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【事件名】「生長の家」著作物の無断複製事件
【年月日】令和4年11月8日
 東京地裁 令和4年(ワ)第2229号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年9月1日)

判決
原告 公益財団法人生長の家社会事業団
同訴訟代理人弁護士 内田智
被告 A


主文
1 被告は、原告に対し、11万7000円を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを50分し、その49を原告の、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、別紙謝罪広告目録1記載の謝罪広告を、被告発行の「B」に掲載して、令和3年12月21日時点の被告による「B」の配布対象者全員に対して1回郵送により送付し、かつ別紙謝罪広告目録2記載の謝罪広告を原告の公式ホームページに掲載せよ。
2 被告は、原告に対し、500万円を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告に対し、@被告が、自ら執筆した記事を広報誌「B」に掲載し、これを不特定多数人に配布したことが、原告に対する名誉毀損、名誉感情の侵害又は業務妨害に当たると主張して、民法709条に基づき、その被った損害の賠償を請求するとともに、名誉毀損に関し、民法723条に基づき、謝罪広告の掲載を求め、A被告が、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)を複製し、本件著作物に係る原告の複製権を侵害したと主張して、民法709条に基づき、その被った損害の賠償を請求する事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア 原告は、昭和21年1月8日にC(以下「C」という。)によって設立された財団法人であり、平成23年3月28日に内閣総理大臣の認定を受け、同年4月1日に公益財団法人に移行した。
 原告は、本件著作物の著作権者である。
イ 被告は、昭和43年から長年にわたり宗教法人生長の家(以下、同宗教法人を「教団」という。)にて勤務した後に、教団を退職し、退職後は、「B」という広報誌において記事を執筆し、同誌を編集及び発行するなどして、言論活動を行っている。
ウ 「生長の家」は、昭和5年にCによって創始された宗教であり、教団は、昭和27年5月30日に宗教法人法に基づいて設立された宗教法人である(弁論の全趣旨)。
(2)被告の「B」第8号の発行及び配布
ア 被告は、令和3年12月21日頃、「B」第8号(以下、同誌の同号を「本件印刷物」という。甲1)の第3面及び第4面に、「生長の家社会事業団」に関する読者からの“質問”に答える」と題した記事(以下「本件記事」という。)を掲載し、本件印刷物を500部発行して、「B」の購読申込者に対して郵送により配布した。
イ 本件記事には次のような記載がある。
 「この度、公益財団法人・生長の家社会事業団(以下「事業団」と表記)についての質問が数名の方からありました。それは事業団が発行している『躍進する生長の家社会事業団』の秋号(No.26、令和3年11月1日発行)の三面に掲載されている「秘話−C先生はなぜ『生命の實相』の著作権を生長の家社会事業団に与えられたか」の文章に書かれている内容は、この通りであるのかという質問でした。」
 「事業団はD理事長が亡くなり、これまで長く理事をつとめ「神の国寮」の施設長であったEさんが副施設長になり、理事も改選期に降ろされたり、「C先生報恩全国錬成道場」を開設して練成会を始めたり、先祖供養の霊碑の推進やC先生が飛田給錬成道場のためにつくられた「聖経法供養」を模して「神癒・聖経供養」を実施したり、さらに「聖使命奉讃会」や「新編『生命の實相』奉讃会」をつくり、創立70周事業のための「特別献資」を募ったりして、まるで宗教団体のようなことをしていることに危惧していました。」(以下同下線部の表現を「本件表現ア」という。)
 「ところでこの度の事業団の文章の冒頭で、<聖典『生命の實相』の著作権が生長の家社会事業団に託された歴史の真実についてご存じない方が多いため、一部に“教団から著作権を奪った”ごとき虚偽の風説が流布されました。ここにその虚偽を正すために正しい歴史をお伝えします>と前置きして、…(略)と書いています。この文章の中に既に大きな誤りが二つあります。一つは冒頭の「生命の實相の著作権が生長の社会事業団に託された」は間違いで、先生は事業団の運営のために著作権収入即ち印税を寄付されたのであって、著作権を託されたのではありません。」(以下同下線部の表現を「本件表現イ」という。)
