判例全文 line
line
【事件名】“奨学金制度”記事の類似事件(2)
【年月日】令和4年8月31日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10035号 著作権侵害損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和3年(ワ)第10987号)
 (口頭弁論終結日 令和4年6月29日)

判決
控訴人 X
同訴訟代理人弁護士 橋本阿友子
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 樽井直樹
同 倉知孝匡


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で定義するもの及び改めるもののほかは、原判決に従うものとする。また、原判決の引用部分の「別紙」を全て「原判決別紙」に改める。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、300万円及びこれに対する令和3年5月18日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1)本件は、ジャーナリストである控訴人が、大学の教授である被控訴人の執筆した雑誌記事等について、@主位的に、控訴人が著作権を有する雑誌記事(原告雑誌記事)及び書籍の一部(原告ルポ)の複製又は翻案に当たり、控訴人の著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害すると主張し、A予備的に、原告雑誌記事及び原告ルポのいわゆるデッドコピーであると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、300万円(逸失利益150万円、弁護士費用50万円及び慰謝料100万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後で訴状送達の日の翌日である令和3年5月18日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2)原審は、控訴人の請求をいずれも棄却した。これを不服として、控訴人が控訴を提起した。
2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり改め、後記3のとおり当審における控訴人の補充主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1〜3に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決2頁7行目の「中京大学の教授職にある者であり」を「少なくとも平成25年から平成29年までの間、中京大学の教授職にあった者であり、その当時」に改め、同頁10行目冒頭に「ア」を加え、同頁11行目の「100頁」を「100頁〜101頁」に、同頁13行目〜14行目の「2013年(平成25年)10月発行の書籍「日本の奨学金はこれでいいのか!」」を「奨学金問題対策全国会議編「日本の奨学金はこれでいいのか!」(あけび書房株式会社、2013年(平成25年)10月発行)(甲37。以下「本件書籍」ということがある。)」にそれぞれ改め、同頁17行目冒頭から22行目末尾までを次のとおり改める。
 「イ 原告雑誌記事は、縦書き4段組みで2頁にわたるものであり、そのうち控訴人が著作権等が侵害されたと主張する記述は、その2頁目(1段当たり約29行)3段目13行目〜4段目4行目の次の部分(以下「本件記事部分」ということがある。)である(甲1)。
 「原資の確保であれば元本の回収がなにより重要だ。ところが、日本育英会から独立行政法人に移行した〇四年以降、回収金はまず延滞金と利息に充当するという方針を頑なに実行している。一〇年度の利息収入は二百三十二億円、延滞金収入は三十七億円に達する。これらの金は経常収益に計上され、原資とは無関係のところへ消えている。この金の行き先のひとつが銀行であり、債権管理回収業者(サ−ビサー)だ。一〇年度期末で民間銀行からの貸付残高はざっと一兆円。年間の利払いは二十三億円。また、サービサーについては、同年度で約五万五千件を日立キャピタル債権回収など二社に委託し、十六億七千万円を回収、そのうち一億四百万円が手数料として払われている。」
ウ 原告ルポは、本件書籍の61頁〜104頁(1頁当たり約17行)に掲載されたものであり、そのうち控訴人が著作権等が侵害されたと主張する記述は、次の部分(以下、次の(ア)を「本件ルポ部分(ア)」と、次の(イ)を「本件ルポ部分(イ)」と、それらを併せて「本件ルポ部分」とそれぞれいうことがある。また、本件雑誌部分と本件ルポ部分を併せて「原告各記述」ということがある。)である(甲37)。
(ア)「申し立てがあると、裁判所は債務者に督促通知を送ります。通知を受けた側は2週間以内に異議申し立てをすることができます。異議を申し立てた場合は訴訟に移行します。異議がなければ督促内容が確定して、判決と同様の効力を持ちます。」(前記書籍の66頁9行目〜12行目(行数の記載は空白行を除いたもの。以下同じ。)
(イ)「日本学生支援機構の会計資料によれば、2010年度の利息収入は232億円、2011年度275億円、2012年度318億円。延滞金収入は2010年度37億円、2011年度が41億円、2012年度43億円と増加傾向にあります。
