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【事件名】「幻想水滸伝シリーズ」楽曲事件 【年月日】令和4年9月8日 東京地裁 令和3年(ワ)第3201号 著作権侵害損害賠償等請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年7月4日) 判決 原告 株式会社コナミデジタルエンタテインメント 同訴訟代理人弁護士 城山康文 同 舩越輝 同 鷲見彩奈 被告 A(以下「被告A」という。) 被告 ワイズマンプロジェクト合同会社(以下「被告会社」という。) 主文 1 被告らは、別紙被告ら物件目録1記載のアルバム又は同目録2記載のいずれかの楽曲を複製し、送信可能化し、又は公衆送信してはならない。 2 被告らは、別紙被告ら物件目録1記載のアルバムが収録されたコンパクト・ディスクを複製、輸入又は譲渡してはならない。 3 被告らは、別紙被告ら物件目録1記載のアルバム及び同目録2記載の楽曲の音源を収録した媒体並びに前項記載のコンパクト・ディスクを廃棄せよ。 4 被告らは、原告に対し、連帯して、165万円及びうち150万円に対する令和2年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を、うち15万円に対する令和3年2月24日から支払済みまで年3%の割合による金員をそれぞれ支払え。 5 原告のその余の請求を棄却する。 6 訴訟費用は、これを5分し、その2を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。 7 この判決は、第4項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主文第1項〜第3項と同旨 2 被告らは、原告に対し、連帯して、429万1680円及びうち379万1680円に対する令和2年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を、うち50万円に対する令和3年2月24日から支払済みまで年3%の割合による金員をそれぞれ支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、別紙著作物目録記載の各楽曲に係る著作権を有するところ、被告らによる以下の権利侵害行為を主張して、被告らに対し、著作権法(以下「法」という。)112条1項に基づく別紙被告ら物件目録2記載の各楽曲(以下「本件楽曲」という。なお、同目録1記載のアルバムは、本件楽曲を収録したアルバムであり、同アルバムを含めて、本件楽曲ということがある。)の複製、送信可能化及び公衆送信の差止め並びに本件楽曲を収録したコンパクト・ディスク(以下「本件CD」という。)の複製、輸入及び譲渡の差止めと、法112条2項に基づく本件楽曲の音源を収録した媒体及び本件CDの廃棄を求めると共に、不法行為(民法709条、719条1項前段)又は会社法597条に基づき、連帯して、429万1680円の損害賠償並びにうち379万1680円(法114条2項又は3項により算定した損害金)に対する不法行為後である令和2年4月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5%の割合による遅延損害金及びうち50万円(弁護士費用相当損害金)に対する令和3年2月24日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の各支払をそれぞれ求める事案である。 (1)別紙著作物目録に赤字で記載された楽曲(以下「原告楽曲」という。)に依拠して本件楽曲の譜面を作成し、原告楽曲を編曲した(以下「本件編曲行為」という。)ことによる原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権。法27条)の侵害 (2)本件楽曲をオーケストラ等により演奏・録音し、本件楽曲を録音・複製した(以下「本件録音・複製行為」という。)ことによる原告の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(複製権。法28条、21条)の侵害 (3)本件楽曲及び本件CDを音楽配信サイト等において販売し、本件楽曲及びその複製物を譲渡・配信した(以下「本件譲渡・配信行為」という。)ことによる原告の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)。法28条、26条の2第1項、23条1項)の侵害 (4)本件CDの販売等に当たり、国外で制作された本件CDを輸入した(以下「本件輸入行為」という。)ことによる原告の著作権の侵害(法113条1項1号) 2 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ。)。) (1)当事者等 ア 原告 原告は、ソフトウエアの制作・販売やレコード、テープ、ディスク、フィルム等による録音及び録画物の企画、制作及び販売並びにその原盤の制作・取得及び譲渡・使用許諾等を主たる事業とする会社であり、家庭用ゲーム等の制作・配信・販売を行っているほか、ゲームコンテンツと連動した音楽CDや映像DVDの制作・販売を行っている。 イ 被告ら 被告会社は、平成27年7月に設立され、音楽・映像プログラム、ディスク、データの制作・販売業務、芸術家・芸術団体のマネージメント、及びプロモート業務等を主たる目的とする会社である。 被告Aは、被告会社の代表社員かつ業務執行社員を務めている。 ウ VGM社 VGMClassics,LLC(以下「VGM社」という。)は、アメリカ合衆国ニューメキシコ州アルバカーキ市内に主たる営業所を有し、平成30年5月3日に設立された会社である(甲3、4)。 同社は、同年6月、日本国内における契約交渉、ライセンス料の支払等の業務を取り扱う日本事務所を東京都品川区に設置した。また、被告Aは、同社の日本国内全権代理という地位にあったが、平成30年9月にこれを辞任した(なお、日本国内全権代理の権限は、日本事務所に宛てられた信書の代理受取り及び本社からの信書の代理発送とされる。)。その頃、同社日本事務所の「日本国内連絡先」は、「ライセンス&CS担当:B」と表示されていたが、同年12月、日本事務所は閉鎖された。(甲5、6、乙10、57) なお、VGM社の設立証明書及びこれに添付された同社の定款には代表者の記載がない(甲3、4)。もっとも、令和2年4月4日付けVGM社のプレスリリース(甲37)中の「企業情報」には「代表者名B」と記載されている。また、令和3年1月5日時点のAmazonの本件CDのページ(甲27)では、販売元が「ILDistributionLLC」(以下「ILDistribution社」という。)とされているところ、ILDistribution社の「出品者プロフィール」(甲38)には、「販売業者」としてVGM社が表示され、「運営責任者名:(Bのアルファベット表記)」と記載されている。 「(Bのアルファベット表記の一部)」は、英語の男性名で、「(Cのアルファベット表記)」等を愛称形とし、「(Bのアルファベット表記の一部)」は「(省略)」を意味する(甲39)。 なお、ILDistribution社は、米国法人と見られるものの(乙2)、その設立準拠法、設立日及び代表者等は証拠上明らかでない(乙54、63)。 エ CLASSICAL社 CLASSICALNOVALTD(以下「CLASSICAL社」という。)は、平成31年1月にイスラエルにおいて設立された法人であるが(乙9)、その代表者は不明である。 同社のウェブサイト(甲51)には、取扱商品として本件楽曲を含む被告Aの作品が掲載されると共に、「AssociateArtists・アーティスト」欄には被告Aの写真が掲載され、また、「CD・アルバム購入」欄にはVGM社及び被告会社のウェブサイトへのリンクが掲載されている。 被告Aは、少なくとも平成31年3月27日頃、その住所地において、CLASSICAL社の「代理連絡先」、「CLASSICALNOVALTD担当」を務めていたが、同年4月頃、これを辞職した(甲40、乙14、53)。 (2)原告楽曲 原告楽曲は、コナミホールディングス株式会社から発売されたロールプレイングゲーム「幻想水滸伝」シリーズのうち、平成7年12月発売の「幻想水滸伝」及び平成10年12月発売の「幻想水滸伝II」において使用されている楽曲である(甲8)。 原告楽曲は、コナミ株式会社(以下「コナミ社」という。)と株式会社コナミコンピュータエンタテインメント東京(以下「KCET社」という。)との間の開発委託契約に基づき、KCET社により制作されたものであるところ、その著作権は、上記契約に基づき、コナミ社に帰属した(甲9、甲11)。その後、原告楽曲の著作権は、コナミ社からKCET社に譲渡され、さらに、KCET社のコナミ社への吸収合併、コナミ社から原告への会社分割を経て、平成18年3月31日、原告がこれを承継した(甲9〜16)。 (3)本件楽曲 ア 被告Aは、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面の作成作業を行ったところ、本件楽曲は、原告楽曲の表現上の本質的特徴と同一性を有する(本件楽曲と原告楽曲の対応関係は、別紙著作物対比表記載のとおりである。