判例全文 line
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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件C(2)
【年月日】令和4年10月19日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10019号 発信者情報開示請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和2年(ワ)第24492号)
 (口頭弁論終結日 令和4年8月24日)

判決
控訴人(一審被告) Twitter.Inc.
同訴訟代理人弁護士 中島徹
同 平津慎副
同 中所昌司
被控訴人(一審原告) Y
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
同 吉永雅洋
同 遠藤大介
同 蓮池純
同 神田竜輔


主文
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分につき、被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほかは、原判決に従い、原判決に「原告」とあるのを「被控訴人」と、「被告」とあるのを「控訴人」と適宜読み替える。また、原判決の引用部分の「別紙」を全て「原判決別紙」と改める。
第1 控訴の趣旨
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、氏名不詳者(本件投稿者1及び2)により、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報サービス)上に、別紙投稿記事目録1及び2記載の記事(原判決別紙投稿画像目録記載の画像を含む。)が投稿されたことにより、原判決別紙被控訴人イラスト目録記載の各イラストに係る被控訴人の著作権及び著作者人格権並びに被控訴人の名誉権及び営業権が侵害されたことが明らかであると主張して、被控訴人が、ツイッターを運営する控訴人に対し、令和3年法律第27号による改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の情報の開示を請求する事案である。
 原判決は、@別紙発信者情報目録記載1及び2の情報のうち、令和2年4月3日午前零時(日本標準時)以降のもので、別紙投稿記事目録記載の各投稿がされた時以前のログインのうち最も新しいもののIPアドレス並びに同IPアドレスが割り当てられた電気通信設備から控訴人の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻、並びにA別紙投稿記事目録1のユーザー名欄記載のアカウントの管理者の電話番号及び別紙投稿記事目録2のユーザー名欄記載のアカウントの管理者の電子メールアドレスの開示を求める限度で被控訴人の請求を認め、その余の請求をいずれも棄却した。
 控訴人が、原判決における敗訴部分について不服があるとして、控訴を提起した。
2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり改め、後記3のとおり当審における当事者の補充主張及び追加主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要等」の2及び3並びに「第3争点に関する当事者の主張」に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決3頁22行目の「ツイッターを」から同頁23行目末尾までを「インターネットを通じて、自身が制作したイラストを販売している(甲9〜13、27、29、30、42)。」と改める。
(2)原判決5頁1行目の末尾に改行して、次のとおり加える。
 「エ 本件各投稿は、本件各投稿がされた時から令和3年12月23日までの間、削除されておらず、また、誰でも閲覧することができた。」
(3)原判決5頁4行目冒頭から末尾までを「控訴人は、別紙発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)を保有している。」と改める。
(4)原判決5頁12行目の末尾に改行して、「オ本件ツイート2−1及び2−2について、「侵害情報の流通によって」の要件を満たすか(争点1−5)」を加える。
(5)原判決5頁16行目の「省令」を「令和4年総務省令第39号による廃止前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(以下「省令」というとともに、同廃止前かつ令和2年総務省令第82号による改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令であることを明確にするために「改正後の省令」ということがある。)」と改める。
(6)原判決5頁23行目の「改正前省令」を「令和2年総務省令第82号による改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(以下「改正前省令」という。)」と改める。
(7)原判決12頁10行目の「本件投稿画像1−1−4」を「本件投稿画像1−1−4に含まれる本件被控訴人イラスト1」と改める。
(8)原判決19頁6行目の「32条」の次に「1項」を挿入し、同頁15行目の「インターネット上の鏡餅の写真」を「インターネット上にアップロードされていた鏡餅の写真画像」と改める。
(9)原判決22頁3行目の「原告の」を削る。
(10)原判決25頁5行目冒頭から同頁9行目末尾までを次のとおり改める。
 「前記アのとおり、本件投稿者2が、被控訴人の著作権を侵害し、適法な言論とはいえない本件ツイート2−1を投稿したことにより、同ツイートの読者をして被控訴人がトレース行為をしているとの事実を強く植え付けることは明らかであり、被控訴人のイラストを購入しようとする者が減少して、被控訴人の売上げ及び収益が減少した。」
(11)原判決27頁16行目冒頭から同頁20行目末尾までを次のとおり改める。「前記ア及びイのとおり、本件投稿者2が、適法な言論とはいえない本件ツイート2−2を投稿したことにより、同ツイートの読者をして被控訴人がトレース行為をして作成したイラストを販売しているとの印象を抱かせることは明らかであり、被控訴人のイラストを購入する者が減少して、被控訴人の売上げ及び収益が減少した。」
(12)原判決28頁2行目の「本件投稿画像2−2−2」を「本件被控訴人イラスト5と同一の画像である本件投稿画像2−2−2」と改める。
(13)原判決29頁9行目冒頭の「を」を削る。
(14)原判決30頁9行目の「アカウントの」を「本件各アカウントの」と、同頁17行目の「主張する。」を「主張し、また、省令5号が開示の対象とする「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」についても、侵害情報の送信時のIPアドレスのみであると主張する。」と、同頁24行目の「省令8号」を「省令5号及び8号」とそれぞれ改め、31頁1行目の「仮に、」から同頁8行目末尾までを削る。
(15)原判決31頁10行目の「侵害に係る」の次に「発信者情報」を挿入し、同頁25行目の「「当該権利の侵害に係る」発信者情報」を「「当該権利の侵害に係る発信者情報」」と改める。
(16)原判決35頁1行目、2行目及び16行目の「本件各ツイート」を「本件ツイート1−1及び1−2」に、同頁4行目、8行目及び26行目並びに36頁1行目の「本件各投稿」を「本件ツイート1−1及び1−2の投稿」にそれぞれ改める。
(17)原判決38頁4行目の「前記(1)(被告の主張)ア」を「前記(1)(控訴人の主張)ア及びイ」と改める。
3 当審における当事者の補充主張及び追加主張
(1)控訴人の主張
ア 争点1−1(本件ツイート1−1の投稿による権利侵害の明白性)について
(ア)社会的評価が低下しないこと
 本件ツイート1−1のテキスト部分は、「これどうだろうww」、「ゆるーくトレス?」、「普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」という三つの文からなる。これらは、いずれも断定調ではなく疑問調になっており、本件投稿者1の上記のような疑問を表明するものにすぎず、被控訴人がトレース行為をした旨を述べるものではない。
 仮に、本件ツイート1−1について、被控訴人がトレース行為をした旨を述べる趣旨であると解するとしても、それは、被控訴人によるトレース行為を事実として摘示するものではなく、トレース行為の可能性に関して本件投稿者1の主観的意見を述べるものにすぎない。そして、トレース行為に該当するか(ひいては、被控訴人の行為が著作権侵害に該当するような不適切な行為か否か)は、時には裁判所でも審級によって判断が分かれるような、容易に判断できない事項である。
 よって、本件ツイート1−1は、被控訴人の社会的評価を低下させるものではない。
 原判決は、本件アカウント1の一連のツイートを通覧すると、本件投稿者1は、被控訴人がトレースをして本件被控訴人イラスト1を作成した事実に対して相当の確信を持っており、そのような認識を前提に本件ツイート1−1を投稿したことがうかがわれるとし、このことを理由として、本件ツイート1−1は、被控訴人がトレースにより本件被控訴人イラスト1を作成したという事実を明示的に摘示したものと理解するのが相当であると判断したが、原判決が指摘する本件投稿者1の内心は名誉権侵害とは何ら関係がない。また、本件ツイート1−1により名誉が棄損されたかどうかは投稿の時期を基準に判断すべきであるから、本件ツイート1−1よりも後にされた本件アカウント1のツイートを考慮に入れて、本件ツイート1−1による被控訴人の社会的評価の低下を認定することは、許されない。なお、各ツイートの冒頭には、アカウントのプロフィール画像、名前、ユーザー名及び投稿年月日が表示されており、各ツイートは明確に区別できるから、スレッド形式で投稿されたとしても一連一体のものとして投稿・表示されているとはいえない。
(イ)意見ないし論評として違法性阻却事由があること
 仮に、本件ツイート1−1により被控訴人の社会的評価が低下するとしても、次のとおり、本件ツイート1−1は、被控訴人のイラストが第三者の著作権を侵害するものである可能性についての法的な見解を表明したものであって、意見ないし論評の表明に当たり、かつ、違法性が阻却されるための要件、すなわち、@公共の利害に関する事実に係ること、A目的が専ら公益を図ることにあること、B意見論評の前提としている事実(本件被控訴人イラスト2及び乙2の3の「磁器の鏡餅」の写真部分(以下「乙2の3写真」という。)が存在するという事実)が重要な部分について真実であること、及び、C意見論評としての域を逸脱したものではないこと、を満たしている。
a 本件ツイート1−1は、「これどうだろうww」等のテキストと共に本件被控訴人イラスト1を含む被控訴人のイラスト(甲1の5、乙1の5)及びA氏のイラスト(甲1の2、乙1の2。以下「乙1の2イラスト」という。)を添付している。
 したがって、本件ツイート1−1は、上記の本件被控訴人イラスト1及び乙1の2イラストが存在するという客観的な事実関係を摘示しているといえる。その上で、本件ツイート1−1は、被控訴人が本件被控訴人イラスト1を作成した行為がトレースに該当する可能性を指摘している。トレースに該当するか否かの判断は、著作物の類似の程度についての評価や行為の善悪についての評価に関わるものであり、要するに、盗作であるか否かの判断である。よって、本件ツイート1−1は、被控訴人の行為が盗作、すなわち著作権侵害に当たる旨の法的な見解を表明したものであり、意見ないし論評に当たる。
b 被控訴人は、自己のイラストを5000円程度で販売しているプロのイラストレーターであるから(甲9、12、13)、そのような被控訴人が第三者の著作権を侵害している可能性について意見を述べる前提となる上記事実は、公共の利害に関する事実に当たり、本件ツイート1−1の目的は専ら公益を図ることにある。そして、本件の意見論評が前提としている事実は、乙1の2イラスト及び本件被控訴人イラスト1の2点のイラストが存在するという事実であり、真実である。さらに、本件ツイート1−1は、被控訴人のイラストが第三者の著作権を侵害するものである可能性について検証するために投稿されており、当該イラストを検証する目的を超えて、当該イラストと無関係に被控訴人の人格自体を否定するような表現を使用していないことから、人身攻撃に及ぶものではないのであって、意見論評としての域を逸脱したものではない。
 したがって、本件ツイート1−1については、意見論評としての違法性阻却事由が認められる。
(ウ)事実の摘示に当たるとしても違法性阻却事由があること
 仮に、本件ツイート1−1が事実の適示に当たるとしても、前記(イ)のとおり、本件ツイート1−1の摘示する事実は公共の利害に関する事実であり、かつ、その投稿の目的は専ら公益を図ることにある上、次のとおり、被控訴人が乙1の2イラストをトレースして本件被控訴人イラスト1を作成した事実は真実であるから、違法性が阻却される。
