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【事件名】プロバイダ各社への発信者情報開示請求事件K
【年月日】令和4年7月21日
 東京地裁 令和3年(ワ)第32178号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年5月31日)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 被告KDDIは、原告に対し、別紙発信者情報目録1記載の各情報を開示せよ。
2 被告NTTコミュニケーションズは、原告に対し、別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、インターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」で、特定のアカウントの利用者によって投稿された原告に関する3件の記事について、1件目は原告の著作物である漫画の複製画像を添付しつつ原告を中傷して原告の著作権(複製権及び公衆送信権)、著作者人格権(同一性保持権)及び名誉感情を侵害し、2件目は同漫画の複製画像を添付して原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害し、3件目は原告を中傷して原告の名誉感情を侵害するものであると主張して、電気通信事業を営む被告らに対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、上記アカウントにログインする際に利用されたIPアドレスに係る氏名や住所等の開示を求める事案である。
2 前提事実(証拠等の掲示のない事実は当事者間に争いがない。なお、枝番号の記載を省略したものは枝番号を含む。)
(1)当事者
 原告は、「a」のペンネームで漫画作品を執筆及び販売している者である。(甲5)
 被告らは、いずれも電気通信事業を営む株式会社である。
(2)本件漫画
 原告は、別紙著作物目録記載の漫画(以下「本件漫画」という。)を執筆し、令和3年4月23日、ツイッターにその画像を添付した記事を投稿した。(甲5、9)
 本件漫画は、原告を著作者とする言語ないし美術の著作物であり、原告がその著作権を有すると認められる。
(3)本件各投稿
ア 本件投稿1
 氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、本件漫画のキャラクターの顔部分にモザイク処理を施した画像(別紙投稿記事目録1の「投稿画像1」欄掲載のもの。以下「投稿画像1」という。)を作成し、令和3年4月24日午後11時19分、アカウント名を「(省略)」、ユーザー名を「@(以下省略)」とするアカウント(以下「本件アカウント」という。)を用いて、本文に「この漫画家崩れに関してはwiki付けて周知してもらった方が良いと思うよ/しかし成長しないね、絵も中身も/#a」(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)などと記載し、投稿画像1を添付した別紙投稿記事目録1記載の記事をツイッターに投稿した(以下「本件投稿1」という。)。(甲1の1)
イ 本件投稿2
 本件投稿者は、投稿画像1の一部を切り取った画像(別紙投稿記事目録2の「投稿画像2」欄掲載のもの。以下「投稿画像2」という。)を作成し、令和3年4月24日午後11時17分、本件アカウントを用いて、本文に「相手によってエア弁護士出したり引っ込めたりしてんじゃん/それは良いの?/#a」と記載し、投稿画像2を添付した別紙投稿記事目録2記載の記事をツイッターに投稿した(以下「本件投稿2」という。)。(甲1の2)
ウ 本件投稿3
 本件投稿者は、匿名で質問ができる「質問箱」のサービスを通じて本件投稿者宛に投稿された「でもa現実として漫画家で食ってるからなぁ」、「a先生、人間噂八百でアイドル含めて芸能人の経歴をネタにしてるように/リアルの芸能界ネタが得意分野なんだけど/文鎮は知らないんだろうねぇw」との投稿に対し、令和3年6月16日午後4時53分、「得意分野…?ずっと商業で仕事ない上に同人さっぱり売れてないのに…?/マンガで食ってる…?/マンガの収入だけで食えてないからあんなみすぼらしい生活してるんでしょ?」などと記載すると共に、上記投稿へのリンクを添付した別紙投稿記事目録3記載の記事をツイッターに投稿した(以下「本件投稿3」といい、本件投稿1及び2と併せて「本件各投稿」という。)。(甲1)
(4)本件発信者情報の保有
ア 被告KDDIは、同被告から割り当てられた別紙ログイン情報目録1「IPアドレス」欄記載のIPアドレスを用いて令和3年6月16日午後8時47分頃になされた本件アカウントへのログイン(以下「本件ログイン1」という。)に係る別紙発信者情報目録1記載の各情報(以下「本件発信者情報1」という。)を保有している。
イ 被告NTTコミュニケーションズは、同被告から割り当てられた別紙ログイン情報目録2「IPアドレス」欄記載の各IPアドレスを用いて同目録「ログイン日時(日本時間)」欄記載の各日時頃(令和3年5月31日午前8時3分から同年8月31日午後5時33分まで)になされた本件アカウントへの各ログイン(以下「本件各ログイン2」という。)に係る別紙発信者情報目録2記載の各情報(以下「本件発信者情報2」といい、本件発信者情報1と併せて「本件発信者情報」という。)を保有している。
