判例全文 | ||
【事件名】現代美術作品の和解条項違反事件(2) 【年月日】令和4年8月25日 知財高裁 令和4年(ネ)第10027号 損害賠償等請求控訴事件、令和4年(ネ)第10042号 同附帯控訴事件 (原審・東京地裁平成30年(ワ)第39000号) (口頭弁論終結日 令和4年6月2日) 判決 亡X訴訟承継人控訴人(附帯被控訴人) X1 同訴訟代理人弁護士 井田大輔 同 山本雄祐 Y1こと被控訴人(附帯控訴人)Y 同訴訟代理人弁護士 島村和也 同 熊王斉子 主文 1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴の趣旨 (1)原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 (2)前項の取消しに係る部分につき、被控訴人の請求を棄却する。 2 附帯控訴の趣旨 (1)原判決を次のとおり変更する。 (2)附帯被控訴人は、附帯控訴人に対し、1800万円及びこれに対する平成30年12月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3)なお、附帯控訴人は、当審において、第1審で求めていた2億2710万円及びこれに対する平成30年12月24日から支払済まで年5分の割合による金員の支払請求を、上記(2)のとおりに減縮した。 第2 事案の概要等(略語は、特に断りがない限り原判決のそれに従う。) 1 事案の要旨 本件は、美術商である被控訴人(附帯控訴人、原審原告。以下「被控訴人」という。)が、現代美術の作家であったX(原審係属中の令和2年8月27日に死亡した。亡X)の相続人である控訴人(附帯被控訴人、原審被告。以下「控訴人」という。)に対し、亡Xが、被控訴人と亡Xとの間の訴訟上の和解(以下「前訴和解」という。)の和解条項2(4)(原判決第2の2(4)、本件禁止条項)に違反する態様で作品の公表等をしたと主張し、前訴和解の定める違約金1800万円及び前訴和解の債務不履行による損害賠償2億0910万円の合計2億2710万円並びにこれに対する債務不履行の後である平成30年12月24日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「旧民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原判決は、被控訴人の請求を、違約金400万円及びこれに対する平成30年12月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却した。 控訴人は、原判決の控訴人敗訴部分の取消しとその取消しに係る部分につき被控訴人の請求の棄却を求めて控訴し、被控訴人は、原判決を、違約金1800万円及びこれに対する平成30年12月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命じるように変更することを求めて附帯控訴した。なお、被控訴人は、当審において、損害賠償2億0910万円及びこれに対する平成30年12月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求を取り下げ、請求を上記附帯控訴の趣旨(前記第1の2(2))のとおりに減縮した。 2 前提事実 前提事実は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の2(原判決2頁12行目から7頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決2頁21行目、4頁3行目、5頁10行目の「本件和解」を「前訴和解」とそれぞれ改める。 (2)原判決4頁19行目の「本件作品4」を「本件作品3」と、20行目の「本件作品5」を「本件作品4」とそれぞれ改める。 3 争点 争点は、次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の3(原判決7頁3行目から7行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 原判決7頁7行目末尾の後に行を改めて次のとおり付加する。 「(6)旧民法130条の類推適用により、本件禁止条項の定める条件が成就していないものとみなすことができるか(争点6)」 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記2ないし5のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3(原判決7頁9行目から18頁11行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決8頁2行目、5行目、14行目、15行目及び26行目、9頁7行目及び14行目、10頁13行目及び15行目、12頁18行目及び19行目、14頁26行目、15頁21行目、18頁1行目の「本件和解」をいずれも「前訴和解」と改める。 (2)原判決9頁19行目の「亡X氏」を「亡X」と改める。 (3)原判決12頁19行目及び22行目の「本件画廊」を「本件画廊1」とそれぞれ改める。 (4)原判決17頁26行目冒頭の「(1)」を削除する。 (5)原判決18頁5行目冒頭から9行目末尾までを削除する。 2 争点2(本件作品1及び2に係る本件禁止条項違反の有無)について 〔被控訴人の主張〕 (1)本件画廊1は、亡Xとの間の合意により、亡Xの指示に従って、作品の制作年代を含む作品明細の表示を行っていたから、本件画廊1が本件作品1及び2について本件禁止条項に反する作品の表示をしていたことは、亡Xが本件禁止条項に違反したものといえる。 (2)前訴和解において、過去の作品を含め、本件カタログ・レゾネの記載に矛盾する制作年代等の公表が禁じられたから、亡Xは、前訴和解を遵守するために、過去に美術商に対して指示した、本件カタログ・レゾネに矛盾する制作年代等の公表を、中止すべき義務を負う。 (3)したがって、本件画廊1が、本件作品1及び2について、本件禁止条項に違反する表示をしたことは、亡Xによる本件禁止条項違反に対する違反といえる。 〔控訴人の主張〕 (1)本件画廊1の代表者は、メールによる質問に対する回答(乙17の質問14ないし16に対する回答)において、亡Xとの間で平成30年(2018年)5月に本件作品2について再制作の協議をしたこと自体を否定しており、本件画廊1の日本法人F1(以下「日本支社」という。)の東京ディレクターであるA(以下「A」という。)の陳述書(乙4)にも、顧客として問い合わせを行ったB(以下「B」という。)とAとのメールのやり取りやAと本件画廊1のニューヨーク本社(以下「NY本社」という。)の担当者とのメールのやり取りが記載されているだけで、本件画廊1と亡Xとの間で本件作品2の再制作に関する協議が行われたことは何ら述べられていない。また、C1(本件画廊2)の代表者である証人C(以下「C」という。)は、その陳述書(乙18)において、亡Xは、本件画廊1と一人で英語により交渉を行うことはできず、Cが仲介しており、平成30年(2018年)当時、亡Xと本件画廊1との間で本件作品2の再制作に関する協議はなかったと述べる。したがって、亡Xと本件画廊1との間で、本件画廊1が本件作品2に関する発注等の調整や取次ぎなどをするとともに、本件作品2の販売に当たって亡Xにおいて同様の作品を制作する旨の合意が成立していたとはいえない。 (2)本件作品1は、本件作品3と同様に、船の模型の作品であり、本件作品2のようにその設置に亡Xの関与を要するようなものではないから、本件画廊1が本件作品1について本件禁止条項に違反する表示を行っていたとしても、亡Xが本件禁止条項に違反したとはいえない。 