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【事件名】調理器具の写真無断流用事件
【年月日】令和4年9月1日
 東京地裁 令和3年(ワ)第28416号 損害賠償金請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年6月27日)

判決
原告 エス・アンド・ケー株式会社
被告 A


主文
1 被告は、原告に対し、5万円及びこれに対する令和3年4月21日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを6分し、その5を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求等
1 被告は、原告に対し、33万3330円及びこれに対する令和3年4月21日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、被告が、その運営するインターネット上の電子商取引サイトに原告が著作権を有する画像を掲載して、故意又は過失により原告の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害したと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、33万3330円及びこれに対する不法行為より後の日である令和3年4月21日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(1)当事者
 原告は、家庭用雑貨及び厨房用品等の売買及び輸出入業等を目的とする株式会社である。
 被告は、肩書地を住居所とする個人である。
(本項につき、弁論の全趣旨)
(2)事実経過
ア 原告は、デンマーク王国の会社から、同会社が「SCANPAN」という名称で製造、販売する調理器具(以下「SCANPAN商品」という。)を輸入して、日本国内において販売していた。
 原告は、株式会社いつもに対し、SCANPAN商品の広告画像の作成等を依頼した。株式会社いつもは、SCANPAN商品の販売促進用に別紙著作物目録記載の各画像(以下、これらの画像を「本件各画像」ということがある。)を作成した。本件各画像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、美術の範囲に属する。株式会社いつもは、令和2年3月30日、原告に対し、その著作権を譲渡した。原告は、自身のホームページ及び楽天市場というウェブサイトを利用した電子商取引サイトに、商品に応じ、本件各画像の一部の画像を表示し、本件各画像は、同日までに、外部から閲覧可能な状態になった。
(本項につき、争いがない事実のほか、甲11)
イ 被告は、インターネット上のYAHOO!JAPANショッピングというウェブサイトを利用して「B」という電子商取引サイト(以下「本件オンラインストア」という。)を開設した。(甲2、弁論の全趣旨)
 被告は、令和3年2月以降、本件オンラインストアにおいて、SCANPAN商品である別紙商品目録記載の各商品(以下「本件各商品」という。)を販売するに当たり、各商品紹介ページに本件各画像の一部の画像をそれぞれ表示し、これにより、それらの画像について、複製し、公衆送信用記録媒体にその情報を記録して自動公衆送信し得るようにして送信可能化して、少なくとも過失により、原告の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害した。(争いがない事実のほか、弁論の全趣旨)
ウ 原告は、令和3年4月21日、被告に対し、本件各画像の利用を止めるよう通知し、被告は、その頃、本件オンラインストアのウェブページから本件各画像の表示を削除した。
 被告は、本件オンラインストアを閉鎖した。
(本項につき、争いがない事実のほか、甲10、弁論の全趣旨)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の主たる争点は、損害の発生及び額である。
(原告の主張)
 原告は被告による著作権の侵害により損害を被ったところ、5種類のSCANPAN商品をそれぞれ別の商品紹介ページで販売する本件オンライストアにおいては、各商品紹介ページについて、本件各画像のうち、それぞれの商品の画像を含んだ画像が用いられており、商品紹介ページ1ページ当たり6万6666円、5ページ分合計33万3330円の使用料相当額が、原告が受けた損害の額である(著作権法114条3項)。
 一般に、著作権者において既に利用済みの著作物等の使用料は、1枚当たり4万4000円又は年3万3000円など低額に設定されているが、本件において、原告が本件各画像の使用を許諾する場合には、商品の卸売りなど一定の取引関係を前提として取引条件の一部として許諾をすることになり、本件各画像の使用料は商品販売に係る利益の一部を構成するため、上記一般的な使用料に比較して高額になり、上記額を下らない。
(被告の主張)
