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【事件名】プロバイダ各社への発信者情報開示請求事件G(2)
【年月日】令和4年11月2日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10044号 著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第6266号)
 (口頭弁論終結日 令和4年9月5日)

判決
控訴人(一審原告) X1(以下「控訴人X1」という。)
控訴人(一審原告) X2(以下「控訴人X2」といい、控訴人X1と併せて「控訴人ら」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 齋藤理央
被控訴人(一審被告) 株式会社TOKAIコミュニケーションズ
同訴訟代理人弁護士 松尾栄蔵
同 村上諭志
同 溝端俊介


主文
1 原判決中、控訴人X1の被控訴人に対する請求を棄却した部分を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人X1に対し、令和2年6月30日0時56分35秒及び同年8月16日16時49分52秒において、被控訴人から、(IPアドレス省略)のIPアドレスが割り当てられていた契約者に係る氏名(名称)、住所、メールアドレス及び電話番号を開示せよ。
3 控訴人X1の当審における拡張請求を棄却する。
4 控訴人X2の控訴を棄却する。
5 控訴人X2の当審における拡張請求を棄却する。
6 訴訟費用は、控訴人X1と被控訴人との間で生じたものは、第1、2審とも被控訴人の負担とし、控訴人X2と被控訴人との間に生じた当審における訴訟費用は全て控訴人X2の負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほかは、原判決に従い、原判決に「原告」とあるのを「控訴人」と、「被告TOKAI」とあるのを「被控訴人」と適宜読み替える。また、原判決の引用部分の「別紙」を全て「原判決別紙」と改める。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人らに対し、別紙発信者情報目録記載の各発信者情報を開示せよ(控訴人らは、原審において別紙IPアドレス目録記載の日時頃、同目録記載の発信元IPアドレスに割り当てられていた契約者に関する情報(氏名(名称)、住所、電話番号及びメールアドレス)の開示を求めていたが、当審において開示を求める対象を別紙発信者情報目録のとおり変更した。)。
3 訴訟費用は第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、氏名不詳者により、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができるサービス)において、原判決別紙投稿記事目録記載1及び2の各記事(同別紙記載3の本件投稿画像1又は2を含む。)が投稿されたことにより、本件投稿画像1又は2に含まれる原判決別紙控訴人画像目録記載2の本件控訴人プロフィール画像に係る控訴人X1の著作権及び控訴人X2の原著作者の権利が侵害されたこと並びに控訴人X1の名誉権が侵害されたことが明らかであると主張して、控訴人らが、経由プロバイダである被控訴人に対し、令和3年法律第27号による改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙IPアドレス目録記載の日時頃の発信元IPアドレスに割り当てられていた発信者情報の開示を求める事案である。
 原判決は、被控訴人はプロバイダ責任制限法4条1項所定の「開示関係役務提供者」に当たらないとして控訴人らの請求を棄却し、控訴人らが、原判決に不服があるとして、控訴を提起し、当審において、別紙発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求めるものへと請求を拡張した。
2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり改め、後記3のとおり当審における当事者の補充主張及び追加主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要等」の2及び3並びに「第3争点に関する当事者の主張」に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決3頁4行目の「被告らは、いずれも」を「被控訴人は、」と改め、同頁13行目の「本件原告画像」の次に「を正方形にトリミングしたもの(甲2)」を挿入する。
(2)原判決3頁25行目の「前者を」を「その投稿画像部分を含め、前者を」と改める。
(3)原判決4頁12行目から14行目までを次のとおり改める。
 「(4)被控訴人による発信者情報の保有
 被控訴人は、本件発信者情報のうち、別紙IPアドレス目録記載の各日時において、同目録記載の発信元IPアドレスが割り当てられていた契約者に係る氏名(名称)、住所、メールアドレス及び電話番号の情報を保有している。」
(4)原判決4頁21行目の「被告ら」を「被控訴人」と改める。
(5)原判決5頁10行目の「前記前提事実(2)イ」を「前記前提事実(2)ア」と改める。
(6)原判決6頁8行目及び24行目並びに7頁1行目の「画像」を削り、6頁25行目の「当該画像」を「その画像」と改める。
(7)原判決8頁1行目から3行目までを、「控訴人らは、本件各ツイートの投稿者に対し本件控訴人プロフィール画像を含むツイートを投稿することについて、許諾していない。」と改める。
(8)原判決9頁26行目の「スクリーンショット画像」を「スクリーンショット」と改める。
(9)原判決12頁1〜2行目の「同ツイートをスクリーンショットに撮影して」を「同ツイートのスクリーンショットを撮影して」と改める。
(10)原判決13頁17行目の「公共性」を「公益性」と改める。
(11)原判決15頁22行目から16頁1行目までを削る。
(12)原判決16頁6行目から8行目までの「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」の前に「令和4年総務省令第39号による廃止前の」を加える。
(13)原判決17頁4行目冒頭から18頁12行目末尾まで及び同頁16行目の「また、」から同頁20行目末尾までを削り、同頁13行目の「(4)」を「(2)」と、同頁23行目、24行目及び26行目の「被告ら」を「被控訴人」とそれぞれ改め、同行目の「いずれも」を削る。