 「…(略)それを事業団は…(略)著作権を託されたと言って事業団の正統性を 誇示しているのです。」
 「つづいて事業団の文章には、<…(略)。尊師は、この救国・救済運動のために聖典『生命の實相』、聖経『甘露の法雨』、住吉大神の神示等、宗教上の重要な聖典・聖経等の著作権を、当法人の基本資産として寄付されたのです。…(略)>と書いています。この文章のあまりにも事実と異なっていることに、驚きを通りこしてなぜこのような“まやかしの文章”を書いたのか、その意図はなにか、『五十年史』の編纂者の一人であり「通史」を執筆した者として、このような文章が活字になって配布されているかと思うと背筋が寒くなりました。」
 「事業団の文章には、尊師が社会事業団を財団法人として設立されたのは、「尊師のご自身の本来の念願の、実現であり、であればこそ尊師は、宗教上の重要な聖典、聖経の著作権を託された」と主張していますが、これは全くの詭弁そのものです。」
(3)被告の本件著作物の配布
 被告は、令和3年12月21日頃、本件著作物を7部複製し、被告の古くからの知人であり、「B」を10部以上購読申込みしている者に対し、同複製物を本件印刷物と同封して送付した(甲2,3及び5)。
(4)本件著作物の著作権をめぐる紛争
 教団は、原告を被告として、Cから「生長の家」の聖典として崇められている「生命の實相」に係る著作権の遺贈及び売買による譲渡を受けたから、同著作権は教団に帰属する等と主張し、「生命の實相」の復刻版の出版差止め等を求めて提訴した(東京地方裁判所平成21年(ワ)第17073号著作権侵害差止等請求事件、甲9)。
 東京地方裁判所は、Cが「生命の實相」の著作権を含む寄附財産を出捐する設立行為を行い、これにより原告が成立したもので、「生命の實相」の著作権はCから原告へ移転したと認定し、Cが上記設立行為により出捐したのは「生命の實相」の著作権収入を取得する権利であって「生命の實相」の著作権そのものではないとの教団の主張を排斥し、教団の請求を棄却する判決(東京地方裁判所平成23年3月4日判決、甲9)を言い渡した。教団は上記判決を不服として控訴したが(平成23年(ネ)第10028号損害賠償等、著作権侵害差止等、出版権確認等請求控訴事件)、知的財産高等裁判所は、原審の判断を相当として教団の控訴を棄却する判決(同裁判所平成24年1月31日判決、甲10の1)を言い渡した。教団は、上記判決を不服として上告し、併せて上告受理の申立てをしたが(最高裁判所平成24年(オ)第830号、平成24年(受)第1006号)、最高裁判所は、平成25年5月27日、教団の上告を棄却し、上告を受理しない旨の決定をしたことから、上記の第一審判決が確定した(甲11)。
3 争点
(1)本件表現ア及びイにつき名誉毀損又は侮辱が成立するか(争点1)
(2)真実性の抗弁の成否(争点2)
(3)本件印刷物の配布が原告の業務を妨害するといえるか(争点3)
(4)被告による本件著作物の複製が「私的利用のための複製」(著作権法30条1項)といえるか(争点4)
(5)名誉毀損、侮辱又は業務妨害による損害の有無及び損害額(争点5)
(6)複製権侵害による損害の有無及び損害額(争点6)
(7)謝罪広告の必要性(争点7)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件表現ア及びイにつき名誉毀損又は侮辱が成立するか)について
(原告の主張)
ア 本件表現ア
 原告が「まるで宗教団体のようなことをしている」との本件表現アは、原告を誹謗中傷するものであるから、名誉毀損又は侮辱が成立する。
 原告は、各種の非営利、公益法人制度の中でも最高度の公益性を内閣総理大臣から認定された公益財団法人であり、本件表現アはそのような原告の活動を否定するものであって不当である。
イ 本件表現イ
 原告は、「生長の家」の創始者であるCから、同宗教の基本聖典である「生命の實相」の著作物に係る著作権を寄附行為により譲り受け、同財産を基盤として設立されたものである。そして、原告は、「生長の家」の基本聖典である「生命の實相」の著作物に係る著作権を原告が有していることを前提に、信者たちに寄附を募ってきたものである。それにもかかわらず、本件表現イを一般読者が読めば、原告が、真実は「生命の實相」の著作権をCから譲り受けた事実がないのに、Cからこれを譲り受け、著作権を有しているなどと本件著作物に記載し、信者達に虚偽の事実を流布し、信者から寄付金を募っていたとの印象を受ける。したがって、本件表現イは、原告の社会的評価を低下させるものである。
