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【事件名】調理器具の写真無断流用事件D
【年月日】令和4年10月31日
 東京地裁 令和3年(ワ)第15525号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年9月1日)

判決
原告 エス・アンド・ケー株式会社
被告 A
同訴訟代理人弁護士 北村英士


主文
1 被告は、原告に対し、15万円及びこれに対する令和3年4月15日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを40分し、その37を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、199万9980円及びこれに対する令和3年4月15日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告の運営するオンラインストアにおける別紙画像目録1記載@ないしF及び同目録2記載の各画像(以下、これらを総称して「本件各画像」ということがある。)を複製した画像の掲載が、本件各画像についての原告の著作権(複製権、公衆送信(送信可能化を含む。)権)を侵害するとして、不法行為に基づく損害賠償として、著作権法114条3項により算定される損害金199万9980円及びこれに対する令和3年4月15日(最終の不法行為の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
 原告は、「SCANPAN」(スキャンパン)ブランドのデンマーク製キッチン製品及び調理器具についての日本国内の正規代理店として、当該製品等の輸入及び販売を行っている株式会社である。
 被告は、「オーエスシー」との屋号を用いて、インターネット上のショッピングモールにおいて、「ツコ」、「オーエスシー」及び「キー」とのストア名でオンラインストア(以下、これらを総称して「被告ストア」という。)を運営する者である(甲3)。
(2)被告ストアにおける本件各画像の利用等(甲2、3、14)
ア 別紙画像目録1記載@ないしFの各画像は、「SCANPAN」ブランドのノンスティックフライパン(以下「原告商品」という。)を用いて調理をしている写真や、原告商品に共通する性能、特長などを紹介する写真、画像及び説明文等から構成されている。また、同目録2記載の各画像では、商品ごとに、中央に原告商品の写真が、右下にスポンジの写真が、それぞれ配置されている。
イ 被告は、令和2年10月17日から令和3年4月15日にかけて、被告ストア内に商品ごとに一つのウェブページを作成し、当該各ウェブページにおいて、著作物である別紙画像目録1記載@ないしFの各画像及び同目録2記載の画像のうち当該商品に相当する画像1点をそれぞれ複製した画像を掲載した(なお、後記のとおり、本件各画像が掲載されたウェブページのページ数については、当事者間に争いがある。)。
ウ 被告は、少なくとも前記イの期間、被告ストアにおいて、原告商品を1点当たり1万6707円ないし6万3700円(いずれも消費税込み)で販売していた。
3 争点
(1)本件各画像の著作権者(争点1)
(2)著作権侵害についての被告の故意又は過失の有無(争点2)
(3)損害の有無及びその額(争点3)
4 当事者の主張
(1)争点1(本件各画像の著作権者)について
(原告の主張)
 原告は、令和元年9月頃、株式会社いつも(以下「いつも社」という。)に対し、インターネット上で原告商品を紹介及び販売することを目的とするウェブサイトの制作並びにオンライン販売のマーケティングに関するコンサルティング等を依頼した。いつも社は、原告商品の性能、特長、保証制度などを詳細に説明する画像及び説明文等からなる本件各画像を完成させ、原告との合意に基づき、令和2年3月30日、本件各画像の著作権を原告に譲渡した。
 したがって、原告は、本件各画像の著作権者である。
(被告の主張)
 いつも社が本件各画像の著作権を有していたことの立証がされていない以上、原告がいつも社から本件各画像の著作権を譲り受けたことについての立証もされていないといえる。
(2)争点2(著作権侵害についての被告の故意又は過失の有無)について
(原告の主張)
 被告は、本件各画像を自ら創作していないのに、被告ストアにおいて利用していた。一方、原告は、自身が運営するオンラインストアにおいて、本件各画像に関する権利は著作権法等により保護されており、原告の許可なく使用できない旨を掲載していた。これらの事実関係に照らせば、被告が本件各画像について自由に利用できる素材であると誤信することはあり得ないから、被告には、本件各画像に係る原告の著作権侵害について故意がある。
