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【事件名】GMOインターネットへの発信者情報開示請求事件E
【年月日】令和4年6月10日
 東京地裁 令和3年(ワ)第15535号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年4月22日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 川上大雅
同 矢嶋史音
被告 GMOインターネット株式会社
同訴訟代理人弁護士 川﨑友紀
同 八木優大
同 松井将征


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録2記載の発信者情報を開示せよ。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録1記載の発信者情報を開示せよ。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、電気通信事業等を目的とする被告に対し、氏名不詳者らは別紙ウェブページ目録記載B1、B2、C1、C2、D1、D2、E、H及びI記載の各URLで特定されるウェブページ(以下「本件ウェブページB1」、「本件ウェブページB2」などといい、これらを併せて「本件各ウェブページ」という。)に別紙写真目録記載1及び2の各写真(以下「原告写真1」、「原告写真2」といい、これらを併せて「原告各写真」という。)に基づいて作成した写真画像を掲載し、これにより原告各写真に係る原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)が侵害されたことが明らかであり、上記氏名不詳者らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権等の行使のため、被告が保有する別紙発信者情報目録1記載の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、プロのカメラマンであり、撮影した写真の販売等を行う者である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、電気通信事業等を目的とする会社である。
(2)原告各写真
 原告は、平成22年12月13日に原告写真1を、同年3月18日に原告写真2を、それぞれ撮影した(甲1、2)。
 原告各写真は、「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)に該当する。
(3)本件各ウェブページ
ア 氏名不詳者は、本件ウェブページB1に、原告写真1に基づいて作成された写真画像を掲載した(甲4)。
イ 氏名不詳者は、本件ウェブページB2に、原告写真1に基づいて作成された写真画像を掲載した(甲4)。
ウ 氏名不詳者は、本件ウェブページC1に、原告写真2に基づいて作成された写真画像を掲載した(甲5)。
エ 氏名不詳者は、本件ウェブページC2に、原告写真2に基づいて作成された写真画像を掲載した(甲5)。
オ 氏名不詳者は、本件ウェブページD1に、原告写真1に基づいて作成された写真画像を掲載した(甲6)。
カ 氏名不詳者は、本件ウェブページD2に、原告写真1に基づいて作成された写真画像を掲載した(甲6)。
キ 氏名不詳者は、本件ウェブページEに、原告写真1に基づいて作成された写真画像を掲載した(甲9)。
ク 氏名不詳者は、本件ウェブページHに、原告写真1に基づいて作成された写真画像を掲載した(甲12)。
ケ 氏名不詳者は、本件ウェブページIに、原告写真1に基づいて作成された写真画像を掲載した(甲13)。
(4)開示関係役務提供者
 被告は、本件ウェブページC1及びC2についての「開示関係役務提供者」(プロバイダ責任制限法4条1項)であり、これらのウェブページを開設する者に関する情報(別紙発信者情報目録2記載の発信者情報)を保有している。
(5)ウェブページ閲覧の手順等
ア インターネットの利用者がURLで特定されるウェブページを閲覧する手順は、次のとおりである(乙9、11、弁論の全趣旨)。
 まず、利用者の利用端末から、同利用者の契約するインターネットサービスプロバイダが提供するキャッシュDNS(ドメインネームシステム)サーバー(利用者の端末に代わり一連のIPアドレスの問合せを行うサーバー)にアクセスし、上記URLに含まれるドメイン名のIPアドレスを問い合わせる。
 上記キャッシュDNSサーバーは、各種DNSサーバーに順次問合せを行い、最終的に該当するDNSサーバーから上記ドメイン名に紐付けられたIPアドレスの情報を得て、これを上記利用端末に回答する(ドメイン名に対応するIPアドレスを見つけることを「名前解決」という。)。