(14)原判決20頁9行目及び10〜11行目の「令和(2020)年」を「令和2(2020)年」とそれぞれ改める。
(15)原判決21頁5行目から26行目までを削る。
(16)原判決22頁1行目の「被告ら」を「被控訴人」と改め、同頁20行目冒頭から23頁13行目末尾まで及び同頁15行目の「、被告らは」から同頁16行目の「それぞれ」までを削り、同頁14行目の「本件ツイート1」を「本件各ツイート」と改める。
(17)原判決24頁11行目冒頭から25頁19行目末尾までを削り、同頁20行目冒頭の「エ」を「イ」と改め、同行目の「前記アないしウの」及び同頁21行目冒頭から同頁22行目末尾までを削る。
(18)原判決25頁26行目及び26頁2行目の「被告ら」を「被控訴人」とそれぞれ改める。
3 当審における当事者の補充主張及び追加主張
(1)控訴人らの主張
ア 争点1(控訴人らの権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(ア)本件ツイート1は、控訴人X1が、ツイッターの機能を利用して送受信されたダイレクトメッセージ(以下「DM」という。)を捏造して、ツイートとして投稿したとの事実を摘示するものであるが、DMを捏造して投稿することは社会一般で許容されない卑怯な行為に当たるから、本件ツイート1の内容は、控訴人X1の社会的評価を低下させるものであり、本件ツイート1の投稿は、控訴人X1の名誉を毀損する。なお、上記事実は真実ではなく、違法性阻却事由はうかがえない。
 そして、このような誹謗目的での投稿に控訴人らの著作物を無断転用する行為は、公正な慣行に合致せず、また、正当な引用の目的をもって利用されたとはいえないから、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用が、控訴人らの著作権を侵害することは明らかである。
(イ)本件ツイート2は、控訴人X1が、他者のツイートの文章を改ざんして、他者のツイートやDMを捏造し、事実とは異なる内容のツイートをしているとの事実を摘示するもので、他者のツイートやDMを捏造して投稿することは社会一般で許容されない卑怯な行為に当たるから、本件ツイート2の内容は、控訴人X1の社会的評価を低下させるものであり、本件ツイート2の投稿は、控訴人X1の名誉を毀損する。本件ツイート2の内容は事実無根であって真実性の要件を欠き、公益目的もないから、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は皆無である。
 そして、本件ツイート1の場合と同様に、本件ツイート2における本件控訴人プロフィール画像の利用が、控訴人らの著作権を侵害することも明らかである。
(ウ)なお、本件ツイート2に連なるスレッドの最後の投稿に付された画像をみると、本件ツイート1に付された画像とトリミングやスクリーンショットの内容など全く同一であるから、両ツイートの投稿者が同一人であることは明らかである。
イ 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
(ア)発信者情報開示請求において、開示情報の範囲を限定的に解すると、被害者において本来審理を望んでいない表現まで判断の俎上に上げることを余儀なくされ、裁判所もこれに応じて本来違法性を宣明すべき範囲を超えて違法性を宣明せざるを得なくなる場合があり、結果的に表現の自由に対する萎縮効果を過度に生じさせることとなる。開示情報の範囲をいたずらに狭めることは表現の自由の保護につながるものではなく、過度な開示範囲の限定は、かえって、表現の自由にとって害悪となる危険性がある。
 そこで、投稿者とログイン者が同一人物と推認されれば、ログイン時の情報は広く開示対象となると解すべきである。
(イ)被控訴人は、本訴訟に顕出しているだけでも少なくとも約20万個のIPアドレスを保有し、契約者に貸し出している。この20万個以上のIPアドレスにおいて、偶然同じツイッターアカウントを共有している人物に、偶然同じIPアドレスが割り当てられ、それぞれ別にログインしている可能性は殆どゼロである。
 そうすると、@令和2年6月30日0時56分35秒を始期とし、A同年8月16日16時49分52秒を終期とする期間内に「発信元IPアドレス(IPアドレス省略)」を割り得てられていた「契約者」と、同期間、同IPアドレスで本件アカウントに98回ログインしていた者が同一人物であることは明らかであり(甲40、73、74、80)、控訴人らは当該同一の人物(被控訴人契約者)の氏名、住所、電話番号、メールアドレスという一つの単一の発信者情報の開示を求めている。控訴人らは、この点を明らかにするために、本件において開示を求める発信者情報を、別紙発信者情報目録記載のとおりに改めた。
 上記が同一人物であることについては、投稿内容が一貫していることに加え、被控訴人が、当該事実についての回答を拒否し、別人の関与の可能性があることについて積極的な主張立証をしていないこと、被控訴人が、本件ツイート2について、投稿から1年以上が経過した本訴訟の手続中に投稿者に対する照会をしたにもかかわらず、その結果を提出していないこと(なお、本件ツイート1についての照会結果のみ提出している。乙6)からもうかがえる。
(ウ)近年、ログイン時の情報も発信者情報に含まれるとする裁判例がほとんどであり、その中でも、@投稿の直前のログインなど侵害情報の送信と通信に密接な(客観的な)関連性があるログインに限られるとするもの、A投稿者とログイン者が同一人物と推認されれば足るとするもの、B投稿とログインに時間的近接性を求めるものがあるが、「ツイッターへログインした者と投稿者の同一性が認定できる場合には、当該ログインに係る情報を発信者情報と解することは妨げない」(東京高裁令和3年9月30日判決。甲71)とする判示によれば、本件発信者情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「発信者情報」に該当するのは明らかである。
(エ)令和3年法律第27号による改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(令和4年10月1日施行。以下「令和4年改正法」という。甲82)に対応する特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(令和4年総務省令第39号。以下「令和4年総務省規則」という。甲83)においても、投稿の前提となったログインに限って開示が認められる(すなわち前記(ウ)@)とする限定的な規定を採用するものではないことが宣明されている。