ただし、本件楽曲のうち同対比表の番号6、19、23の楽曲については、被告らは、これらに対応する原告著作物のうち、「原告著作物」欄の上段に記載された楽曲を参考にして譜面を作成したことは認めるが、その中段及び下段に記載された楽曲とは旋律が共通し、似た楽曲であるという限りで認めるにとどまる。)。 本件楽曲につき、平成31年1月20日、浜松市内でピアノ演奏及びその録音が行われ、また、同年3月2日〜同月4日及び同月6日、ハンガリーのブダペストにおいて、オーケストラ演奏及びその録音が行われた。 イ 本件CDは本件楽曲を収録したものであり、そのクレジットには、次のとおりの記載がある(甲41)。 ・楽曲の「Arranger」:被告A ・「OrchestraRecording」の「Conductor&RecordingDirector」:被告A ・「PianoRecording」の「RecordingDirectorandEngineer」:被告A ・「PostProduction」の「MixingandMasteringEngineer」:被告A ・「RecordPlanner」:VGM社 ・「RecordProducer」:CLASSICAL社 ・「ProductionPlanner」:被告会社 ウ 本件楽曲の譲渡・配信 (ア)本件CD及び本件楽曲は、令和元年6月1日にリリースされ、その頃から、Amazonのウェブサイト上で販売(ダウンロード配信、ストリーミング配信を含む。)されているほか、いずれも音楽配信サイトであるbandcamp、AppleMusic、Spotify及びBOOTH(以下、これらを併せて「本件音楽配信サイト」という。)においてもダウンロード配信ないしストリーミング配信がされた(甲25〜32)。また、リリース前には、TwitterやYouTubeを通じて、本件楽曲がオーケストラによる演奏風景等として配信され、一般の視聴に供された(甲33)。 (イ)本件楽曲の制作に当たってはクラウドファンディングが行われた(以下「本件クラウドファンディング」という。)。本件クラウドファンディングでは、寄付者に対し、寄付金額に応じて、「mp3ダウンロード、HD/ハイレゾ音源ファイル、限定プレスCD」等が「報酬」として提供される仕組みとなっており、平成31年4月頃、これが実行された(甲34、35)。 (ウ)本件CD(甲25)には「?2019CLASSICALNOVALTD」と表示されると共に、そのパッケージにはCLASSICAL社のほか、VGM社及び被告会社のロゴが表示されている。また、Amazonの本件CD及び本件楽曲の商品ページ(甲27、28)では、メーカーないしレーベルはCLASSICAL社である旨が表示されている(前記のとおり、本件CDの販売元としてはILDistribution社が表示されている。)。さらに、音楽配信サービスのうち、bandcamp(甲29)ではVGM社名義で配信され(ただし、「hostedbyILDistribution」とも表示されている。)、AppleMusic(甲30)では「?2019CLASSICALNOVA」と、Spotify(甲31)では「?2019CLASSICALNOVA」、「?2019CLASSICALNOVA」と、それぞれ表示されている。また、BOOTH(甲32)では、VGM社名義で配信されると共に(ただし、「HostedbyILDistribution」とも表示されている。)、「(P)2019CLASSICALNOVALTD」などとも表示されている。Twitter及びYouTubeによる配信は、いずれもVGM社のアカウントにより行われている(甲33)。 他方、本件クラウドファンディングは、VGM社名義で行われた(甲34〜37)。 また、本件CDは、並行輸入品としてVGM社名義で日本国内に輸入され、日本国内のAmazonの物流拠点に送付された(甲27、52、53)。 (4)本件訴訟に至る経緯 ア 被告Aは、VGM社の「日本国内全権代理」として、原告に対し、平成30年7月10日付け「音楽レコードにおける楽曲使用料の支払申請」と題する書面(甲6。以下「VGM社書面1」という。)を送付し、VGM社が製作する音楽レコードを販売するに当たり、原告楽曲を含む楽曲の使用を予定しており、その使用料を支払うとして、支払先の金融機関等を連絡するように求めた。 これに対し、原告は、同年9月10日、VGM社の「日本国内全権代理」である被告Aに対し、VGM社の上記申請は日本及びアメリカの著作権法の要件をいずれも満たさないなどとしてこれを拒絶し、原告の「著作物を無断で利用した物品の販売は、権利侵害物」として対応する旨を回答した(乙72。以下「原告書面1」という。)。 イ その後、VGM社日本事務所の「ライセンス&CS担当」と称する「B」なる者は、同月14日付け書面(以下「VGM社書面2」という。)により、原告に対し、原告書面1に対する返事等をした(乙57)。 しかし、原告は、同年12月10日、VGM社書面1及びVGM社書面2に対する回答として、原告書面1がいずれも専門家の確認等を経たものであることを説明すると共に、日米以外の国において原告の著作物の無断利用の事実が確認できた場合はしかるべき法的措置を行う旨を回答した(甲66。以下「原告書面2」という。)。 ウ VGM社日本事務所の「B」は、原告に対し、関連楽曲のCD制作・販売等の業務の全てを同年11月にイスラエル法人に移譲したこと、今後は同法人から、原告によりレコード録音・出版が行われている楽曲につき、使用料と支払に関する協議が申請される予定であることなどを記載した同年12月19日付け書面(甲42。以下「VGM社書面3」という。)を送付した。 また、被告Aは、原告に対し、CLASSICAL社の担当として、原告が著作権を保有する楽曲を使用することとしたこと、イスラエル著作権法32条に従い、「楽曲の使用の事前通達と支払い申請」を行う旨の平成31年3月27日付け書面(甲40。以下「CLASSICAL社書面1」という。)を送付した。 しかし、原告は、同年4月12日、CLASSICAL社に対し、強制許諾により本件楽曲の製造、販売を行おうとすることに遺憾の意を表するなどと記載した書面(甲56。以下「原告書面3」という。)を送付した。 エ CLASSICAL社は、同月14日頃、原告書面3に対する回答(乙15の1)をした上で、原告に対し、CLASSICAL社書面1で伝えた楽曲使用ライセンス料(7150NIS=220,145円)の支払を申請する旨の令和元年5月9日付け書面(乙15の2。以下「CLASSICAL社書面3」という。)を送付し、支払先の銀行口座の指定を求めた。しかし、原告がこれを拒否したことから、被告会社は、CLASSICAL社の委託に基づき、同月13日、債権者である原告の受領拒否を供託原因、原告を被供託者として、CLASSICAL社のために22万0931円を第三者供託した(甲43)。 オ 本件CD及び本件楽曲の音楽配信サイトの一つであるBOOTH事務局は、同年6月12日、VGM社に対し、原告から本件楽曲(本件CD及びハイレゾ版)の出品中止を求められたため、その商品ページを非公開とした旨を連絡した(乙6の1)。 カ 原告は、令和3年2月9日、本件訴訟を提起するとともに、VGM社を債務者とする仮処分命令申立てを行った(以下「本件仮処分命令申立事件」という。)。 3 争点 (1)本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為の主体(争点1) (2)本件編曲行為による原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)侵害の成否(争点2) (3)本件録音・複製行為による原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権)侵害の成否(争点3) (4)本件譲渡・配信行為による原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))侵害の成否(争点4) (5)本件輸入行為による原告の著作権侵害(みなし侵害)の成否(争点5) (6)原告の損害額(争点6) 4 争点に関する当事者の主張 (1)争点1(本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為の主体)について (原告の主張) ア 被告Aは、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面を作成し、もって原告楽曲を編曲した(本件編曲行為)。また、本件CD記載のとおり、被告Aは、被告会社、VGM社及びCLASSICAL社と一体となって、本件楽曲のピアノ演奏及びオーケストラ演奏を録音し、もって原告楽曲を複製した(本件録音・複製行為)。 イ Amazon及び本件音楽配信サイト等における本件楽曲及び本件CDの譲渡・配信(本件譲渡・配信行為)並びに本件CDを販売・配布するために行われた本件CDの日本国内への輸入(本件輸入行為)は、いずれも、形式上はCLASSICAL社、ILDistribution社及びVGM社という異なる法人格を有する主体が関与して行われたものであるが、次の事情によれば、本件編曲行為、本件録音・複製行為を含む一連の行為は全て、被告Aのために、被告Aの行為として行われたものである。仮にそうでないとしても、これらの行為は、被告Aの主導のもと、被告会社、VGM社、CLASSICAL社及びILDistribution社が一体となって共同して行ったものである。 (ア)VGM社の代表者は「B」であるところ、「(Bの一部)」の愛称形が「C」であること、「(Bの一部)」が(省略)すなわち(省略)を意味し、「A」を連想させることから、「B」は被告Aを指すことが強く推認される。また、被告Aが代表を務める被告会社の名称も、被告Aの氏名に由来するものと推認される。 (イ)被告Aは、VGM社の「日本国内全権代理」及びCLASSICAL社の「代理連絡先」として、原告に書簡を送付した。また、原告楽曲の利用許諾を得られないとみるや、被告会社名義で、著作権使用料の名目で供託をした。 (ウ)被告Aは、本件CDのクレジット表記によれば、本件楽曲のブタペストでのオーケストラ録音では「Conductor&RecordingDirector」を、浜松のピアノ録音では「RecordingDirectorandEngineer」を務め、「PostProduction」においては「MixingandMasteringEngineer」を担っている。加えて、被告Aは、「Arranger」としても名を連ねている。このように、被告Aは、本件楽曲の制作、販売及び輸入において主要な役割を果たしている。 (エ)本件訴訟において、被告らは、被告ら又は関係者のいずれかが作成したものであるとして複数の書証を提出しているが、これらには、所定の権限を有する個人の署名ないし記名がされていないものが多数含まれる。しかも、被告らは、文書の作成者等に関する具体的な主張を求める裁判所の釈明に対してもこれを明らかにせず、その理由も不合理である。他方、上記書証には、日本独特の文化である割印がされたものが含まれる。 (オ)被告らは、VGM社、CLASSICAL社及びILDistribution社の代表者名を頑なに明らかにしようとせず、その合理的な理由の説明もない。 (カ)被告らは、本件楽曲の制作・販売に際し、CLASSICAL社の監督の下に実演家等の手配等を行ったり、依頼を受けて音楽監督に就任したなどとしながら、数百万円の金員を負担し、また、レコード制作に係る報酬を受け取っていないとしている。 (キ)被告Aは、自ら開設するTwitterやYouTubeチャンネル、VGM社名義の動画において、本件クラウドファンディングへの協力を呼び掛けるなど、広く告知をしている。 (ク)ILDistribution社は、Amazon上では被告Aの制作するCDしか取り扱っておらず、VGM社及びCLASSICAL社は、そのウェブサイト上で本件楽曲や被告Aに関する情報を積極的に掲載している。これらの事情をも併せ考慮すると、これら各社は、本件CD及び本件楽曲の流通を正当化するために設立された名目的な法人にすぎないと見られる。 (ケ)本件仮処分命令申立事件において、その債務者であるVGM社の意見書を2回にわたり被告Aが裁判所に提出したことなどから、被告Aがいずれの意見書も作成し、提出したと推認される。 ウ 仮に本件楽曲の制作、販売及び輸入に係る一連の行為が全て被告Aを中心として行われたものでないとしても、被告Aは、原告楽曲をアレンジして譜面を作成するなどの編曲行為等を行った。これがあったからこそ、本件CDの製作、日本への輸入、本件CDの販売及び配信という著作権侵害行為が行われたのである。また、被告Aの自宅で本件楽曲の譜面の作成等が行われ、かつ、浜松市でピアノ録音が行われたことは、少なくとも被告らの共同行為である。 したがって、被告らは、著作権侵害行為を共同して行ったものとして、共同不法行為責任に基づく損害賠償義務を負う(民法709条、719条1項前段)。また、被告Aは被告会社の業務執行役員であるから、業務を執行する有限責任社員の第三者に対する損害賠償責任に基づく損害賠償義務を負う(会社法597条)。 (被告らの主張) ア 否認ないし争う。被告らは、本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為をいずれも行っていない。 本件CDは、イスラエルにおいて、CLASSICAL社により制作された上でILDistribution社に対する一次販売が行われ、頒布された。本件譲渡・配信行為はその再販売であり、いずれもVGM社が行っている。また、VGM社による本件クラウドファンディングの寄付者に対する本件CDの配布等は、ILDistribution社によりイスラエルから直接行われた。 他方、被告会社は、CLASSICAL社との契約に基づき、CLASSICAL社の監督の下、本件CDに収録された本件楽曲の素材を検討・準備し、実演を行う実演家やスタジオの手配、実演、実演素材の編集やミックス業務を実施し、ステムミックスをCLASSICAL社に納めた。 このように、本件CDの制作、販売等を行ったのはCLASSICAL社及びVGM社であり、被告らは、本件楽曲の譲渡・配信を行っていない。また、これらの法人は、被告らとは別の法人格を有する。そうである以上、被告らとこれら法人とが一体であるとはいえない。 イ 原告が被告らとVGM社等との一体性を裏付けるものとする事情について (ア)VGM社によれば、「B」は、感謝や貢献、友好の意思表示として名付けられたチーム名であり、VGM社に「B」というチーム名で活動している者がいることを意味するにすぎない。 (イ)被告Aは、VGM社の日本国内全権代理やCLASSICAL社の代理連絡先を務めたことはあるが、原告楽曲の利用について交渉したのはVGM社であり、ライセンス料を供託したのはCLASSICAL社であって、被告Aではない。 (ウ)被告AがCLASSICAL社及び被告会社との契約に基づき国内外で特定の活動をしたことはあるが、そのことから、被告Aが一連の行為を主導したことにはならない。 (エ)原告指摘に係る書証には各法人の名称が明記され、捺印されており、会社の署名としてはこれで事足りる。書類を作成した具体的な担当者については、各社の「職業の秘密」に抵触しない範囲で真摯に回答している。 (オ)法人には人格が認められており、自然人の人格とは異なるのであるから、法人の代表者が誰であるかは本件では関係がなく、そのような情報の開示を要求することに合理性や正当性はない。 (カ)被告らが本件楽曲の制作、販売に際し金銭的負担を引き受けたのは、CLASSICAL社との間の合意によるものである。合意の当事者でない原告が合意内容に対して不自然と主張しても何の意味もない。 (キ)被告Aが協力を呼び掛けたのは、キャンセルされたクラウドファンディングへのものであり、本件クラウドファンディングとは関係しない。また、人が自らにとって価値のある・意味のある活動を応援するなどする行為はごく自然なものである。 (ク)各法人は法人格を有し、活動の主体となることができるのであって、「名目的な法人」というのは原告の主観にすぎない。 (ケ)被告Aが、VGM社の本件仮処分命令申立事件に関する資料を裁判所に提出したのは、VGM社からその旨の依頼があったからである。 (2)争点2(本件編曲行為による原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)侵害の成否)について (原告の主張) ア 被告Aは、(住所は省略)の自宅において、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面を制作した(本件編曲行為)。その際、被告Aは、オーケストラを構成する楽器の選択やアレンジ手法、演奏人数等に創意工夫を凝らすことで、原告楽曲の表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ、原告楽曲に新たな創作性を付加した。したがって、本件編曲行為は、原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)を侵害するものである。仮に創作性の付加が否定されるとしても、本件楽曲の譜面の制作は原告楽曲の複製に当たり、原告の著作権(複製権)を侵害するものである。 イ 被告らの主張について (ア)「検討の過程における利用」(法30条の3)として許されるためには、本件では、法69条による裁定を受けて著作物を利用しようとする場合であることを要する。しかし、原告は、文化庁長官の裁定を受けた補償金の支払やその申し出を受けたことや、供託を受けたことはない。したがって、被告らは、法69条による裁定を受けて著作物を利用しようとはしていないから、本件における譜面作成行為が「検討の過程における利用」として許されることはない。 (イ)本件編曲行為が行われたのは日本国内であるから、イスラエル著作権法は、何ら被告らの侵害行為を免責するものではない。 (被告らの主張) 否認ないし争う。本件楽曲は、原告楽曲の複製であり、翻案(編曲)したものではない。 すなわち、本件CDに収録された楽曲は、ゲーム音楽としての性質及び基本的には楽譜が存在しない音楽であるという性質から、オーケストラという演奏体を用いてのレコード制作・レコードの複製を行うために、楽曲に対し必要な変更を施したものである。この観点からの変更は、一般的・音楽的視点での編曲ではあり得ても、著作権法上の「編曲」すなわち翻案ではない。 また、被告Aによる譜面の作成は、被告会社がCLASSICAL社との契約に基づき、本件楽曲のレコードにおける複製に必要と思われる素材の作成と検討の過程で行われたものである。このため、それが日本で行われたとしても、「検討の過程における利用」(法30条の3)として許されるから、原告の複製権や翻案権の侵害とはならない。