 このことは、実際に、被告の表現内容を信じた本件印刷物の読者らが、原告に対し、本件訴訟が被告に対するスラップ訴訟であると誹謗中傷したり、「来年から事業団に寄附はしない」と表明したりする実例が生じたことからも明らかである。
 以上のことから、本件表現イは、原告の社会的評価を低下させる事実の摘示であるといえ、名誉毀損が成立する。
(被告の主張)
ア 本件表現ア
 本件表現アは、原告の宗教上の公益目的事業の実態として、一般宗教団体の行為にみられる金銭的御利益獲得の様相に類するものが多々うかがわれ、Cの教導する生長の家本来のあり方と異なっていることを危惧しているという被告の意見を述べたにすぎない。
 したがって、本件表現アは、事実を摘示したものでないから名誉毀損には当たらないし、誹謗中傷に該当するものでもない。
イ 本件表現イ
 被告は、本件表現イにより、「生命の實相」の著作権が原告にないとは述べておらず、Cは、原告に対し、「生命の實相」の著作権収入を寄附行為の対象としたもので、印税を生む根拠たる著作権を譲渡したにすぎず、著作権全部を譲渡したものではないという趣旨で記載したものである。
 また、原告が、「生命の實相」の印税を生む根拠たる著作権ではあるものの、著作権を譲り受けたことは真実であるから、本件表現イにより、原告が虚偽の事実を流布しているとの事実を摘示しているとは評価できない。本件記事の読者も、本件記事の全体を読めば、「生命の實相」の印税を生む根拠たる著作権が原告に帰属していることは事実であり、原告は虚偽の事実を述べているものではないと認識したはずである。
 したがって、本件表現イは、原告の社会的評価を低下させるものではなく、名誉毀損は成立しない。
(2)争点2(真実性の抗弁の成否)について
(被告の主張)
 Cは、原告に対し、「生命の實相」の著作権収入を寄附したのであり、著作権全体を譲渡したものではない。したがって、本件表現イの摘示事実は真実であるから、名誉毀損による不法行為は成立しない。
 そして、上記事実が真実であることは、次の各事実から推認できる。なお、原告は、本件表現イは、原告が虚偽の事実を流布しているとの事実を摘示したものであると主張するが、そのように評価できないことは前記(1)の(被告の主張)イのとおりである。
ア 「生長の家三十年史」において、F社会事業団事務長は、原告が困難を超えて遂行できたことに対して、「ひとえにC總裁先生の御愛念と「恆久的流動資金」としての『生命の實相』の著作權收入が會事業團の財源として與えられている賜である。」と記載している。
イ Cも、「生命の實相」の頭注版第一巻が発行された際に執筆した「頭注版に序して」の最後に、「本書の印税は財団法人生長の家社会事業団に全部寄附されているのであるから、いくら頒布されても私的な収入になるものではないことを申し添えておく。」と記載している。
ウ Cの著書である「解放への二つの道」の中でも、「生長の家の教への書物なる「生命の實相」や「眞理」は著作権が社会事業団にあって、その方へ印税が入るということになってゐます。それで遺児孤児が養はれたり、色々文化的な仕事をする費用に寄附されてゐるのです。」と記載されている。
エ Cの著書である「あなたは自分で治せる」の中には、「私の生命の實相」及び「眞理」等の著作権(従ってその印税の全部)は、戦災の遺児孤児を養ってゐる財団法人生長の家社会事業団に寄附されてゐるのであり、与へる心が大きいから、大きく伸びてゐるのである。」と記載されている。
オ Cの子であるGも、Cが原告に「生命の實相」の著作権を寄附したのは、「生命の實相」の印税によって神の国寮の運営をするためであり、本を出版するためではなかったはずであると証言している。
(原告の主張)
 原告は、昭和21年1月8日、Cから、「生命の實相」の著作権の全部を譲渡されたものであり、印税部分のみを譲渡されたものではない。
 原告は、昭和22年8月25日、東京都に対し、「寄附財産移転終了届」を提出しており、同届の内容から、Cが原告に対して「生命の實相」の著作権の全部を譲渡したことがわかる。
 そして、前記前提事実(4)のとおり、Cが原告に対して「生命の實相」の著作権の全部を譲渡したことは、裁判所によっても認定されており、被告の主張と同趣旨である、印税を生む根拠たる著作権を譲渡したにすぎず、著作権全部を譲渡したものではないという教団の主張は、裁判所によって排斥されている。
 以上のとおり、被告の主張する事実は虚偽であり、原告が虚偽の事実を信者に流布したとの事実は真実ではない。