 令和4年総務省規則の制定に先立ち、総務省は、同年3月、投稿の前提となったログインに限って開示が認められるとする趣旨の総務省規則案(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則案。甲84)を公表していたが、パブリックコメントにより、東京高裁平成30年6月13日判決(判時2418号3頁。甲25)などを念頭とした裁判実務に比し、被害者救済を後退させるものであるという指摘がされたことから(甲85)、総務省は上記規則案を修正し、上記のとおりの令和4年総務省規則の制定に至ったものである。
 この経緯に照らしても、発信者情報を投稿前のログインに係る情報に限定する理由はなく、ログイン者と投稿者の同一性があれば足りるというべきであり、仮に、ログイン者と投稿者の同一性では足りず、ログイン通信と投稿の間に時間的な近接性を要するとしても、本件では、本件ツイート1の投稿から僅か7時間後のログイン(別紙IPアドレス目録記載@)に係る発信者情報について、開示を否定する論拠はない。
ウ 争点3(被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当するか)について
(ア)原判決は、本件ツイート1の投稿の直前のログインに係る通信が、「amazonaws.com」を含むドメインのものであるから、本件ツイート1の投稿に係る通信が、被控訴人の電気通信設備以外の電気通信設備を経由して行われたことをうかがわせると判示したが、「ec2-・・.compute-1.amazonaws.com」を含むドメインでのログインは、アマゾンウェブサービス(AWS)を利用した外部アプリケーションやソーシャルログインである可能性が高い(甲34)。そして、先頭に「EC2」と表記されていることから、アマゾンが提供するEC2サービスに利用されているものと推認される。なお、AWSの一つとしてAmazonCognito(アマゾン・コグニート)というサービスが広くソーシャルログインに利用されており、これはツイッターにも対応している(甲77)。また、「ec2-・・.compute-1.amazonaws.com」は、通常、アマゾンVPC(仮想プライベートクラウド)の初期に設定されるDNS(ドメインネームサーバ)名である(甲78)。甲78にいう「ec2-public-IPv4-address.compute1.amazonaws.com」の「public-IPv4-address」の部分には、その時に応じて適宜のIPアドレスが利用され、本件のログイン状況のようにその時々で数字が変わる。本件アカウントにログインしている「ec2-・・.compute-1.amazonaws.com」は、事業者が用いる何らかのAWSサービスにおいて自動的に割り当てられるIPアドレスと推認され、インターネット接続プロバイダが一般ユーザーに貸し出しているIPアドレスではない。よって、「ec2-・・.compute-1.amazonaws.com」を含むドメインからのログインは、ソーシャルログインなどの際(例えば、発信者がツイッターIDを利用してfacebookにログインした際に、facebookにログインするのに必要な情報をツイッター(のサーバ)から引き出したような場合)にアプリケーション側で利用したIPアドレスと推認され、発信者の投稿のためのログイン通信とは到底考えられないから除外されるべきである。この点に関する原判決の認定及び判断は明らかに誤りである。
(イ)本件アカウントにおいては、令和2年7月6日10時53分に、控訴人X1に係るツイート(以下「本件ツイート3」という。甲61)がされており、その内容からしても、本件各ツイートと同一の者による投稿であることがうかがわれる。
 そして、本件ツイート3の直前のログインは、令和2年7月6日8時4分57秒の被控訴人の管理するIPアドレス(IPアドレス省略)(本件の発信元IPアドレス)を用いたログイン通信である(甲40、80)。また、本件ツイート1の直後(7時間後)のログインも、被控訴人の管理する上記IPアドレスを用いたログイン通信である(甲40、80)。そして、前記(ア)のとおり、本件ツイート1の直前のログインである「ec2-・・.compute-1.amazonaws.com」を含むドメインからのログインは除外すべきである。
 本件アカウントへのログイン状況からすると、本件各ツイートを投稿した発信者は、主にパソコンを用いてツイッターにログインしていたのであり、スマートフォンなどは出かけた時などに閲覧用に補助的に利用していたと推認でき、本件ツイート3は明らかに被控訴人の通信設備を利用したパソコンからの投稿であるし、本件ツイート1も被控訴人の通信設備を用いて投稿された蓋然性が高い。
 以上から、本件ツイート1を媒介した通信設備は、被控訴人管理の通信設備である。そうすると、被控訴人は「開示関係役務提供者」に該当する。
(2)被控訴人の主張
ア 争点1(控訴人らの権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(ア)本件控訴人プロフィール画像は、ありふれた表現であって著作物性が認められず、控訴人らが著作権を有することについての客観的証拠もない。また、適法な引用に該当し、違法性阻却事由がある。ツイッター社はコメント付きリツイートによる引用ができる機能(以下、同機能によるリツイートを「引用リツイート」という。)を提供しているが、それ以外の著作権法上許容される引用を禁止しているわけではない。また、本件控訴人プロフィール画像の利用については、控訴人X1の黙示の同意がある。
(イ)本件各ツイートは、控訴人X1の名誉権を侵害するものではない。
 本件ツイート2における「控訴人X1がツイート内容の改ざんを行っている」という記載は、何らの罪も構成しない行動を指摘するにとどまり、控訴人X1の人格について殊更に攻撃を加えるものではないから、一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準とすれば、控訴人X1の社会的評価を低下させるとはいえない。また、本件ツイート2に対するリプライ(返信)として表示されているツイートにおいて、改ざんされたものと思われるツイートのスクリーンショットが投稿されているから、本件ツイート2の投稿者には、少なくとも真実と信じるについて相当の理由がある。
