判例全文 line
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【事件名】You Tube“逮捕動画”の引用事件
【年月日】令和4年10月28日
 東京地裁 令和3年(ワ)第28420号 損害賠償請求事件(本訴)、令和3年(ワ)第34162号 損害賠償請求反訴事件(反訴)
 (口頭弁論終結日 令和4年8月9日)

判決
本訴原告(反訴被告) A(以下「原告」という。)
本訴被告(反訴原告) B(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
同 遠藤大介
同 吉永雅洋
同 蓮池純
同 神田竜輔
同訴訟復代理人弁護士 鈴木勇輝


主文
1 被告は、原告に対し、30万円及びこれに対する令和3年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを20分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴
(1)被告は、原告に対し、60万円及びこれに対する令和3年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)仮執行宣言
2 反訴
(1)原告は、被告に対し、438万7900円及びこれに対する令和2年10月3日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
(2)仮執行宣言
第2 事案の概要
1(1)本件本訴は、原告が、被告に対し、原告が警察官に逮捕された際の状況が撮影された「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」と題する動画(甲11に収録されている動画をいい、以下「本件逮捕動画」という。)を被告がインターネット上の動画投稿サイト「YouTube」(以下、単に「YouTube」という。)に投稿したことにより、名誉権、肖像権及びプライバシー権を侵害されたと主張して、不法行為に基づき、60万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年3月11日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2)本件反訴は、被告が、原告に対し、原告がYouTubeに複数の動画を投稿したこと等により、著作権(複製権及び公衆送信権)、著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)又はプライバシー権を侵害されたと主張して、不法行為に基づき、438万7900円及びこれに対する最後の不法行為の日である令和2年10月3日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(3)なお、本件においては、本件逮捕動画に関連して、YouTubeに投稿された動画が多数掲げられているところ、その対応関係は、大要、次のとおりであある。すなわち、被告は、原告が、@「人気YouTuberC氏によるプライバーシーの侵害職権乱用による不当逮捕の瞬間白バイ隊員による一般人暴行」と題する動画(乙1内の【本件動画2】又は【本件動画3】との表題が付されたものに収録されている動画をいい、以下「原告動画1」という。)を投稿したこと等により、本件逮捕動画に係る著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を、A「D、Cさんコラボ動画についてD優しすぎる。パチンコ実況パチンコ攻略」と題する動画(乙1内の【本件動画4】との表題が付されたものに収録されている動画をいい、以下「原告動画2」という。)を投稿したこと等により、別紙本件イラスト目録記載のイラスト(以下、被告が他の者と一緒に撮影した動画(以下「被告動画1」という。)内に映った当該イラストを「本件イラスト」といい、被告は、被告動画1のうち本件イラスト部分に限り権利侵害を主張している。)に係る著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を、B「殴り書きの答弁書Cさん裁判の内容初公開衝撃の言い訳」と題する動画(乙1内の【本件動画6】との表題が付されたものに収録されている動画をいい、以下「原告動画3」という。)を投稿したこと等により、被告が撮影、編集した動画(乙6。以下「被告動画2」という。)に係る著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)並びにプライバシー権を、それぞれ侵害した旨主張している。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実)
(1)当事者
ア 原告は、YouTubeにおいて、「CSNS被害」という名のチャンネル(以下「原告チャンネル」という。)を開設して動画を配信している者である。
イ 被告は、YouTubeにおいて、「C」の名称を使用し、「C」という名のチャンネル(以下「被告チャンネル」という。)を開設して動画を配信している者である。なお、被告は、上記の活動において、本件イラストを使用している。
(2)被告による動画投稿(甲11)
ア 被告は、平成30年8月3日、被告チャンネルにおいて、自らが路上で撮影した動画を基に作成した本件逮捕動画を投稿した。
 なお、本件逮捕動画については、遅くとも平成30年9月末頃に、投稿が削除されている。
イ 本件逮捕動画は、11分24秒から成る動画である。
 本件逮捕動画においては、原告が、路上において、警察官と押し問答になった際の状況が撮影されている。具体的には、本件逮捕動画には、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等(以下「本件状況」という。)が映っている。
 なお、本件逮捕動画においては、原告の容ぼう等にモザイク処理等は施されていない。
ウ 本件逮捕動画は、5分頃(甲11の動画の5分1秒頃)まで本件状況を映し、その頃から、本件状況を映すとともに本件状況の補足説明や原告又は警察官の発言内容について、テロップを付すなどしている。
(3)原告による動画投稿(乙1)
ア 原告は、原告チャンネルにおいて、@令和2年9月12日、原告動画1を、A同月22日、原告動画2を、B同年10月3日、原告動画3を、それぞれ投稿した。
イ 原告動画1は、12分5秒から成る動画である。
 原告動画1では、冒頭において、「これから公開させて頂く動画は私が不当逮捕された時に通りがった〈ママ〉パチスロ系人気YouTuberCさんに撮影されモザイクやボイスチェンジ加工等無しで面白おかしくコラージュされ他動画をSNSへ掲載され約2ヶ月で230万回も再生された動画です。」等のテロップが表示された後、「長文申し訳ございません。動画を開始させて戴きます。」と表示される。その後、2分43秒頃(乙1内の【本件動画2】の2分45秒頃)から、背景に「当動画はYouTuberCさんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」と表示された状態で、本件状況が映っている。その後、8分17秒頃(乙1内の【本件動画3】の2分38秒頃)から、「ご視聴頂きありがとうございます。今後、削除処理の過程や、私の行って来た事過去の申し立て内容や進捗を公開していければと考えております。SNS被害ch」とのテロップが表示されている。
 なお、原告動画1においては、原告の容ぼうにモザイク処理が施されており、音声の加工も施されている。
ウ 原告動画2は、被告がYouTubeにおいて動画を配信している他の者と一緒にいわゆるコラボ動画を撮影したとして、被告動画1の複数の場面を画像として表示しつつ、テロップを付すなどしている。
 テロップの要旨は、原告が本件逮捕動画の公開によって本件状況における容ぼうを公開されたのに対して、被告がYouTubeの活動において自身の容ぼう等を公開していないこと等を指摘する内容となっている。
 そして、原告動画2の38秒頃(乙1内の【本件動画6】の40秒頃)から、被告動画1の一場面として表示される画像に、本件イラストが表示されている。
エ 原告動画3は、別件訴訟(東京簡易裁判所平成30年(少コ)第1738号。以下「別訴」という。)における被告の答弁書について、一部マスキングを付した上で表示し、テロップを付すなどしている。
 また、原告動画3は、被告動画2のうち、被告が募金をする際の状況等の複数の場面について、「Cさんの回想シーン」とのテロップを付して画像を表示するほか、その他のテロップを付すなどしている。