a 現代のインターネット上では、「トレス」ないし「トレース」は、「既存の絵をなぞって写し取る手法」に限らず、広く、既存の絵を目で見て写し取る手法(「目トレス」と称されることがある。)を含む意味として用いられており、本件ツイート1−1の「ゆるーくトレス?」は、乙1の2イラストを目で見て写し取ることを含む広い意味でのトレース行為を、部分的に(「ゆるーく」)行った事実を摘示するものであると解するべきである。
b 本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストには、@横顔の輪郭の線(額の上部から首の下部に至るまでのライン)、A耳の形、大きさ及び位置、B眉の長さ、大きさ及び形状が、いずれもほとんど一致しており、さらに、髪の毛の細い束を、濃い色と明るい色とで表現している点においても、共通している。
c 乙1の2イラストは、平成29年9月1日、A氏が、自身のウェブサイト及びツイッターで公開したものであり、本件被控訴人イラスト1は、その後に作成された。乙1の2イラストは、「最も人気のある」「横顔美人イラスト」として大手SNS「Pinterest」で紹介されていたものであり、被控訴人が乙1の2イラストを知っていたか、少なくともアクセスの可能性があった。
d 被控訴人は、メディバンペイントというアプリケーションを使用してイラストを作成しているところ(甲43・3頁1〜2行目)、当該アプリケーションを提供する企業の公式サイトにおいて、トレース行為によりイラストを作成する方法が紹介されており(乙66の2)、被控訴人は、トレース行為を容易に実現できた。
e 本件アカウント1によるツイートにおいて、被控訴人によるトレース行為を指摘されたイラストの中には、外観上、上からなぞって写し取るという狭義のトレース行為により作成されたことが明らかなものが複数存在する。ところが、被控訴人が提出した陳述書(甲9)には、「本件アカウント1が指摘しているトレース行為をしたことはありません。」などと記載されており、およそ信用できない。また、乙16の2の画像は、被控訴人が自らのアカウントにおいて、自らのロゴマークを付して投稿したイラストであるにもかかわらず(乙86の1・2)、被控訴人は、原審において、被控訴人が描いたものであるかのように装われたものであるなどと主張しており、明らかに虚偽である。
f 被控訴人が、本件被控訴人イラスト1の作成過程において作成したものと主張する線画(甲18)は、作成日(被控訴人は令和2年1月頃と主張する。)が立証されておらず、本件訴訟のために作成されたものであることがうかがわれる。そうでないとしても、乙1の2イラストをトレースして作成されたものである可能性がある。
g 被控訴人が、ハンドメイド作家から依頼を受けて、女性の横顔のイラストを作成、提供する過程において、平成30年12月8日に最初に提示したイラスト(甲29・1頁)と、乙1の2イラストを比較すると、顔の輪郭がほとんど一致しており(乙54)、乙1の2イラストをトレースすることにより作成されたものであることが分かる。被控訴人は、被控訴人作成の甲29・1頁のイラストをベースに本件被控訴人イラスト1を作成したと主張しているが、ベースとなるイラストがトレースして作成されたものであるから、本件被控訴人イラスト1も乙1の2イラストをトレースして作成されたものであることになる。
h 被控訴人の再現動画(甲44の1・2。以下「再現動画」という。)は、令和3年7月19日に本件訴訟に提出するために撮影されたものであり、被控訴人が、本件被控訴人イラスト1作成当時(令和2年1月頃)に乙1の2イラストをトレースすることなく本件被控訴人イラスト1を作成したことの根拠となり得るものではない。また、再現動画は、アプリケーション画面のみを撮影しており、被控訴人が、本件被控訴人イラスト1や乙1の2イラストを参照しながら作成するなどの不正がない環境下で作成していたかは明らかではないし、再現動画中3度にわたり首の角度が修正されていることは、本件被控訴人イラスト1や乙1の2イラストを参照しながら修正していることをうかがわせる。そして、下図のとおり、再現動画において作成されたイラストと乙1の2イラストを重ねると首や耳の位置が明らかに異なっているのに対し、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストは、首や耳の位置を含めて、顔の輪郭がほぼ正確に一致している。
 したがって、仮に、再現動画において作成されたイラストが、被控訴人によって作成されたものであるとしても、再現動画は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストとの一致点が偶然によるものとは到底いえず、被控訴人が、乙1の2イラストをトレースしなければ、本件被控訴人イラスト1を再現できないことを証明するものである。
再現動画において作成されたイラストと乙1の2イラストを重ねた画像(乙67) 本件被控訴人イラスト1を赤色にして、乙1の2イラストを青色にして、比較のために重ねた画像(乙15)
(イラスト省略) (イラスト省略)
(エ)小括
 プロバイダ責任制限法4条1項1号の「明らか」との文言は、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味するとされているため、被控訴人は、乙1の2イラストをトレースして本件被控訴人イラスト1を作成した事実が真実に反することが明らかであることを立証する責任を負うが、被控訴人は、上記の立証を果たしたとはいえない。
 以上によると、本件ツイート1−1の投稿によって被控訴人の社会的評価は低下せず、仮に本件ツイート1−1の投稿によって被控訴人の社会的評価が低下するとしても、違法性が阻却されるため、名誉権侵害は成立しない。また、本件ツイート1−1の投稿によって被控訴人の著作権、同一性保持権、営業権が侵害されたとはいえない。
 したがって、本件ツイート1−1の投稿によって被控訴人の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
イ 争点1−2(本件ツイート1−2の投稿による権利侵害の明白性)について
(ア)前記ア(ア)に述べたとおり、本件ツイート1−2により名誉が棄損されたかどうかを判断するに当たり、本件ツイート1−2よりも後にされた本件アカウント1のツイートを考慮に入れて、本件ツイート1−2による被控訴人の社会的評価の低下を認定することは、許されない。また、本件投稿者1が、被控訴人によるトレース行為を確信又は認識し、本件ツイート1−2においてその旨表現していたとしても、容易に判断できない事項についての主観的意見の表明にすぎず、被控訴人の社会的評価を低下されるものではない。
(イ)本件ツイート1−2における「トレス常習犯ですわ。」は、被控訴人が本件被控訴人イラスト2を作成した行為がトレースに該当する可能性を指摘するもので、被控訴人の行為が盗作、すなわち著作権侵害に当たる旨の法的な見解を表明したものである。したがって、本件ツイート1−2は、本件被控訴人イラスト2が第三者の著作権を侵害するものである可能性についての意見ないし論評を表明したものである。
 そして、本件ツイート1−2が、被控訴人の社会的評価を低下させるものであったとしても、本件ツイート1−1と同様に、意見論評として違法性が阻却されるための要件(前記ア(イ)参照)を満たすから、違法性が阻却される。
(ウ)仮に、本件ツイート1−2が事実を摘示するものであるとしても、公共の利害に関する事実に係ることであって、目的が専ら公益を図ることにある上、次のとおり、摘示された事実の重要な部分における真実性があるから、違法性が阻却される。
a 乙2の3写真(磁器の鏡餅の写真)と本件被控訴人イラスト2を比較すると、餅、ミカン本体及びミカンの葉の輪郭が、ほぼ完全に一致し、鏡餅が茶色の板の上に載っている点が共通し、当該板の手前側の端を示す水平線と、奥側の端を示す水平線が、いずれも一致し、右上から光が当たっているように、餅及びミカン本体の右上部分が明るく、餅及びミカン本体の左下部分が陰になっている点で共通するなどしており、偶然一致するなどということは経験則上考えられない。そして、被控訴人が使用するアプリケーションではトレース行為を容易に実現できること、被控訴人の陳述書の内容が、作成日が矛盾するなどしていて信用できないこと、前記ア(ウ)fと同様に、被控訴人が提出したラフ画(甲19)がトレースを行わなかったことの根拠にならないこと、被控訴人が作画する様子を撮影した動画(甲45)において作成されたイラストが、乙2の3写真とはミカン本体の形、葉の枚数、葉の向きが明らかに異なっていることからして、被控訴人が本件被控訴人イラスト2を、乙2の3写真をトレースすることによって作成したことは明らかである。
b さらに、前記ア(ウ)eのとおり、被控訴人が常習的にトレースによってイラストを作成しているという事実も真実である。この点、被控訴人も、乙16の11の写真を模写して、乙16の10のイラストを作成したことは認めている。
c 原判決は、被控訴人が、本件被控訴人イラスト1をトレースの手法によって作成しなかったと認められるとした上で、当該認定のみを根拠として本件ツイート1−2が摘示する事実は、その重要な部分について真実ではないと認められるとしたが、上記のとおり、被控訴人が常習的にトレースによってイラストを作成しているという事実は真実であるのに、この点について判断していないから、原判決には理由不備又は理由齟齬がある。
(エ)以上のとおり、本件ツイート1−2の投稿によって被控訴人の名誉権が侵害されたとはいえない。また、著作権、著作者人格権、営業権についても侵害されたとはいえない。
 したがって、本件ツイート1−2の投稿によって被控訴人の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
ウ 争点1−3(本件ツイート2−1の投稿による権利侵害の明白性)について
(ア)本件ツイート2−1は本件被控訴人イラスト3及び4を引用しているが、引用の目的は、原判決が認定したとおり、被控訴人がトレースをして女性の横顔のイラストを作成したことを疑わせる事情ないし根拠として、被控訴人が作成した本件被控訴人イラスト3及び4の画像そのものを提示して、「画力の差」、すなわち被控訴人がトレースをして作成したと本件投稿者2が主張する横顔のイラストの出来栄えと本件被控訴人イラスト3及び4の出来栄えに差があることを明らかにすることにあり、「批評」に該当する。
 被控訴人は自らのイラストを販売しているイラストレーターであり、被控訴人が盗作・トレースを行ったということであれば、かかる盗作・トレースは広く批判されるべき事柄であるから、本件の引用の目的は、公共性・公益性がある。
(イ)そして、上記目的のために、本件被控訴人イラスト1と同じく女性の横顔を描いた本件被控訴人イラスト3を引用する必要性があるが、同イラストは完成途中の線画にすぎないから、画力の差を検討するために、さらに、完成したカラーイラストである本件被控訴人イラスト4を引用して検討することは有益である。本件投稿画像2−1−1及び2−1−2はオリジナルの画像よりも解像度が低いが、オリジナルに忠実に引用しており、盗作・トレース疑惑の指摘・検証のために必要なことである。
 原判決は、「引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」に該当しないことの根拠として、本件投稿画像2−1−2を添付する必然性がないことを挙げるが、自己の著作物を表現する上で他者の著作物を引用する合理性は必要であるものの、必然性を過度に厳格に適用するべきではなく、引用が必要最小限度のものであることまで要求されるものではない。
 本件ツイート2−1は、被控訴人の画力を問題としているのであるから、本件投稿画像2−1−1の1点だけを引用するのではなく、本件投稿画像2−1−1及び2−1−2の2点のイラストを引用して、客観的な根拠を正確に示して多面的に論ずることは、極めて適切かつ合理的であり、引用の目的上正当な範囲内である。
(ウ)前記(ア)及び(イ)で指摘した事情に加え、本件投稿画像2−1−1及び2−1−2の引用により被控訴人のオリジナルのイラストに対する需要が満たされて、被控訴人の売上げが減少したという事情もないこと、「画力の差」を論じるに当たり、イラストを引用することで、閲覧者が客観的な証拠に基づき、慎重かつ多面的に検討でき、議論のための公正な手段であるといえることに照らすと、本件投稿画像2−1−1及び2−1−2の引用は、「公正な慣行に合致する」との要件を満たす。
(エ)以上のとおり、本件ツイート2−1の投稿によって被控訴人の著作権が侵害されたとはいえない。また、本件ツイート2−1の投稿によって被控訴人の営業権が侵害されたともいえない。
 したがって、本件ツイート2−1の投稿によって被控訴人の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
エ 争点1−4(本件ツイート2−2の投稿による権利侵害の明白性)について
(ア)本件ツイート2−2は、本件投稿画像2−2−2を含む画像付きのツイートであるが、インターネットユーザーが本件アカウント2のタイムラインのウェブページ又は本件ツイート2−2のウェブページにアクセスすると、サーバに保存された本件投稿画像2−2−2の画像データ(トリミングされていないもの)が当該ユーザーのクライアントコンピュータに送信される。当該クライアントコンピュータ上で本件投稿画像2−2−2がトリミングされて表示されるのは、当該クライアントコンピュータ上で当該ウェブページのレンダリングデータが生成され、当該レンダリングデータに従った表示がされるためである。