(ウ)控訴人らは、本件各ツイートについて、その内容から同一人物による投稿であると主張するが、余人であればおよそ使用しないであろう特徴的な表現がされているといった事情もなく、論理の飛躍がある。
イ 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
(ア)「権利の侵害に係る発信者情報」にログイン時の情報が含まれることがあることまでは争わないが、その範囲は、侵害投稿の直前のログインなど、侵害投稿との密接な関連性があるものに限られるべきである。
 発信者情報開示請求は、情報の流通によって権利の侵害があった場合において、自己の権利を侵害されたと主張する者に、当該情報が流通することとなった特定電気通信の用に供される特定電気通信役務提供者に対して、保有する発信者情報の開示を請求できる権利を創設した反面、発信者のプライバシーや表現の自由、通信の秘密等に配慮し、その権利行使の要件として、権利侵害の明白性はもちろん、発信者情報と権利侵害の強い関連性を厳格に求めるという、自己の権利を侵害されたと主張する者と発信者のそれぞれの権利の絶妙なバランスの上に成り立っている制度であって、個人のプライバシーや表現の自由が侵害されるおそれを犠牲にしてまで、発信者情報開示が認められる範囲を、法令の文言解釈の限度を超え過度に拡張して情報の開示を認めるべきではない。
(イ)控訴人らの主張するようなおよそ1か月半にも及ぶ広い「期間」における情報の開示を認めてしまうと権利の侵害とは無関係な発信者情報の開示を行うことになってしまうため、そのような請求を認めることはできない。控訴人らが開示を求める期間内においてIPアドレスを割り当てられた契約者が同一であるかという点については、上記の観点から、被控訴人として回答できない。
(ウ)令和4年総務省規則においても、侵害関連情報の開示が認められるのは、侵害情報の送信と相当の関連性を有するものに限定されており、控訴人らの主張するような1か月半もの幅をもったログインに係る情報について開示の対象とすることを認めるものではない。また、別紙IPアドレス目録記載@については本件ツイート1から約7時間後のログインにかかるもの、本件ツイート2は同Aから1か月半以上後の投稿であって、侵害投稿直後のログインなどのように侵害投稿との間の関係性が強く認められる場合ではないことから、令和4年改正法においても、本件のような場合に開示が認められるものではない。
ウ 争点3(被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当するか)について
(ア)「開示関係役務提供者」は、「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」を意味するものであるところ、用語の通常の用法上、「当該」とは、同一の文脈内における前出の単語を参照するものであるから、プロバイダ責任制限法4条1項柱書の文脈においては、「当該」に係る「特定電気通信」は、同項の「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」の「特定電気通信」を指すことは明らかであり、「当該」「特定電気通信」とは、権利を侵害されたとする情報の流通を生じさせた「特定電気通信」のみを意味することは明らかである。「用に供される」の範囲について、「蓋然性」がある場合にまでその範囲を広げることは、文言解釈の範囲を著しく逸脱しているものといわざるを得ない。したがって、被控訴人は、「開示関係役務提供者」に該当しない。
(イ)控訴人らは、令和4年改正法を根拠として、本件に適用されるプロバイダ責任制限法においても、被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当すると主張するが、令和4年改正法は、その施行後においてのみ根拠となり得るものであって、施行以前の事案である本件については、根拠にも指針にもなり得るものではない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1−1(本件ツイート1の投稿による権利侵害の明白性)について
(1)「権利侵害の明白性」について
 発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であって正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、プロバイダ責任制限法4条1項1号が、発信者情報の開示請求について厳格な要件を定めていること(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)に照らすと、同号が規定する「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に該当するといえるためには、当該侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことに加え、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことまで主張立証されなければならないと解される。
(2)本件ツイート1について
 証拠(甲3、4)によると、本件ツイート1は、ユーザー名「A」の本件アカウントにおいて、令和2年6月29日午後5時45分に、「X1’さん(X1’’)」「DM画像捏造してまで友人を悪人に仕立て上げるのやめてくれませんかね?」「捏造したところで信用の問題で誰も信じないとは思いますけど」「そんなクソDM直に送るような人でもないんですよ、あんたと違って」という文章を付して、控訴人X1が同日午後3時01分に投稿したツイートをリツイートするとともに、同ツイート及びこれに対するリプライとして投稿された2件のツイートをスクリーンショットとして撮影した本件投稿画像1を合わせて投稿されたものである。本件投稿画像1には、控訴人X1が投稿した3件のツイートが含まれており、各ツイートのアイコンとして本件控訴人プロフィール画像が掲載されていることから、本件投稿画像1には、本件控訴人プロフィール画像が3か所において掲載されている。
(3)著作権侵害について
