、それぞれ「本件各画像」、「本件各原動画」という。また、本件各記事の投稿行為を順に「本件投稿1」などといい、これらを併せて「本件各投稿」という。 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 ア 原告は、オンライン動画共有サービスYouTubeのチャンネル「(省略)」及び「(省略)」(以下、両者を併せて「原告チャンネル」という。)を管理運営する者である。 原告は、時期不詳ながら、原告チャンネルに、本件各原動画(甲1の6、2の6、3の6、4の6、7の6、9の6、10の6)を自ら及び編集業者においてテロップ付け等をして編集した各動画(甲1の4、2の4、3の4、4の4、7の4、9の4、10の4。以下、順に「本件SNS動画1」などといい、これらを併せて「本件各SNS動画」という。)を投稿した。 イ 被告らは、いずれも、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(特定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を用いて他人の通信を媒介し、その特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者(特定電気通信役務提供者)である。 (2)本件各投稿 氏名不詳者は、インターネット上の匿名掲示板「(省略)」内に開設された掲示板サイト「(省略)」内に設けられた別紙投稿記事目録の「スレッドタイトル」記載の各スレッド(以下、これらを併せて「本件スレッド」という。)に、同別紙の「投稿日時」記載の各日時において、同別紙の「投稿内容」記載の内容の各記事(本件各記事)を投稿した(本件各投稿。甲1の1、2の1、3の1、4の1、7の1、9の1、10の1)。 2 争点 (1)本件各投稿による原告の権利侵害の明白性(争点1) ア 本件各原動画の著作物性及び原告の著作権の有無(争点1−1) イ 複製権及び公衆送信権侵害の有無(争点1−2) ウ 引用の抗弁の成否(争点1−3) (2)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点2) 3 争点に対する当事者の主張 (1)争点1−1(本件各原動画の著作物性及び原告の著作権の有無) 〔原告の主張〕 本件各原動画は、原告が被写体の配置、ポーズ、調光、撮影の流れ、展開等を考えて、自ら又は妻の保有する撮影機器により撮影したものである。このため、本件各原動画は、原告の思想等を創作的に映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現したものであり、映画の著作物に該当する。また、原告は、その全体的形成に創作的に寄与したといえるから、原告が本件各原動画の著作者であり、かつ、著作権者である。本件各SNS動画は、本件各原動画に原告及び編集業者が編集を施したものであるが、これらは本件各原動画を複製ないし翻案したものであり、翻案に当たる場合であっても、本件各原動画の著作者である原告は、二次的著作物である本件各SNS動画の利用に関し、原著作者としての権利を有する。 〔被告NTTコミュニケーションズの主張〕 本件原動画1及び3の著作物性及びその著作権者が原告であることは、いずれも否認ないし争う。 本件原動画1及び3は、いずれも、単に家族の日常を工夫なく撮影しただけのものであり、その表現方法や内容に作成者の個性が発揮されているとはいえず、創作性を認めることはできない。また、原告の妻が本件原動画1及び3を撮影した可能性があるため、原告にその著作権を認めることはできない。 〔被告ソフトバンクの主張〕 本件原動画2及び4の著作物性については、いずれも争う。 本件画像2及び4に対応する本件原動画2及び4は、いずれも、単に人物が写っているだけの没個性的なものであり、被写体の配置、ポーズ、調光、撮影の流れに特段の創作性は認められず、レンズの選択、露光の調節、被写界深度の設定、照明等の撮影技法を駆使した成果も特になく、オートフォーカスカメラやデジタルカメラの機械的作用を意図的に利用した創作性や独自性は見出せない。 したがって、本件原動画2及び4は、いずれも創作的価値が乏しく、原告の個性が表れているものとはいいがたい上、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものでもないから、著作物性を有しない。 〔被告KDDIの主張〕 本件原動画5〜7の著作物性及びその著作権者が原告であることは、いずれも否認ないし争う。 本件原動画5〜7は、いずれも家庭生活・日常生活の一部を撮影したに過ぎない。