(イ)ユーザーの端末は、リンク元のサーバから受信した本件アカウント2のタイムラインのウェブページ又は本件ツイート2−2のウェブページを構成する多種多様なコンテンツに関するデータ(本件投稿画像2−2−2の画像データを含まない。)と、リンク先のサーバから受信した本件投稿画像2−2−2の画像データを、端末上で自然に表示されるようにリンク元のサーバから受信したHTMLデータ等の指示に従い統合調整し、その結果として、本件アカウント2のタイムラインのウェブページ又は本件ツイート2−2のウェブページを表示する。図にまとめると、以下のとおりである。
 
 上記の統合調整の結果としてユーザーの端末上で新たに発生するデータ、すなわち、本件アカウント2のタイムラインのウェブページ又は本件ツイート2−2のウェブページとして表示される内容全体に対応するデータが、レンダリングデータである。
 ユーザーが本件アカウント2のタイムラインのウェブページ又は本件ツイート2−2のウェブページにアクセスすると、本件投稿画像2−2−2の下部の極一部が、トリミングされて表示されるが、これは、当該クライアントコンピュータ上で当該ウェブページのレンダリングデータが生成され、当該レンダリングデータに従った表示がされるためである。
 本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿した行為は、例えて言えば、絵画を展示する際に額縁に入れることによって絵画の端が見えなくなるような事案に等しい。
(ウ)なお、画像付きツイートについては、画像部分をクリックすれば、同じURL上で、トリミングされていない画像を見ることができる。この意味において、画像付きツイートの画像部分は、いわゆるフレームリンク又はサムネイルに類似の機能を果たしている。
(エ)原判決は、本件ツイート2−2を表示するタイムライン上に、同ツイートに添付された本件被控訴人イラスト5の下部がトリミングされて表示されることから、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿することにより、被控訴人の本件被控訴人イラスト5に係る同一性保持権が侵害された旨判断したが、上記のとおり、インターネットユーザーが本件ツイート2−2を閲覧する際に、特定の内容のデータがツイッターのサーバから当該ユーザーの端末に配信されるものでもないから、ある特定のデータが侵害情報として流通するものでもない上、本件ツイート2−2を投稿する行為は、本件投稿者2が、本件ツイート2−2の投稿内容(テキストデータ、本件投稿画像2−2−1及び2−2−2の画像データ等)をツイッターのサーバに送信して記録保存する行為にすぎず、本件投稿者2はトリミング行為をしていない。そして、本件ツイート2−2の閲覧者のクライアントコンピュータにおいて本件投稿画像2−2−2がトリミングされて表示されるのは、当該クライアントコンピュータ上で当該ウェブページのレンダリングデータが生成され、当該レンダリングデータに従った表示がされるためである。そして、クライアントコンピュータ上でのレンダリングデータの生成は、インターネットユーザーがウェブサイトを閲覧する際に必然的に生じるものであり、しかも、レンダリングデータは、ごく一時的・瞬間的に蓄積されるだけであって端末上で継続的に保存されることはないから、レンダリングデータが生成されることのみをもって、本件被控訴人イラスト5に「変更、切除その他の改変」がされたということはできない。しかも、上記のようなレンダリングデータの生成(更にいえば、レンダリングデータの元となるHTMLデータの生成)とそれに伴うトリミング表示は、本件投稿者2の意図とは全く関係なく、ツイッターのシステムに従って自動的・機械的に行われるものであり、このことは、ツイッターのユーザーであれば誰もが知っている公知の事実である。また、本件アカウント2のタイムラインのウェブページ又は本件ツイート2−2のウェブページを閲覧する一般のインターネットユーザーが、本件ツイート2−2中のトリミング表示された本件投稿画像2−2−2の部分をクリックすれば、トリミングされていない元の本件投稿画像2−2−2を見ることができるのであるから、一般のインターネットユーザーは、トリミング後の本件投稿画像2−2−2が本来の本件投稿画像2−2−2の構図であると誤解することはない。加えて、そもそも、画像の一部分を一部分として使用している場合には、同一性保持権侵害となるものではない。
 したがって、実質的には、本件投稿画像2−2−2に関する著作者(被控訴人)の精神的・人格的利益は害されていないということができるから、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿した行為は、本件投稿画像2−2−2を「変更、切除その他の改変」するものと考えるべきではない。
(オ)仮に、本件ツイート2−2における本件投稿画像2−2−2のトリミング表示が、「改変」に当たるとしても、前記(エ)のツイッターの仕組みに照らすと、その行為の主体は、本件投稿者2ではなく、本件ツイート2−2を閲覧するインターネットユーザーである。
(カ)また、仮に、本件投稿者2による本件ツイート2−2の投稿行為について、本件投稿者2による本件被控訴人イラスト5の「改変」が認められるとしても、当該改変は、ツイッターのシステム上、本件投稿者2の意図とは全く関係なく、自動的かつ機械的に行われるものであり、プレビュー機能がないため、本件投稿者2には投稿時にトリミング表示されることやトリミングされる部分を認識することができないことに加え、ツイッターの仕様の変更やユーザーがツイッターを表示するために利用するクライアントアプリケーション(以下「クライアントアプリ」という。)の種類等に応じて表示部位が異なること、投稿者がトリミング表示を回避することはできないこと、ユーザーが本件ツイート2−2の本件投稿画像2−2−2の部分をクリックすれば、トリミングされていない元の画像データを閲覧することができること、トリミング表示された部分(本件被控訴人イラスト5の下部の一部を除く大部分)については本件被控訴人イラスト5に何ら改変が加えられていないこと、本件ツイート2−2の投稿行為によって本件投稿者2の端末からツイッターのサーバに送信されるのは本件投稿画像2−2−2(本件被控訴人イラスト5)のトリミング表示とは何の関係もないデータのみであること等の諸事情に鑑みると、当該改変は、実質的な観点からみて、本件被控訴人イラスト5に関する著作者(被控訴人)の精神的・人格的利益を害するものではないと考えられる。このことに加えて、著作物である本件被控訴人イラスト5が、被控訴人の販売するイラストのサンプルであることや、本件投稿者2による利用の目的に公共性、公益性があることを考慮しても、「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当するというべきである。
 さらにいえば、本件のようなトリミング表示は、リンク元のウェブページに設けられたフレームないし枠にリンク先のコンテンツを埋め込むという「フレームリンク」ないし「埋め込み型リンク」を採用した場合に、リンク先のコンテンツを無理なく自然に表示するために必然的かつ不可避的に生じるものであり、本件において同一性保持権侵害を認めるとなると、「フレームリンク」ないし「埋め込み型リンク」は全て同一性保持権を侵害するという極めて非常識な結論を招くことにもなりかねない。
(キ)リツイート事件最高裁判決(最高裁平成30年(受)第1412号令和2年7月21日第三小法廷判決・民集74巻4号1407頁)は、当事者からの主張がなく、論旨ともなっていなかったことから、氏名表示権侵害に関し、著作権法19条3項の該当性について判断していないが、リツイートの利便性に鑑み、同項による制限が正当化されるべきである。
(ク)以上のとおり、本件ツイート2−2の投稿によって、被控訴人の同一性保持権が侵害されたとはいえない。また、本件ツイート2−2の投稿によって、被控訴人の著作権、営業権が侵害されたとはいえない。
 したがって、本件ツイート2−2の投稿によって、被控訴人の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
オ 争点1−5(本件ツイート2−1及び2−2について「侵害情報の流通によって」の要件を満たすか)について
(ア)発信者情報開示請求の制度は、個々の特定電気通信ごとに、当該「特定電気通信による情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項柱書)請求者の権利が侵害された場合に、請求者が自らの権利を侵害すると主張する情報、つまり「侵害情報」(同法3条2項2号)との関係で、プロバイダに対する発信者情報(「発信者」の特定に資する情報)の開示請求を認めるものであり、発信者情報開示請求の事案においては、(a)開示を請求される発信者情報が「(侵害情報の)発信者」に関するものであること、及び、(b)「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたこと、の各要件を同時に充足することが必要となる。
 ところが、仮に、本件ツイート2−1及び2−2の内容が被控訴人の権利を侵害するものであったとしても、次のとおり、いずれも上記各要件を充足しない。
(イ)まず、本件ツイート2−1についてみると、上記の「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたとの要件は、侵害情報それ自体の流通によって直接権利が侵害されることまで必要とするものであるところ、仮に、本件投稿者2が、本件投稿画像2−1−2を含む本件ツイート2−1をツイッターに投稿して、当該画像のデータをツイッターのサーバに記録した行為が、著作物を有形的に再製する行為に当たり、複製権侵害が認められるとしても、投稿後に当該画像のデータが流通することは複製権侵害とは関係がなく、当該配信によって複製権が侵害されるとはいえない。送信可能化についても同様である。
 したがって、本件ツイート2−1に関して、複製権及び送信可能化権のいずれについても、「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたとの要件は充足されない。
(ウ)次に、本件ツイート2−2についてみると、本件投稿者2がツイッターのサーバに送信した、本件ツイート2−2の投稿内容(テキストデータ、本件投稿画像2−2−1及び2−2−2の画像データ等)を「侵害情報」と考えるのであれば、その「発信者」は本件投稿者2であるといえるものの、その投稿内容はテキストデータ、本件投稿画像2−2−1及び2−2−2の画像データ等であって、本件投稿者2が投稿した「侵害情報」の流通それ自体によって被控訴人の同一性保持権が侵害されるものではなく、クライアントコンピュータにおけるレンダリングデータの生成等があって初めて侵害が発生し得るのであるから、「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたとの要件を充足しない。
 また、本件ツイート2−2の閲覧者に送信されるのはHTML等のデータ(トリミング表示を直接惹起するCSSデータを含む。)であるが、その内容はツイッターのシステムによって自動的・機械的に生成されるものであって、本件投稿者2はその内容を認識しておらず、本件投稿者2が決定するものでもないことに加え、装飾用データは各クライアントアプリが準備するものであることからすると、上記CSSデータを侵害情報と捉えた場合には、本件投稿者2は「発信者」に該当しない。
 したがって、本件ツイート2−2に関して、「発信者」の要件及び「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたとの要件の2個の要件を同時に充足するとはいえない。
カ 争点2−1(別紙発信者情報目録記載1及び2のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプが「当該権利の侵害に係る」発信者情報たる省令5号の「アイ・ピー・アドレス」及び省令8号の「侵害情報が送信された年月日」に該当するか)について
(ア)特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律が、発信者情報開示請求権を創設した反面、「情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で」(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁)のみ発信者情報開示請求を認めている趣旨に加え、同法4条1項の文言、特に、同項が単に「当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報」と規定するのではなく、「当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」と定めていることからすると、発信者情報開示請求の制度は、侵害情報の発信者に関する情報全てを幅広く対象とするものではなく、あくまでも、「当該権利の侵害」行為、すなわち請求者が侵害情報であると主張する特定の情報の発信行為に関する情報のみを対象とするものと解される。