ア 証拠(甲1〜3、5、13、37、38)によると、本件控訴人画像1は、控訴人X2が撮影した写真(本件控訴人写真)に、控訴人X1が、その被写体である自らの顔部分に作画を加えて作成したものであることが認められる。そして、本件控訴人写真には、被写体の選択や撮影場面等に撮影者である控訴人X2の個性が表れているということができ、また、本件控訴人画像の顔部分に描かれた絵には、目と口の形状や位置等に控訴人X1の個性が表れているということができる。そうすると、本件控訴人写真及びこれを加工した本件控訴人画像には、いずれも著作物性が認められる。そして、本件控訴人プロフィール画像は、本件控訴人画像を複製し、主に下部分を切除して被写体の上半身を残したものであって、控訴人X1が著作権を、控訴人X2が原著作者の権利を有するものと認められる。
イ 本件では、本件ツイート1の投稿者が、本件アカウントにおいて、控訴人らの許諾を得ることなく本件ツイート1を投稿しており(甲5、13)、これにより、本件控訴人プロフィール画像をツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
ウ 被控訴人は、上記イの本件控訴人プロフィール画像の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、@公正な慣行に合致し、A報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない(著作権法32条1項)。
エ(ア)本件についてみると、本件ツイート1においては、「X1’さん」「DM画像捏造してまで友人を悪人に仕立てあげるのやめてくれませんかね?」との文言と共に本件投稿画像1が投稿されているところ、「X1’」は控訴人X1の旧姓であるから(甲81)、同ツイートは、控訴人X1が「DM画像を捏造した」という行為を批判するために、控訴人X1が捏造した画像として、本件投稿画像1を合わせて示したものと推認され、本件投稿画像1を付した目的は、控訴人X1が「DM画像を捏造」してこれをツイートした行為を批評することにあると認められる。
(イ)上記控訴人X1の行為を批評するために、控訴人X1のツイートに手を加えることなくそのまま示すことは、客観性が担保されているということができ、本件ツイート1の読者をして、批評の対象となったツイートが、誰の投稿によるものであるか、また、その内容を正確に理解することができるから、批評の妥当性を検討するために資するといえる。また、本件控訴人プロフィール画像は、ツイートにアイコンとして付されているものであるところ、本件ツイート1において、控訴人X1のツイートをそのまま示す目的を超えて本件控訴人プロフィール画像が利用されているものではない。そうすると、控訴人X1のツイートを、アイコン画像を含めてそのままスクリーンショットに撮影して示すことは、批評の目的上正当な範囲内での利用であるということができる。
(ウ)次に、証拠(乙12)によると、画像をキャプチャしてシェアするという手法が、情報を共有する際に一般に行われている手法であると認められることに照らすと、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用は、公正な慣行に合致するものと認めるのが相当である。
オ(ア)控訴人らは、本件投稿画像1の分量が本件ツイート1の本文の分量と同等であり、主従関係にないから、引用に当たらないと主張するが、仮に「引用」に該当するために主従関係があることを要すると解したとしても、主従関係の有無は分量のみをもって確定されるものではなく、分量や内容を総合的に考慮して判断するべきである。本件では、本件投稿画像1ではなく、本件控訴人プロフィール画像と本件ツイート1の本文の分量を比較すべきである上、本件投稿画像1は、本件ツイート1の本文の内容を補足説明する性質を有するものとして利用されているといえることから、控訴人らの上記主張は採用できない。
(イ)控訴人らは、引用リツイートではなくスクリーンショットによることは、ツイッター社の方針に反するものであって、公正な慣行に反すると主張する。しかしながら、そもそもツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右されるものではない上、スクリーンショットの投稿がツイッターの利用規約に違反するなどの事情はうかがえない(甲41、乙13、14)。そして、批評対象となったツイートを示す手段として引用リツイートのみによったのでは、元のツイートが変更されたり削除された場合には、引用リツイートにおいて表示される内容も変更されたり削除されることから、読者をして、批評の妥当性を検討することができなくなるおそれがあるところ、スクリーンショットを添付することで、このような場合を回避することができる。現に、令和2年8月7日時点における、本件ツイート1が引用リツイートした控訴人X1のツイートと本件投稿画像1を比較すると、上記引用リツイートでは、控訴人X1のユーザー名が変更されており、本件ツイート1が投稿された当時に、同ツイートが批評した控訴人X1のツイートが当時のまま表示されているものではないことが認められ(甲3)、引用リツイートのみによっていたのでは、本件ツイート1の投稿当時の控訴人X1のツイートを参照することはできなくなっていたといえる。そうすると、スクリーンショットにより引用をすることは、批評という引用の目的に照らし必要性があるというべきであり、その余の本件に顕れた事情に照らしても公正な慣行に反するとはいえないから、控訴人らの上記主張は採用できない。
(ウ)控訴人らは、本件ツイート1が、控訴人X1を誹謗中傷する目的のもので、引用の目的自体が正当ではなかったこと、引用リツイート機能を用いて引用することで投稿の目的が達成できたこと、本件控訴人プロフィール画像を黒塗りにしても投稿の目的を達することができたことからすると、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用は、「引用の目的上正当な範囲内」のものではないと主張するが、前記エのとおり、本件における引用の目的は批評であるところ、本件ツイート1の内容が名誉毀損ないし侮辱に当たるかは別として、控訴人X1の行為を批評するという引用の目的に照らし、正当な範囲内の利用であるということができる。また、スクリーンショットによる引用をすることは引用の目的に照らして必要性があるといえることは前記(イ)のとおりであるし、批評対象である控訴人X1のツイートを、アイコン画像を含めてそのまま引用することにより、読者をして、批評対象であるツイートの投稿者やその内容を正確に把握できるといえるから、上記控訴人らが指摘する事項を考慮しても、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用は、「引用の目的上正当な範囲内」で行われたと認めるのが相当である。
