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【事件名】調理器具の写真無断流用事件H
【年月日】令和4年6月23日
 東京地裁 令和3年(ワ)第21931号 損害賠償金請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年5月17日)

判決
原告 エス・アンド・ケー株式会社
被告 A
同訴訟代理人弁護士 梅山隆弘
同 大本康志


主文
1 被告は、原告に対し、5万円及びこれに対する令和3年4月15日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを20分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、113万3322円及びこれに対する令和3年4月15日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告がその運営するオンラインショップにおいて別紙画像目録1及び2記載の各画像を利用した行為につき、これらの画像に係る原告の著作権(複製権)が侵害されたと主張して、被告に対し、民法709条に基づき、損害賠償金113万3322円及び不法行為後の日である令和3年4月15日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、デンマーク製キッチン用品のブランド「SCANPAN」(スキャンパン)の日本国内の正規代理店であり、上記ブランドに含まれるフライパン(以下「本件商品」という。)を販売している。
イ 被告は、インターネット上のショッピングモール「Yahoo!ショッピング」において、「B」との商号及びストア名でオンラインストア(以下「被告ストア」という。)を運営している者である。
(2)被告ストアにおける本件画像の掲載
 被告は、令和3年1月1日に被告ストアを開設し、遅くとも同年2月17日頃〜同年3月29日頃にかけ、被告ストアにおいて、別紙画像目録2記載の商品に含まれる17種の商品の画像(以下、別紙画像目録2記載のいずれの商品かを問わず、「本件画像G」という。)をそれぞれ別紙画像目録1記載の画像Gとして別紙画像目録1記載の画像@〜Fの各画像(以下「本件画像@〜F」という。)と組み合わせ(以下、組み合わせた画像を一括して「本件画像」という。)、商品ごとにページを分けて、取扱商品の紹介画像として順次掲載した(甲18)。
(3)原告からの本件画像掲載停止等の申入れ等
 原告は、令和3年4月15日、被告に対し、原告が本件画像の著作権を有することを主張するととともに、本件画像の無断使用への対応を依頼する内容の通知をした(甲11)。
 これに対し、被告は、同月16日、被告ストアに掲載していた本件画像を同日に削除したことの報告等を内容とする回答をした(甲11)。
2 争点
(1)本件画像に係る原告の著作権の有無(争点1)
(2)本件画像の複製における被告の故意又は過失の有無(争点2)
(3)原告の損害額(争点3)
3 当事者の主張
(1)争点1(本件画像に係る原告の著作権の有無)
〔原告の主張〕
 原告は、令和元年9月頃、株式会社いつも(以下「いつも社」という。)に対し、本件商品を含む「SCANPAN」ブランドの商品を紹介及び販売するためのウェブサイト(以下「原告ウェブサイト」という。)の制作及びオンライン販売のマーケティング技術に関するコンサルティング業務を委託した(以下「本件委託契約」という。)。
 本件委託契約においては、同契約に基づきいつも社が新規に作成した成果物の著作権は検収完了時に同社から原告に譲渡されることとされている。
 いつも社は、令和2年3月30日、本件委託契約に基づき、原告に対し、本件画像を納品してその著作権を譲渡した。
 したがって、原告は、本件画像の著作権を有する。
〔被告の主張〕
 不知。
(2)争点2(本件画像の複製における被告の故意又は過失の有無)
〔原告の主張〕
 被告は、本件画像を自ら創作したものではなく、原告ウェブサイト又は原告が出店している電子商取引サイトから複製して被告ストアに掲載した。したがって、被告による原告の本件画像に係る複製権侵害は、故意により行われたものである。
 また、原告は、原告ウェブサイト及び原告が本件商品を販売するために出店している電子商取引サイトにおいて、それらに掲載されている全ての著作物の著作権が原告に帰属することを第三者に示す警告文(以下「本件警告文」という。)を掲示している。したがって、被告が、本件画像につき何人においても利用が許諾されている素材と誤信することはあり得ない。
〔被告の主張〕
 被告は、被告ストアを運営するに当たりコンサルタントのアドバイスを受けており、同コンサルタントから紹介されたツールを使用したところ、本件画像が掲載されるに至った。こうした経緯から、被告は、本件画像が他人の著作物であることを知らず、その利用が著作権侵害にあたるとは思わなかった。
 したがって、被告には、故意及び過失のいずれもない。
(3)争点3(原告の損害額)
〔原告の主張〕
ア 著作権法114条3項に基づく損害額
