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【事件名】健康管理ソフトの商品化許諾事件
【年月日】令和4年8月9日
 東京地裁 令和2年(ワ)第17650号 許諾料等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年6月14日)

判決
原告 株式会社THREEHOLIDAY
同訴訟代理人弁護士 石田智也
被告 株式会社GING
同訴訟代理人弁護士 岩田浩


主文
1 被告は、原告に対し、315万5370円及びこれに対する令和2年8月16日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙物件目録記載の商品を販売してはならない。
3 被告は、別紙物件目録記載の商品を収納したフロッピーディスク、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 本判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
 なお、原告の主張の趣旨に鑑みれば、別紙物件目録記載2の商品については、「健康管理のプロ」の名称で販売されているものを含むものと容易に理解される。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告との間で締結した原告を著作権者とするパソコン用ソフトウェアに係る商品化許諾契約及びこれに基づく別紙物件目録記載の各ソフトウェアに係る個別契約に基づき、これら商品に係る未払許諾料315万5370円及びこれに対する令和2年8月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで約定の年6%の割合による遅延損害金の各支払を求めると共に、上記各商品の販売差止及びそのデータを収納した記憶媒体の廃棄を求める事案である。
2 前提事実(証拠等の掲示のない事実は、当事者間に争いがない。なお、枝番の表示のない証拠は、枝番の全てを含む。以下同様。)
(1)当事者等
ア 原告は、経営コンサルティング及び各種マーケティングリサーチ業務並びにこれに附帯関連する一切の事業等を目的とする株式会社であるところ、令和元年7月1日、その商号を「株式会社caosi」から現在のものに変更すると共に、「ソフトウェアの企画、開発、制作、配信、保守、管理、運営、販売及びそれらの受託」等をその目的に追加した。
 原告の役員は、平成24年2月1日の設立当初から現在まで、原告代表者が代表取締役を務めると共に、Aが取締役として選任されている。
 また、原告は、平成26年1月頃から被告の事務所の一部を間借りして使用していた。さらに、原告は、同年4月2日、被告と同じ場所である現在の本店所在地に本店を移転した。
 (以上につき、甲1、45、46、弁論の全趣旨)
イ 被告は、コンピュータソフトウェア及びその周辺機器の製造販売等の事業を営む会社等の株式又は持分を取得・所有することにより当該会社の事業活動を支配・管理すること等を目的とする株式会社である。
 Aは、平成25年1月22日に被告代表取締役に就任し、代表者として被告の業務を行っていたが、令和元年8月15日に解任され、同日、被告代表者が取締役及び代表取締役に就任した。なお、被告代表者は、実質的に被告の全株式を保有する者であるが、Aが代表取締役を務めていた期間中は、被告の唯一の従業員として月に1回2時間程度出社して経費処理の業務を行うほか、海外の取引先とのやり取りを担当していた。
 (以上につき、甲2、乙108、被告代表者、弁論の全趣旨)
(2)本件基本契約の締結等
 原告と被告は、平成30年4月24日、以下の内容の商品化許諾契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。
 なお、被告は、本件基本契約の締結の事実を否認する。しかし、商品化許諾契約書(甲3)の記名押印部分に押下された印影が原告及び被告の代表者印によるものであることは争いがないことなどに鑑みると、本件基本契約の締結の事実は認められる。これに反する被告の主張は採用できない(ただし、後記のとおり、同契約の効力については争いがある。)。
ア 本契約は、原告が使用許諾権及び商品化許諾権を有する「原製品」(原告が著作権及びそれに付随する法益並びに使用及び商品化許諾権を有するソフトウェア製品。2条@)について、被告が商品化及びその販売・頒布を行うことについての基本契約とする。(1条)
イ 原告は、被告に対し、契約期間中、被告が契約所定の条項を遵守することを条件に、以下に定める権利等に係る許諾を非独占的に与える。(3条1項)
(ア)原製品を利用して、本件ソフトウェア(原告より商品化権及び複製権の許諾を受けて販売されるパソコン用ソフトウェア。2条A)を製造する権利。
(イ)本件ソフトウェア及び本件資料(被告が本件ソフトウェアを製造販売等するために、原告が被告に貸与するマスターディスク、マニュアル原稿、原画、資料等一切のもの。2条B)から本件商品(本件ソフトウェア及び本件資料により被告が作成し販売及び頒布する商品。2条C)を製造又は複製する権利。
ウ 被告が複製した本件商品は、契約終了又は解除の3か月後まで販売及び頒布できる。契約終了又は解除後3か月を経過した場合、被告は、速やかに本件商品を回収し、被告の費用で処分しなければならない。(3条2項)
エ 原告及び被告は、本件基本契約で定める本件ソフトウェアの特定及び許諾の対価並びにその他の詳細の取り決め等については、別途個別契約にて定める。個別契約と本件基本契約とで異なる定めがなされた場合は、個別契約の定めが優先する。(5条)
オ 被告は、本件商品等に対して、原告と被告が協議して定めた場所・方法により原告の指定する商標及び著作権表示その他の表示を付する。(9条)
カ 被告は、3条所定の許諾に対しての対価、支払条件等については、別途個別契約にて取り決める。(10条1項)
 被告は、別途個別契約にて取り決めた対価の支払を遅延した場合、本件基本契約及び個別契約が原告により解除されるか否かにかかわらず、未払分の対価につき、個別契約で定める支払期日の翌日より完済の日まで年6分の割合による遅延損害金を付加して、原告に支払わなければならない。(10条2項)
キ 原告は、本件ソフトウェア及び本件資料の著作権者又は著作権の管理権を有する者であり、被告に対して本件ソフトウェア及び本件資料の使用許諾をする権限を有していることを保証する。(12条1項)
ク 原告又は被告は、相手方が本件基本契約又は個別契約に違反し、相当の期間を定めて書面による催告をしても違反事実が是正されないときは、本件基本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。(17条1項1号)