 利息・延滞金で年間360億円(12年度)もの収入です。そして、日本学生支援機構の説明によれば、これらのお金の行き先は「経常収益」、つまり「儲け」に計上されています。特に延滞金のほとんどは「雑収入」です。つまり、延滞金の回収にいくら励んだところで「原資」とは何の関係もないのです。
 むしろ、延滞金に固執すれば原資の回収は遅れます。回収金はまず延滞金と利息に充当するという方針を実行しているからです。もし、本当に原資を回収して不良債権を減らしたいというのであれば、元本から回収すべきです。それをしないのは、「利益」こそが回収強化の真の狙いだからではないでしょうか。なお、2012年度の総利益は39億円、純資産は前年度29億円増の561億円です。
 360億円にのぼる延滞金と利息収入。利息の大半は財政融資資金という政府から借りた金の利払いに充てられます。「日本学生支援機構債」などを発行して債券市場から集めた資金が財源です。もうひとつの金の行き先が、銀行と債権管理回収業者(サービサー)です。2010年度期末で民間銀行からの借入残高は約1兆円で、年間の利払いは23億円にもなります。2011年度は18億円、2012年度は16億円。2013年8月現在の銀行借り入れ残高は4580億円です。また、サービサーへの委託状況は次のとおりです。
 2010年度はエム・ユー・フロンティア債権回収会社と日立キャピタル債権回収会社が延滞債権回収業務を受託。エム社が8938万円(回収益=14億3533万296円)、日立が1億5240万円(同13億6037万8452円)を売り上げています。2012年度の実績は、エム社の売り上げ1億3471万円(同20億3927万9475円)、日立が1億7826万円(同21億9545万3081円)です。」(前記書籍の90頁7行目〜91頁13行目)」
(2)原判決2頁24行目の「執筆した」の次に「(なお、次の括弧内の頁は、当該記事の開始頁を示すが、Kにおいてのみ控訴人が問題とする記載部分がある頁を示す。)」を加え、同頁25行目の「著作権」を「著作権等」に改め、3頁2行目の「、同様に」を削除し、同頁3行目の「被告記述」を「「被告記述」欄記載の各記述」に、同頁5行目の「2013年」から6行目の「いいのか!」」までを「本件書籍」にそれぞれ改める。
(3)原判決4頁2行目〜3行目の「朝日新聞出版発行」を「朝日新聞出版発行80頁、86頁及び87頁」に改め、同頁13行目の「、別紙1及び2の各対比表の」を削除し、同頁22行目〜23行目の「書籍「日本の奨学金はこれでいいのか!」」を「本件書籍」に改める。
(4)原判決5頁23行目の「被告各記述は」を「被告各記述に記載されたものは」に改める。
(5)原判決別紙2の「2−1」の「原告記述(甲3)」欄中の「手続」を「手続き」に、同「2−2お」の「原告記述(甲3)」欄中の「債権市場」を「債券市場」に、同「2−2か」の「原告記述(甲3)」欄中の「16億円、」を「16億円。」に、同「2−2き」の「原告記述(甲3)」欄中の「延滞金債権回収業務」を「延滞債権回収業務」に、同欄中の「エム社が8938万円、」を「エム社が8938万円」に、同欄中の「エム社の売上」を「エム社の売り上げ」にそれぞれ改める。
3 当審における控訴人の補充主張
(1)著作権(複製権、翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害の成否(争点1)について
ア 原判決の判断の誤り
(ア)事実の取捨選択により構成された文章も著作物であること
 原判決は、原告各記述と被告各記述の共通部分を抽出した上で、当該共通部分は「事実」又は「一般的な考察の一部であって、思想又はアイデアに属するもの」であるとして、原告各記述の著作物性を否定したが、事実であるという一事をもって著作物性を否定するという論理には誤りがある。どのような事実を取り出し、分析し、文章として構成するかは、人によって異なり、まさに筆者の個性が表出されるものである。また、事実を時系列に従って記載する場合においても、言葉の選択の余地はあり、著作物性が認められ得る。
 後記イのとおり、原告各記述については、ルポルタージュ(ルポ)という表現方法に内在する技法の特徴として「事実に語らせる」ため、多くの事実を含む表現になるのが必然である。ルポには、数多く存在する基礎資料からどのような事実を取捨選択するか、また、どのような視点で、どのように表現するか」(東京地判平成10年11月27日・判時1675号119頁参照)に表現の選択の幅があり、創作性が表れるのである。この点を看過し、原告各記述及び被告各記述についての個別の判断をせず、一律の判断をした点で、原判決には誤りがある。
 原告各記述は、いずれも著作物として最低限の長さといわれる俳句(17字)よりはるかに長く(190字〜860字程度)、その真似を許容する必要性はない(後記(2)イ(ア)のとおり、原告各記述と被告各記述の一致率は実に80%に至る。)。
(イ)原告各記述は「一般的な考察」ではないこと
 原告各記述は、返還されるべき奨学金を回収するシステムの強化の理由について、日本学生支援機構(以下、単に「支援機構」ということがある。)が「原資の確保」のためであると説明しているという事実に着目し、同機構の説明とは反対に、「回収強化の真の理由」が別にあるのではないかとの疑問を抱いているとの視点から、表現されたものである。控訴人による記述より前に、同様の問題点を指摘したものの存在を、少なくとも控訴人は知らない。