 原告は、いつも社に対し、本件画像等のデザイン制作業務を含む本件委託契約の対価としておよそ700万円を支払った。また、原告は、いつも社に対し、上記デザイン制作費用のみでなく、デザインのコンセプトに至るまでの相談料も支払う必要があった。このほか、本件商品の製造販売元から提供された製品説明の翻訳、広告画像を制作するに当たり用意したデータ、商品の写真撮影等のために支払った諸費用等やこれらに要した時間を考慮すると、本件画像を利用するに当たって原告が受けるべき金額は、1ページ当たり6万6666円を下らない。
 この額は、一般に公開されている画像レンタルサービスにおける利用料と対比しても、その画像を利用してデザイン制作をするのに要する時間や人件費を考えると妥当である。
 また、別紙画像目録2のとおり、原告は、本件商品の仕様ごとに、その外観を撮影した本件画像Gを複数枚用意している。被告は、被告ストアに出品する本件商品に合わせ、これらの本件画像Gの中から17種の画像を利用した。すなわち、被告は、本件画像を、1回だけではなく17回ダウンロードして利用した。そうである以上、その利用ごと、すなわち、本件画像の17回分の利用料相当額が原告に生じた損害である。
 したがって、被告の本件画像に係る原告の著作権(複製権)侵害行為により原告に生じた損害額は、著作権法114条3項に基づき、113万3322円(=6万6666円×17回)となる。
イ 売上減少に係る原告の損害
 仮に、著作権法114条3項に基づく原告の損害額が認められないとしても、原告は、令和3年1月1日〜同年6月30日の間、前年同期比で売上が26%減少したところ、この売上減少の原因は、被告による本件画像の無断利用のほかには存在しない。したがって、この売上減少額が原告の損害となる。
〔被告の主張〕
ア 著作権法114条3項に基づく損害額
 被告ストアに掲載した本件商品の売上は全くない。
 また、本件画像の著作権侵害による原告の損害発生に関する立証はない。1ページ当たり6万6666円の損害が生じたとする根拠は不明である。
イ 売上減少に係る原告の損害
 被告による本件画像の著作権侵害があったとしても、これと原告主張に係る売上減少との間の因果関係の立証はない。また、上記のとおり、被告ストア掲載に係る本件商品の売上は全くない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件画像に係る原告の著作権の有無)について
(1)証拠(甲4、13、16)及び弁論の全趣旨によれば、原告といつも社が令和元年9月頃に本件委託契約を締結したこと、本件委託契約は、ネット通販用広告画像等の制作を含むWebサイト関連業務サービス及び検索エンジン最適化サービスの提供をその内容とし、同サービスに基づきいつも社が新規に作成した成果物の著作権は検収完了時をもって同社から原告に譲渡されることが定められていたこと、いつも社は、令和2年3月30日頃、本件委託契約に基づいて本件画像を制作し、これを原告に納品したことがそれぞれ認められる。
(2)これらの事実によれば、本件委託契約に基づき、いつも社の原告に対する本件画像の納品により、本件画像に係るいつも社の著作権が原告に譲渡されたことが認められる。
 したがって、原告は、本件画像の著作権を有する。
2 争点2(本件画像の複製における被告の故意又は過失の有無)について
(1)前提事実(第2の1(2))のとおり、被告は、遅くとも令和3年2月17日頃〜同年3月29日頃にかけ、被告ストアにおいて、本件商品のうち17種の商品の画像(本件画像G)を本件画像@〜Fと組み合わせて本件画像とし、商品ごとにページを分けて、取扱商品の紹介画像として順次掲載した。
 そうすると、その際、被告は、各ページの制作にあたり本件画像を複製して利用したものと認められる。
(2)証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、インターネット上のショッピングモール「楽天市場」に「BONBONMAMA」のショップ名で出店し、本件商品を販売しているところ、原告ウェブサイトには、本件画像を含む各種画像の末尾に「Copyright(c)2020 BONBONMAMA.All Rights Reserved./エス・アンド・ケー株式会社により作成されたコンテンツ(画像、映像、デザイン、ロゴ、テキスト等)に関する権利は、/日本や外国の著作権法やその他の知的財産権法により保護されており、当社の許可なく使用はできません。/無断でこれを使用した場合には、これらの著作権法その他の知的財産権法に違反することとなり、当社に生じた損害の賠償を請求します。」(「/」は改行部分を示す。)との本件警告文が付されていることが認められる。
 他方、被告は、その主張を前提としても、コンサルタントから紹介されたツールを使用して本件画像を被告ストアに掲載したというのであり、それ以上に被告が本件画像の著作権の帰属等に関する調査等を実施したことをうかがわせる具体的な事情は認められない。
