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【事件名】マスクの写真無断流用事件
【年月日】令和4年6月23日
 大阪地裁 令和4年(ワ)第2064号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 令和4年5月30日)

判決
原告 MACENTERPRISE株式会社
同訴訟代理人弁護士 辻本希世士
同 辻本良知
同 松田さとみ
被告 株式会社都泉


主文
1 被告は、別紙写真目録記載1の1ないし1の4、2の1ないし2の6、3ないし5の写真を、自動公衆送信し、又は送信可能化してはならない。
2 被告は、別紙写真目録記載1の1ないし1の4、2の1ないし2の6、3ないし5の写真を、別紙URL目録記載1ないし7のウェブサイトから、抹消せよ。
3 被告は、商品名を「JN95」とする原告製造販売に係るマスクにつき、取引者及び需要者に対し、別紙信用毀損事実目録記載1ないし3の事実を告知又は流布してはならない。
4 被告は、被告の営業に係るウェブサイトその他の宣伝広告物から、別紙回答目録記載1及び2の表示を抹消せよ。
5 被告は、別紙信用回復措置目録記載1の謝罪文を、同目録記載2の条件により、別紙URL目録記載4のウェブサイトに掲載せよ。
6 被告は、原告に対し、92万8400円及びこれに対する令和4年3月26日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は、これを3分し、その2を原告の、その余を被告の負担とする。
9 この判決は、第6項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項ないし第4項と同旨
2 掲載期間を「1年以上」とするほか、主文第5項と同旨
3 被告は、原告に対し、1257万3000円及びこれに対する令和4年3月26日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、マスクの製造・販売等を行う株式会社である原告(以下、原告の製造販売に係るマスクを「原告マスク」という。)が、マスクの販売等を行う株式会社である被告に対し、次の各請求をする事案である。
1 被告が別紙写真目録記載の各写真(以下「被告各写真」といい、個別には同目録の番号に従い「被告写真1の1」などという。)を別紙URL目録記載の各ウェブサイト(以下「被告各サイト」といい、個別には同目録の番号に従い「被告サイト1」などという。)において掲載する行為が、原告の著作物である別紙原告写真目録記載の各写真(以下「原告各写真」といい、個別には同目録の番号に従い「原告写真1」などという。)に係る著作権(自動公衆送信権及び送信可能化権)を侵害するものであるとする、
(1)著作権法112条1項及び同条2項に基づく、被告各写真の自動公衆送信又は送信可能化の差止請求及び被告各サイトからの抹消請求
(2)不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求として著作権法114条3項による損害額143万円及び弁護士費用相当額14万3000円並びにこれらの合計額157万3000円に対する不法行為の後日(訴状送達の日の翌日)である令和4年3月26日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求(本項の各請求を総称して「本件請求1」という。)
2 被告が被告サイト4において、別紙信用毀損事実目録記載の各事実(以下、同目録の番号に従い「本件事実1」などという。)を告知又は流布した行為(以下、「本件告知行為」といい、個別には同目録記載の番号に従い「本件告知行為1」などという。)が、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号に該当する不正競争行為であることを前提とする、
(1)同法3条1項に基づく、原告マスクについて別紙信用毀損事実目録記載の各事実を告知又は流布する行為の差止請求
(2)同条2項に基づく、被告の営業に係るウェブサイトその他の宣伝広告物から別紙回答目録記載の各表示(以下「本件各回答表示」という。)の抹消請求
(3)同法14条に基づく、信用回復の措置として被告サイト4への別紙信用回復措置目録記載1の謝罪文の同目録記載2の条件(ただし、2(3)の掲載期間についてはこれを「1年以上」とするもの)による掲載請求(本項の各請求を総称して「本件請求2」という。)
3 前記1の著作権及び原告の原告各写真に係る著作者人格権(氏名表示権)侵害につき民法709条に基づく、並びに上記2の不正競争につき不競法4条に基づく、逸失利益及び無形損害として損害額1000万円及び弁護士費用相当額100万円並びにこれらの合計額1100万円に対する不法行為ないし不正競争行為の後日(訴状送達の日の翌日)である令和4年3月26日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求(本項の請求を「本件請求3」という。)
