判例全文 | ||
【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件G 【年月日】令和4年8月9日 東京地裁 令和4年(ワ)第1543号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年7月5日) 判決 原告 株式会社ケイ・エム・プロデュース 同訴訟代理人弁護士 戸田泉 同 角地山宗行 同 籠屋恵嗣 被告 株式会社NTTぷらら訴訟承継人 株式会社NTTドコモ 同訴訟代理人弁護士 松尾翼 同 小杉丈夫 同 西村光治 同 髙橋慶彦 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、氏名不詳者らがいわゆるファイル交換共有ソフトウェアであるBitTorrentを使用して、別紙著作物目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)を送信可能化したことによって、本件各動画に係る原告の送信可能化権を侵害したと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 なお、本件の争点は、争点整理の結果、いわゆる「Handshakeに係る通信が「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか否かという点に絞ることとされた。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実をいう。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。) (1)当事者 ア 原告は、アダルトビデオの制作、販売を業とする株式会社である。(弁論の全趣旨) イ 被告は、電気通信事業を目的とする株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。なお、被告は、本件訴訟係属中の令和4年7月1日、承継前被告である株式会社NTTぷららを吸収合併し、その権利義務を承継した。(弁論の全趣旨) (29本件各動画に係る著作権の帰属 原告は、本件各動画の著作権者である。 (3)BitTorrentの仕組み BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有ソフトであり、その概要や使用の手順は、次のとおりである。 ア BitTorrentでは、特定のファイルを配布する場合、まず、当該ファイルを小さなデータ(ピース)に細分化し、分割された個々のデータ(ピース)をBitTorrentネットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。 イ BitTorrentを通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、まず、「トラッカーサイト」と呼ばれるウェブサイトに接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードする。 そして、ユーザーは、当該トレントファイルをBitTorrentに読み込ませることにより、当該トレントファイルに記録されたトラッカーサーバに接続し、当該特定のファイルの提供者のリストを要求することになる。トラッカーサーバは、ファイルの提供者を管理するサーバであり、ユーザーによる要求に応じ、自身にアクセスしているファイル提供者のIPアドレスが記載されたリストをユーザーに返信する。 ウ リストを受け取ったユーザーは、当該ファイルのピースを持つ他の複数のユーザーに接続し、それぞれから、当該ピースのダウンロードを開始する。 そして、全てのピースのダウンロードが終了すると、自動的に、元の1つの完全なファイルが復元される。 エ 完全な状態のファイルを持つユーザーは、「シーダー」と呼ばれる。また、目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ばれるが、ダウンロードが完了し、完全な状態のファイルを保有すると、当該ユーザーは自動的にシーダーとなり、今度は、リーチャーからの求めに応じて、当該ファイルをアップロードしてリーチャーに提供することになる。 また、リーチャーは、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチャーと共有するためにアップロードする。すなわち、リーチャーは、目的のファイルをダウンロードすると同時に、他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置く仕組みとなっている。 オ BitTorrentは、このようなユーザー相互間のデータの授受を通じて、ファイルを保管するためのサーバを必要とすることなく、大容量のファイルを高速で共有することを可能とするものである。 (以上につき、甲2、4、7、弁論の全趣旨) (4)原告による著作権侵害調査の概要 ア 原告は、本件訴訟の提起に先立って、株式会社HDR(以下「HDR」という。)に対し、本件各動画の著作権侵害に係る調査(以下「本件調査」という。)を依頼したところ、同社から、氏名不詳者らが、別紙動画目録⑴ないし(4)記載の各日時に、同目録記載のIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、BitTorrentネットワークに参加した上で、本件各動画のファイルを自動的に送信し得る状態に置いていた旨の報告を受けた。 イ HDRは、上記調査を実施するに当たって、自らが開発した著作権侵害検出システム(以下「本件検知システム」という。)を使用した。 (以上につき、甲3~7、弁論の全趣旨) (5)被告による本件発信者情報の保有 被告は、本件発信者情報を保有している。(弁論の全趣旨) 第3 争点及びこれに対する当事者の主張 本件における争点は、いわゆるHandshakeに係る通信が「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか否かである。 (原告の主張) 本件調査において、本件検知システムがトラッカーサーバに接続し、本件各動画のファイルの提供者のリストを要求したところ、トラッカーサーバから、自身にアクセスしている当該ファイルの提供者のIPアドレスが記載されたリストが提供された。