3 争点3(本件作品3及び4に係る本件禁止条項違反の有無)について 〔被控訴人の主張〕 (1)本件画廊2は、亡Xをプロモートする美術商であり、そのプロモート活動は、亡Xの委託と許諾に基づいて、本件画廊2と亡Xの共同作業として行われるものであり、作家と作品を宣伝した上で作家に新たな作品を制作させて販売するマネージャーのような存在である(証人C〔2頁15〜22行目〕、乙18)。 (2)本件作品3及び4は本件画廊2が販売目的で保有する作品ではなく、亡Xのプロモートのために公表される非売品である(証人C〔15頁20行目〜16頁4行目〕)。 (3)本件画廊2は、そのウェブサイトにおいて亡Xを「GalleryRepresentingArtists」として表示し、亡Xの委託と許諾に基づき法的な代理権をもつことを示して本件作品3及び4を公表した(証人C〔15頁2行目〜19行目〕)。亡Xと本件画廊2は、亡Xが被控訴人と独占契約を結んでいる間は、本件画廊2が亡Xを「GalleryRepresentingArtists」と紹介することができないと認識し、独占契約終了後に「GalleryRepresentingArtists」と表示するようになったから、「GalleryRepresentingArtists」という表示は、法的な代理人であって、作家の委託と許諾に基づいて作家の作品を公表していることを意味する。 (4)本件画廊2は、亡Xの決定に従って年代表記を行うとともに、亡Xの委託と許諾に基づいて本件作品3及び4を公表したものであり、亡Xは、前訴和解後に本件画廊2が本件禁止条項に違反する公表を行わないようにする義務を負っていた。 (5)本件作品4については、本件作品4の所有者であるD、本件画廊2及び亡Xが締結した美術品委託契約を規定する美術品委託契約書において、亡Xの関与が明示されており、亡Xは本件作品4の作品公表について委託又は許諾をする立場にあった。 (6)したがって、本件画廊2が、本件作品3及び4について、本件禁止条項に違反する表示をしたことは、亡Xによる本件禁止条項に対する違反といえる。 〔控訴人の主張〕 本件画廊2が本件作品3及び4について本件禁止条項に違反する表示を行っていたとしても、それについて亡Xの関与はないから、亡Xが本件禁止条項に違反したとはいえない。 4 争点4(本件作品5ないし9に係る本件禁止条項違反の有無)について 〔被控訴人の主張〕 (1)亡Xは、本件作品5ないし9の著作権に基づいて、本件画廊3に対し、本件カタログの販売中止又は本件カタログ上の年代表記の修正を求めることができたものであり、これを行わなかったのは本件禁止条項違反に当たる。 (2)本件画廊3は、亡Xをプロモートする美術商であり、そのプロモート活動は、亡Xの委託と許諾に基づいて本件画廊3と亡Xの共同作業として行われるものであり、前訴和解成立後に、本件カタログ・レゾネと矛盾抵触する年代表記のまま本件カタログが販売されることは、亡Xによる本件禁止条項に対する違反に当たる。 (3)したがって、本件画廊3が、本件作品5ないし9について、本件禁止条項に違反する表示をしたことは、亡Xによる本件禁止条項に対する違反といえる。 〔控訴人の主張〕 本件作品5ないし9を含む作品を収録した本件カタログは、前訴和解前に個展に使用するために本件画廊3の費用負担により作成され、同個展終了後も本件画廊3が売れ残りを販売していたが、その販売数等を亡Xに一切報告していなかったから、本件カタログの表示をもって、本件禁止条項に違反したものということはできない。 5 争点6(旧民法130条の類推適用により、本件禁止条項の定める条件が成就していないものとみなすことができるか)について 〔控訴人の主張〕 被控訴人は、Bをして、真実は本件作品1及び2を購入する意思がないにもかかわらず、本件画廊1に対し、販売価格や作品明細の問合せを行わせ、前訴和解条項違反の有無を調査又は確認するという範囲を超えて、亡Xが本件禁止条項に違反する債務不履行状態を作出したものである。亡Xが本件禁止条項に違反することにより利益を受ける被控訴人が、不正に、本件禁止条項に違反する債務不履行状態を作出したものであるから、旧民法130条の類推適用により、亡Xの相続人である控訴人は、本件禁止条項の定める条件が成就していないものとみなすことができる。 〔被控訴人の主張〕 本件画廊1は、Bが問合せを行う前から、本件禁止条項に反する表示をしていたから、旧民法130条の類推適用の余地はない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件禁止条項に違反する行為の意義)について この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第4の1(原判決18頁14行目から20頁11行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 原判決18頁21行目、19頁6行目及び9行目、20頁2行目及び8ないし9行目の「本件和解」を「前訴和解」とそれぞれ改める。 2 争点2(本件作品1及び2に係る本件禁止条項違反の有無)について この点に関する原判決「事実及び理由」第4の2(原判決20頁13行目から24頁19行目まで)を、次のとおり改める。 (1)事実認定 後掲各証拠によれば、次の事実が認められる。 ア 亡XとCの取引の開始等 C1(本件画廊2)の代表者であるCは、平成21年ないし平成22年頃、亡Xと知り合い、その作品を取り扱うようになった(甲31、証人C〔2、3頁〕)。 そして、本件画廊2は、平成22年8月27日には、F(本件画廊1の代表者)に対しても、本件作品1を販売したが、平成23年2月24日、被控訴人の担当者との会談において、被控訴人と亡Xとの間の独占契約は解消されておらず、本件画廊2の行為は責任問題になる旨の指摘を受けた(甲31)。 イ 亡Xと被控訴人との独占契約の解消 亡Xは、平成23年5月2日付けで、被控訴人に対し、亡Xの制作する作品を被控訴人が買い取るという継続的な契約関係が終了していることを確認するなどとする通知をしたが(甲32)、被控訴人は、これに反論し(甲33)、両者の債権債務の清算などのため、平成24年3月20日付け合意書(甲34)、平成25年3月12日付け債務弁済契約公正証書(甲35)が交わされ、同債務弁済契約公正証書の作成をもって、亡Xと被控訴人との継続的な契約の解消が黙示に合意された(甲40〔12頁〕)。 ウ 前訴和解前の亡Xの作品の販売等への本件画廊1の関与 (ア)本件画廊1は、平成24年(2012年)1月6日から亡Xの展覧会を開催し、本件作品1を展示したが、亡Xと相談の上、その作品明細において、年代表記を「1966」とした(甲16の1、2)。 (イ)本件画廊1は、平成27年(2015年)1月17日からも亡Xの展覧会を開催し、前訴作品及び本件作品2を展示したが、亡Xと相談の上、それらの作品明細において、年代表記を「1970/2015」とした(甲16の1、2、甲47の1、2)。 このような年代表記について、亡Xは、昭和45年(1970年)に作品のアイデアが考え出され、平成27年(2015年)に作品が実際に制作されたという意味であることを説明しており、実際にも、これらの作品が制作されたのは、同年のことであった(甲47の1、2、乙11の1、2)。 (ウ)本件画廊1のニューヨークのディレクターであるGは、Hとの間で、前訴和解前の平成27年(2015年)3月6日から同月16日にかけて、次のようなメールの交換をした(甲47の1、2)。 a「2015年3月6日GからHへ Hへ 先日の電子メールをありがとう。