 これに該当する当事者は、その発生原因を問わず、相手方に対する一切の債務について当然に期限の利益を喪失し、直ちに債務の全額を支払わなければならない。(17条3項)
ケ 本件基本契約の有効期間は、契約締結日から1年間とする。ただし、期間満了の1か月前までに原告被告いずれからも何らの申し出がない場合は、本件基本契約は同一条件で更に1年間継続されるものとし、以後も同様とする。(19条)
(3)本件個別契約1
 原告と被告は、前同日、本件基本契約5条に基づき、以下の内容の個別契約を締結した(甲4。以下「本件個別契約1」という。また、本件個別契約1に係る別紙物件目録記載1及び2の各商品を、商品名を問わず「血圧マスター2」という。)。なお、被告は、本件個別契約1についてもその締結の事実を否認するが、本件基本契約と同様の理由により、その締結は認められる(ただし、その効力について争いがあることも同様である。)。
ア 被告が本件基本契約3条に基づき実施する本件商品の許諾内容及びその条件は、次のものとする。(2条)
(ア)原製品名称:気づく!血圧マスター2
(イ)本件商品名称:@気づく!血圧マスター2、A長寿のプロ(仮称)
 販売価格:@A1980円(税込)
 商品化許諾料:@A500円※1本当たり単価
 発売日/本地域:同年6月(予定)/日本国内
 著作権表示:Copyright(c)caosicorporation ※被告は本件商品にこのクレジット表示を行うものとする。
 商品化許諾料支払:被告は、毎月月末(締日)ごとに販売本数を集計し、締日間になされた本件商品の実売数分の商品化許諾料を支払う。
イ 本件商品の商品化許諾料は、締日間の出荷数に2条所定の商品化許諾料を乗じた金額(消費税別)とする。(3条)
ウ 被告は、3条で算出した金員(消費税別)及び当該締日間になされた本件商品の出荷数量等を記載した販売報告書を締日の翌月10営業日以内に原告に報告する。原告は、被告からの販売報告書受領後速やかに、被告に対して当該報告書記載の金員を記した請求書を発行する。被告は、請求書の受領後、翌月末までに原告指定の金融機関口座に現金振込を行うことにより本件商品の商品化許諾料を支払う。(4条)
(4)本件個別契約2
 原告と被告は、平成30年11月1日、本件基本契約5条に基づき、原製品の名称を「代筆の達人」とする別紙物件目録記載3及び4の各商品について、販売価格を1本当たり単価2980円(税込)、商品化許諾料を1本当たり500円、発売予定日を同年12月とし、他は本件個別契約1と同じ内容で商品化することを許諾する個別契約を締結した(甲5。以下「本件個別契約2」という。また、本件個別契約2に係る商品を、商品名を問わず「代筆の達人」という。)。なお、被告は、本件個別契約2についてもその締結の事実を否認するが、本件基本契約と同様の理由により、その締結は認められる(ただし、その効力について争いがあることも同様である。)。
(5)本件個別契約3
 原告と被告は、令和元年6月4日、本件基本契約5条に基づき、原製品及び商品の名称を「私の記録、10年日記」とする商品(別紙物件目録記載5のもの)について、販売価格を1本当たり単価1980円(税込)、商品化許諾料を1本当たり500円、発売予定日を同月とし、他は本件個別契約1と同じ内容で商品化することを許諾する個別契約を締結した(甲6。以下「本件個別契約3」といい、これに係る商品を「10年日記」という。また、本件個別契約3を本件個別契約1及び2と併せて「本件個別契約」といい、本件基本契約と本件個別契約を併せて「本件各契約」という。)。なお、被告は、本件個別契約3についてもその締結の事実を否認するが、本件基本契約と同様の理由により、その締結は認められる(ただし、その効力について争いがあることも同様である。)。
(6)本件各ソフト
ア 被告は、遅くとも平成31年1月以降、本件個別契約1及び2に基づき、血圧マスター2(「気づく!血圧マスター2」及び「健康管理のプロ」)及び代筆の達人(「代筆の達人」及び「代筆のプロ」)をそれぞれ販売し、また、同年6月からは、本件個別契約3に基づき、年日記の販売を開始した(以下、これらの商品を併せて「本件各ソフト」という。)。(甲7)
 このうち、血圧マスター2は、血圧、脈拍、体重等を記録して健康状態を管理するためのソフトウェアであり、起動時や終了時に「気づきコメント」として健康に関するアドバイスを表示する機能を備えている(甲9)。なお、血圧マスター2のバージョン情報には、著作権者に関する情報として、「Copyright2018GING.CorporationAllrightreserved.」と表示される(乙2)。
 代筆の達人は、手紙等の作成を支援するためのソフトウェアであり、ユーザーが手紙の用途や送付相手との関係等を選択すると、それらを踏まえた文例を自動的に作成して表示する機能を備えている(甲10)。なお、代筆の達人のバージョン情報には、著作権者に関する情報として、「Copyright2019GING.CorporationAllrightreserved.」と表示される(乙4)。
 10年日記は、日記作成を支援するためのソフトウェアであり、日記の作成・保存機能のほか、月ごと・日ごとの占いを表示する機能を備えている。(甲11)
イ 令和元年6月〜令和2年1月の間における被告による本件各ソフトの出荷数量は、次のとおりである。
商品名 令和元年6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 令和2年1月
血圧マスター2 47 23 11 7 6 19 10 4
代筆の達人 1080 840 546 235 654 579 123 837
10年日記 74 256 114 65 102 48 36 81
合計 1201 1119 671 307 762 646 169 922
(7)商品化許諾料の不払い及び本件各契約の解除通知
ア 被告は、令和元年7月、原告に対し、同年6月分の本件各ソフトの出荷数量を報告し、原告から、本件各ソフトの商品化許諾料として64万8540円(内消費税4万8040円)の請求を受けたが、支払期日である同年8月30日までにこれを支払わなかった。また、被告は、同年7月出荷分の本件各ソフトの商品化許諾料60万4260円(内消費税4万4760円)についても、支払期日である同年9月30日までに支払わなかった。(甲7、弁論の全趣旨)
イ 原告は、令和元年11月8日、被告に対し、同年6月及び7月各出荷分の本件各ソフトの商品化許諾料を書面到達後7日以内に支払わなければ本件各契約を解除する旨記載した書面を送付し、同年11月9日、同書面は被告に到達した。しかし、被告は、同月16日までに上記商品化許諾料を支払わなかった。(甲8)