 奨学金制度が原資確保のために回収強化をしていることを問題視するという視点は一般的ではなく、控訴人がジャーナリストとして取材等を通じて集めた資料等の分析から、控訴人自らが導き出したものであるから、原告各記述は、「一般的な考察」を示すものではない。
(ウ)原告各記述を細分化しすぎていること
 原判決は、本件記事部分を二つ(原判決別紙1における「あ」と「い」)に分断し、本件ルポ部分(イ)を七つ(原判決別紙2の「2−2あ」から「2−2き」まで)に分断したが、約300字から900字のまとまりをもった記述を細分化し、それぞれの断片のみについて著作物性を検討するという判断手法は、それぞれが連続した一体の記述であることを看過するもので、記述全体における記述順序の創作性が判断されないという点で誤っている。
イ 著作権侵害が成立すること
(ア)ルポルタージュとは何か
 ルポルタージュ(ルポ)とは、取材で得た事実に基づき社会問題などをテーマにして著者の考えや疑問、感情を表現する文学の一種である。一般読者向けの読み物であり、事実の正確さと同時に、読み物としての面白さが求められる。
 ルポには、一般的に「事実に語らせる」という技法がある。著者が目撃した光景や情景、驚きや発見を、効果的かつ迫力ある表現にするために、余分な説明を極力そぎ落とし、客観的な事実だけで構文する方法である。事実を淡々と記述しながら、「行間」部分において著者の考えを表現するものである。
 したがって、ルポとは、素材としての事実の選択や配列、構成に、より慎重な工夫が求められる文芸の一種であり、同じ事実について述べられたものでも、著者によって表現方法を異にする。
(イ)ルポとしての原告各記述の特徴
a 作成経緯
 控訴人は、経験あるジャーナリストであり、いわゆるサラ金問題など多重債務問題を取材し、多くの記事を発表してきた。奨学金問題の取材を開始したのは2010年(平成22年)頃である。控訴人は、ジャーナリスト活動における取材を通じて、支援機構がサラ金的な体質に陥っているのではないかとの問題意識を持つに至った。
b 事実の取捨選択及び取捨選択した事実の文章の構成(順序)
 原告各記述は、次のとおり、数多く存在する基礎資料から特定の事実を取り出し、「サラ金化する奨学金」との控訴人の問題意識の視点から、それを効果的に伝える文章として、控訴人が独自に構成し、表現したものである。
(a)本件記事部分について
 控訴人は、本件記事部分の原稿を執筆するに当たり、裁判所、債務者、文部科学省、支援機構などに取材をし、従来の取材実績に加えてそれらの取材結果を利用した。「サラ金化する奨学金」との控訴人の問題意識を効果的かつおもしろく読者に伝えるため、一般に知られていないデータを使用している。本件記事部分は、回収強化は「原資確保のため」と説明する支援機構の説明に矛盾があることを指摘するものであるところ、控訴人は、説得力を持たせるためにデータを使用しつつ、煩雑にならず、読みやすくなるように、素材の選択・配列・構文を工夫して、これを執筆した(甲2、21)。すなわち、本件記事部分では、控訴人が奨学金に対する問題意識として、「原資の確保であれば元本の回収がなにより重要だ」と考えたことを軸とし、その考えを示す事情として、「日本育英会から独立行政法人に移行した〇四年」をターニングポイントと捉えた上で、「以降、回収金はまず延滞金と利息に充当するという方針を頑なに実行している」と説明し、更にその例として、「一〇年度」の「利息収入」や「延滞金収入」、「一〇年度期末」の「民間銀行からの貸付残高」及び「年間の利払い」や、「サービサー」からの「回収」額及び「手数料」額を具体的に示している。
 しかし、控訴人の問題意識を説明するために、「〇四年以降」の傾向をことさらピックアップする方法だけが効果的な方法とは限らず、また、その傾向に関する記述として「一〇年度」のデータを取り上げて示す必要もなく、選択の幅があるところ、本件記事部分は、数多く存在する基礎資料からあえてそれらの時期に係る特定のデータのみを取り出し、「サラ金化する奨学金」という問題意識を効果的に伝えるものとして控訴人が独自に構成し、表現したものである。「一〇年度」のデータは、控訴人が積極的な取材で入手した当時の最新情報であり、これを発表した論文や記事も存在しなかったから、控訴人は、「一〇年度」のデータが目立つように意図的に文字を配列して文章とした。
 したがって、本件記事部分は、その内容及び記述順序において、著作物性を備えている。
(b)本件ルポ部分(ア)について
 原告ルポは、控訴人が、「サラ金化する奨学金」というテーマについて、「読み手の興味を惹く面白い本にしたい」との編集者の要望に応えるため、新たに取材を行い、いまだ誰も発表していないデータを集め、これを基に執筆を行ったものである(甲24、25)。
 そのうち、本件ルポ部分(ア)は、支援機構が法的措置を用いて厳しい回収を行ってる実態を示した場面であるところ、控訴人は、債務者が異議申立てをしない場合は不利な立場に追いやられかねないといった支払督促制度の危険性と、それを支援機構が多用していることの問題を分かりやすく読者に伝えるために用語の選択や配列を工夫しているのであって、単に制度を説明したものではない。
 したがって、本件ルポ部分(ア)は、その内容及び記述順序において、著作物性を備えている。
(c)本件ルポ部分(イ)について
 本件ルポ部分(イ)は、前記(b)のようにしてできた原告ルポの一部であり、回収強化は「原資確保のため」という支援機構の説明に対して、客観的事実を示しながらこれを崩す場面を示したものである。控訴人は、記述に説得力をもたせるため具体的なデータを用いつつ、煩雑にならず、読みやすくなるように、素材の選択・配列・構文を工夫している。