第3 請求原因
1 当事者等
 原告は、医療関係用品、日用雑貨等の製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。
 被告は、和服、洋服及び服飾雑貨の販売等を目的とする株式会社である。
2 本件請求1関係
(1)原告の著作権及び著作者人格権
 原告は、令和3年4月から8月にかけて、品名を「JN95」とするマスク(原告マスク)を着用させた別紙原告写真目録記載1ないし13の各写真(原告各写真)を撮影した。
 原告各写真は、いずれも原告マスクを着用した際にどのような見た目になるかがわかりやすいように、背景、アングル、説明等に工夫を凝らした点に独自性があり、創作性が認められる。
 原告は、原告各写真を創作した著作者として、原告各写真に係る著作権及び著作者人格権を有する。
(2)被告による侵害行為
 被告は、令和3年10月頃から、被告各サイトにおいて、原告マスクと、原告マスクと同一商品名の他社製造のマスク(以下「他社マスク」という。)を並列して販売している。
 被告は、原告が管理・運営するウェブサイト等から原告各写真のデータを取り込み、当該データの画像ファイルを被告各サイトのサーバーに複製して保存し、原告各写真に原告を著作者として表示することなく、別紙写真目録1ないし5記載の写真(被告各写真)の態様で、被告各サイトに掲載している。
 原告各写真と被告各写真の対応関係は、次のとおりである。
写真目録(被告各写真) 原告写真目録
1の1 10
1の2
1の3
1の4
2の1
2の2
2の3
2の4
2の5
2の6
11
12
13
 したがって、被告は、故意又は過失により、原告各写真に係る原告の自動公衆送信権及び送信可能化権(以下「原告著作権」という。)並びに氏名表示権(以下「原告著作者人格権」といい,これと原告著作権を総称して「原告著作権等」という。)を侵害した。
(3)損害の発生及び数額
ア 使用料相当損害額
 前記のとおり、原告は、被告の故意又は過失による原告著作権の侵害行為により、原告各写真に係る使用料相当額の損害を被った。
 協同組合日本写真家ユニオンが制定した「使用料規程」(以下「本件規程」という。)では、第1節「印刷」として、一般利用と商用広告利用に区別した写真1枚あたりの使用料が設定されている。被告は、原告マスク及び他社マスクを販売するために原告各写真を使用しており、被告各サイトはカタログに類することから、原告各写真の使用料相当額は、本件規程の「商用広告利用」のうち「カタログ類」に準じて設定される。また、被告各サイトの閲覧者は無数に存在するから、本件規程の「100万部超」の欄を参照にするべきである一方、サイズについては閲覧する媒体によるため特定することができない。
 以上を踏まえると、原告各写真の使用料相当額は、写真1点につき7万円〜11万円が基準となる。これに加え、侵害があったことを前提に交渉した場合には実施料率が自ずと高額になること、原告各写真が同一商品名の他社マスクを並列して販売する被告各サイトで使用されていること、及び7つある被告各サイトにおいて各2か所ずつ使用されていること等の事情を考慮すれば、原告各写真の使用料相当額は、写真1点につき10万円を下らず、消費税法基本通達5−2−5に鑑み加算される消費税相当額を考慮した使用料相当額は11万円を下らない。
 以上より、被告の原告著作権侵害行為により原告が被った使用料相当損害額は、少なくとも143万円(11万円×13点)である。
イ 弁護士費用
 前記アの143万円の10%に相当する14万3000円は、弁護士費用として、原告が被った損害に加算される。
(4)小括
 よって、原告は、被告に対し、本件請求1にかかる差止め及び損害賠償の支払を求める。
3 本件請求2関係
(1)競争関係
 前記のとおり、被告は、被告各サイトにおいて原告マスクと同一商品名の他社マスクを販売している。原告マスクと他社マスクは競合するため、被告は、原告の競合品を販売するという意味において、原告と競争関係にある。
(2)本件告知行為
 原告マスクと他社マスクは商品名が同一である上、形態のうち基本的構成態様が類似し、パッケージも酷似している。被告は、被告各サイトにおいて、原告マスクを「丸ゴム(刻印あり)」のタイプ、他社マスクを「平ゴム(刻印なし)」のタイプであると区別している。
 原告マスクの「JN95」との品名及びパッケージの外観は、遅くとも令和3年10月頃には需要者に周知されていたところ、被告は、同月頃から原告マスクと同一品名でパッケージも酷似する他社マスクの販売を並行して開始したため、原告マスクの需要者が、原告マスクと誤認して他社マスクを購入する事態が頻発した。