あなたが、展覧会を見ることが出来なかったことを残念に思います。 あなたからのリスエストについて、X作の複数作品についての作品明細と作品写真を見てください。それらはディスプレイで見れます。 そしてまだ販売可能です。 あなたの考えをお知らせください。 よろしく。 G」 b「2015年3月11日HからGへ Gへ 私は下記の作品にとても興味を覚えます。 この作品が、カタログレゾネに掲載されているかどうかを私に知らせてくれませんか?もし、載っているならカタログレゾネでの作品番号を私に知らせてもらえませんか? X WireRope 1970/2015 Steel HAR-0037 13feet/4meterslong $45,000.00 Available あなたからの返事を楽しみにしています。 よろしく。 H」 c「2015年3月11日GからHへ Hへ 私の記憶が正しければ、Xカタログレゾネは、2001年までの作品掲載です。そしてこの作品は、この展覧会のために、つい今年制作されました。この作品は、レゾネには記載されていません。 あなたの考えを知らせてください。 よろしく。 G」 d「2015年3月13日HからGへ Gへ 返信をありがとう。カタログレゾネに、この作品が掲載されているかどうかを質問した理由は、あなたから私か受け取った作品リストには、初期の制作年が1970年と記されているからです。 この作品は新作だからカタログレゾネには掲載されていないとあなたは私に知らせました。 1970年当時にこの作品は存在していなかったのですか?制作年“1970/2015”が、何を意味するのか私に教えていただけますか? よろしく。 H」 e「2015年3月12日GからHへ Hへ もちろんです。あなたの興味を理解します。この作品に見られる年代表記は、コンセプトを再使用する場合に、Xが良く使う表記方法です。 2つの年代ですが、作品のアイデアが考えだされた年が1970であり、実際に作品が制作された年が2015です。 これでお分かりになる事を願っています。質問がある場合いつでも連絡してください。 よろしく。 G」 f「2015年3月16日HからGへ Gへ あなたの意見は、私にとって大きな参考となります。ありがとう。最後に1つ質問があります。この作品の制作年を含む明細は、作家であるX本人からの情報と指示に従って、正確に記載されたものに間違ないことを、あなたに確認いたします。 私は良く考えた上で結論を出したいと思います。 よろしく。 H」 g「2015年3月16日GからHへ Hへ 作家からの厳密な作品明細です。 考えてくださりありがとうございます。 よろしく。 G」 エ 本件前訴 被控訴人は、平成27年9月15日、亡Xを被告として、著作権、不正競争、債務不履行、不法行為等を訴訟物として主張し、本件画廊1が販売活動を担当し、作品明細に「1970/2015」との表記がされている亡Xの「WireRope」と称する作品(前訴作品)を廃棄し、その作品明細から「1970/」との記載を削除することなどを求める訴訟(本件前訴)を提起した。前訴作品は、本件画廊1の建物の階段の下に、既成の工業製品であるワイヤーロープ1本を固定したものであったが、本件カタログ・レゾネには、これと同様に大学の教室にワイヤーロープ1本を固定した作品が、「1970」との年代表記の下で掲載されていた。(甲7〔58頁〕、甲8、甲38〔15〜16頁〕) 被控訴人は、本件前訴において、概略、亡Xの作品には、完成後に保管場所などの関係で廃棄され、後に「原作品を再現した真作としての再制作品」が制作されるものがあるため、前訴作品の「1970/2015」という表記は、昭和45年(1970年)に制作された原作品を平成27年(2015年)に再制作したことを意味することになるが、被控訴人は、亡Xとの間の独占契約に基づき、そのような「再制作を行う権利」も含め、原作品の著作権の譲渡を受けていることなどを主張した(甲8)。 オ 前訴和解 (ア)前訴和解の成立 被控訴人と亡Xは、平成28年9月2日、本件前訴における各訴訟代理人の出頭の下、前訴和解を成立させた。前訴和解の和解条項(抜粋)は、原判決第2の2(4)〔原判決5頁11行目〜6頁21行目〕のとおりであった(甲9)。 (イ)本件禁止条項 本件禁止条項(前訴和解の和解条項2(4))は、原判決第2の2(4)に記載されたとおり〔原判決5頁26行目〜6頁21行目〕であり、その要旨は、亡Xが、被控訴人に対し、「本件カタログ・レゾネに記載されていない立体作品を、1963年から2001年までの間に自らが制作した作品であるとして公表しない」こと(和解条項2(4)ア)、「本件カタログ・レゾネに記載されていない作品が存在すること又は存在したことを前提とする作品明細表記を行わない」こと(和解条項2(4)イ)、「本件カタログ・レゾネに記載されていない作品の複製であると誤認させる年代表記を行わない」こと(和解条項2(4)ウ)を約することであった。 カ 前訴和解後の亡Xの作品の販売等への本件画廊1の関与 (ア)本件画廊1は、平成30年5月12日頃、本件カタログ・レゾネに掲載されていない作品である本件作品1(「BattleShip,Ref.A」)の画像に「1969」と付記し、本件作品2(「OilPool」)の画像に「1970/2015」と付記し、これらを亡Xの作品として、自らのウェブサイト上に掲載していた(甲11、12)。 (イ)控訴人の知人であるBと、日本支社の東京ディレクターであるAとの間で、本件作品1及び2について、次のような問い合わせと回答が行われた(乙4)。 a Bは、平成30年5月18日、日本支社に対し、本件画廊1のウェブサイトを見たとして、本件作品1及び2の作品明細と販売価格を問い合わせ、それらの、ウェブサイト掲載のものよりも少し大きめの写真のデータの送信を依頼した。Bの問合せに対し、日本支社において、Aが対応した。(甲17) b 本件作品2は、7メートル超の金属枠を床に設置し、廃油を枠に注いで展示するという作品であり、平成27年(2015年)1月から2月にかけて開催された本件画廊1のNY本社での亡Xの作品の展覧会に展示するため、本件画廊1の代表のFに寄贈され、の後、廃油を抜いて分解した状態で枠がアメリカの倉庫で保管されていたものであったが、Aは、その経緯を知らなかった。Aは、本件作品2をータベース上で確認し、その作品の性質上、現物そのものを販売することは考え難く、発注を受けて、顧客の要望する場所に、その場所の条件に応じた寸法等により新たに制作して納品するという意味で「コミッションワーク(発注作品)」であると認識していた。 Aは、上記のような認識の上に、Bの問合せに対応するために、平成30年5月21日、本件画廊1のNY本社の職員に、本件作品1及び2の高画質画像と作品詳細情報の送付をメールで依頼し、翌日、そのデータを受領した。Aが、受領した作品詳細に基づいて、日本支社からも閲覧できるNY本社の在庫データベースを調べたところ、本件作品2については、4年前に30万ドルという小売価格が設定されていることが分かった。 Aは、NY本社からの回答を踏まえ、平成30年5月24日、Bに対し、本件作品1及び2の作品明細を添付して、応答のメールを送信した。同メールには、本件作品1については、本件画廊1に在庫はなく、希望があれば作品を探すことはできる旨記載され、本件作品2については、作家に再制作を依頼する「コミッションワーク」となるので、Bから購入の意思表示を受けてから、作家と販売価格や諸条件を交渉する必要がある旨、ちなみに4年前は30万ドルの販売価格で提示していた旨が記載されており、さらに、作品の高画質画像は、WeTransferというサイトを通して送付しているのでダウンロードを依頼する旨記載されていた。(甲18) c NY本社の管理する倉庫としては、NY本社内の倉庫と外部の倉庫があり、Aが平成30年5月24日付けのメールに本件作品1について在庫がない旨記載したのは、NY本社内の倉庫に在庫がないという趣旨であり、その後、本件作品1が外部の倉庫に保管されていることが判明した。Bが前記bのWeTransferというサイトから本件作品1及び2の画像をダウンロードした形跡がなかったので、Aは、同月25日、本件作品1がNY本社の在庫としてあり、参考価格として6万ドルを提示しているという情報とともに、Bにメールを再送信し(甲19)、それに対する返事がなかったので、同月30日、同内容のメールを再度、送信した。 d 平成30年6月1日、Bから返信があり、その内容は、本件作品2について、過去の国内展示では一点ものと位置付けられていたが、2015年のニューヨークでの展示作品はコミッションワークなのではないか、そしてその展示作品の在庫がないというのであれば、売却済なのかといった質問であり、本件作品1について、在庫がないということは他へ売却済みなのかといった質問であった。 Aは、平成30年6月2日、Bに対し、本件作品2についてはNY本社のスタッフに再確認して返答することとし、本件作品1については、Aの同年5月24日のメールの「在庫がない」という表現が誤解を招くものであったことを詫び、NY本社の在庫として本件作品1が実際にあることを説明する旨のメールを送信した。 e Aは、NY本社の担当者に、本件作品1及び2について更に詳細な事実関係を問い合わせるメールを送信した。NY本社の担当者からの回答は、本件作品1は確かにニューヨークで保管されており、本件作品2はデータベースを見る限り、作品の状態が「非売(notforsale)」と表記されており、おそらくそれは、本件作品2の再制作について具体的な発注に基づく委託契約がないためであろうと説明するものであり、この点をNY本社の担当者が再度確認するという内容のものであった。 Aは、NY本社の担当者から、再確認の結果、本件作品2については、上記のとおりの状況であり、顧客に作品購入の意思があるのであれば、発注を受けることは可能であって、顧客が設置を希望する場所で新たに本件作品2を構築する場合、木の枠板はニューヨークの外部倉庫に保管されているが、金属の底板は廃棄してしまっているので、新しいものに交換する必要があり、これらが発注されれば、顧客の居住地へ船便で輸送することになるだろうという回答があった。 Aは、NY本社の担当者に対し、さらに、底板等(これらはかなり大きい)の輸送費や、顧客の希望する場所での構築を亡Xに依頼した場合の費用も、30万ドルという販売価格に含まれるのか、また、そもそも亡Xに構築を依頼することができるのかなどを問い合わせた。 これに対し、NY本社の担当者からは、本件作品2の価格は30万ドルでよいが、これには輸送費や亡Xによる構築の費用は含まれておらず、これらの費用は、本件作品2を購入した顧客の負担となること、底板については、NY本社側で作成し、他の材料と合わせて一式で輸送することが可能であること、そして、亡Xには現場での構築作業のみを依頼するのがよいと思われることが回答された。 f その後、Aは、Bが、真に購入を希望する顧客ではなく、被控訴人が亡Xの作品の情報を収集するために使った偽名かダミーの顧客であると考えるようになり、Bに対してそれ以上の回答はしなかった。 (ウ)本件画廊1は、前訴和解後の平成30年(2018年)6月、亡X宛ての、次のような記載のある手紙(甲16の1、2)を作成した。 「拝啓X殿 Y1から問い合わせのあった、以下の2つの作品は、あなたが制作し、私のニューヨーク州ニューヨーク市の画廊にて展示した作品であることを、この手紙にて確認します。2015年3月以前より、数年間両作品を私は所有しています。 以下の作品は、私の画廊での”X:WorksfromYokosuka”という名の展覧会にて、2012年1月6日から3月17日まで展示しました。 この作品は2012年に、展覧会に際して出版した我々のカタログにも掲載されています。 Battleship,Red.A,1966 LacqueronPaper,MDFandplexiglass 21x181/8x6inches (53.5x46x15.2cm) さらに、以下の作品は、2015年1月17日から2月21日、展覧会”X”にて展示されました。 OilPool,1970/2015 Steel,spentmotoroil 24x12feet (7.3x3.7meters) これらの作品2点の明細は、私の画廊の調査に基づいて、あなたと私が共同で決めたことです。X氏一人がこれらの作品の明細を決めたのではないことを、私は確認します。 敬具 F」 (エ)本件画廊1は、令和元年8月9日頃、そのウェブサイトにおいて、「WORKSAVAILABLEBY」の作家と区別された「ARTISTS」(契約作家)として、亡Xの名前を掲載し、その経歴や作品を紹介していた(甲45の1)。 (オ)本件画廊1の代表者であるFは、次のような令和元年(2019年)9月27日付けの陳述書を作成した(乙11)。 「2019年9月27日 証言 F2のウェブページに掲載されているアート作品の記述に関する作家X氏の関与について 私のギャラリーは、2015年3月以前に、本件訴訟で議論されているアート作品であるバトルシップ及びオイルプールの両作品を所有しておりました。バトルシップは、私のギャラリーが2010年にC1から購入しました。また、2015年1月の展示のために、私のギャラリーが制作費を支出して、オイルプールが制作されました。 これら2つの作品に関する記述(年代表記を含みます)の決定は、本件訴訟で甲16号証として提出されている証拠に記載したとおりです。これらの作品に関していえば、私のギャラリーが作家に関する文献や他の資料などを検討し、X氏による情報を参考にしつつ、私のギャラリーが判断を下しております。その後、私のギャラリーは、ギャラリーのウェブページ上で、これらの作品に関する記述を公開しております。 F 2019年9月27日 F代表) 日付」 キ 本件訴訟の提起 被控訴人は、平成30年12月18日、亡Xを被告とし、亡Xが、本件画廊1ないし3(本件美術商ら)を通じ、本件作品1ないし9(本件各作品)について、本件禁止条項に違反する行為をしたなどと主張して、本件訴訟を提起した。控訴人は、亡Xが令和2年8月27日に死亡したため、相続放棄の熟慮期間を伸長する審判を受けた上、令和3年7月7日、本件訴訟の受継の届出をした。 (2)本件禁止条項に対する違反の有無 ア 本件禁止条項(前訴和解の和解条項2(4)、原判決第2の2(4)に記載)は、柱書で「控訴人は、自らがこれまでに制作した又は今後制作する作品について、当該作品の作品表記、作品制作、作品発表、作品販売にあたり、以下の事項を遵守する。」と規定し、「ア」で「控訴人は、被控訴人の書面による事前承諾がない限り、本件カタログ・レゾネに記載されていない立体作品を、1963年から2001年までの間に自らが制作した作品であるとして公表しない。」と規定する。このような規定によれば、本件禁止条項アは、亡Xの行為について、所定の公表をしないことを定めたものと認められ、画廊の行為については、直接には定めていないものと認められる。そして、画廊が本件禁止条項アに違反する行為をしたことによって亡Xが「公表」したというためには、亡Xと当該画廊との間に、亡Xが当該画廊に対し、作品の制作年代を含む作品明細の表示内容や、作品の価格・設置条件等を指示し、顧客との間で作品の価格・設置条件等について交渉するための権限を与えるという合意が存在し、亡Xが、その合意に基づき、当該画廊に対し、作品明細の年代表記の表示内容を指示し、それに従って当該画廊が制作年代を表示するとともに、当該画廊が、亡Xが示した作品の価格・設置条件等に基づいて顧客と実際に交渉を行っているというような密接な関係があることが必要であるというべきである。