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【事件名】「ホンダ50年社史」事件(2)
【年月日】令和4年7月14日
 知財高裁 令和4年(ネ)第10004号 不当利得返還請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和2年(ワ)第2426号)
 (口頭弁論終結日 令和4年4月26日)

判決
控訴人 X
同訴訟代理人弁護士 横山康博
同 岩ア泰一
同 平村樹志雄
同 横山丈太郎
被控訴人 本田技研工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 前田哲男
同 中川達也
同 福田祐実


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、200万円及びこれに対する令和2年2月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、別紙原告著作物目録(原判決別紙1)記載の書籍(以下「原告書籍」という。)の著作者である控訴人が、被控訴人が「語り継ぎたいことチャレンジの50年」と題する被控訴人の社史(以下「被告社史」という。)を発行した行為が原告書籍の翻案(著作権法27条)に当たり、被控訴人はその許諾料相当額を法律上の原因なく利得した旨主張して、被控訴人に対し、不当利得返還請求権に基づき、200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年2月29日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、被告社史の266頁から273頁までの記述(以下「本件社史部分」という。)は原告書籍を翻案したものに該当しないから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求は理由がないとして、控訴人の請求を棄却した。
 控訴人は、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
2 前提事実
 原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。
3 争点
(1)本件社史部分の翻案該当性(争点1)
(2)被控訴人の不当利得の有無及び利得額(争点2)
4 争点に関する当事者の主張
 次のとおり当審における当事者の補充主張(争点1関係)を付加するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の4記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)当審における控訴人の補充主張(争点1関係)
 原告書籍は、ノンフィクション作品である。ノンフィクション作品は、@あらゆる種類の無限の事実の中から、A誰も知らなかったような事実を、B意図的な取材によって発掘し、Cその中から制作方針に基づいて選択して、D創作的に表現し、つなぎ合わせるという創作活動によって制作されるものであり、無限に存在する様々な事実の中から、制作意図にふさわしい物を見つけ出して、ストーリーを構成するのであるから、@からDまでの全てが一連の創作活動である。
 ノンフィクション作品においては、著作者が取材を通じて発掘した事実こそが重要であり、自らの制作意図にかなった事実をいかにして発掘し、発掘した事実から何を感じ取って、どういうストーリーを見つけ出すかが、ノンフィクション作家の真骨頂といえる。
 原告書籍についていえば、「NRプロジェクト」の内実は全く公表されておらず、いったいどのようなエンジンが開発されたのかさえ社内でもよく知られていなかったところ、そのベールが原告書籍によって一気に取り払われ、様々な驚くべきエピソードとともに語り明かされたことから、原告書籍は大きな反響をもって迎えられたのである。
 本件社史部分も、一種のノンフィクション作品であり、原告書籍と同じテーマを取り上げたもので、原告書籍と同じ事実やエピソードが次々に登場する。このように、原告書籍によって初めて世に知られた事実が次々と登場していることからすれば、本件社史部分は、原告書籍と「表現の本質的な特徴」が完全に一致する、原告書籍を翻案したものに該当するというべきである。
 これに対し、原判決は、原告書籍と本件社史部分とは、事実の面で共通しているだけであるから、本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらないと判断しているが、ノンフィクション作品の特徴や、その「創作性」についての理解が欠落したものであるから、誤りである。
(2)当審における被控訴人の補充主張(争点1関係)
 原判決が判示するとおり、原告書籍と本件社史部分との間の共通する部分は、単なる「事実」にすぎないのであって、「創作的な表現」の同一性は認められないから、本件社史部分は原告書籍を翻案したものに該当しない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件社史部分の翻案該当性)について
 原判決28頁2行目から5行目までを次のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」の第3の1記載のとおりであるから、これを引用する。
 「(3)前記(1)のとおり、本件社史部分が原告書籍を翻案したものに該当するというためには、原告書籍と本件社史部分とが、創作的表現において同一性を有することが必要であるものと解されるところ、前記(2)で検討したところによれば、原告書籍と本件社史部分とは、番号1ないし20の各記述において、事実、すなわち、表現それ自体でない部分において同一性が認められるにすぎないか、創作性が認められないありふれた表現において同一性が認められるにすぎず、創作的表現において同一性を有するものとは認められないから、被告社史中の本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらないというべきである。
(4)これに対し、控訴人は、当審において、@ノンフィクション作品では、著作者が取材を通じて発掘した事実こそが重要であり、自らの制作意図にかなった事実をいかにして発掘し、発掘した事実から何を感じ取って、どういうストーリーを見つけ出すかが、ノンフィクション作家の真骨頂であるところ、原告書籍はこれまで公表されていなかった「NRプロジェクト」の内実について明らかにしたものである、A本件社史部分は、原告書籍と同じテーマを取り上げたもので、原告書籍と同じ事実やエピソードが次々に登場していることからすれば、原告書籍と「表現の本質的な特徴」が完全に一致する、原告書籍を翻案したものに該当する旨主張する。
 控訴人の上記主張は、ノンフィクション作品においては、事実を見つけ出すこと及び見つけ出されたその事実が重要であって、原告書籍と本件社史部分とは事実において共通する点が複数みられることを理由に、本件社史部分は原告書籍を翻案したものに該当する旨を主張するものと解される。
 しかしながら、前記(1)のとおり、本件社史部分が原告書籍を翻案したものに該当するというためには、その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性が認められる必要があり、原告書籍と本件社史部分との間に事実において同一性が認められる部分が複数あるとしても、そのことによって両者が創作的表現において同一性を有することになるものではない。控訴人の上記主張は、ノンフィクション作品自体の特徴や本質についていうものにすぎず、その「具体的表現」における表現上の本質的な特徴について主張するものではないから失当である。
 そして、前記(3)のとおり、原告書籍と本件社史部分は、創作的表現において同一性を有するものとは認められないから、控訴人の上記主張は理由がない。」
2 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。
 したがって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 小川卓逸
 裁判官 遠山敦士


(別紙)原告著作物目録(原判決別紙1)
書名 「いつか勝てるホンダが二輪の世界チャンピオンに復帰した日」
著者 X’(控訴人のペンネーム)
発行所株式会社 徳間書店
初刷日 1988年10月31日
概要 四六版 316頁
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