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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件J 【年月日】令和4年5月31日 東京地裁 令和3年(ワ)第4081号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年4月14日) 判決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、原告が、原告の著作物である写真の複製画像を添付した記事及び新聞の複製画像を添付した記事がインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」に投稿され、それらによって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると主張して、ツイッターを運営する被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、上記写真の複製画像を添付した記事を投稿した氏名不詳者に係る電話番号及び上記新聞の複製画像を添付した記事を投稿した氏名不詳者に係る電子メールアドレスの開示をそれぞれ求める事案である。 2 前提事実(証拠等の掲示のない事実は当事者間に争いがない。なお、枝番号の記載を省略したものは枝番号を含む。) (1)当事者 原告は、宗教法人法に基づいて設立された宗教法人であり、出版及び販売を行う事業部門として聖教新聞社を管理運営し、聖教新聞社名義で機関紙「聖教新聞」を発行している。(甲5、9) 被告は、ツイッターを運営する米国法人である。 (2)本件写真 ア 原告の職員は、平成19年9月6日、原告の業務として、原告のA名誉会長の姿を撮影し、別紙著作物目録記載1の写真(甲4。以下「本件写真」という。)を作成した。(甲9) 当時の原告の就業規則75条1項(甲10)には、「職員が職務上の行為として著作した著作物の著作権は、法人に帰属する。」と定められている。 したがって、本件写真は、原告を著作者とする写真の著作物であり(著作権法15条1項)、原告がその著作権を有すると認められる。 イ 原告は、平成30年5月3日、本件写真を同日付け聖教新聞1面に掲載した。(甲6) (3)本件新聞 原告は、令和2年7月6日、同日付け聖教新聞(甲5。以下「本件新聞」という。)4面に、「座談会?皆が前進!皆が人材!」、「『青年の月』7月を新たな決意で」、「わが地域の『立正安国』を!」などの見出しを付して、原告のB会長らが参加した座談会の内容等を記載した記事(以下「本件座談会記事」という。)を掲載した。 本件新聞は、原告の職員が、原告の業務として、原告の機関紙という聖教新聞の性格や原告の編集方針に従い、多数の記事や写真等の素材の中から読者に提供すべき素材を取捨選択し、各素材の配置、レイアウト、分量、段組、見出しの位置や大きさ等を工夫して紙面に配列して作成したものである。(甲9) 当時の原告の就業規則75条1項(甲13)には、「職員が職務上の行為として著作した著作物の著作権は、法人に帰属する。」と定められている。 したがって、本件新聞は、原告を著作者とする編集著作物であり(著作権法15条1項)、原告が著作権を有すると認められる。 (4)本件各投稿 ア 本件投稿1 氏名不詳者は、令和2年5月3日、ユーザー名を「@(以下省略)」、アカウント名を「(省略)」とするアカウント(以下「本件アカウント1」という。)を用いて、別紙投稿記事目録記載1の記事をツイッターに投稿した(以下「本件投稿1」という。)。 本件投稿1は、本文に「5・3に改めて思う。/A第三代会長とご一緒に!/アベ#自民党ダ〜ハラ#創価学会/政治を許さない!」(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)と記載すると共に、本件写真を複製した画像(以下「本件投稿画像1」という。)を添付したものであった。 (以上につき、甲2) イ 本件投稿2 氏名不詳者は、令和2年7月6日、ユーザー名を「@(以下省略)」、アカウント名を略)」とするアカウント(以下「本件アカウント2」という。)を用いて、別紙投稿記事目録記載2の記事をツイッターに投稿した(以下「本件投稿2」という。また、これと本件投稿1とを併せて「本件各投稿」という。)。 本件投稿2は、本文に「埼玉のCさんら多くの真面目な会員さんを、安保法制など、公明党の政策に異を唱えただけで、査問し除名・活動停止処分等に付してきたB会長が、どの口で『多様性の尊重』『桜梅桃李』などと、ほざけるのか。