そもそも、被告会社は、この検討をCLASSICAL社の用意した国外サーバー上で作成・固定しており、検討用の楽譜は日本国内で作成・固定されていない。 さらに、本件CDに収録された本件楽曲は、イスラエルにおいて、イスラエル著作権法上原告の許諾を必要しない変更を原告楽曲に加えたものであり、イスラエル著作権法上許容されるものである。 (3)争点3(本件録音・複製行為による原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権)侵害の成否)について (原告の主張) 本件楽曲は、被告Aが作成した譜面により、ハンガリーにおいてオーケストラ録音が行われると共に、浜松市内でピアノ録音が行われた。これにより、本件楽曲が複製された(本件録音・複製行為)。 したがって、本件録音・複製行為のうち、少なくとも浜松市で行われたピアノ録音は、原告楽曲の翻案物である本件楽曲に関する原著作者としての原告の権利(複製権。法28条、21条)を侵害するものである。 上記ピアノ録音が「検討の過程における利用」として許されることがないことは、譜面作成の場合と同様である。 (被告らの主張) 否認ないし争う。被告らは、本件CDの複製を行ったことはない。本件CDの複製はCLASSICAL社によりイスラエルで行われた。 浜松市で行われたピアノ録音は、CLASSICAL社の監督のもと、本件CDの実演の一部として使用される音の検討素材となったものであり、「検討の過程における利用」として利用が認められる。したがって、上記ピアノ録音は、原告の複製権の侵害にはならない。 CLASSICAL社は、ピアノ収録をした時点で著作権者からの許諾や法69条による裁定を受けて著作物を利用することを検討していた。最終的に権利者の許諾や同条の裁定を受けたことは、法30条の3の要件とされていない。 (4)争点4(本件譲渡・配信行為による原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))侵害の成否)について (原告の主張) ア 本件CD及び本件楽曲は、Amazonや本件音楽配信サイト等で譲渡・配信されている(本件譲渡・配信行為)。これらはいずれも原告楽曲の翻案物(又は少なくとも複製物)であるから、本件譲渡・配信行為は、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)。法28条、26条の2第1項、23条1項)を侵害するものである。 イ たとえCLASSICAL社がレコード製作者の権利(著作隣接権)を有するとしても、それは著作権侵害を免責するものではなく、抗弁にはならない。 また、TwitterやYouTubeにおける本件楽曲の配信において米国著作権法上のフェアユースとして使用されているとの表示があるとしても、日本語による日本向けの配信が米国著作権法上フェアユースであることは著作権侵害に対する抗弁とはならないし、当該表示があることで米国著作権法上フェアユースの要件を満たすものでもない。 (被告らの主張) 否認ないし争う。本件譲渡・配信行為を行ったのは被告らではない。そもそも、本件CDの譲渡権、送信可能化権は、レコード製作者であるCLASSICAL社が専有しており(法97条の2、96条の2)、原告は本件CDの譲渡権、公衆送信権、送信可能化権を有しない。 また、VGM社のTwitterアカウントでは、「USfairuseforNEWS」という米国著作権法におけるフェアユースである旨の表記と共に収録風景の一部がニュース動画として配信されている。VGM社のYouTubeチャンネルにおいても、「TherecordingwasusedbypermissionfromtherecordproducerwithinthelimitationofUSfairuse(この録音は、レコード製作者の許諾により、米国フェアユースの範囲内で使用されている)」として、レコード製作者であるCLASSICAL社に許可をとり米国著作権法におけるフェアユースの範囲内での抜粋であると明記されており、これと共に本件CDのプレビュー動画の配信リンクの出典が確認できる。したがって、このようなTwitterやYouTubeでの配信は、米国著作権法上、適法な利用である。 (5)争点5(本件輸入行為による原告の著作権侵害(みなし侵害)の成否)について (原告の主張) 本件CDは、Amazon上で販売されると共に、本件クラウドファンディングの寄付者に対しても配布された。このことから、外国でプレスされた本件CDが日本国内に輸入されたことがうかがわれる(本件輸入行為)。 本件編曲行為は、仮にそれが日本国外で行われていたとしても、輸入時に日本で行われたとしたら原告の翻案権(法27条)を侵害する行為である。ハンガリーでのオーケストラ録音も、日本で行われたとしたら原告の複製権(法28条、21条)を侵害するものである。 したがって、本件輸入行為は、「国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば...、著作権...の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為」(法113条1項1号)として、みなし侵害を構成する。 ハンガリーでのオーケストラ録音が「検討の過程における利用」に該当しないことは、譜面作成等の場合と同様である。 (被告らの主張) 否認ないし争う。被告らが本件CDの輸入を行ったことはない。 米国法人であるVGM社が外国で製作された本件CDを日本に送付する行為は、「輸出」であって「輸入」ではない。また、ハンガリーでのオーケストラ録音は、「検討の過程における利用」に該当し、「国内で作成したとしたならば...著作権...の侵害となるべき行為」には当たらないから、みなし侵害を構成しない。 (6)争点6(原告の損害額)について (原告の主張) 被告らの著作権侵害行為による原告の損害額は、著作権侵害行為により被告らが得た利益額から推定される額(法114条2項)又は「その著作権...の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(同条3項)のうち、高額なものである。 ア 被告らの利益額に基づく推定損害額(法114条2項) (ア)本件CDの販売価格は3300円であり、令和2年12月31日の段階で、被告らにより一般販売された本件CDは697枚に上る。このため、本件CDの売上は、本件訴訟提起時までに、少なくとも230万0100円(=3300円×697枚)であったことになる。 また、被告らは、Amazonや本件音楽配信サイトで本件楽曲のダウンロード配信ないしストリーミング配信を有償で行っている。これらのプラットフォーム上で本件CDの売上枚数と同等のダウンロード配信又はストリーミング配信があったと仮定すると共に、BOOTH上での本件楽曲のダウンロード料金が3500円であることに鑑みると、ダウンロード配信ないしストリーミング配信により、少なくとも243万9500円(=3500円×697回)の売上があったことになる。 したがって、被告らは、令和2年12月31日までに、本件著作権侵害行為により、少なくとも合計473万9600円(=230万0100円+243万9500円)の売上を上げており、本件訴状送達の日までの売上総額は同額を下らない。 さらに、被告らは、著作権者に著作権料を支払わず、レコード会社等を介在させずに自前で本件CDの販売等を行った上、本件クラウドファンディングにより411万9799円を本件CDの制作や本件楽曲の配信経費として確保している。これを踏まえると、本件CDの販売等に係る利益率は80%を下らない。 以上によれば、令和元年6月以降、被告らが得た利益の額は、379万1680円(=473万9600円×80%)を下らない。したがって、同額が被告らの著作権侵害行為による原告の損害の額と推定される。 加えて、被告らの不法行為により、原告は本件訴訟の提起を余儀なくされ、弁護士を代理人として委任する必要が生じた。その弁護士費用は50万円を下らない。 以上より、原告には、少なくとも429万1680円(=379万1680円+50万円)の損害が生じている。 (イ)仮に被告らの主張を前提とすると、被告らの売上額は、本件クラウドファンディングの集金額356万円、本件CDの売上額2万6400円及び本件楽曲の日本国内のダウンロード配信ないしストリーミング配信の売上額20万0601円の合計378万7001円となる。他方、認められる経費は、最大でも、オーケストラ費用301万5264円及びハンガリー渡航時の飛行機代13万2134円の合計314万7398円である。 そうすると、この場合、被告らは、少なくとも、63万9603円(=378万7001円−314万7398円)の利益を得ていることになる。したがって、同額が被告らの著作権侵害行為による原告の損害の額と推定される。 加えて、上記のとおり、弁護士費用は50万円を下らないから、原告には、少なくとも113万9603円の損害が生じている。 イ 使用料相当の損害額(法114条3項) CLASSICAL社が平成31年3月27日時点で本件CDないしその音源について複製を打診したのが3500枚分であることに鑑みると、被告らは、本件CDないしその音源について、3500枚分を生産する意図を有していたものと見られる。