 したがって、本件ルポ部分(イ)は、その内容及び記述順序において、著作物性を備えている。
c 類似性・依拠性
 原告各記述と被告各記述の共通点は、いずれも控訴人の創作的な表現に係るものであり、被告各記述は原告各記述と類似している。創作性の程度が高くないとしても、表現は酷似しており、類似性が認められて然るべきである。
 依拠性は、類似性の程度、無意味な部分の共通性、創作性の程度、関連状況などを総合的に判断されるところ、被控訴人は、雑誌「選択」の存在を、遅くとも平成25年10月頃に知ったことを認め、本件書籍については、これを読み、本件ルポ部分にアクセスする機会があったとして、データを一部参考にしたことを認めている。表現は酷似しているほか、本件記事部分の「民間銀行からの貸付残高」は「民間銀行の貸付残高」又は「民間銀行からの借入残高」の誤記であり、本件ルポ部分(イ)の「2012年度の実績」は「2011年度の実績」の誤記であるところ、被告各記述においてもそれらと同じ誤記が認められることからも、依拠性が認められることは明らかである。
d 小括
 以上のとおり、原告各記述と被告各記述は、創作的表現において類似する。依拠性は認められるから、被告各記述は原告各記述の複製又は翻案であり、被控訴人は控訴人の著作権を侵害したものである。
(2)デッドコピーによる不法行為の成否(争点2)について
ア 原判決の判断の誤り
(ア)原判決は、最高裁判所平成21年(受)第602号、第603号同23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁(以下「平成23年最判」という。)のフレーズをそのまま引用しつつ「参照」し、「特段の事情」がないことをいとも簡単に認定して、不法行為の成立を否定した。
 しかし、そもそも平成23年最判は、「著作権法6条の保護を受ける著作物」との関係で、「同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為」について判示したものにすぎず、著作権法6条の保護を受ける著作物に該当しない著作物以外のものに射程は及ばないと考えるべきである。
 そもそも著作権法が「著作物」の利用に関する保護を定め、その利用について一定の要件で一定の保護を与えている以上、その利用については同法の保護を受けない場合における自由を積極的に確保しようとしていると解される一方、そもそも「著作物」に当たらないものの利用については、同法は、単に同法上の保護を与えることを否定しているだけであり、必ずしも自由を確保しようとしているわけではない。
 平成23年最判は、あくまで著作権法6条に基づかず同法の保護をそもそも受けないものについて不法行為の成立を否定したにすぎず、著作物性が否定される場合の不法行為の成立を一般的に否定したものと解釈すべきではない。
 知的財産法によって与えられる保護と不法行為法のみによる保護とは、差止請求権の有無、保護範囲の明確性、保護期間等の点において実質的に異なる上、不法行為法による保護を認めることによって、損害賠償請求のみによる救済を図ることができる。したがって、知的財産法上の保護を受けない情報に不法行為法上の保護を与えることには、何らの支障もなく、これを認めないとする理由はない。
(イ)この点、平成23年最判以前の裁判例では、著作物性のない情報をデッドコピー等する行為について不法行為の成立を肯定したものや、創作性のない表現が利用されたにすぎないことを理由に著作権侵害を否定しつつも、自由競争の範囲を逸脱したなどの一定の場合に不法行為の成立を肯定した裁判例があった。
 それらのうち、例えば、いわゆるYOMIURIONLINE事件の控訴審判決(知財高裁平成17年(ネ)10049号同年10月6日判決)は、ニュース報道における情報は、原告ら報道機関による多大の労力、費用をかけた取材、原稿作成、編集、見出し作成などの一連の日々の活動があるからこそ、有用な情報となるものであり、問題となった見出しは報道機関である原告らの多大な労力、費用が結実したものであり、有料での取引の対象とされていることなどから、情報の鮮度が高い時期に営利目的をもって反復継続して、酷似する見出しを作成し、ホームページ等に表示させた行為は、原告の法的保護に値する利益を違法に侵害しているとして、不法行為を成立させた。また、知財高裁平成17年(ネ)10095号、第10107号、第10108号同18年3月15日判決は、「控訴人各文献を構成する個々の表現が著作権法の保護を受けられないとしても、故意又は過失により控訴人各文献に極めて類似した文献を執筆・発行することにつき不法行為が一切成立しないとすることは妥当ではない。執筆者は自らの執筆にかかる文献の発行・頒布により経済的利益を受けるものであって、同利益は法的保護に値するものである。そして、他人の文献に依拠して別の文献を執筆・発行する行為が、営利の目的によるものであり、記述自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らしても、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には、当該行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成するというべきである」と述べている。