3 争点
(1)本訴
ア 本件逮捕動画の投稿による名誉毀損の成否(争点1)
(ア)社会的評価の低下の有無(争点1−1)
(イ)違法性阻却事由の有無(争点1−2)
イ 本件逮捕動画の投稿による肖像権・プライバシー権侵害の成否(争点2)
ウ 原告の損害(争点3)
(2)反訴
ア 原告動画1の投稿等による権利侵害の成否等(争点4)
(ア)著作権侵害の成否(争点4−1)
(イ)本件逮捕動画の著作権の譲渡の有無(争点4−2)
(ウ)著作者人格権侵害の成否(争点4−3)
イ 原告動画2の投稿等による権利侵害の成否(争点5)
(ア)著作権侵害の成否(争点5−1)
(イ)著作者人格権侵害の成否(争点5−2)
ウ 原告動画3の投稿等による権利侵害の成否(争点6)
(ア)著作権侵害の成否(争点6−1)
(イ)著作者人格権侵害の成否(争点6−2)
(ウ)プライバシー権侵害の成否(争点6−3)
エ 被告の損害(争点7)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1−1(本件逮捕動画の投稿による社会的評価の低下の有無)について
(原告の主張)
 本件逮捕動画は、原告が警察官に暴力や罵声を浴びせられている本件状況が撮影されたものである。そうすると、被告は、本件逮捕動画をYouTubeに投稿することにより、原告の名誉権を侵害した。
(被告の主張)
 本件逮捕動画は、そのタイトルから明らかなとおり、警察官が、原告を投げ飛ばし、原告に罵声を浴びせている映像から成るものであり、明らかに、警察官の過剰かつ違法な捜査を取り上げるものである。そうすると、これを見た一般の視聴者は、警察官が不当に原告を逮捕した動画であると理解するであろうから、原告の社会的評価の低下は認められない。
2 争点1−2(名誉毀損に係る違法性阻却事由の有無)について
(被告の主張)
 名誉毀損は、その行為が公共の利害に関する事項に係り、専ら公益を図る目的に出た場合に、摘示された事実の重要な部分が真実であれば、違法性が阻却される。そして、本件逮捕動画は、そのタイトルや内容からしても、警察官による不当な逮捕を明らかにしようとするものであり、公共の利害に関する事実に係ることは明らかである。また、被告は、公共の利害に関する事実をありのままにYouTubeに掲載しており、これが専ら公益を図る目的でなされたことは明らかである。さらに、本件逮捕動画は、ありのままの事実を流すものであり、その重要な部分において真実であることも疑いの余地がない。
 したがって、名誉毀損が認められるとしても、違法性が阻却される。
(原告の主張)
 争う。
3 争点2(本件逮捕動画の投稿による肖像権・プライバシー権侵害の成否)について
(原告の主張)
 本件逮捕動画は、原告が警察官に暴力や罵声を浴びせられている本件状況が撮影されたものである。そうすると、被告は、本件逮捕動画をYouTubeに投稿することにより、原告の肖像権及びプライバシー権を侵害した。
(被告の主張)
(1)肖像権の侵害について
ア 社会生活上の受忍限度を超えて肖像権を侵害するか否かについては、@被撮影者の社会的地位や活動内容、A撮影場所、B撮影・公開の目的、C撮影・公開の態様、D撮影・公開の必要性、E動画の内容等、種々の事情を総合考慮して決せられる。
 本件逮捕動画の公開は、原告の承諾を得ていないことや、動画にモザイク処理が施されていないことを踏まえても、以下の事情からすれば、受忍限度の範囲内にあるというべきであるから、肖像権の侵害は認められない。
@ 原告は、一般人であり、その容ぼうを公開することによる顧客誘引力や経済的価値は存在しない。
A 動画が撮影されたのは、公共の道路上において、相当程度多数の人目に付く状況であったといえるから、プライバシー性は低い。
B 撮影・公開の目的は、警察官による不当逮捕を明らかにするというものであって、正当なものである。
C 撮影は、原告の承諾を得たものであって、その態様は穏当である。
D 原告に撮影を依頼されたのであるから、撮影の必要性は当然に認められる。また、公益のためにこれを公開する必要性も認められる。
E 動画の内容は、警察官の不当逮捕を暴くというものであり、原告は飽くまでも被害者として撮影されており、これを見た視聴者が原告に対して批判的な印象を持つとはおよそ考え難い。
イ また、肖像権の侵害については、表現行為が公共の利害に関する事項に係り、かつ、専ら公益を図る目的でなされ、その公表された内容が上記表現の目的に照らして相当なものであれば、違法性が阻却される。
 本件逮捕動画は、そのタイトルや内容からして、警察官による不当な逮捕を明らかにしようとするものであり、公共の利害に関する事項に係るものである。また、公共の利害に関する事実をありのままYouTubeに掲載することについて、専ら公益を図る目的でなされたことは明らかである。そして、被告において、脚色したりせず、文字テロップを付加してそのまま公表したことや、本件逮捕動画のタイトルにおいて、専ら警察官側の問題を暴くためとする一方で原告を被害者という位置づけたことに照らせば、本件逮捕動画の内容が、これを公表した目的(公益目的)に照らして相当なものであることは明らかである。
 したがって、肖像権の侵害が認められるとしても、違法性が阻却される。
(2)プライバシー権の侵害について
ア 私生活上の事実について、一般人が公開を欲しないものであって、一般の人々にまだ知られていない事柄を、みだりに公開した場合に、プライバシー侵害が成立する。
 本件逮捕動画は、公共の場において不当逮捕されたという事実に係るものであって、私生活上の事柄とはいえない。また、不当逮捕されたということは、当人に責任のない事柄であって、違法な行為をしているのは警察官であるから、一般人が公開を欲しない事項と評価することはできない。
 したがって、プライバシー権の侵害は認められない。
イ また、プライバシー権の侵害については、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、後者が前者に優越する場合に、違法性が阻却される。
 本件逮捕動画において問題となるプライバシーの内容は、警察官に不当逮捕されたということであって、前科、病歴、住所などといった典型的なプライバシーに係る情報に比べて、保護の必要性が乏しい。他方で、国家権力である警察官が、武力を行使し、暴言を吐きながら、不当な逮捕を行ったという事実を一般社会に公表することには、極めて重要な目的、意義が認められる。
 したがって、本件逮捕動画を公表する目的が原告のプライバシー権保護の要請よりも優越するから、プライバシー権の侵害が認められるとしても、違法性が阻却される。
4 争点3(原告の損害)について
(原告の主張)
 本件逮捕動画が投稿されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料は、60万円を下らない。
(被告の主張)
 争う。
5 争点4−1(原告動画1の投稿による著作権侵害の成否)について
(被告の主張)
(1)著作物性又は著作者について
 本件逮捕動画は、被告が撮影・編集を行ったものであり、被告の思想感情が創作的に表現されたものであるから、著作物に該当し、その著作権は、被告に帰属する。
(2)著作権の侵害について
 原告動画1は、本件逮捕動画にモザイク処理と音声の加工処理を施した動画を挿入したものとなっており、これをYouTubeに投稿する行為は、投稿するに際して、サーバへのアップロードを必然的に伴うものであって、当該サーバに被告の著作物を有形的に再製している。
 また、インターネットへのアップロードは、公衆によって直接受信されることを目的として、無線又は有線電気通信を行うもののうち、公衆からの求めに応じて自動的に行うものであるから、原告動画1の投稿は、自動公衆送信に該当する。
 そうすると、原告は、原告動画1をYouTubeに投稿することにより、本件逮捕動画に係る被告の複製権及び公衆送信権を侵害した。
(3)著作権法32条1項の引用の成否について
 著作権法32条1項の引用が成立するためには、@公表された著作物であること、A引用であること、B公正な慣行に合致すること、C正当な範囲内であることが必要である。
ア 引用に当たらないことについて
(ア)原告動画1は、本件逮捕動画にモザイク処理と音声加工を施したものをそのまま掲載する内容となっている。また、そのタイトルは、「人気YouTuber C氏によるプライバシーの侵害 職権乱用による不当逮捕の瞬間 白バイ隊員による一般人暴行」というものである。