 そして、アカウントへのログイン行為は、侵害情報の発信行為とは全く別個の行為であり、ログイン行為を行う者の端末から控訴人のサーバに送信される情報(ログイン情報)も、侵害情報とは全く別の情報であるから、ログイン時のIPアドレス等は、そもそも、「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法4条1項)に該当しない。
 原判決は、本件各投稿以前に行われた本件各アカウントへのログイン行為のうち、令和2年4月3日午前零時(日本標準時)以降のもので最も新しいものに係るIPアドレスが、侵害情報の発信である本件各投稿と密接に関連し、侵害情報の発信者と同一人物のものである確度が高い情報と認められるとして、上記IPアドレス等の開示請求を認めたが、ツイッターのシステム上、1個のアカウントに対して、複数のログイン状態が競合することが可能であり、また、現実にも頻繁に発生している事態であるから、投稿行為がどのログイン行為(あるいは当該ログイン行為に基づくログイン状態)に基づいて行われたのかを特定することはできず、また、直前のログインに基づいて投稿しているとの経験則もないから、上記原判決の判断は不当である。
(イ)ログイン時の情報を開示対象とすることは、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の立法時には必ずしも想定されていなかったのであり、「侵害情報が送信された年月日及び時刻」との省令8号の文言に照らすと、同号が開示の対象としている情報は侵害情報送信時のタイムスタンプのみであると解されるから、ログイン時のタイムスタンプに対する発信者情報開示請求は認められない。そのため、令和3年法律第27号による改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(令和4年10月1日施行)において、「特定発信者情報」という新たな概念が導入され、ログイン時のIPアドレス等が開示請求の対象に追加されることとなったのである。
(ウ)省令5号は「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定し、「発信者のアイ・ピー・アドレス」とは規定していないが、これは経由プロバイダのIPアドレスを開示対象とするための規定であって、侵害情報の発信行為に関連する情報のみを対象としているものと解される。したがって、省令8号と同様に、省令5号の文言は、侵害情報発信時のIPアドレスのみを対象とするものであり、ログイン時のIPアドレスに対する発信者情報開示請求も認められない。
キ 争点2−2(別紙発信者情報目録記載3(1)の電話番号が省令3号の「電話番号」に該当するか)について
 発信者情報開示請求権は、侵害情報を記録、入力するという積極的な行為が行われた時点で発生するものであり、発信者情報開示請求が行われた時点で発生するものではない。そして、本件ツイート1−1は、令和2年4月3日に投稿され(甲1の1)、本件ツイート1−2は同月5日に投稿されたが(甲2の1)、この時点では、省令は、令和2年総務省令第82号による改正(以下の省令の「改正」はこの改正を指す。)がされておらず、電話番号は開示請求の対象とはされていなかったのであるから、実体法上の権利として電話番号に係る発信者情報開示請求権は発生していない。
 原判決は、省令改正前に投稿された特定電気通信(ツイート)による権利侵害に基づく発信者情報開示請求の事案に対して、改正後の省令は、附則において「公布の日から施行する」と規定され、遡及効を定める規定が一切存在しないのにもかかわらず、また、改正の内容が、プロバイダに新たな義務を課し、発信者に重大な権利利益の制約をもたらすものであるにもかかわらず、改正後の省令3号の遡及適用を認めるという我が国における法制執務の常識に真っ向から反する判断を下したもので、法令の解釈適用を誤ったものであるから、取消しを免れない。
ク 争点2−3(別紙発信者情報目録記載3(2)のSMS用電子メールアドレスが改正前省令3号の「電子メールアドレス」に該当するか)について
 改正後の省令4号(改正前省令3号)の規定は、平成14年の省令制定時から改正されていないところ、省令制定当時、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律には現行法の3条の2は存在せず、かつ、同条が引用する公職選挙法142条も存在しなかった。さらに公職選挙法142条が引用する特定電子メール法及び同法に関する総務省令においても「電子メール」及び「電子メールアドレス」の定義にSMS及びSMSの送受信に用いられる携帯電話番号は含まれていなかった。その他、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律及び特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令並びにその他の関連法令の具体的な規定文言に着目しても、省令3号(当時)の「電子メールアドレス」に携帯電話番号が該当すると解すべき根拠は全く存在しなかった。さらに、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令制定後の関連法令の改正に着目しても、携帯電話番号が「電子メールアドレス」に該当すると解釈すべき事情は存在しない。
 そうすると、携帯電話番号を省令4号の「電子メールアドレス」に該当するということはできない。
 このことは、令和4年10月1日施行の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(令和4年5月27日総務省令第39号)において、SMSの送受信先の識別符号として用いられる携帯電話番号につき、「SMS電話番号」という文言により開示対象と定められたことからも裏付けられる。
(2)控訴人の当審における主張に対する被控訴人の反論
ア 争点1−1及び1−2(本件ツイート1−1及び1−2の投稿による権利侵害の明白性)について
(ア)本件アカウント1において投稿されたツイートは、いずれもスレッド形式で関連付けられ、一連一体のものとして投稿され、一連一体のものとして表示されているから、関連ツイートの存在を前提として、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断することが相当である。そうすると、本件ツイート1−1は、被控訴人が、他者が作成した本件投稿画像1−1−1(乙1の2イラスト)をトレースする手法によって、本件被控訴人イラスト1を作成したという事項を、本件ツイート1−2は、被控訴人が常習的にトレースによってイラストを作成しているという事項を明示的に主張するものと理解される。そして、これらは、被控訴人に関する事項であり、証拠等をもってその存否を決することが可能なものであるから、事実を摘示するものである。
(イ)本件ツイート1−1及び1−2は被控訴人の名誉を棄損するものであるが、被控訴人は、本件被控訴人イラスト1をトレースの手法により作成していないから、本件ツイート1−1及び1−2が摘示する事実は、その重要な部分について真実ではない。そうすると、違法性阻却事由がない。
 控訴人は、被控訴人の私的な創作活動において創作したイラストを根拠に、被控訴人によるトレース行為が推認されると主張するが、私的な活動内容を商業的に利用されているイラストに係る創作活動と関連付けるのは適切ではない。なお、被控訴人保有の端末にて確認できた線画(甲18)の作成日は令和2年2月21日、ラフ画(甲19)の作成日は同年5月7日である(甲51、52)。
イ 争点1−3(本件ツイート2−1の投稿による権利侵害の明白性)について
 控訴人は、本件ツイート2−1に本件投稿画像2−1−2を添付することは適法な引用に当たり、複製権及び自動公衆送信権(送信可能化権)を侵害しないと主張する。
 しかし、本件ツイート2−1は、間接的ないし婉曲に、被控訴人が違法なトレースを行ったとの事実を軽率に摘示するものであって、引用の目的が不当である。また、本件投稿画像2−1−2は女性の正面視を描いたもので、トレースによって作成されたとされる本件被控訴人イラスト1とは構図が大きく異なり、引用の必要性に乏しい。したがって、本件投稿画像2−1−2の引用は、「引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」には該当しないから、適法な引用に当たらない。
ウ 争点1−4(本件ツイート2−2の投稿による権利侵害の明白性)について
 控訴人は、本件ツイート2−2における本件被控訴人イラスト5(本件投稿画像2−2−2)のトリミングが改変に当たらないと主張するが、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿することにより、本件ツイート2−2を表示するタイムライン上に、同ツイートに添付された本件被控訴人イラスト5の下部がトリミングされて、同イラスト中の下2枚の女性の横顔のイラストの目から下の部分が切り取られた画像が表示されることについては否定の余地がなく、これは本件被控訴人イラスト5の「改変」に当たる。
 被控訴人は、本件投稿者2は「改変」の主体ではないとも主張するが、本件投稿者2による本件ツイート2−2の投稿行為によって、本件投稿画像2−2−2のデータが控訴人の管理するサーバに保存され、閲覧者のアクセスに応じて、サーバに保存された本件投稿画像2−2−2の画像データが、当該閲覧者のクライアントコンピュータに送信され、レンダリングデータに従ってトリミング表示がされるのであるから、本件投稿者2による本件ツイート2−2の投稿は、本件投稿画像2−2−2のトリミング表示に不可欠の前提であり、「改変」の主体に本件投稿者2が含まれることは明らかである。
 そして、本件ツイート2−2は、間接的ないし婉曲に、被控訴人が違法なトレースを行ったとの事実を軽率に摘示するものであるから、「やむを得ないと認められる改変」に当たらない。
エ 争点1−5(本件ツイート2−1及び2−2について「侵害情報の流通によって」の要件を満たすか)について
 控訴人の主張は争う。
オ 争点2−1(別紙発信者情報目録記載1及び2のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプが「当該権利の侵害に係る」発信者情報たる省令5号の「アイ・ピー・アドレス」及び省令8号の「侵害情報が送信された年月日」に該当するか)について
 プロバイダ責任制限法4条1項においては、開示の対象となる情報について、権利の侵害に「係る」発信者情報というやや幅を持たせた文言が用いられていることに照らすと、開示請求の対象は、侵害情報が発信された過程で直接把握された発信者情報に限定されるものではなく、侵害情報についての特定電気通信の送信そのものとはいえないログイン行為に関する情報であっても侵害情報の流通により権利の侵害に関連して把握される発信者情報であり、省令により定められているものであれば、開示請求の対象となると解すべきであるから、ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプが「当該権利の侵害に係る」発信者情報たる省令5号の「アイ・ピー・アドレス」及び省令8号の「侵害情報が送信された年月日」にそれぞれ該当すると判断した原判決に誤りはない。
カ 争点2−2(別紙発信者情報目録記載3(1)の電話番号が省令3号の「電話番号」に該当するか)について
 原判決は、本件訴えに係る発信者情報開示請求権は本件訴えの提起による開示請求がされた時点で発信者情報開示請求権が発生し、口頭弁論終結時までに同請求権が消滅したことはうかがわれないから、改正後の省令が適用されるものと認めるのが相当であると判断したが、これは、総務省の見解とも合致するもので、正当である。
キ 争点2−3(別紙発信者情報目録記載3(2)のSMS用電子メールアドレスが改正前省令3号の「電子メールアドレス」に該当するか)について
 仮に、本件の発信者情報開示請求に改正前省令が適用されるとしても、SMS用電子メールアドレスとしての電話番号は、改正前省令3号の「電子メールアドレス」として開示されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1−1(本件ツイート1−1の投稿による権利侵害の明白性)について
(1)「権利侵害の明白性」について
 発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であって正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、プロバイダ責任制限法4条1項1号が、発信者情報の開示請求について厳格な要件を定めていること(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)に照らすと、同号が規定する「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に該当するといえるためには、当該侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことに加え、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことまで主張立証されなければならないと解される。