 仮に被告に故意がなかったとしても、被告に過失があるのは明らかである。
(被告の主張)
 被告が本件各画像を自ら創作していないのに被告ストアにおいて利用したことは認める。原告の運営するオンラインストアにおいて本件各画像に関する原告主張の記載がされていたことは知らない。
 本件各画像に係る原告の著作権を侵害したことについて、被告に故意又は過失があるとの主張は争う。
(3)争点3(損害の有無及びその額)について
(原告の主張)
ア 損害の発生
 被告は、被告ストアにおいて、自らが取り扱う商品を販売する目的で、本件各画像を複製し、ウェブページ1ページ当たり8点ずつ、合計30ページにわたって無断で掲載した。これにより、本件各画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信(送信可能化を含む。)権)が侵害され、原告に本件各画像の使用料相当額(著作権法114条3項)の損害が生じた。
イ 使用料相当額について
 毎日新聞社、朝日新聞社などの新聞社や株式会社アフロ(以下「アフロ社」という。)などの写真提供会社が提供している画像レンタルサービスでは、画像8枚を6か月間利用する場合の使用料は17万6000円から35万2000円である。このような画像レンタルサービスは、再利用を前提として収集した素材を広く一般に提供し、その対価を得ようとするものであり、特に商業的利用の場合には比較的低額な使用料となっている。これに対し、本件各画像のように、特定の商品の販売促進目的で特別に制作された著作物は、広く一般に利用を許諾して対価を得ることを目的とするものではなく、仮に第三者に利用を許諾するとすれば、一定の取引関係を前提とし、その取引条件の一環として利用許諾することになるから、使用料は画像レンタルサービスよりも高額となるはずである。
 また、原告は、いつも社に対し、本件各画像のデザイン制作料等として、約700万円を支払った。この金額には、デザイン制作料だけでなく、デザインのコンセプトに至るまでの相談料も含まれている。このほか、原告は、スキャンパン本社から提供された製品説明文の翻訳、広告画像制作のためのデータの用意、製品の写真撮影などのために費用と時間を要した。
 これらの事情を踏まえると、本件各画像のウェブページ1ページ当たりの使用料相当額は6万6666円を下らない。
ウ 被告の主張について
 被告は、見積もり依頼サイトを利用して見積もったフライパンの撮影料に基づく主張をするが、被告が指摘するサービスは、商品の撮影とその切り抜き及び背景の加工をするにとどまり、創作的なデザインを施すことを予定していないから、本件各画像の使用料相当額算定の参考にはならない。
エ 小括
 したがって、著作権法114条3項により算定される損害額は、199万9980円(=6万6666円×30ページ)を下らない。
(被告の主張)
ア 本件各画像の利用態様について
 原告は、同じ商品が掲載されていたウェブページを重複して計上し、損害額を算定している。実際に被告が無断掲載したウェブページは、29ページを超えない。
イ 使用料相当額について
(ア)ピクスタ株式会社(以下「ピクスタ社」という。)が提供する画像レンタルサービスでは、画像10点を年額7万6560円で提供している。当該サービスが提供する画像は、本件各画像よりも汎用性が高く、需要があるのに対し、特に本件各画像のうち1点は、文字の羅列にとどまり、コンテンツとしての価値も低い。
 また、原告が指摘する画像レンタルサービスの使用料は、いずれも画像1点当たりのものであるところ、掲載ページ数に応じて増額されるとの定めはなく、かえって、アフロ社が提供するサービスにおいては、同一サイトに限り使用箇所は問わないと規定されているから、この規定を前提とすると、本件各画像を利用したウェブページのページ数が増えても使用料相当額は変わらないことになる。
 したがって、本件各画像の使用料相当額は7万6560円を超えない。
(イ)本件各画像の相当な取得費用からみても、原告が主張する損害額は過大である。
 まず、被告が、見積もり依頼サイトを利用して、オンラインストアに掲載するフライパンの撮影料を、30商品、1商品当たり3カットの条件で見積もったところ、3者から回答があり、撮影料は平均で8万4667円(消費税込み)であった。この価格は、撮影作業についての対価と著作権譲渡についての対価とを含むものであること、被写体、素材、撮影商品数、商品当たりのカット数などの点で本件各画像と類似していることからすると、原告に生じた損害の額は同額が相当である。