 その後、上記利用端末は、上記IPアドレスにより、上記ウェブページのデータが保存されるホスティングサーバーにアクセスして、同ウェブページのデータを送信するよう要求し、同ホスティングサーバーは、同利用端末に対して同データを送信する。
 これにより、上記利用者は、上記利用端末が受信した上記データをモニターに表示することにより、上記URLで特定されるウェブページを閲覧することができる。
イ 前記アのドメイン名とは、レジストリ(「.jp」、「.cоm」等のトップレベルドメインごとに存在する登録管理組織)によって管理される文字列である。ドメイン名を登録するためには、レジストラ(レジストリから認定を受けて契約を締結した事業者)又はリセラー(レジストラと契約を締結し、レジストラを介してドメイン名の登録サービスを提供する事業者。以下、レジストラと併せて「レジストラ等」という。)を介して、ドメイン名の登録に関する申請を行う必要がある。(乙8、弁論の全趣旨)
ウ 前記アのIPアドレスとは、ウェブページのデータが保存されたホスティングサーバー等のネットワークに接続された機器を識別するための番号であり、DNSサーバーは、ドメイン名とIPアドレスとの紐付け情報を提供するものである。これらのドメイン名とIPアドレスを紐付けるためには、ドメイン名を取得した者が、ホスティングサーバー等にドメイン名を追加し、ドメイン名にDNSサーバーに関する情報を入力する必要がある。(乙12ないし17、弁論の全趣旨)
3 争点
(1)開示関係役務提供者該当性(争点1)
(2)権利侵害の明白性(争点2)
(3)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(開示関係役務提供者該当性)について
(原告の主張)
ア 総務省の解説において、「特定電気通信役務提供者」とは「特定電気通信設備を用いて電気通信役務を提供する者」と定義されており、特段、レジストラ等やDNSサーバー管理者は排除されていない。また、同解説では、「本法律においては」「特定電気通信設備を用いて電気通信役務を提供しているすべての者を対象者とすること」と説明されている。
 確かに、レジストラ等やDNSサーバーは、ドメイン名の登録に関する役割を担うにすぎないものや、名前解決によってドメイン名とIPアドレスとの紐付け情報を提供するにすぎないものであり、ホスティングサーバーにアクセスするために利用されてはいるものの、不可欠な存在ではない。
 しかし、ドメイン名を取得すること及び名前解決によりホスティングサーバーにアクセスしてコンテンツ情報の送受信を行うことがいずれも通常の通信形態である以上、名前解決のための通信とコンテンツ情報の送受信のための通信が別個のものであり、それらが必ず同時に行われるものではないとしても、「他人の通信を媒介」(プロバイダ責任制限法2条3号)したといえる。
 また、コンテンツプロバイダが投稿者の情報を必ず保有しているとは限らない上、本件各ウェブページが簡易な登録で作成することができるウェブサイト内のものであることからすると、その登録時に、投稿者の情報は厳格には要求されず、コンテンツプロバイダが同情報を保有していない可能性が高い。さらに、経由プロバイダが保有する投稿者を特定するために必要なアクセスログは、通常、3か月から半年ほどで消去されてしまうため、これらの期間を経過すると権利の救済を図ることができない。このようなことからすると、レジストラ等やDNSサーバー管理者に対する発信者情報開示請求を認める必要性は高い。
 以上によれば、レジストラ等やDNSサーバー管理者も、「開示関係役務提供者」に該当するというべきである。
イ 被告は、本件各ウェブページについてのホスティングサーバー管理者、レジストラ等又はDNSサーバー管理者であるから、「開示関係役務提供者」に該当する。
(被告の主張)
ア ウェブサイトの閲覧を含むインターネットサービスは、リクエストとレスポンスの連続によって成立する。そして、「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)とされるところ、不特定多数のクライアント(例えば、ウェブサイトの閲覧者)サイドによって受信されることを目的とするサーバー(リクエストに対していつでもレスポンスを返すように設定されたコンピューター)サイドのレスポンスが「特定電気通信」に該当するから、「特定電気通信設備」(同条2号)とは、レスポンスの用に供されるホスティングサーバーを、「特定電気通信役務提供者」(同条3号)とは、ホスティングサーバーを顧客に提供しているレンタルサーバー事業者を、それぞれ意味することは明らかである。
 これに対し、レジストラ等は、ドメイン名の登録に係る業務を行う事業者であり、「特定電気通信」に関与するものではないから、「特定電気通信役務提供者」に該当すると解する余地はない。