通常の生活の様子を撮影しようとすれば、焦点距離や撮影の位置、構図、撮影の流れ、展開等の表現の選択の幅は必然的に限定されるところ、これらの動画においては、いずれも構図、撮影の流れ、展開自体はありふれたものであり、撮影者の個性が現れたものとはいえず、創作性がない。したがって、本件原動画5〜7は、いずれも著作物に該当しない。 また、本件原動画5〜7が撮影された時期、場所及び方法は明らかではないこと、これらの全体的形成に原告が創作的に関与したことの具体的な立証はないこと、本件原動画5及び7の撮影者は原告の妻とされていることに鑑みると、仮に本件原動画5〜7に著作物性があるとしても、原告が著作権者であることは明らかではない。 (2)争点1−2(複製権及び公衆送信権侵害の有無) 〔原告の主張〕 本件各画像は、いずれも本件各SNS動画の一部を複製して送信可能化したものである。また、原告は、本件各記事の発信者に対して本件各原動画の利用を許諾したことは一切ない。このため、本件各投稿によって原告の本件各原動画に係る著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。 〔被告NTTコミュニケーションズの主張〕 本件投稿1及び3は、本件原動画1及び3に係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害したとはいえない。すなわち、単なる家族の日常を撮影したものに過ぎない本件原動画1及び3について原告の個性が発揮された創作的表現が認められるとしても、それは、会話等の音声や人の動静が見られる動画であるためである。このような動画全体について著作物性が認められたとしても、その一部を切り取った静止画の投稿行為が複製権及び公衆送信権の侵害になるには、投稿された画像が、動画の創作性を有する特徴的な部分を具体的に感得できるようなものでなければならない。 しかるに、本件画像1及び3は、特徴的な場面ともいえない人の生活の一場面が写っているだけのものであり、本件原動画1及び3の創作性を有する家族の会話や動きを感得し得るものではない。したがって、本件投稿1及び3による本件原動画1及び3に係る原告の複製権及び公衆送信権の侵害は認められない。 〔被告ソフトバンク及び同KDDIの主張〕 争う。 (3)争点1−3(引用の抗弁の成否) 〔被告NTTコミュニケーションズの主張〕 原告は、原告チャンネルで、本件原動画1及び3を含む動画を投稿することにより、原告の子らの成長や教育の様子等の家族の日常を公開していたものであるところ、その中には、公開するのに不適切な場面や原告が怖い顔のお面を見て嫌がる子どもに対して「しっかりトラウマってんな」という発言をしたりするなどの言動が散見されることがあったため、次第に批判的な意見を受けるようになった。ところが、原告は、原告チャンネルに投稿された批判的な意見を一方的に削除するようになり、現在はコメントを承認制としたため、原告チャンネルには原告に好意的と受け取れるコメントしか掲載されないようになった。このため、原告の子どもへの対応や教育の仕方に意見のある者らは、本件スレッドのような他の電子掲示板において、原告が原告チャンネルに投稿した動画について意見を交わすようになったが、その際に、話題とする対象を明らかにして自己の投稿記事の趣旨を明確にするために、画像を貼付して引用するようになった。 本件画像1及び3も、上記のような経緯により、その発信者が、原告チャンネルに投稿された動画の問題点や意見等を原告がブロックする態度を指摘ないし批判する趣旨で、本件記事1及び3において引用したものである。 すなわち、本件画像1は、食べ物を舌で受け止めてから食べる「迎え舌」がマナー違反であることを指摘・批判する趣旨の記事において、その対象となる画像を示すために貼付されたものである。このような目的や本件記事1が投稿された経緯等に鑑みれば、マナー違反であることを指摘ないし批判する「迎えるシリーズ」という本件記事1のコメント部分と本件画像1は明瞭に区別でき、前者が主、後者が従の関係があるといえる。 本件画像3も、原告の投稿する動画の問題の指摘や批判をする場を原告チャンネルとは別にせざるを得ない状況において、その対象を示すために引用したに過ぎない。 また、本件記事1及び3に本件画像1及び3の出所が明示されていないとしても、本件投稿1及び3がされたのはいずれも「(省略)アンチスレ」というタイトルが付された本件スレッドであり、ここに投稿される記事の内容を考え合わせれば、一般の閲覧者において、本件画像1及び3が、原告が原告チャンネルに投稿した動画の一部を引用したものであることは明らかである。 以上より、本件投稿1及び3における本件原動画1及び3の利用は、適法な引用(著作権法32条1項)に当たる。 