 そうすると、控訴人らの上記主張はいずれも採用できない。
カ したがって、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用について、控訴人らの著作権侵害が明白であるとはいえない。
(4)控訴人X1に係る名誉毀損について
ア ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)、このことは、ツイッター上の投稿記事の名誉毀損該当性の判断においても同様である。
 また、名誉毀損には、事実の摘示によるもののみならず、意見ないし論評によるものも含まれるところ、ある表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的に主張、又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や議論などは、意見ないし論評の表明に属するものというべきである(最高裁平成15年(受)第1793号、第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)。そして、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであることは、上記の区別に当たっても妥当する(前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。
イ 本件についてみると、本件ツイート1における「DM画像捏造してまで友人を悪人に仕立てあげるのはやめてくれませんかね?」との文言は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすると、控訴人X1が画像を「捏造」してまで「友人を悪人に仕立てあげる」ような悪質な人物であることを意味するもので、控訴人X1の社会的評価を低下させるものであると認められる。
 そして、本件ツイート1の上記文言及び「捏造したところで信用の問題で誰も信じないとは思いますけど」「あんたと違って」との文言は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすると、控訴人X1が、DM画像を捏造したという事実を前提として、友人が悪人であるかのような内容の投稿(ツイート)をしても誰も信じないほどに控訴人X1が信用されていないとの投稿者の意見を表明したものと認めるのが相当であり、控訴人X1が信用されていないか否かは証拠等による証明になじまない事項に係るものであるから、事実の摘示ではなく、意見ないし論評の表明であるとみるのが相当である。
ウ(ア)ところで、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、その行為は違法性を欠くものというべきである(最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決・民集41巻3号490頁、最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁参照)。
(イ)前記イのとおり、本件ツイート1は、控訴人X1が、DM画像を捏造したという事実を前提とするものであるところ、本件ツイート1に引用されている、控訴人X1のツイートに引用された画像(DMをスクリーンショットにより撮影した上で、差出人名等をマスキング加工したものと思料されるもの)及び当該画像を含む本件投稿画像1を観察しても、本件ツイート1の投稿者が何をもって控訴人X1がDM画像を捏造したものと判断したのかをうかがわせる記載はない。証拠(甲89、90、乙17の5・6)によると、本件アカウントにおいて、本件ツイート2に対するリプライとして、本件投稿画像1及び控訴人X1とも本件アカウントとも異なるユーザー名における「原画あんまりやってないのに適当な事いっちゃいけない・・・」とのツイートをスクリーンショットにより撮影した画像を添えて、「こっちは友人の被害案件!」などといった文章のツイートが投稿されている事実が認められるが、本件投稿画像1に含まれるDM画像は、マスキング加工されていることから差出人が明らかではなく、また、その内容は「原画まだあんまりやってないのに適当なこと言っちゃいけないと思いますよ。。。」というもので、上記異なるユーザー名でされたツイートの内容とは一応異なるものであって、これをもって控訴人X1がDM画像を捏造したと認めることはできない。そうすると、本件ツイート1について、意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があるとはいえない。
 したがって、本件ツイート1による控訴人X1の名誉毀損について、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情は存在しないと認めるのが相当であるから、本件ツイート1によって控訴人X1の名誉権が侵害されたことが明らかであるといえる。
(5)以上によれば、本件ツイート1について、控訴人X1の権利侵害の明白性が認められるが、控訴人X2の権利侵害の明白性は認められない。
2 争点1−2(本件ツイート2の投稿による権利侵害の明白性)について
(1)本件ツイート2について
 証拠(甲10、11)によると、本件ツイート2は、ユーザー名「A」の本件アカウントにおいて、令和2年9月30日午後9時33分に、「ちなみにX1’(X1)さんに触ると」「意味不明なクソリプされたり」「ツイート文章を改竄して捏造妄想作話するんで要注意だよ!」という文章に、控訴人X1が同年8月1日午後1時56分に投稿したツイートをスクリーンショットとして撮影した本件投稿画像2を合わせて投稿されたものであり、本件投稿画像2には、上記控訴人X1のツイートに付されたアイコンとして、本件控訴人プロフィール画像が1か所掲載されている。
(2)著作権侵害について
ア 前記1(3)アのとおり、本件控訴人プロフィール画像は、控訴人X1が著作権を、控訴人X2が原著作者の権利を有するものと認められるところ、本件ツイート2の投稿者は、本件アカウントにおいて、控訴人らの許諾を得ることなく本件ツイート2を投稿しており(甲5、13)、これにより、本件控訴人プロフィール画像をツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