(3)争点3(本件印刷物の配布が原告の業務を妨害するといえるか)について
(原告の主張)
 被告は、原告の名誉を毀損する記事を含む本件印刷物を配布したことにより、原告の業務を妨害した。
 原告と教団とは、平成21年以降、「生命の實相」の著作権の帰属をめぐって法的紛争状態にあり、現在も訴訟が係属中である。教団は、同年以降の各訴訟において、原告に「生命の實相」の著作権は帰属しておらず、原告はCから著作権収入すなわち印税の寄附を受けてきたにすぎないと何度も主張して、教団の信者達に誤解を与えてきた。このような教団の主張と同内容の虚偽の事実を、被告が本件印刷物の配布によって広めていることは、原告に対する名誉毀損行為とは別次元で、原告にとっては迷惑極まりない行為であり、原告の事業運営に支障を生じさせる。
 したがって、被告は本件印刷物の配布により原告の業務を妨害したといえるから、不法行為が成立する。
(被告の主張)
 本件記事に記載された内容はいずれも真実であり、被告は虚偽の事実を広めていない。
 したがって、被告による本件印刷物の配布は業務妨害とはならない。
(4)争点4(被告による本件著作物の複製が「私的利用のための複製」(著作権法30条1項)といえるか)について
(被告の主張)
 本件著作物を原告の了解を得ずに7部複製し、7名の知人に配布したことは認めるが、不特定多数への配布をしたものではなく、特定少数に配布したにすぎないのであるから、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的」として著作物を複製した(著作権法30条1項)場合に該当し、著作物の適法な利用であるといえる。
(原告の主張)
 被告は、本件著作物を原告の了解を得ずに7部複製し、7名の知人に配布したことを認めているところ、その配布した人数に照らして、特定少数の者に配布する目的で複製をしたとはいえない。
 また、被告は、自己の思想信条を広報する活動を行っており、その活動につき中核的な協力者を組織して、団体的かつ継続的に広報活動を実施しているものであり、上記7名の知人がこの協力者であることは明らかである。そして、これらの者が上記複製物を更に外部の者に交付することが予定されていたといえるから、家庭に準ずる程度の閉鎖的な範囲を超えて著作物が使用されることは明らかである。
 よって、被告による本件著作物の複製は、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的」として著作物を複製した(著作権法30条1項)場合に該当しない。
(5)争点5(名誉毀損、侮辱又は業務妨害による損害の有無及び損害額)について
(原告の主張)
ア 前記(1)及び(3)の(原告の主張)のとおり、本件表現ア及びイは、原告の使命や存在根拠を揺るがしかねないものであり、実際に本件記事の内容を信じた読者らが、原告に対し、本件訴訟は被告に対するスラップ訴訟であると誹謗中傷したり、「来年から事業団に寄附はしない」と表明したりする実例が生じた。このことから、被告が本件印刷物の配布により原告の社会的信用を低下させ、原告を侮辱し、又は原告の業務を妨害したことは明らかで、それによって原告が被った無形的損害の額は300万円を下らない。
イ また、原告は、本件訴訟を提起するために弁護士に本件訴訟及び刑事告発手続を依頼せざるを得なかったから、被告は、前記アの300万円に加え、弁護士費用相当額(後記(6)の弁護士費用相当額と併せて合計150万円)の損害賠償義務を負う。
(被告の主張)
 事実は否認し、法的評価は争う。
(6)争点6(複製権侵害による損害の有無及び損害額)について
(原告の主張)
ア 被告は、故意又は過失により本件著作物に係る原告の著作権を侵害したのであるから、原告に対し、著作権行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の支払義務を負う(著作権法114条3項)。
 本件著作物は、一般書店等で販売されているものではなく、原告に対して寄附を行っている支援協力者に限定して郵送等により配布されるものであるところ、その配布部数は1289部であり、1事業年度において6回発行されることになっているから、年間の総発行数は7734部である。
 そして、原告の令和2年度における寄附金収入の合計額は1741万2709円であるから、これを配布部数で除すると1部当たり6120円となる。
 もっとも、原告は、著作権行使につき受けるべき金銭の額に相当する額として、上記1部当たり6120円を優に下回る、1部当たり1000円と主張しており、同額は合理的な損害額であるといえる。