その後、実際に、本件検知システムが当該リストに記録されていた各ユーザーに接続をしたところ、当該各ユーザーからの応答が確認されており(以下、この応答が確認されたことを「Handshake」ともいう。)、別紙動画目録⑴ないし(4)記載の「発信時刻」欄記載の日時は、その応答確認が行われた日時である。 そして、Handshakeが行われたということは、本件各発信者が、その時点で、BitTorrentシステムを介して、自動的に本件各動画をダウンロードできる状態に置いていたことを示すものである。そうすると、Handshakeが行われた時点で、原告の送信可能化権が侵害されたと評価することができる。 したがって、本件においては、Handshakeに係る通信についての発信者情報(本件発信者情報)が「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる。 (被告の主張) 本件においては、本件各動画のそれぞれが、いつ、インターネット上のいかなるサイトにおいて、どのような内容の動画として、どのようにアップロードされたのかは明らかではない。このように、本件各動画がインターネット上にアップロードされたかという事実自体が不明である以上、氏名不詳者らが本件各動画に係る原告の送信可能化権を侵害したことが明らかであるとはいえない。 第4 当裁判所の判断 1 争点に対する判断 (1)認定事実 前記前提事実、証拠(甲3ないし7)及び弁論の全趣旨によれば、本件検知システムの結果につき、次の事実が認められる。 ア まず、本件各動画のファイルに係る情報を本件検知システムに登録する。これを受けて、本件検知システムは、当該情報をBitTorrentネットワーク上、トラッカーサーバに向けて発信し、同ファイルの提供者のリストの提供を求める。 イ これを受けて、トラッカーサーバは、本件検知システムに対し、自身にアクセスしている上記ファイルの提供者に係るIPアドレスやポート番号、ハッシュ等が記録されたリストを提供する。 ウ 本件検知システムは、その後、実際に上記リストに記録されたIPアドレスを割り当てられた各ユーザーに接続し、各ユーザーから応答があるかどうかを確認する。そして、本件検知システムは、別紙動画目録⑴ないし(4)記載の日時において、各ユーザーから、実際に応答を確認することができた。当該日時が、いわゆるHandshakeの時点をいうものである。 (2)前記前提事実に係るBitTorrentの仕組み及び本件検知システムの上記結果によれば、氏名不詳者らは、遅くとも、上記Handshakeの時点である別紙動画目録⑴ないし(4)記載の各日時には、同目録記載のIPアドレス及びポート番号の割当てを受けてインターネットに接続した上、本件各動画の全部又は一部を取得してその端末に保存し、かつ、BitTorrentのネットワークを介して他のピアからの要求に応じて本件各動画の全部又は一部を送信することができる状態にしていたものと推認するのが相当であり、これを覆すに足りる証拠はなく、この点につき被告も積極的に争うものではない。 これらの事情の下においては、氏名不詳者らは、別紙動画目録⑴ないし(4)記載の各日時において、本件各動画の全部又は一部を不特定多数の者からの求めに応じ自動的に送信し得るようにしたものと認めるのが相当である。そして、当事者双方提出に係る証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはできない。 したがって、氏名不詳者らによるHandshakeに係る情報の流通によって、本件各動画に係る原告の送信可能化権が侵害されたことが明らかであるといえるから、本件発信者情報は、「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと認められる。 (3)これに対し、被告は、本件各動画が実際にインターネット上にアップロードされたかは不明である旨主張するが、少なくとも、本件各動画が自動公衆送信し得るようにされたことは、上記において説示したとおりであり、被告の上記主張は、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告の主張は採用することができない。 その他に、被告提出に係る準備書面及び証拠を改めて検討しても、被告の主張は、その提出証拠の内容に照らし、上記判断を覆すに足りるものとはいえない。したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。 そして、弁論の全趣旨によれば、原告は、氏名不詳者らに対し、損害賠償等を請求することを予定していることが認められる。そうすると、上記(2)において説示したところを踏まえると、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものといえる。 したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。 2 結論 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 小田誉太郎 裁判官 古賀千尋9 (別紙)発信者情報目録 別紙動画目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 ①氏名又は名称 ②住所 ③電子メールアドレス (別紙)著作物目録 1 作品名:省略 発売日:令和3年9月14日 レーベル:BAZOOKA 2 作品名:省略 発売日:令和3年6月13日 レーベル:宇宙企画 3 作品名:省略 発売日:令和3年7月13日 レーベル:ミリオン 4 作品名:省略 発売日:令和3年8月25日 レーベル:ミリオン (別紙)動画目録(1) 1.省略(著作物目録1) ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
(別紙)動画目録(2) 1.省略(著作物目録2) ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
(別紙)動画目録(3) 1.省略(著作物目録3) ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
(別紙)動画目録(4) 1.省略(著作物目録4) ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
ハッシュ:省略 ポート番号:下記一覧のとおり 発信日時:下記一覧のとおり
|
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |