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【事件名】調理器具の写真無断流用事件M
【年月日】令和4年10月25日
 東京地裁 令和3年(ワ)第21524号 損害賠償金請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年9月8日)

判決
原告 エス・アンド・ケー株式会社
被告 A


主文
1 被告は、原告に対し、5万円及びこれに対する令和3年4月19日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、20万円及びこれに対する令和3年4月19日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告がその運営するオンラインショップにおいて別紙画像目録記載の各画像を利用した行為につき、これらの画像に係る原告の著作権(複製権及び送信可能化権)が侵害されたと主張して、被告に対し、民法709条に基づき、損害賠償金20万円及び不法行為後の日である令和3年4月19日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、デンマーク製キッチン用品のブランド「SCANPAN」(スキャンパン)の日本国内の正規代理店であり、上記5ブランドに含まれるフライパン(以下「本件商品」という。)を販売している。
イ 被告は、インターネット上のショッピングモール「Yahoo!ショッピング」において、「B」とのストア名でオンラインストア(以下「被告ストア」という。)を運営している者である。
(2)被告ストアにおける本件画像の掲載
 被告は、遅くとも令和3年3月4日頃までに、被告ストアの商品(4種)の各販売ページにおいて、別紙画像目録記載の画像(以下「本件画像」という。)を取扱商品の紹介画像として順次掲載した(甲2、17、20)。
(3)原告からの本件画像掲載停止等の申入れ等
 原告は、令和3年4月19日、被告に対し、原告が本件画像の著作権を有することを主張するとともに、本件画像の無断使用への対応を求める旨の通知をした(甲11)。
 その後、被告は、遅くとも同年5月19日までに、被告ストアに掲載していた本件画像を削除した。
2 争点
(1)本件画像に係る原告の著作権の有無等(争点1)
(2)被告の故意又は過失の有無(争点2)
(3)原告の損害額(争点3)
3 当事者の主張
(1)争点1(本件画像に係る原告の著作権の有無等)
〔原告の主張〕
ア 本件画像は、消費者に対して本件商品の洗練されたイメージや上質さを印象付けるための配色、字体、背景を採用する一方で、餃子や卵焼き等のベーシックな料理と組み合わせることによって消費者が本件商品を生活の一部として想像できるようにしたり、複数の国旗を示すことによって国際的に認知されたブランドであることを伝えるようにしたり、本件商品の製作作業をしている男性の画像を使用することによって本件商品が丁寧に作られていることが消費者に伝わるようにしたり、緑の木の絵等を加えることにより、環境に優しい印象を与え、安全性やエコロジー、健康的な生活を連想させるデザインにするなど、日本市場でのマーケティングに関する知見を踏まえた工夫が凝らされている。このように、本件画像は、本件商品の特徴を消費者に伝えるために原告の独自の発想に基づいて表現されたものであり、著作物性を有する。
イ 原告は、令和元年9月頃、株式会社いつも(以下「いつも社」という。)に対し、本件商品を含む「SCANPAN」ブランドの商品を紹介及び販売するためのウェブサイト(以下「原告ウェブサイト」という。)の制作及びオンライン販売のマーケティング技術に関するコンサルティング業務を委託した(以下「本件委託契約」という。)。本件委託契約においては、同契約に基づきいつも社が新規に作成した成果物の著作権は検収完了時に同社から原告に譲渡されることとされている。
 その後、いつも社は、上記アのとおりの原告独自の発想を基に、原告が提供した商品の写真や説明文等の素材を使用しながらウェブサイトのデザインやコンテンツの原案を作成し、原告によるチェック及び修正要請を受け、令和2年3月30日、原告ウェブサイトのデザインや本件画像を含む本件商品の詳細を説明する画像等を完成し、同日、本件委託契約に基づき、原告に対し、本件画像を納品してその著作権を譲渡した。
ウ したがって、原告は、本件画像の著作権を有する。被告による被告ストアへの本件画像の掲載は、この原告の著作権(複製権及び送信可能化権)の侵害である。
〔被告の主張〕
 不知。
(2)争点2(被告の故意又は過失の有無)
〔原告の主張〕
 被告は、本件画像を自ら創作したものではなく、原告ウェブサイト又は原告が出店している電子商取引サイトから複製して被告ストアに掲載した。したがって、被告による原告の本件画像に係る複製権5侵害は、故意により行われたものである。
 また、原告は、原告ウェブサイト及び原告が本件商品を販売するために出店している電子商取引サイトにおいて、それらに掲載されている全ての著作物の著作権が原告に帰属することを第三者に示す警告文(以下「本件警告文」という。)を掲示している。したがって、被告が、本件画像につき何人においても利用が許諾されている素材と誤信することはあり得ない。
〔被告の主張〕