 そうすると、どの部分が原告の著作物で、どの部分が被告の著作物であるかが判然とせず、引用して利用する側の著作物と、引用して利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができない。
(イ)また、原告動画1について、乙1の【本件動画2】(原告動画1の前半部分)は5分51秒の動画であるが、2分46秒までが原告の言い分を記載した動画となっており、以降、3分5秒間被告の著作物が流れており、半分以上が被告の著作物であるし、乙1の【本件動画3】(原告動画1の後半部分)は、6分30秒の動画であるが、冒頭から2分39秒まで被告の著作物が流れ、その後は、4分37秒まで「ご視聴いただきありがとうございます。」という文章が掲載された後、最後まで何も映し出されない動画となっており、実質的に全て被告の著作物である。
 そうすると、いずれも、量的質的に、引用する側の著作物が主、引用される側の著作物が従という関係は認められないことは明白である。
 したがって、原告動画1が本件逮捕動画を利用したことは、そもそも「引用」に当たらない。
イ 公正な慣行に合致し、正当な範囲内のものと評価できないことについて
(ア)また、原告動画1は、被告に無断で、本件逮捕動画の映像や音声に加工を施しており、被告の同一性保持権を侵害する改変をしている上に、出所の明示もなされていない。
(イ)そして、被告が原告の権利を侵害したということを世間に公表したかったのであれば、動画の引用は必須ではなく、事実を文字で記載すれば足りるし、動画を使用するとしても一部のみを使用すれば十分である。
(ウ)したがって、原告による本件逮捕動画の利用について、およそ公正な慣行に合致し正当な範囲内のものと評価することはできない。
ウ 以上によれば、原告動画1について、著作権法32条1項の引用は認められない。
(原告の主張)
(1)本件逮捕動画に係る著作権侵害については、これを争う。
 なお、原告は、本件逮捕動画とは別の動画を基に原告動画1を作成しているから、本件逮捕動画を複製、公衆送信していない。
(2)また、著作権法32条1項の引用の抗弁を主張する。すなわち、原告動画1においては、その再生時間の約半分にわたって動画の趣旨等の説明を行っているし、内容としても、主従関係が分かるような構成となっている。また、原告が原告動画1を公開したのは、収益や知名度を得るためでなく、被告から受けた権利侵害について訴え、コピー動画の派生を防止し、原告と同様の被害者が出ないことを目的としたものであって、やむを得ないものである。
6 争点4−2(本件逮捕動画の著作権の譲渡の有無)について
(原告の主張)
 被告は、原告に対し、本件逮捕動画の著作権を譲渡した。
(被告の主張)
 否認する。
7 争点4−3(原告動画1の投稿等による著作者人格権侵害の成否)について
(被告の主張)
 原告は、原告動画1において、本件逮捕動画にモザイク処理と音声加工を施して変更を加えており、被告の同一性保持権を侵害した。
 また、原告は、原告動画1の掲載に際して、被告が本件逮捕動画の著作者であることを明示しておらず、被告の氏名表示権を侵害した。
(原告の主張)
 本件逮捕動画に係る著作者人格権の侵害については、これを争う。
 なお、原告は、原告動画1において、「当動画はYouTuberCさんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」と明示している。
8争点5−1(原告動画2の投稿等による著作権侵害の成否)について
(被告の主張)
(1)著作物性又は著作者について
 本件イラストは、被告が「C」という名称に合致するようC´をモチーフに制作したイラストであり、被告の思想又は感情が表現された美術の著作物に該当し、その著作権は、被告に帰属する。
(2)著作権の侵害について
 原告は、原告動画2において、被告動画1を切り抜いて掲載しているところ、被告動画1においては、本件イラストが掲載されている。
 そして、原告は、原告動画2をYouTubeに投稿しているところ、前記5と同様に、これは、複製を伴い、また、自動公衆送信に該当するから、原告は、原告動画2をYouTubeに投稿することにより、本件イラストに係る被告の複製権及び公衆送信権を侵害した。
(3)著作権法32条1項の引用の成否について
ア 引用に当たらないことについて
 原告動画2は、被告動画1を切り抜いたものを含んでいるところ、唐突に切り抜きの部分が登場するため、引用して利用する側の著作物と、引用して利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができない。
イ 公正な慣行に合致し、正当な範囲内のものと評価できないことについて
(ア)被告が原告の権利を侵害したということを世間に公表するという原告主張の目的に照らしても、被告動画1に言及する必要性は皆無である。
 また、動画の内容も、元々の動画に記載された「パチンコ界の暴君」という文字に、「SNS界の暴君」といったテロップと効果音を付け足すなど、明らかに、被告を挑発し、面白可笑しく編集している。
 そうすると、原告動画2は、報道、批評、その他の引用の目的上正当な範囲内で引用しているなどと評価することは、およそ不可能である。
(イ)原告動画2は、出所の明示をせずに、かつ、氏名表示権を侵害する態様で、本件イラストを無断使用しており、およそ公正な慣行に合致すると評価することはできない。
ウ 以上によれば、原告動画2について、著作権法32条1項の引用は認められない。
(原告の主張)
(1)本件イラストに係る著作権の侵害について、争う。
(2)原告動画2において、被告動画1を引用していることは認めるが、当該動画の著作権は、被告に帰属していない。
(3)また、引用の抗弁を主張する。すなわち、原告は、自ら作成する動画に挿入画像を挿入する際には、挿入される静止画については、別途挿入されたものである旨や作成者を明記した上で、原告の批評コメントを付記することで、挿入された画像が従である一方で、原告の動画が主となるようにしている。また、原告が動画を作成する目的は、被告から受けた権利侵害について訴え、コピー動画の派生を防止し、原告と同様の被害者が出ないことを目的としたものである。
9 争点5−2(原告動画2の投稿等による著作者人格権侵害の成否)について
(被告の主張)
 原告は、原告動画2において、被告が本件イラストの著作者であることを明示しておらず、被告の氏名表示権を侵害した。
(原告の主張)
 本件イラストに係る著作者人格権の侵害については、これを争う。
10 争点6−1(原告動画3の投稿等による著作権侵害の成否)について
(被告の主張)
(1)著作物性又は著作者について
 被告動画2は、被告が自ら撮影、編集を行ったものであり、被告の思想感情が創作的に表現されたものであるから、著作物に該当し、その著作権は、被告に帰属する。
(2)著作権の侵害について
 原告は、原告動画3において、被告動画2の内容を切り抜き、無断で転載している。
 そして、原告は、原告動画3をYouTubeに投稿しているところ、前記5と同様に、これは、複製を伴い、また、自動公衆送信に該当するから、原告は、原告動画3をYouTubeに投稿することにより、被告動画2に係る被告の複製権及び公衆送信権を侵害した。
(原告の主張)
(1)被告動画2に係る著作権の侵害については、これを争う。
(2)また、引用の抗弁を主張する。すなわち、原告は、自ら作成する動画に挿入画像を挿入している際には、挿入される静止画については、別途挿入されたものである旨や作成者を明記した上で、原告の批評コメントを付記することで、挿入された画像が従である一方で、原告の動画が主となるようにしている。また、原告が動画を作成する目的は、被告から受けた権利侵害について訴え、コピー動画の派生や、原告のような被害者が出ないことを目的としたものである。
11 争点6−2(原告動画3の投稿等による著作者人格権侵害の成否)について
(被告の主張)
 原告は、原告動画3において、被告動画2を自らの選り好みで切り抜くことにより変更を加えており、被告の同一性保持権を侵害した。
 また、原告は、原告動画3の掲載に際して、被告が被告動画2の著作者であることを明示しておらず、被告の氏名表示権を侵害した。
(原告の主張)
 被告動画2に係る著作者人格権の侵害については、これを争う。
12 争点6−3(原告動画3の投稿等によるプライバシー権侵害の成否)について
(被告の主張)
(1)原告は、原告動画3において、被告が別訴で提出した答弁書を掲載しているところ、一部に伏せ字等の修正が施されているものの、事件番号、郵便番号、被告の主張のうち「とうごうしっちょうしょう」という部分に一部伏せ字がなされたものを確認することができる。
