判例全文 | ||
【事件名】プロバイダ各社への発信者情報開示請求事件H 【年月日】令和4年7月29日 東京地裁 令和4年(ワ)第7505号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年6月21日) 判決 原告 X 同訴訟代理人弁護士 田中圭祐 同 吉永雅洋 同 遠藤大介 同 蓮池純 同 神田竜輔 被告 株式会社NTTぷらら(以下「被告NTTぷらら」という。) 同訴訟代理人弁護士 西村光治 同 橋慶彦 被告 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社(以下「被告ソニーネットワーク」という。) 同訴訟代理人弁護士 浦中裕孝 同 深沢篤嗣 同 坂東大聖 主文 1 被告NTTぷららは、原告に対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ。 2 被告ソニーネットワークは、原告に対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報を開示せよ。 3 訴訟費用は被告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 本件は、原告が、インターネット上の電子掲示板にされた氏名不詳者らによる投稿について、別紙投稿記事目録1記載の投稿(以下「本件投稿1」という。)及び同目録2記載の投稿(以下「本件投稿2」といい、本件投稿1と併せて「本件各投稿」という。)により名誉感情を侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告NTTぷららにあっては別紙発信者情報目録記載1の各情報(以下「本件発信者情報1」という。)を、被告ソニーネットワークにあっては別紙発信者情報目録記載2の各情報(以下「本件発信者情報2」といい、本件発信者情報1と併せて「本件各発信者情報」という。)を、それぞれ開示することを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実をいう。) (1)当事者 ア 原告は、ライブ配信サービス「ツイキャス」において、「A」というアカウント名で、ライブ配信をしている者である。なお、原告は、配信活動において、自身が既婚者であることを明らかにしている。(甲9ないし11) イ 被告らは、電気通信事業を営む株式会社である。 (2)本件各投稿等 ア 氏名不詳者1(以下「本件発信者1」という。)は、別紙投稿記事目録1の投稿日時欄記載の日時に、インターネット掲示板「雑談たぬき」上の「【A】ツイキャス」と題するスレッド(以下「本件スレッド」という。)に、同目録の投稿内容記載の本件投稿1をした(同目録の投稿画像掲記の画像は、同目録の投稿内容記載のURLを開くと表示される画像であり、原告の容貌が写っている。以下、当該画像を「本件画像」という。)。(甲1の1・2、12、18) なお、本件投稿1は、被告NTTぷららの管理する同目録記載のIPアドレスからされたものであり、被告NTTぷららは、本件発信者情報1を保有している。 イ 氏名不詳者2(以下「本件発信者2」といい、本件発信者1と併せて「本件各発信者という。)は、別紙投稿記事目録2の投稿日時欄記載の日時に、本件スレッドに、同目録の投稿内容記載の本件投稿2をした。(甲2、16) なお、本件投稿2は、被告ソニーネットワークの管理する同目録記載のIPアドレスからされたものであり、被告ソニーネットワークは、本件発信者情報2を保有している。 3 争点 (1)本件各投稿による権利侵害の明白性(争点1) ア 本件投稿1による名誉感情侵害の明白性(争点1−1) イ 本件投稿2による名誉感情侵害の明白性(争点1−2) (2)正当な理由の有無(争点2) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1−1(本件投稿1による名誉感情侵害の明白性)について (原告の主張) 本件投稿1は、原告について「痛々しいババア」として、原告の行動、容姿及び年齢を中傷するものである。また、本件投稿1は、原告が写った本件画像を添付して、「HAPPYBIRTHDAY」と書かれたカラフルなサングラスを着用した原告の姿について、「この痛々しいババア」と中傷するとともに、何ら非難されるべき行動をとっていない原告に対して、「天罰を」などと述べている。 そうすると、本件投稿1は、社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものであり、原告の名誉感情を侵害することは明らかである。 (被告NTTぷららの主張) 本件投稿1は、ごく短文の文章であり、その表現も過度に執拗性や侮辱性があるものではないとも考え得るものであるから、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが明白であるとまではいえない。 2 争点1−2(本件投稿2による名誉感情侵害の明白性)について (原告の主張) 本件投稿2は、原告について、「リスナーに股開く女」と述べるものであって、原告が性的にだらしない女性であると中傷するものである。加えて、笑いを意味するネットスラングである「w」が3つもつけられており、原告に対する誹謗中傷を図る意図を明らかに読み取ることができる。 そうすると、本件投稿2は、社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものであり、原告の名誉感情を侵害することは明らかである。 (被告ソニーネットワークの主張) 本件投稿2では、原告が、誰と、どのような経緯で会うこととなり、性的関係を持つに至ったのかということや、投稿者がどのようにしてそのことを知ったのかということなどについて、具体的な事実は一切記載されていない。また、本件スレッドのある掲示板は、不特定の個人が匿名で自由に投稿を行うことができるものであることからすると、このような掲示板になされた投稿が信頼性の低いものであることは、一般の閲覧者においてあらかじめ想定されている。そうすると、「リスナーに股開く女」との投稿がされただけでは、一般の閲覧者において、原告が視聴者と性的関係を持ったとの事実が摘示されていると解することはあり得ず、むしろ、本件投稿2について、原告の配信する動画がリスナーに過度に媚を売るような内容であるという意見を、「リスナーに股開く」と揶揄する表現を用いて述べたものと理解するのが通常である。 