そのような場合に、当該画廊の制作年代の表示行為は、亡Xの指示に基づくものと認められ、その表示が本件禁止条項アに反する場合には、亡Xが「公表」の主体として本件禁止条項に違反したものと認められる。 イ(ア)前記(1)の認定事実によれば、本件画廊1は、前訴和解前から、亡Xと連絡を有し、その作品の販売等に具体的に関与し(前記(1)ウ)、本件画廊1の代表者が本件作品2の寄贈を受けるなどした上で、平成27年(2015年)1月から2月にかけて亡Xの作品の展覧会を開催し、その後も本件作品2を分解した状態で保管しており(前記(1)カ(イ)b)、亡Xの作品に添付する作品明細の年代表記は、亡Xとの協議の上で記載していた(前記(1)カ(ウ)、(オ))。そして、前訴和解後も、本件作品1及び2をウェブページに掲載し(前記(1)カ(ア))、本件作品1の在庫を有し、新たな制作が必要となる本件作品2についても、顧客の注文に応じて、亡Xのために、再制作の注文を受けたり、価格や設置条件を交渉する立場にあった(前記(1)カ(イ))ものと認められる。 (イ)このような経緯に鑑みるならば、前訴和解の前後を通じ、亡Xと本件画廊1との間には、亡Xが本件画廊1に対し、作品の制作年代を含む作品明細の表示内容や、作品の価格・設置条件等を指示し、顧客との間で作品の価格・設置条件等について交渉するための権限を与えるという合意が存在し、亡Xが、その合意に基づき、本件画廊1に対し、作品明細の年代表記の表示内容を指示し、それに従って本件画廊1が制作年代を表示するとともに、本件画廊1が、亡Xが示した作品の価格・設置条件等に基づいて顧客と実際に交渉を行っていたものと認められるから、本件画廊1の制作年代の表示行為は、亡Xの指示に基づくものと認められ、その表示が本件禁止条項アに反する場合には、亡Xが「公表」の主体として本件禁止条項アに違反したものと認めるのが相当である。 (3)原審における控訴人(原審被告)の主張に対する判断 この点に関しては、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第4の2(3)(原判決23頁18行目から24頁17行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ア 原判決23頁26行目の「上記(2)」から24頁1行目ないし2行目の「から、」までを、「前記(1)カ(イ)に示されるとおり、亡Xが、顧客の希望する場所で構築することが予定されるものであるから、」と改める。 イ 原判決24頁15行目の「前記(1)ク」を「前記(1)カ」と改める。 (4)当審における控訴人の補充主張に対する判断 ア 控訴人は、本件画廊1の代表者は、メールによる質問に対する回答(乙17の質問14ないし16に対する回答)において、亡Xとの間で平成30年(2018年)5月に本件作品2について再制作の協議をしたこと自体を否定しており、Aの陳述書(乙4)にも、BとAとのメールのやり取りやAとNY本社の担当者とのメールのやり取りが記載されているだけで、本件画廊1と亡Xとの間で本件作品2の再制作に関する協議が行われたことは何ら述べられていないこと、また、Cが、その陳述書(乙18)において、亡Xは、本件画廊1と一人で英語で交渉を行うことはできず、Cが25仲介しており、平成30年当時、亡Xと本件画廊1との間で本件作品2の再制作に関する協議はなかったと述べていることから、亡Xと本件画廊1との間で、本件画廊1が本件作品2に関する発注等の調整や取次ぎなどをするとともに、本件作品2の販売に当たって亡Xにおいて同様の作品を制作する旨の合意が成立していたとはいえないと主張する(前記第3の2〔控訴人の主張〕(1))。 しかし、本件画廊1のニューヨークのディレクターであるGのメール(前記(1)ウ(ウ)f)、F作成の手紙(甲16の1、2、前記(1)カ(ウ))、F作成の陳述書(乙11、前記(1)カ(オ))には、本件画廊1が、亡Xの作品に添付する作品明細の年代表記を、亡Xとの協議の上で表示していた旨の記載がある。また、本件画廊1のNY本社は、前訴和解後において、本件作品2について注文を受けることが可能であることや、その価格、注文を受けた場合の設置方法、その費用等について詳細を回答している(前記(1)カ(イ))。このような点を考慮すると、前記(2)イ(イ)のとおり認められるものであり、前訴和解後に、亡Xと本件画廊1との間で、本件作品1及び2の作品明細の年代表記について協議をしたことを直接に裏付ける証拠がないとしても、上記の認定が覆されることはないから、控訴人の上記主張を採用することはできない。 イ 控訴人は、本件作品1は、本件作品3と同様に、船の模型の作品であり、本件作品2のようにその設置に亡Xの関与を要するようなものではないから、本件画廊1が本件作品1について本件禁止条項に違反する表示を行っていたとしても、亡Xが本件禁止条項に違反したとはいえないと主張する(前記第3の2〔控訴人の主張〕(2))。 しかし、前記(2)イのように、亡Xと本件画廊1との間には合意が存在し、亡Xと本件画廊1はその合意に基づいて行動していたという密接な関係が認められるから、本件作品1についても亡Xを「公表」の主体とする本件禁止条項に対する違反が認められるというべきであり、控訴人の上記主張を採用することはできない。なお、本件作品1は、本件作品3と同様の船の模型の作品であるが、亡Xと本件画廊1との関係は、上記のとおりであるのに対し、亡Xと本件画廊2との間に、亡Xが本件作品3の年代表記の維持又は変更に関与することを可能にするような密接な関係があったことを認めるに足りる証拠はないから、本件作品1について本件禁止条項に対する違反を認め、本件作品3についてそれを認めないことは、矛盾するものではない。 3 争点3(本件作品3及び4に係る本件禁止条項違反の有無)について この点に関する原判決「事実及び理由」第4の3(原判決24頁21行目から28頁20行目まで)を、次のとおり改める。 (1)事実認定 後掲各証拠によれば、次の事実が認められる。 ア 本件画廊2は、平成24年12月6日、本件作品3を388万6470円で買い取った(乙7、8、証人C〔6頁〕)。本件作品3は、船の模型の作品であった(甲20)。 イ Cは、その頃、亡Xから本件作品3に係る説明を受けた。Cは、亡Xから聞いた説明により、本件作品3は、実際には平成24年(2012年)頃に亡Xが制作したものであったが、亡Xが高校生であった昭和39年(1964年)頃に制作したモデルシップが基になっており、本件作品3にも「1964」という年代が記載されているという認識を得た。そのため、Cは、本件作品3の作品明細表記における年代表記を「1964」とすることとした。 (乙14〔2頁〕、証人C〔10、11頁〕) ウ Dは、美術品の収集家であった夫のEから本件作品4を含む亡Xの作品を相続し、これらを販売又は寄贈の方法で処分するため、本件画廊2を利用しようとした。しかし、Dは美術品の知識を有さず、本件画廊2による処分が適切であるかどうかを判断することができなかったため、同人と信頼関係のあった亡Xが本件画廊2による作品の処分に関与することとした。そのため、平成25年(2013年)8月26日、D、本件画廊2及び亡Xとの間で、本件作品4を含む亡Xの作品合計5点について、美術品委託契約書(乙2)により、美術品委託契約を締結した。