学会最高幹部の死因に舌癌など口業がらみが多いけど、会長はじめ皆、覚悟しとけよ!」と記載すると共に、本件新聞の4面のうち本件座談会記事を、その上部の「聖教新聞」、「2020年(令和2年)7月6日(月)」、「5版」及び「4」の各記載と共に複製した画像(以下「本件投稿画像2」という。)を添付したものであった。 (以上につき、甲3) (5)本件各発信者情報の保有等 被告は、本件各投稿のいずれに関してもプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たり、また、本件アカウント1に係る電話番号及び本件アカウント2に係る電子メールアドレス(以下、これらの情報を「本件各発信者情報」と総称する。)を保有している。 (6)省令の改正 プロバイダ責任制限法4条1項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)は、令和2年総務省令第82号(令和2年8月31日公布、施行)により改正され、「発信者の電話番号」(3号)が加えられた(以下、この改正を「本件改正」といい、その前後の平成14年総務省令第57号をそれぞれ「本件改正前の省令」、「本件改正後の省令」という。)。 (7)本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由 原告は、本件各投稿を行った者それぞれに対して不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使することを予定している(弁論の全趣旨)。本件各発信者情報はその行使のために必要なものであるから、原告には、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。 3 主たる争点 本件の主たる争点は次のとおりである。なお、争点2以外の争点はいずれも権利侵害の明白性に係るものである。 (1)本件投稿1について 争点1 本件投稿1は本件写真を適法に引用したものか 争点2 発信者の電話番号は開示請求の対象となるか (2)本件投稿2について ア 本件新聞について 争点3-1 本件投稿2は本件新聞の創作性ある表現部分を利用したものか 争点3-2 本件投稿2は本件新聞を適法に引用したものか イ 本件座談会記事について 争点4-1 本件座談会記事は原告を著作者とする編集著作物に当たるか 争点4-2 本件投稿2は本件座談会記事を適法に引用したものか 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件投稿1は本件写真を適法に引用したものか)について 【被告の主張】 本件投稿1は、引用の要件(著作権法32条1項)を満たす適法なものである。 すなわち、本件投稿1においては、引用して利用する側がツイートのテキスト部分、引用されて利用される側が添付の写真部分であり、両者は明瞭に区別して認識することが可能である。加えて、引用する側が主、引用される側が従の関係にある。そのため、本件投稿1は本件写真を引用したものといえる。 また、本件写真の内容により本件写真の出所が原告の媒体であることは容易に推察できるから、出所を明示する必要性は乏しい。しかも、出所を明確に表示することがツイッターにおいて「公正な慣行」になっているとはいえない。そのため、本件投稿1における本件写真の引用は「公正な慣行に合致」している。 さらに、本件投稿1は、A名誉会長を慕う立場から、原告のB会長が安倍晋三元首相ないし安倍政権と近しい関係を築いて政治的立場を同じくしていることを批判する趣旨の投稿と思われる。つまり、引用の目的は、影響力の大きい著名な宗教法人の現会長と政治との関わりを批判するという極めて正当なものである。また、A名誉会長を慕う立場を明確化するためには、それが誰であるかを示さなければならないから、本件写真の全部を引用する必要がある。すなわち、引用の目的と引用された著作物との関連性も認められる。加えて、引用の方法及び態様は、ツイートに写真を添付しただけの極めて穏当なものであるし、引用された原告側において特段の不利益は生じていない。これらの事情に鑑みると、本件投稿1は「引用の目的上正当な範囲内」でなされたものといえる。 【原告の主張】 本件投稿1による本件写真の引用は、「公正な慣行に合致」し「引用の目的上正当な範囲で行われる」という法所定の要件を満たすものではない。 すなわち、本件投稿1は本件写真の取得元を特定できる形で掲載していないため、閲覧者は、本件写真が引用されたものかどうか明瞭に区別することができない。また、本件投稿1では、本件写真がその大部分の割合を占めており、写真を引用する必要性や写真に関する文章の記載もないから、本件写真が主となっている。