 この点、被告は、本件著作物の複製物の配布部数は7部であると認めているが、かつて被告の所属した教団において、月刊誌「生長の家」の10部ないし100部の一括購入と頒布活動が奨励されていたことなどからすると、被告が本件著作物を少なくとも500部は複製していることは明らかである。
 そうすると、原告の損害額は50万円となる。
イ また、原告は、本件訴訟を提起するために弁護士に本件訴訟及び刑事告発手続を依頼せざるを得なかったから、被告は、前記アの50万円に加え、弁護士費用相当額(前記(5)の弁護士費用相当額と併せて合計150万円)の損害賠償義務を負う。
(被告の主張)
 事実は否認し、法的評価は争う。
(7)争点7(謝罪広告の必要性)について
(原告の主張)
 原告が被った名誉の回復のためには、金銭賠償に加え、被告による謝罪及び虚偽主張を撤回する旨の謝罪広告の配布及び掲載が不可欠である。
(被告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件表現ア及びイにつき名誉毀損又は侮辱が成立するか)について
 名誉毀損とは、人の品行、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価を低下させる行為であるところ、ある表現の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
 そこで、以下、上記の基準により、本件表現ア及びイが原告の社会的評価を低下させるものであるかどうかを判断する。
(1)本件表現アについて
ア 原告は、本件表現アは、公益財団法人である原告の活動を否定するもので名誉毀損が成立すると主張する。
 しかし、本件表現アは、その前後の表現も含め、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすると、原告が、練成会及び「神癒・聖経供養」を実施していること、「聖使命奉讃会」や「新編『生命の實相』奉讃会」を結成したこと、70周事業のための「特別献資」を募ったことなどについて、「宗教団体のようなことをしている」と評価したものと理解されるところ、原告が宗教団体である教団と一定の関係があることは、その法人名からして明らかであるから、このような表現がされたからといって原告の社会的評価が低下するとは認め難い。
 そうすると、本件表現アによる名誉毀損は成立しないというべきである。
イ また、原告は、本件表現アについて、侮辱が成立するとも主張するが、原告は法人であり、そもそも名誉感情が観念できないから、侮辱が成立するとは認められない。
(2)本件表現イについて
 原告は、本件表現イについて、一般読者に対し、原告が、「生命の實相」の著作権をCから譲り受けた事実がないにもかかわらず、Cからこれを譲り受けて著作権を有している旨を本件著作物に記載し、信者達に虚偽の事実を流布しているとの印象を与えるものであって、原告の社会的評価を低下させるものであると主張する。
 そこで検討するに、本件表現イを含む本件記事は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすると、その冒頭に記載してあるとおり、本件著作物の読者から「生命の實相」の著作権がCから原告に譲渡されたとの本件著作物の記載は真実であるのかという質問を受けたことから、その質問に回答することを目的とするものと理解される。
 このような本件記事の一部である本件表現イにおいては、Cが「生命の實相」の著作権を原告に譲渡した事実はなく原告の運営のために同書籍の発行により得られる印税のみを譲渡したにすぎないとの見解が述べられている上、本件表現イの後には、原告が本件著作物の中で同書籍の著作権を譲り受けたと述べていることについて、「著作権を託されたと言って事業団の正統性を誇示しているのです。」、本件著作物の「文章のあまりにも事実と異なっていることに、驚きを通りこしてなぜこのような“まやかしの文章”を書いたのか、その意図はなにか、…(略)と思うと背筋が寒くなりました。」、「これは全くの詭弁そのものです。」などと記載されている。このような本件表現イ及びその後の表現について、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、原告が、真実はCから「生命の實相」の印税収入のみを譲り受けたにすぎず、著作権を譲り受けていないにもかかわらず、これを譲り受けたとして、意図的に虚偽の事実を流布していると理解するものといえる。
 そして、本件著作物の読者に向けて、原告が上記のような虚偽の事実を流布しているという事実を摘示した表現がされることにより、原告の社会的評価が低下することは明らかであるから、本件表現イによる名誉毀損が成立するものと認められる。