(2)本件ツイート1−1について
 証拠(甲1の1〜5、甲17、32、37の1・2)によると、本件ツイート1−1は、本件投稿者1により、令和2年4月3日午後10時30分に投稿されたもので、「これどうだろうww」「ゆるーくトレス?普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」という文言に、@乙1の2イラスト(本件投稿画像1−1−1)、A乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚(本件投稿画像1−1−2、1−1−3)、B本件被控訴人イラスト1を含む複数の被控訴人作成のイラストを並べた画像(本件投稿画像1−1−4)が併せて投稿されたものであり、原判決別紙タイムライン表示目録記載1のとおりにタイムライン上に表示されることがあるもので、タイムライン上では本件投稿画像1−1−1〜1−1−4はいずれもその一部のみが表示されているものと認められる(タイムライン上の表示が固定されたものではないことは、後記(5)ウのとおりである。以下同じ。)。
(3)名誉棄損について
ア ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)、このことは、ツイッター上の投稿記事の名誉毀損該当性の判断においても同様である。
 また、名誉棄損には、事実の摘示によるもののみならず、意見ないし論評によるものも含まれるところ、ある表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や議論などは、意見ないし論評の表明に属するものというべきである(最高裁平成15年(受)第1793号、第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)。そして、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであることは、上記の区別に当たっても妥当する(前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。
イ(ア)本件ツイート1−1についてみると、前記(2)のとおり、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろうww」「ゆるーくトレス?普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」との文言が投稿されている。そして、証拠(甲1の1、49、乙1の1)によると、本件ツイート1−1と同日又は翌日に本件アカウント1において投稿されたツイートにおいて、「目が開いていないのはトレス元に似ちゃうからなのか」「検証に使用した絵はAさんの絵」などと記載されていること、これらの記載のある各ツイートは、本件ツイート1−1を元ツイートとするスレッドとして表示されていることが認められることを踏まえ、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、本件ツイート1−1は、目を閉じた女性の横顔のイラストである本件被控訴人イラスト1が、A氏の作成した目を開いた女性の横顔のイラストである乙1の2イラストを、正確にではないにせよトレースして作成されたものであるとの事項を主張する内容であると認められる。上記文言に「?」という疑問を意味するマークや「なるかな」といった疑問を意味する語尾が用いられていることは、上記判断を左右しない。
 なお、ここでいう「トレース」(本件投稿者1は「トレス」と表現している。)は、本件投稿者1が、トレース元とされる乙1の2イラストと、トレースして作成されたとする本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示することでトレースの有無を検証しようとしていることに照らすと、イラスト作成用のアプリケーションを利用するなどして、元となるイラストや写真を表示し、その輪郭をなぞるなどの直接的に写し取る方法によりイラストを作成することを指すと認めるのが相当であり、本件ツイート1−2においても同じである。
(イ)控訴人は、本件ツイート1−1の投稿による名誉棄損の成否を判断するに当たって、本件ツイート1−1よりも後に投稿されたツイートの内容を考慮すべきではないと主張するが、証拠(甲50)によると、ツイートを投稿するに当たり、複数のツイートの下書きを作成した上で「すべてツイート」することで「スレッド」が作成でき、スレッドを作成した後は、「ツイートを追加」することにより、作成済の「スレッド」にツイートを追加できること、「スレッド」として投稿されたツイートはひとまとまりと分かるように線で連結されてタイムライン上に表示され、4個以上のツイートで構成される場合には省略表示されるが、「このスレッドを表示」との文字をクリックすると、スレッド全体が表示されるものであることが認められるところ、本件投稿者1が自らの意思で「スレッド」として複数のツイートを本件ツイート1−1と同時に又は本件ツイート1−1に「ツイートを追加」する方式により投稿していること、本件ツイート1−1の一般の読者であるツイッターのユーザーは、上記ツイッターの「スレッド」の仕組みを認識し、同一スレッド内のツイートは相互に関係があるものとして、本件ツイート1−1を含むスレッド内のツイートを読んでいるものと推認されることに照らすと、本件ツイート1−1の投稿による名誉棄損の成否を判断するために当該ツイートの内容を解釈するに当たっては、少なくとも、本件ツイート1−1と同時又は近い時間に、同一スレッド内において投稿されたツイートについては、その内容を併せて考慮するのが相当であるから、上記控訴人の主張は採用できない。
(ウ)そして、本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストを、トレースして作成されたものであるとの事項は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項に当たるから、本件ツイート1−1は、本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストをトレースして作成されたものであるとの被控訴人に関する特定の事項を主張する事実の摘示に該当する。
ウ 次に、トレース行為は「複製」に該当するものではあるが、それ自体が直ちに著作権法違反を意味するものではなく、イラストの作成過程において他者の作品のトレース行為がされたことを指摘することが、必ずしもトレースをした者の社会的評価を低下させるとまでいうことはできないものの、本件においては、被控訴人が、自身の作成したイラストを販売するプロのイラストレーターとして活動していたことを踏まえると、本件ツイート1−1の内容は、イラストレーターである被控訴人が、他人のイラストをトレースして作成したものを自らの作品として公表するという著作権法上問題となり得る行為をしていたことを意味し、作品の購入者をして、そのようなイラストレーターから作品を購入することを躊躇させるに足る事実であるから、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿して上記事実を摘示することにより、被控訴人のイラストレーターとしての社会的評価が低下したものと認められる。
エ(ア)事実の摘示による名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的によるものであった場合には、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がされなくとも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、上記行為には故意又は過失がないから、不法行為は成立しない(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。
(イ)そこで本件についてみると、本件ツイート1−1は、被控訴人が、他人の著作物をトレースして作成したイラストを自己の作品として公表していることを指摘するものであって、著作権法上の問題がある可能性をうかがわせる内容であり、この指摘は、被控訴人がプロのイラストレーターであることに照らすと、被控訴人作成のイラストを購入しようとする需要者にとって重要な情報であるから、本件ツイート1−1を投稿する行為は、公共の利害に関する事実に係るもので、その目的が専ら公益を図ることにあるということができる。
(ウ)次に、摘示した事実の真実性について検討するに、本件ツイート1−1が摘示する事実の重要な部分は、「本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストを、トレースして作成されたものである」というものであるが、本件被控訴人イラスト1のベースになったと被控訴人が主張する甲29・1頁のイラストと乙1の2イラストを比較すると(乙54)、その構図が類似しており、横顔の輪郭部分は額から頚部に至るまでほぼ一致し、首の角度や耳の位置もほぼ一致していることが認められる。そうすると、その関係は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストとにおいても同様と認められるところ、これらの全てが偶然一致したものとは考え難い。
 これに対し、被控訴人は、本件被控訴人イラスト1がトレースにより作成されたものではないことを裏付ける証拠として、被控訴人が女性の横顔のイラストを作成する様子を撮影したとする令和3年7月19日撮影の動画(再現動画。甲44の1・2)を提出したが、証拠(乙15、67)によると、再現動画において作成された女性の横顔のイラストは、本件被控訴人イラスト1とは別の機会に作成されたものであるにしても、乙1の2イラストと比べて首の角度及び耳の位置が大きくずれており、輪郭についても顎部分が重ならないものであるところ、前記のとおり乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1とが首の角度や耳の位置もほぼ一致していることに照らすと、再現動画において作成された女性の横顔のイラストは、本件被控訴人イラスト1とも、首の角度及び耳の位置が大きく異なり、輪郭の顎部分が重ならないものであると認められる。そうすると、再現動画において、被控訴人が、本件被控訴人イラスト1の作成過程を再現しようとしたものと推察されるにもかかわらず、上記のとおりの差異が生じたということになり、再現動画を考慮しても、被控訴人が作成した本件被控訴人イラスト1の女性の横顔の輪郭部分や首の角度及び耳の位置が、偶然、乙1の2イラストと一致することは困難であると認めるのが相当である。
 また、乙1の2イラストは、平成29年9月1日に公開されたものであるから(乙14の1・2)、被控訴人が、女性の横顔のイラスト作成のきっかけとなった依頼を受けた平成30年2月頃(甲26)の時点で公開されており、被控訴人は、本件被控訴人イラスト1を作成するに当たり、乙1の2イラストを参照することが可能であった。
 以上を総合すると、「本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストを、トレースして作成されたものである」という事実は真実である蓋然性が高い。
(エ)そして、前記(1)のとおり、発信者情報開示請求の要件である「権利侵害の明白性」が認められるためには、当該侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことに加え、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことまで主張立証される必要があるところ、本件ツイート1−1の投稿による名誉棄損については、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことの立証が足りないというほかない。
 そうすると、本件ツイート1−1の投稿による名誉棄損について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(4)著作権(複製権、自動公衆送信権)侵害について
ア 本件投稿者1は、被控訴人の許諾を得ることなく、本件ツイート1−1を投稿しており(甲9)、これにより、本件被控訴人イラスト1の画像データをツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト1の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、@公正な慣行に合致し、A報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない(著作権法32条1項)。