(2)そして、被告は、自らの名称を公開せずにYouTubeにおいて活動を行っているところ、郵便番号は、住所の丁番地より前の部分が特定できる私生活上の事柄に関する情報であり、みだりに第三者に公開を欲しない情報であることは明らかである。
 そうすると、原告は、被告の郵便番号を公開することにより、被告のプライバシー権を侵害した。
(3)また、前記答弁書における被告の主張のうち、伏せ字がなされている部分は、雑な処理が施されているため、文字の一部が解読可能であり、「●うこ(又はご)●しっ●う●ょう」までは判別可能である。そして、その後に「のため記憶が定まりません。」との記載がされていることからすれば、記憶が定まらない原因となる上記記載は、統合失調症を意味すると解読することができる。このように、被告の傷病名を公開することは、被告のプライバシー権を侵害するものである。
 さらに、傷病名をおいたとしても、記憶が定まらないような状況にあること自体、症状ないし状態に関するものであり、かつ、そのような通常ではない症状ないし状態についても、私生活上の事柄に関する情報であり、みだりに第三者に公開を欲しない情報に当たる。そうすると、当該事項を公開することは、被告のプライバシー権を侵害するものである。
 したがって、原告は、上記の事項を公開することにより、被告のプライバシー権を侵害した。
(原告の主張)
(1)被告のプライバシー権の侵害については、これを争う。
(2)別訴の答弁書記載の被告の傷病について、被告が主張するように解読することはできない。
(3)また、郵便番号は、地域を分類するための番号であり、原告動画3において、被告の住所は公開されていない。まして、被告は、自らの氏名を公開せずに活動を行っており、容姿も分からないのであるから、郵便番号によって個人を特定することは不可能である。
13 争点7(被告の損害)について
(被告の主張)
(1)原告動画1の投稿等による損害
ア 著作権の侵害
 原告動画1は、令和2年9月12日から令和3年12月23日まで公開されており、本件逮捕動画のライセンス料相当額は、94万5000円(=0.45円(広告収入の中央値)×210万回(本件逮捕動画の再生回数))を下らない。
 そうすると、被告は、原告動画1の投稿による著作権の侵害により、94万5000円の損害を被った。
イ 著作者人格権の侵害
 本件逮捕動画の同一性保持権及び氏名表示権を侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円を下らない。
(2)原告動画2の投稿等による損害
ア 著作権の侵害
 被告は総再生回数4億6000万回を突破するYouTubeのチャンネルを運営する者であり、そのような被告のシンボルマークである本件イラストの利用価値は計り知れず、本件イラストのライセンス料相当額は、100万円を下らない。
 そうすると、被告は、原告動画2の投稿による著作権の侵害により、100万円の損害を被った。
イ 著作者人格権の侵害
 本件イラストの氏名表示権を侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円を下らない。
(3)原告動画3の投稿等による損害
ア 著作権の侵害
 被告動画2は、64万回再生を記録した動画であり、前記(1)と同様の計算をすれば、その収益は、28万8000円(=0.45円×64万回)である。そして、被告動画2の掲載期間が長期間にわたること、原告動画3における切り抜きの内容が一部であること、被告動画2は現在も被告チャンネルに掲載されていること等に鑑みれば、その50%の14万4000円がライセンス料相当額である。
 そうすると、被告は、原告動画3の投稿による著作権の侵害により、14万4000円の損害を被った。
イ 著作者人格権の侵害
 被告動画2の同一性保持権及び氏名表示権を侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円を下らない。
ウ プライバシー権の侵害
 郵便番号や傷病名ないし症状や状態を公開されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料は、100万円を下らない。
(4)弁護士費用
 被告は、原告の不法行為により、弁護士費用相当額として、前記(1)ないし(3)の損害の合計の10%に相当する39万8900円の損害を被った。
(5)まとめ
 以上のとおり、被告は、著作権侵害により合計208万9000円、著作者人格権侵害により合計90万円、プライバシー権侵害により100万円の各損害を被ったほか、弁護士費用相当の39万8900円の損害を被った。
(原告の主張)
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1−1(本件逮捕動画の投稿による社会的評価の低下の有無)について
(1)新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(新聞報道に関する最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)、YouTube動画の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについても、同様に、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。
 これを本件についてみると、前提事実及び証拠(甲11)によれば、@本件逮捕動画のタイトルは、「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」というものであること、A本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものであること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、一般の視聴者の通常の注意と視聴の仕方を基準とすれば、本件逮捕動画は、原告が警察官によって白昼路上で逮捕され手錠を掛けられたなどという事実を摘示するものであり、これをYouTubeに投稿することが、原告の人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させることは明らかである。
(2)これに対して、被告は、本件逮捕動画は、警察官の不当逮捕を暴くものであり、原告は飽くまでも被害者として撮影されているから、これを見た視聴者が原告に対して批判的な印象を持つとはおよそ考え難く、原告の社会的評価を低下させるものではないなどと主張する。
 しかしながら、上記認定に係る本件逮捕動画の内容によれば、原告は警察官により白昼路上で逮捕され手錠まで掛けられているところ、本件逮捕動画の内容自体からは、警察官による不当逮捕であるという事情は直ちに明らかではなく、一般の視聴者の通常の注意と視聴の仕方を基準とすれば、原告が被害者であると理解されるものとはいえない。そうすると、被告の主張は、一般の視聴者の通常の注意と視聴の仕方を基準とするものとはいえず、上記判断を左右するものとはいえない。
 したがって、被告の主張は、採用することができない。
(3)以上によれば、本件逮捕動画の投稿は、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
2 争点1−2(名誉毀損に係る違法性阻却事由の有無)について
(1)民事上の不法行為である名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、上記行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。
(2)公共性及び公益目的性について
 これを本件についてみると、前提事実及び証拠(甲11)によれば、本件逮捕動画は、原告が白昼路上において警察官と押し問答となり、警察官に制圧されたり、手錠を掛けられたりする様子が撮影されたものであることが認められる。そうすると、原告を白昼路上で逮捕する警察官の行動等に照らせば、現行犯逮捕をめぐる警察官の職務行為やその原告の行動に対する社会の関心は高いというべきである。したがって、本件逮捕動画は、公共の利害に関する事実に係るものであると認めるのが相当である。
 他方、前提事実及び証拠(甲11)によれば、本件逮捕動画は、途中からテロップが付されているところ、警察官の発言として、「逮捕だYO!」、「変態だYO!」、「じゃねーんだYO」、原告の発言として、「え?(変態?)」、「メイシワタシマスカラ」などと表示されていることが認められる。