 また、DNSサーバーは、名前解決の一部として、登録されているレコード(ドメイン名とそれに対応するIPアドレス)を回答するだけであり、侵害情報のコンテンツ通信(ウェブページのデータを送受信すること)をするものではないし、発信者によるホスティングサーバーへの侵害情報の送信を媒介するものでもないから、DNSサーバー管理者も「特定電気通信役務提供者」に該当しない。
 イ 被告は、本件ウェブページC1及びC2については、ホスティングサーバー管理者であるから「開示関係役務提供者」に該当するが、本件ウェブページB1、B2、D1、D2、E、H及びIについては、ホスティングサーバー管理者でもDNSサーバー管理者でもなく、レジストラ等にすぎないから、「開示関係役務提供者」に該当しない。
(2)争点2(権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
 他人の著作物を利用するためには、その著作権者の許諾を得ることが必要であり、他人の著作物を利用する者は、当該著作物に係る著作権の帰属等を調査し、確認する義務を負うところ、氏名不詳者らは、これを怠り、本件各ウェブページに漫然と原告各写真に基づいて作成した画像を掲載した。
 したがって、氏名不詳者らによる上記行為が原告各写真に係る原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害することは明白である。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
(3)争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由)について
(原告の主張)
 原告は、本件各ウェブページに原告各写真を掲載した氏名不詳者らに対して不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であるが、この権利を行使するためには、被告が保有する別紙発信者情報目録1記載の発信者情報の開示を受ける必要がある。
(被告の主張)
 原告が氏名不詳者らに対して不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であることは不知。
 また、原告は、本件ウェブページB1、B2、D1、D2、E、H及びIについてのホスティングサーバーの管理者に対して発信者情報の開示を請求すればよいから、被告がこれを開示する必要はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(開示関係役務提供者該当性)について
(1)本件ウェブページC1及びC2について
 前記前提事実(4)のとおり、被告は、本件ウェブページC1及びC2についての「開示関係役務提供者」に該当する。
(2)本件ウェブページB1、B2、D1、D2、E、H及びIについて
ア レジストラ等であることに基づく開示関係役務提供者該当性
(ア)証拠(甲4、6、8、9、12、13)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件ウェブページB1、B2、D1、D2、E、H及びIについてのレジストラ等であると認められる。
 しかし、前記前提事実(5)のとおり、レジストラ等は、レジストリに対してドメイン名の登録に関する申請をする仲介を行うにすぎず、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信の用に供される電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する者でも、その他このような電気通信設備を他人の通信の用に供する者でもないから、「特定電気通信役務提供者」に該当しない。
 したがって、被告が本件ウェブページB1、B2、D1、D2、E、H及びIについての「開示関係役務提供者」に該当するとは認められない。
(イ)これに対して、原告は、①レジストラ等を利用することによってドメイン名を取得し、名前解決によりホスティングサーバーにアクセスしてコンテンツ情報の送受信を行うのが通常であることからすると、「他人の通信を媒介」(プロバイダ責任制限法2条3号)したというべきである、②コンテンツプロバイダや経由プロバイダに対して発信者情報開示請求をしても、権利の救済を図ることができず、レジストラ等に対する開示請求を認める必要性があると主張する。
 しかし、前記前提事実(5)のとおり、レジストラ等は、レジストリに対してドメイン名の登録に関する申請をする仲介を行うにすぎない者であるから、「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し」ておらず、「特定電気通信設備を他人の通信の用に供」していないことは明らかである。また、コンテンツプロバイダ等に対する発信者情報開示請求が奏功しない可能性があるとしても、これをもって、レジストラ等が「特定電気通信役務提供者」に該当すると解するのは困難である。