イ そして、前記(1)の本件ツイート2における文章及び本件投稿画像2をみると、本件ツイート2は、その投稿者が、読者に対し、控訴人X1に触れる(ツイッター上で対話するなどの交流をすることを意味すると推認される。)と、控訴人X1から「意味不明なクソリプされたり」するから注意が必要である旨知らせる内容となっており、「意味不明なクソリプ」の例として本件投稿画像2を用いているものと理解できるから、報道又は批評の目的で本件投稿画像2に含まれる本件控訴人プロフィール画像を利用しているものと一応認められる。そして、その利用の方法は、控訴人X1のツイートをそのまま、アイコン部分も含めてスクリーンショットに撮影して示したというもので、前記(1)エと同様に、報道又は批評の目的上正当な範囲内での利用であり、また、公正な慣行に合致するものと認めるのが相当である。
ウ そうすると、本件ツイート2における本件控訴人プロフィール画像の利用について、控訴人らの著作権侵害が明白であるとはいえない。
(3)名誉毀損について
ア 本件ツイート2の内容は前記(1)のとおりであり、控訴人X1について、「意味不明なクソリプされたり」「ツイート文章を改竄して捏造妄想作話するんで要注意だよ!」という文言は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすると、控訴人X1が、意味不明なクソリプ(非常に悪い又は取るに足らない内容のリプライの意味と推認される。)をしたり、他人がしたツイートの文章を改ざんしたり、真実とは異なる妄想を述べるような人物であることを意味するもので、控訴人X1の社会的評価を低下させるものであると認めるのが相当である。
イ そして、本件ツイート2は、同ツイートに添付した本件投稿画像2に示される控訴人X1のツイートの内容が「意味不明なクソリプ」であるという事実を前提として、控訴人X1が、改竄したり、捏造又は妄想して作り上げた話をするような人物であるから、注意すべきであるという主観的な意見を述べるものであり、これは証拠等による証明になじまない事項に係るものであるから、事実の摘示ではなく、意見ないし論評の表明であるとみるのが相当である。
ウ ところで、捏造又は妄想して作り上げた話をする人物であるとの意見ないし論評は、控訴人X1の人格を攻撃するものであり、人身攻撃に及ぶものであって意見ないし論評としての域を逸脱したものということができる。そうすると、その余の点について検討するまでもなく、本件ツイート2について、違法性阻却事由があるとは認められない。
エ したがって、本件ツイート2による控訴人X1の名誉毀損について、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情は存在しないと認めるのが相当であるから、本件ツイート2によって控訴人X1の名誉権が侵害されたことが明らかであるといえる。
(4)以上によれば、本件ツイート2について、控訴人X1の権利侵害の明白性は認められるが、控訴人X2の権利侵害の明白性は認められない。
3 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
(1)控訴人X1は、令和2年6月30日0時56分35秒から同年8月16日16時49分52秒までの期間、控訴人から、(IPアドレス省略)のIPアドレスが割り当てられていた契約者に係る情報の開示を求めているところ、前記1(2)及び2(1)のとおり、本件ツイート1が投稿されたのは同年6月29日午後5時45分、本件ツイート2が投稿されたのは同年9月30日午後9時33分であるから、上記開示を求める期間において本件各ツイートがされたものではなく、本件発信者情報は、本件各ツイートの投稿がされたログインに係る情報ではない。そこで、侵害情報である本件各ツイートの投稿がされたログイン以外のログイン時のIPアドレスに係る情報が、プロバイダ責任制限法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるかが問題となる。なお、被控訴人が把握している情報は、侵害情報の投稿時のIPアドレスではなく、ログイン時のIPアドレスに係る発信者情報であるが、これが、「権利の侵害に係る発信者情報」に含まれ得ることについては争いがない。
 そこで検討するに、プロバイダ責任制限法4条の趣旨は、特定電気通信(同法2条1号)による情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される(前掲最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決参照)。そうすると、「当該権利の侵害に係る発信者情報」の範囲をむやみに拡大することは相当とはいえないものの、侵害情報の投稿がされたログイン時のIPアドレスから把握される情報に限定するとなると、複数のログインが同時にされているなどして投稿がされたログインが特定できない場合などには、被害者の権利の救済をはかることができないこととなり、上記法の趣旨に反する結果となる。そして、プロバイダ責任制限法4条1項は「侵害情報の発信者情報」ではなく、「権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅をもたせた規定としていること、証拠(甲83、85)によると、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の令和3年法律第27号による改正は、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」には、侵害情報を送信した後に割り当てられたIPアドレスから把握される情報が「発信者情報」に含まれることを前提として行われたことが認められ、上記改正の前後を通じ、「権利の侵害に係る発信者情報」は、侵害情報を送信した際の情報のみに限定されるものではないと解されること、また、このように解したとしても、当該発信者が、侵害情報を流通させた者と同一人物であると認められるのであれば、発信者情報の開示により、侵害情報を流通させた者の情報が開示されることになるのであるから、開示請求者にとって開示を受ける理由があるということができ、また、発信者にとって不当であるとはいえないこと、特に本件のようなツイッターにおいては、設定されたアカウントにログインし、ログインされた状態で投稿することになり、侵害情報の送信をするにはログインが不可欠であるところ(弁論の全趣旨)、同一アカウントであれば、当該ログインに係る情報は、侵害情報の送信におけるログイン時とは異なるその前後のログインに係る発信者情報と同一となるのが通常であると考えられることに照らすと、「侵害情報の発信者情報」を侵害情報が投稿されたログイン時のIPアドレスから把握される発信者情報に限定して解釈するのは相当ではなく、当該侵害情報を送信した者の情報であると認められるのであれば、侵害情報を送信した後のログイン時のIPアドレスから把握される発信者情報や、侵害情報の送信の直前のログインよりも前のログイン時のIPアドレスから把握される発信者情報も、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得ると解するのが相当である。