 また、原告は、いつも社に支払った費用がデザイン制作料であるかのように主張する。しかし、同社はいわゆるコンサルティング会社であって、本件各画像についてのデザイン制作は原告が依頼した業務の一部にすぎない。仮にいつも社に支払った費用を基礎として使用料相当額を算定するとしても、同社においては、商品ページ制作に要する期間は最短6日とされているから、原告が本件各画像を入手するための費用は、いつも社が提供するサービスの1か月分の料金である9万8000円を超えない。したがって、原告に生じた損害額も同額を超えないというべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件各画像の著作権者)について
 証拠(甲4、14、15)によれば、本件各画像は、いつも社が、原告との間で締結した令和元年9月30日付けウェブサイト関連業務契約に基づいて新規に作成した上、令和2年3月30日頃、成果物として原告に納品したものであること、当該契約において、成果物のうち新規に作成されたデザインの著作権は、検収完了時をもって、いつも社から原告に譲渡するとされていることが認められる。
 以上によれば、いつも社が本件各画像を新規に作成したことに伴って取得し、保有していた本件各画像に係る著作権は、令和2年3月30日頃、原告に譲渡されたと認められるから、同日頃以降の本件各画像の著作権者は原告というべきである。
2 争点2(著作権侵害についての被告の故意又は過失の有無)について
 被告は、本件各画像を自身で創作していないことを認識していた以上(当事者間に争いがない。)、被告ストアに本件各画像を複製、掲載するに当たり、本件各画像の著作権者が誰であるのか、著作権者がその利用を許諾しているかどうかを調査、確認する注意義務があったというべきである。
 また、証拠(甲9A、13)によれば、原告が楽天市場に開設していたオンラインストア及びアマゾンに出品していた商品の販売ページには、本件各画像と同一又は類似の画像が掲載されていた上、当該ストアないしページの管理者が原告であることを認識し得る記載がされていること、それらの販売ページにおいて、当該画像を自由に複製、転載することを許諾するような文言は見当たらず、かえって、原告が楽天市場に開設していたオンラインストアには、原告により作成されたコンテンツ(画像、映像、デザイン、ロゴ、テキスト等)に関する権利は著作権法により保護されており、許可なく使用できない旨が記載されていたことが認められる。これらの事実関係に照らせば、被告は、自身が販売しようとする商品のブランド名ないし画像そのものを手掛かりとして、インターネット上の情報ないし画像を検索することにより、本件各画像の著作権者が原告であり、かつ、これを利用するには原告から許諾を得なければならないことを、容易に認識できたと認められる。
 以上のとおり、被告は、本件各画像の著作権者や利用許諾の有無を確認する注意義務があり、かつ、これらを調査、確認をすることが可能であったにもかかわらず、その調査、確認を怠って漫然と被告ストアに本件各画像を複製、掲載したと認められるから、被告には、少なくとも本件各画像に係る原告の著作権を侵害したことについて過失があるというべきである。
3 争点3(損害の有無及びその額)について
(1)被告による本件各画像の利用態様について
ア 前提事実(2)イのとおり、被告は、令和2年10月17日から令和3年4月15日にかけて、被告ストア上の商品ごとに作成されたウェブページに、別紙画像目録1記載@ないしFの各画像及び同目録2記載の画像のうち当該商品に相当する画像1点を、それぞれ複製して掲載したことが認められる。
イ この点に関し、原告は、被告が本件各画像を複製したものを掲載したページ数は合計30ページであると主張する。
 しかし、証拠(甲2)から認められる商品コード及び価格に照らせば、被告が作成した商品販売ページは、オンラインストア「ツコ」につき9ページ、同「オーエスシー」につき8ページ及び同「キー」につき12ページの合計29ページであると認められる。
 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(2)使用料相当額について
ア 本件において、原告が、本件各画像を含め、自己が著作権を有する著作物を第三者に有償で利用許諾していたと認めるに足りる証拠はないから、実際の利用許諾例に準じて使用料相当額を算定することはできない。
イ この点、原告は、新聞社や写真提供会社が提供する画像レンタルサービスにおける使用料を根拠として、本件各画像の1ページ当たりの使用料相当額は6万6666円を下らず、これに本件各画像が掲載されたウェブページのページ数を乗じて使用料相当額を算定すべきであると主張する。