 被告は、自ら本件画像を制作した者ではなく、第三者から紹介されたツールを使用して本件画像を利用したに過ぎない以上、本件画像を複製して被告ストアに掲載するにあたっては、本件画像の著作権の帰属及び著作権者による利用許諾の有無等について調査確認すべき注意義務を負っていたといえる。にもかかわらず、上記のとおり、被告は、本件画像を漫然と被告ストアに掲載したにとどまり、本件画像の著作権の帰属等に関する調査等を怠った。原告が原告ウェブサイトに本件画像等と共に本件警告文を掲示していることに鑑みると、インターネット上の画像検索等の手段により本件画像の著作権が原告に帰属すること等は比較的容易に調査確認し得たとみられる。
 したがって、被告ストアへの本件画像の掲載に際して行われた被告による本件画像の複製行為について、被告には少なくとも過失があるといえる。これに反する被告の主張は採用できない。
3 争点3(原告の損害額)について
(1)前提事実のとおり、被告は、遅くとも令和3年2月17日頃〜同年3月29日頃にかけ、被告ストアにおいて、本件商品のうち17種の商品の画像(本件画像G)を本件画像@〜Fと組み合わせて本件画像とし、これを複製の上、商品ごとにページを分けて、取扱商品の紹介画像として順次掲載したが(前記第2の1(2))、原告から通知を受けた翌日の令和3年4月16日、同日に本件画像を削除した旨回答した(同(3))。その後、被告ストアにおいて本件画像の掲載が継続していたことを認めるに足りる証拠はない。
 このことから、被告による本件画像の利用期間は比較的短期間にとどまるものといえる。
 他方、被告は、被告ストアの各商品紹介ページに、17種の商品の紹介画像として本件画像を複製の上掲載したところ、その数は決して少なくない。もっとも、本件画像は、本件商品の特徴等を説明する本件画像@〜Fと、本件画像Gとして別紙画像目録2記載の各画像のいずれかとを組み合わせることにより、本件商品の各仕様の形状、内容等を表すものとして制作されたものであることがうかがわれる(前記1(1))。そうすると、本件画像を構成する本件画像@〜Fと本件画像Gとなり得る別紙画像目録2記載の各画像とは、その利用態様の把握にあたっては、特段の事情がない限り、全体として一体を成すものとして捉えるのが相当である。すなわち、著作権法114条3項に基づく損害額の算定に当たり、本件画像@〜Fと組み合わせられる本件画像Gの違いは、一体としてみられる本件画像の利用の一態様に過ぎず、利用料相当額の算定に直ちに反映されるべき事情とはいえない。
 これらの事情に加え、本件画像においては商品その他の画像等を利用して本件商品の特徴をわかりやすくする工夫が凝らされていること、他方で、原告は本件画像それ自体を商業的価値のあるものとして第三者に許諾する目的でいつも社に制作を依頼し、その著作権の譲渡を受けたものとは認められないことなどを総合的に考慮すると、本件における「その著作権…の行使につき受けるべき金銭の額」(著作権法114条3項)は5万円が相当というべきであり、同額が原告に生じた損害と認められる。
(2)これに対し、原告は、まず、被告が被告ストアにおいて販売していた17種の本件商品ごとに別紙画像目録2記載のいずれかの画像を組み合わせて利用していたことなどから、本件画像の1ページ当たりの損害額6万6666円に17を乗じて原告の損害を計算すべき旨を主張する。
 しかし、利用回数の点については上記のとおりである。
 また、原告指摘に係る毎日新聞社のPhotoBank(甲5)、朝日新聞フォトアーカイブ(甲6)及び株式会社アフロ(甲7)の各料金表は、レンタルや販売をその目的に含むものとして作成された画像素材を対象とするものとみられる。他方、上記のとおり、本件画像はそのような目的で作成されたものではない。こうした事情もあって、前者と後者では自ずとその市場価値も相違するとうかがわれる。これらに加え、上記各料金表記載の価格が前提とする利用条件等が必ずしも明らかではないことなどからすると、上記各料金表記載の価格は、本件画像の複製による原告の損害額算定にあたり、必ずしも参考とすべきものとはいえない。
 他方、原告は、原告の売上減少額を原告の損害としてみるべきである旨をも主張する。しかし、そもそも被告による本件画像の利用と相当因果関係の認められる原告の売上減少及びその額の立証はない。その点を措くとしても、被告による本件商品の販売実績を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、この点に関する原告の主張はいずれも採用できない。
4 小括
 以上より、原告は、被告による著作権(複製権)侵害の不法行為に基づき、被告に対し、5万円の損害賠償請求権及びこれに対する不法行為後の日である令和3年4月15日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金請求権を有する。
 なお、原告は、口頭弁論終結後に提出した準備書面において、被告により本件画像の送信可能化権が侵害されている旨の主張を追加しているが、これを考慮したとしても、上記で認めた損害賠償額は変わらないというべきである。
第4 結論
 よって、原告の請求は上記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 小口五大
 裁判官 鈴木美智子


(別紙画像目録1 省略)
(別紙画像目録2 省略)
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