(8)通知後の状況
 被告は、現在も本件各ソフトを販売しているが、原告に対し、令和元年6月以降の出荷分に係る本件各ソフトの商品化許諾料を支払っていない。(弁論の全趣旨)
3 主たる争点
本件各契約の効力
(1)Aによる被告代表権限濫用の有無(争点1)
(2)原告代表者の悪意又は過失の有無(争点2)
第3 主たる争点に関する当事者の主張
1 争点1(Aによる被告代表権限濫用の有無)
【被告の主張】
 本件各契約は、いずれも、Aが自己又は原告ないし原告代表者の利益を図る目的で、被告代表者としての権限を濫用して締結したものであり、無効である。これを基礎付ける事実は次のとおりである。
(1)本件各契約は、本件各ソフトの著作権は被告に帰属するにもかかわらず、原告に帰属していることを前提として締結されたものである。
 本件各ソフトの著作権が被告に帰属していることは、次の事実等から裏付けられる。
ア 血圧マスター2及び代筆の達人には、販売当時から現在にかけて、被告が著作権者として表示されている。
イ Aは、被告代表取締役として、本件各ソフトの企画、開発、製造、販売についての予算管理をした上で、開発、製造、サポート準備、ウェブ制作、広報及び営業を単独で担当し、業務委託先に具体的な指示を出していた。すなわち、Aは、企画書を作成すると共に、商品ロゴ、UI、アイコンデザイン、各種ボタン等を考案した上で業務委託先に作成を依頼し、また、マスタープログラムの作成、デバッグ及びマニュアル原稿の作成、商品製造の依頼、サポート業者の選定及び委託、ウェブ制作の依頼、直販サイトの商品登録、商品取扱いに向けた販売事業者への営業を行った。
ウ 被告は、本件各ソフトの開発費用(ロイヤリティを除き、血圧マスター2は93万5500円、代筆の達人は106万9644円、10年日記は66万5500円)を負担した。
エ 原告は、本件各ソフトの製作について実質的な関与をしていない。すなわち、原告代表者は、Aの指示の下、血圧マスター2についてはアンケートの設問案作成と実施及び「気づきコメント」50個の追加コメントの作成を担当し、代筆の達人については、ソフトウェアで使用される文例の入力作業を担当しただけである。しかも、代筆の達人は、高齢者に使いやすいソフトウェアとすることが最大の目的であり、文例そのものに大きな価値はない。また、10年日記についても、原告代表者は、せいぜい占いに関する情報の入力作業を担当しただけである。
(2)本件個別契約に基づき定められたロイヤリティは、原告代表者が本件各ソフトの開発過程で行った作業に見合わない高額なものであり、原告は、開発費負担等のリスクを全く負わないまま、開発元である被告よりも多額の利益を得ている。特に、本件各ソフトから被告が得る粗利と原告に支払うべきロイヤリティの比率は、本件個別契約1の契約時で198%、本件個別契約2で71%、本件個別契約3で190%であり、被告が取り扱っている他のソフトウェアの粗利とロイヤリティの比率が40?55%程度であるのと比べて異常に高い。
(3)原告代表者とAは、本件各契約締結当時から男女関係にあり、Aが原告代表者に会うための交通費を被告の財産から支出したり、頻繁に個人的な旅行を繰り返したり、同人らの間に子をなしたりしている。また、Aは、原告の業務の経費や原告代表者に対する過大な業務委託料を被告から支出したり、原告代表者の住居の家賃や保証金を被告に立替払いさせたり、原告代表者の私的な物品の費用を被告に支出させるなど、被告の財産を流出させて原告及び原告代表者を支援していた。
【原告の主張】
 本件各契約は、いずれも、Aが被告の代表者としての権限を濫用して締結したものではなく、有効である。
 被告がAの代表権限濫用を裏付ける事実として主張する点については、以下のとおりである。
(1)本件各ソフトの著作権者が被告であることは争う。本件各ソフトの著作権者は原告である。
 すなわち、本件各ソフトは、いずれも原告代表者が原告の事業として企画し、画面上表示される内容等を作成したものである。例えば、血圧マスター2にはソフトウェアの起動時及び終了時に「気づきコメント」という健康上のアドバイスとなるコメントを表示する機能があり、これがソフトウェアとしての独自の特徴であるところ、その内容は全て原告代表者が作成した。また、代筆の達人は、ユーザーが選択した場面を前提にした上で自動で加筆される表現が独自の特徴となっているものであるところ、その文章は全て原告代表者が作成した。さらに、10年日記には、ユーザーが継続的に日記を入力する意欲が湧くように、日ごと・月ごとの占いが表示される機能があり、これが独自の特徴となっているところ、この占いの文章は全て原告代表者が作成した。しかも、原告代表者は、血圧マスター2及び代筆の達人の製作にあたり、開発業者に対して指示するなど直接やり取りを行い、業者も、開発の内容については原告代表者に確認を取っていた。加えて、原告は、本件各ソフトの著作者につき、原告の名義で公表することを予定していた。
 他方、Aの役割は、企画段階においては販売店へのヒアリングや価格調査、開発費用の見積もり等であり、開発段階では原告代表者と開発業者とのやり取りのつなぎ、スケジュール管理等であり、また、開発終了後においては販売店への案内や商品を宣伝するウェブサイトの準備等であった。
(2)原告は、企画したソフトウェアを自ら開発する資金に乏しかったことから、被告に対し、費用の負担を含めて開発を委託することとした。他方、被告は、他のソフトウェアの開作業を委託している開発業者に原告から委託を受けたソフトウェアの開発作業を委託し、その費用を支払った。被告による開発費用の負担に関しては、本件各契約において、被告が原告に支払う商品化許諾料を低額にすることで、被告が開発費の回収ができるようにされていた。
 また、本件各ソフトは、いずれも原告代表者が企画し、その表示内容や機能等を考案して作成したものであり、原告及び原告代表者が本件各ソフトを製作する上で果たした役割は非常に大きい。原告代表者とAがそれぞれ果たした役割に鑑みれば、本件各契約の定めるロイヤリティは対価として相当といえる範囲内である。
(3)原告代表者とAが男女関係にあること、Aが原告代表者と会うための交通費等を被告の財産から支出していたこと、同人らの間に子をなしたこと及びAが被告の財産を流出させて原告及び原告代表者を支援したことは、いずれも否認する。
2 争点2(原告代表者の悪意又は過失の有無)
【被告の主張】