ウ(ア)本件ツイート1−1をみると、前記(2)のとおり、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろうww」「ゆるーくトレス?普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」との文言が投稿されており、これは、被控訴人作成の本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストをトレースして作成されたものである旨を主張するものであって、本件被控訴人イラスト1を検証し、批評しようとするものであると認められるから、本件投稿者1が本件被控訴人イラスト1を用いた目的は、批評にあるといえる。
(イ)a 次に、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法をみると、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示しているもの(本件投稿画像1−1−2、1−1−3)と、本件被控訴人イラスト1を含む複数の被控訴人作成イラストを並べて表示しているもの(本件投稿画像1−1−4)があり、これらの画像が、乙1の2イラストの画像(本件投稿画像1−1−1)とともに前記(ア)の文言に添付されている。タイムライン上においては、原判決別紙タイムライン表示目録記載1のとおり表示されるなどしており、上記4枚の画像データは、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様に応じて、その一部のみが表示されているが、各画像をクリックすると、本件投稿画像1−1−1〜1−1−4のとおりの画像が表示される。
b 本件投稿画像1−1−4は、被控訴人が作成した女性の横顔のイラストを2枚含むものであるが、この2枚のイラストのうち1枚は本件被控訴人イラスト1であり、もう一枚は本件被控訴人イラストと複製又は翻案の関係にあるものと認められるから、本件投稿画像1−1−4をそのまま、本件投稿画像1−1−1(乙1の2イラスト)とともに利用することは、イラストの類似性を検証するために必要であり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されているということができる。
c 本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像であるが、2枚のイラストないし画像の類似性を検討するに当たり、2枚のイラストを、それぞれのイラストが判別可能な態様で重ね合わせ表示するのは検証のために便宜でかつ客観性を担保できる態様で利用されているということができ、加えて、当該画像には下部分に各イラストの色の濃さを操作したことを示唆するアプリケーションの画面部分が記載されており、閲覧者をして、これらの画像が、2枚のイラストを重ね合わせたものであることや、色の濃さが操作されていることが分かるような態様で示されている。本件では、本件投稿画像1−1−2では乙1の2イラストの方を濃く表示し、本件投稿画像1−1−3では本件被控訴人イラスト2の方を濃く表示しているが、このような表示方法は、2枚のイラストを重ね合わせた画像において、それぞれのイラストを判別して比較するために資するといえる。
d そうすると、本件ツイート1−1の一般の読者にとって、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる。
 そして、上記利用態様からすると、本件ツイート1−1において、被控訴人が作成したイラストが、独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを比較検証する目的を超えて利用がされているとはいえない。
e したがって、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用方法は、前記(ア)の引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めるのが相当である。
(ウ)証拠(乙5の1〜5、60、63、89、110の1、120の4・5)によると、第三者が著作権を有するイラストや写真をトレースすることにより、イラスト等を作成した可能性がある旨の事実を主張する場合に、記事中に、@問題となるイラスト等とトレース元と考えられるイラスト等を、比較するためにそのまま又は比較に必要な部分において示すことや、A2枚のイラストを重ね合わせて示すことは広く行われていることであり、また、前記(イ)のとおり、このように示すことは、本件ツイート1−1の一般の読者にとって記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができる手法であるということができる。
 上記に加え、後記(5)のとおり同一性保持権侵害の観点からも本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用が違法ということはできないことに照らすと、本件ツイート1−1において、被控訴人作成のイラストを添付したことは、公正な慣行に合致しているということができる。
(エ)そうすると、本件ツイート1−1における被控訴人のイラストの利用は「引用」として適法である。
エ 以上によると、本件ツイート1−1の投稿による著作権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(5)著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
ア 前記(2)のとおり、@本件ツイート1−1に添付された画像のうち、本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストを重ね合わせたものであり、また、Aツイッターのタイムライン上に表示された本件ツイート1−1における本件投稿画像1−1−2〜1−1−4は、被控訴人作成のイラストの一部のみが表示されているから、それぞれ、被控訴人のイラストの改変又は切除に当たると解する余地がある。
イ しかしながら、@については、著作物がイラストであって重ね合わせて用いることで、引用の目的である批評のために便宜でありかつ客観性が担保できることに加え、その利用の目的及び態様に照らすと、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるといえる。
ウ 次に、Aについてみると、証拠(甲49、乙113〜119、120の1・2、121の1・2)によると、ツイッターのタイムライン上の表示は、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様により決定されるものであって、投稿者が自由に設定できるものではなく、投稿者自身も投稿時点では、どのような表示がされるか認識し得ないこと、投稿後も、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様が変更されると、タイムライン上の表示が変更されること、ツイートに添付された画像データ自体は当該ツイートを閲覧したユーザーの端末にダウンロードされており、タイムライン上の画像をクリックすると、画像の全体が表示されることが認められることに照らすと、投稿者が改変主体に当たるかという点を措くとしても、タイムライン上の表示が画像の一部のみとなることは、ツイッターを利用するに当たり「やむを得ないと認められる改変」に当たるというべきである。
エ そうすると、本件ツイート1−1の投稿による著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(6)営業権侵害について
 前記(3)〜(5)のとおり、本件ツイート1−1の投稿による名誉権侵害、著作権侵害及び著作者人格権侵害が明白であるとはいえず、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿したことが違法であるということはできないから、本件ツイート1−1の投稿による営業権侵害についても、「権利侵害の明白性」は認められない。
(7)したがって、本件ツイート1−1の投稿による「権利侵害の明白性」は認められない。
2 争点1−2(本件ツイート1−2の投稿による権利侵害の明白性)について
(1)本件ツイート1−2について
 証拠(甲1の1、2の1〜5、37の1・2、乙2の1〜5)によると、本件ツイート1−2は、本件投稿者1により、令和2年4月5日午前1時31分に投稿されたもので、「この鏡餅も画像検索ですぐ出てきた。」「トレス常習犯ですわ。」「Y′さん」との文言に、@本件被控訴人イラスト2を含む被控訴人のツイートの画像(本件投稿画像1−2−1)、A乙2の3写真を含む画像(本件投稿画像1−2−2)、B本件被控訴人イラスト2と乙2の3写真を重ね合わせた画像2枚(本件投稿画像1−2−3、本件投稿画像1−2−4)が併せて投稿されたものであり、原判決別紙タイムライン表示目録記載2のとおりにタイムライン上に表示されることがあるもので、タイムライン上では本件投稿画像1−2−1〜1−2−4はいずれもその一部のみが表示されているものと認められる。なお、本件投稿画像1−2−2は、楽天市場において「磁器の鏡餅(変わり鏡餅)」を販売するページの画像であり、商品である「磁器の鏡餅」の写真(乙2の3写真)部分を含む(甲2の3、乙2の3)。
(2)名誉棄損について
ア 本件ツイート1−2においては、前記(1)のとおり、本件被控訴人イラスト2と乙2の3写真を重ね合わせた画像2枚とともに、「トレス常習犯ですわ。」「Y′さん」との文言が投稿されている。なお、「常習犯」には、刑法上の犯罪を意味するほかに、「同じ悪事を何度も繰り返すこと。また、その人」との意味があるが(広辞苑第七版)、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、本件ツイート1−2では、「常習犯」が後者の意味で用いられているものと理解がされ、上記文言は「Y′」というペンネームを用いて活動する被控訴人が、「トレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していた」ことを意味するものと認められる。しかるところ、被控訴人が、プロのイラストレーターとして活動していたことを踏まえると、本件ツイート1−2は、イラストレーターである被控訴人が、他人のイラスト等をトレースして作成したものを自らの作品として公表するという著作権法上問題となり得る行為を繰り返していたことを意味し、作品の購入者をして、そのようなイラストレーターから作品を購入することを躊躇させるに足る事実であるから、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿して上記事実を摘示することにより、被控訴人のイラストレーターとしての社会的評価が低下したものと認められる。そして、「トレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していた」という事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項に当たるから、被控訴人に関する特定の事項を主張する事実の摘示に該当する。
イ 次に、本件ツイート1−2の投稿について違法性阻却事由があるか検討する。
(ア)前記(1)のとおり、本件ツイート1−2においては、本件被控訴人イラスト2を乙2の3写真と重ね合わせた画像と「トレス常習犯ですわ」「Y′さん」との文言が投稿されており、これらを併せて考慮すると、本件ツイート1−2は、「Y′」こと被控訴人が、「トレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していた」という事実を主張するとともに、同ツイートに添付した本件被控訴人イラスト2は、乙2の3写真をトレースして作成したものであって、上記事実を裏付けるものであると主張するものと解されるから、その重要部分は、@本件被控訴人イラスト2が乙2の3写真をトレースして作成されたものであること及びA被控訴人がトレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを繰り返していたことである。
(イ)これを前提として検討するに、本件被控訴人イラスト2と乙2の3写真は、鏡餅、鏡餅の上部に載せられた蜜柑、蜜柑の葉についての形状、色調及び輪郭が一致し、さらに、両者の鏡餅の大きさを合わせた場合、鏡餅が載せられた板についても、その位置、奥行きの長さ、厚さ及び同板が茶系色であることも一致しており、これらが全て偶然に一致するとは考え難く、本件被控訴人イラスト2は、乙2の3写真をトレースして作成されたものと認めるのが相当である。