 他社マスクを原告マスクと誤認して購入した複数の需要者が、被告サイト4からリンクされているレビューページにおいて、原告マスクを購入したつもりであったのに、品質が極めて劣り、日本製とも思えない他社マスクが届いた旨を書き込んだところ、被告は、書き込みをした各需要者に対して本件各回答表示に係る回答を掲載した。
 これにより、被告は、原告マスクの取引者及び需要者に対し、本件事実1ないし3の事実を告知又は流布した(本件告知行為)。
(3)本件事実1ないし3がいずれも虚偽であること
ア 本件事実1関係
 原告が他社の商標権を侵害する事実はなく、他社からそのような主張を受けた事実もない。また、原告マスクが他社の意匠権を侵害する事実はない。原告は、原告マスクの製造販売行為につき、他社から意匠権侵害差止等請求訴訟を提起されたが、権利侵害が成立しない旨を反論したところ、当該他社は、同訴訟を取り下げた。この訴訟は、本件原告と本件被告がともに訴えられた立場にあり、本件被告は、当該訴訟の当事者として、原告マスクが他社の意匠権を侵害しないこと及び上記取下げの事実を十分に認識している。
 したがって、本件事実1は虚偽の事実である。
イ 本件事実2関係
 原告マスクが他社マスクと比較して品質において劣る事実はない。かえって、原告マスクの後継品であり、原告マスクとほぼ同一の品質を備える「J−95」がJIS規格に適合するのに対し、他社マスクは、別の製品に付与されていたJIS規格適合番号が他社マスクに付されたかのように掲載されており、実際にはJIS規格に適合するような品質を備えていない。
 したがって、本件事実2は虚偽の事実である。
ウ 本件事実3関係
 原告マスクは、KF94というマスクを模倣したものではなく、当該マスクとの関係において何らかの理由で違法になる事実はなく、本件事実3は虚偽の事実である。
(4)本件告知行為が原告の営業上の信用を害すること
 原告マスクの取引者及び需要者は、本件告知行為1により、原告マスクは他社の商標権及び意匠権の侵害品であり、そのことが原因で製造中止に追い込まれたと理解し、本件告知行為2により、原告マスクは他社マスクと比較して品質において劣ると理解し、本件告知行為3により、原告マスクはKF94というマスクを模倣した違法な模倣品であると理解する。
 よって、本件告知行為により、原告マスクの取引者及び需要者において、原告マスクは製造中止に追い込まれた粗悪で違法な模倣品であるとの誤解が生じ、これにより、原告の営業上の信用は著しく毀損された。
(5)原告の営業上の利益が侵害され又は侵害されるおそれがあること
 以上に記載のとおり、被告は、競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽事実を告知又は流布する不正競争行為(本件告知行為)に及び、本件告知行為により、原告は営業上の利益を侵害された。故意又は過失による本件告知行為により、原告マスクについて、製造中止に追い込まれた粗悪で違法な模倣品であると誤認する需要者が無数に存在するため、後記4の損害賠償を受けただけでは原告の損害は回復されない。
(6)小括
 よって、原告は、被告に対し、本件請求2に係る差止め、抹消、謝罪文の掲載を求める。
4 本件請求3
(1)逸失利益及び無形の損害
 被告は、被告各サイトにおいて、原告マスクと他社マスクを並列して販売しているところ、前記2のとおり、被告が被告各サイトにおいて原告各写真を使用し、かつ、原告各写真の著作者を原告であると表示しなかった結果、原告マスクの需要者が、原告マスクと誤認して他社マスクを購入する事態が頻発した。これにより、原告は、本来であれば原告マスクを購入するはずの需要を失い、その分の売上げを逸失した。
 また、前記3のとおり、被告は、原告マスクと誤認して他社マスクを購入した需要者等に対し、故意又は過失により本件告知行為に及び、原告の営業上の信用を著しく毀損した。本件告知行為に基づく告知の内容(本件各回答表示)は、原告マスク及び他社マスクの購入者であるか否かを問わず、無制限に公開されている状況にある。
 以上のような被告による原告著作権等の侵害及び不正競争(本件告知行為)により、原告は、原告マスクに係る大量の売上げを失うと共に、著しく信用を毀損された。原告に生じた損害(逸失利益及び信用毀損に基づく無形の損害)は極めて甚大であり、1000万円を下らない。
(2)弁護士費用
 上記の1000万円の10%に相当する100万円は、弁護士費用として、原告が被った損害に加算される。
(3)小括
 よって、原告は、被告に対し、本件請求3のとおり金銭の支払を求める。
第4 当裁判所の判断
1 被告は、公示送達以外の方法による適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないから、原告の主張する請求原因事実(前記第3)を自白したものとみなす。