〔被告ソフトバンクの主張〕 ア 原告が原告チャンネルに動画を投稿していることや、その投稿動画について批判的意見を受けるようになり、原告の投稿動画からうかがわれる原告の子どもへの対応や教育に関して意見のある者が本件スレッドにおいて意見を交わすようになっていった経緯については、被告NTTコミュニケーションズの主張と同旨である。 イ 親の子に対する対応や教育の仕方等は広く世間の耳目を集めるトピックであると同時に、表現の自由を前提とした自由闊達な議論によって、あるべき姿が指向されるべきであって、ネット上の掲示板で批判的意見を含む議論がされたとしても、それ自体に違法性はない。また、自由闊達な議論を行うにあたっては、本件各投稿のように、言及対象を明確にするための画像等の引用は必要不可欠であり、このような画像等の使用方法は、ネット上の掲示板でもよく見られる。したがって、本件記事2及び4における本件原動画2及び4の引用は、公正な慣行に合致したものといえる。仮に本件原動画2及び4を引用することなく批判的意見だけが投稿されれば、かえって事実無根の憶測を生むような事態を招くことが想定される。 ウ 具体的にみても、本件画像4を構成する3枚の画像のうち左の画像には、中央に座っている小さな子どもの後ろにたばこの箱と大根が隣り合わせに置かれている様子が写っている。本件記事4は、健康によくないたばこの箱の横に食品を置くことは言語道断であるという趣旨で「大根の近くにたばこが置いてある」と指摘し、この内容を分かりやすく説明するために、上記画像を添付したものである。次に、中央の画像は、小さな子の後ろに開けっ放しのごみ箱が写りこんでいる。本件記事4は、開けっ放しのごみ箱は危険であるという趣旨で、「ゴミ箱パンパンであけっぱなし」と指摘した上で、この内容を分かりやすく説明するために、上記画像を添付したものである。さらに、右の画像は、原告の妻の顔を接写したものであるが、眼鏡の掛け方やバンダナの巻き方が汚く見えており、それらが原告らの衛生観念のなさを反映しているようであるため、子どもの教育に良くないという意味を込めて「パピコの顔とメガネとバンダナ具合が不潔すぎる」と指摘し、この内容を分かりやすく説明するために、上記画像を添付したものである。 以上のとおり、本件記事4に引用された3枚の画像は、引用に最低限必要なものである。原告チャンネルのコメント欄に直接批判的意見が投稿できない状況においては、当該意見の内容の明確化のため、このように画像を引用することは、引用の目的上正当な範囲内のものといえる。 また、本件スレッドのタイトルは「(省略)アンチスレ」であるから、本件画像2及び4が本件各SNS動画からスクリーンショットしたものであることも明らかである。加えて、本件記事4は、上記のとおり、言及対象である動画の内容を説明する趣旨で本件画像4を添付したものであることも明らかであり、画像部分と文章部分とが明瞭に区分されている。さらに、本件記事4の文章部分と本件画像4の関係についても、画像部分の引用目的は、上記のとおり、文章の対象を示し、ひいては、原告にまつわるあらぬ憶測を誘発しないためのものであるから、あくまで文章部分が主であり、画像部分が従である。 エ 本件画像2についても本件画像4と同様、画像部分と文章部分とが明瞭に区分され、引用目的も文章の対象を示すためのものである。 以上から、本件画像2及び4については、適法な引用に該当する。 オ 加えて、原告は、いわゆるユーチューバーであり、多数の動画を投稿して広く閲覧に供していることからすれば、閲覧者から動画に対する意見ないし論評が投稿されるに際し、動画のごく一部を切り抜いて掲載される程度のことは、受忍限度の範囲内として甘受すべきといえる。このため、本件投稿2及び4については、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情が存在しないとはいえない。 〔被告KDDIの主張〕 本件記事5〜7における本件画像5〜7の利用は、以下のとおり、適法な引用に該当する。 ア 本件記事5には、「新年の挨拶がじょうずうううの刑でよろめくB」との記載があり、当該記載の直後に本件SNS動画5の一場面のスクリーンショットであると原告が主張する本件画像5が掲載されている。本件記事5は、原告らしき男性が「じょうずううう」と言いながら子どもの頭を自身の身体に寄せたため、子どもがよろけたことについて問題提起又は批判を行うものである。また、本件画像5は、本件記事5の他の部分と明瞭に区分されており、問題提起・批判を行う趣旨の当該他の部分が主、本件画像5が従である。 