判例全文 | ||
【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件U 【年月日】令和4年5月31日 東京地裁 令和3年(ワ)第23153号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年3月1日) 判決 原告 株式会社ケイ・エム・プロデュース 同訴訟代理人弁護士 戸田泉 同 角地山宗行 同 籠屋恵嗣 被告 KDDI株式会社 同訴訟代理人弁護士 今井和男 同 小倉慎一 同 山本一生 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、アダルトビデオの製作、販売等を業とする原告が、電気通信事業等を営む被告に対し、氏名不詳者が、P2Pの一種であるビットトレント(BitTorrent)のネットワークに接続し、原告が著作権を有する「黒人中出しFUCKA」と題する映像作品(以下「本件著作物」という。)を自己の端末内で複製し、被告の提供するインターネット接続サービスを通じて公衆送信し、もって原告の本件著作物に係る著作権(複製権、公衆送信権)を侵害したことが明らかである旨を主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。証拠番号の枝番は省略する(以下同様)。) (1)当事者 原告は、本件著作物を製作し、その著作権を有している(甲1、2)。 被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社である。 (2)原告による調査等 原告は、株式会社HDRが開発した「著作権侵害検出システム」(以下「本件ソフトウェア」という。)を使用して、別紙発信端末目録記載の各IPアドレス(以下「本件各IPアドレス」という。)を割り当てられた氏名不詳者らが、ビットトレント上で、本件著作物の複製物である電子データをアップロードし、不特定のビットトレント利用者の求めに応じて、インターネット回線を通じて、同電子データを自動的に送信し得る状態に置いたことを確認した(甲3ないし8)。 2 本件の主たる争点は、氏名不詳者らにより原告の権利が侵害されたことが明らかといえるか否かであり、これに関する当事者の主張は、次のとおりである。 (原告の主張) 原告は、本件ソフトウェアを使用して、本件各IPアドレスを割り当てられた氏名不詳者らが、ビットトレント上で、本件著作物の複製物である電子データをアップロードし、不特定のビットトレント利用者の求めに応じて、インターネット回線を通じて、同電子データを自動的に送信し得る状態に置いたことを確認した。本件ソフトウェアが検知するIPアドレスが正確であることは、検出IPアドレスの同一性確認試験においても確認されている。実際、被告からの発信者情報の開示についての意見を求められた者の中には開示に同意した者がいるし、著作権侵害を認めて謝罪した者もいるのであり、本件ソフトウェアの正確性に問題はない。 したがって、氏名不詳者らが、本件著作物に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害したことは明らかである。 (被告の主張) 原告の主張については、否認又は争う。本件各IPアドレスを割り当てられた多数の契約者は、「心当たりがない」旨を回答しており、本件ソフトウェアにより特定された者全てが、ビットトレントのネットワークを通じて本件著作物の電子データをダウンロードし、自動公衆送信した者であるとはいえず、特定は正確ではない。 したがって、氏名不詳者らが、本件著作物に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害したことが明らかであるとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(権利侵害の明白性)について 証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、ビットトレントとは、インターネットを通じ、P2P方式でファイルを共有するネットワークであり、特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーが、トラッカーサイトと呼ばれるウェブサイトに接続して、トレントファイルをダウンロードし、これをビットトレントに読み込ませると、当該ユーザーの端末がピアとして同ネットワーク上に登録され、ダウンロードしたい特定のファイルを有する別のピアから当該ファイルをダウンロードするとともに、別のピアから要求があれば自己の端末から特定のファイルを送信する仕組みのものであること、このようなシステムの特性上、トラッカーサーバーは、自身にアクセスしている提供者の情報を把握することができることが認められる。 以上のようなビットトレントの仕組み等に加え、前記前提事実のとおり、原告は、本件ソフトウェアを使用して、本件各IPアドレスを割り当てられた氏名不詳者らが、ビットトレント上で、本件著作物の複製物である電子データをアップロードし、不特定のビットトレント利用者の求めに応じて、インターネット回線を通じて、同電子データを自動的に送信し得る状態に置いたことを確認したところ、@本件ソフトウェアを開発した会社が実施した検出IPアドレスの同一性確認試験(甲5)や、同試験と独立して実施された、原告訴訟代理人弁護士の所属する法律事務所の事務員による同一性確認試験(甲10)のいずれにおいても、本件ソフトウェアが検知するIPアドレスが正確であることが確認されており、また、A被告からの発信者情報の開示についての意見を求められた者の中には開示に同意した者がおり(弁論の全趣旨)、著作権侵害を認めて謝罪した者もいること(甲9)などを本件全証拠に照らして併せ考慮すると、本件各IPアドレスを割り当てられた氏名不詳者らが、本件著作物の複製物である電子データを自己の端末にダウンロードして記録させた上、これを所有するピアとして自己の端末を登録し、不特定多数の別のピアから要求があれば、被告の提供するインターネット接続サービスを通じ、当該端末から当該電子データを自動で送信し得るようにしていたことを認めることができ、同認定を覆すに足りる証拠はない。 したがって、原告の本件著作物に係る著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことは明らかであると認められる。 2 そして、前記認定の各事実に加え、弁論の全趣旨によれば、被告が、本件発信者情報を保有している開示関係役務提供者(法4条1項)に該当すること、原告が、氏名不詳者らに対する損害賠償等を請求するために、本件発信者情報の開示を受ける必要性があり、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があることがそれぞれ認められる。 3 結論 よって、本件請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。なお、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととする。 東京地方裁判所民事第47部 裁判官 小口五大 裁判官 稲垣雄大 裁判長裁判官 田中孝一は、転補のため署名押印することができない。 裁判官 小口五大 (別紙)発信端末目録省略 (別紙)発信者情報目録 別紙発信端末目録記載の各IPアドレスを、同目録記載の各発信時刻頃に被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。 @氏名または名称 A住所 B電子メールアドレス |
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