 この点、被控訴人は、本件被控訴人イラスト2は、乙2の3写真とは異なる鏡餅のイラスト等を参考にして作成したものであり、他人の写真等をトレースして作成したものではないと主張する。しかしながら、証拠(乙17)によると、令和2年7月3日に「鏡餅」を検索サイトであるGoogleにおいて画像検索したところ、最初に乙2の3写真が表示されたこと、検索結果として表示された30枚以上の画像にみられる鏡餅のうち、鏡餅の上に載せられた蜜柑の葉の枚数と形状が本件被控訴人イラスト2と同じものは、乙2の3写真のものの外になく、また、蜜柑と鏡餅の大きさの比率及び鏡餅とその下に敷かれた板との大きさの比率が、本件被控訴人イラスト2と同じものは乙2の3写真のものの他にないことが認められる。また、被控訴人は、本件被控訴人イラスト2のラフ画(甲19)を提出し、本件被控訴人イラスト2作成当時に書いていたとおりにイラストを作成した様子を撮影したものとして動画(甲45)を提出したが、これらは、いずれも本件ツイート1−2よりも後に作成されたものである上、上記ラフ画及び上記動画で作成されたイラストでは、大小二つの線対称の楕円形を上下に重ね、その上にほぼ円形を載せる方法により作画していることが認められるところ、本件被控訴人イラスト2における鏡餅は、上記で用いられた線対称の楕円形からなるものではなく、本件被控訴人イラスト2における蜜柑はほぼ円形といえるものではない。加えて、上記ラフ画における鏡餅の下部に描かれたラインの位置、蜜柑の葉の形状は、本件被控訴人イラスト2における鏡餅の下に置かれた板のラインや蜜柑の葉の形状とは異なっており、上記動画において作成されたイラストにおける蜜柑の葉の枚数及び形状は、本件被控訴人イラスト2における蜜柑の葉とは異なっているから、上記ラフ画又は上記動画で作成されたイラストを元に作画を続けたとしても、本件被控訴人イラスト2と同一のイラストが完成すると推認することはできない。そうすると、上記被控訴人の主張は採用できない。
(ウ)そして、証拠(乙2の1、16の1〜11、86の1・2)によると、被控訴人は、少なくとも複数回、他人の写真又はイラストをトレースしてイラストを作成し、これに自らを表すサインを付すなどして自ら作成したイラストであるものとして、ツイッターやブログで公表していたことが認められる。また、前記1(3)のとおり、「本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストを、トレースして作成されたものである」という事実は真実である蓋然性が高い。
(エ)以上を総合すると、被控訴人が、他人の写真やイラストをトレースすることによりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを繰り返していたことが認められるから、被控訴人が、トレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していたとの事実は真実である可能性が高い。
(オ)そして、本件ツイート1−2を投稿する行為は、被控訴人がプロのイラストレーターであること及び本件ツイート1−2が、本件ツイート1−1と同一のスレッドに投稿されたものであることに照らすと、本件ツイート1−1を投稿する行為と同様に、公共の利害に関する事実に係るもので、その目的が専ら公益を図ることにあるということができる。
(カ)以上によれば、本件ツイート1−2の投稿による名誉棄損については、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことの立証が足りないというほかない。
 そうすると、本件ツイート1−2の投稿による名誉棄損について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(3)著作権(複製権、自動公衆送信権)侵害について
ア 本件投稿者1は、被控訴人の許諾を得ることなく、本件ツイート1−2を投稿しており、これにより、本件被控訴人イラスト2の画像データをツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト2の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので、以下検討する。
(ア)本件ツイート1−2をみると、前記(1)のとおり、乙2の3写真と本件被控訴人イラスト2を重ね合わせた画像2枚とともに、「この鏡餅も画像検索ですぐ出てきた。」「トレス常習犯ですわ。」「Y′さん」との文言が表示されており、Y′こと被控訴人がトレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していた旨を主張するとともに、その裏付けとして、本件被控訴人イラスト2及び乙2の3写真を示して、本件被控訴人イラスト2が、画像検索するとすぐに出てくる鏡餅の画像である乙2の3写真をトレースして作成されたものであることを検証し、批評しようとするものであるから、本件投稿者1が本件被控訴人イラスト2を用いた目的は、批評にあるといえる。
(イ)a 次に、本件ツイート1−2における被控訴人のイラストの利用方法をみると、乙2の3写真と本件被控訴人イラスト2を重ね合わせて表示しているもの(本件投稿画像1−2−3、1−2−4)及び本件被控訴人イラスト2を含む被控訴人のツイートの画像(本件投稿画像1−2−1)があり、これらの画像が、乙2の3写真を含む画像(本件投稿画像1−2−2)とともに上記文言に添付されている。
 タイムライン上においては、原判決別紙タイムライン表示目録記載2のとおり、上記4枚の画像データは、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様に応じて、その一部のみが表示される態様により表示されているが、各画像をクリックすると、本件投稿画像1−2−1〜1−2−4のとおりの画像が表示される。
b 前記(ア)のとおり、上記各画像は、本件被控訴人イラスト2が乙2の3写真をトレースして作成されたものであることを検証する目的で用いられているところ、被控訴人が本件被控訴人イラスト2を投稿したツイートの画像である本件投稿画像1−2−1をそのまま、比較対象となる乙2の3写真を含む本件投稿画像1−2−2とともに利用することは、出展を示唆した上で、イラストと写真の類似性を検証するために必要であり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されているということができる。
c 本件投稿画像1−2−3及び1−2−4は、乙2の3写真と本件被控訴人イラスト2を重ね合わせて表示しているものであるが、本件投稿画像1−2−3は、乙2の3写真に透過性を高くした本件被控訴人イラスト2を重ね合わせたものであり、本件投稿画像1−2−4は、乙2の3写真に、本件被控訴人イラスト2の色が濃い部分のみを紫色で表示するよう操作したものを重ねたものであり、一見して被控訴人イラスト2の色調が操作されていることが分かるような態様で示されているところ、イラストと写真の類似性を検証するに当たり、イラスト及び写真を、それぞれが判別可能な態様で重ね合わせ表示するのは便宜でかつ客観性を担保できる方法といえる。本件では、本件投稿画像1−2−3では本件被控訴人イラスト2の色調はそのままに色を薄くし、本件投稿画像1−2−4では本件被控訴人イラスト2の色調を変えて表示しているが、これらの表示方法は、イラストと写真を重ね合わせた画像において、それぞれを判別するために資するといえる。
d そうすると、本件ツイート1−2の一般の読者にとって、本件ツイート1−2における本件被控訴人イラスト2の利用態様は、ツイートの内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる。
 そして、上記利用態様からすると、本件ツイート1−2において、本件被控訴人イラスト2が、独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、本件被控訴人イラスト2と乙2の3写真を比較検証する目的を超えて利用がされているとはいえない。
e したがって、本件ツイート1−2における被控訴人のイラストの利用方法は、前記(ア)の引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めるのが相当である
(ウ)そして、前記1(4)ウ(ウ)と同様に、後記(4)のとおり著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)も認められないことも併せて考慮すると、本件ツイート1−2における本件被控訴人イラスト2の利用は、公正な慣行に合致しているといえる。
(エ)そうすると、本件ツイート1−2における本件被控訴人イラスト2の利用は、「引用」として適法である。
ウ 以上によると、本件ツイート1−2の投稿による著作権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(4)著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
 前記(1)のとおり、@本件投稿画像1−2−3及び1−2−4は、本件被控訴人イラスト2と乙2の3写真を重ね合わせて表示したものであり、Aツイッターのタイムライン上に表示された本件投稿画像1−2−1、1−2−3及び1−2−4においては、本件被控訴人イラスト2の一部のみが表示されているから、本件被控訴人イラスト2の改変又は切除に当たると解する余地があるものの、いずれも前記1(5)と同様に、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるといえる。
 そうすると、本件ツイート1−2の投稿による著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(5)営業権侵害について
 前記(2)〜(4)のとおり、本件ツイート1−2の投稿による名誉権侵害、著作権侵害及び著作者人格権侵害が明白であるとはいえず、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿したことが違法であるということはできないから、本件ツイート1−2の投稿による営業権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(6)したがって、本件ツイート1−2の投稿による「権利侵害の明白性」は認められない。
3 争点1−3(本件ツイート2−1の投稿による権利侵害の明白性)について
(1)証拠(甲3の1〜3、38の1・2、乙3の1〜3)によると、本件ツイート2−1は、本件投稿者2により、令和2年4月7日午後7時21分に投稿されたもので、「Y′様がトレースを否定するツイートをされたようです」「それを信じているファンの皆様」「一度こちらのイラストを見て下さい」「これもまた、Y′様が描いたイラストです」「横顔のイラストと比較し、画力の差に違和感を感じませんか?」との文言に、@本件被控訴人イラスト3(本件投稿画像2−1−1)及びA本件被控訴人イラスト4(本件投稿画像2−1−2)を併せて投稿されたものであり、原判決別紙タイムライン表示目録記載3のとおりにタイムライン上に表示されることがあるものと認められる。
(2)著作権(複製権、自動公衆送信権)侵害について
ア 本件投稿者2は、被控訴人の許諾を得ることなく、本件ツイート2−1を投稿しており(甲9)、これにより、本件被控訴人イラスト3及び4の画像データをツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト3及び4の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので、以下検討する。
(ア)本件ツイート2−1をみると、前記(1)のとおり、本件被控訴人イラスト3及び4とともに、「Y′様がトレースを否定するツイートをされたようです」「それを信じているファンの皆様」「一度こちらのイラストを見て下さい」「これもまた、Y′様が描いたイラストです」「横顔のイラストと比較し、画力の差に違和感を感じませんか?」との文言が表示されており、これらの文言に、本件ツイート2−1に続いて、同一スレッド内に本件ツイート2−2が投稿されており本件ツイート2−2には、被控訴人の作成した女性の横顔のイラスト6枚を並べたものである本件被控訴人イラスト5(甲4の3、乙4の3。なお、これら6枚のイラストはその類似性から本件被控訴人イラスト1とは複製又は翻案の関係にあると認められる。)が添付されていることを併せ考慮すると、本件ツイート2−1は、被控訴人がトレース行為を否定するツイートをしたことを批判し、本件被控訴人イラスト5のような女性の横顔のイラスト以外のイラストにみられる被控訴人の画力に照らすと、上記女性の横顔のイラストは、より高い画力の者が作成したものに見受けられて不自然であることを指摘して、上記女性の横顔のイラストがトレース行為により作成されたものであることを検証しようとするものであると認められる。なお、ここでいう「トレース」は、本件ツイート1−1、1−2の場合と同様に、イラスト作成用のアプリケーションを利用するなどして、元となるイラストや写真を表示し、その輪郭をなぞるなどの直接的に写し取る方法によりイラストを作成することを指すと認めるのが相当である。
 そうすると、本件投稿者2が、本件ツイート2−1において本件被控訴人イラスト3及び4を利用した目的は、批評にあると認めるのが相当である。
 被控訴人は、本件投稿者2が不当な目的で本件被控訴人イラスト3及び4を引用したと主張するが、本件被控訴人イラスト1が乙1の2イラストをトレースして作成されたものである蓋然性が高いこと、被控訴人がトレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していたことは前記1(3)及び2(2)のとおりであり、本件投稿者2が何ら根拠もないのに被控訴人が違法行為をしたことをうかがわせるツイートをすることで被控訴人を誹謗中傷するといった不当な目的で本件ツイート2−1を投稿したとは認められないから、本件投稿者2が、本件ツイート2−1に本件被控訴人イラスト3及び4を添付して投稿した目的が、不当なものであるということはできない。