引用の正当性や関連性も全く認められない。 2 争点2(発信者の電話番号は開示請求の対象となるか)について 【原告の主張】 プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求権の発生時期は、発信者情報開示請求が行われた時点である。すなわち、本件では、原告が被告に対して本件訴えにより発信者情報開示請求をした令和3年2月19日時点で施行されている本件改正後の省令が適用されるのであり、省令の遡及適用の問題は生じない。 本件改正後の省令が適用されることによってプロバイダが開示義務を負う情報の範囲が事実上広がるとしても、それに伴うプロバイダの負担は、情報発信者の特定に資する情報の開示を義務付けているプロバイダ責任制限法4条1項が予定している範囲内のものにすぎない。また、発信者の電話番号は、それが開示されたとしても、それ単体で特定の個人を識別することができるものではなく、メールアドレス等の他の情報に比して特に高度のプライバシー性があるものでもない。このため、その開示による発信者の権利利益の制約は、被害者の権利救済の見地からやむを得ないものというべきである。 【被告の主張】 本件投稿1は本件改正よりも前の時点でなされたものである。本件改正後の省令を本件改正前に権利侵害が発生した事案に遡及的に適用することはできないから、本件アカウント1に係る発信者の電話番号は開示請求の対象とならない。 すなわち、そもそも、発信者情報開示請求権は、侵害情報を特定電気通信設備の記録媒体等に記録、入力するという積極的作為に及んだ時点で発生するものであり、その後に日々刻々と発信者情報開示請求権が発生するものではない。また、一般論として、法令の効力は原則としてその施行以後に限られ、過去の事項には適用されない。しかも、本件改正は、特定電気通信役務提供者に電話番号の開示義務を新たに課すものであり、発信者の匿名表現の自由等の権利利益を制約するものでもあるから、例外的に遡及適用が認められる場合にも当たらない。 3 争点3-1(本件投稿2は本件新聞の創作性ある表現部分を利用したものか)について 【原告の主張】 本件投稿2は、本件新聞の創作性ある表現部分を利用したものである。 すなわち、本件投稿2は、本件投稿画像2が本件新聞の4面にあることを前提に投稿するものであるから、本件新聞の記事の選択又は配列についての表現の利用を伴っている。また、新聞の編集は、紙面のどこにどのような記事を配置するかという大きな次元での選択・配列だけでなく、各紙面における具体的なレイアウト・割付の次元での各素材の選択・配列も必要とするところ、本件新聞の一部である本件座談会記事は、原告における7月の意義や同月に予定されている記念映像の上映会等の活動に関する発言、学識経験者のコメントを紹介する発言を取り上げ、コロナ禍における会館使用のルールを確認するなどの工夫を施している。加えて、作成した原稿の内容が読者によく伝わるように、レイアウト、段組、見出し等にも工夫を施している。具体的には、九州豪雨やコロナ禍という災害下における社会の安穏を願い、「立正安国」という仏法用語を見出しに掲げ、九州豪雨被害に関する会員による救援活動の様子が伝わるような写真を選択し、また、新型コロナウィルスの感染防止対策が徹底されるように、本文だけでなく別途「会館使用の徹底事項」として6項目のリストを作成して掲載するなどの工夫をしている。このように、本件新聞は、編集担当者が、原告の編集方針に従い、多数の記事や写真等の素材の中から読者に提供すべき素材を取捨選択した上で、各記事等の重要度や性格・内容等を分析、分類し、各素材の配置、レイアウト、分量、段組、見出しの位置や大きさ等を検討して紙面に配列したものである点で創作性を有し、編集著作物に当たる。 本件投稿画像2は、このような本件新聞の4面の大部分を占める本件座談会記事の全部をそのまま画像化したものであり、編集著作物である本件新聞のまとまりのある創作的な選択・配列の結果を利用している。 したがって、本件投稿2は、本件新聞の著作権(公衆送信権)を侵害するものである。 【被告の主張】 本件投稿2は、本件新聞の創作性ある表現部分を利用したものではない。 すなわち、本件投稿画像2は本件新聞の4面の一部にすぎず、本件新聞の全体の中における各記事の選択及び配列による創作性は、そこには表れていない。また、本件座談会記事のレイアウトや段組は日刊新聞において日常的に見られるありふれたものにすぎない。見出しについても、その位置や大きさについて創作性は認められない。 したがって、本件投稿2は本件新聞の著作権(公衆送信権)を侵害するものではない。 