判例全文 | ||
【事件名】ソフトウェア利用ライセンス契約事件 【年月日】令和4年9月29日 大阪地裁 令和3年(ワ)第4692号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年7月21日) 判決 原告 オートデスクインク 同代表者 同訴訟代理人弁護士 村本武志 同訴訟復代理人弁護士 櫛田博之 被告 ピーシーアシスト株式会社 同代表者代表取締役 同訴訟代理人弁護士 小玉伸一郎 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、1億7529万1560円及びこれに対する平成30年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、コンピュータ上において機械や構造物の設計・製図等のCAD(computer-aideddesign)機能、あるいは文書作成・閲覧機能を有するアプリケーションプログラムである別紙1「ソフトウェア目録」記載の各ソフトウェア(以下「本件各ソフトウェア」という。)に関する著作権を有する原告が、情報処理に関する教育、指導等を目的とする株式会社である被告との間で本件各ソフトウェアに関するライセンス契約を締結していたところ、被告が当該契約により許諾された数を超過して本件各ソフトウェアを違法に複製し、被告の運営するスクールで使用したと主張して、被告に対し、著作権(複製権)侵害による不法行為に基づく損害賠償金1億7529万1560円及びこれに対する不法行為の日の後である平成30年3月28日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)原告は、本件各ソフトウェアに関する著作権を有する。 (2)被告は、情報処理に関する教育、指導、教材の提供等を目的とする株式会社であり、従業員数・講師数は150名で、平成30年3月28日当時、本社以外に合計58校のスクールを開校していた。 (3)本件各ソフトウェアのライセンスについて ア 本件各ソフトウェアのライセンスは、ライセンスの期間につき、サブスクリプション(期間ライセンス)と保守プラン(永久ライセンス)に分けられ、サブスクリプションでは、期間を1か月単位、1年単位、3年単位のうちから選択できる。 また、アクセスタイプにつき、サブスクリプション及び保守プランとも、それぞれシングルユーザー(スタンドアロン)ライセンスとマルチユーザー(ネットワーク)ライセンスに分けられる。 本件各ソフトウェアの保守プランは、契約期間中にリリースされる最新バージョンをダウンロードして使用することができる。また、本件各ソフトウェアのサブスクリプションは、使用開始時点の最新バージョンに加えて過去の(下位の)3バージョンも使用することができる。 本件各ソフトウェアのシングルユーザーのサブスクリプションは、ユーザーがソフトウェアを最大3台のパソコンにダウンロードしてインストールすることができるが、本件各ソフトウェアを一度に使用できる(アクティベーションを経てサインインできる)のはそのうち1台のみである(乙10の1・2)。 イ AutoCADLTシングルユーザーの保守プランのライセンスにおいては、原則として1台のパソコンに1本のプログラムのみ複製でき、例外的に同一使用者がもう1台追加のパソコンにインストールすることができるが、同時に両方にアクセスすることはできない。 一方、AutoCADLTマルチユーザーの保守プランのライセンスにおいては、ライセンスIDにおいて指定されているリリースのライセンス対象マテリアルのコピーを1台のファイルサーバコンピュータにインストールすることができ、ホットバックアップサーバにインストールすることもできるが、その使用は、インストールされているライセンス対象マテリアルのプライマリコピーが作動不能である間に限られる。ファイルサーバ以外のパソコンへの複製について制限はないが、使用に際しては、同時正規ユーザーの最大人数が許可数又は(該当する場合)AutodeskLicenseManagerにより設けられているその他の上限を超えない限りにおいてのみ、ライセンシーの人員のみがライセンシーの内部事業ニーズのためにのみ、ネットワーク方式にて、複数のコンピュータ上で当該ライセンス対象マテリアルにアクセスすることが許可される。アクセス許可本数を超えるユーザーからのアクセスがなされた場合、当該アクセスユーザーは製品を起動することができない。 ウ 本件各ソフトウェアに付属する「ライセンス転送ユーティリティ」を利用すると、シングルユーザーのライセンスであっても、いったんアクティベーションを行ったコンピュータから本件各ソフトウェアのライセンス及びアクティベーション情報をエクスポート(ディアクティベート)し、別のコンピュータに本件各ソフトウェアをインストールしてアクティベーション情報をインポートすることができる。この場合、アクティベーション情報をエクスポートして本件各ソフトウェアをアンインストールしたコンピュータのWindowsレジストリには、過去に本件各ソフトウェアをインストールした履歴が残る。 