 原告代表者は、自己にソフトウェア開発についての知識やノウハウ等がなく、自らが本件各ソフトの製作に実質的に関与していないこと、本件各契約の定めるロイヤリティによれば、開発費を負担しない原告が被告よりも多額の利益を得ることができると認識し得たことから、Aが被告の株主の利益最大化義務を果たしていないことを認識していたといえる。加えて、原告代表者は、Aが被告の財産を流出させて原告及び原告代表者を支援していることも認識していた。これらの事情から、原告代表者は、本件各契約の締結がAの被告代表者としての権限濫用によるものであることを認識していたはずであり、仮に認識していなかったとしても、少なくとも過失がある。
【原告の主張】
 否認ないし争う。原告代表者は、仮にAが恒常的に被告代表者の権限を濫用していたとしても、そのことを知らなかったし、容易に知り得る立場になかった。
第4 当裁判所の判断
1 前提事実、証拠(甲36,37、45,46並びに証人A、同B、同C及び原告代表者の各尋問結果のほか、後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)血圧マスター2の製作に至る経緯等
ア Aは、「気づく!血圧マスター」と題する血圧を記録して健康管理に役立てるためのソフトウェア(以下「血圧マスター1」という。)を企画、製作し、平成28年9月頃に発売した。血圧マスター1には健康に関するアドバイスを「気づきコメント」として表示する機能が備えられていたところ、同機能は原告代表者が提案したものであり、同機能により表示される文章は、Aの依頼を受けて原告代表者が作成したものであった。ただし、この際、原告ないし原告代表者は、被告から何ら利益の提供を受けなかった。(甲16、19の1、20、28)
イ その後、Aは、被告の大口取引先担当者から血圧マスター1のコンセプトはよく、機能を増やすなどすれば販売できるかもしれないなどと言われたことを受けて、平成29年秋頃、原告代表者に対し、血圧マスター1の続編の企画を打診した。これを受けて原告代表者は、血圧マスター1の機能や仕様に追加・改良を施した血圧マスター2の製作を企画して、Aに提案した。Aは、被告の取引先から当該企画について好意的な反応が得られたことから、正式にその開発を開始することとした。
 原告代表者とAは、血圧マスター2の販売に向けた協議を行い、その具体的な機能や仕様は原告代表者が考案したものであること、血圧マスター2の開発に関する開発業者とのやり取りは原告代表者が主体となって進めること、血圧マスター2に表示する気づきコメントは原告代表者が作成すること等を踏まえて、被告が開発資金を負担するものの、ソフトウェアの著作権は原告に帰属させ、被告が原告に対してロイヤリティを支払って販売すること、被告が開発資金を負担する代わりにロイヤリティの金額を低く設定することを合意した。
ウ Aは、同年10月2日、原告代表者に対し、「血圧マスター「気づきコメント」」と題するメール(乙23)において、「【気づきコメント】気づく!血圧マスター.xlsx」と題するファイルを添付した上で、「血圧マスターの「気づきコメント」を添付します。ここに新しいコメントを50個継ぎ足してもらえますか。」などと伝えた。
 その後、原告代表者は、「気づきコメント」の追加分を作成した。(甲19,20)
エ Aは、同月5日、血圧マスター1等のソフトウェア開発業務を委託していた株式会社F(以下「F」という。)の代表者であるBに対し、メール(乙18の8枚目、9枚目)により、「「気づく!血圧マスター2」の企画書を作成いたしました。…可能であれば概算での作業工数・金額見積をお願いいたします。」、「尚、前作もそうだったのですが、今回もDさんがほとんどの部分を企画してくれたので、メールのCC:に入っております。」などと伝えた。
 これに対してBが返信をしたところ、さらにそれに対して原告代表者がメールを返信し、「お仕事ご一緒させていただけること嬉しいです♪」などと伝えた。これに対してBが更に返信したところ、Aは、同月24日、それに対する返信において、「先週「血圧マスター2」の新機能に関するアンケートを実施しまして、お客様から多数の要望をいただきました。」、「内容をご確認の上、実装できる・できないをご判断いただき、工数・金額の見積もりをお願いできますでしょうか。」などと伝えた。
オ 被告は、平成30年1月頃、Fに対し、血圧マスター2のソフトウェア開発業務を委託した。
 原告代表者とAは、その頃、Fの代表者であるBと血圧マスター2の開発着手前の打合せを対面により行った。その際、原告代表者とAは、Bに対し、血圧マスター2は原告代表者が企画したものであり、原告のソフトウェアであること、被告が原告にロイヤリティを支払って販売する予定であること、原告代表者とBが主体となって血圧マスター2の具体的な機能や仕様の開発を進め、Aは、開発に関してはその調整役として関わる予定であること等を説明した。
カ Aは、同年2月21日、原告に対して支払う血圧マスター2の1本当たりのロイヤリティを350円と仮定して被告が得られる利益の額を試算した。これによれば、定価3980円(税込)として、年間目標が売上144万1500円、原価合計92万7500円(うちロイヤリティ35万円)、粗利51万4000円と算定されている。また、この計画表には、血圧マスター2の製造・販売スケジュールが添付され、「進捗」欄にはA名の押印がされている。(乙11)
 しかし、その後、原告代表者との交渉を経て、Aと原告代表者は、上記ロイヤリティにつき500円とすることで合意した。
キ Bは、同年3月20日、原告代表者及びAに対し、「Re:【GING】「気づく!血圧マスター2」企画書」と題するメール(甲31)を送付した。同メールにおいて、Bは、原告代表者及びAに対し、「血圧マスター2について、…一部の機能は未実装ですが、ようやくお見せできるものができましたので、一度アップさせていただきます。」、「以下に要求仕様の実装、私判断での実装、未実装に関して記載します。気になる点や修正してほしい点などありましたらご遠慮なく仰ってください。」などと伝えた。
 また、同日、Aは、B及び原告代表者に対し、「Re:【GING】「気づく!血圧マスター2」企画書」と題するメール(乙24)を送付した。同メールにおいて、Aは、Bに対し、「取り急ぎ「気づきコメント」追加分(50個)を添付いたしますのでご確認ください。」などと伝えると共に、「【気づきコメント】気づく!血圧マスター2.xlsx」というファイル名のファイルを添付した。
ク Aは、同年4月10日、株式会社G(以下「G」という。)担当者に対し、血圧マスター2の商品ロゴの作成等を依頼した。(乙22)
ケ 原告代表者とAは、同月24日、それまでの協議内容等を踏まえて、それぞれ原告と被告を代表して本件基本契約及び個別契約1を締結した。