イスラエルでの本件CDの頒布はダミーの取引に過ぎず、被告らが3500枚分を生産し、全て日本市場で流通させる予定であったものと考えられる以上、その後の販売の有無に関わらず、3500枚分の複製を行ったものとして使用料相当額は算定される。 これを前提に、一般社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)の公開する使用料計算シミュレーション(以下「本件シミュレーション」という。)に基づいて計算すると、ライセンス料は概算で71万7255円となる。この算定はJASRACが公開している便宜的なシミュレーションに過ぎず、原告楽曲はJASRACに管理を委ねているものでもない。仮に原告が本件楽曲の使用を許諾する場合には、JASRACの使用料規程を大幅に超える使用料となることが想定され、かつ、無許諾で使用された場合の事後的に評価される使用料相当額であることを考慮すると、使用料相当額は、最低でもこの5倍を下らない。 したがって、使用料相当額は358万6275円(=71万7255円×5)となる。 加えて、上記のとおり、原告の弁護士費用は50万円を下らないから、使用料相当額の損害に基づくと、原告には、少なくとも408万6275円(=358万6275円+50万円)の損害が生じている。 (被告らの主張) ア 被告らの利益額に基づく推定損害額について 否認ないし争う。被告らは、本件CDの販売等を行っておらず、一切の利益を得ていない。また、本件クラウドファンディングによっても、被告らは、売上ないし報酬を得ていない。 Amazonにおける本件CDの売上は2万6400円、本件楽曲のダウンロードないしストリーミング配信による日本国内での売上は約20万0602円である。他方、本件クラウドファンディングは、VGM社により米国企業であるKickstarter社のプラットフォームにおいて行われ、その寄付金はVGM社に入金されたものであり、これを利益ないし損害に算入することは不当である。 さらに、経費として、VGM社は、平成30年12月26日、オーケストラ収音にあたり、ブダペスト音楽スコアリングスタジオに対し前払金1万ドル、ブダペスト管弦楽団プロダクション料として前払金2万2000ドルをそれぞれ支払った。加えて、被告会社は、平成31年3月20日、ブダペスト交響楽団に対し、追加費用として301万8764円を支払った。このため、オーケストラ収音のために合計656万0514円が支払われた。このほか、被告Aは、ハンガリーへの出張費用として、飛行機代13万2134円及びその他の費用14万1764円を支払った。さらに、CLASSICAL社は、原告に対する法定ライセンス料として22万0931円を供託したところ、これも経費に含まれる。 利益率に関しても、一般的な小売手数料・納品時の価格率は7割程度であり、原告の主張は業界慣習その他による裏付けを欠く。 イ 使用料相当の損害額について 否認ないし争う。 被告らは、本件CDやデジタルレコードの販売・頒布を行ったことはない。これらは、CLASSICAL社がイスラエルで製作し、第一次販売をイスラエルで行っており、実際の生産枚数及び第1次販売数は、本件CDが1000枚、デジタルレコードが2000枚、販売価格は17NIS(585円。1NIS=34.4543円)である。 イスラエル国内における法定ライセンス料の計算にJASRACの計算式を適用するのは相当でないが、仮にこれによれば、本件CDについては概算使用料15万4460円(税込)、デジタルレコードにおけるライセンス料については概算使用料9万9099円(税込。なお、適用ライセンス料率は7.7%として算定。)となり、その合計額25万3559円から消費税分を除くと、ライセンス料は23万0509円となる。また、本件CDの価格につき定価なしとして算定した場合のライセンス料合計(消費税分を除外したもの)は、27万6390円となる。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為の主体)について (1)前提事実(前記第2の2)、争いのない事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア 被告Aは、遅くとも平成30年5月頃までに、ゲーム音楽のオーケストラ演奏、レコーディング、CD販売等を企画し、音楽監督として、このような事業を目的とする米国法人VGM社の設立や、本件楽曲の演奏を行う実演家の選定に関与した(甲58,59、被告A本人)。その結果、VGM社は、同年5月3日設立され、同年6月には日本事務所を開設した。 イ 被告Aは、VGM社の「日本国内全権代理」として、原告に対し、同年7月10日付けのVGM社書面1を送付したが、その後の同月20日、Twitterの自身のアカウントにおいて、本件クラウドファンディングのウェブサイトへのリンクを貼付し、本件クラウドファンディングの開始を告知すると共に、本件楽曲制作の支援を求めた(甲44)。その後も、被告Aは、当該アカウントを通じて本件クラウドファンディングに関する情報発信を行った(甲44)。 また、同年8月14日、被告Aは、VGM社のYouTubeチャンネルにアップロードされた本件クラウドファンディングを紹介する動画に出演し、「音楽監督としてVGMClassicsの活動に貢献できることを大変嬉しく思います」、「皆さんぜひ私たちの活動にご協力ください」、「このクラウドファンディングのページをより多くの方々にシェアしていただきたく思います」などと、VGM社の活動内容及び本件クラウドファンディング等を紹介した(甲57)。 ウ 原告は、同年9月10日、VGM社の日本国内全権代理である被告Aに対し、VGM社の申請を拒絶することなどを内容とする原告書面1を送付した。 これに対し、「VGMClassics日本事務所」の「ライセンス&CS担当」と称する「B」は、同月14日付けのVGM社書面2を送付した。その中で、同人は、日米の著作権法に関するVGM社の見解を回答すると共に、「現在、レコード製作・および製作者を提携に興味をもつ他社に任せることも検討しております。」、「諸外国には、既に録音の実績がある楽曲に対し、レコード製作に関して米国や日本より自由な許諾・ライセンス制度をもつ国が数多くあり、例えば...イスラエル(著作権法32条)...などといった国家がそれにあたります。これらの国家では、法定ライセンス料がアメリカや日本より低価格であることもあり、...弊社としましては、米国または日本国の法律上でレコード制作を行いたいと考えておりますが、手続等があまりにも煩雑に・または長期化するようなことであれば、より自由な録音許諾・ライセンス制度を持つ国家の会社にレコード制作を完全委託することも検討中でございます。」などと説明した。 原告は、同年12月10日、VGM社に対し、原告書面2を送付してVGM社書面1及びVGM社書面2に回答すると共に、原告の著作物の無断利用が確認できた場合には法的措置を行う旨を回答した。 これを受け、「B」は、同月19日付けのVGM社書面3を送付し、原告に対し、関連楽曲のCD制作等に係る業務全てを同年11月に「イスラエル法人」に移譲したこと、今後は同法人から楽曲の使用料と支払に関する協議が申請される予定であることなどを伝えた。 なお、ここでいう「イスラエル法人」については具体的に明記されていないが、その後CLASSICAL社が設立され、本件楽曲の制作に関与したことなどに鑑みると、同社が念頭に置かれていたものと推察される。 エ 平成31年1月10日、イスラエル法人であるCLASSICAL社が設立された。 被告会社とCLASSICAL社は、本件楽曲のレコーディングに関する同月13日付けの「RecordingContract」と題する契約書(乙4)を作成した。同契約書によれば、本件CDの制作者(”Producer”)であるCLASSICAL社の直接の監督のもとに、音楽家(”Musician”)である被告会社がオーケストラ録音に必要な音楽的素材(音楽的スケッチ、楽譜やパート譜)を検討、準備すること、素材には音楽的変更が含まれることもできるが、そのような変更はイスラエル著作権法32条、50条の規定に従い準備されることなどが定められている。 オ 本件楽曲のピアノ演奏及びその録音は、平成31年1月20日に浜松市内で行われたところ、被告Aは、音楽監督としてピアニストを選定すると共に演奏の録音作業を行った。 また、本件楽曲のオーケストラ演奏の録音は、同年3月2日〜同月6日(同月5日を除く。)にかけてハンガリーのブダペストで行われたところ、被告Aは、オーケストラ演奏の指揮、録音、ミックス作業等を担当した。 なお、被告Aは、時期不詳ながら、これらの録音に先立ち、日本国内において、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面の作成作業を行った。 カ 被告Aは、CLASSICAL社の担当として、原告に対し、同月27日付けのCLASSICAL社書面1を送付した。同書面には、CLASSICAL社が原告が著作権を保有する楽曲を使用することになったこと、イスラエル著作権法32条により、音楽著作物のレコードにおける複製は、楽曲の使用を事前に通知し、法定ライセンス料を支払う等の一定の条件を満たす場合には、著作権者の許諾を得る必要なく認められていること、仮に原告の許諾が得られなければ、使用料の支払をもって許諾に代えさせてもらうこと、などが記載されている。 これに対し、原告は、同年4月12日、CLASSICAL社の担当である被告Aに対し、強制許諾での製造、販売を行おうとするCLASSICAL社に対し遺憾の意を表する旨などを記載した原告書面3を送付した。 