(ウ)平成23年最判は、著作権「法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害する」場合をあくまで「特段の事情」の例示とするものというべきところ、知財高判平成29年(ネ)第10103号、同30年第10012号同年6月20日(原判決(東京地判平成29年11月16日)引用部分)は、「自由競争の範囲を逸脱し原告に損害を与えることを目的として行われ」る場合を、前記「特段の事情」として掲げた。また、平成23年最判において、「本件放送によって、X2が本件契約を締結することにより行おうとした営業が妨害され、その営業上の利益が侵害された」場合は、「法的に保護された利益」に該当すると読め、営業妨害は、「同法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害する」場合の一例に当たるものと解される。また、平成23年最判の調査官解説によると、名誉や「著作者が著作物によってその思想、意見等を公衆に伝達する利益」もこれに当たると考えられる。
 しかるに、「客観的な証拠は見当たらない」として、これらについて一切考慮しなかった原判決には誤りがある。
(エ)一般的に、他人の成果にフリーライドして利益を得る者の行為は、不法行為に当たると考えられるところ、不法行為の成否を論ずる前に著作物性が問題になりそれが認められなかったことから不法行為でも救済されない場合が生じることは、極めて不合理である。また、著作物に該当しないもの全てにつき不法行為が認められないとすると、事実やデータを分析し説明する内容のルポの類については、その事実やデータの収集に多大な労力やジャーナリストならではの技術が必要であるにもかかわらず、文章自体に独創性が少ないという内在的な性質のためにそのデッドコピーを作成されても何ら救済されないということになり、第三者によりフリーライドがし放題という状況を許し、つまるところ、ジャーナリストという活動が一切保護を受けないことになりかねない。その意味でも、平成23年最判が知的財産法上保護されない場合に不法行為の成立を否定することを意図したものと解すべきでないことは、明らかである。
イ 不法行為が成立すること
(ア)被告各記述が原告各記述のデッドコピーであること
 被告各記述は、原告各記述をほぼそのまま使用しており、原告各記述のデッドコピーである。
 具体的には、本件ルポ部分(ア)と、「奨学金が日本を滅ぼす」(甲14)における記述とでは、109字全てが一致する。
 また、「日本の奨学金はこれでいいのか!」(甲4)、「人間と教育」(甲8)、「ヒューマンライツ」(甲9)、「Journalism」(甲10)、「ジェイピー総研リサーチ」(甲13)及び「生活協同組合研究」(甲30−2)における記述は、いずれも、本件記事部分の記述(304字)と実に約250字が一致している。
 さらに、本件記事部分の3文目以降の記述(222字)は、「大阪弁護士会主催講演要旨」(甲5)及び「反貧困世直し大集会」(甲6)における記述とは約190字が一致し、「ブラック企業と奨学金問題」(甲11)及び「貧困研究」(甲12)における記述とは約150字以上が一致している。その更に一部である本件記事部分の3文目〜5文目の記述(103字)を取り出すと、「現代構想」(甲7)における記述と約70字が一致している。
 上記のとおり文字の一致率が高い本件(特に、本件記事部分については80%を超え、本件ルポ部分(ア)については100%である。)で、不法行為成立が認められ得ることは明らかである。
(イ)原告各記述のデッドコピーに不法行為が成立すること
 原告各記述は、控訴人による多大の労力、手間や費用をかけた取材、データの照合や統合、原稿作成、編集などの一連の日々の活動があるからこそ、社会的にも有用な内容となり得るものである。
 原告各記述は、控訴人の多大の労力、手間や費用をかけたジャーナリストとしての一連の活動が結実したものといえること、仮に著作権法による保護の下にあるとまでは認められないとしても、相応の苦労・工夫により作成されたものであること、事実やデータから筆者の分析やメッセージが込められた文章には独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らすと、原告各記述は、法的保護に値する利益となり得るものというべきである。
 他方、被控訴人は、大学教授であり、自ら取材源に当たることなく記事を生業とするジャーナリストの記事を自己の実績としてフリーライドするような行為をしてはならない立場である。それにもかかわらず、被控訴人は、控訴人に無断で、反復継続して(本件記事部分については、控訴人が把握するだけでも、被控訴人による異なる11の記事において、また使用している。)、原告各記述が作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に、原告各記述に依拠して、特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーして被告各記述を作成し、これらを著書に掲載し、セミナー等で利用しており、控訴人の業務と競合する面があることも否定できない。また、被控訴人は、控訴人が調査した内容を、あたかも自らが調査した内容のように公表することで、控訴人のジャーナリストとしての地位を危うくするものである。かかる被控訴人の行為は悪質であり、控訴人に対する営業妨害ですらある。