コ 原告代表者は、同月25日、Bに対し、「Re:【GING】「気づく!血圧マスター2」企画書」と題するメールで、「ソフト、さすがの素晴らしい出来で感動しています!」と伝えた。Bは、同日、これに対する返信として、原告代表者(及びCCとしてA)に対し、「企画書を細かく書いていただいたので、とても開発しやすかったです。」、「これからデバッグ作業でまだ予断を許さない感じですが、何か気になる点などありましたら、ご遠慮なく仰ってください。」などと伝えた。(甲32)
サ Aは、同月26日頃、H株式会社(以下「H」という。)担当者に対し、血圧マスター2のデバッグ及びマニュアル原稿作成作業を依頼し、Hはこれを受託した。(乙25)
シ Bは、同年5月9日、血圧マスター2につき、アラートアイコンをプログラムアイコにするように求めるAからのメールに対し、これを了承すると共に、「2.0.0としてマスターモジュールを今夜作成させていただきます。OneDriveとアップデートサーバーを更新しましたらご連絡させていただきます。」などと伝えた。これに対し、Aは、同日、Bに対し、「ではマスターモジュールをお待ちしております。お送りいただく際、一緒に請求書も送っておいていただけると助かります。」などと返信した。
 その後、Bは、同月10日、A(及びCCとして原告代表者)に対し、「Re:【GING】「気づく!血圧マスター2」企画書」と題するメールを送付した。同メールにおいて、Bは、Aに対し、「マスターモジュール2.0.0を作成し、OneDriveとアップデートサーバーを更新しました。」などと報告すると共に、確認を求めた。
 Aは、これに対する返信として、B(及びCCとして原告代表者)に対し、「プログラムを確認できました。」、「今回のものをマスタープログラムとして発売の準備を進めていきます。」などと伝えた。
(以上につき、甲33、乙7、26)
ス Bは、血圧マスター2の著作権者として被告が表示されるように設定したが、これは、原告代表者及びAからこの点について特に指示を受けておらず、また、それ以前に被告から受託して開発したソフトウェアでは同様に表示していたこと、被告が血圧マスター2を販売するものと認識していたことによる。
(2)代筆の達人の製作に至る経緯等
ア 原告代表者は、血圧マスター2の開発の目途が立った頃、Aに対し、新たな代筆ソフトウェアの商品化を企画して提案した。Aは、市場調査の結果利益が期待できると判断し、この企画を進めることを決定した。
 そこで、原告代表者とAは、この件に関する協議を行い、血圧マスター2の場合と同様に、被告が開発費を負担し、その分低くしたロイヤリティを被告が著作権者である原告に対して支払うことを合意した。
イ 被告は、平成30年5月ないし同年6月頃、Fに対し、代筆の達人のソフトウェア開発を委託した。
 その頃、原告代表者とAは、Bと面会して代筆の達人の開発に関する打合せを行った。その際、原告代表者とAは、Bに対し、代筆の達人の開発は血圧マスター2と同じ要領で進める予定であること等を説明した。
ウ Bは、同年5月15日付けAのメールに対する返信により、Aに対し、「文例を作るには、質問に対する分岐や当てはめなどが多数発生するため、プログラマ的な発想がどうしても必要となります。もし以下の内容がしっくりと来なければ、私が以下の文例データ仕様の通りにデータ出力できるツールを別途開発することもできます。」などと伝えた。これを受け、Aは、同月17日、Bに対し、「Re:進捗報告」と題するメールで、「実は2日前から文例の抜き出し作業を少しずつ始めていたのですが、Excelに書き写すには少し無理があるなぁと思っていたところでした。ご提案いただきました「文例データ仕様通りにデータ出力できるツール」の開発をお願いできますでしょうか。」などと依頼した。
 Bは、同月31日頃、Aに対し、メールで、「文例データ作成ツールですが開発が遅れておりまして、申し訳ありませんが、もし考えている文例があれば数点いただけないでしょうか。」と伝えた。これに対し、Aは、同日、「後ほどDから文例を数点送りますので、少々お待ちください。」と返信した。
 これに対する返信として、同日、原告代表者は、Bに対し、「表題の件、エクセルを添付しております。(作りかけてやめたものなので、かなり見づらい中途半端なものですが。。)…例文は3つだけ入れてあります。」、「文がややこしく、時代にも会っていないので…今回のソフトでは、「直子の代筆」で作成する文章よりもシンプルな形にしたいと考えております。」、「文例のカテゴリも非常にわかりづらく変えたいと思ったので、参考サイトを探したところ、下記のサイトのカテゴリーが、作りたいイメージに近いと思いました。」、「ソフトならではの文章作りができるように「直子の代筆」も参考にしながら文章を作っていきたいと思っております。」などと伝えた。
 これに対するBの「まずはこのエクセルを参考にして、仮のデータを作ってみようかなと思います。」などとする返信に対し、原告代表者は、同日、「文章を抽出するにあたり、文例の数を調べて作業時間を予測しようとしたのですが、あまりにも項目に、削除した方がよいのでは?というものが多すぎて…カウント作業の時間も無駄になってしまうかなと思い、、他の文例を調べたりしてツールができるまで待とうという話になりました。。」、「たしかに私もよく「ビジネス文章」で検索するので(苦笑)そういう人が使いやすいソフトができたらいいな〜と思っております。」などと返信した。
 その後、原告代表者とBとの間で、文例データ作成ツール開発に関するメールのやり取りが重ねられ、同年6月12日、Bから原告代表者に対し、「ツールのプロトタイプ版ができましたのでご報告させていただきます。」などと伝えるメールが送付された。
 その後の原告代表者とBとのメールのやり取りにおいて、Bが用意する文例テンプレートの数の予定を原告代表者に対し尋ねたところ、同日、原告代表者は、Bに対し、「こちらでも最初作業時間を知りたくて、文例数を数えようとしたのですが…直子の代筆の文例からかなり変えないといけないとわかり、数えていない状況でした。しかし、文例数はわかった方が良いと思うので…一度Aさんに相談してから再度ご連絡させてください。」などと回答した。また、その後の同日付けメールでは、原告代表者は、Bに対し、「無駄な部分も多いので、かなりの部分でオリジナルで文例を作っていくと思います。」などとも伝えた。
 同月13日に、Bが、原告代表者(及びCCとしてA)に対し、「本体、ツールともに更新しました。」と伝えたところ、原告代表者は、同日、B(及びCCとしてA)に対し、ツールのPCへのインストールができたことを知らせると共に、ツールの利用方法について質問をした。
(以上につき、甲21、乙27)
エ 同月18日のメールによりBが原告代表者に対してツールを更新した旨報告したことに関連する両者間の一連のやり取りにおいて、Bは、同日、「Dさんの原稿を元に、Eさんに時候の挨拶文を変更していただきました。」などと報告した。(甲30)