 不知。
(3)争点3(原告の損害額)
〔原告の主張〕
ア 著作権法114条3項に基づく損害額
 原告は、いつも社に対し、本件画像等のデザイン制作業務を含む本件委託契約の対価としておよそ700万円を支払った。また、原告は、いつも社に対し、上記デザイン制作費用のみでなく、デザインのコンセプトに至るまでの相談料も支払う必要があった。このほか、本件商品の製造販売元から提供された製品説明の翻訳、広告画像を制作するに当たり用意したデータ、商品の写真撮影等のために支払った諸費用等やこれらに要した時間を考慮すると、本件画像を利用するに当たって原告が受けるべき金額は、被告が被告ストアに設けているページ当たり5万円を下らない。
 この額は、一般に公開されている画像レンタルサービスにおける利用料と対比しても、その画像を利用してデザイン制作をするのに要する時間や人件費を考えると妥当である。
 しかるに、被告は、被告ストアにおいて、4種の仕様の本件商品を紹介するために、4ページわたり本件画像を使用した。
 したがって、被告の本件画像に係る原告の著作権(複製権、送信可能化権)侵害行為により原告に生じた損害額は、著作権法114条3項に基づき、20万円(=5万円×4)となる。
イ 売上減少に係る原告の損害
 仮に、著作権法114条3項に基づく原告の損害額が認められないとしても、原告は、令和3年1月1日〜同年6月30日の間、前年同期比で売上が26%減少したところ、この売上減少の原因は、被告による本件画像の無断利用のほかには存在しない。したがって、この売上減少額が原告の損害となる。
〔被告の主張〕
ア 著作権法114条3項に基づく損害額
 原告に損害が生じたこと及び損害額は否認ないし争う。
 原告がいう本件画像の使用料に相当する損害額は高額に過ぎる。被告が被告ストアで本件画像を使用した期間は1か月程度であって、本件画像の使用料相当の損害額としては、せいぜい1か月につき1枚当たり1000円〜2000円程度が相当である。
イ 売上減少に係る原告の損害
 被告による本件画像の著作権侵害があったとしても、原告の主張する売上減少と被告の行為との間に相当因果関係はない。そもそも、被告は、被告ストアで本件商品の注文を受けると、原告から本件商品を購入して販売するのであるから、被告による本件画像の利用により原告の売上が増加することはあっても減少することはなく、原告に損害は生じない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件画像に係る原告の著作権の有無等)について
(1)証拠(甲1、4)によれば、本件画像は、本件商品の優れた特徴(高級感、洗練されたイメージ、高品質、世界的市場において販売されていること、環境に優しい商品であること等)や本件商品を使用して料理をするイメージを消費者に訴求するなどの目的の下に、本件商品の上記特徴を表現する文章と共に、本件商品を使用した料理の例、商品の製造工程、本件商品が販売されている国々の国旗等に関するイメージ画像、本件商品が環境に優しい材料等で製造されていることに関する情報及びそれを想像させるための樹木のイメージ画像等を組み合わせて制作されたもの5であることが認められる。
 この点を踏まえると、本件画像は、いずれも、本件商品に係る思想を創作的に表現したものといえ、著作物性を有するものと認められる。
(2)証拠(甲4、13〜16)及び弁論の全趣旨によれば、原告といつも社が令和元年9月頃に本件委託契約を締結したこと、本件委託契約は、ネット通販用広告画像等の制作を含むWebサイト関連業務サービス及び検索エンジン最適化サービスの提供をその内容とし、同サービスに基づきいつも社が新規に作成した成果物の著作権は検収完了時をもって同社から原告に譲渡されることが定められていたこと、いつも社は、令和2年3月30日頃、本件委託契約に基づいて本件画像を制作し、これを原告に納品したことがそれぞれ認められる。
 これらの事実によれば、本件画像に係る著作権は、本件委託契約に基づき、いつも社の原告に対する本件画像の納品によりいつも社から原告に譲渡されたことが認められる。
 したがって、原告は、本件画像の著作権を有する。
(3)前提事実(第2の1(2))のとおり、被告は、遅くとも令和3年3月4日頃までに、被告ストアの各販売ページにおいて、本件商品のうち4種の商品につき、取扱商品の紹介画像として本件画像を順次掲載した。
 そうすると、その際、被告は、各ページの制作にあたり本件画像を複製して送信可能化したものと認められる。この行為は、被告による本件画像に係る原告の著作権(複製権及び送信可能化権)の侵害にあたる。これに反する被告の主張は採用できない。
2 争点2(被告の故意又は過失の有無)について
 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、インターネット上のショッピングモール「楽天市場」に「BONBONMAMA」のショップ名で出店し、本件商品を販売しているところ、原告ウェブサイトには、本件画像を含む各種画像の末尾に「Copyright(c)2020BONBONMAMA.AllRights Reserved./エス・アンド・ケー株式会社により作成されたコンテンツ(画5像、映像、デザイン、ロゴ、テキスト等)に関する権利は、/日本や外国の著作権法やその他の知的財産権法により保護されており、当社の許可なく使用はできません。/無断でこれを使用した場合には、これらの著作権法その他の知的財産権法に違反することとなり、当社に生じた損害の賠償を請求します。」(「/」は改行部分を示す。)との本件警告文が付されていることが認められる。