(5)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由
 原告は、本件投稿者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使することを予定していることが認められる(弁論の全趣旨)。本件発信者情報はその行使のために必要なものといえるから、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
3 主な争点
(1)本件各投稿について
ア 本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性(争点1)
イ 被告らの「開示関係役務提供者」該当性(争点2)
(2)本件投稿1について
ア 「複製」及び「公衆送信」該当性(争点3)
イ 引用としての適法性(争点4)
ウ 名誉感情侵害の成否(争点5)
(3)本件投稿2について
 「複製」及び「公衆送信」該当性(争点6)
(4)本件投稿3について
 名誉感情侵害の成否(争点7)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性−本件各投稿について)
【原告の主張】
 「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)とは、侵害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限られず、権利侵害との結びつきがあり、権利を侵害した者の特定に資する通信から把握される発信者情報を含む。そのため、侵害情報が発信された後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合は、これに当たる。
 ツイッターで記事を投稿するためにはアカウント作成時のメールアドレスとパスワードを入力してログインする必要があるため、本件各投稿を行ったアカウントにログインした者と本件各投稿に係る侵害情報を送信した者とが同一である高度の蓋然性が認められる。また、本件アカウントが第三者と共有されていたことをうかがわせる事情は見当たらない。むしろ、本件投稿者自身による反論(乙1、丙1)が証拠として提出されている。これらの事情を踏まえると、本件ログイン1及び本件各ログイン2は、いずれも本件投稿者によってなされたものといえる。
 したがって、本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる。
【被告KDDIの主張】
 「権利の侵害に係る発信者情報」とは、侵害情報の流通そのものに係る発信者情報のみを意味するものと解すべきである。
 本件発信者情報1は、本件アカウントへのログインを行った者に係る情報にすぎず、侵害情報の流通そのものに関わりのある情報ではない。また、本件各投稿を行うためにはその投稿に先立ち本件アカウントにログインする必要があるところ、本件各投稿よりも後の日時にされたログインに係る本件発信者情報1は、この意味でも、侵害情報の流通そのものに関わりのある情報ではない。
 したがって、本件発信者情報1は「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらない。
 【被告NTTコミュニケーションズの主張】
 「権利の侵害に係る発信者情報」とは、侵害情報が流通されることとなった特定電気通信の過程において把握される発信者情報と解すべきである。
 本件アカウントへのログインに係る情報の流通は、本件各投稿とは別個の情報の流通であるから、本件発信者情報2は、侵害情報が流通されることとなった特定電気通信の過程において把握される発信者情報には当たらない。
 したがって、本件発信者情報2は「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらない。
2 争点2(被告らの「開示関係役務提供者」該当性−本件各投稿について)
【原告の主張】
 被告らは、いずれも、本件各投稿に利用された本件アカウントのログイン情報の送信・媒介に用いられた通信設備を用いる者であるから、「開示関係役務提供者」に該当する。
【被告KDDIの主張】
 争う。本件各投稿のための特定電気通信に被告KDDIの用いる特定電気通信設備が供されたか否かは不明であり、被告KDDIが「開示関係役務提供者」に該当するとは限らない。
【被告NTTコミュニケーションズの主張】
 「開示関係役務提供者」とは、権利侵害情報に係る特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者である。しかるに、本件各ログイン2に係る通信は、あくまで本件アカウントへのログインに際して行われるデータの送受信にすぎず、権利侵害情報に係る特定電気通信ではない。したがって、被告NTTコミュニケーションズは「開示関係役務提供者」に当たらない。
3 争点3(「複製」及び「公衆送信」該当性−本件投稿1について)