エ 本件各ソフトウェアのシリアル番号は、ライセンスの購入契約ごと(AutoCADLTのマルチユーザーの保守プラン及びAutoCADLTのシングルユーザーの保守プランにおいてはバージョンごと)に全てのライセンス(シート)につき1のシリアル番号が付される。 (4)原告と被告は、平成30年3月28日当時、本件各ソフトウェアに関するオートデスク認定トレーニングセンター契約(AutodeskAuthorizedTrainingCenterAgreement)を締結しており、被告は、AutoCAD、Revit及びFusion360の3製品について各製品各6ライセンス(被告の後記4校で合計24ライセンス)分の利用許諾を得ていた(シリアル番号は、AutoCADが562-57961615、Revitが562-57961714)。 この3製品についてのライセンスは、被告の新宿校、横浜校、名古屋駅前校及び梅田校においてのみ複製を可能とするものである。 また、被告は、これに加え、@本件各ソフトウェアの認定販売代理店である株式会社大塚商会から購入したAutoCAD、Revit及びFusion360の各BIM(BuildingInformationModeling)ソフトウェアを含むAECコレクション(AutoCAD、Revit等の各BIMソフトウェアを含むパッケージ商品)のマルチユーザーのサブスクリプション(期間1年単位のライセンス)5シート(シリアル番号は562-08822108)、A本件各ソフトウェアの認定販売代理店であるダイワボウ情報システム株式会社から購入したAutoCADLTのマルチユーザーの保守プラン20シート(シリアル番号は、バージョン2016が560-28499108、バージョン2017が397-54267094、バージョン2018が398-39632737。アップグレード版の複製は旧バージョンをインストールしたパソコンに限られる。)、及び、Bダイワボウ情報システム株式会社から購入したAutoCADLTのシングルユーザーの保守プラン129シート(シリアル番号は、バージョン2016が396-36743280、バージョン2017が397-50724220、バージョン2018が398-37450930。アップグレード版の複製は旧バージョンをインストールしたパソコンに限られる。)の各ライセンスを保有していた。 (5)原告は、加盟するソフトウェア保護団体であるザ・ソフトウェアアライアンス(BSA)の情報提供窓口を通じて被告において原告の製品である本件各ソフトウェアが違法複製されているとの情報を入手した。(弁論の全趣旨) (6)そこで、原告は、平成30年1月19日付けで大阪地方裁判所及び神戸地方裁判所に対し、被告のなんば校、天王寺校及び神戸三宮校(以下、総称して「対象3校」という。)を保全場所とする証拠保全を申し立てた。 大阪地方裁判所及び神戸地方裁判所は証拠保全決定を行い(大阪地方裁判所平成30年(モ)第118号、神戸地方裁判所同年(モ)第32号)、平成30年3月28日、被告の対象3校において検証が行われた(以下「本件証拠保全」という。)。検証対象は、対象3校におけるAutodeskAutoCAD、AutodeskRevit、AutodeskFusion360のインストール、インストール履歴、使用状況及びライセンスの具備状況であった。 (7)本件証拠保全において、対象3校合計でAutoCADLTの複製が確認されたパソコンの台数は22台(なんば校4台、天王寺校8台、神戸三宮校10台)であった。 このうち、AutoCADLTのシングルユーザータイプのシリアル番号が確認されたのは、バージョン2016につき天王寺校と神戸三宮校の各2台、バージョン2017につき神戸三宮校の1台(バージョン2016のシリアル番号が確認されたものと同じパソコン)であり、AutoCADLTのマルチユーザータイプのシリアル番号が確認されたのは、神戸三宮校の6台であった。また、AutoCADLTの複製が確認されたものの、シリアル番号が不明であったパソコンは、なんば校の4台(ただし、同校の1台について、被告は、テキストファイルに表示されたRegistrySearchResultにはAutoCADLTのバージョン2−16のシリアル番号560-28499108の表記があった旨指摘している。)、天王寺校の6台、神戸三宮校の2台(うち1台は削除済み)であり、このうち、天王寺校の3台にはバージョン2017につきシリアル番号が「000-00000000」となっていた。 AutoCADについては、神戸三宮校及び天王寺校の合計4台で起動が確認された。(以上につき、乙3〜5の2、弁論の全趣旨) 3 争点 (1)被告による本件各ソフトウェアの違法複製の有無(争点1) (2)被告の故意又は過失(争点2) (3)被告の違法複製による原告の損害(争点3) 第3 当事者の主張 1 争点1(被告による本件各ソフトウェアの違法複製の有無) (原告の主張) (1)本件証拠保全当時において、被告がAutoCADLTのシングルユーザーの保守プランのライセンスの割当数は、なんば校が1台、天王寺校が1台、神戸三宮校が2台であった。 