2 本件請求1の(1)について
 前記1によると、原告が原告各写真を創作したこと、被告が、原告が管理・運営するウェブサイト等から原告各写真のデータを取り込み、当該データの画像ファイルを被告各サイトのサーバーに複製して保存し、別紙写真目録1ないし5記載の写真(被告各写真)の態様で、被告各サイトに掲載していることは争いがない。
 そうすると、被告は、原告著作権を侵害したものとして、被告に対し、著作権法112条1項に基づき、被告各写真の自動公衆送信及び送信可能化行為の差止め、同条2項に基づき、被告各サイトから被告各写真の抹消を命ずるのが相当である(主文第1項、第2項)。
3 本件請求2について
 前記1によると、原告と被告が競争関係にあることを基礎づける事実、被告が本件告知行為を行ったこと及び本件各回答表示が虚偽の事実であることは当事者間に争いがない。
 そして、本件事実1ないし3の内容は、原告マスクが他社の商標権等を侵害することを理由に製造中止となったこと、同一品名の他社マスクの方が抗菌作用が高く性能が良いこと,品名をKF94とする他社製造販売に係るマスクの模倣品であることをそれぞれいうものであり、原告が品質の劣るマスクを製造していたり、あるいは知的財産権侵害を行ったりするような会社であるとの印象を抱かせるものであって、原告の営業上の信用を害するものであるというべきである。
 したがって、被告は、故意又は過失により競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する不正競争行為(不競法2条1項21号)を行ったというべきであるから、同法3条1項、同条2項及び14条に基づき、被告に対し、本件告知行為の差止め、被告の営業に係るウェブサイトその他の宣伝広告物から本件各回答表示の抹消、及び主文掲記の範囲で信用回復措置を命ずるのが相当である(主文第3項〜第5項)が、原告マスクの商品としての性質等本件に現れた事情を考慮すると、これを超える信用回復措置までは必要がないものと認める。
4 本件請求1の(2)及び本件請求3の損害賠償請求
(1)使用料相当損害額(本件請求1の(2))
ア 著作権法114条3項による損害額
 前記争いのない事実、証拠(甲2,3,5)及び弁論の全趣旨によれば、原告各写真は、原告マスクを販売する原告の管理・運営に係るウェブサイト等で使用され、被写体が原告マスクを着用し、原告マスクの形状、色、着用状態等が視覚的に認識しやすいものとなっていること、うち一部は、写真上に原告マスクの特徴に係る説明文が付されるなどしたものであること、被告は、令和3年10月頃から、原告各写真を複製等した被告各写真を、被告各サイトにおいて各2か所ずつ使用していること、原告マスク及び原告マスクと商品名が同一で、基本的形態が類似し、パッケージが酷似する他社マスクを並列して販売していることの各事実が認められる。
 このような原告各写真の表現としての性質及び内容、用途、商品の性質、被告における被告各写真の使用態様、使用期間その他の事情を踏まえると、原告に生じた著作権法114条3項に基づく損害は、原告写真1ないし12については1点当たり3000円、原告写真13については4000円を相当と認める。
イ 原告の主張について
 原告は、本件規程(甲14)の「第1節印刷」の「商用広告利用」のうち、「100万部超」の「カタログ類」に掲載された使用料等を基準として、原告各写真1点につきに使用料相当額が10万円を下らない旨主張する。
 しかし、本件規程は、協同組合日本写真家ユニオンがその管理の委託を受けた写真の著作物の利用にかかわる使用料を定めることを目的に作成されたものであり、原告各写真が本件規程の適用を受ける著作物であるとの的確な主張立証はないから、原告各写真の自動公衆送信及び送信可能化に係る著作権法114条3項所定の損害額を本件規程により算定すべきとはいえない。
 他にアを超える損害を認めるべき事情についての主張立証はなく、この点についての原告の主張は理由がない。
ウ まとめ
 以上によれば、原告各写真の自動公衆送信及び送信可能化につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は、合計4万円(3000円×12点+4000円×1点)に、消費税相当額を加算した合計4万4000円が相当であり、その限度で原告の主張は理由があるが、その余は理由がない。
(2)逸失利益及び信用毀損による無形損害の額
ア この点にかかる原告の請求の根拠は必ずしも判然としないが、@著作権侵害によって生じた原告マスクの販売数量の減少に係る損害、A原告各写真の著作者人格権侵害に係る損害、B本件告知行為による信用棄損行為に基づく無形損害を合計すると、原告に1000万円の損害が生じたと主張するものと解される。
