判例全文 | ||
【事件名】GMOインターネットへの発信者情報開示請求事件F 【年月日】令和4年8月9日 東京地裁 令和4年(ワ)第9852号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年7月15日) 判決 原告 株式会社ケイ・エム・プロデュース 同訴訟代理人弁護士 戸田泉 同 角地山宗行 同 籠屋恵嗣 被告 GMOインターネット株式会社 同訴訟代理人弁護士 川ア友紀 同 八木優大 同 松井将征 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、氏名不詳者らがいわゆるファイル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)を送信可能化したことによって、本件各動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 なお、被告は、原告の主張するBitTorrentの仕組みについては、被告のシステムではないため直ちに認めることはできないものの、その他の争点については、争わないとしている(令和4年6月27日付け経過表参照)。 第3 当事者の主張 1 請求原因 (1)当事者 ア 原告は、本件各動画の著作権者である。 イ 被告は、電気通信事業を目的とする株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。また、被告は、本件各発信者情報を保有している。 (2)権利侵害の明白性 ア BitTorrentの仕組み BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有ソフトであり、その概要や使用の手順は、次のとおりである。 (ア)BitTorrentでは、特定のファイルを配布する場合、まず、当該ファイルを小さなデータ(ピース)に細分化し、分割された個々のデータ(ピース)をBitTorrentネットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。 (イ)BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、まず、「トラッカーサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードする。 そして、ユーザーは、当該トレントファイルをBitTorrentに読み込ませることにより、当該トレントファイルに記録されたトラッカーサーバに接続し、当該特定のファイルの提供者のリストを要求することになる。トラッカーサーバとは、ファイルの提供者を管理するサーバであり、ユーザーによる要求に応じ、自身にアクセスしているファイル提供者のIPアドレスが記載されたリストをユーザーに返信する。 (ウ)リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数のユーザーに接続し、それぞれから、当該ピースのダウンロードを開始する。そして、全てのピースのダウンロードが終了すると、自動的に、元の1つの完全なファイルが復元される。 (エ)完全な状態のファイルを持つユーザーは、「シーダー」と呼ばれる。また、目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ばれるが、ダウンロードが完了し、完全な状態のファイルを保有すると、当該ユーザーは自動的にシーダーとなり、今度は、リーチャーからの求めに応じて、当該ファイルをアップロードしてリーチャーに提供することになる。 また、リーチャーは、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチャーと共有するためにアップロードする。すなわち、リーチャーは、目的のファイルをダウンロードすると同時に、他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置く仕組みとなっている。 イ 送信可能化権の侵害 氏名不詳者らは、遅くとも、別紙動画目録の「発信時刻欄」記載の各日時には、同目録記載のIPアドレス及びポート番号の割当てを受けてインターネットに接続をした上、本件各動画の全部又は一部を取得してその端末に保存し、かつ、BitTorrentのネットワークを介して他のピアからの要求に応じて本件各動画の全部又は一部を送信することができる状態を作出した。 氏名不詳者らは、これにより本件各動画に係る原告の送信可能化権を侵害し、また、この侵害行為の違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情は認められない。 (3)正当な理由 原告は、氏名不詳者らに対し、損害賠償を請求すべく準備しており、同請求を行うためには、本件発信者情報の開示を受ける必要がある。 (4)よって、原告は、開示関係役務提供者である被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める。 2 請求原因に対する認否 請求原因(2)については、直ちに認めることはできないものの、積極的な反証はしない。その余については、争わない。 第 4当裁判所の判断 1 請求原因(1)について 弁論の全趣旨によれば、請求原因(1)の事実が認められる。 2 請求原因について 証拠(甲2ないし7)及び弁論の全趣旨により認められるBitTorrentの仕組み及び株式会社HDR開発に係る著作権侵害検出システムの結果によれば、遅くともいわゆるHandshakeの時点(上記検出システムが、トラッカーサーバから本件各動画のファイルの提供者に係るIPアドレスを入手し、当該IPアドレスにより接続された各ユーザーから、実際に応答を確認できた時点をいう。以下同じ。)である別紙動画目録の「発信時刻欄」記載の各日時には、氏名不詳者らは、同目録記載のIPアドレス及びポート番号の割当てを受けてインターネットに接続をした上、本件各動画の全部又は一部を取得してその端末に保存し、かつ、BitTorrentのネットワークを介して他のピアからの要求に応じて本件各動画の全部又は一部を送信することができる状態にしていたものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はなく、この点につき、被告も積極的に争うものではない。 これらの事情の下においては、氏名不詳者らは、別紙動画目録の「発信時刻欄」記載の各日時において、本件各動画の全部又は一部を不特定多数の者からの求めに応じ自動的に送信し得るようにしたものと認めるのが相当である。そして、当事者双方提出に係る証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはできない。 したがって、氏名不詳者らによるHandshakeに係る情報の流通によって、本件各動画に係る原告の送信可能化権が侵害されたことが明らかであるといえるから、請求原因(2)の事実が認められる。 3 請求原因について 弁論の全趣旨によれば、原告は、氏名不詳者らに対し、損害賠償等を請求することを予定していることが認められる。そうすると、上記2において説示したところを踏まえると、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものといえる。したがって、請求原因の事実が認められる。 4 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって自己の送信可能化権を侵害された原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 小田誉太郎 裁判官 古賀千尋 (別紙)発信者情報目録 別紙動画目録(1)及び(2)記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @氏名又は名称 A住所 B電子メールアドレス (別紙)著作物目録 1.作品名:(省略) 発売日:令和3年8月25日 レーベル:million 2.作品名:(省略) 発売日:令和3年9月14日 レーベル:million (別紙)動画目録(1) 1.省略(著作物目録1) ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
(別紙)動画目録(2) 1.省略(著作物目録2) ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
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