一方、本件証拠保全において、AutoCADLTの複製が確認されたもののうち、シリアル番号が確認されていないパソコンや、シリアル番号が「000-00000000」となっていたパソコンは、シングルユーザー(スタンドアロン)タイプのプログラムがインストールされていたものと推認できる。すなわち、ライセンス転送ユーティリティを利用してアクティベーション済みのコンピュータから別のコンピュータにライセンスを移動した場合に、Windowsレジストリ上でシリアル番号が「000-00000000」と表示されるところ、転送元のライセンスがスタンドアロンタイプでなければ、他のコンピュータへの複製に際し、ライセンス転送ユーティリティを用いる必要はなく、マルチユーザータイプのライセンスであればシリアル番号が検証されるはずであるから、シリアル番号が「000-00000000」とするプログラムはシングルユーザー(スタンドアロン)タイプであることがわかる。また、スタンドアロンタイプのプログラムを、ライセンス転送ユーティリティを用いずにコンピュータに複製することも可能である。 そうすると、本件証拠保全において、シリアル番号が不明であったか「000-00000000」と表示された、なんば校の4台、天王寺校の6台、神戸三宮校の2台については、シングルユーザータイプのプログラムがインストールされていたと考えられ、少なくとも、なんば校で3台、天王寺校で5台について、ライセンスの確認できない違法複製が行われたといえる。 (2)また、被告は、本件証拠保全後から1年間で合計394本のAutoCADLT製品を、新規にライセンスを受けて購入している。これは前年度(平成29年3月28日から平成30年3月27日)に購入した本数の2倍を超える本数である。とりわけ、本件証拠保全直後に期間更新ないし新規購入した本数は94本に及ぶ。さらに、シングルユーザーのアップグレード数も前年度の2倍を超えている。これは、本件証拠保全により違法複製がはばかられる状態となり、不足分の適法化のために製品購入を急いだものと考えられる。 (3)被告は、本件証拠保全当時、対象3校を含む58校を運営していたから、前記(1)、(2)の事情を総合すると、全体ではさらに多くの違法複製が行われたことが推認される。 (被告の主張) (1)被告が本件各ソフトウェアの違法複製を行ったとの事実は否認する。被告は、ライセンス契約の範囲内で使用している。原告は、本件証拠保全において、AutoCADLTの複製が確認されたもののうち、シリアル番号が確認されていないパソコンや、シリアル番号が「000-00000000」となっていたパソコンは、シングルユーザー(スタンドアロン)タイプのプログラムがインストールされていたものと推認できるとし、それを前提に違法複製があった旨主張をするが、何ら根拠がない。 (2)被告が、本件証拠保全後にもAutoCADLTのサブスクリプション(期間1か月単位のライセンス)を購入したことは認めるが、被告は、被告が運営する各スクールにおいて実施する講座のほかに、集合研修又はオンライン研修の予定受講者に合わせて研修に使用する各月のAutoCADLTのサブスクリプションの保有数を調整するために新規購入や期間更新を行ったにすぎず、本件各ソフトウェアの違法複製を推認させるものではない。 2 争点2(被告の故意又は過失) (原告の主張) 本件各ソフトウェアを複製することに関して、権利者である原告の許諾が必要であることは一般的に知られており、本件証拠保全後に被告が必要な数量のライセンス契約を締結していることから、被告は複製権侵害につき少なくとも過失があるというべきである。 (被告の主張) 争う。 3 争点3(被告の違法複製による原告の損害) (原告の主張) 被告の違法複製の本数を、別紙2「原告損害額一覧表」の「ライセンス違反(g)」欄のとおり推計し、1年間のライセンス相当額を損害額として計算すると、被告の違法複製による原告の逸失利益は別紙2の「損害額(g×h)」欄のとおり、合計1億5936万1560円となる。 また、相当な弁護士費用は1593万円を下らない。 したがって、被告の違法複製の不法行為による原告の損害額は1億7529万1560円である。 (被告の主張) 損害の発生は否認し、その額は争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(被告による本件各ソフトウェアの違法複製の有無)について (1)原告は、本件証拠保全において、AutoCADLTの複製が確認されたパソコンのうち、シリアル番号が確認されていないものや、シリアル番号が「000-00000000」となっていたものは、シングルユーザー(スタンドアロン)タイプのプログラムがインストールされていたものと推認できることを前提として、本件証拠保全において、シリアル番号が不明であったか「000-00000000」と表示された、なんば校の4台、天王寺校の6台、神戸三宮校の2台について、少なくとも、なんば校の3台及び天王寺校の5台はライセンスの確認できない違法複製である旨を主張する。 