2 争点2(真実性の抗弁の成否)について
 事実を摘示しての名誉毀損の場合、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であるとの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。
 被告は、Cが、原告に対し、「生命の實相」の著作権収入を寄附したにすぎず、著作権全体を譲渡したものではないから、本件表現イの内容は真実であると主張するので、以下、その内容が真実であると認められるか否かについて検討する。
 証拠(甲25,27及び40)によれば、原告は、平成16年法律第147号による改正前の民法34条に基づき、東京都長官の許可を受けて、昭和21年1月8日に設立された財団法人であること、原告の設立者はCであり、Cは原告の設立を目的とする寄附行為を行ったこと、原告設立時に東京都に提出された財団法人設立許可申請書には、「財団法人生長の家社会事業団寄附行為」と題する書面が添付されており、同書面には、寄附の対象財産として「C著作「生命の實相」ノ著作権」が挙げられていること、同じく原告から東京都に提出された寄附財産移転終了届には、Cの署名押印のある「証明書」と題する書面が添付されており、同書面には、「一、C著作「生命の實相」ノ著作権右小生著作権ヲ昭和二十一年一月八日財団法人生長の家社会事業団へ寄附行為セシコトヲ証明ス」との記載があること、いずれの書面にも寄附の対象となる著作権の範囲を限定する旨の記載はないことが認められる。
 以上によれば、Cは、原告を設立するに当たって、「生命の實相」の著作権の全部を原告に寄附したものと認めるのが相当である。なお、証拠(甲25)によれば、C作成の「設立趣意書」には「恒久的流動資金として、「生命の實相」の著作権収入を寄附行為す。」と記載されていることが認められるが、同記載については、上記の「財団法人生長の家社会事業団寄附行為」と題する書面及び「証明書」と題する書面を併せて読めば、寄附の対象となる著作権を流動資産という観点から表現したにすぎないと解するのが相当であり、寄附の対象となる著作権の範囲を限定したものと解することはできない。
 よって、本件表現イにおける摘示事実が真実であると認めることはできないから、当該事実の公共性及び目的の公益性の要件を検討するまでもなく、被告の違法性阻却に係る抗弁は理由がないというべきである。
 これに対し、被告は、前記第2の4(2)(被告の主張)のとおり、本件表現イの摘示事実が真実であることを推認させるものとして、種々の事実を主張するが、いずれも上記の判断を覆すに足りるものではない。
 なお、本件において、Cが「生命の實相」の著作権の全部を原告に寄附したものではないことを信じるに足りる相当な理由があることに係る主張立証はないから、名誉毀損についての故意及び過失が否定されることもない。
3 争点3(本件印刷物の配布が原告の業務を妨害するといえるか)について
 前記1(1)のとおり、本件表現アについては、名誉毀損及び侮辱に係る不法行為はいずれも成立しないが、原告は、更に、被告が本件印刷物を配布したことにより原告の業務を妨害したといえるから、不法行為が成立する旨主張する。
 しかし、原告の主張は、本件表現ア及びイの内容を読み、この内容を信じた信者達から苦情等を受け、その対応をせざるを得なくなったというものであり、結局は、本件表現ア及びイによる原告の社会的評価の低下に起因する権利侵害及び損害を主張しているにすぎないというべきである。
 そして、前記1(1)のとおり、本件表現アにより原告の社会的評価が低下したとはいえないから、本件表現アを含む本件印刷物の配布が社会的相当性を逸脱する違法な業務妨害行為と評価され、これによる不法行為が成立することはない。
 よって、この点に関する原告の主張は理由がない。
4 争点4(被告による本件著作物の複製が「私的利用のための複製」(著作権法30条1項)といえるか)について
 本件においては、被告が著作権法30条1項にいう「その他これに準ずる限られた範囲内」において使用することを目的として著作物を複製したといえるかが問題となるところ、同項は、個人の私的な領域における活動の自由を保障する必要性があり、また閉鎖的な私的領域内での零細な利用にとどまるのであれば、著作権者への経済的打撃が少ないことなどに鑑み、著作物の使用範囲を「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」ものに限定するとともに、これに加えて複製行為の主体について「その使用する者が複製する」との限定を付すことによって、個人的又は家庭内のような閉鎖的な私的領域における零細な複製のみを許容し、私的複製の過程に外部の者が介入することを排除して、私的複製の量を抑制するとの趣旨・目的を実現しようとしたものと解される。そうすると、著作物の使用範囲が「その他これに準ずる限られた範囲内」といえるためには、少なくとも家庭に準じる程度に親密かつ閉鎖的な関係があることが必要であると解される。