 本件オンラインストアにおいて本件各製品を売り上げた実績はなく、原告に損害は発生していない。また、一般的な画像等の著作物の使用料の例に照らして、原告主張に係る損害額は高額にすぎる。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
(1)原告は、令和元年9月30日、株式会社いつもとの間で、SCANPAN商品に関し、インターネット通信販売用広告画像等の作成を含むウェブサイト関連業務サービスのほか、検索エンジン最適化サービスを受ける契約(以下「本件コンサルティング契約」という。)を締結した。株式会社いつもは、本件コンサルティング契約に基づき、SCANPAN商品の広告画像として本件各画像を作成し、令和2年3月30日、原告に対し、その著作権を譲渡した。原告は、令和元年9月30日から令和2年9月26日まで、株式会社いつもに対し、本件コンサルティング契約に基づき、サービス代金として、初期費用及び月額費用の合計約680万円を支払った。このうち、上記ウェブサイト関連業務サービスの初期費用に係る代金は5万5000円(消費税込)であった。(甲11〜15、乙6)
(2)本件各画像には、フライパンで調理している際の写真や職人がフライパンを製造している際の写真を用いるなどしてSCANPAN商品に共通する特徴を説明、紹介するなどし、また、手入れのためのスポンジも譲渡することを記載した7種類の画像(別紙著作物目録の1枚目の部分。以下、この7種類の画像を併せて「本件説明画像」という。)と、SCANPAN商品である各商品(フライパンや鍋)のみ(ただし、それぞれの商品の横には1個の四角いスポンジも映っている。)をその形状が分かるように斜め上から撮影した50種類の画像(別紙著作物目録の2、3枚目の部分。以下、そのそれぞれの画像を「本件各商品画像」ということがある。)がある。本件各画像は、電子商取引サイトなどにおいて個々のSCANPAN商品を紹介する場合には、本件説明画像(7枚)と、本件各商品画像のうちの特定のSCANPAN商品の商品画像1枚の合計8枚の画像を組み合わせて使用することを想定しているものであった。(甲11)
(3)被告は、令和3年2月以降、本件オンラインストアにおいて本件各商品を販売するに当たり、各商品紹介ページに、それぞれ、本件説明画像と、本件各商品画像のうちの各商品に対応する商品画像(1枚)を表示して、これにより、上記各画像を複製し、公衆送信用記録媒体にその情報を記録して自動公衆送信し得るようにして送信可能化した。
 被告は、令和3年4月21日、原告から通知を受け、その頃、本件オンラインストアのウェブページから上記各画像の表示を削除した。被告は、本件オンラインストアを閉鎖した。
 本件オンラインストアのウェブページに上記各画像が表示されていた間、本件オンラインストアにおいて、本件各商品は全く売れなかった。(弁論の全趣旨)
(4)画像の使用につき、次のような例が存在する。
ア 株式会社アスコスメは、電子商取引サイトの商品紹介ページの画像6枚の作成を4万4000円(消費税込)で請け負っている。(乙13)
イ 物販デザインプラスというサイトでは、電子商取引サイトの商品紹介ページの画像の作成を1万2000円から3万8000円で請け負っている。(乙14)
ウ shutterstockというサービスにおいては、商品画像を含む画像等を使用する者に対し、例えば、画像10点の入手、使用につき1か月当たり6000円の使用料の支払を求め、同サービスを年単位で継続的に利用して商品画像を含む画像等を使用する者に対し、例えば、画像10点の入手、使用につき1か月当たり3500円の使用料の支払を求めている。(乙11、12)
エ iStockというサービスにおいては、商品画像を含む画像等を使用する者に対し、例えば、画像10点の入手、使用につき1か月当たり4000円の使用料の支払を求め、同サービスを年単位で継続的に利用して商品画像を含む画像等を使用する者に対し、例えば、画像10点の入手、使用につき1か月当たり3000円の使用料の支払を求めている。(乙8、9、12)
オ AdobeStockというサービスにおいては、商品画像を含む画像等を使用する者に対し、例えば、画像3点の入手、使用につき1か月当たり3828円の使用料の支払を求め、同サービスを年単位で継続的に利用して商品画像を含む画像等を使用する者に対し、例えば、画像10点の入手、使用につき1か月当たり3828円の使用料の支払を求めている。(乙10、12)
カ 株式会社アフロは、同社が権利を有する様々な種類の静止画像をインターネット上の広告やホームページなどに使用する者に対し、同一ウェブサイト内においては使用箇所を問わず、使用期間1年までの場合に2万2000円、使用期間3年までの場合に2万8600円、使用期間5年までの場合に3万3000円の使用料の支払を求めることがある。(甲7)
キ 株式会社毎日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で商業使用する者に対し、2万2000円から4万4000円の使用料の支払を求めることがある。(甲5、乙7)
ク 株式会社朝日新聞社は、同社が権利を有する報道写真等をインターネット上で使用する者に対し、使用期間6か月までの場合に2万2000円、使用期間1年までの場合に3万3000円、使用期間3年までの場合に5万5000円の使用料の支払を求めることがある。(甲6)