 これを受け、原告代表者は、同月19日、Bに対し、「時候の挨拶、すべてではないですが確認致しました。…ツールの変更もありがとうございます!早速使って進めてみます。」などと伝えた。これに対する返信においてBが製品名を尋ねたところ、Aは、同日、「Re:「代筆の達人」文例データ作成について」と題するメールにおいて、B(及びCCとして原告代表者)に対し、製品名は「代筆の達人」であると回答すると共に、「本ソフトについてはソースネクスト向けに商品名を変えたものを別途リリースしたいと思っております。タイトルは「代筆のプロ」になる予定なのですが、正式に決定次第あらためて依頼いたします。」などと伝えた。(乙32)
オ 原告代表者は、同月29日頃、Aに対し、「ビジネス・プライベートと分けて挨拶文・しめの言葉を作りました。」などと報告すると共に、Aの了解を得られればこれをBに送付する旨伝えた。これに対する「Re:代筆文例」と題する返信において、Aは、同日、原告代表者に対し、原稿を確認したが問題がないのでBに送付するように指示した。(乙28)
カ 原告代表者は、同月30日頃、Bに対し、メールにより、「懸念点についての共有、ありがとうございます!実はかなり悩んだところでして、Aさんにも相談した部分です。」、「もし結びの文章を減らすのであれば本日中にお知らせするのでもよいでしょうか。」と問い合わせた。これに対し、Bが同日に回答したところ、その返信として、原告代表者は、Bに対し、「結びの挨拶については、もともとはユーザーが選びやすいように選択は少なくと考えていたのですが、「直子の代筆」ではない形で作り始めると、文例のカテゴリー別の挨拶を作らないと全体の文章がおかしくなることに気づきました。。とはいえ、すべてを網羅できるような言葉を収録するともっと多くなるため絞ってもこの数でした。。Aさんにもこの件は少し相談してチェックして頂き、問題ないとのことでしたが、私自身気になって決断しきれないままファイルを送ってしまいました。。」、「文例のタイプを研究するためにwebsiteを見た中で、サイト上で文章を作れるものがありました。そこだと例えば「お礼状」と選択すると、結びの言葉もそれに合う形ででて来ます。ユーザーとしては、私自身この形が一番作りやすかったので、システムを変えずにユーザーが使い易い形、なおかつ読み易い文章になるにはどうしたらよいのか、考え中です。。。」、「文章作成・入力しながら考えますので、またご連絡させてください。」などと伝えた。
 これを受け、Bは、同年7月1日、原告代表者に対し、「Re:「代筆の達人」文例データ作成について」と題するメールにおいて、「このソフトのキモはどうしても文例のバリエーションになってしまうので、Dさんの仕事が大変になってしまい心苦しいです。。」などと伝えた。
 原告代表者は、上記メールへの返信として、同月2日、Bに対し、「私の仕事が大変なのは良いのですが^^;今後からはもっと事前準備をヒアリングしてイメージしないとなどなど、反省点がいっぱいです。**」などと伝えた。
 その後、さらに原告代表者とBとでメールのやり取りを重ねたところ、同月4日、原告代表者は、B(及びCCとしてA)に対し、「文例ですが、ひとまずツールに慣れたいこともあり、ダダっと作っています。…今の段階では、まずは文例数を入力してきたいので、誤字や細かい文脈の流れのチェックがおおまかであることはご了承ください。」などと伝えると共に、Bから受領した文例データ作成ツールでは、「出来上がった文例」においてイメージしたように改行されていない点などについての意見を求めた。
 (以上につき、甲26)
キ Aは、同年9月18日、G担当者に対し、代筆の達人につき、アイコン作成を依頼した。これに対する返信として、G担当者は、同月20日、Aに対し、「「代筆の達人」アイコン作成の件」と題するメールにおいて、URLを示して確認を求めた。(乙29)
ク Aは、同日、原告に対して支払う代筆の達人の1本当たりのロイヤリティを500円と仮定して被告が得られる利益の額を試算した。これによれば、定価4980円(税込)として、年間目標は売上406万6463円、原価合計211万2000円(うちロイヤリティ125万円)、粗利195万4463円とされている。また、この計画表には、代筆の達人の製造・販売スケジュールが添付され、「進捗」欄にはA名の押印がされている。(乙13)
ケ Aは、同年10月3日、H担当者に対し、代筆の達人につき、デバッグ及び取扱説明書の原稿作成を依頼した。(乙30)
コ 原告代表者とBは、遅くとも同年11月6日以降、原告代表者がBに送付した文例のテンプレートの修正に関するやり取りをメールにより重ねた後、Bは、同月8日、原告代表者に対し、「マスターアップ候補のビルドデータをOneDrive、アップデートサーバーともに更新しました。…これでOKでしたら、そのままマスターアップモジュールとさせてください。」と伝えると共に、確認を求めた。これに対する返信として、原告代表者は、同月9日、Bに対し、確認したところ問題はなかったなどと回答した。(甲27)
サ 原告代表者とAは、被告が原告に対して支払う代筆の達人の1本当たりのロイヤリティについて、血圧マスター2と同じく500円とすることで合意し、同年11月1日、本件個別契約2を締結した。
シ Aは、同月6日、Bに対し、「いま作業を進めていただいている「代筆の達人」につきまして、これのマスターアップが完了されましたら、次はソースネクスト用に商品名を変更したものを別途作成していただけませんでしょうか。」、「これに関する工数・金額を見積もっていただけませんでしょうか。」などと要請した。これを受け、Bは、Aに対し、「ソースネクスト版である「代筆のプロ」のプロトタイプ版を作成して…アップしました。…これでOKでしたら、このモジュールを元にマニュアルを作成していただければと思います。」などと伝えた。
 これに対する返信として、Aが、同月12日、Bに対し、作成したマニュアルを送付すると共にマニュアルの組込みを依頼したところ、Bは、「マニュアルを組み込み1.0.0として作成したインストーラーを、OneDriveとアップデートサーバーともに更新しました。」と報告し、確認を求めた。Aは、これに対し、同月13日、「Re:【GING】ソースネクスト版「代筆の達人」作成のお願い」と題するメールにおいて、インストーラーを確認した旨報告すると共に、請求書の送付を依頼した。
 (以上につき、乙8)
ス Bは、代筆の達人についても、血圧マスター2の場合と同様の理由から、著作権者として被告が表示されるように設定した。
(3)10年日記の製作に至る経緯等
ア 原告代表者は、平成31年3月頃、日記作成の継続を促すことをポイントとする日記作成ソフトウェアの商品化を企画し、Aに対してこれを提案した。