イ 本件記事6には、「仙川湯けむりの里」との記載があり、当該記載の直前に本件SNS動画6の一場面のスクリーンショットであると原告が主張する本件画像6として、「仙川湯けむりの里」の看板等の写真が掲載されている。このような内容から、本件記事6は、原告らが訪れたスーパー銭湯の名称を紹介するだけのものであると考えられる。また、本件画像6は、本件記事6の他の部分と明瞭に区分され、紹介を行う趣旨の当該他の部分が主、本件画像6が従である。 ウ 本件記事7には、「イブも埋め作業を応援シテルヨ!庭はボコボコだけどね!」との記載があり、当該記載の直前に本件SNS動画7の一場面のスクリーンショットであると原告が主張する本件画像7が掲載されている。このような内容から、本件記事7は、原告が何らかの作業を行うことを応援するものであると考えられる。また、本件画像7は、本件記事7の他の部分と明瞭に区分され、応援を行う趣旨の当該他の部分が主、本件画像7が従である。 エ 本件記事5〜7が投稿された本件スレッドのタイトルには、「(省略)」との表記がされており、本件画像5〜7の出所が原告チャンネルである旨が明示されているといえる。 オ 以上から、本件画像5〜7の投稿は、いずれも公正な慣行に合致し、かつ、批評等引用の目的上正当な範囲内での引用といえる。 〔原告の主張〕 本件各記事に添付された本件各画像の利用は、いずれも適法な引用にあたらない。 すなわち、本件各記事においては、本件各画像の出所が明示されておらず、むしろ、原告のSNSアカウントを特定する部分が意図的にカットされている。その上、各発信者によるコメントはごく僅かであり、主要部分は本件各画像で占められているが、本件各記事において本件各画像を添付する必要性は乏しい。さらに、コメントの内容も正当な批評等を構成するものではないし、投稿目的は判然とせず、むしろ、原告に対する誹謗中傷の文脈で投稿されている。このため、本件各記事における本件各画像の引用の方法及び態様は、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということはできず、本件各画像を引用して利用することが公正な慣行に合致すると認めるに足りる事情もない。 したがって、本件各記事における本件各画像の利用は適法な引用に当たらない。 (4)争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無) 〔原告の主張〕 原告は、本件各記事の各発信者に対し、原告の権利が違法に侵害されたことを理由に損害賠償請求等を行う予定であり、そのために、本件発信者情報が必要である。 したがって、原告には、被告らに対して本件発信者情報の開示を受ける正当な理 由がある。 〔被告らの主張〕 不知ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1−1(本件各原動画の著作物性及び原告の著作権の有無) 証拠(甲1〜4、7、9及び10の各枝番5及び6)によれば、本件各原動画は、いずれも、原告及び原告の家族を被写体として、原告の自宅や外出時における原告の家族の日常生活の様子等を撮影したものであることが認められる。また、その内容から、その撮影にあたり、原告の子どもの成長の様子や、原告と原告の妻、原告の子どもとの間のやり取りを通じた家族それぞれの表情等が伝わるように、撮影の場面及び方法を工夫して制作されたものであることがうかがわれる。これらの事情に鑑みると、本件各動画は、撮影者の思想又は感情を創作的に表現したものとして、いずれも著作物性が認められる。 さらに、証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、本件各原動画は、いずれも、原告が、原告又は原告の妻の撮影機器を用いて、被写体の配置、ポーズ、調光、撮影の流れ、展開等を考えて自ら撮影し、又は原告の妻に指示をして撮影させたものと認められる。このため、本件各原動画は、いずれも、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、原告又は原告の妻の撮影機器の記録媒体に電磁的に記録されて固定されたものといえるから、映画の著作物(著作権法2条3項)に該当し、その全体的形成に創作的に寄与した者である原告が著作者としてその著作権を有するものと認められる。 加えて、証拠(甲1〜4、7、9及び10の各枝番3及び4、甲14)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、原告又は編集業者において本件各原動画にテロップ付け等の編集を施して本件各SNS動画を作成し、これを原告チャンネルに投稿したものの、上記編集は、本件各原動画の場面を説明したり、原告やその家族の発言内容を視覚的に表示したりしたものに過ぎないことがうかがわれる。