(ア)まず、ページ数を単純に乗ずることの当否について検討すると、原告商品は、特長、材質、製造方法、メーカーなどが同一である複数のフライパンの一群からなる商品であるところ(甲14)、被告ストアにおける本件各画像の利用態様も、複数の商品販売ページにわたって、原告商品が等しく備える特長等を紹介する別紙画像目録1記載@ないしFの各画像を共通して複製及び掲載し、同目録2記載の画像については、当該ページで販売している商品に相当する画像1点を複製及び掲載したというものであることが認められる(前提事実(2)ア、イ、甲2)。このような利用態様にかんがみれば、特に、全てのページにわたって原告商品に共通する特長等を紹介する同一の画像7点については、異なる態様で複数回利用された場合と同視することはできず、本件において、単純にページ数(すなわち販売している商品の種類の数)を乗じて使用料相当額を算定することが相当であるとはいえない。
 そこで、更に検討すると、本件各画像は、商品群からなる原告商品のネット通販用広告画像、すなわち販売促進資料として作成されたものと認められることから(甲14)、原告商品の販売と無関係に本件各画像を使用することは通常考え難く、仮に原告が第三者に本件各画像の利用を許諾するとすれば、原告も主張するとおり、原告商品の日本国内の正規代理店として、原告商品の再販売契約をするに当たり、その販売促進資料として本件各画像全体を利用許諾するような場合が想定される。そして、同一のオンラインショッピングモール上に出店しているとしても、オンラインストア名が異なれば、商品の販売経路を複数有することになるから、販売促進資料としての画像の利用許諾契約に当たっても、原告商品を取り扱うオンラインストア数の多寡を考慮するのが合理的といえる。アフロ社が提供している画像レンタルサービスにおいて、同一サイトである限り、使用箇所を問わず同じ使用料が設定されている(甲7の「ウェブ広告・ホームページ」欄の注記)ことも、オンラインストア数に応じて使用料相当額を算定する方法の合理性を裏付けるものである。
 以上のとおり、原告商品が一つの商品群からなるものであること、被告ストアにおける本件各画像の実際の利用態様及び想定される本件各画像の利用許諾の態様にかんがみれば、本件各画像の使用料相当額を算定するに当たっては、本件各画像が掲載されたページ数(すなわち販売し15ている商品の種類の数)ではなく、被告が開設したオンラインストア数に応じて算定するのが相当というべきである。
(イ)次に、1オンラインストア当たりの使用料相当額について検討する。
a 前記(ア)のとおり、本件各画像は、原告商品の販売促進資料として作成されたものであると認められる。
 そして、証拠(甲14)によれば、別紙画像目録1記載@ないしFの各画像では、複数の画像にわたって文字の書体、配色や背景の構成、配色などを同一とすることで画像同士に統一感を与えるようにしているほか、各画像で説明している原告商品の特長の内容に沿うように写真、画像を選択、配置しているなどの点において、相応の工夫がされていると認められる。また、同目録2記載の各画像では、背景全体を白色として、各商品とスポンジの形状、色調、質感を認識しやすくするとともに、各商品の向きと配置を同一とすることで、原告商品の全てにわたって統一感を与えるものとなっており、この点においても相応の工夫がされていると認められる。
 このように、本件各画像は相応に創作性を有する著作物であると認めることができる。
b 原告が指摘する新聞社の画像レンタルサービスにおいて、具体的にどのような写真や画像が提供されているのかを認めるに足りる証拠はない。しかし、新聞社が提供する写真は、いわゆる報道写真にみられるように、ある事件や事象の一瞬を捉えているなど、構図やシャッターチャンス等に高度な工夫を凝らした創作性の高いものや、他の手段では入手が困難な希少性の高いものである可能性があると考えられる。
 また、アフロ社が提供する画像レンタルサービスについては、上記のような報道写真とは異なる性格の画像も提供されていることがうかがわれるものの(甲7)、やはり、実際にどのような写真や画像が提供されているのかは、本件証拠上認めるに足りない。
c その一方で、被告が指摘するピクスタ社の画像レンタルサービスについても、具体的にどのような写真や画像が提供されているのかや商業的利用の可否などは、本件証拠上判然としないものの、幅広い用途に利用できる6800万点を超える写真、イラストなどの素材を提供しているとされ、料金が1か月間に利用できる画像の点数に基づいて設定されていたり、未利用画像数を翌月以降に繰り越せるといった条件で提供されていたりすることからすると(ただし、動画、音楽素材、ブランドコレクション、一部の写真・イラストは、定額制プランの対象外とされている。乙2)、当該サービスにおいて低額な使用料で提供されているのは、汎用性のあるウェブサイト用の素材である可能性が高い。
 また、当該サービスは、専属クリエーター及び登録クリエーターが作成した素材を提供するものとされていることからすると(乙2)、再利用を前提としてこれらのクリエーター等から素材の提供を受け、当該素材を広く一般に利用許諾して、その許諾に係る使用料を主たる収益源として利益を得るとのビジネスモデルに基づき、使用料が設定されているものと考えられる。