 Aは、市場調査の結果利益が期待できると判断し、この企画を進めることを決定した。
 そこで、原告代表者とAは、この件に関する協議を行い、血圧マスター2及び代筆の達人の場合と同様に、被告が開発費を負担し、その分低くしたロイヤリティを被告が著作権者である原告に対して支払うことを合意した。
イ Aは、平成30年6月頃にソフトウェア開発を委託した個人事業主であるCに対し、平成31年3月18日、10年日記のソフトウェア開発を委託した(乙33)。その際の打合せにおいて、Aは、Cに対し、10年日記は原告代表者が企画したものであり、開発費は被告が負担するが、開発したプログラムは原告に帰属すること、ソフトウェアの開発は原告代表者の意見を聞いて進めることなどを伝えた。
ウ 原告代表者は、平成31年4月3日から令和元年5月9日にかけて、10年日記の占い部分のコメントを作成した。(甲23〜25)
エ Cは、令和元年5月9日頃、Aに対し、メールにより、10年日記の機能設計が完了したことを報告すると共に、それがAの求める仕様を満たしているかの評価を求めるなどした。これに対し、Aは、同日、「Re:Cです10年日記インストーラー」と題するメールにおいて、プログラムを一通り確認した上でいくつか相談事項を示し、その際、日付占い及び月占いについても相談した。これに対してCとAとの間で、同月13日までやり取りが重ねられた。(乙34)
オ Aは、同月9日、G担当者に対し、10年日記の商品ロゴ及びUIのデザインを依頼した。(乙36)
カ Aは、同月17日、10年日記につき被告が得られる利益の額を試算した。これによれば、定価3980円(税込)として、年間目標は売上199万5167円、原価合計36万2000円(ロイヤリティの計上はなし。)、粗利163万3167円とされている。また、この計画表には、10年日記の製造・販売スケジュールが添付され、「進捗」欄にはA名の押印がされている。(乙15)
キ 原告代表者とAは、被告が原告に対して支払う10年日記の1本当たりのロイヤリティについて、血圧マスター2及び代筆の達人と同じく500円とすることで合意し、同年6月4日、本件個別契約3を締結した。
ク Cは、同日頃、Aに対し、メールにより、10年日記の動作サンプルができたことを報告した上で、実行ファイルを送付すると共に、「データの支給またはご指示、ご了解を頂きたい内容」についての確認を求めるなどした。これに対する返信として、Aは、同日、Cに対し、プログラムを確認した旨及び質問に対する回答を伝えるなどし、その後さらに、プログラムを詳細に確認した結果気になった事項を伝えた。Cが、これらの事項につき対応した旨報告すると共にその実行ファイルを添付したメールを返信したところ、Aは、同月5日、その確認の結果を伝えるなどした。(乙35)
ケ Aは、同月12日頃、H担当者に対し、10年日記のデバッグ及びマニュアル原稿の作成を依頼し、Hがこれを受託したことから、同日、「Re:【GING】作業依頼(私の記録、10年日記)」と題するメールにおいて、作業用のインストーラーのプログラムのURLを伝えると共に、10年日記の取扱説明書作成に用いる参考資料を添付して提供した。(乙37)
(4)事実認定の補足説明−本件各ソフトの開発における原告代表者の関与の程度並びに原告代表者及びAの役割について
 上記認定に係る各メールは、いずれも本件各ソフトの開発等の過程において原告代表者、Aその他関係者間でやり取りされたものであることに鑑みると信用するに足りるものといえるところ、その内容に鑑みると、本件各ソフトのうち、血圧マスター2の企画作成及び気づきコメントの作成ないし見直し並びに代筆の達人の文例作成については原告代表者が積極的かつ主体的に関与し、ソフトウェア開発作業を担当するBとやり取りを重ねていたことがうかがわれる。Aについては、内容に関する原告代表者からの相談に応じたり、Bが開発したプログラムを確認したりといった点で内容面への関与も見られるものの、全体としては、企画の進捗管理、原告代表者及び開発業者との間の連絡調整や販売業者への営業活動に主に当たっていたことがうかがわれる。メールからうかがわれるこのような関与の程度ないし役割分担は、原告代表者、A及びBの各陳述(甲36、45、46及び各人の尋問結果)の内容と整合的である。
 他方、血圧マスター2及び代筆の達人の開発過程において、原告代表者がAの指揮の下に作業に当たっていたことをうかがわせる具体的な事情はない。保存者をAとする血圧マスター2の企画書(乙12)及び代筆の達人に関する商品内容説明書(乙14)については、その「コンテンツの作成日時」はいずれも各ソフトウェアの開発に先立つものの、作成当初の内容は明らかでなく、また、「前回保存日時」は、前者はBに対し既に血圧マスター2の開発依頼を行った後である平成29年10月24日、後者がG担当者に対しアイコン作成等を依頼する1か月弱前の平成30年8月30日と、いずれもソフトウェア開発作業がスタートした後のものである。そもそも、前者の内容はソフトウェアの新機能案の概略を説明するもの、後者は発売予定日や定価、商品概要等を簡略に説明するものであるにとどまり、その作成経緯も用途も必ずしも明確でない。このため、これらの文書をAが作成したからといって、血圧マスター2及び代筆の達人の企画自体をAが行い、内容面も含めてその指揮の下にソフトウェア開発が進められたと見ることは必ずしもできない。
 10年日記については、メールのやり取りはAとCほか受託業者との間でのみ行われ、その内容を見ても、原告代表者の関与の有無及び程度は判然としない。もっとも、原告代表者は、10年日記に搭載する機能の1つである占い部分のコメントを作成したことが認められるところ、同機能は10年日記のソフトウェアとしての特徴の1つということができ、また、Aがその内容を自ら作成し得ると見るべき具体的な事情はない。こうしたことを踏まえると、原告代表者、A及びCの各陳述(甲37、45、46及び各人の尋問結果)のとおり、10年日記も、血圧マスター2及び代筆の達人と同様の原告代表者の関与の程度及びAとの役割分担により開発が行われたと見ることは合理的といえる。他方、10年日記につき、Aが企画を行い、内容面も含めてその指揮の下にソフトウェア開発が進められたと見るべき具体的な事情はない。
 以上より、本件各ソフトの開発に当たっては、そのいずれにおいても、ソフトウェアの内容面の作成には原告代表者が積極的かつ主体的に関与し、Aは、原告代表者の相談に応じたり成果物の内容確認をしたりするなどの形でソフトウェアの内容面に関与していたとしても、全体としては、企画の進捗管理、原告代表者及び開発業者との間の連絡調整や販売業者への営業活動に主に当たっていたものと見られる。これに反する被告の主張は採用できない。