そして、本件投稿2は、具体的な事実や根拠を記載することなく、単に「リスナーに股開く女」と記載するのみであり、本件投稿2より以前の投稿において原告の性的な行動について繰り返し述べているような形跡も見当たらない。 このような投稿の内容及び表現方法からすると、笑いを意味する「w」が付けられていることを考慮しても、本件投稿2は、誰であっても名誉感情が害されるような明確、かつ、程度の甚だしい侵害が認められるものとまではいえない。 したがって、本件投稿2について、社会通念上許される限度を超えて原告の名誉感情を侵害することが明白であるとはいえない。 3 争点2(正当な理由の有無)について (原告の主張) 原告は、本件各発信者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求等をする予定であり、そのためには、被告らから本件各発信者情報の開示を受ける必要がある。 したがって、原告には、被告らから本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 (被告らの主張) 不知ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件各投稿による権利侵害の明白性)について (1)名誉感情侵害に係る判断枠組み ある者の名誉感情を損なう行為は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるといえる場合に、上記の者の人格的価値を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。 (2)本件投稿1による名誉感情侵害の明白性(争点1−1)について 前提事実によれば、本件投稿1の内容は、「この痛々しいババアに天罰を」と述べるとともに、原告が写った本件画像が表示されるURLを記載するものであることが認められる。そうすると、本件投稿1の内容は、原告の容姿や年齢等を中傷するなど、原告への人身攻撃に及ぶものであることは明らかである。したがって、本件投稿1は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることは明らかであり、本件投稿1の内容等からすれば、違法性阻却をうかがわせる事由を認めることはできない。 以上によれば、本件投稿1は、原告の名誉感情を侵害するものとして、不法行為法上違法となることが明らかであるものと認められる。 これに対し、被告NTTぷららは、本件投稿1の表現には執拗性や侮辱性があるものとはいえない旨主張するものの、上記において説示した本件投稿1の表現内容等を踏まえると、上記判断を左右するものとはいえない。したがって、被告NTTぷららの主張は、採用することができない。 (3)本件投稿2による名誉感情侵害の明白性(争点1−2)について 前提事実によれば、本件投稿2の内容は、「メンバーシップに入ってるやつがあげてるなんてもうこいつは、終わってるな。リスナーに股開く女だからなwww」と述べるものであることが認められる。そうすると、本件投稿2の内容は、原告の貞操観念等を中傷するなど、原告への人身攻撃に及ぶものであることは明らかである。 したがって、本件投稿2は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることは明らかであり、本件投稿2の内容等からすれば、違法性阻却をうかがわせる事由を認めることはできない。 以上によれば、本件投稿2は、原告の名誉感情を侵害するものとして、不法行為法上違法となることが明らかであるものと認められる。 これに対し、被告ソニーネットワークは、本件投稿2には具体的な事実や根拠は一切記載されず、原告が視聴者と性的関係を持ったとの事実が摘示されていると解することはできない旨主張する。しかしながら、被告ソニーネットワークの主張は、「リスナーに股開く女だからなwww」という表現内容自体の悪質性に鑑みると、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とするものとは直ちに認めることはできず、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告ソニーネットワークの主張は、採用することができない。 2 争点2(正当な理由の有無)について 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各発信者に対し、損害賠償等を請求することを予定していることが認められる。したがって、前記1において説示したところを踏まえると、原告には本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものといえる。 以上によれば、原告は、被告らに対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件各発信者情報の開示を求めることができる。 3 結論 よって、原告の請求はいずれも理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 中島基至 裁判官 古賀千尋 裁判官 國井陽平 (別紙)発信者情報目録 1 別紙投稿記事目録1記載の投稿日時頃に、同目録記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から同目録記載の接続先IPアドレスに対して通信を行った電気通信回線の同日時における契約者に関する以下の情報 @ 氏名又は名称 A 住所 B 電話番号 C 電子メールアドレス 2 別紙投稿記事目録2記載の投稿日時頃に、同目録記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から同目録記載の接続先IPアドレスに対して通信を行った電気通信回線の同日時における契約者に関する以下の情報 @ 氏名又は名称 A 住所 B 電話番号 C 電子メールアドレス 以上 (別紙)投稿記事目録1
(別紙)投稿記事目録2
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