 本件においては、前記前提事実(3)のとおり、被告が本件著作物の複製物を配布した7名は、被告の古くからの友人であるものの、本件全証拠によっても、被告とこれら7名との間に、家庭に準じる程度の親密かつ閉鎖的な関係があったとは認められないから、著作物の使用範囲が「その他これに準ずる限られた範囲内」であるということはできない。
 よって、被告による本件著作物の複製が「私的利用のための複製」(著作権法30条1項)に該当するとは認められない。
5 争点5(名誉毀損、侮辱又は業務妨害による損害の有無及び損害額)及び争点6(複製権侵害による損害の有無及び損害額)について
(1)名誉毀損等に係る損害について
 前記1及び2のとおり、本件表現イにつき原告に対する名誉毀損が成立するものの、前記前提事実(4)記載の訴訟の状況からすると、「生命の實相」の著作権の帰属が原告と教団の間で長年にわたり紛争となっている事柄であること及び教団に勤務していた被告が教団側の立場から本件著作物の内容を批判していることは明らかであるから、本件記事の読者が本件表現イの内容から直ちに本件著作物の内容が虚偽であると信じるに至るとは考え難く、本件表現イの内容が直接的に虚偽であると指摘するものではないこと、前記前提事実(2)のとおり、本件印刷物の配布枚数は500部にとどまっていることなども考慮すれば、本件表現イが原告の社会的評価に及ぼす影響が大きいものであったとは認め難い。
 そうすると、原告が本件表現イにより被った社会的評価の低下に係る損害額としては10万円と認めるのが相当である。
(2)複製権侵害に係る損害について
 前記前提事実(3)のとおり、被告は、原告が著作権を有する本件著作物を複製し、原告の本件著作物に係る複製権を侵害したものであるから(なお、本件著作物が原告の著作物であることは明らかであり、被告に故意又は過失があったとも認められる。)、被告は、原告に対し、これによって原告が被った損害につき賠償義務を負う。
 そして、上記の損害の額について、被告は、著作権法114条3項が適用されるべき旨主張していることから、@本件著作物に係る著作権行使につき受けるべき金銭の額及びA被告による本件著作物の複製部数について、以下検討する。
ア @本件著作物に係る著作権行使につき受けるべき金銭の額について
 証拠(甲44)及び弁論の全趣旨によれば、「躍進する生長の家社会事業団」は、1事業年度において6回、原告に対して寄附を行っている支援協力者に限定して郵送等により配布されていること、本件著作物を一部の内容とする「躍進する生長の家社会事業団」秋号は合計1289部配布されたこと、原告の令和2年度の寄附金収入の合計額は4733万3109円であることが認められる。
 そうすると、本件著作物は、原告に対して寄附を行っている者のみが購読することができるものであり、本件著作物の対価であるとも評価できるから、本件著作物1部を購読するのに支払うことが必要な寄附金の額を考慮して本件著作物に係る著作権行使につき受けるべき金銭の額を算出することに一定の合理性があるといえる。
 また、令和2年度の寄附金収入の額を、1事業年度に配布される「躍進する生長の家社会事業団」の部数で除すると、「躍進する生長の家社会事業団」の1部の写しを得るために支払うことが必要な寄附金の金額は概ね6120円(小数点未満切捨て。4733万3109円÷1289÷6=6120円)と算出されるから、本件著作物に係る著作権行使につき受けるべき金銭の額を、これを大幅に下回る1部1000円とすることは、許容され得るものといえる。
 よって、本件著作物に係る著作権行使につき受けるべき金銭の額は1部につき1000円と認定するのが相当である。
イ A被告による本件著作物の複製部数について
 原告は、被告は本件著作物を7部のみではなく少なくとも500部複製し、配布したはずであるなどと主張するが、被告が認める7部を超えて配布されたことを認めるに足りる証拠はない。
 よって、被告による複製部数は7部であると認めるのが相当である。
ウ 合計額
 前記ア及びイに基づいて算定すると、原告が本件著作物に係る著作権の行使により受けるべき金銭の額は、7000円となる。