(2)上記を前提に検討すると、本件では、本件各ツイートはいずれも本件アカウントにおいて投稿されたものであるところ、本件アカウントにおけるツイートの内容(甲3、10、89、91、乙17の1、2、6)をみると、本件アカウントは個人により管理されているものと推認される。そして、本件アカウントによる投稿の内容及び本件アカウントに対するログインの状況(甲39、40、80)に照らしても、本件各ツイートが、本件アカウントの管理者以外の者により投稿されたことをうかがわせる事情はない。
 そうすると、本件発信者情報は、本件ツイート1の送信よりも後のログイン時のIPアドレスから把握される発信者情報であり、又は本件ツイート2の送信の直前のログインよりも前のログイン時のIPアドレスから把握される発信者情報であるものの、「侵害情報の発信者情報」に当たるということができる。
4 争点3(被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当するか)について
 次に、被控訴人が「開示関係役務提供者」に該当するか検討するに、前記3のとおり、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」を、侵害情報を送信した者の発信者情報を意味するものと解するのと同様に、同項の「当該開示関係役務提供者」は、上記「権利の侵害に係る発信者情報」である侵害情報を送信した者の発信者情報を保有する開示関係役務提供者であれば足りると解するのが相当である。
 そして、訂正の上引用した原判決「事実及び理由」中の第2の2(4)のとおり、被控訴人は、本件アカウントに対してログインがされた時刻である別紙IPアドレス目録記載@及びAの時点において、同目録記載の発信元IPアドレスが割り当てられていた契約者に係る情報を保有しているところ、本件アカウントに対してログインした者と本件各ツイートを投稿した者は同一人物であると推認されるから、上記情報は、侵害情報を発信した者の発信者情報に当たる。そうすると、被控訴人は、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当する。
5 争点4(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
(1)証拠(甲5、13)によると、控訴人X1は、本件各ツイートの投稿者に対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であるから、本件各ツイートの投稿者であるものと推認される本件アカウントの管理者の氏名(名称)、住所、メールアドレス及び電話番号の開示を受ける正当な理由があるというべきである。
 被控訴人は、氏名又は名称及び住所が開示されれば、上記投稿者に対して損害賠償を請求することができるから、電話番号及びメールアドレスの開示を受ける正当な理由がない旨主張するが、権利行使の態様は訴え提起に限定されるものではなく、その前段階として、電話又は電子メールにより連絡をとり、交渉を行うことは、正当な権利行使の一態様である。そして、そのために、控訴人X1が、本件投稿者の電話番号及びメールアドレスの開示を求めることには正当な理由があるということができるから、上記被控訴人の主張は採用できない。
(2)もっとも、控訴人X1が本件各ツイートによる権利侵害に関する権利行使をするために、令和2年6月30日0時56分35秒から同年8月16日16時49分52秒までの期間、被控訴人から、(IPアドレス省略)のIPアドレスが割り当てられていた契約者に係る情報を全て開示するまでの必要はなく、被控訴人が情報を保有していることが明らかな上記期間の始期及び終期の時点において、上記IPアドレスが割り当てられていた契約者に係る情報の開示のみを認めれば足りる。
第4 結論
 よって、控訴人X1の請求は、別紙IPアドレス目録記載の各日時に、同目録記載の発信元IPアドレスに割り当てられていた契約者の氏名(名称)、住所、メールアドレス及び電話番号の開示を求める限度で理由があるから、控訴人X1の被控訴人に対する原審における請求を認容すべきところ、これを棄却した原判決は失当であり、控訴人X1の控訴は理由があるから、原判決中控訴人X1の被控訴人に対する請求を棄却した部分を取り消した上、控訴人X1の被控訴人に対する原審における請求を認容し、控訴人X1の当審における拡張請求には理由がないからこれを棄却することとし、控訴人X2の請求には理由がないからこれを棄却した原判決は相当であって、控訴人X2の控訴は理由がないからこれを棄却し、また、控訴人X2の当審における拡張請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 浅井憲
 裁判官 勝又来未子


別紙 発信者情報目録
 別紙アカウント目録記載のアカウントにログインした際の別紙IPアドレス目録記載の発信元IPアドレスを、同目録記載の各ログイン日時のうち@を始期とし、Aを終期とする期間内、被控訴人から割り当てられていた契約者に関する下記情報
1 氏名(名称)
2 住所
3 メールアドレス
4 電話番号
 以上

別紙 アカウント目録
 ユーザーID:A’
 ユーザー名:A
 URL:https://以下省略
 以上

別紙 IPアドレス目録
 @ 令和2年6月30日 0時56分35秒(日本時間(JST
  発信元IPアドレス(省略)
 A 令和2年8月16日 16時49分52秒(日本時間(JST))
  発信元IPアドレス(省略)
line
 
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