 そうすると、被告各記述に関する被控訴人の一連の行為は、自由競争を逸脱するものであり、社会的に許容される限度を超えたものであって、控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである(前記YOMIURI ONLINE事件控訴審判決参照)。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断するが、その理由は、後記2のとおり改め、後記3のとおり当審における控訴人の補充主張についての判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」(以下、単に「原判決の第3」という。)の1及び2に記載するとおりであるから、これを引用する。
2 引用に係る原判決の訂正
(1)原判決7頁1行目の「別紙1及び2の各対比表の」及び同頁2行目の「同対比表の」をいずれも削除し、8頁12行目の「別紙1及び2の各対比表について個別に」を「審理経過に鑑み、原判決別紙1及び2の各対比表を用いて」に改め、同頁13行目末尾の次に改行して次のとおり加える。
 「(2)認定事実
 括弧内に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によると、次の各事実が認められる(以下、次の各事実を項目名に従って単に「認定事実ア」などという。)。
ア(ア)奨学金については、その有利子化の問題点について、かねてから議論があり、有利子化の背景に銀行業界の政治的な影響がある旨を指摘する文献もあったところ、有利子化後の有利子奨学金の規模の拡大等も踏まえ、奨学金に係る問題に取り組む者の間では、遅くとも平成23年10月頃までの時点において、奨学金制度が教育ローン化していること、有利子奨学金の資金源に財投機関債(銀行)があること、返還金が延滞金、利子、奨学金元本という順に充当され、まず元本に充当するという扱いがされていないこと、延滞債権について民間の債権回収会社への回収業務委託が進められ取立てが強化されていること、債権回収業務の委託先である民間業者(具体的に、日立キャピタル債権回収株式会社の名称も挙げられていた。)に対する支払が出来高払いであることから業者にとっては回収を進めた方が利益となることなどが、広く問題とされていた(乙5〜7、9の1・2、乙12、13、16、17)。
(イ)上記に関し、同じく平成23年までの時点において、日本育英会が解散して支援機構に独立法人化した2004年(平成16年)を契機とする有利子奨学金の規模の拡大や回収業務の厳格化を指摘する記事も複数存在した(乙7、11)。
イ(ア)公開資料である支援機構の平成22年度「JASSO年報」には、同年度(平成22年4月1日から平成23年3月31日まで)の損益計算書において、「経常収益」中、「学資金利息」が232億8798万2142円であること及び「延滞金収入」が37億1297万3717円であることが記載されており、また、同年度のキャッシュ・フロー計算書において、「業務活動によるキャッシュ・フロー」中、「借入利息の支払額」が330億2314万8609円であること及び「その他利息の支払額」が22億7611万3618円であることが記載されている(乙8、14)。
(イ)公開資料である平成24年5月付け文部科学省高等教育局学生・留学生課の「(独)日本学生支援機構(JASSO)奨学金貸与事業の概要」と題する資料には、新規延滞者(延滞期間が4月〜8月の者)に係る外部委託について、平成22年度の「委託手数料」が「104百万円」であり、「回収金額」が「1,677百万円」であることが記載されている(乙18)。
ウ(ア)控訴人は、平成24年2月頃、文部科学省に対して支援機構の奨学金事業に係る債権回収業者への委託状況及び回収状況について照会を行い、その頃回答を得て、当該回答により得られたデータを用いて、原告雑誌記事を執筆した(甲21)。
(イ)控訴人は、平成25年8月19日、支援機構に対して照会を行い、同月27日頃に回答を得て、当該回答により得られたデータを用いて、原告ルポを作成した(甲20)。」
(2)原判決8頁14行目の「(2)」を「(3)」に改める。
(3)原判決8頁17行目の「この箇所の原告記述と被告記述とでは」を「これらの箇所の「原告記述」欄記載の記述(以下、単に「原告記述」ということがある。)と「被告記述」欄記載の記述(以下、単に「被告記述」ということがある。)とでは」に、同頁22行目の「ある」を「充てられている」に、同頁23行目〜24行目の「以前」を「前」に、同頁25行目の「乙5ないし7」を「認定事実ア(ア)」に、同頁26行目〜9頁1行目の「事実」を「事実又はそれに係る評価」に、同頁4行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」にそれぞれ改め、同頁7行目の「得ず」の次に「、両者は」を加える。
(4)原判決9頁11行目の「この箇所」を「これらの箇所」に、同頁19行目の「事実」を「事実又はそれに係る思想若しくはアイデア」に、同行目〜20行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」にそれぞれ改め、同頁22行目の「得ず」の次に「、両者は」を加える。
(5)原判決9頁25行目の「この箇所」を「これらの箇所」に、10頁1行目の「ある」を「充てられている」にそれぞれ改め、同頁4行目の「共通点は」の次に「、既に述べたところに照らし」を加え、同頁5行目の「事実」から6行目の「いうべきであって」までを「事実又はそれに係る思想若しくはアイデアであり」に、同頁7行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」にそれぞれ改め、同頁10行目の「得ず」の次に「、両者は」を加える。