2 争点(損害の発生及び額)について
(1)被告は、令和3年2月から令和3年4月30日までの約3か月にわたり、本件オンラインストアにおいて5種類のSCANPAN商品を販売するに当たり、各商品紹介ページに、それぞれ本件説明画像と、本件各商品画像のうちの各商品に対応する商品画像(1枚)を表示した(前記1(3))。本件各画像は、5種類の本件各商品に対応する各ウェブページで使用され、各ウェブページで使われた画像のうち1枚は、各商品に対応するものでそれぞれ異なった画像である。もっとも、もともと、本件各画像は、SCANPAN商品が複数ある中で、本件説明画像(7枚)と販売する商品に応じ商品の外観を写した写真の8枚の画像を組み合わせて使用することが想定されていたもので(前記1(2))、使用する画像のうちの1枚をそれぞれの商品に対応する異なった画像とすることは本件各画像において想定されていた利用の態様といえるものであること、本件オンラインストアでも本件各画像は上記のように想定されていた態様で使用されたこと、本件説明画像は、特徴的な写真を用いるなどして商品の内容について説明等するものであるのに対し、本件各商品画像は商品の外観を撮影したものであることなどの事情がある。このことを考慮すると、被告による上記各画像の利用は、本件オンラインストアにおいて、一体として、原告が著作権を有する本件各画像を被告が利用したととらえることが相当であり、本件オンラインストアにおいて本件各商品に対応して各ウェブページで用いられたことやその際に一部の画像が異なることを使用料相当額の算定に当たり大きく考慮することは相当とはいえない。
 本件オンラインストアのウェブページに本件各画像が表示されていた間、本件オンラインストアにおいて、本件各商品は全く売れず(前記1(3))、本件オンラインストアのウェブページに表示された本件各画像の閲覧数は少なかったものと推認される。
 なお、原告は株式会社いつもとの間で本件コンサルティング契約を締結し、株式会社いつもは本件コンサルティング契約に基づき本件各画像を作成して原告にその著作権を譲渡し、本件コンサルティング契約に基づいて原告は株式会社いつもに対して、約1年の間、初期費用及び月額費用として合計約680万円を支払った(前記1(1))。もっとも、そのうち、サービスのうち本件各画像の作成を含むウェブサイト関連業務サービスの初期費用に係る代金は5万5000円であり(同前)、本件コンサルティング契約の業務内容や代金の支払方法等を考慮すると、上記合計約680万円の支払の多くは、画像の作成以外のウェブサイト関連業務サービスや検索エンジン最適化サービスの対価であると推認することができる。
(2)電子商取引サイトの商品紹介ページの画像の作成を数万円で請け負う業者が存在し(前記1(4)ア、イ)。インターネット上における画像の使用に関し、商品画像を含む画像等を使用する者に対し、画像10点の入手、使用につき1か月当たり4000円から6000円の使用料の支払を求める例(同ウ、エ)や、サービスを年単位で使用する者に対し、画像10点の入手、使用につき1か月当たり3000円から4000円の使用料の支払を求める例(同ウ〜オ)、画像3点の入手、使用につき1か月当たり3828円の使用料の支払を求める例(同オ)、様々な静止画像を同一ウェブサイト内においては使用箇所を問わず使用期間1年までの場合に2万2000円の使用料の支払を求める例(同)などが存在するといえる。
(3)前記(1)のとおりの被告における本件各画像の使用の態様、使用期間が3か月と比較的短くその閲覧数も少なかったと推認されること、前記(2)のとおりの写真の使用料についての例、原告は自ら商品を販売するために本件各画像の制作を依頼してその著作権を取得したのであり仮に販売を行う他人にその使用を許諾する場合には一定の使用料を求めると考えられることなど、本件に現れた諸事情に照らせば、原告が本件各画像の著作権(複製権、公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額は本件オンラインストアにおける使用につき5万円が相当であると認められる。
 したがって、原告は、被告に対し、本件各画像の著作権(複製権、公衆送信権)の侵害に係る損害として、5万円を請求することができる(著作権法114条3項)。
 そして、本件各画像の著作権(複製権、公衆送信権)侵害について、仮に被告に故意があったとしても、原告に生じた損害額は上記額を超えない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、5万円及びこれに対する令和2年4月21日から支払済みまで年3分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから同限度で認容し、その余は理由がないから棄却するのが相当である。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 仲田憲史


別紙 著作物目録 省略
別紙 商品目録 省略
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