これを受け、CLASSICAL社は、原告に対し、令和元年5月9日付けのCLASSICAL社書面3を送付し、楽曲のライセンス料(22万0145円)の支払を申請する旨などを伝えた。しかし、原告がこれを拒否したことから、同月13日、被告会社は、CLASSICAL社の委託に基づき、原告の受領拒否を供託原因として、22万0931円を第三者供託した。 キ 令和元年5月23日、CLASSICAL社、VGM社及びILDistribution社は、「SalesandKickstarterShippingServiceAgreement」と題する契約書(乙2)を作成した。同契約書においては、CLASSICAL社が”PRODUCER”、VGM社が”FUNDRAISER”、ILDistribution社が”BUYER”とされ、イスラエルにおいて、CLASSICAL社がILDistribution社に対し本件楽曲に係る本件CDを1000枚、そのデジタルアルバムを2000枚販売し、販売代金を1枚当たり17NISとすること、VGM社がILDistribution社に本件クラウドファンディングの寄付者のリストを交付し、ILDistribution社が寄付者に対して本件CDの送付等を行うことなどが記載されている。 本件CD及び本件楽曲は、遅くとも同年6月1日にリリースされ、その頃からAmazonや本件音楽配信サイトにおいて販売、配信された。その後、CLASSICAL社は、原告に対し、同月6日付け「貴社が著作権を保有する楽曲を商用レコードをストリーミング配信に使用するための事前通達および使用料と支払に関する申請」と題する書面(乙38)を送付し、使用料の支払を申し出ると共に、担当者に支払に関する詳細を伝えたいとして返事を求めた。なお、同書面には、CLASSICAL社の担当者等に関する記載はない。 ク 原告は、令和3年2月9日、本件訴訟の提起と共に本件仮処分命令申立事件を申し立てたところ、被告Aは、自己の住所から本件仮処分命令申立事件に係るVGM社名義の資料を裁判所に提出した(甲62、63)。 (2)検討 ア 前提事実及び前記(1)認定の各事実によれば、被告Aは、遅くとも平成30年5月頃、ゲーム音楽のオーケストラ演奏、製作、販売等を企画し、これを事業として行うことを目的とするVGM社の設立に関与し(前記(1)ア)、また、同社名義での本件クラウドファンディングにより企画実現に必要な資金の調達を図る(前記(1)イ)と共に、同社の音楽監督として本件楽曲を演奏する実演家の選定に関与する(前記(1)ア)など、VGM社の設立や本件楽曲制作の初期作業において重要な役割を担っていたということができる。 また、被告Aは、同年7月頃から、VGM社の日本国内全権代理と称して、原告に対し、原告楽曲の使用許諾申請を行い(前記(1)イ)、同年12月頃に上記申請が拒否されると、同月、本件楽曲制作等に関する事業がイスラエル法人に譲渡された旨伝えた上で(前記(1)ウ)、平成31年3月頃、同年1月に設立されたイスラエル法人であるCLASSICAL社の担当者と称して、原告に使用許諾を申請しつつ、これに応じなければ、イスラエル著作権法に従い、使用料の支払により原告の許諾に代えさせてもらう旨を伝え、同申請も拒絶されると、被告会社の名義で、CLASSICAL社のために、使用料に相当すると主張する金額を供託したというのである(前記(1)カ)。このような一連の経過を全体として見ると、被告Aは、原告楽曲の使用許諾の取得又はこれに代わる制度を利用するため、当初はVGM社の名義で、後にCLASSICAL社の名義により、VGM社及びCLASSICAL社の担当者と称して一貫して対応に当たってきたということができる。 さらに、このような対応と並行して、被告Aは、同年1月、被告会社とCLASSICAL社との間の「RecordingContract」と題する契約書を作成すると共に(前記(1)エ)、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面の作成作業を自ら行った上(前記(1)オ)、本件楽曲を演奏するピアニストの選定やピアノ演奏の録音作業を行い、同年3月にはオーケストラ演奏の指揮、録音、ミックス作業等を行った(前記(1)オ)。本件楽曲の制作等において果たしたこのような役割を踏まえると、被告Aは、本件編曲行為や本件録音・複製行為に係る中心的な作業を自ら行っていたということができる。 イ 以上の事情を総合的に考慮すると、被告Aは、少なくとも被告会社、VGM社、CLASSICAL社及びILDistribution社と相互に意を通じ、各社の法人格を使い分けつつ、本件楽曲の制作から販売に係る企画に中心的な立場において関与したものと見るのが相当である。このような観点からは、本件編曲行為については被告Aが自ら行ったものであること、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為については、被告Aが少なくとも被告会社、VGM社、CLASSICAL社及びILDistribution社と共同して行ったものであることがそれぞれ認められる。そうすると、本件輸入行為についても、被告Aが少なくとも被告会社及びVGM社等と共同して行ったものと認められる。 ウ これに対し、被告らは、本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為を行っておらず、これらを行ったのはVGM社やCLASSICAL社であり、また、被告らが、各法人と一体となって一連の行為をしたこともない旨を主張する。 しかし、被告Aが、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面を作成する作業を自ら直接行ったこと、本件楽曲のオーケストラ演奏等の指揮、録音、ミックス作業等を行ったことは、当事者間に争いがない。これらの行為は、本件楽曲及び本件CD制作に不可欠な中心的な行為である。これに加え、前記認定のCLASSICAL社の設立時期及び設立前後の経緯のほか、証拠上その代表者すら不明であり、その実態が不詳であることなど、CLASSICAL社がイスラエル著作権法に基づき原告楽曲を利用可能とするために設立された名目的な法人であることをうかがわせる事情が存在することに照らすと、本件CDにおけるCLASSICAL社に関する表示や被告会社との間の「RecordingContract」の存在等、CLASSICAL社が本件楽曲の制作主体であることを示す形式が取られていることを考慮しても、本件編曲行為及び本件録音・複製行為は、少なくとも被告Aが被告会社及びCLASSICAL社と共同して行なったものと見られる。 また、被告Aは、VGM社やCLASSICAL社の担当者と称し、本件楽曲の譲渡及び配信を行うために必要な措置である原告に対する原告楽曲の使用許諾申請を繰り返し行い、かつ、原告が使用許諾に応じないことを受けて、使用料に相当すると主張する金額を被告会社名義で第三者供託した。これらの行為は、本件楽曲の譲渡及び配信の不可欠の前提となる行為であり、譲渡等の主体でなければ通常行わないものといえることから、少なくとも、被告らとVGM社及びCLASSICAL社との密接な関係をうかがわせる。これに加え、VGM社の設立経緯、被告Aの氏名を連想させる代表者「B」なる表示、本件仮処分命令申立事件における被告Aの関与(前記(1)ク)のほか、CLASSICAL社のみならずVGM社の実態も不詳であることに照らすと、Amazonや本件音楽配信サイトにおいて販売者がVGM社と表示されていること等、VGM社が本件楽曲の販売主体であることを示す形式が取られていることなどを考慮しても、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為は、少なくとも被告Aが被告会社及びVGM社等と共同して行ったものと見るのが相当である。 その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。 2 争点2(本件編曲行為による原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)侵害の成否)について (1)前記のとおり、本件楽曲は、被告Aにより、原告楽曲を素材としてその譜面が作成されたものであるから、原告楽曲に依拠して作成されたものと認められる。 また、本件楽曲が原告楽曲の表現上の本質的特徴と同一性を有するものであることは、当事者間に争いがない。 さらに、ゲーム内で利用されている原告楽曲と基本的にオーケストラによる演奏を想定した本件楽曲との性質ないし内容等の相違に照らすと、被告Aは、本件楽曲の譜面の制作に際し、原告楽曲を、その表現上の本質的特徴との同一性を維持しつつもオーケストラ演奏に適した旋律に変更し、オーケストラを構成する楽器の選択やアレンジ手法、演奏人数等に創意工夫を凝らすことで、原告楽曲に新たな創作性を付加したものとするのが相当である。 以上によれば、本件楽曲は原告楽曲を翻案したものであり、本件編曲行為は、原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)を侵害するものと認められる。 (2)これに対し、被告らは、本件楽曲の譜面の作成は「検討の過程における利用」(法30条の3)であることや、その作成作業がCLASSICAL社の用意した日本国外のサーバー上で行われたこと、イスラエル著作権法32条により本件編曲行為は著作権者の許諾を必要としないことなどから、本件編曲行為は原告の翻案権を侵害しない旨を主張する。 しかし、前記認定に係る原告に対する原告楽曲の使用許諾申請の経過に加え、これと本件楽曲のピアノ演奏及びオーケストラ演奏の録音作業が同時進行で行われたこと、その際に録音されたピアノ演奏及びオーケストラ演奏が本件楽曲の演奏として本件CDに収められて譲渡ないし配信されたこと、本件編曲行為は、原告楽曲の再製(複製)にとどまらず、これに新たな創作性を付加したものといえることを踏まえると、本件楽曲の譜面作成が「検討の過程における利用」として行われたものとは考え難い。 また、そもそも譜面の作成作業が日本国外のサーバー上で行われたことを認めるに足りる的確な証拠はない。その点を措くとしても、少なくとも、被告Aは、譜面の作成作業を日本国内で行なったのであるから、本件編曲行為は日本国内で行われたものと見るのが相当である。そうである以上、イスラエル著作権法の規定のいかんにかかわりなく、本件編曲行為は原告の翻案権を侵害するものといえる。 その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。 3 争点3(本件録音・複製行為による原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権)侵害の成否)について (1)本件録音・複製行為のうち、本件楽曲のピアノ演奏及びその録音が浜松市内で行われたことは、当事者間に争いがない。このピアノ演奏の録音は、原告楽曲の翻案である本件楽曲の表現上の本質的特徴と同一性を有する楽曲を有形的に再製する行為といえることから、本件楽曲を複製したものと認められる。 したがって、本件録音・複製行為のうち、本件楽曲のピアノ演奏及びその録音は、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権。法28条、21条)を侵害するものと認められる。 (2)被告らは、本件録音・複製行為についても、「検討の過程における利用」(法30条の3)として許される旨等を主張する。 しかし、本件楽曲のピアノ演奏の録音が「検討の過程における利用」として行われたものと見られないことは、本件楽曲の譜面の作成の場合(前記2(2))と同様である。 また、本件楽曲のピアノ演奏及びその録音は浜松市内で行われたものである以上、複製行為は日本国内で行われたといえるのであって、仮にその後に関連する作業がイスラエル国内で行われたとしても(ただし、これをうかがわせる証拠はない。)、結論を左右するものではない。 その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。 4 争点4(本件譲渡・配信行為による原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))侵害の成否)について (1)前記2、3のとおり、本件楽曲は原告楽曲の翻案であり、本件CDは本件楽曲の複製物である。したがって、本件譲渡・配信行為は、本件楽曲をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供するとともに、公衆送信(送信可能化を含む。)したものであり、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)。法28条、26条の2第1項、23条1項)を侵害するものと認められる。 (2)これに対し、被告らは、本件CDの譲渡権、送信可能化権は、レコード製作者であるCLASSICAL社が専有している旨や、VGM社のTwitterアカウントおよびYouTubeチャンネルによる本件楽曲の配信は米国著作権法のフェアユースに当たり適法である旨を主張する。 しかし、仮にCLASSICAL社がレコード製作者としての権利を有するとしても、このことは、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))の有無又は権利侵害の成否を左右する事情とはいえない。また、本件譲渡・配信行為が原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)。法28条、26条の2第1項、23条1項)を侵害することは前記のとおりであるところ、法は30条以下に著作権が制限される場合や要件を具体的に定めており、フェアユースの法理に相当する一般条項の定めはない。実定法の根拠のないまま同法理を我が国において直接適用することはできない。そうである以上、米国著作権法のフェアユースに当たるか否は原告の権利侵害の成否を左右する事情とはいえない。 その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。 5 争点5(本件輸入行為による原告の著作権侵害(みなし侵害)の成否)について (1)前記(第2の2(3)ウ(ウ))認定のとおり、本件CDは、外国で製作され、VGM社名義で日本国内に輸入されて、日本国内に所在するAmazonの物流拠点に送付されたものである。また、本件輸入行為の前提となる本件録音・複製行為のうち、ハンガリーでのオーケストラ演奏及びその録音は、日本国内で行われていたとしたならば、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権。法28条、21条)を侵害するものである。 したがって、本件CDは、国内において頒布する目的をもって、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作権の侵害となるべき行為により作成された物といえることから、本件CDを輸入した本件輸入行為は、原告の著作権を侵害するものとみなされる(法113条1項1号)。 (2)これに対し、被告らは、VGM社が外国で製作された本件CDを日本に送付する行為は輸出であって「輸入」ではない旨や、ハンガリーでのオーケストラ演奏及びその録音は、「検討の過程における利用」に該当し、「国内で作成したとしたならば...著作権...の侵害となるべき行為」には当たらない旨を主張する。 しかし、前記1のとおり、本件輸入行為は、少なくとも被告Aが被告会社及びVGM社等と共同して行ったものであり、また、外国で制作された本件CDを日本国内で頒布する目的をもって行ったものである。そうである以上、本件輸入行為をもって本件CDの「輸入」(法113条1項1号)に当たるものと見るのが相当である。また、本件楽曲のオーケストラ演奏の録音が「検討の過程における利用」として行われたものと見られないことは、本件楽曲の譜面の作成の場合(前記2(2))と同様である。 その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。 6 小括(差止請求、廃棄請求及び損害賠償請求について) 前記1〜5のとおり、被告らは、VGM社及びCLASSICAL社と共同して、@本件編曲行為により、原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)を侵害し、A本件録音・複製行為により、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権)を侵害し、B本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為により、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))を侵害すると共に、原告の著作権を侵害した(法113条1項1号のみなし侵害)ことが認められる。 したがって、被告らは、原告の「著作権...を侵害する者又は侵害するおそれがある者」(法112条1項)に当たることから、原告は、被告らに対し、本件楽曲の複製、送信可能化及び公衆送信の差止請求権並びに本件CDの複製、輸入及び譲渡の差止請求権を有する。また、本件楽曲の音源を収録した媒体及び本件CDは、「侵害の行為によつて作成された物」(同条2項)に当たることから、原告は、被告らに対し、その廃棄請求権を有する。 加えて、被告らは、共同して著作権侵害行為を行い、かつ、前記認定に係る著作権侵害行為に至る経緯に鑑みれば、著作権侵害について少なくとも過失があるものと認められる。したがって、被告らは、原告に対し、連帯して、原告に生じた損害(後記7)を賠償すべき責任を負うものと認められる(民法709条、719条1項前段)。 7 争点6(原告の損害額)について (1)被告らの利益額に基づき推定される損害額(法114条2項) ア 被告らの売上等の額 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、VGM社名義で実施された本件クラウドファンディングにより同社が受領した基金の額は合計3万2226.55ドル(356万円)であること(甲34、乙23、43)、VGM社名義で販売された本件CDの売上額は2万6400円であること(乙50)、VGM社名義で販売された本件楽曲の日本国内のダウンロード配信ないしストリーミング配信の売上額は合計1907.22ドル(20万0601円)であること(甲67、乙69)がそれぞれ認められる。 したがって、本件楽曲及び本件CDの販売による売上額は合計378万7001円となる。