そうすると、本件各SNS動画も、本件各原動画と同じく、原告が著作権を有する著作物と認められる。 上記認定に反する被告らの主張はいずれも採用できない。 2 争点1−2(複製権及び公衆送信権侵害の有無) 証拠(甲1〜4、7、9及び10の各枝番1及び2)及び弁論の全趣旨によれば、本件各画像は、本件各SNS動画の一時点の映像をキャプチャして静止画として作成したものであることが認められる。すなわち、本件各画像は、本件各原動画及び本件各SNS動画(以下、併せて「本件各原動画等」という。)の一場面と同一のものである。 そうすると、本件各記事の各発信者は、それぞれ、被告らが提供するインターネット接続サービスを利用して本件各画像を含む本件各記事を本件スレッド上に投稿することにより、本件各原動画等の一部を有形的に再製すると共に、インターネットを通じて本件スレッド上の本件各記事にアクセスする不特定又は多数の者に対し、本件各画像を閲覧できる状態に置いたということができる。したがって、本件各投稿は、著作物である本件各原動画等の複製及び公衆送信行為に該当する。 また、原告が本件各投稿の各発信者に対して本件各原動画等の利用を許諾したことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。 以上より、本件各投稿により、本件各原動画等に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたといえる。これに反する被告らの主張はいずれも採用できない。 3 争点1−3(引用の抗弁の成否) (1)証拠(甲1〜4、7、9及び10の各枝番1及び2)によれば、本件各記事は、いずれも「(省略)アンチスレ」と題するスレッド(本件スレッド)に投稿されたものであること、本件各記事には、本件各画像と共に、以下のコメントが記載されていることが認められる。 ・「迎えるシリーズ」(本件記事1) ・「今日のサブで気になったのはゴミ箱のふたあきっぱなしってのと床の裂け目かな床だんだんひどくなってる気がする」(本件記事2) ・「申し訳ないけど顔...」(本件記事3) ・「ゴミ箱パンパンで開けっ放しだし、実家では切られた大根の近くにたばこが置いてあるし、パピコの顔をメガネとバンダナ具合が不潔すぎる家系ww」(本件記事4) ・「6:15〜新年の挨拶がじょうずうううの刑でよろめくB」(本件記事5) ・「仙川湯けむりの里」(本件記事6) ・「イブも埋め作業を応援シテルヨ!庭はボコボコだけどね!」(本件記事7) また、本件スレッドには、本件各記事のほか、「オタサーの姫とその囲いって感じ。」(甲2の1)、「家事育児しんどい疲れたばかり投稿してきて急に育児って楽しいは笑った」、「今からハッピーアピールしてももうだいぶ無理あるよね」、「そば食べてるときズルズルクチャクチャ食べ方汚い」(いずれも甲3の1)、「正直、色々分かる頃の娘にめちゃくちゃ嫌われればいいと思ってる。自分で稼いでる親ってやばくない?ずーっとカメラ回して異常って子供達早く気づいて欲しい」(甲4の1)、「一年でだいぶ落ちぶれたよね」(甲9の1)などといった投稿もされている。 このように、本件各記事は、原告チャンネルのタイトルに「反対」や「嫌悪」に基づく攻撃的感情を意味する「アンチ」とのネットスラングを付した名称の本件スレッドに投稿されたものである。実際にも、本件スレッドには、原告やその家族を揶揄したり、攻撃対象としたりする投稿が散見される。 これらの事情を踏まえると、本件各記事は、いずれも、原告チャンネルの投稿動画を題材として、原告やその家族を揶揄したり、攻撃対象としたりする文脈において、本件スレッドに投稿されたものと理解される。 さらに、本件各記事における本件各画像と上記各コメントとを対比すると、本件各画像はいずれも本件各記事の枠の中でも相応のウェイトを占めるように比較的大きく表示されており、上記各コメントに比して閲覧者の注意を強く惹く態様であること、本件各画像と結び付ける形でその出典である本件各SNS動画に係る表示がされていないことも認められる(甲1〜4、7、9及び10の各枝番1及び2)。 このような本件各記事の内容、目的、本件各画像の引用態様等に鑑みると、本件各記事における本件各SNS動画の引用は、その目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとはいえず、また、公正な慣行に合致する方法・態様で行われたものであるともいえない。 したがって、本件各記事における本件各SNS動画ひいては本件各原動画の利用は、適法とはいえない。 (2)これに対し、被告らは、それぞれ、本件スレッドは、原告チャンネルに直接批判的意見を投稿することができなくなり、これに代わる意見交換の場として利用されているものであること、本件各記事は、親の子どもへの対応や教育方法等についての正当な批判的意見を述べるものであること、本件各記事の態様も、意見の内容を明確にするために最低限必要なものであること、本件スレッドのタイトルから本件各画像の引用元は明確であることなどを指摘して、本件各記事における本件各SNS動画の利用は適法な引用であると主張する。 しかし、上記のとおり、本件各記事の内容に加え、同じく本件スレッドに投稿されている他の記事の内容にも鑑みると、本件各記事は、原告及びその家族の子への対応や教育方法について批判的意見を述べる趣旨のものというより、原告及びその家族を揶揄したり、攻撃対象としたりする文脈において投稿されたものと理解するのが実態に即したものと思われる。また、本件各画像は、本件各記事のコメントの対象を明確にする目的で利用されたものとは一応理解し得るものの、本件各記事における本件各画像及び各コメントの表示態様や本件各記事の上記趣旨を考慮すると、このような大きさで本件各画像を表示する必要性ないし合理的理由は見当たらない。さらに、本件スレッドのタイトルから、本件各画像が本件各SNS動画からキャプチャしたものである可能性はうかがわれるものの、原告チャンネルのURL等具体的な引用元までは記載されていない。以上を踏まえると、上記のとおり、本件各投稿における本件各SNS動画の利用は、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内のものであるということはできない。この点に関する被告らの主張はいずれも採用できない。 4 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無) 本件各投稿による原告の本件各原動画に係る著作権(複製権及び公衆送信権)の侵害が認められること及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各記事の発信者に対して損害賠償請求等をする予定であることが認められる。そうすると、原告は、その権利行使のために本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。これに反する被告らの主張はいずれも採用できない。 第4 結論 よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 小口五大 裁判官 鈴木美智子 別紙 当事者目録 原告 A 同訴訟代理人弁護士 政平亨史 同 矢部陽一 被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「被告NTTコミュニケーションズ」という。) 同訴訟代理人弁護士 五島丈裕 被告 ソフトバンク株式会社(以下「被告ソフトバンク」という。) 同訴訟代理人弁護士 金子和弘 被告 KDDI株式会社(以下「被告KDDI」という。) 同訴訟代理人弁護士 今井和男 同 小倉慎一 同 山本一生 同 小俣拓実 別紙 発信者情報目録1 別紙投稿記事目録1及び3記載の各投稿日時に同目録記載の各投稿元アイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備から同目録記載の各閲覧用URL又は各接続先アイ・ピー・アドレス(いずれか)に対して通信を行った電気通信回線の同日時における発信者に関する情報であって、次に掲げるもの @氏名又は名称 A住所 B電話番号 C電子メールアドレス 以上 別紙 発信者情報目録2 別紙投稿記事目録2及び4記載の各投稿日時に同目録記載の各投稿元アイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備から同目録記載の各閲覧用URL又は各接続先アイ・ピー・アドレス(いずれか)に対して通信を行った電気通信回線の同日時における発信者に関する情報であって、次に掲げるもの @氏名又は名称 A住所 B電話番号 以上 別紙 発信者情報目録3 別紙投稿記事目録5ないし7記載の各投稿日時に同目録記載の各投稿元アイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備から同目録記載の各閲覧用URL又は各接続先アイ・ピー・アドレス(いずれか)に対して通信を行った電気通信回線の同日時における発信者に関する情報であって、次に掲げるもの @氏名又は名称 A住所 B電話番号 以上 (別紙投稿記事目録省略) |
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