(イ)次に、本件ツイート2−1における被控訴人のイラストの利用方法をみると、本件被控訴人イラスト3及び4をそのまま添付したというものであるが、前記(ア)のとおり、本件投稿者2は、本件被控訴人イラスト5にあるような被控訴人作成の女性の横顔のイラストが、被控訴人作成のそれ以外のイラストと比べて画力の点で不自然であることをもって、上記女性の横顔のイラストはトレース行為により作成されたものであることを検証しようとしているところ、女性の横顔のイラスト以外のイラストにおける被控訴人の画力をみるには、被控訴人の作成した複数のイラストを比較観察することが相当である。そして、上記利用態様からすると、本件ツイート2−1において、本件被控訴人イラスト3及び4が、被控訴人の画力を検証する目的を超えて利用がされているとはいえない。
 この点、被控訴人は、本件投稿画像2−1−2(本件被控訴人イラスト4)は、本件被控訴人イラスト1とは構図が大きく異なり引用の必要性が乏しく、引用の目的上正当な範囲で行われるものに当たらないと主張するが、前記(ア)のとおり、引用の目的は、被控訴人の画力に照らすと、本件被控訴人イラスト5にあるような女性の横顔のイラストは、より高い画力の者が作成したものに見受けられて不自然であることを指摘して、上記女性の横顔のイラストがトレース行為により作成されたものであることを検証しようとするものであるところ、被控訴人の画力を検証するには、被控訴人作成の複数のイラストを比較観察することが相当であるのは上記のとおりであって、被控訴人作成の一枚のイラストのみから被控訴人の画力を判断するのは困難であるから、本件被控訴人イラスト4について引用の必要性がないとはいえず、被控訴人の上記主張は採用できない。
 そうすると、本件ツイート2−1における本件被控訴人イラスト3及び4の利用は、引用の目的上正当な範囲内で行われたものということができる。
(ウ)そして、本件ツイート2−1における本件被控訴人イラスト3及び4の利用が、公正な慣行に反すると認めるべき事情もない。
(エ)そうすると、本件ツイート2−1における本件被控訴人イラスト3及び4の利用は「引用」として適法である。
ウ したがって、本件ツイート2−1の投稿による著作権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(3)営業権侵害について
 前記(2)のとおり、本件ツイート2−1の投稿による著作権侵害が明白であるとはいえず、本件投稿者2が本件ツイート2−1を投稿したことが違法であるということはできないから、本件ツイート2−1の投稿による営業権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(4)したがって、本件ツイート2−1の投稿による「権利侵害の明白性」は認められない。
4 争点1−4(本件ツイート2−2の投稿による権利侵害の明白性)について
(1)証拠(甲4の1〜3、38の1・2、乙4の1〜3)によると、本件ツイート2−2は、本件投稿者2により、本件ツイート2−1と同一スレッドにおいて同ツイートに続いて令和2年4月7日午後7時26分に投稿されたもので、「特に横顔同士で比較してみてください」「左の絵には鼻と唇の間に不自然な山があり「横顔がどうなっているか」という基本的なデッサンを理解していない方が描いたようにしか見えません」「Y′様は他のイラストでも手が描けない方です」「それでもトレースしていない、という主張を信じられるでしょうか」との文言に、@本件被控訴人イラスト3に、口の部分を囲う赤色枠を付記したもの(本件投稿画像2−2−1)及びA女性の横顔のイラストが6枚並べられた本件被控訴人イラスト5(本件投稿画像2−2−2)が併せて投稿されたものであり、原判決別紙タイムライン表示目録記載4のとおりにタイムライン上に表示されることがあるもので、タイムライン上では本件投稿画像2−2−2はその一部のみが表示されているものと認められる。
(2)著作権(複製権、自動公衆送信権)侵害について
ア 本件投稿者2は、被控訴人の許諾を得ることなく、本件ツイート2−2を投稿しており(甲9)、これにより、本件被控訴人イラスト3及び5の画像データをツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
イ 控訴人は、上記アの本件被控訴人イラスト3及び5の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので、以下検討する。
(ア)本件ツイート2−2をみると、前記(1)のとおり、本件被控訴人イラスト3に、口の部分囲う赤色枠を付記したものと、本件被控訴人イラスト5とともに、「特に横顔同士で比較してみてください」「左の絵には鼻と唇の間に不自然な山があり「横顔がどうなっているか」という基本的なデッサンを理解していない方が描いたようにしか見えません」「Y′様は他のイラストでも手が描けない方です」「それでもトレースしていない、という主張を信じられるでしょうか」との文言が投稿されており、その文言の内容及び本件ツイート2−2が、本件ツイート2−1に続いて同一スレッド内で投稿されていることに照らすと、本件ツイート2−2は、本件ツイート2−1と同様に、被控訴人がトレース行為を否定するツイートをしたことを批判し、本件被控訴人イラスト5にみられる女性の横顔のイラストは、被控訴人よりも高い画力の者が作成したものに見受けられて不自然であることを指摘して、上記女性の横顔のイラストがトレース行為により作成されたものであることを検証しようとするものであると認められる。
 そうすると、本件投稿者2が、本件ツイート2−2において本件被控訴人イラスト3及び5を利用した目的は、批評にあると認めるのが相当である。
(イ)次に、本件ツイート2−2における被控訴人のイラストの利用方法をみると、本件被控訴人イラスト3については口の部分を囲う赤色枠を付記したものを、本件被控訴人イラスト5についてはそのまま添付するものであるが、前記(ア)のとおり、本件投稿者2は、本件被控訴人イラスト5にあるような被控訴人作成の女性の横顔のイラストが、被控訴人作成のそれ以外のイラストと比べて画力の点で不自然であることをもって、上記女性の横顔のイラストはトレース行為により作成されたものであることを検証しようとしているところ、トレース行為が疑われる女性の横顔のイラストが複数並べられているもの(本件被控訴人イラスト5)と、比較対象となるイラスト(本件被控訴人イラスト3)を添付することは、画力を比較するために便宜でかつ客観性が担保できる態様で利用されているということができ、また、特に比較してほしい箇所を赤色枠で囲うことは、本件投稿者2の主張の理解を助けるものであるといえ、さらに、上記赤色枠は、本件被控訴人イラスト3とは判別容易な態様で付されており、一般の読者を混乱させるおそれはない。
 そうすると、本件ツイート2−2の一般の読者にとって、本件ツイート2−2における本件被控訴人イラスト3及び5の利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる。そして、上記利用態様からすると、被控訴人の画力を検証する目的を超えて利用がされているとはいえない。
 したがって、本件ツイート2−2における本件被控訴人イラスト3及び5の利用は、引用の目的上正当な範囲内で行われたものということができる。
(ウ)前記(イ)で指摘した事情に加え、後記(3)のとおり同一性保持権侵害の観点からも本件ツイート2−2における本件被控訴人イラスト3及び5の利用が違法ということはできないことに照らすと、本件ツイート2−2において、本件被控訴人イラスト3及び5を添付したことは、公正な慣行に合致しているということができる。
(エ)そうすると、本件ツイート2−2における本件被控訴人イラスト3及び5の利用は「引用」として適法である。
ウ したがって、本件ツイート2−2の投稿による著作権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(3)著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
 前記(1)のとおり、@本件投稿画像2−2−1は、本件被控訴人イラスト3に口の部分を囲う赤色枠を付記したものであり、また、Aツイッターのタイムライン上に表示された本件投稿画像2−2−2はその一部のみが表示されているから、それぞれ、本件被控訴人イラスト3又は5についての改変又は切除に当たると解する余地があるものの、@については、特に比較する部分を示すために必要な範囲での改変といえるし、Aについては前記1(5)と同じ理由により、いずれも、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たるといえる。
 そうすると、本件ツイート2−2の投稿による著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(4)営業権侵害について
 前記(2)及び(3)のとおり、本件ツイート2−2の投稿による著作権侵害及び著作者人格権侵害が明白であるとはいえず、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿したことが違法であるということはできないから、本件ツイート2−2の投稿による営業権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(5)したがって、本件ツイート2−2の投稿による「権利侵害の明白性」は認められない。
第4 結論
 よって、被控訴人の請求は理由がないから全部棄却すべきところ、これを一部認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人の敗訴部分を取り消した上、当該取消しに係る被控訴人の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 浅井憲
 裁判官 勝又来未子


別紙 発信者情報目録
 別紙投稿記事目録1及び別紙投稿記事目録2記載の各記事を投稿した者に関する情報であって、次に掲げるもの。
1 別紙投稿記事目録1及び別紙投稿記事目録2のユーザー名欄記載のアカウントにログインした際のIPアドレスのうち、令和2年4月3日から口頭弁論終結時までのもので、控訴人が保有するもの全て。
2 前項のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備から、控訴人の用いる特定電気通信設備に前項のログイン情報が送信された年月日及び時刻。
3(1)別紙投稿記事目録1のユーザー名記載のアカウントの管理者の電話番号。
 (2)別紙投稿記事目録1のユーザー名記載のアカウントの管理者の電子メールアドレス(携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式のもの。)。
4 別紙投稿記事目録2のユーザー名欄記載のアカウント管理者の電子メールアドレス(その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコルが用いられる通信方式のもの。)。
 以上

別紙 投稿記事目録1
1 本件ツイート1−1
閲覧用URL https://以下省略
名前
ユーザー名 B'
投稿日時 2020年4月3日 午後10:30
投稿内容 これどうだろうww
ゆるーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな
2 本件ツイート1−2
閲覧用URL https://以下省略
名前
ユーザー名 B'
投稿日時 2020年4月5日 午前1:31
投稿内容 この鏡餅も画像検索ですぐ出てきた。
トレス常習犯ですわ。
Y′さん
 以上

別紙 投稿記事目録2
1 本件ツイート2−1
閲覧用URL https://以下省略
名前
ユーザー名 C’
投稿日時 2020年4月7日 午後7:21
投稿内容 Y′様がトレースを否定するツイートをされたようです
それを信じているファンの皆様
一度こちらのイラストを見て下さい
これもまた、Y′様が描いたイラストです
横顔のイラストと比較し、画力の差に違和感を感じませんか?
2 本件ツイート2−2
閲覧用URL https://以下省略
名前
ユーザー名 C’
投稿日時 2020年4月7日 午後7:26
投稿内容 特に横顔同士で比較してみてください
左の絵には鼻と唇の間に不自然な山があり「横顔がどうなっているか」という基本的なデッサンを理解していない方が描いたようにしか見えません
Y′様は他のイラストでも手が描けない方です
それでもトレースしていない、という主張を信じられるでしょうか
 以上
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日本ユニ著作権センター
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