 被告が本件画像のデータを入手し、被告ストアに掲載するに至った経緯は必ずしも判然としないものの、少なくとも被告は自ら本件画像を制作した者ではないから、本件画像を複製して被告ストアに掲載するにあたっては、本件画像の著作権の帰属及び著作権者による利用許諾の要否等について調査確認すべき注意義務を負っていたといえる。しかるに、被告が本件画像の著作権の帰属等に関する調査等を実施したことをうかがわせる具体的な事情はない。また、原告が原告ウェブサイトに本件画像等と共に本件警告文を掲示していることに鑑みると、インターネット上の画像検索等の手段により本件画像の著作権が原告に帰属すること等は比較的容易に調査確認し得たとみられる。
 したがって、被告ストアへの本件画像の掲載に際して行われた被告による本件画像の複製行為について、被告には少なくとも過失があるといえる。
3 争点3(原告の損害額)について
(1)前提事実のとおり、被告は、遅くとも令和3年3月4日頃までに、被告ストアにおいて、本件画像を複製の上、商品ごとに4つにページを分けて、取扱商品の紹介画像としてこれを順次掲載したが(前記第2の1(2))、遅くとも同年5月19日までにこれを削除した(同(3))。このことから、被告による本件画像の利用期間は比較的短期間にとどまるものといえる。
 これに加え、本件画像においては、商品その他の画像等を利用して本件商品の特徴をわかりやすくする工夫が凝らされていること、他方で、原告は、本件画像それ自体を商業的価値のあるものとして第三者に許諾する目的でいつも社に制作を依頼し、その著作権の譲渡を受けたもの5ではないことなどを総合的に考慮すると、本件画像に係る「その著作権…の行使につき受けるべき金銭の額」(著作権法114条3項)は、全体として5万円が相当というべきであり、同額が原告に生じた損害と認められる。
(2)これに対し、原告は、まず、被告が被告ストアにおいて販売していた4種の本件商品ごとに4つのページに分けて本件画像を使用していたのであるから、本件画像の1ページ当たりの損害額5万円に4を乗じて原告の損害を計算すべき旨を主張する。
 被告ストアにおいては、商品の仕様の違いによって販売価格等が異なることから、4種の商品ごとにページを分け、それぞれの仕様の商品等の外観の画像と組み合わせつつ、各ページに本件画像が掲載されていることが認められる(甲2、17、20)。
 しかし、上記4種の商品の画像それ自体は、本件において原告が著作権侵害を主張する対象とはされていない。その点を措くとしても、これらの商品の画像は、いずれも、その仕様にかかわらず本件商品に共通する特徴やその魅力等を消費者にわかりやすく伝えるものとして制作されている本件画像と組み合わせ、商品の各仕様の形状、内容等を表すものとして制作されたものであることがうかがわれることからすれば、被告ストアにおける本件画像の利用態様の把握に当たっては、特段の事情がない限り、本件画像と各商品の画像とは全体として一体を成すものとして捉えるのが相当である。
 そうであれば、4種の商品それぞれにおいてページを分けて本件画像が利用されているからといって、そのページごとに原告の本件画像に係る損害がそれぞれ別個に生じるものとはいえない。
 また、原告指摘に係る毎日新聞社のPhotoBank(甲5)、朝日新聞フォトアーカイブ(甲6)及び株式会社アフロ(甲7)の各料金表は、レンタルや販売をその目的に含むものとして作成された画像素材を対象とするものとみられる。他方、上記のとおり、本件画像はそのような目的で作成されたものではない。こうした事情もあって、前者と後者では自ずとその市場価値5も相違するとうかがわれる。これらに加え、上記各料金表記載の価格が前提とする利用条件等が必ずしも明らかではないことなども考慮すると、上記各料金表記載の価格は、本件画像の複製等による原告の損害額算定にあたり、必ずしも参考とすべきものとはいえない。
 他方、原告は、原告の売上減少額を原告の損害としてみるべきである旨をも主張する。しかし、そもそも被告による本件画像の利用と相当因果関係の認められる原告の売上減少及びその額の立証はない。その点を措くとしても、被告による本件商品の販売実績を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、この点に関する原告の主張はいずれも採用できない。
4 小括
 以上より、原告は、被告による著作権(複製権及び送信可能化権)侵害の不法行為に基づき、被告に対し、5万円の損害賠償請求権及びこれに対する不法行為後の日である令和3年4月19日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金請求権を有する。
第4 結論
 よって、原告の請求は上記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 小口五大
 裁判官 鈴木美智子


(別紙画像目録省略)
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