【原告の主張】
 投稿画像1は、本件漫画の一部を加工しているものの、吹き出し等の文章やコマ割りはそのままにされており、本件漫画との間の依拠性、類似性は明らかである。このような投稿画像1をインターネット上に掲載する行為はサーバへのアップロードを必然的に伴い、当該サーバに著作物を有形的に再製している。また、インターネットへのアップロードは、公衆によって直接受信されることを目的として、無線又は有線電気通信を行うもののうち、公衆からの求めに応じて自動的に行うものであり、自動公衆送信に該当する。
【被告KDDIの主張】
 投稿画像1が本件漫画を加工したものであることは不知。仮にそうであるとしても、モザイク処理によって、投稿画像1から認識し得る内容は専ら文字のみとなっているところ、当該文字による表現はありふれたものにすぎず、思想・感情を創作的に表現したものではない。
 したがって、投稿画像1は、本件漫画を有形的に再製したものとはいえず、自動公衆送信を行ったことにもならない。
4 争点4(引用としての適法性−本件投稿1について)
【被告NTTコミュニケーションズの主張】
 本件投稿1は、中傷を目的とするものではなく、あくまで原告の作品を批評又は批判するものであり、その範囲を逸脱するものではない。また、通常の注意をもって読めば、ハッシュタグとして記載された原告のペンネームが本件漫画の著作者名であると理解できることから、合理的な方法・程度により出所の表示がなされているといえる。
 したがって、本件投稿1は適法な引用に当たる。
【原告の主張】
 本件投稿1は、原告に対する中傷を目的としたものであるから、引用の目的上正当な範囲内でなされたものとはいえない。また、本件投稿1においては、原告が管理するツイッターのアカウント名や該当ツイートの出所の明示がなされていないことから、公正な慣行に合致するものともいえない。
 したがって、本件投稿1は適法な引用に当たらない。
5 争点5(名誉感情侵害の成否−本件投稿1について)
【原告の主張】
 本件投稿1は、原告が漫画家として落ちぶれており、絵も内容も進歩がないなどと一方的に断ずるものであり、原告にとって耐えがたい苦痛を与える。また、本件投稿1は、本件漫画の内容を評価するような体裁をとっているが、「漫画家崩れ」という表現からも明らかなように、原告個人に対して侮蔑的に中傷するものである。
 したがって、本件投稿1は、社会通念上許される限度を超えて原告の名誉感情を侵害する。
【被告KDDIの主張】
 本件投稿1は、何ら具体的な事実や根拠を述べることなく、抽象的かつ極々簡単な投稿をしたものにすぎず、その表現方法は執拗なものではなく、極端な揶揄、愚弄、嘲笑、侮蔑的な表現を用いてもいない。
 したがって、本件投稿1は、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為に当たらない。
【被告NTTコミュニケーションズの主張】
 本件投稿1は、原告に不快感を与える内容であることは否めないものの、原告の作品に対する批判を記載したものであって、表現として殊更不穏当でもなく、原告の人格攻撃に及ぶようなものでもない。そうである以上、本件投稿1は、作品への批判として受忍限度内の投稿というべきである。
 したがって、本件投稿1は、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為に当たらない。
6 争点6(「複製」及び「公衆送信」該当性−本件投稿2について)
【原告の主張】
 投稿画像2は、投稿画像1の一部をトリミングしたものであるから、前記3【原告の主張】と同様に、これをインターネット上に掲載する行為は複製及び公衆送信に該当する。
【被告KDDIの主張】
 投稿画像2が投稿画像1の一部をトリミングしたものであることは不知。仮にそうであったとしても、前記3【被告KDDIの主張】と同様に、複製及び公衆送信に該当しない。
【被告NTTコミュニケーションズの主張】
 投稿画像2が仮に投稿画像1の一部をトリミングしたものであるとしても、そこに記載されたセリフの内容は一般的な言葉の羅列であり、吹き出し部分も漫画作品で一般的に使用される形状にすぎない。
 したがって、投稿画像2自体は創作性を欠いており、本件投稿2は、本件漫画に係る原告の著作権を侵害するものではない。
7 争点7(名誉感情侵害の成否−本件投稿3について)
【原告の主張】
 本件投稿3は、原告が漫画家として全く生活できていない、成り立っていないと一方的に決めつけた上で生活が見苦しいなどと中傷するものであって、漫画家として真摯な作品制作を行っている原告に対し耐え難い苦痛を与える。
 したがって、本件投稿3は、社会生活上の受忍限度を超えて原告の名誉感情を著しく侵害する。
【被告KDDIの主張】
 本件投稿3は、何ら具体的な事実や根拠を述べることなく、抽象的かつ極々簡単な投稿をしたものにすぎず、その表現方法は執拗なものではなく、極端な揶揄、愚弄、嘲笑、侮蔑的な表現を用いてもいない。
 したがって、本件投稿3は、社会通念上許される限度を超えた侮辱行為に当たらない。
【被告NTTコミュニケーションズの主張】
 本件投稿3は、原告が漫画家として生活できる程度には成功しておらず、生活に困窮している旨述べるものの、漫画家としての収入額や生活の困窮度合を示す具体的な事実等を摘示して殊更に原告を貶すといったものではない。