(6)原判決10頁13行目の「この箇所」を「これらの箇所」に、同頁15行目の「ある」を「充てられている」にそれぞれ改め、同頁21行目の「共通点は」の次に「、既に述べたところに照らし」を加え、同頁22行目の「事実」から23行目の「いうべきであって」までを「事実又はそれに係る思想若しくはアイデアであり」に、同頁24行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」にそれぞれ改め、11頁1行目の「得ず」の次に「、両者は」を加える。
(7)原判決11頁9行目の「ある」を「充てられている」に、同頁15行目の「上記共通点のうち」から18行目の「事実であって」までを「上記共通点は、既に述べたところに照らし、既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての思想若しくはアイデア又は奨学金の回収方法や支援機構の収支に関する事実若しくはそれらに係る思想若しくはアイデアであり」に、同頁19行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」にそれぞれ改め、同頁21行目の「いい難く」の次に「、両者は」を加える。
(8)原判決11頁25行目の「表現それ自体ではない部分又は」を削除する。
(9)原判決12頁3行目の「(3)」を「(4)」に改める。
(10)原判決12頁5行目の「この箇所の原告記述と被告記述とでは」を「この箇所について「原告記述(甲3)」欄の記述(以下、原判決添付別紙1の場合と同様に単に「原告記述」ということがある。)と「被告記述(甲14)」欄の記述(以下、同様に単に「被告記述」ということがある。)では」に、同頁6行目〜7行目の「異議申し立て」を「異議申立て」に、同頁11行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」にそれぞれ改め、同頁15行目の「ものであり」の次に「、両者は」を加える。
(11)原判決12頁23行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」に改め、同頁26行目の「ものであり」の次に「、両者は」を加える。
(12)原判決13頁3行目の「数億円」を「数百億円」に、同頁10行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」にそれぞれ改め、同頁13行目の「ものであり」の次に「、両者は」を加える。
(13)原判決13頁20行目の「事実」を「事実又はそれに係る評価」に、同頁23行目〜24行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」にそれぞれ改め、同頁26行目の「ものであり」の次に「、両者は」を加える。
(14)原判決14頁3行目の「それ」の次に「(元本からまず回収すること)」を、同頁6行目の「困難であり」の次に「、またこの箇所をその前の箇所と合わせて検討しても、その内容は、原告ルポが発行、公表される前から既に問題になっていた金融事業化についての一般的な考察(認定事実ア(ア))の枠を超えるものではなく、思想又はアイデアに属するものというべきであるから」を加える。
(15)原判決14頁9行目の「数億円」を「数百億円」に、同頁13行目〜14行目の「事実」を「事実又はそれに係る思想若しくはアイデア」に、同行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」にそれぞれ改め、同頁17行目の「ものであり」の次に「、両者は」を加える。
(16)原判決15頁1行目の「被告記述とでは」から2行目の「内容的な」までを「被告記述との」に改め、同頁5行目の「点であり」の次に「、両者は」を加え、同頁6行目の「表現それ自体ではない部分」を「思想又は感情の創作的な表現でない部分」に改める。
(17)原判決15頁13行目の「(4)」を「(5)」に改める。
(18)原判決16頁2行目の「最高裁」から4行目の「3275頁」までを「最高裁判所平成21年(受)第602号、603号同23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁」に改める。
3 当審における控訴人の補充主張について
(1)著作権(複製権、翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害の成否(争点1)について
ア 控訴人は、ルポルタージュの特徴を指摘した上で、原告各記述は、数多く存在する基礎資料から特定の事実を取り出し、「サラ金化する奨学金」との控訴人の問題意識の視点から、それを効果的に伝える文章として、控訴人が独自に構成し、表現したものであって、原告各記述と創作的表現において類似し、原告各記述に依拠した被告各記述は、原告各記述の複製又は翻案であると主張する。
 しかし、被告各記述が原告各記述の複製又は翻案と認められないことは、訂正して引用した原判決の第3の1で認定説示したとおりである。
イ(ア)上記に関し、控訴人は、ルポルタージュの特徴を指摘した上で、原告各記述は、控訴人において、素材の選択・配列・構文を工夫して執筆したものであると主張し、具体例として、2004年度(平成16年度)をターニングポイントと捉えたことや、2010年度(平成22年度)の「利息収入」及び「延滞金収入」、同年度期末の「民間銀行からの貸付残高」及び「年間の利払い」並びに「サービサー」からの「回収」額及び「手数料」額を示していることを主張する。
