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【事件名】GMOインターネットへの発信者情報開示請求事件G
【年月日】令和4年5月31日
 東京地裁 令和3年(ワ)第27393号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年3月14日)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、アダルトDVD等の制作を行っている原告が、氏名不詳者によって原告の著作物であるアダルト動画の電子データをファイル交換共有ソフトウェアにアップロードされ、これによって同動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると主張して、インターネット接続サービスのアクセスプロバイダである被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する上記氏名不詳者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの開示を求める事案である。
2 前提事実(証拠等の掲示のない事実は、当事者間に争いがない。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む。)
(1)当事者
 原告は、映画・ビデオの映像制作、編集業務、販売等を目的とする株式会社であり、「MOODYZ(ムーディーズ)」等のメーカー名でアダルトDVD等の制作を行っている。(甲2、弁論の全趣旨)
 被告は、インターネットの接続に関する業務等を目的とする株式会社であり、一般利用者に向けて広くインターネット接続サービスを提供しているアクセスプロバイダである。
(2)本件作品
 別紙著作物目録記載の映像作品(以下「本件作品」という。)は、原告が製作を企画し、有限会社Aの取締役であるbことBが同企画に基づいて脚本を創作して映像を編集するなどして製作し、原告が製作費用を負担して平成29年9月1日にDVD等を発売したアダルト動画であり、そのパッケージには「制作・著作・販売/ムーディーズ」と記載されている。(甲1、6〜9)。
 これによれば、本件作品は映画の著作物に当たり、原告はその映画制作者に当たるところ、その著作者である上記Bは、原告に対して本件作品の著作物の製作に参加することを約束していたといえ、本件作品の著作権は原告に帰属している。
(3)ビットトレント
 ビットトレント互換ソフトウェア(以下「ビットトレント」という。)は、インターネットでビットトレントネットワークに参加している各コンピュータがサーバを介さずに直接ファイルを交換する、いわゆるP2P(PeertoPeer)型ファイル交換ソフトウェアである。ビットトレントを利用して特定のファイルをダウンロードしようとする者は、WEBサーバ等からトレントファイルを取得してビットトレントネットワークに参加し同ネットワークに参加している各コンピュータ(ピア)の情報を管理しているサーバ(トラッカー)から他のピアのIPアドレスやポート番号等を取得して、目的のファイルの情報を保有している他のピアと接続して同ファイルの情報を送信するよう要求し、これを受けた同ピアから自動的に同ファイルの情報が送信されることで、同ファイルの情報をダウンロードすることができる。(甲3、10、弁論の全趣旨)
(4)本件調査結果
 原告は、本件訴訟の提起に先立ち、株式会社C(以下「本件調査会社」という。)に対し、ビットトレント上で本件作品のアップロード等を行っている者の特定等を依頼した。同社の従業員は、著作権侵害検出システムソフトウェアであるトレントモニタリングシステム(以下「本件ソフトウェア」という。)を用いて調査を実施し、原告に対し、氏名不詳者が別紙発信情報目録記載の各発信日時に同目録記載の各IPアドレス及び各ポート番号を利用して本件作品をビットトレントにアップロードしたという調査結果(以下「本件調査結果」という。)を報告した。(甲10)
(5)本件発信者情報の保有等
 被告は、別紙発信情報目録記載の各発信日時に、被告の顧客に対して同目録記載の各IPアドレス及び各ポート番号を割り当ててインターネット接続サービスを提供しており、同顧客の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス(以下「本件発信者情報」という。)を保有している(以下、上記発信日時に上記各IPアドレス及び上記各ポート番号の割当を受けていた被告の顧客を「本件利用者」という。)。
3 主たる争点
 本件の主たる争点は、本件利用者が本件作品をビットトレントにアップロードしたか(本件利用者により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)であり、これに関する当事者の主張は次のとおりである。
【原告の主張】
 本件利用者は、別紙発信情報目録記載の各発信日時に、本件作品をビットトレントにアップロードして、ビットトレントを使用した者が本件作品をダウンロードできる状態にした。
 原告は、本件調査結果でこの事実を確認した。本件調査結果で使用した本件ソフトウェアは、ビットトレントを通じてダウンロードされたファイル及びダウンロード時の情報を自動的にデータベースに記録するものであるところ、その正確性は、本件調査会社が実施した同一性確認試験で確認済みであり、本件ソフトウェアが正確であることを前提として原告の同種請求を認容した裁判例も存在する。