4 争点3-2(本件投稿2は本件新聞を適法に引用したものか)について 【被告の主張】 本件投稿2は引用の要件を満たす適法なものである。 すなわち、本件投稿2においては、引用して利用する側がツイートの本文部分、引用されて利用される側が本件投稿画像2部分であり、両者は明瞭に区別して認識することが可能である。また、本件投稿2がB会長のコメントを批判する趣旨のツイートであるという文脈を正しく踏まえれば、批判を文章で表現したツイートの本文部分が主であり、批判の対象とされているB会長のコメントが掲載された本件投稿画像2部分が従である。そのため、本件投稿2は本件投稿画像2を引用したものといえる。 また、本件投稿2は、「聖教新聞2020年(令和2年)7月6日(月)」という出所も含めた形で本件投稿画像2を添付しており、出所が明示されているため、「公正な慣行に合致」した引用である。 さらに、本件投稿2は、B会長について、公明党の政策に異を唱えただけの多くの真面目な会員に対して除名又は活動停止等の処分を行い、これによって創価学会の多様性を失わせているから、本件座談会記事に掲載されている「多様性の尊重」、「桜梅桃李」等の言葉を語る資格がない旨の批判をする趣旨の投稿である。つまり、引用の目的は、政治に対して大きな影響力を有する著名な宗教法人の現会長のコメントを批判するという極めて正当なものである。「多様性の尊重」、「桜梅桃李」等の同会長のコメントが実際に本件座談会記事に掲載されていることから、引用の目的と引用された著作物の関連性も認められる。 しかも、同会長の具体的なコメントに対する批判であることを明確化し、同会長の姿勢とコメントが整合していないことを示すため、批判の対象となるコメントが含まれる本件座談会記事全体を引用する必要も認められる。加えて、引用の方法及び態様はツイートに本件投稿画像2を添付しただけの極めて穏当なものであり、引用された原告側においても特段の不利益は生じていない。これらの事情に鑑みると、本件投稿2は「引用の目的上正当な範囲内」でなされたものといえる。 【原告の主張】 本件投稿2は適法な引用の要件を満たすものではない。 すなわち、本件投稿2には、本文の内容と関係がない本件座談会記事全部を複製した本件投稿画像2が大々的に掲載されており、引用された同画像が主となっている。 また、本件投稿2では埼玉の会員の「除名・活動停止処分等」についてB会長が批判されているが、埼玉の会員の除名と本件新聞の4面の座談会記事の内容とは全く関係がない。そもそも、本件投稿2では、「多様性の尊重」、「桜梅桃李」という言葉が同会長の言葉として引用されているが、これらは同会長自身の言葉ではない。このように、本件座談会記事は本件投稿2の本文の内容と関係がないものであるから、本件投稿2における本件投稿画像2の添付は、「引用の目的上正当な範囲内」でなされたものではない。 5 争点4-1(本件座談会記事は原告を著作者とする編集著作物に当たるか)について 【原告の主張】 本件座談会記事は、本件新聞の場合(前記3)と同様に、原告を著作者とする編集著作物に当たる。 【被告の主張】 原告の主張は争う。本件座談会記事は編集著作物に当たらない。 原告の主張からは、具体的に、どのような編集方針に基づいて、どのような素材を、どのように選択及び配列したのか明確ではなく、本件座談会記事に編集著作物としての創作性があることは全く立証されていない。 6 争点4-2(本件投稿2は本件座談会記事を適法に引用したものか)について 【被告の主張】 本件投稿2は、本件新聞の場合(前記4)と同様に、本件座談会記事を適法に引用したものである。 【原告の主張】 本件投稿2は、本件新聞の場合(前記4)と同様に、本件座談会記事を適法に引用したものではない。 第4 当裁判所の判断 1 本件投稿1について (1)争点1(本件投稿1は本件写真を適法に引用したものか)について 著作物を引用した利用が適法といえるためには、引用が、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない(著作権法32条1項後段)。 本件投稿1は、アカウント名を「こめすけA門下#検察庁法改正案を廃案に(脱原発に一票、こんな人たち)」とするアカウントにより投稿されたものであり、その本文には「5・3に改めて思う。/A第三代会長とご一緒に!/アベ#自民党ダ〜ハラ#創価学会/政治を許さない!」と記載されている(前記第2の2(4)ア)。こうした内容や体裁に照らすと、本件投稿1は、原告のB会長が安倍晋三元首相ないし安倍政権と近しい関係にあり政治的立場を同じくしているという見方に基づき、同会長ないし同会長を代表者とする原告の政治活動の状況につき批判的な立場から行われたものと見る余地はある。