美術品委託契約書(乙2)には、美術品委託契約による委託の目的は、作品の寄贈或いは作品の販売であること(第1項)、寄贈する場合の条件は、作品が良い状態で保管されることや、公共に閲覧される機会の有無などを考慮し、D、本件画廊2及び亡Xの協議の上決定すること(第3項)、販売する場合には、D、本件画廊2及び亡Xの協議の上、Dに支払われる価格にD、本件画廊2及び亡Xが合意することが条件となること(第4項)、第3項及び第4項に記載された寄贈又は販売が成立し所有権が移転した場合を除き、作品の所有権はDが保有すること(第5項)、作品は基本的に本件画廊2が管理すること(第6項)等が定められていた。本件画廊2は、平成25年8月頃、美術品委託契約に基づき、Dから本件作品4を含む亡Xの作品を預かった。 (乙2、14、証人C〔13〜14頁〕) エ 本件画廊2は、本件作品4について、亡Xから制作年代などの情報を聴取した上、作品明細表記における年代表記を「1993」とすることとした。また、美術品委託契約書(乙2)添付の別紙(添付資料1)には、本件作品4の寸法について、「110×127×20cm」と記載されていたが、それは、縦×横×奥行の順序で示す一般的な美術品の寸法の表記と異なっていた。そこで、本件画廊2が測り直した結果、本件作品4の寸法は、横120.5cm×縦110cm×奥行18cmであったことから、本件画廊2は、作品明細の寸法の表記を「120.5×110×18cm」とすることとした。 本件画廊2は、その頃、亡Xとも相談し、それらの作品を国立近代美術館などに寄贈することを打診するなどしたが、その話は進まず、その後は、それらの作品の処分について、寄贈や販売などの積極的な活動はしていない。 (甲21、乙2、証人C〔12〜14、20〜21頁〕) オ 本件画廊2は、平成26年4月頃、ドイツのケルンで開催されたアートフェアに、亡Xの作品として、本件作品3及び4を出展し、その作品明細表記において、それぞれ「1964」及び「1993」という年代表記をした。(乙15、証人C〔9、14頁〕) また、本件画廊2は、平成26年頃、本件作品3及び4の画像を自らのウェブサイトに掲載し、その作品明細表記において、上記の各年代表記を付すなどしたが、現在まで、その掲載内容を変更していない。(甲20、21、証人C〔9、11、12、19、20頁〕) カ 本件画廊2は、自らのウェブサイトにおいて、美術作品の作家について、物故作家、作品を扱う財団とは取引があるが作家本人とはつながりのない作家、自社の在庫として作品を扱っているが直接の付き合いのない作家を「WorksAvailablebyArtists」の欄に表示し、本件画廊2と付き合いがあり、本件画廊2を通じ連絡を取ることが可能な作家を「GalleryRepresentingArtists」の欄に表示しており、亡Xを「GalleryRepresentingArtists」の欄に表示していた。(甲42の1、2、証人C〔4、5頁〕) (2)本件禁止条項に対する違反の有無 前記(1)の認定事実によれば、本件画廊2のウェブサイト上における本件作品3の年代表記は、平成24年頃、本件画廊2が亡Xから本件作品3に係る説明を受けて「1964」とすることとし(前記(1)イ)、本件作品4の年代表記は、平成25年頃、本件画廊2が、亡Xから制作年代などの情報を聴取した上で「1993」とすることとしたものであり(前記(1)エ)、いずれも前訴和解の成立前である平成26年頃に本件画廊2が本件作品3及び4の画像とともにそのウェブサイトに掲載し、その後そのまま掲載されているものと認められる(前記(1)オ)。 平成28年9月2日に前訴和解が成立した後、亡Xがそれらの年代表記に関与したことを認めるに足りる証拠はなく、また、亡Xと本件画廊2との間に、亡Xがそれらの年代表記の維持又は変更に関与することを可能にするような密接な関係があったことを認めるに足りる証拠はない。本件作品3及び4は、それ自体で完成した作品であり、本件作品2のように、その再現に当たって亡Xの関与を必要とするようなものではなかったから、その作品の性格に照らしても、亡Xがそれらを販売した後に関与することが当然に予定されていたとはいえない。そして、本件禁止条項は、前訴和解成立後に行う年代表記について、遵守義務と違約金の支払を定めたものと認められるから、本件画廊2のウェブサイトの本件作品3及び4の年代表記について、亡Xを「公表」の主体とする本件禁止条項に対する違反は認められない。 (3)原審における被控訴人(原審原告)の主張に対する判断 この点に関しては、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第4の3(3)(原判決27頁9行目から28頁18行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ア 原判決27頁14行目の「前記(1)コ」を「前記(1)カ」と改める。 イ 原判決27頁20行目の「前記(1)ケ」を「前記(1)オ」と改める。 ウ 原判決27頁21行目の「本件和解」を「前訴和解」と改める。 エ 原判決27頁26行目の「前記(1)エ」を「前記(1)ア、イ」と改める。 オ 原判決28頁8行目の「前記(1)キ」を「前記(1)エ」と改める。 カ 原判決28頁14行目の「前記(1)オ」を「前記(1)ウ」と改める。 (4)当審における被控訴人の補充主張に対する判断 ア(ア)被控訴人は、本件画廊2は、亡Xをプロモートする美術商であり、そのプロモート活動は、亡Xの委託と許諾に基づいて、本件画廊2と亡Xの共同作業として行われるものであり、作家と作品を宣伝した上で作家に新たな作品を制作させて販売するマネージャーのような存在であると主張し、Cの証言の一部(証人C〔2頁15〜22行目〕)、乙18をその裏付けとして指摘する(前記第3の3〔被控訴人の主張〕(1))。 (イ)被控訴人が指摘するCの証言部分(証人C〔2頁15〜22行目〕)には、亡Xとの共同作業として、その作品をプロモートすることに携わったことがある旨の部分がある。 しかし、Cが、亡Xについてプロモートを行った具体例として証言するのは、亡Xの調査のために来日したニューヨーク近代美術館の職員に亡Xを引き合わせ、その結果、亡Xの作品集が出版され、亡Xの作品が同美術館の理事のコレクションに入ったこと、亡Xの作品がロンドンのテート・ギャラリーに展示されたことである(証人C〔3頁11行目〜4頁9行目〕)。また、Cは、プロモーションについて、展覧会に亡Xの作品を出展してほしいという要請があると、展覧会のために新しい作品を作るのか、既存の作品を貸し出すのか、それに関する亡X側からの要求をどのようにするかを亡Xと相談して相手方に伝え、合意ができれば出展を行い、合意ができなければ出展しないで終わるとし、出展されたときには手数料を取得する旨述べる(証人C〔16頁7行目〜17頁2行目〕)。これらのCの証言によれば、同人がプロモートと述べているのは、亡Xに対して展覧会への出展等の引き合いがあったときに、亡Xと相手方の調整を行い、出展されたときには手数料を取得するというにとどまるものであり、亡Xとの包括的な契約に基づき、亡Xの作品の紹介や売込みを常時行うというようなものであったとは認められない。本件画廊2が亡Xの宣伝を行ったために購入の申し入れがあり、それに応じるために亡Xが新たな作品を制作して販売するようなことが反復してあったと認めるに足りる証拠はない。 また、乙18(Cの陳述書)には、亡Xは、本件画廊1との交渉を一人で行うことができるほどに英語に通じていなかったため、Cが、亡Xの要望で、本件画廊1と亡Xとの間の協議の翻訳をすることが通例であった旨の記載はある。しかし、本件画廊2が、亡Xとの包括的な契約に基づき、亡Xの作品の紹介や売込みを常時行っていたとの記載はなく、そのようなことが行われていたことが乙18によって裏付けられるとはいえない。