 したがって、原告の上記各主張はいずれも採用することができない。
イ その他の理由に基づく開示関係役務提供者該当性
 被告が、本件ウェブページB1、B2、D1、D2、E及びIについてのホスティングサーバー管理者又はDNSサーバー管理者であることを認めるに足りる証拠はなく、他に、被告がこれらのウェブページについての「開示関係役務提供者」であることを認めるに足りる証拠もない。
 また、本件ウェブページHのホスティングサーバー管理者について、管理者検索結果画面(甲17の2)の「Hostingcompany」欄に被告の名称が記載されているものの、「NetblockOwner」欄にはGMOペパボ株式会社の名称が記載されており、被告がホスティングサーバー管理者であることを認める本件ウェブページC1の管理者検索結果画面(甲17の1)の「NetblockOwner」欄には被告の名称が記載されていることからすると、上記管理者検索結果画面(甲17の2)の記載をもって被告が本件ウェブページHのホスティングサーバー管理者であると認めることはできない。そして、他に、被告が本件ウェブページHについての「開示関係役務提供者」であることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告が、本件ウェブページB1、B2、D1、D2、E、H及びIについての「開示関係役務提供者」であるとは認められない。
2 争点2(権利侵害の明白性)について
 前記前提事実(2)によれば、原告は原告写真2に係る著作権を有するところ、同(3)ウ及びエのとおり、氏名不詳者らは、本件ウェブページC1及びC2に原告が著作権を有する原告写真2に基づいて作成された写真画像を掲載したものであり、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、上記氏名不詳者らは、不特定又は多数の者によって本件ウェブページC1及びC2に掲載された上記写真画像が閲覧されることを目的として電気通信の送信を行ったと認められる。
 そして、上記の行為について、違法性阻却事由は存在しないと認められる。
 したがって、少なくとも原告写真2に係る原告の公衆送信権が侵害されたことは明らかである(プロバイダ責任制限法4条1項1号)。
3 争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件ウェブページC1及びC2に原告写真2を掲載した氏名不詳者らに対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であり、そのためには、被告が保有する別紙発信者情報目録2記載の発信者情報の開示を受ける必要があると認められる。
 したがって、原告には、上記発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある(プロバイダ責任制限法4条1項2号)。
第4 結論
 したがって、原告の請求のうち、本件ウェブページC1及びC2に係る発信者情報の開示を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 バヒスバラン薫


(別紙)発信者情報目録1
1 別紙ウェブページ目録記載の各ウェブページにおける本件各写真(これを加工したものを含む。)に係る情報の発信者らの氏名又は名称
2 前項の発信者らの住所
3 第1項の発信者らの電子メールアドレス
 以上

(別紙)発信者情報目録2
1 別紙ウェブページ目録記載C1及びC2の各ウェブページに係る情報の発信者の氏名又は名称
2 前項の発信者の住所
3 第1項の発信者の電子メールアドレス
 以上

(別紙)ウェブページ目録
A (欠番)
B サイト名:ぐら速声優まとめブログ
B1 (URLは省略)
B2 (URLは省略)
C サイト名:LiveforToday(現在は「ホットにゅうす」)
C1 (URLは省略)
C2 (URLは省略)
D サイト名:ノンジャンル情報マガジン(現在は「トレンドライフ」)
D1 (URLは省略)
D2 (URLは省略)
E サイト名:beeくろ.こむ(現在は閉鎖)(URLは省略)
F (欠番)
G (欠番)
H サイト名:オトコイ(現在は閉鎖)(URLは省略)
I サイト名:NEWSまとめもりー(URLは省略)
J (欠番)
 以上

(別紙)写真目録
1 (省略)
2 (省略)
 以上
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