 上記認定に係るテロップの内容や体裁を踏まえると、本件逮捕動画は、「現逮(げんたい)」を「変態(へんたい)」と混同する会話の状況など、白昼路上で逮捕された容疑者と警察官とのやり取りを、面白可笑しく編集して嘲笑の対象とするものであるといえる。
 そうすると、本件逮捕動画の投稿は、専ら公益を図る目的に出たものとはいえず、違法性を欠くものと認めることはできない。
(3)被告の主張について
 被告は、公共の利害に関する事実をありのままYouTubeに掲載していることからすれば、専ら公益を図る目的でなされたことは明らかであると主張する。しかしながら、上記のとおり、本件逮捕動画において、警察官や原告の発言に付されたテロップの内容や体裁を踏まえると、本件状況を面白可笑しく編集して嘲笑の対象とするものであるといえる。そうすると、仮に公益を図る目的があったとしても、これが専らの目的であるとまで認めることはできない。したがって、被告の主張は、採用することができない。
(4)小括
 以上によれば、本件逮捕動画の投稿による名誉毀損は、違法性が阻却されるものとはいえない。
3 争点2(本件逮捕動画の投稿による肖像権・プライバシー権侵害の成否)について
(1)肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有すると解するのが相当である(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁、最高裁平成21年(受)第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁各参照)。他方、人の容ぼう等の撮影、公表が正当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で撮影、公表等する行為は、@撮影等された者(以下「被撮影者」とういう。)の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき、A公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき、B公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。
(2)これを本件についてみると、証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、本件逮捕動画の内容は、白昼路上において原告の容ぼう等が撮影されたものであるから、公的領域において撮影されたものと認められる。そして、本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものである。そうすると、本件逮捕動画の内容が社会通念上受忍すべき限度を超えて原告を侮辱するものであることは、明らかである。
 したがって、本件逮捕動画を原告に無断でYouTubeに投稿して公表する行為は、原告の肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となる。
 これに対して、被告は、肖像権侵害を否定する事情を縷々主張するが、本件逮捕動画の内容に照らし、原告は白昼路上で逮捕され手錠まで掛けられた姿を公に晒されているのであるから、これが原告の名誉感情を侵害し受忍限度を超えて原告を侮辱するものであることは、明らかである。
 なお、原告は、本件逮捕動画の投稿により、プライバシーを侵害された旨も主張するところ、その主張の内容に照らせば、肖像権侵害の被侵害利益としてのプライバシーを主張するものと解される。そうすると、公的領域において撮影されている以上、その理由がないことは、上記において説示したとおりである。仮に、原告が、肖像権とは別途のプライバシー侵害を主張するとしても、原告の肖像とは紐づけられないような、これとは別途のプライバシー侵害を特定して主張するものでないから、主張自体失当であり、しかも、原告の主張を前提としても、そもそも白昼路上という公的領域において撮影されている以上、プライバシー侵害を認めることはできない。
(3)以上によれば、本件逮捕動画の投稿によって原告の肖像権が侵害されたものと認められる。
4 争点3(原告の損害)について
 前記のとおり、本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものである。上記認定に係る本件逮捕動画の内容、本件逮捕動画の公表により原告が被った精神的苦痛の程度、YouTubeに投稿されて再生されたという公表の態様、その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば、原告の名誉権及び肖像権が侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料としては、30万円の限度で認めるのが相当である。
5 争点4−1(原告動画1の投稿による著作権侵害の成否)について
(1)著作物性又は著作者について
 前提事実及び証拠(甲11)並びに弁論の全趣旨によれば、本件逮捕動画は、前記において認定したとおり、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものである。そして、本件逮捕動画は、事の子細を記録するために、撮影場所、アングル等を工夫して、原告と警察官との具体的なやり取り、その表情などを撮影し、これを編集したものであることが認められる。
 そうすると、本件逮捕動画は、撮影方法や編集等に工夫を凝らした点において創作性があるといえるから、本件逮捕動画には著作物性を認めるのが相当である。
 そして、証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、本件逮捕動画は、被告が現場で撮影してこれを制作したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。したがって、本件逮捕動画の著作者は、被告であると認めるのが相当である。
(2)著作権の侵害について
ア 証拠(甲11、乙1)及び弁論の全趣旨によれば、@原告動画1は、被告が撮影した動画を基に作成されたものであること、A本件逮捕動画と原告動画1は、各動画に付されたテロップの内容等に相違が認められるものの、いずれも、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものであること、B本件逮捕動画と原告動画1は、その撮影場所、アングル、映像の内容までもが一致すること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告動画1は、本件逮捕動画に係る創作的表現の一部につき、原告の容ぼうにモザイク処理を付し、音声加工を施すなどして、これを複製したものであると認められる。そして、前提事実によれば、原告は、原告動画1をYouTubeに投稿していることが認められるのであるから、本件逮捕動画に係る被告の複製権及び公衆送信権を侵害したものと認められる。
イ これに対し、原告は、原告動画1につき、本件逮捕動画とは別のオリジナルのものから作成しているから、本件逮捕動画を複製又は公衆送信するものではない旨主張する。
 しかしながら、本件逮捕動画と原告動画1は、その撮影場所、アングル、映像の内容までもが一致することは、上記において説示したとおりである。
 そうすると、原告において、被告が保有する本件逮捕動画から直接複製したものではなく、上記にいうオリジナルのものから複製したとしても、そもそも当該オリジナルのものと本件逮捕動画は創作的表現において同一のものであるといえる。したがって、原告は、本件逮捕動画の創作的表現部分と同一のものに基づき、原告動画1を作成したのであるから、原告の主張は、依拠性を否定するものとはならない。
 したがって、原告の主張は、採用することができない。
(3)著作権法32条1項の引用の成否について
ア 他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用することができる(著作権法32条1項)。そして、その要件該当性を判断するには、引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、著作権者に及ぼす影響の程度等の諸事情を総合考慮して、社会通念に照らし判断するのが相当である。