しかし、証拠(乙3〜5の2)及び弁論の全趣旨によれば、なんば校及び天王寺校での本件証拠保全において、原告は、持参したUSBメモリに記憶させた「専用の調査ツール」(以下「専用調査ツール」という。)を使用して、被告のパソコンに対し、AutoCAD等のプログラムの検索を行ったところ、専用調査ツールは起動したもののレジストリを表示するテキストファイルが作成されなかったもの、専用調査ツールは起動してレジストリを表示するテキストファイルは作成されたものの「RegistrySearchResult」の項目が表示されなかったものが存在し、また、神戸三宮校での本件証拠保全において、原告は、専用調査ツールを使用したが起動しなかったことから、被告のパソコンに対し、ソフトウェアを起動してライセンスマネージャー画面を立ち上げ、AutoCAD等のプログラムのシリアル番号の確認を行ったところ、シリアル番号の確認ができなかったものが存在し、原告は、これらのパソコンについて、AutoCADLTの複製が確認されたが、シリアル番号が不明であったものとしてカウントしていることが認められる。また、証拠(乙12、20)及び弁論の全趣旨によれば、バージョン2017以降のAutoCADLT及びバージョン2017以降のAutoCADについては、シングルユーザータイプであるかマルチユーザータイプであるかにかかわらず、それぞれのバージョン2016以前とは異なり、インストール時又はセットアップ初期化時にはシリアル番号を入力せず、その後ソフトウェアを起動してアクティベートする時にシリアル番号を入力する仕様とされたことから、ライセンス転送ユーティリティを利用していったんインストールしてアクティベーションを行ったコンピュータから別のコンピュータにライセンスを移動した場合に限らず、コンピュータのWindowsレジストリには、シリアル番号が入力されず、「000-00000000」と書き込まれるようになったことが認められる。これらの事実に照らすと、本件証拠保全において、AutoCADLTの複製が確認されたパソコンのうち、原告において、シリアル番号が確認されず不明であるとカウントしたものやシリアル番号が「000-00000000」となっていたものについて、シングルユーザー(スタンドアロン)タイプのプログラムがインストールされていたものと推認することはできないといわざるを得ず、原告の前記主張は、その前提を欠く。 前提事実(3)イ及び(4)のとおり、被告は、本件証拠保全当時、AutoCADLTに関し、マルチユーザーの保守プラン20シート及びシングルユーザーの保守プラン129シートを保有しており、マルチユーザーの保守プランはファイルサーバ以外のパソコンへの複製については制限なく許諾されている。そうすると、本件証拠保全時において、対象3校で合計22台のパソコンにAutoCADLTの複製が確認されたとしても、当該複製数自体が前記シングルユーザーの保守プランに係るライセンス数の範囲内であることに加え、前記22台のパソコンにはマルチユーザーの保守プランに係るライセンスによる複製が含まれている可能性があることから、前記本件証拠保全の結果から、対象3校において、被告が保有するライセンス数を超過した違法な複製がなされていたとは認められない。また、証拠(乙15の1〜4、乙21)及び弁論の全趣旨によれば、被告では、被告が予め各講座のスケジュールを設定した上で受講生を募集するのではなく、受講生が希望する日時と講師のスケジュール及びソフトウェアのライセンス数とを突き合わせて受講予約を受け付けており、全校の教室を対象として、保有する各ソフトウェアのライセンス数を超えて受講予約を受け付けることができない予約管理システムを導入していたことが認められ、対象3校を含む合計58校のスクールにおいて、ライセンスによって許諾された数を超過して本件各ソフトウェアが同時に使用されていた実態があったこともうかがえない。 (2)原告は、被告が、本件証拠保全の前後において、新規にAutoCADLT製品を購入した本数が大幅に増加していることを指摘して、これは、本件証拠保全により違法複製がはばかられる状態となり、不足分の適法化のために製品購入を急いだものと考えられる旨を主張するが、本件証拠保全後に新規に本件各ソフトウェアを購入したからといって、直ちに従前の違法複製が推認されることにはならない。 (3)以上によれば、原告の主張には理由がなく、その他、被告が本件各ソフトウェアを違法に複製したことを認めるに足りる証拠はない。 2 以上から、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 武宮英子 裁判官 杉浦一輝 裁判官 峯健一郎 (別紙1)ソフトウェア目録
(別紙2)につき省略 |
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