(3)弁護士費用相当額
 本件に現れた諸事情に照らせば、被告の名誉毀損及び本件著作物に係る複製権の侵害と相当因果関係のある弁護士費用相当額は1万円と認められる。
(4)合計額
 以上によれば、被告による名誉毀損及び本件著作物に係る複製権の侵害によって原告が被った損害の額は合計11万7000円と認められる。
6 争点7(謝罪広告の必要性)について
 前記1及び2のとおり、本件表現イによる名誉毀損が認められるものの、その内容は原告が虚偽の事実を述べていると直接的に指摘するものではないこと、原告の社会的評価の低下の程度がそれほど高くないこと、本件印刷物の配布部数が500部にとどまることなどを考慮すると、本件において、前記5の金銭賠償に加え,被告に対して原告の主張する謝罪広告の掲載を命じる必要性があるとは認められない。
 したがって、謝罪広告に係る原告の請求は理由がない。
第4 結論
 以上の次第で、原告の請求は、被告に対し11万7000円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
 なお、仮執行免脱宣言は、相当でないからこれを付さない。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 バヒスバラン薫


(別紙)謝罪広告目録1
1 掲載誌・種類 「B」誌
2 謝罪広告
 私、Aは、本誌第8号第3面及び第4面において「「C先生報恩全国練成道場」を開設して練成会を始めたり、先祖供養の霊牌の推進やC先生が飛田給練成道場のためにつくられた「聖経法供養」を模して「神癒・聖経供養」を実施したり、さらに「聖使命奉讃会」や「新編『生命の實相』奉讃会」をつくり、創立70周事業のための「特別献資」を募ったりして、まるで宗教団体のようなことをしていることに危惧していました。」、「この文章の中に既に大きな誤りが二つあります。一つは冒頭の「生命の實相の著作権が生長の社会事業団に託された」は間違いで、先生は事業団の運営のために著作権収入即ち印税を寄付されたのであって、著作権を託されたのではありません。」及び「この文章のあまりにも事実と異なっていることに、驚きを通りこしてなぜこのようなまやかしの文章≠書いたのか、その意図はなにか、『五十年史』の編纂者の一人であり「通史」を執筆した者として、このような文章が活字になって配布されているかと思うと背筋が寒くなりました。」云々と虚偽の事実を記載して公益財団法人生長の家社会事業団の名誉を毀損し、虚偽の主張を行って同法人の円滑な業務運営を阻害し社会的評価を低下させて利益を著しく侵害しました。
 ここに深く謝罪を致しますとともに、本誌第8号第3面及び第4面の記事を取り消し、全て撤回致します。
 令和4年 月 日 A
3 掲載の体裁
 突出広告 (横55o、縦62o)
 本文は、12ポイント以上の活字による。
 以上

(別紙)謝罪広告目録 2
1 掲載するインターネット上のホームページ
 原告公式ホームページ(http://以下省略)
2 謝罪広告
 私、Aは、「B」誌第8号第3面及び第4面において「「C先生報恩全国練成道場」を開設して練成会を始めたり、先祖供養の霊牌の推進やC先生が飛田給練成道場のためにつくられた「聖経法供養」を模して「神癒・聖経供養」を実施したり、さらに「聖使命奉讃会」や「新編『生命の實相』奉讃会」をつくり、創立70周事業のための「特別献資」を募ったりして、まるで宗教団体のようなことをしていることに危惧していました。」、「この文章の中に既に大きな誤りが二つあります。一つは冒頭の「生命の實相の著作権が生長の社会事業団に託された」は間違いで、先生は事業団の運営のために著作権収入即ち印税を寄付されたのであって、著作権を託されたのではありません。」及び「この文章のあまりにも事実と異なっていることに、驚きを通りこしてなぜこのようなまやかしの文章≠書いたのか、その意図はなにか、『五十年史』の編纂者の一人であり「通史」を執筆した者として、このような文章が活字になって配布されているかと思うと背筋が寒くなりました。」云々と虚偽の事実を記載して公益財団法人生長の家社会事業団の名誉を毀損し、虚偽の主張を行って同法人の円滑な業務運営を阻害し社会的評価を低下させて利益を著しく侵害しました。ここに深く謝罪を致しますとともに、「B」誌第8号第3面及び第4面の記事を取り消し、全て撤回致します。
 令和4年 月 日 A
3 掲載の期間
 判決確定の日から3年間
 以上

(別紙)著作物目録 省略
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/