 したがって、本件投稿3は、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為に当たらない。
第4 当裁判所の判断
1 事案に鑑み、まず、本件投稿1について検討する。
2 争点1(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)について
(1)法4条1項は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が開示関係役務提供者に対して開示を請求することができる情報を「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており、開示請求の対象となる発信者情報は、権利の侵害と一定の関連性を有するものに限定されている。ここで、必要となる関連性の程度は法4条の趣旨を踏まえて検討すべきところ、その趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。このため、当該発信者情報が被害者の権利を侵害した加害者に関するものであると認められる場合は、それが権利を侵害した情報の流通過程で把握されたものであるか否かにかかわらず、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解される。
(2)弁論の全趣旨によれば、ツイッターで記事を投稿するためには事前に登録したアカウントにログインする必要があり、そのためには事前に設定したパスワード等を入力する必要があることが認められる。このようなツイッターの仕組みに加え、本件において、本件アカウントを利用する人物が複数存在することをうかがわせる具体的な事情は見当たらず、かえって、被告らの各意見照会に対しておおむね同趣旨というべき回答がされたこと(乙1、丙1)を踏まえると、本件ログイン1及び本件各ログイン2は、本件アカウントを利用してツイッターに記事を投稿していた本件投稿者によってなされたものであることが認められる。そうすると、本件ログイン1及び本件各ログイン2に用いられたIPアドレスに係る本件発信者情報は、いずれも本件投稿者に関するものといえる。
 したがって、本件発信者情報は、いずれも「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)に当たる。これに反する被告らの主張はいずれも採用できない。
3 争点2(被告らの「開示関係役務提供者」該当性)について
 前提事実(前記第2の2(1)、(3)ア)、前記2の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1は、本件投稿者が、インターネット上において、不特定の者が閲覧するツイッターに投稿したものである。また、被告らは、いずれも、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(特定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を他人の通信の用に供する者(特定電気通信役務提供者)である。
 そうすると、本件投稿1が原告の権利を侵害するものとされる場合、被告らは、いずれも、本件投稿1に係る特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者すなわち「開示関係役務提供者」に当たるといえる。
4 争点3(「複製」及び「公衆送信」該当性)について
 本件漫画は、作者の分身とされる漫画家のキャラクターがゲームキャラクターの二次創作に関する主張を展開する「ウマ娘ぜんぜん知らないマンガ家。」と題する4コマ漫画であり、その図柄、背景、吹き出しの配置等は別紙著作物目録のとおりである。また、登場キャラクターによる具体的なセリフは次のとおりである。(甲9、弁論の全趣旨)
 「はいどうもー」、「以前は『(省略)』を名のってましたが今は『(省略)』を名のっております(省略)でーす/もちろんペンネームです」、「なんかさー」、「ウマ娘の二次創作ってややこしいことになってんだって?/エロがダメとか/でその理由が/馬主が怒るから?」、「はあ?」、「何素直に言うこと聞いてんだエロ絵描き!!!!」、「これまで公式とか一切ムシしてエロを描いてきたんだろが!!/それが?」、「馬主に怒られるからやめる?/おめーらのリビドーは相手の強さで出し入れすんのかよ」
 これらのセリフは、原告が、ゲームキャラクターの二次創作に関する自己の主張を独特の言い回しないし言葉遣い等を選択して表現したものと認められ、本件漫画の表現上の本質的特徴を直接感得させる部分をなすものといえる。
 他方、投稿画像1は、本件漫画の構成要素のうち概ねキャラクターの顔部分にのみモザイク処理が施されたものであって、本件漫画と対比すると、キャラクターの表情等は認識できないようになっているが、それ以外のセリフ部分等は、本件漫画の表現がそのまま残されていることが認められる。上記のとおり、本件漫画のセリフ部分は本件漫画の表現上の本質的特徴を直接感得させる部分をなすものであるから、これらを全て表示している以上、投稿画像1は、本件漫画の表現上の本質的特徴を直接感得させるものであり、本件漫画との実質的同一性をなお失っていないものといえる。