そうすると、被控訴人の前記(ア)の主張は、採用することができない。 イ(ア)被控訴人は、本件作品3及び4は本件画廊2が販売目的で保有する作品ではなく、亡Xのプロモートのために公表される非売品であると主張し、Cの証言の一部(証人C〔15頁20行目〜16頁4行目〕)をその裏付けとして指摘する(前記第3の3〔被控訴人の主張〕(2))。 (イ)しかし、被控訴人が指摘するCの証言部分(証人C〔15頁20行目〜16頁4行目〕)は、これまで本件作品3及び4を販売していないという事実を述べているにとどまると解し得るものであり、亡Xのプロモートのために公表される非売品であるから本件作品3及び4を販売していないという趣旨の証言であるとまで解することはできない。 そして、本件作品4を含む亡Xの作品合計5点について美術品委託契約が締結された経緯及び美術品委託契約の内容は、前記(1)ウのとおりであり、本件画廊2は、美術品委託契約に基づき、寄贈又は販売を目的として、Dが所有権を有する本件作品4を含む亡Xの作品合計5点を管理しているものであり、本件作品4が、被控訴人の主張するような、亡Xのプロモートのために公表される非売品であると認めることはできない。また、本件作品3は、本件画廊2が所有権を有しており、そのウェブページに掲載されることによって(甲20)、亡Xの作品を紹介するという事実上の効果を生じていることは否定し得ないが、上記のとおり、被控訴人が指摘するCの証言部分(証人C〔15頁20行目〜16頁4行目〕)は、亡Xのプロモートのために公表される非売品であるから本件作品3及び4を販売していないという趣旨の証言であるとまで解することはできず、その他に、本件画廊2がこれまで本件作品3を販売していない理由がプロモートのための非売品であることを認めるに足りる証拠はない。 したがって、被控訴人の前記(ア)の主張は採用することができない。 ウ(ア)被控訴人は、本件画廊2は、そのウェブサイトにおいて亡Xを「GalleryRepresentingArtists」として表示し、亡Xの委託と許諾に基づき法的な代理権をもつことを示して本件作品3及び4を公表したと主張し、Cの証言の一部(証人C〔15頁2行目〜19行目〕)をその裏付けとして指摘し、亡X及び本件画廊2は、亡Xが被控訴人と独占契約を結んでいる間は、本件画廊2は亡Xを「GalleryRepresentingArtists」と紹介できないと認識し、独占契約終了後に「GalleryRepresentingArtists」と表示するようになったから、「GalleryRepresentingArtists」という表示は、法的な代理人であり、作家の委託と許諾に基づいて作家の作品を公表していることを意味すると主張する(前記第3の3〔被控訴人の主張〕(3))。 (イ)しかし、「RepresentingArtists」という表記が直ちに法的な代理権を有することを意味するということを裏付ける証拠はない。そして、Cは、その証言において、「RepresentingArtists」という表記の意味について、作家と面識があって一緒の仕事をすることがある作家のことを指すと理解している旨、展覧会への出展勧誘や作品の委託、作家への関心について連絡を受ければ作家に取次ぎをすることができるという意味である旨述べており、法的な代理権がないことを説明するのかという質問に対し、作家と法的にどのような関係にあるかを顧客から尋ねられたことはない旨答えている(証人C〔14頁7行目〜15頁1行目〕)。Cのこのような証言に照らせば、「GalleryRepresentingArtists」という表示は、顧客からの要望があれば作家に取次ぎをすることができるということを意味するにとどまると認められ、亡Xの委託と許諾に基づき法的な代理権をもつことを示していると認めることはできない。 また、本件画廊2が亡Xの作品の取扱いを始めたことと、亡Xと被控訴人との間の独占契約の解消の経緯については、@Cは、平成21年ないし平成22年頃、亡Xと知り合い、その作品を取り扱うとともに、これを海外の美術館にプロデュースするような事業も手掛けるようになったこと(甲31、証人C〔2〜4頁〕)、A被控訴人の担当者は、平成23年3月24日、Cから求められた会談において、被控訴人と亡Xとの間の独占契約は解消されておらず、本件画廊2の行為は、「責任問題」になる旨の指摘をしたこと(甲31)、B亡Xは、平成23年5月2日付けで、被控訴人に対し、前記独占契約が終了している旨の通知をし、平成25年3月12日頃、被控訴人と当該契約を解消することに合意したこと(甲32ないし甲35、甲40〔12頁〕、前記2(1)イ)が認められる。 このように、被控訴人の担当者から、被控訴人と亡Xとの間の独占契約が解消されていない間は、本件画廊2が亡Xの作品を取り扱うのは法的問題になる旨の指摘を受けていたことに鑑みれば、本件画廊2は、「GalleryRepresentingArtists」という表示が、顧客からの要望があれば作家に取次ぎができるということを意味するにとどまり、亡Xの委託と許諾に基づく法的な代理を示しているものではないと認識していたとしても、被控訴人と亡Xとの間の独占契約が解消されるまで、そのような表示を避ける理由があったものと認められる。そして、このような事情に照らすと、本件画廊2が、亡Xと被控訴人との間の独占契約終了後に「GalleryRepresentingArtists」と表示するようになったことから、同表示が、法的な代理人であり、作家の委託と許諾に基づいて作家の作品を公表していることを意味すると認めることはできない。 エ(ア)被控訴人は、本件画廊2は、亡Xの決定に従って年代表記を行うとともに、亡Xの委託と許諾に基づいて本件作品3及び4を公表したと主張し、そのような主張を前提として、亡Xは、前訴和解後に本件画廊2が本件禁止条項に違反する公表が行われないようにする義務を負っていた旨主張する(前記第3の3〔被控訴人の主張(4)〕)。 (イ)前記(2)のとおり、本件画廊2のウェブサイト上における本件作品3の年代表記は、本件画廊2が亡Xから本件作品3に係る説明を受けて「1964」とすることとし、本件作品4の年代表記は、本件画廊2が、亡Xから制作年代などの情報を聴取した上で「1993」とすることとしたものであるが、それは、前訴和解成立前のことであり、本件画廊2が本件作品3及び4の作品明細の年代表記を行ったことについて、本件禁止条項に対する違反は成立しない。そして、前記(2)のとおり、平成28年9月2日に前訴和解が成立した後、亡Xがそれらの年代表記に関与したことを認めるに足りる証拠はなく、また、亡Xと本件画廊2との間に、亡Xがそれらの年代表記の維持又は変更に関与することを可能にするような密接な関係があったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被控訴人の上記(ア)の主張は、採用することができない。 オ(ア)被控訴人は、本件作品4については美術品委託契約書において亡Xの関与が明示されており、亡Xは本件作品4の作品公表について委託ないし許諾をする立場にあったと主張する(前記第3の3〔被控訴人の主張(5)〕)。 (イ)美術品委託契約が締結された経緯やその内容は、前記(1)ウのとおりであり、美術品委託契約書により、美術品委託契約による委託の目的が、本件作品4を含む作品の寄贈或いは作品の販売であること(第1項)、亡Xは、寄贈する場合の条件、販売価格に関与することが明文で定められていたものであった(第3、第4項)。そして、前記(1)エのとおり、本件画廊2は、美術品委託契約が締結された頃、亡Xとも相談し、委託された作品を国立近代美術館などに寄贈することを打診するなどしたが、その話は進まず、その後は、それらの作品の処分について、寄贈や販売などの積極的な活動はしていない。