2 争点1(Aによる被告代表権限濫用の有無)について
(1)前提事実(前記第2の2(2)〜(5))及び上記1認定に係る事実によれば、原告と被告との間の本件各契約はいずれも有効に成立したものということができる。なお、本件各契約締結当時、原告の目的にソフトウェアの企画開発等は含まれていなかったものの、「前各号に附帯関連する一切の事業」も目的に含まれていたことなどに鑑みると、本件各契約の締結をもって原告の目的の範囲外ということはできない。
(2)被告の主張について
ア 被告は、本件各契約はAが被告代表取締役としての権限を濫用して締結したものであるとし、これを基礎付ける事情として、主に、@本件各ソフトの著作権は原告ではなく被告に帰属すること、Aロイヤリティの金額が不合理であること及びB原告代表者とAが男女関係にあり、Aが被告の財産を流出させて原告及び原告代表者を支援していたことなどを主張する。
イ @について
 上記1認定のとおり、本件各ソフトの開発に当たっては、そのいずれにおいても、ソフトウェアの内容面の作成には原告代表者が積極的かつ主体的に関与し、Aは、原告代表者の相談に応じたり成果物の内容確認をしたりするなどの形でソフトウェアの内容面に関与していたとしても、全体としては、企画の進捗管理、原告代表者及び開発業者との間の連絡調整や販売業者への営業活動に主に当たっていたものと見られる。こうした関与の態様に鑑みると、本件各ソフトにつき原告に著作権が帰属するものとし、被告が原告にその利用許諾料を支払うことを本件各契約により定めたとしても、あながち不合理なものとはいえない。被告が本件各ソフトの開発費を負担したことも、本件各ソフトの開発を決定した当時の段階ではいずれも粗利を一定程度上げられる見込みであったこと(前記1(1)カ、(2)ク。なお、10年日記については当初時点でロイヤリティが計上されていないものの(前記1(3)カ)、仮に血圧マスター2及び代筆の達人と同様にロイヤリティを計上しても、粗利が上がる見込みとなる。)などに鑑みると、本件各ソフトの著作権者を原告とすることが不合理というべき事情とまではいえない。さらに、血圧マスター2及び代筆の達人においては被告が著作権者として表示されることなどを考慮しても、この点は異ならない。
ウ Aについて
 この点に関する被告の主張は、原告代表者は本件各ソフトの製作につき実質的な関与をしていないとの評価を前提とする。しかし、その前提を欠くことは上記1認定のとおりである。
 その点を措くとしても、A作成に係る本件各ソフトの計画表(乙11,13、15)は、本件各ソフトの開発企画段階での損益見通しの把握を目的として作成された内部的な資料に過ぎないものと位置付けられる。このため、その内容と本件個別契約の内容に差異があったとしても、各計画表の作成後本件個別契約それぞれの締結に至るまでは、その間に行われた本件各ソフトの開発状況等を踏まえた交渉を経ることを考慮すると、それ自体は必ずしも不合理ではない。また、本件個別契約2については、被告の算定(乙93)を前提としても、計画表作成時から契約締結時点での経費の増加額は約16万円であり、その増加分のうち15万円は販売数量の上方修正によるロイヤリティの増加分であること(このため、売上及び粗利も約38万円及び約22万円増額されている。)から、契約締結時にロイヤリティ額の見直しを行わなかったとしても不合理とはいえない。本件個別契約3についても、契約時点ではロイヤリティが原価として計上されたことに対応して粗利額が減少しているが、これによる粗利率は本件個別契約1よりやや高いことを考えると、ロイヤリティの支払合意をもって不合理とは必ずしもいえない。
 被告が開発費を負担することを考慮した上でのロイヤリティの多寡については、証拠(乙104)によれば、卸値に占めるロイヤリティの割合が、本件各ソフト(全8商品)では17%(「代筆の達人(ダウンロード版)」)〜56%(「健康管理のプロダウンロード版(ソースネクスト)」)であるが、全164商品中では200%が最も高い。また、全商品中この割合が40%以上となるものが半数以上に上るのに対し、本件各ソフトでは2商品(上記のほか、「気づく!血圧マスター2パッケージ版(JMS)」が50%)にとどまる。ロイヤリティが設定されるに至る事情は商品ごとに異なり得るとはいえ、この点に鑑みると、本件各ソフトに係るロイヤリティの設定につき、被告が開発費を負担することを考慮した場合に高額に過ぎるとは必ずしもいえない。本件各ソフトにおける粗利とロイヤリティの比率についても、上記卸値に占めるロイヤリティの割合の状況を考慮すると、一概に不合理なものとまではいえないと思われる。
エ Bについて
 そもそも、原告代表者とAが男女関係にあったことや、両者がその間に子をなしたことを認めるに足りる証拠はない。また、仮にその点が被告指摘のとおりであったとしても、そのことは、Aがその被告代表権限を濫用して原告ないし原告代表者の利益を図る動機の1つとなり得るというにとどまり、本件各契約をもってその具体的な表れと見ることが直ちにできるわけではない。被告主張に係るAの原告及び原告代表者に対する支援に関しても同様である。
オ その他被告が縷々指摘する点を考慮に入れても、本件各契約に関し、Aによる被告代表権限の濫用を認めるに足りる具体的な事情は見当たらない。そうである以上、本件各契約をもって無効とはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
3 まとめ
 以上より、その余の点について検討するまでもなく、原告は、被告に対し、本件各契約に基づき、令和元年6月〜令和2年1月の間に被告が出荷した本件各ソフト合計5797本について、商品化許諾料315万5370円(内消費税25万6870円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年8月16日から支払済みまで約定の年6%の割合による遅延損害金の支払請求権を有すると共に、原告が本件各契約を解除した令和元年11月16日から3か月が経過していることから、本件各ソフトの販売差止請求権及びその記憶媒体の廃棄請求権を有する。
第5 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 鈴木美智子
 裁判官 稲垣雄大


別紙 物件目録
1 「気づく!血圧マスター2」
2 「長寿のプロ」又は「健康管理のプロ」
3 「代筆の達人」
4 「代筆のプロ」
5 「私の記録、10年日記」
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日本ユニ著作権センター
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