d これに対し、前提事実(2)ア及び前記(ア)のとおり、本件各画像は、商品販売ページを見た顧客の購買意欲を高めるように、原告商品を用いて調理している様子を撮影した写真や特長等を述べた文言、画像などを配置した原告商品に特化した販売促進目的の画像であって、報道写真ともピクスタ社が提供する汎用性のあるウェブサイト用の素材とも性格及び目的が大きく異なる。また、前記(ア)において説示したとおり、原告が第三者に本件各画像を利用許諾することが想定されるのは、原告商品の正規代理店として、原告商品の再販売契約に当たって販売促進資料として利用されるような場合であるから、専ら写真、画像等の利用許諾に伴う使用料をもって収益を上げるというビジネスモデルに基づき設定された使用料の水準が妥当するともいい難い。これらの事情に照らせば、原告及び被告の双方がそれぞれ指摘する画像レンタルサービスにおいて規定されている使用料の水準が本件においてそのまま妥当するとはいえない。
 その一方で、前記(ア)のとおり、本件各画像は、原告商品の再販売契約に伴う販売促進資料との位置付けで利用許諾されることが想定できるから、本件各画像の使用料のみによって本件各画像の取得費用を回収したり、原告商品の再販売によって得られる利益を超えたりするような高額な使用料が設定されるとは考え難い。
 このほか、本件各画像は、報道写真のように高度の創作性を有しており代替可能性が小さいとまではいえないものの、原告商品に特化した販売促進資料として工夫して作成された相応に創作性を有する著作物であること(前記a)、オンラインストアごとの販売商品数はいずれも8ないし12点であったこと(前記(1)イ)、本件各画像の利用期間が約6か月間であったこと(前提事実(2)イ)、本件が、本件各画像の利用に当たっての将来の使用料額を定めるものではなく、原告の許諾を何ら得ることなく本件各画像を利用した被告に対する損害賠償を請求するものであることなどを総合考慮すると、1オンラインストア当たりの使用料相当額は5万円と認められる。
ウ 当事者の主張について
(ア)原告は、本件各画像の使用料相当額を算定するに当たり、いつも社に本件各画像のデザイン制作料等として約700万円を支払ったことを考慮すべきであると主張する。
 しかし、原告が、いつも社に委託したのは、ウェブサイト関連業務及び検索エンジン最適化サービスであり、本件各画像の制作業務はその一部を構成するにすぎないと認められるところ(甲14)、本件各画像のデザイン制作のみに要した費用を認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、本件各画像の使用料相当額の算定に当たって、原告が主張する金額を考慮することはできない。
(イ)また、被告は、オンラインストアに掲載するフライパンの撮影料を、30商品、1商品当たり3カットの条件で見積もったところ、撮影に対する対価と著作権を譲渡する対価とを含むものとしての撮影料が平均8万4667円(消費税込み)であったから、原告に生じた損害の額は同額が相当であると主張する。しかし、本件各画像は、フライパンの写真だけではなく、別紙画像目録1記載@ないしFの各画像をも含むものであるところ、被告の主張は、後者の制作に要した費用を何ら考慮していないから、上記撮影料をもって本件各画像の使用料相当額の上限を画するものということはできない。
 さらに、被告は、本件各画像の取得に要した費用は、いつも社が提供するサービスの1か月分の料金を超えないと主張するが、当該事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(ウ)したがって、原告及び被告の前記各主張を採用することはできない。
エ 小括
 前記(1)イのとおり、被告は、オンラインストア「ツコ」、同「オーエスシー」及び同「キー」の合計3オンラインストアにおいて本件各画像を複製及び掲載していたから、それによって、原告に使用料相当額の損害が発生し、その額は合計15万円となる。
第4 結論
 以上によれば、原告の被告に対する請求は、著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償として、損害金15万円及びこれに対する令和3年4月15日(最終の不法行為の日)から支払済みまで民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 間明宏充
 裁判官 バヒスバラン薫


別紙 画像目録1(甲14号証)
別紙 画像目録2(甲14号証)
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