【被告の主張】
 本件利用者が本件作品をアップロードしたことは否認し、原告の主張は争う。本件調査会社による同一性確認試験の信頼性は不明である。また、原告が指摘する裁判例は本件ソフトウェアの正確性について判断したものではない。よって、これらの事実は、本件ソフトウェアが正確であることの根拠となるものではない。電気通信事業者としての責任や誤った情報が開示されてしまった場合における損害の不可逆性に鑑みれば、ビットトレントを利用したユーザのIPアドレス等は、一般社団法人テレコムサービス協会が信頼性を確認した検知システムによって特定されるべきであり、本件利用者が本件作品をアップロードしたことは立証されていないというべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点について
 前記前提事実によれば、ビットトレントは、ビットトレントネットワークに参加している各コンピュータのIPアドレス、ポート番号、電子ファイルの保有状況等を公開する仕組みを有していることが認められる。そして、本件調査結果は、本件利用者が別紙発信情報目録記載の各発信日時に被告の提供するインターネット接続サービスを利用して本件作品をビットトレントにアップロードしたことを示すものであるところ、証拠(甲10、11)によれば、本件調査結果は、本件調査会社が本件ソフトウェアを用いて本件作品を監視の対象としてビットトレントネットワーク上の監視を行い、その監視期間中に本件作品のアップロードを行ったコンピュータのIPアドレス、ポート番号、タイムスタンプ等をデータベースに自動的に記録した結果に基づくものであること、本件調査会社が平成31年3月22日に実施した本件ソフトウェアの同一性確認試験において、ビットトレントネットワークを利用したファイル交換ソフトを利用して試験用ファイルの交換を行った15個のコンピュータのIPアドレスと、本件ソフトウェアによって同ファイルの交換を行ったと検知された15個のIPアドレスが完全に一致したこと、及び本件ソフトウェアは一般的な時刻同期プログラムである公開NTP(ネットワークタイムプロトコル)サーバと同期しており、内部時計を正確に保っていることがそれぞれ認められ、本件調査結果の信頼性に疑問を抱かせる具体的な事情も見当たらず、本件調査結果は信頼できるものというべきである。そのため、本件利用者が、本件作品の複製物である電子データを自己の端末にダウンロードした上、同端末をビットトレントネットワークに接続させて、他のピアから要求があれば、被告の提供するインターネット接続サービスを通じて自動的に同電子データを送信し得るようにしていたと認めることができる。
 したがって、本件利用者によって本件作品に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかであると認められる。
 これに対し、被告は、本件調査会社による同一性確認試験の信頼性は不明であるなどと主張するが、同試験や本件調査結果の信頼性について、客観的に疑問を抱かせるような事情を具体的に認めるに足りる証拠はなく、採用できない。
2 これに加えて、前記前提事実のとおり、被告は、本件利用者に対し、別紙発信情報目録記載の各発信日時に各IPアドレス及び各ポート番号を割り当ててインターネット接続サービスを提供していた者であるから、プロバイダ責任法4条1項の開示関係役務提供者に該当すると認められる。また、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件利用者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することを予定しており、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有していると認められる。
3 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。なお、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととする。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判官 鈴木美智子
 裁判官 稲垣雄大
 裁判長裁判官 田中孝一は、転補につき、署名押印することができない。
裁判官 鈴木美智子


別紙 当事者目録
原告 株式会社WILL
同訴訟代理人弁護士 戸田泉
同 角地山宗行
同 籠屋恵嗣
被告 GMOインターネット株式会社
同訴訟代理人弁護士 川ア友紀
同 八木優大
同 松井将征

別紙 発信者情報目録
 別紙発信情報目録記載の各IPアドレスを,同目録記載の各発信日時頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。
@氏名又は名称
A住所
B電子メールアドレス

(別紙発信情報目録 省略)
(別紙著作物目録 省略)
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日本ユニ著作権センター
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