 しかし、平成16年における日本育英会の解散及び支援機構への独立法人化は、公知の事実というべきところ、それが奨学金制度の運用に少なくない影響を与えたとして、平成16年を転換点とみるという視点は、原告雑誌記事及び原告ルポの発表等の前から複数の記事によって示されていた(認定事実ア(イ))。したがって、同年を一つの基準時としてとらえるというアイデアはもとより、それに基づいた素材の選択等をもって、原告各記述につき控訴人の個性が表現されたものとはいえない。
 また、原告雑誌記事の発行時期(2012年(平成24年)4月)からして、その執筆に当たり2010年度(平成22年度)の会計上の数値を素材として選択するなどしたことについても、そのことをもって、原告各記述につき控訴人の個性が表現されたものとはいえない。そして、そうである以上、その翌年に発行された原告ルポにおいて2010年度(平成22年度)の会計上の数値が用いられていることをもって、原告各記述につき控訴人の個性が表現されたものとはみられない。
(イ)控訴人は、原告各記述は一般的な考察ではないと主張するが、同主張は、認定事実ア(ア)及び(イ)に反するものであって採用できない。
 なお、証拠(甲2、24)によると、控訴人は、原告雑誌記事及び原告ルポの執筆依頼を受けた際、依頼者から、奨学金制度の「金融ビジネス」化の動きを批判する旨の論稿の執筆を依頼されたことが認められるところ、そのような執筆の方向性に、遅くとも平成23年までの時点で公にされていた事実や意見等(認定事実ア(ア)及び(イ))を併せ考慮すると、少なくとも本件記事部分及び本件ルポ部分(イ)の記載内容は、表現それ自体ではないデータ等を中心に、一部評価や意見等にわたる部分についても控訴人の表現上の創作性を認め難い特徴のない態様で記載されたものとみざるを得ない。
(ウ)以上のことは、原告雑誌記事や原告ルポがルポルタージュであるということにより影響を受けるものではない。
 その他、控訴人が本件記事部分並びに本件ルポ部分(ア)及び(イ)について補充して主張する点も、訂正して引用した原判決の第3の1の判断を左右するものではない。
ウ 控訴人は、原告各記述を細分化して判断するという判断手法についても論難するが、訂正して引用した原判決の第3の1で認定説示した諸点や前記イで指摘した点に照らすと、本件記事部分を全体的に評価しても、また、本件ルポ部分を全体的に評価しても、被告各記述が原告各記述の複製又は翻案と認められないとの判断は、左右されるものではないというべきである。
(2)デッドコピーによる不法行為の成否(争点2)について
 控訴人は、被告各記述が原告各記述のデッドコピーであり、本件については、平成23年最判の射程外であるか、それを踏まえるとしても平成23年最判にいう「特段の事情」があるという旨を主張する。
 しかし、本件全証拠をもってしても、被告各記述について、原告各記述の複製又は翻案と認められないにもかかわらず、被控訴人の控訴人に対する不法行為の成立を認めるべき特段の事情が認められないことは、訂正して引用した原判決の第3の2で説示したとおりである。
 この点、前記(1)イ(イ)で指摘したように、遅くとも平成23年までの時点で公にされていた事実や意見等(認定事実ア(ア)及び(イ))を考慮すると、奨学金制度の「金融ビジネス」化というテーマについて、少なくとも本件記事部分及び本件ルポ部分(イ)の記載内容は、控訴人の表現上の創作性を認め難いものである。また、本件ルポ部分(ア)の記載内容が支払督促の制度内容をありふれた表現で説明したものというべきことは、引用に係る訂正後の原判決の第3の1(4)アで説示したとおりである。
 その上で、有利子奨学金やその回収に係る問題が広く認識されていたこと(認定事実ア(ア))、被告各記述の作成時点において公開資料から把握し得た事実(認定事実イ(ア)及び(イ))に加え、被告各記述のうち本件書籍に掲載されたもの(甲4)は原告ルポと同時に同一書籍に掲載されたものであること(甲3)、被告各記述に係る雑誌記事等の中には、脚注等で本件書籍が参考文献である旨明記されているものが多く存在すること(甲7〜10、12、13)のほか、控訴人が主張する原告雑誌記事及び原告ルポの執筆に当たり控訴人が独自にデータを取得したという点についても、官公庁や公的機関というべき支援機構に対して照会をしたというもので(認定事実ウ(ア)及び(イ))、当該照会により控訴人が得た内容もその多くは公開資料に基づくものであったことがうかがわれること(甲20、21)などを総合的に考慮すると、他方で、控訴人が指摘するとおり、被告各記述と原告各記述の類似の程度が相当に高いことや、被告各記述を作成するに際し、被控訴人が原告各記述に記載されたデータを参考としたこと(被控訴人が自認する事実)を踏まえても、被告各記述について、被控訴人がこれらを発表するに当たり、控訴人に対し、原告各記述のデータを参考としたことを事前に説明するなどの一定の配慮をすることも考えられたことは別として、不法行為による損害賠償責任をもって臨むべき特段の事情は認められないというべきである。
 その他、控訴人が主張する点は、いずれも上記判断を左右するものではない。
第4 結論
 よって、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 中島朋宏
 裁判官 勝又来未子
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/