イ 前提事実及び証拠(乙1、甲11)並びに弁論の全趣旨によれば、@原告動画1は、冒頭において「これから公開させて頂く動画は私が不当逮捕された時に通りがった〈ママ〉パチスロ系人気YouTuberCさんに撮影されモザイクやボイスチェンジ加工等無しで面白おかしくコラージュされ他動画をSNSへ掲載され約2ヶ月で230万回も再生された動画です。」等のテロップが表示された後、「長文申し訳ございません。動画を開始させて戴きます。」と表示されること、Aその後、背景に「当動画はYouTuberCさんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」と表示された状態で、本件状況が映っていること、Bその後、「ご視聴頂きありがとうございます。今後、削除処理の過程や、私の行って来た事過去の申し立て内容や進捗を公開していければと考えております。SNS被害ch」とのテロップが表示されていること、C原告動画1は、本件逮捕動画のうち、原告が現行犯逮捕されるなどした本件状況を映したいわば生の映像について引用する一方で、被告が本件状況の補足説明や原告又は警察官の発言内容につきテロップを付すなどした部分については引用していないこと、他方、D本件逮捕動画は、遅くとも平成30年9月末頃に、その投稿が削除されており、原告動画1の投稿により、被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないこと、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告は、本件逮捕動画が被告によって撮影され編集されたものであることを明記した上、本件逮捕動画を引用しているところ、原告動画1を投稿した目的は、被告がモザイクや音声の加工等を施さないまま、現行犯逮捕された原告の容ぼう等をそのまま晒す本件逮捕動画をYouTubeに投稿したことを明らかにするためのものであり、本件逮捕動画は、その被害を明らかにするために必要な限度で利用されたものであり、他方、本件逮捕動画の引用によって被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。
 これらの事情を総合考慮すれば、原告動画1において本件逮捕動画を引用することは、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認めるのが相当である。
ウ 被告の主張について
(ア)被告は、原告動画1につき、引用して利用する側の著作物と、引用して利用される著作物とを明瞭に区別して認識することができないと主張する。
 しかしながら、前記イのとおり、原告動画1と本件逮捕動画を明確に区別して認識することができることは明らかであり、被告の主張は、上記認定に係る原告動画1の内容に照らし、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するものとはいえない。
(イ)被告は、原告動画1と本件逮捕動画との関係について、いずれも、量的質的に引用する側の著作物が主、引用される著作物が従という関係が認められないから、そもそも著作権法32条にいう「引用」に当たらないと主張する。
 しかしながら、本件逮捕動画は、原告が被告から被害を受けたことを明らかにするという目的の限度で引用されており、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認められることは、上記において説示したとおりである。そうすると、上記引用の目的及び態様を踏まえると、主従関係をいう被告の主張は、上記の要件該当性を左右するものとはいえない。
(ウ)被告は、被告から権利の侵害を受けたということを世間に公表するためには、本件逮捕動画の引用は必須ではなく、動画の一部を利用すれば足りると主張する。
 しかしながら、原告が被告から本件逮捕動画の投稿によって被害を受けたことを明らかにするという目的を踏まえると、原告が受けた被害そのものである本件逮捕動画を動画として引用することが最も直接的かつ有効な手段であるといえる。
 そうすると、被告の主張は、上記目的及び本件逮捕動画との関係を正解するものとはいえず、上記判断を左右しない。
(エ)被告は、原告動画1においては、被告の同一性保持権を侵害する改変がされている上、出所の明示もされていないと主張する。
 しかしながら、同一性保持権の侵害が認められないことは、後記6のとおりであり、出所が明示されていることは、前記イのとおりである。
(オ)以上によれば、被告の主張は、いずれも採用することができない。
エ したがって、原告動画1において本件逮捕動画を利用することは、著作権法32条1項の引用が成立するものと認められる。
(4)小括
 以上によれば、原告が原告動画1において本件逮捕動画を引用することは、著作権法32条1項にいう引用に当たるから、本件逮捕動画に係る著作権の侵害に基づく被告の請求は、理由がない。
6 争点4−3(原告動画1の投稿等による著作者人格権侵害の成否)について
(1)同一性保持権の侵害について
 被告は、原告において本件逮捕動画にモザイク処理と音声加工を施しこれに変更を加えていることが、被告の同一性保持権を侵害している旨主張する。
 そこで検討すると、著作権法20条2項4号は、「やむを得ないと認められる改変」に該当する場合には、同一性保持権を定める同条1項の適用を除外するものである。
 これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものであり、原告の名誉権及び肖像権を侵害することは、前記において説示したとおりである。そうすると、原告が、原告動画1における本件逮捕動画の引用部分について、原告の容ぼうにモザイク処理を施したり、音声加工を施したりして改変することは、上記の各権利が繰り返し侵害されることを回避するために必要な措置であるといえる。
 そうすると、上記改変は、著作権法20条2項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するものと認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張は、その趣旨をいうものとして理由がある。
 したがって、本件逮捕動画に係る同一性保持権が侵害されたものと認めることはできず、被告の主張は、採用することができない。
(2)氏名表示権の侵害について
 被告は、原告において被告を本件逮捕動画の著作者として原告動画1に明示していないことが、被告の氏名表示権を侵害していると主張する。
 しかしながら、前提事実及び証拠(乙1)並びに弁論の全趣旨によれば、@原告動画1の冒頭において「これから公開させて頂く動画は私が不当逮捕された時に通りがった〈ママ〉パチスロ系人気YouTuberCさんに撮影されモザイクやボイスチェンジ加工等無しで面白おかしくコラージュされ他動画をSNSへ掲載され約2ヶ月で230万回も再生された動画です。」との表示がされていること、A原告動画1のうち、別の動画を引用している部分においては「当動画はYouTuberCさんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」との表示がされていること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、前記において説示したとおり、原告は、原告動画1において、引用する動画の著作者が被告であることを明示していることが認められる。
 したがって、本件逮捕動画に係る氏名表示権が侵害されたものと認めることはできず、被告の主張は、上記認定事実と異なる前提に立つものであり、採用することができない。
(3)小括
 以上によれば、本件逮捕動画に係る著作者人格権の侵害に基づく被告の請求は、いずれも理由がない。
7 争点5−1(原告動画2の投稿による著作権侵害の有無)について
(1)著作物性又は著作者について
 本件イラストは、別紙本件イラスト目録記載のとおりであり、カラフルな色彩を交えて動物の特徴をデフォルメして描いた点において創作性があるといえるから、本件イラストには著作物性を認めるのが相当である。
 そして、証拠(乙4、5)及び弁論の全趣旨によれば、本件イラストは、被告が制作したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。したがって、本件イラストの著作者は、被告であると認めるのが相当である。
(2)著作権の侵害について
ア 前提事実及び証拠(乙1)によれば、原告動画2において、被告動画1の一場面として表示するものの中に、本件イラストが表示されていることが認められる。そして、前提事実によれば、原告は、原告動画2をYouTubeに投稿しているのであるから、本件イラストに係る被告の複製権及び公衆送信権を侵害したものと認められる。