もっとも、本件投稿1の本文の内容は抽象的主観的な見解ないし意見にとどまり、具体的な意味内容を客観的に了知し得るものではない。このため、本件投稿1において本件投稿画像1を添付する必要性や相当性は具体的にはうかがわれない。そうである以上、本件投稿1に本件投稿画像1を添付した行為は、引用として公正な慣行に合致し、かつ引用の目的上正当な範囲内で行われたものということはできない。 したがって、本件投稿1による本件写真の引用は法所定の要件を満たすものとはいえない。そうすると、前記前提事実に照らし、本件投稿1の流通により原告の本件写真に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかと認められる。 これに対し、被告は、本件投稿1はA名誉会長を慕う立場からB会長が安倍晋三元首相ないし安倍政権と近しい関係を築いて政治的立場を同じくしていることを批判する趣旨の投稿であり、A名誉会長を慕う立場を明確化するためには本件写真を引用する必要性があるなどと主張する。しかし、上記のとおり、本件投稿1から具体的な意味内容が客観的に了知できず、また、被告の主張に係る上記意味内容を前提としても、本件写真を引用する必要性や相当性があるとはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。 (2)争点2(発信者の電話番号は開示請求の対象となるか)について プロバイダ責任制限法4条1項は、発信者情報として開示の対象とすることが相当である情報の範囲が同法制定後に変動し得ることを踏まえて、その範囲の画定を総務省令に委任したものである。これを踏まえると、同法4条1項による発信者情報開示請求権の行使によって開示関係役務提供者が開示義務を負うべき発信者情報の具体的内容は、同請求権が行使された時点で施行されている総務省令の定めに従って決せられると解するのが相当である。 本件投稿1がされたのは令和2年5月3日であり(前記第2の2(4)ア)、その時点では、本件改正後の省令は公布・施行されていない。しかし、原告が発信者情報開示請求権を行使した本件訴え提起の時点では本件改正後の省令が施行されているのであるから、被告が開示義務を負うべき発信者情報の範囲は、本件改正後の省令に基づいて決せられる。そうすると、本件アカウント1に係る電話番号は開示請求の対象となる。 これに対し、被告は、本件において本件アカウント1に係る電話番号を開示の対象とすることは明文の規定なく法令の遡及適用を認めることになり相当ではないなどと主張する。しかし、上記のとおり、本件においては本件改正後の省令の遡及適用の問題は生じないというべきである。この点に関する被告の主張は採用できない。 (3)小括 以上より、本件投稿1について、原告は、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、被告に対し、本件アカウント1に係る電話番号の開示請求権を有する。 2 本件投稿2について (1)争点4-1(本件座談会記事は原告を著作者とする編集著作物に当たるか)について 証拠(甲5、9)によれば、原告の職員は、本件座談会記事の作成に当たり、会員の信心の深化や確立を図り、日蓮大聖人の仏法を基調に平和・文化・教育運動を推進するという原告の日刊機関紙としての性格や編集方針を踏まえつつ、原告の会員以外の読者がいることも念頭に置いて記事に掲載する素材を検討し、座談会の出席者の発言内容を記載した本文のほか、「座談会?皆が前進!皆が人材!」、「『青年の月』7月を新たな決意で」、「わが地域の『立正安国』を!」、「10日から『記念上映会』が開始」などの見出し、座談会の出席者5名の顔写真、九州南部の大雨被害を受けて救援物資の輸送に当たる会員らの姿を写した写真、記念上映会の会場となる会館を使用する際の注意事項リスト等を素材として選択した上で、全体の見やすさ等に配慮してそれらの配置を検討し、上記各見出しは記事の最上段や右上部等に分散させると共に、出席者らの上記顔写真は記事の左上部に、会員らの上記写真や上記注意事項リスト等は本文の内容に応じて本文中に埋め込むように、それぞれ配置したことが認められる。 これによれば、本件座談会記事は、その素材の選択・配列について原告の思想又は感情が創作的に表現されているといえるから、著作権法上保護の対象となる編集著作物(著作権法12条1項)に当たる。 また、本件座談会記事は本件新聞の一部を構成するものであることに鑑みると、本件新聞の場合(前記第2の2(3))と同様に、原告は、その著作者として本件座談会記事に係る著作権を有すると認められる。これに反する被告の主張は採用できない。 (2)争点4?2(本件投稿2は本件座談会記事を適法に引用したものか)について 前記のとおり、著作物を引用した利用が適法なものとなるためには、引用が、公正な慣行に合致するものであり、かつ報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。 本件投稿2の本文には、「多くの真面目な会員さんを、安保法制など、公明党の政策に異を唱えただけで、査問し除名・活動停止処分等に付してきたB会長が、どの口で『多様性の尊重』『桜梅桃李』などと、ほざけるのか。」などと記載されている(前記第2の2(4)イ)。一方、本件座談会記事には、B会長の発言として、「『多様性の尊重』は、現代における重要なキーワードですね。」、「御書には『桜梅桃李の己己の当体を改めずして』…と仰せです。」との記載がある(甲5)。これらを踏まえると、本件投稿2が本件投稿画像2(本件座談会記事の全体)を添付した目的は、B会長の言行が一致していない旨等の本文記載の批判をするに当たり、同会長が実際に「多様性の尊重」や「桜梅桃李」という言葉を用いて発言した事実を示すことにあったことがうかがわれる。 しかし、本件座談会記事における同会長の発言として上記各言葉が掲載されているのは上記認定の箇所にとどまる。しかも、同箇所を含む同会長の発言部分は、分量的には記事全体のうちの14分の1程度にすぎない。その他の部分は、九州南部の大雨被害への原告の対応、原告青年部における7月の活動の意義、記念上映会の開催とこれに関連して新型コロナウィルス感染予防に関する情報提供等という、上記各言葉とは無関係な内容である。 このため、B会長による上記発言は、本件座談会記事の上記その他の部分の記載を参照しなければその意味内容を客観的に了知できないものではない。そうである以上、本件投稿において本件座談会記事の全体を画像として添付する必要性があったとはいいがたい。 また、本件投稿2の本文が比較的短い2つの文章でB会長等を批判するものであるのに対し、本件座談会記事は、テーマを異にする多くの文章や写真等から構成された一つの完結した新聞記事であり、それぞれに含まれる情報量等には大きな差がある。しかも、本件投稿2の表示(甲3)において、本件座談会記事部分は少なくともその7割程度を占めている。 これらの事情に鑑みると、本件投稿2における本件座談会記事の引用の方法及び態様の点で、その引用は、社会通念に照らし、公正な慣行に合致し、かつ、引用目的との関係で正当な範囲内で行われたものということはできない。 したがって、本件投稿2による本件座談会記事の引用は法所定の要件を満たすものとはいえない。そうすると、前記前提事実に照らし、本件投稿2の流通により原告の本件座談会記事に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかと認められる。 これに対し、被告は、B会長の具体的な発言に対する批判であることを明確化し、同会長の姿勢と発言が整合していないことを示すため、批判の対象となる発言が含まれる本件座談会記事の全体を引用する必要があるなどと主張する。しかし、上記のとおり、そのような必要性や相当性は認められない。この点に関する被告の主張は採用できない。 (3)小括 以上より、その余の争点について検討するまでもなく、本件投稿2について、原告は、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、被告に対し、本件アカウント2に係る電子メールアドレスの開示請求権を有する。 第4 結論 よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 鈴木美智子 裁判官 稲垣雄大 別紙 当事者目録 原告 創価学会 同訴訟代理人弁護士 西口伸良 同 堀田正明 同 甲斐伸明 同 大原良明 被告 ツイッターインク 同訴訟代理人弁護士 中島徹 同 上田一郎 同 平津慎副 同 細川智史 同 清水美彩惠 同 中所昌司 同 安藤裕実 同 相澤亮 同 小宮慶久 同 森脇和聡 同 大岩祐貴 同 椎名紗彩 同 秋山円 同 犬飼貴之 同 山本ゆり 同 五十嵐紀史 同 大野真梨子 同 尾形夏子 同 中村彰男 同 堀川達流 同 松岡亮伍 同 水野幸大 別紙 発信者情報目録 1 別紙投稿記事目録記載1の記事を投稿した者の使用するアカウントに関する電話番号 2 別紙投稿記事目録記載2の記事を投稿した者の使用するアカウントに関する電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号) (別紙投稿記事目録 省略) (別紙著作物目録 省略) |
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