これに反する原告の主張は、その裏付けとなる的確な証拠を欠くことから採用できない。 なお、本件クラウドファンディングによりVGM社が受領した基金は、本件楽曲の制作等の資金に充てられることを前提として調達されたものであり、対価として本件CDの配布等が予定され、実行されたものであるから、これを売上額に含めるのが相当である。これに反する被告らの主張は採用できない。 イ 本件楽曲制作等に要した経費額 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件楽曲のオーケストラ演奏及びその録音に当たり、平成31年3月20日、ブダペスト交響楽団に対し、301万5264円が被告会社名義で支払われたこと(乙24)、被告Aのハンガリーへの出張費用として、飛行機代13万2134円、駐車場代1万6200円及び海外旅行保険の保険料7000円の合計15万5334円が被告Aにより支払われたこと(乙42)がそれぞれ認められる。 したがって、本件楽曲の制作等の経費としては、合計317万0598円を要したこととなる。 これに対し、被告らは、VGM社名義で送金された前払金合計3万2000ドルについても経費として算入すべき旨等を主張する。しかし、当該3万2000ドルはいずれも「deposit」としてブダペスト音楽スコアリングスタジオ等に送金されたものであるところ(乙43)、「deposit」には、「敷金」、「保証金」、「頭金」、「内金」といった意味がある。送金先とのやり取りに関する証拠がないこともあって、当該3万2000ドルの送金の趣旨がそのいずれであるかは必ずしも判然としない。そもそも、本件楽曲の制作等との関連性も必ずしも明確でない。そうである以上、これを経費として控除することは認められない。また、被告Aのハンガリーへの出張費用とされるもののうち、経費として認定し得る上記以外のものについては、空港等における飲食代金と見られるものや使途の判然としないものであり、これについても経費として控除することは認められない。第三者供託された供託金22万0931円についても、その債権者とされる原告が受領していない以上、これを経費として控除することは認められない。その他被告ら、VGM社ないしCLASSICAL社による経費として認めるべき支出は見当たらない。 ウ 被告らの利益額 以上によれば、本件楽曲等の販売による利益は、61万6403円(=378万7001円−317万0598円)であると認められる。したがって、法114条2項によれば、原告の損害は61万6403円と推定される。 (2)使用料相当の損害額(法114条3項) ア 証拠(甲72)及び弁論の全趣旨によれば、本件シミュレーションは、営利目的で第三者に頒布するためにJASRACの管理する曲を複製する場合の概算使用料を算定するものであるところ、「定価明示」を「なし」、「JASRAC管理曲数」を「23」曲、「録音物製造数」を「3000」枚・個とした場合の概算使用料(税込)は、61万4790円となることが認められる。 また、前記(1(1)キ)認定の事実に加え、証拠(乙90)及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、本件楽曲及び本件CD(収録曲数は23曲である。)につき、合計3000枚を営利目的で第三者に頒布する目的で複製したものと認められる。 JASRACの著作権管理団体としての実情等に鑑みると、原告が原告楽曲の著作権(又は本件楽曲の原著作者としての権利)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(法114条3項)の算定に当たっては、本件シミュレーションの結果を参酌するのが相当である。もっとも、原告楽曲はJASRACが管理する楽曲ではないこと(弁論の全趣旨)、被告らは、原告が原告楽曲の使用許諾を拒絶していることを認識しながら、無許諾で本件楽曲を制作し、本件CD等を譲渡・配信したものであることから、本件は本件シミュレーションの本来的適用場面とは異なるのであって、その結果に基づかなければならない必然性はなく、著作権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、著作物の使用に対し受けるべき額は、むしろ、通常の場合に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。 そうすると、原告が原告楽曲の著作権(又は本件楽曲の原著作者としての権利)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額としては、150万円と認めるのが相当である。 イ 原告の主張について 原告は、本件シミュレーションにおいて「録音製造数」を3500枚として算定した上で、原告が受けるべき金銭の額は最低でもこの5倍を下らない旨を主張する。 しかし、原告がその主張の根拠とするCLASSICAL社文書1は、本件楽曲と楽曲数が異なることなどからうかがわれるように、いまだ楽曲数も複製枚数も確定していない段階で示されたものに過ぎない。他方、証拠(乙2、90)上は、複製数は3000枚とされている。そうである以上、3000枚を超える枚数を基礎として使用料相当額を算定することは適当でない。また、原告楽曲がJASRACの管理する楽曲でないことなどを考慮しても、本件シミュレーションの結果を大幅に超えるその5倍という使用料をもって相当とすべき合理的な根拠はない。 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。 ウ 被告らの主張について 被告らは、本件CDの販売価格が17NIS(585円)であることを前提に、本件シミュレーション等の結果に基づき原告が受けるべき金銭の額は23万0509円となる旨を主張する。 本件CDには著作権者としてCLASSICAL社が表示されると共に、メーカー希望小売価格が「17NIS」であることを示す記載がある(甲25)。しかし、本件CDは、CLASSICAL社からILDistribution社に第一次的な頒布がされ、ILDistribution社から再販売されるという形式により販売されるものであるものの、CLASSICAL社及びILDistribution社の実態がいずれも不明であることなどに鑑みると、上記価格をもって算定の基礎とすることには疑義がある。実際、イスラエルでの販売実績(ないし代金額17NISでの販売実績)を裏付ける証拠はない。他方、本件CDは、Amazonのウェブサイトでは3300円で販売され、売上を上げていた(甲26、乙50)。また、被告AのYouTubeチャンネルにアップロードされた動画においては、VGM社又は被告Aに直接購入を申し出た者に対しては、Amazonでの販売価格より廉価で販売し得ることが告知されている(甲59)。 以上の事情を踏まえると、原告が受けるべき金銭の額の算定にあたっては、定価を17NISとするのは相当ではなく、「定価明示なし」とすることが相当である。 したがって、この点に関する被告らの主張は採用できない。 (3)小括(損害賠償請求について) 以上より、本件における原告の損害額については、法114条2項に基づき推定される額及び同条3項に基づき算定される額のうち、より高額である同条3項に基づく使用料相当額150万円をもって原告の損害とするのが相当である。 また、本件事案の性質・内容、本件訴訟に至る経緯、本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば、被告らの著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、15万円とするのが相当である。 したがって、原告は、被告らに対し、連帯して、165万円の損害賠償請求権及びうち150万円に対する不法行為後である令和2年4月1日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金、うち15万円に対する本件訴状送達日の翌日である令和3年2月24日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の各請求権を有する。 第4 結論 よって、原告の被告らに対する各請求は、主文に記載した限度で理由があるから、この限りで認容し、その余は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。なお、主文第1項〜第3項については、相当でないから仮執行宣言を付さないこととする。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 小口五大 裁判官 稲垣雄大 別紙 被告ら物件目録 1 交響曲『始まりの紋章』(『幻想水滸伝II』より) 2 上記1収録の楽曲
別紙 著作物目録(原告楽曲) 注)被告らにより編曲・改変され、被告ら物件目録に収録されている楽曲を赤字で示す 1.幻想水滸伝
2.幻想水滸伝II ORIGINAL GAME SOUNDTRACK Vol.1
3.幻想水滸伝II ORIGINAL GAME SOUNDTRACK Vol.2
4.幻想水滸外伝Vol.1 ハルモニアの騎士ORIGINAL SOUNDTRACK
別紙 著作物対比表
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