イ これに対して、原告は、被告動画1の著作権が被告に帰属しないなどと主張するが、被告において、原告動画2により著作権を侵害されたと主張する著作物は、飽くまで本件イラストであって、被告動画1ではないから、原告の主張は、被侵害著作物に係る被告の主張を正解するものではなく、その前提を欠く。したがって、原告の主張は、採用することができない。
(3)著作権法32条1項の引用の成否について
 他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用することができる(著作権法32条1項)。そして、その要件該当性を判断するには、引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、著作権者に及ぼす影響の程度等の諸事情を総合考慮して、社会通念に照らし判断するのが相当である。
 そこで検討するに、証拠(乙1、乙5)及び弁論の全趣旨によれば、@原告は、原告動画2の冒頭において「Cさんが人気YouTuberDとコラボしたらしいです」(当該人気YouTuberDを、以下「D」という。)として、被告動画1がいわゆるコラボ動画であるとして、その出所を明記していること、A原告は、被告動画1の各場面を引用した上で、「私は全世界にモザイク・ボイスチェンジ無しで恥ずかしい逮捕動画を公開されたのに」、「Cさんは徹底して、顔出し、声出しNG」などのテロップ等を付し、被告の容ぼうが映らないアングルを採用するなどして、被告の手の部分のみが映されてその容ぼうや声が出ていない場面や、同乗しているYouTuberのDの容ぼうが本件イラスト等によって隠されている場面を引用するものであること、B被告は、本件イラストが被告のシンボルであり、自分の制作した作品に強い思い入れがある旨陳述するものの、本件イラストの僅か数秒の引用によって被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないこと、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告は、本件逮捕動画では原告が顔出しされたのに対し、被告が投稿動画において顔出しをしていないことを表現するために、被告動画1の出所を明記した上、本件イラストが映り込んだ被告動画1の一場面を引用したことが認められ、他方、Dの容ぼうに本件イラスト等を重ねるとともに、被告の容ぼうが映らないアングルを採用するなどした場面が引用されているものの、本件イラストが実際に映り込んだ時間も僅か数秒であり、これによって被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。
 これらの事情を総合考慮すれば、原告動画2において本件イラストを引用することは、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認めるのが相当である。
(4)小括
 以上によれば、原告が原告動画2において本件イラストを引用したことは、著作権法32条1項の引用が成立するものと認められる。
8 争点5−2(原告動画2の投稿等による著作者人格権侵害の有無)について
 上記認定事実のとおり、原告動画2において、被告動画1の一場面に本件イラストが映り込んでおり、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、本件イラストの著作者が被告である旨の表示はされていない。しかしながら、前記認定事実によれば、本件イラストが映り込んだ場面は僅か数秒であり、被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。そうすると、本件イラストの著作者名の表示は、前記認定に係る本件イラストの利用の目的及び態様に照らし、被告が本件イラストの創作者であることを主張する利益を害するおそれがあるものとはいえず、著作権法19条3項に基づき、省略することができると認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張は、その趣旨をいうものとして理由がある。
 したがって、原告は、本件イラストに係る氏名表示権を侵害したものと認めることはできない。
 仮に、本件イラストにつき、被告が自身のシンボルである趣旨を縷々述べているところに弁論の全趣旨を踏まると、被告は、氏名表示権侵害の主張において、本件イラストのパブリシティ権侵害を主張する趣旨をいうものと善解することもできる。しかしながら、前記認定事実によれば、本件イラストに被告の人物識別機能があったとしても、本件イラストの利用は、顔出しを防ぐ手段として僅か数秒映り込んだにすぎず、専ら本件イラストの有する顧客吸引力の利用を目的とするものではないから、パブリシティ権を侵害するものではなく、上記において善解した主張も、採用の限りではない。
9 争点6−1(原告動画3の投稿による著作権侵害の有無)について
(1)著作物性又は著作者について
 前提事実及び証拠(乙6)並びに弁論の全趣旨によれば、被告動画2は、街中のパチンコ店が休業となっているため、自らパチンコのホールを開設してパチンコを行い、不要となった手元の現金10万円を募金したこと等を内容とするものであり、その撮影後に効果音やテロップを付すなどの編集を加えたものであることが認められる。そうすると、被告動画2は、撮影場所、アングル等を工夫して、上記パチンコ店が休業中でも自らのホールでパチンコを行うことができ、現金も不要となり募金したなどという一般に興味を引くような被告の行動を具体的かつ詳細に追跡するために、撮影アングル、撮影方法や編集等に工夫を凝らした点において創作性があるといえる。したがって、被告動画2には著作物性を認めるのが相当である。
 そして、証拠(甲11)及び弁論の全趣旨によれば、被告動画2は、被告が撮影してこれを制作したものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
 以上によれば、被告動画2の著作者は、被告であると認めるのが相当である。
(2)著作権の侵害について
 前提事実及び証拠(乙1、6)並びに弁論の全趣旨によれば、原告動画3において、被告動画2の各場面が画像として表示されていることが認められ、前提事実によれば、原告は、原告動画3をYouTubeに投稿しているのであるから、被告動画2の上記画像に係る被告の複製権及び公衆送信権を侵害したものと認められる。
(3)著作権法32条1項の引用の成否について
 他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用することができる(著作権法32条1項)。そして、その要件該当性を判断するには、引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、著作権者に及ぼす影響の程度等の諸事情を総合考慮して、社会通念に照らし判断するのが相当である。
 そこで検討するに、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告動画2の出所につき「Cさんの回想シーン」などとして明記した上、原告動画3において「募金箱に入れた―プライバシーや肖像権の侵害をしておいて1円も払わず、最後の10万円を募金なんて。」等というテロップを付するなどして、本件逮捕動画をめぐる裁判において被告が原告には1円も払わないと反論しているのに、被告は現金10万円も募金していることを表現するために、被告動画2の各場面を画像として引用していることが認められ、上記画像の投稿により、被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないこと、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告は、被告が現金10万円を募金しているのに、原告には裁判で1円も払わないと反論していることを表現するために、被告動画2が被告の動画である旨を示した上、その目的の限度で被告動画2の各場面を画像として引用したことが認められ、他方、上記各画像の投稿により、被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないことが認められる。
 これらの事情を総合考慮すれば、原告動画3において被告動画2の各場面の画像を引用することは、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認めるのが相当である。