 そうすると、本件投稿1のインターネット上への掲載は、本件漫画の「複製」及び「公衆送信」(自動公衆送信)に該当する。
 したがって、本件投稿1は、原告の本件漫画に係る著作権(複製権、公衆送信権)を侵害するものといえる。これに反する被告KDDIの主張は採用できない。
5 争点4(引用としての適法性)について
 著作物を引用した利用が適法といえるためには、引用が、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない(著作権法32条1項後段)。
 前提事実(第2の2(3)ア)のとおり、本件投稿1は、本文として、「この漫画家崩れに関してはwiki付けて周知してもらった方が良いと思うよ/しかし成長しないね、絵も中身も/#a」などと記載しているものである。この内容に鑑みると、本件投稿者が本件投稿1に投稿画像1を添付した目的は、本件漫画を批評するに当たって実際に本件漫画の内容を示すことにあったことがうかがわれる。
 しかし、本件投稿1の本文のうち本件漫画の内容に具体的に言及する部分は、「しかし成長しないね、絵も中身も」というわずか15文字の簡単かつ概括的な感想のみである(なお、本件投稿1に連続する本件投稿者による投稿も見当たらない。)。そうすると、ツイッターが短文投稿サイトであることを考慮しても、本件投稿1において、投稿画像1全体を画像として添付する必要性があったとはいい難い。また、投稿画像1は、キャラクターの顔部分(本件漫画全体の面積に占める割合は4分の1程度である。)にモザイク処理が施されているものの、それ以外の部分は、セリフ部分を含めて本件漫画の表現がほぼそのまま表示されている。しかも、本件投稿1の表示(甲1の1)において、投稿画像1は全体の8割程度を占める。このため、本件投稿1における引用部分(本文)と被引用部分(投稿画像1)の情報量等には、大きな差がある。
 これらの事情に鑑みると、本件投稿1における投稿画像1の引用は、引用の方法及び態様の点で、社会通念に照らし、公正な慣行に合致し、かつ、引用目的との関係で正当な範囲内で行われたものということはできない。
 したがって、本件投稿1による投稿画像1の引用は、適法な引用の要件を満たすものとはいえない。これに反する被告NTTコミュニケーションズの主張は採用できない。
6 小括
 以上より、本件投稿1の流通により原告の本件漫画に係る著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことは明らかと認められ、また、前記3記載のとおり、被告らは、いずれも「開示関係役務提供者」に該当するといえる。
 そうすると、その余の点について論ずるまでもなく、原告は、本件投稿1による本件漫画の著作権(複製権、公衆送信権)侵害について、被告らに対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。
第5 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 鈴木美智子
 裁判官 稲垣雄大


別紙 当事者目録
原告 A
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
同 吉永雅洋
同 遠藤大介
同 蓮池純
同 神田竜輔
被告 KDDI株式会社(以下「被告KDDI」という。)
同訴訟代理人弁護士 星川勇二
同 星川信行
同 渡部英人
同 佐野雄一
同 工藤慶太
被告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「被告NTTコミュニケーションズ」という。)
同訴訟代理人弁護士 松田真

別紙 発信者情報目録1
 別紙ログイン情報目録1「IPアドレス」欄記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から別紙投稿記事目録1「接続先IPアドレス」欄記載のIPアドレスに対して通信を行った電気通信回線を、別紙ログイン情報目録1「ログイン日時(日本時間)」欄記載の日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げる情報。
1 氏名又は名称
2 住所

別紙 発信者情報目録2
 別紙ログイン情報目録2「IPアドレス」欄記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から別紙投稿記事目録1「接続先IPアドレス」欄記載のIPアドレスに対して通信を行った電気通信回線を、別紙ログイン情報目録2「ログイン日時(日本時間)」欄記載の日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げる情報。
1 氏名又は名称
2 住所
3 メールアドレス

別紙ログイン情報目録1 省略
別紙ログイン情報目録2 省略
別紙投稿記事目録1〜3 省略
別紙著作物目録 省略
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