イ この点、@の著作権侵害による原告マスクの販売の減少に係る損害については、当事者間に争いのない事実の範囲においてこれを観念することは困難であるところ、上記(1)の使用料相当損害額を超える損害が生じたことを裏付ける的確な立証はないから、これを認めることは困難である。
 また、Aについて、被告は、各サイトにおいて原告を著作者として表示することなく被告各写真を掲載したものであって、被告が原告著作者人格権を侵害したものと認められるものの、当該侵害に基づく損害については、原告各写真が専ら原告マスクの販売促進のために創作されたものであることなどからすると、前記(1)の使用料相当の損害を超えて多額になることは想定し難く、Bにいう無形損害に包摂して評価することが相当である。
ウ 本件告知行為によって告知された本件事実1ないし3の内容は相応に原告の信用を害する悪質なものであり、また、告知の態様は、不特定多数の者が自由に閲覧できる態様であって、本件告知行為の影響が原告マスクの潜在的需要者等にも及び得るものであることはいえる。もっとも、本件告知行為は、多くの購入者のうちのーレビューに対する応答という形で行われたものであって、例えばウェブサイトの冒頭に掲示された場合などと比較すると影響は限定的であるともいえる上、原告は、本訴提起時までに原告マスクとは型番の異なる後継品を販売しているなどの事情も認められることからすると、Bにいう無形損害に、Aの著作者人格権損害に基づく損害を考慮しても、その損害額は80万円と認めるのが相当であり、これを超える損害が生じたとの原告の主張は、理由がないものと判断する。
(3)弁護士費用相当の損害
 原告は、被告による原告著作権等侵害行為及び本件告知行為に対応するため、本件訴訟提起を余儀なくされたところ、被告の各行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、それぞれ4400円及び8万円を認めるのが相当である。
(4)小括
 以上によれば、原告の請求は、被告に対し上記(1)〜(3)の損害賠償金合計92万8400円及びこれに対する不法行為ないし不正競争行為の後日(訴状送達日の翌日)である令和4年3月26日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない(主文第6項)。
第5 結論
 以上の次第で、原告の請求は主文掲記の限度で理由があるからその範囲で認容することとし,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 松阿彌隆
 裁判官 杉浦一輝
 裁判官 布目真利子


別紙 写真目録につき省略

別紙 URL目録につき省略

別紙 信用毀損事実目録
1 商標ないし形態が原因で訴訟提起されたことによって製造中止になった旨
2 同一品名の他社製造販売に係るマスクの方がキメの細かい不織布を使っていることから抗菌作用が高く性能がよい旨
3 品名をKF94とする他社製造販売に係るマスクのコピー品である旨
 以上

別紙 回答目録
1 以下の内容を含む表示
 以前購入いただいた丸ゴムタイプの商品は、商標登録、形状で裁判で訴えられておりまして製造中止となりました。在庫のみで販売終了です。
 今回購入いただいた平ゴムのタイプが正規品になります。
 刻印がないのが、現在のjnjn95です。
 不織布の生地もキメの細かい糸のものを使おおりますので、抗菌作用は、以前購入いただいた丸ゴムより性能は、高いです。
2 以下の内容を含む表示
 jn95は、もともとkf94のコピー品で日本製というだけです。丸ゴム刻印ありタイプは、現在、法廷で商標、形状で訴えられてお生産ができなくなりましたので、在庫限りです。
 以上

別紙 信用回復措置目録
1 謝罪文
 当社は、本サイト上に、MACENTERPRISE株式会社の製造販売に係るマスク(品名「JN95」)が、商標ないし形態が原因で訴訟提起されたことによって製造中止になった旨、同一品名のマスクの方がキメの細かい不織布を使っていることから抗菌作用が高く性能がよい旨及び品名をKF94とするマスクのコピー品である旨を、記載しました。
 しかしながら、これらの事実はいずれも虚偽ですので、撤回します。
 今後、かかる行為を行わないことを誓約し、MACENTERPRISE株式会社に対し、お詫び申し上げます。
2 条件
(1)掲載場所
 別紙被告URL目録4記載のウェブサイトのトップページ全体を3等分し、そのうち上から2番目のスペース全体
(2)掲載方法
 表題(謝罪文)については、14ポイント以上のゴシック体
 その他については、12ポイント以上の明朝体
(3)掲載期間
 掲載開始の日から起算して1年間
 以上

別紙 原告写真目録につき省略
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日本ユニ著作権センター
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