(4)小括
 以上によれば、原告が原告動画3において被告動画2を引用したことは、著作権法32条1項の引用に当たるものと認められる。
10 争点6−2(原告動画3の投稿による著作者人格権侵害の有無)について
(1)同一性保持権の侵害について
 前提事実及び証拠(乙1、6)によれば、原告動画3は、画面の一部に被告動画2の一場面を画像として掲載しつつ、テロップを付すなどの編集を加えていることが認められる。
 しかしながら、前記において説示したとおり、原告は、被告が現金10万円を募金しているのに、原告には裁判で1円も払わないと反論していることを表現するために、被告動画2の各場面を画像として引用していることが認められ、その引用の態様も、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認められる。そうすると、原告は、被告動画2の性質並びにその利用の目的及び態様に照らし、やむを得ないと認められる改変であると認めるのが相当である。
 したがって、被告動画2の改変は、著作権法20条2項4号に該当するものであり、同一性保持権を侵害したものとは認められず、その趣旨をいう原告の主張は、理由がある。
(2)氏名表示権の侵害について
 前提事実及び証拠(乙1)並びに弁論の全趣旨によれば、被告動画2の内容は、街中のパチンコ店が休業となっているため、自らパチンコのホールを開設してパチンコを行い、不要となった手元の現金10万円を募金したこと等を内容とするものであり、前記コラボ動画とは異なり、被告以外の者は格別登場するものではなく、その撮影アングル等を踏まえると、被告が自身の行動を撮影したものであることは明らかである。そして、原告は、被告動画2の出所につき「Cさんの回想シーン」などと示した上、原告動画3において「募金箱に入れた―プライバシーや肖像権の侵害をしておいて1円も払わず、最後の10万円を募金なんて。」等というテロップを付するなどして、本件逮捕動画をめぐる裁判において被告が原告には1円も払わないと反論しているのに、被告は10万円も募金していることを表現する目的で、被告動画2の各場面を画像として引用していることが認められ、その目的に必要な限度で被告動画2の一場面を画像として表示していることが認められる。
 上記認定事実によれば、原告動画3においては、被告動画2の一場面を画像として表示するに際して「Cさんの回想シーン」との表示がされているほか、上記認定に係る被告動画2の内容及び撮影アングル等によれば、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すれば、被告動画2は、被告自身が撮影したものであり、その著作者が被告であると理解することは明らかである。
 そうすると、著作者の表示がされていないという被告の主張は、その前提を欠くものといえる。仮に、著作者の表示がされていないという被告の主張に立ったとしても、上記認定に係る引用の目的及び態様のほか、被告動画の上記利用によって被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないことからすると、被告動画2の著作者名の具体的な表示は、前記認定に係る被告動画2の利用の目的及び態様に照らし、被告が被告動画2の創作者であることを主張する利益を害するおそれがあるものとはいえず、著作権法19条3項に基づき、省略することができると認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張は、その趣旨をいうものとして理由がある。
 したがって、原告は、被告動画2に係る氏名表示権を侵害したものとは認められない。
11 争点6−3(原告動画3の投稿によるプライバシー権侵害の成否)について
(1)被告は、原告が、原告動画3において、被告の郵便番号を公開することにより、被告のプライバシー権を侵害したと主張する。
 しかしながら、郵便番号は、プライバシーに係る情報であっても、一定の地域を示す情報にすぎず、その性質上、他者に知られたくないと感じる程度が一定程度低いものといえる。そして、証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば、原告が別訴における被告の答弁書を掲載しつつ原告動画3を投稿した目的は、別訴における被告の言い分を明らかにする必要性があったためであり、他方、原告動画3において、上記郵便番号が表示されたのは数秒間にとどまっており、上記答弁書記載の郵便番号は小さく映り込んでいるにすぎず、これを強調するような編集等が格別施されていないことからしても、これにより被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。
 これらの事情を総合すると、原告が上記答弁書を上記の目的で掲載するに当たり、郵便番号を秘匿せずに開示したことは、配慮を欠く面があったことは否定できないものの、上記答弁書自体の引用は、別訴における被告の言い分を明らかにする目的に沿うものであり、上記引用によって問題となる郵便番号という情報の内容やその態様を総合考慮すれば、社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であるとまでいうことはできず、被告に対する不法行為を構成するものと認めることはできない。
 したがって、被告の主張は、採用することができない。
(2)被告は、原告動画3に掲載された別訴における被告の答弁書について、一部解読可能な「●うこ(又はご)●しっ●う●ょう」との記載と、その後の「のため記憶が定まりません。」との記載を併せると、上記記載は、統合失調症を意味すると解読することができるため、原告が、これを公開することにより、被告のプライバシー権を侵害したと主張する。
 しかしながら、証拠(乙1、8)及び弁論の全趣旨によれば、上記のとおりマスキングがされていることからすると、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すれば、その後の「のため記憶が定まりません。」との記載を併せても、被告が主張するように統合失調症を意味するとまで解読されるものと認めることはできない。
 したがって、被告の主張は、採用することができない。
(3)被告は、記憶が定まらないような状況にあること自体、私生活上の事柄に関する情報であり、みだりに第三者に公開を欲しない情報に当たるから、原告は、これを公開することにより、被告のプライバシー権を侵害したと主張する。
 しかしながら、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すれば、「のため記憶が定まりません。」という記載の程度では、その意味自体必ずしも明らかではなく、その原因とされている病名自体はマスキングされていることその他の上記答弁書の引用の目的及び態様等を総合考慮すれば、確かに原告において配慮を欠く面があったことは否定できないものの、社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であるとまでいうことまではできず、被告に対する不法行為を構成するものと認めることはできない。
 したがって、被告の主張は採用することができない。
(4)以上によれば、原告動画3によるプライバシー侵害を認めることはできない。
12 まとめ
 その他に、当事者双方提出に係る準備書面及び証拠を踏まえ、上記の各動画の引用の成否を改めて検討しても、他人の動画を利用するに当たりお互い配慮が足りなかった側面も否定し難いものの、YouTubeその他の動画共有プラットフォームにおける表現活動等を保護する重要性に照らしても、本件事案の限度ではいずれも引用の抗弁が成立して著作権を侵害しないものと解するのが相当であり、その他について改めて検討しても、前記において説示した判断枠組み及び本件事案の内容を踏まえると、前記判断を左右するに至らない。したがって、上記判断とは異なる当事者双方のその余の主張は、いずれも採用することができない。
第5 結論
 よって、原告の本訴請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余の本訴請求及び反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 中島基至
 裁判官 小田誉太郎
 裁判官 國井陽平


(別紙)本件イラスト目録
(以下、省略)
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