美術品委託契約により定められたこと以外に、亡Xが本件画廊2との間で、契約等に基づいて本件作品4の作品公表について委託ないし許諾をする立場にあったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被控訴人の上記(ア)の主張は採用することができない。 4 争点4(本件作品5ないし9に係る本件禁止条項違反の有無)について この点に関する原判決「事実及び理由」第4の4(原判決28頁22行目から30頁1行目まで)を、次のとおり改める。 (1)事実認定 ア 乙16の1、2、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件作品5ないし9が収録された本件カタログ(甲23)の販売等について、次の事実が認められる。 本件画廊3は、前訴和解の成立前である平成24年6月から7月にかけて、「Ship60’&WorkonPaper」という題名で、亡Xの個展(甲22)を開催し、本件作品5ないし9を含む作品を展示した。本件画廊3は、本件作品5ないし9を含む作品を収録した本件カタログ(甲23)を、本件画廊3の費用負担において同個展のために作成し、作成された本件カタログの所有権は、本件画廊3が有していた。本件画廊3は、本件作品5を買い取り、同個展終了後、本件作品6ないし9その他の展示作品を亡Xに返却した。本件画廊3は、同個展の終了後も、本件カタログの売れ残りを販売しているものの、本件画廊3自身は、当該販売行為は画廊の自由であるものと認識し、亡Xにはこれを一切報告していなかった。 イ 亡Xが、前訴和解の成立後において、本件カタログの販売に関与し、あるいは、これに関与すべき地位にあったことを認めるに足りる証拠はない。 (2)本件禁止条項に対する違反の有無 前記(1)の認定事実によれば、本件作品5ないし9については、亡Xを「公表」の主体とする本件禁止条項に対する違反は認められないというべきである。 (3)原審における被控訴人(原審原告)の主張に対する判断 この点に関しては、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第4の4(2)(原判決29頁16行目から同頁25行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 原判決29頁19行目の「本件和解」を「前訴和解」と改める。 (4)当審における被控訴人の補充主張に対する判断 ア 被控訴人は、亡Xは、本件作品5ないし9の著作権に基づいて、本件画廊3に対し、本件カタログの販売中止又は本件カタログ上の年代表記の修正を求めることができ、これを行わないのは本件禁止条項違反であると主張する(前記第3の4〔被控訴人の主張〕(1))。 しかし、本件カタログは、前訴和解成立前に、本件画廊3が亡Xの許諾を得て制作したものであり、本件カタログの販売又は本件カタログ上の年代表記が亡Xの著作権を侵害しているものとは認められないから、被控訴人の上記主張は、採用することができない。 イ 被控訴人は、本件画廊3は、亡Xをプロモートする美術商であり、そのプロモート活動は、亡Xの委託と許諾に基づいて本件画廊3と亡Xの共同作業として行われるものであり、前訴和解成立後に、本件カタログ・レゾネと矛盾抵触する年代表記のまま本件カタログが販売されることは、亡Xによる本件禁止条項に対する違反に当たると主張する(前記第3の4〔被控訴人の主張〕(2))。 しかし、前記(1)ア認定のとおり、本件画廊3が、平成24年6月から7月にかけて亡Xの個展を開催し、本件カタログを作成したことは認められるものの、それ以外に、本件画廊3が亡Xをプロモートする活動を行っていることや、それに亡Xが関わっていることを認めるに足りる証拠はない。 また、前記(1)イ認定のとおり、亡Xが、前訴和解の成立後において、本件カタログの販売に関与し、あるいは、これに関与すべき地位にあったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被控訴人の上記主張は、採用することができない。 5 争点5(控訴人が責任を負う金額)について この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第4の5(原判決30頁3行目から同頁14行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1)原判決30頁5行目の「本件和解」を「前訴和解」と改める。 (2)原判決30頁8行目冒頭から12行目末尾までを削除する。 (3)原判決30頁13行目冒頭の「(3)」を「(2)」と改める。 6 争点6(旧民法130条の類推適用により、本件禁止条項の定める条件が成就していないものとみなすことができるか)について 控訴人は、被控訴人が、Bをして、真実は本件作品1及び2を購入する意思がないにもかかわらず、本件画廊1に対し、販売価格や作品明細の問合せを行わせ、前訴和解条項違反の有無を調査又は確認する範囲を超えて、控訴人が本件禁止条項に違反する債務不履行状態を作出したものであるとし、控訴人が本件禁止条項に違反することにより利益を受ける被控訴人が、不正に、本件禁止条項に違反する債務不履行状態を作出したものであるから、旧民法130条の類推適用により、控訴人は、本件禁止条項の定める条件が成就していないものとみなすことができると主張する(前記第3の5〔控訴人の主張〕)。 前記2(1)カ(ア)のとおり、本件画廊1は、平成30年5月12日頃、本件作品1の画像に「1969」と付記し、本件作品2の画像に「1970/2015」と付記し、これらを亡Xの作品として、自らのウェブサイト上に掲載していた(甲11、12)ものであり、前記2(2)のとおり、亡Xと本件画廊1の関係に照らすと、そのような表示は、本件禁止条項に違反するものと認められる。しかし、BがAに対し、本件作品1及び2の作品詳細と販売価格等を問い合わせたのは、前記2(1)カ(イ)のとおり、平成30年5月18日以後のことであるから、Bが本件画廊1に対して問合せを行ったことによって、本件禁止条項に違反する債務不履行状態が生じたものではない。したがって、被控訴人が、不正に、本件禁止条項に違反する債務不履行状態を作出したものとは認められないから、控訴人の上記主張は、採用することができない。 7 請求の成否 控訴人及び被控訴人はその他縷々主張するが、それらの主張はいずれも理由がない。 以上によれば、亡Xは、本件作品1及び2の2点について、本件禁止条項に違反したものと認められるから、亡Xの唯一の相続人である控訴人は、前訴和解の和解条項2(5)の規定(原判決第2の2(4)〔原判決6頁22〜26行目〕)に基づき、被控訴人に対し、作品2点につき合計400万円の違約金を支払う義務を負うものと認められる。 8 結論 したがって、被控訴人の請求は、違約金400万円及びこれに対する債務不履行の後である平成30年12月24日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで旧民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がなく、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がない。 よって、本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 東海林保 裁判官 中平健 裁判官 都野道紀 |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |